ホテル業界M&Aの動向と売却成功のポイントについて解説
このページのまとめ
- ホテルはインバウンド需要の高まりとコロナ禍による需要の減少という、急激な市場の変化の影響を強く受けている
- 人材不足の解決と新しい価値を生み出す試みを継続的に行う必要がある
- ホテル業界のM&Aでは業界再編の動きと中国企業の進出が見られる
- M&Aは売り手と買い手双方のメリットがある
- ホテルの売却価格を高めるために自社の強みや魅力を明確にして交渉する
- 売り手の成功ポイントは自社の経営状況を明らかにし健全化しておくこと
ホテルを取り巻く環境は激しく変化しています。インバウンド需要の高まりを受けてホテルの数は増加し、それに伴う人材の確保やサービスの効率化が急務です。
また、新型コロナウイルス感染症の流行によって極度に落ち込んだ需要を、今後は回復させる必要があります。
そのような複数の要因から経営のバランスが崩れ、窮地に立たされているホテルの経営改善のために、M&Aを検討することは意義のある大きな選択だと言えるでしょう。
ホテル業の定義
ホテル業界のM&Aについて解説する前に、まずはホテル業について解説します。
厚生労働省の「旅館業法」によれば、ホテル業(ホテル営業)は、洋式の構造及び設備を主とする施設を設け、宿泊料を得て人を宿泊(寝具を提供)させるため、旅館業に含まれます。宿泊料には、休憩料・寝具賃貸料・クリーニング代・水道光熱費・室内清掃費・セミナーハウスの研修費などを含みます。
また、日本標準産業分類中の「宿泊業」に分類され、宿泊の他に宴会場・レストラン等の付帯設備を持つシティホテル、コミュニティホテル、リゾートホテル等を対象としています。
参考:厚生労働省「旅館業法 | e-Gov法令検索」
参考:厚生労働省「職業能力評価基準について 02_ホテル業」
ホテル業界の市場動向
ホテル業界は2019年頃まで、訪日外国人旅行客の増加を背景に活況を呈していましたが、その後の新型コロナウイルス感染症の流行によって、苦境に立たされています。
ここでは顕著な状況を取り上げて説明します。
インバウンド需要の高まり
観光庁の「訪日外国人旅行者数・出国日本人数」によると、訪日外国人旅行者数は、2012年の約800万人から2019年の約3,200万人へと大きく増えました。
https://www.mlit.go.jp/kankocho/siryou/toukei/content/001461769.jpg
引用元:観光庁「訪日外国人旅行者数・出国日本人数」
日本政府観光局が2022年10月に公表した「訪日外客統計(報道発表資料)」によると、とくに中国・韓国・台湾などからの旅行者が多い状況です。業界を挙げて、日本ならではの文化やサービスのアピールをしてきた成果だと考えられます。
参考:観光庁「訪日外国人旅行者数・出国日本人数」
参考:日本政府観光局「訪日外客統計(報道発表資料)」
ホテルの軒数・客室数の増加
2019年度までに、ホテルの軒数・客室数はともに増加し、旅館・ホテル営業の軒数は約5万軒に達しています。
客室数が増えた背景には、インバウンド需要に加えて、東京オリンピック・パラリンピックを前にした、東京都におけるホテルの建設ラッシュがあったと考えられています。
参考:観光経済新聞「旅館・ホテルの2019年度営業軒数は5万1004軒 対前比1502軒増」
人材不足
訪日外国人旅行者の増加に伴う外国語のニーズや文化への理解、旅館・ホテルの増加に伴う人員確保、昼夜を問わない長時間の営業など、人材へのニーズは非常に高くなっています。
その反面、実際には満足な人員を確保できない状況があり、慢性的な人材不足に陥っています。
予約関連業務のシステム化や、ウェブサイト・パンフレット・メール等の作成に翻訳サービスを利用すること、接客にロボットを活用することなど、不足を補うさまざまな試みがされているところです。
コロナ禍による需要の落ち込み
2020〜2021年のコロナ禍によって、とくに首都圏での宿泊者の減少が顕著で、営業終了するホテルも見られます。業界再編の動きも出てきました。
観光庁が公表している「訪日外国人旅行者数・出国日本人数」によると、訪日外国人旅行者数は、2019年には約3,200万人だったのに対し、2020年には412万人まで一気に下落しています。2021年はさらに減って25万人という状況です。
https://www.mlit.go.jp/kankocho/siryou/toukei/content/001461769.jpg
引用元:観光庁「訪日外国人旅行者数・出国日本人数」
大変厳しい環境ではありますが、コロナ禍が収まりつつある2022年後半からの需要回復に期待が集まっています。
参考:観光庁「訪日外国人旅行者数・出国日本人数」
付加価値向上の取り組み
厳しい経営環境のもと、ホテルの魅力を高めるための取り組みが行われています。かつてのように団体客の受け入れで売上を確保することが難しい昨今は、個人客の満足感を高める方向のサービスにシフトしている状況です。SNSへのアピールも欠かせません。
宴会場の空間を個人客向けのダイニング等に用途変更したり、客室内の浴室に力を入れたりしています。料理についても、地元の食材や料理の良さを伝えて差別化を図っている状況です。
また、観光に訪れた人が地域のことをよく知ることが出来るような案内活動や、地域との連携で宿泊プラン・イベントを企画する試みもあります。
ホテル業界のM&A動向
インバウンドで市場が活性化した後のコロナ禍や中国系企業の参入の増加など、近年のホテルを取り巻く経営状況は激動しています。M&Aのニーズも関心も高まっているといえるでしょう。それらの個々の動きについて解説します。
廃業の増加と業界再編
コロナ禍での需要の低迷による売上の減少、感染対策等への出費、近年の潜在的な人材不足等の影響で経営体力をなくして廃業するホテルが顕著です。
観光地の地域密着型ホテルの経営不振を、大手ホテルチェーンによる買収によって改善する動きもあります。
大手ホテルが持っていない魅力を持つ地域のホテルを傘下にすることで、大手にとっても事業の拡大やサービスの充実が図れることから、業界再編の動きが活発になっていると考えられます。
Webマーケティングによる集客の強化
集客がうまくいかず客室の稼働率が上がっていないホテルのなかには、Webを利用した業務の効率化ができていないケースがあります。ターゲットを明確にした広報やリピーターを増やすノウハウが無かったり、予約システムの整備が遅れているなどです。
ホテルのサービスそのものには魅力があって満足度が高くても、Webマーケティングができていないために収益を思うように上げられていません。
そのような場合、Webマーケティングで成果を上げているホテルに売却することで、マーケティングを強化できます。
中国企業のM&A市場参入
2015年に星野リゾートトマムが中国の企業に売却された例は業界に衝撃を与えましたが、その後も中国の企業による日本のM&A市場への参入が続いています。
日本を訪れたい多くの中国人に喜ばれるホテルサービスを提供することが目的です。例えば中国人にも温泉を好む人が多く、日本の地方の温泉地などはM&Aのターゲットになっています。従来の日本人向けとは異なるサービス展開で、ホテルや旅館のみならず地域の産業にも影響を与える可能性があります。
ホテル業界M&Aのメリット
ホテルのM&Aにおいては、売り手・買い手双方のメリットを考える必要があります。
売り手にとっては、売却におけるメリットを認識してM&Aを前向きに検討すること、買い手のメリットを考えた交渉を行うことの両方が大切です。
M&Aの売り手側のメリット
M&Aでは売り手側が抱えるいくつかの問題があり、売却することによってそれらの問題を解消しつつ、買い手に自社の強みを提供できる点がメリットです。
1.従業員の雇用を守れる
ホテルを廃業してしまうと、従業員は職を失い再就職が余儀なくされます。
社会的観点から経営者の意向によって、就職先の準備も経営者の役割になることもあるでしょう。
M&Aを実施すれば従業員の解雇等は最小限に抑えられ、雇用を守れます。
2.後継者問題が解決できる
例えば有能な創業者によって始められたホテル事業などで、内部で経営者の育成がうまく行かず、外部からの招へいもままならない状況がありがちです。そのような後継者問題は大きな課題です。
M&Aによって売却先に経営を委ねることができ、後継者問題は解決できます。
3.経営基盤が強化できる
会社の売却までしなくとも、事業単位での売却も可能です。
複数の事業を展開しているなかで、不採算に陥っていたりノウハウが不足していたり、あるいは知名度・ブランド価値が低迷している場合があります。
M&Aによって、それらの事業を解決できる企業に売却することで、経営全体の安定化やイメージ向上につなげられます。
4.創業者利益が得られる
比較的小規模なホテルの場合、創業者が会社の個人保証人の場合がありますが、廃業すると創業者個人が負債を抱え込んでしまいます。
M&Aでは多くの場合、売却先が個人保証を引き受けてくれるため、創業者は負債の心配がなく、かつ株式譲渡の利益が見込めます。
M&Aの買い手側のメリット
買い手側は、ホテルの事業展開のなかで不足している部分をM&Aによって補い強化できます。また、進出したい分野に強みがあるホテルをM&Aによって傘下に収めることで、事業を拡大できます。
1.事業を拡大できる
新規事業の立ち上げには多くの時間とコストがかかります。知名度・ブランド力・顧客(リピーター)・ノウハウを獲得するための投資が膨大です。
M&Aによって買い手は既存の価値をそのまま手にでき、コストをかけず短期間に事業を拡大・進展させられます。
2.新たな経営資源が得られる
経営資源(ヒト・モノ・カネのほか情報・知的財産などを含む)は、どこの企業も同じというわけではありません。ホテルの場合は立地や利用者も独自の財産です。
買い手は、経営資源を手に入れることで新しい視野を得られるとともに、既存の事業を活性化させるチャンスが得られます。
ホテルM&Aでの売却価格を高める条件
M&Aにおいて売り手側は、できるだけ高い価格で売却をして満足を得たいと考えることは当然です。
ただ、売却価格を高めるためには、それに見合ったホテルとしての強みや、魅力を持っていることが必要です。売却を考えた際には改めて業務を見直し、できるかぎり価値の高い状態を作り出すことを考えましょう。
1.ホテルの立地がよい
ホテルの集客に立地条件は欠かせません。
ビジネスホテルやシティホテルは、駅の近くにある点が有利であり、利用者の目的に応じた周辺施設へのアクセスがよいことも魅力です。
レジャーホテルは、観光やスポーツを楽しめるスポットや施設へアクセスしやすいことでアピールにできます。
M&Aに際して立地そのものを改善することは難しいことです。ただ、利用者が訪れやすくなる情報提供や交通手段を確保しておくことで交渉を有利に進められるでしょう。
2.特徴的なサービスがある
土地柄を活かした地元ならではのサービスは、遠くから訪れる利用者には魅力的です。
地元自慢の食材を使った料理や、温泉の場合は「源泉掛け流し」などは人気のあるサービスです。
ホテルだけでなく地域との連携によるサービスがあると魅力は増します。利用者の目的に応じて周辺施設の概要や特長を紹介するマップを用意したり、紹介施設を利用したときに特典をつけたりするなどの工夫をすると、地域における存在価値も高まります。
3.リピーターが多い
リピーターが多いことは、売却した場合、その利用者の多くを買い手が得られるというメリットがあります。
イチから利用者ならびにリピーターを確保するには、マーケティングやサポートなどに対して多くの費用と時間を投じなければなりません。買い手はそれらの労力を考えずにM&Aができるホテルを選びたいという希望を持っています。
さらに、リピーターが生まれ変わったホテルを評価してくれれば、口コミやSNSでの拡散も期待できます。
売り手がホテルM&Aを成功させるポイント
M&Aは買い手側ばかりが得をするような取引では、売却する側にとっては何もメリットがありません。不利なM&Aにならないアピールが大切です。ただ、買い手はお客様という見方もできるため、買い手にとってのメリットもしっかり考えて交渉する必要があります。
1.事業の実態を明らかにする
買い手にとって、買収直前の正しい経営状況が分からない会社や事業を譲り受けることはリスクがあり、M&Aに踏み切れません。月次決算をしていることなど、リアルタイムの採算状況の可視化が重要です。
日々の経営状況を把握することは、経営のスピード感を高め変化に対応しやすい体制を作りますが、小規模事業者などで把握していない会社は意外に多いのではないでしょうか。あいまいな会計処理は極力明らかにしておきましょう。
2.収益性を確保しておく
M&Aにあたって、収益性はできる限り上げておきましょう。経費処理も見直し、あいまいな取引や慣例的に行われている取引も洗い出して改善しておく必要があります。
現時点や将来的にも必要のないサービスや経営資源は、終了したり手放すことでスリム化を行いましょう。
ホテルは人材や設備などの固定費が大きいという特徴があるため、固定費の削減は顕著な成果になり得ます。
3.許認可等の条件を確認する
ホテル営業許可や不動産登記等の名義に関しては、個人から法人成りしている場合などに古い名義になったままの場合があります。不動産は土地と建物で所有者名が異なる場合もあります。営業許可は個人から法人に引き継ぐことができないため、廃業と新規許可申請が必要です。
温泉があるホテルの場合、温泉権についても確認が必要です。新しい企業が参入することに制限があると、M&Aにおける強みを失ってしまいます。
関連する権利関係は、M&Aの支障にならないよう十分にチェックしておきましょう。
4.買い手と運営方針について確認する
買い手の企業には、それぞれのホテル事業に対する目的や運営方針があり、ホテルによってM&Aの条件が異なります。成果を上げている企業はコンセプトやターゲットが明確で、新規参入に関しても事業全体に対する位置付けがはっきりしています。
売却先の候補から、その企業が持っているM&Aの条件を把握し、自社に合った企業との交渉が大切です。また、運営方針の多少の違いは、前述のようなポイントを踏まえて経営努力によって合わせるという姿勢が必要でしょう。
5.従業員のモチベーションを高めておく
買い手企業の従業員が高いモチベーションで業務にあたっていることに対して、売り手企業のそれが低い状態だと、双方の業務に対する認識にギャップが生じます。
経営者をはじめ、支配人や各セクション責任者のやる気が、組織の活力に影響します。単にサービスを提供するだけでなく、ホスピタリティについての認識があるか、実践されているかは、改めて確認し改善する必要があります。
人を相手にするサービスであるだけに、ホテルに求められるホスピタリティと従業員の取り組み姿勢は、評価のポイントです。
まとめ
ホテルの売却を検討しているオーナー・経営者は、厳しい経営環境にあっても、売却価格が高まる条件を備えているかを改めて確認し、有利な条件で売却できるよう対策する必要があります。M&Aは買い手側だけが得をするような取引では、売却する側にメリットがありません。長年通っていただいているお客様のためにも、未来につながるM&Aを実現させましょう。
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