不動産M&Aとは?おすすめのスキームと税金の取り扱いを中心に解説
2024年8月16日
このページのまとめ
- 不動産M&Aとは、不動産の取得を主な目的としたM&Aのこと
- 不動産M&Aで使われるスキームは、株式譲渡や会社分割が多い
- 不動産M&Aは、不動産売買よりも税金面のメリットが大きい
- 不動産M&Aにおいても、税金面のメリットが受けられないケースがあるので注意する
- 成功のコツは、不動産M&Aに精通した仲介会社を選ぶこと
近年、不動産取引の一種として注目を集めている不動産M&Aが気になる方もいるのではないでしょうか。不動産M&Aとは、株式譲渡や会社分割といったM&Aスキームを用いて、売り手企業が所有している不動産を買い手企業が取得することを指します。
一般的な不動産売買と異なるメリットがあり、特に税金面での恩恵が大きいことが魅力です。本コラムでは、不動産M&Aの基本やM&Aスキーム、税金の取り扱いなどについて解説します。
目次
不動産M&Aとは
不動産M&Aとは、不動産の取得(取引)を主な目的としたM&Aのことです。M&Aとは「Mergers and Acquisitions」の略称であり、日本語では会社の「合併と買収」を意味します。
M&Aの主な対象物は、経営権(=株式)や事業であることが一般的です。しかし中には、不動産や工場といった資産の取得を主な目的とするM&Aもあります。M&Aスキームを用いて特定の不動産を取得することを「不動産M&A」と呼びます。
不動産M&Aと不動産売買の主な違い
不動産を取得する方法には、不動産M&Aのほかに不動産売買があります。
不動産売買とは、不動産の所有者とその不動産の購入希望者が不動産売買契約を交わし、購入者は所有者に対して代金を支払い、所有者は購入者に当該不動産を引き渡す一連の取引を指します。
不動産M&Aと不動産売買は、不動産取引という点で同じですが、以下のような違いがあります。
不動産M&A | 不動産売買 | |
取引対象 | 株式 | 不動産 |
精査対象 | 会社、不動産 | 不動産 |
課税対象 | 株式譲渡益など | 不動産売却益 |
税金 (不動産取得税、登録免許税など) | 原則不要 | 必要 |
仲介会社 | M&A仲介会社 | 不動産仲介会社 |
手数料 | 割高 | 割安 |
難易度 | 難しい | 易しい |
不動産M&Aのスキーム
通常のM&Aの代表的なスキームには、株式譲渡、事業譲渡、会社分割の3種類があります。
- 株式譲渡:売り手企業の株式を買い手企業が取得するM&A手法
- 事業譲渡:売り手企業の事業そのものを買い手企業が取得するM&A手法
- 会社分割(新設分割):売り手企業の事業を切り分けて、設立した新会社に引き継ぐM&A手法
このうち不動産M&Aでは、一般的に株式譲渡または会社分割(新設分割)のどちらかが用いられます。
株式譲渡による不動産M&A
株式譲渡による不動産M&Aとは、不動産を所有する売り手企業の株式を買い手企業が取得するM&A手法のことです。これにより売り手企業を子会社とし、間接的に不動産を取得することができます。
株式譲渡を選択した場合、比較的簡単な手続きで目的の不動産を取得することが可能です。しかし、株式(=経営権)を取得するため、子会社化した売り手企業を運営する必要があります。
売り手企業の経営状態によっては、子会社化しても将来性や採算性が見込めない場合もあるでしょう。このことから買い手企業は、事業を継続するのか、会社清算をするのかなど、子会社化したあとの売り手企業の取り扱いを事前に十分検討しておかなければなりません。
会社分割による不動産M&A
会社分割は、以下のような種類があります。
事業・資産の承継先 | 対価の受取先 | |
新設分割型分割 | 新法人 | 株主 |
新設分社型分割 | 新法人 | 売り手企業 |
吸収分割型分割 | 既存会社(他法人) | 株主 |
吸収分社型分割 | 既存会社(他法人) | 売り手企業 |
このうち不動産M&Aでは、1つ目の「新設分割型分割」が採用されることが一般的です。
新設分割型分割による不動産M&Aとは、会社分割と株式譲渡を組み合わせた手法です。売り手企業が新会社を設立し、その新会社に不動産以外の資産を承継させます。そして対象の不動産を所有する旧会社の株式を、買い手企業が取得することによって、不動産M&Aを完了させます。
株式譲渡と比較すると、会社分割の手続きはやや煩雑になるのが難点といえるでしょう。しかし、買い手企業は不動産や、不動産を含む事業だけを取得できるメリットがあります。また、組織再編税制の特例措置の対象になるため、税制上の大きな恩恵を受けることができます。
不動産M&Aを行うメリット・デメリット
ここでは、不動産M&Aを行うメリット・デメリットについて解説します。
売り手側のメリット・デメリット
まずは売り手側のメリットとデメリットを紹介します。
メリット
売り手企業が不動産M&Aを行うメリットは、以下のとおりです。
- 高い節税効果が期待できる
- 廃業コストを減らせる
売り手企業が不動産M&Aを行う動機の1つが、高い節税効果が期待できることです。詳しくは後述しますが、不動産売却よりも不動産M&Aのほうが手元に多くの資金を残せます。
また、廃業コストを削減できる点も、大きなメリットといえるでしょう。会社清算をする際は、物件の原状回復費用、設備や在庫の処分費用、登録免許税などを負担します。しかし、不動産M&Aの場合は、買い手企業が不動産などの資産を取得してくれるため、売り主の廃業コストを削減することができます。特に、株式譲渡であれば手元に会社を残さずに済みます。
デメリット
売り手企業が不動産M&Aを行うデメリットは、以下のとおりです。
- 買い手企業が見つかりにくい
- 手続きに時間と手間がかかる
不動産M&Aを希望していても、買い手企業が見つからないケースは少なくありません。
また、候補が見つかったとしても、M&Aの手続きには時間を要することが多くあります。M&Aの基本合意から成約までには、通常6ヶ月~1年程度かかるため、スケジュールに余裕がなければ不動産M&Aを選択するのは難しいでしょう。
買い手側のメリット・デメリット
次に、買い手側に生じるメリットとデメリットを紹介します。
メリット
買い手企業が不動産M&Aを行うメリットは、以下のとおりです。
- 節税効果が期待できる
- 優良な不動産を見つけられる
不動産M&Aでは、買い手企業にも税金面のメリットがあります。通常、売買により不動産を取得する場合は、不動産取得税・登録免許税・印紙税・消費税などの税金を支払う必要があります。
しかし、不動産M&Aの場合はあくまで株式の取得により不動産を手に入れたに過ぎないため、不動産売買で発生したような各種税金を支払う必要がありません(ただし、会社分割の場合は登録免許税が発生します)。
また、不動産M&Aには一般的な市場に出回らない優良不動産が多くあります。市場に出回らない不動産が多い理由は、売り手企業がM&Aの守秘性を求めるため、一般向けには公開されないからです。不動産M&Aを利用することで、条件に合う不動産を見つけられる可能性が高まります。
デメリット
買い手企業が不動産M&Aを行うデメリットは、以下のとおりです。
- リスクを引き継ぐ可能性がある
- 手続きに時間と手間がかかる
M&Aを行う場合は、売り手企業のリスクを引き継ぐ可能性があることがデメリットです。M&Aには、財務リスク・法務リスク・税務リスク・人材リスクなど、多くのリスクが存在します。このことから不動産M&Aによって株式や事業を引き継いだ結果、何かしらのトラブルに巻き込まれてしまう可能性があります。
また、売り手企業と同じで、買い手企業の場合も時間と手間がかかります。特に、前述したリスクを調査・評価するために、買い手企業はデューデリジェンス(買収監査)に時間をかける必要があるでしょう。
不動産M&A時の税金の取り扱い
ここでは、不動産M&Aを行う際の税金の取り扱いについて解説します。また、不動産M&Aの税制上のメリットを確認するために、不動産売買と会社清算の税金の取り扱いについても説明します。
なお、税金の取り扱いについては個別の事例によって異なる場合があるため、必ず税理士や税務署などに確認してください。
不動産M&Aや不動産売買などの税金の取り扱いは、下記の表のとおりです。
売り手企業 | 買い手企業 | |
株式譲渡 | 所得税 | 不要 |
会社分割 | 法人税(特例あり) 所得税(特例あり) | 不動産取得税(特例あり) 登録免許税 |
不動産売買 | 法人税等 印紙税 | 不動産取得税 登録免許税 印紙税 消費税 |
会社清算 | 法人税 所得税 | -(無関係) |
株式譲渡の場合
株式譲渡による不動産M&Aの場合の税金は、売り手企業(株主)の譲渡所得に対して課される所得税だけです。買い手企業に対して、不動産所得税や登録免許税などが課されることはありません。株式譲渡の譲渡所得税の計算方法は、以下のとおりです。
- 譲渡所得金額=譲渡価額-必要経費(取得費+手数料)
- 譲渡所得税額=譲渡所得金額×譲渡所得税(20.315%)
会社分割の場合
会社分割による不動産M&Aでは、原則として売り手企業と買い手企業それぞれに、以下のような税金が課されます。
- 法人税(売り手企業):不動産の譲渡損益に対して課税される(23.4%)
- 所得税(売り手企業の株主):株式譲渡益などに対して課税される(20.315%)
- 不動産取得税(買い手企業):固定資産税評価額に応じて課税される(3~4%)
- 登録免許税(買い手企業): 不動産評価額に対して課税される(2%)
ただし、これらの税金には特例措置や非課税措置などが設けられています。一定要件を満たしている場合は、法人税や所得税、不動産取得税の課税を避けることができます。
組織再編税制で課税を回避できる
組織再編税制の特例措置とは、一定条件を満たす企業が組織再編(会社分割や合併など)をする場合に、法人税や所得税を課税しない仕組みのことです。特例措置の要件はそれぞれ以下のとおりです。
会社同士の関係性 | 適格要件 |
100%グループ内再編 | ・100%関係の継続 |
50%超グループ内再編 | ・50%超関係の継続 ・主要な資産・負債の移転 ・移転事業従業者の約80%が移転先業務に従事 ・移転事業の継続 |
共同事業再編 | ・事業の関連性があること ・事業規模が約5倍以内または特定役員への就任 ・主要な資産・負債の移転 ・移転事業従業者の約80%が移転先業務に従事 ・移転事業の継続 ・支配株主による対価株式の継続保有 ・関係の継続(株式交換・株式移転のみ) |
「不動産取得税の非課税措置」で不動産取得税を回避できる
不動産取得税には、地方税法により非課税措置が設けられています。会社分割(分割型分割)によって不動産を取得した場合、以下の要件を満たすと非課税になります。
- 分割対価として、新法人の株式以外の資産が交付されないこと
- 当該分割事業にかかる主要な資産と負債が新法人に移転していること
- 当該分割事業が新会社において引き続き運営される見込みがあること
- 分割事業に従事していた従業者のうち、80% 以上が新会社に従事すると見込まれること
- 分割対価の株式が、分割法人の株主が有する新会社の株式の数の割合に応じて交付されること
平たくいうと、「通常の不動産取得に該当しない場合は不動産取得税が非課税になる」ということです。不動産取得税は高額になることが多いため、できる限り非課税措置を利用できるようにしましょう。
不動産売買の場合
不動産売買では、売り手企業と買い手企業それぞれに以下のような税金が課されます。
- 法人税等(売り手企業):不動産の譲渡損益に対して課税される(30~33%程度)
- 不動産取得税(買い手企業):固定資産税評価額に応じて課税される(3~4%)
- 登録免許税(買い手企業): 不動産評価額に対して課税される(2%)
- 消費税(買い手企業):土地には課されないが、建物には課される(10%)
- 印紙税(両方):不動産売買契約の契約金に応じて課税される(最大60万円)
売り手企業の場合、不動産の譲渡損益(法人の所得)に対して法人税、法人事業税、法人住民税などが課されます。税率は事業規模や地域などによって異なり、目安は30~33%程度となります。
また、買い手企業は不動産の取得にあたり、不動産取得税、登録免許税(登記手数料)、消費税などを納める必要があります。印紙税も納める必要がありますが、通常は当事者間で折半されます。
会社清算の場合
会社清算(廃業)では、法人が所有している資産を全て換価し、残った財産を株主に分配します。
その際、売り手企業とその株主にはそれぞれ以下のような税金が課せられます。
- 法人税等(売り手企業):最終的な法人の所得に対して課税される(30~33%程度)
- 所得税(売り手企業の株主):みなし配当に対して課税される(20.315%)
換価した結果、法人の所得が黒字である場合は、法人税、法人事業税、法人住民税などが課されることになります。このときの税率の目安は、不動産売買と同じ30~33%程度となります。
また、法人税課税後に残余財産がある場合は、最終的に株主への配分が行われます。出資した以上の配分が行われた場合はみなし配当に該当するため、その配当に対して所得税が課されます。
不動産M&Aを行う際の注意点
ここでは、不動産M&Aを選択するにあたって注意すべきことについて解説します。
税制上で不向きなケースがある
不動産M&Aを選択するメリットは、大きな節税効果が期待できることです。しかし、株式譲渡の場合も、会社分割の場合も、税制上で不向きなケースがあるので注意しましょう。
株式譲渡が短期所有土地の譲渡として扱われるケース
株式譲渡による不動産M&Aを行う場合は、短期所有土地の譲渡に該当しないか注意すべきです。
短期所有土地の譲渡に該当すると、短期譲渡所得として所得税と住民税(合計39%)が課税されます。
条件は複雑ですが、「譲渡する土地等の所有期間が5年以下の場合」「譲渡する株式等の所有期間が5年以下の場合」に該当する可能性があります。土地や株式の所有期間が短い場合は注意しましょう。
会社分割が租税回避行為として扱われるケース
会社分割による不動産M&Aを行う場合は、租税回避行為として扱われないように注意すべきです。租税回避行為として扱われてしまうと、組織再編税制の特例措置の適用を受けられなくなります。
租税回避行為の主な判断基準は「組織再編の手順等に不自然なものがあるか」「組織再編を行う合理的な理由があるか」の2つとなっています。法人税・所得税の節税だけを目的とした会社分割を行った場合、税務調査の際に指摘されるリスクがあるので注意しなければなりません。
知識不足の仲介会社が存在する
不動産M&Aを選択する場合は、不動産M&Aに精通している仲介会社に依頼するのが重要です。
一般的に、不動産取引に関することは不動産仲介会社に相談・依頼することが多いでしょう。しかし、不動産売買と不動産M&Aは異なる取引方法なので、不動産仲介会社に依頼しても満足のいかない結果になる恐れがあります。
一方、M&A仲介会社には、不動産M&Aの仲介をした経験がある会社もあれば、そうでない会社もあるため注意しなければなりません。仮に、不動産M&Aの経験がない仲介会社に依頼した場合、不動産特有のリスクを評価できない可能性があり、M&Aの途中や成約後にトラブルが発生する可能性も考えられます。
不動産仲介会社や一般的なM&A仲介会社ではなく、不動産M&Aに精通している仲介会社に依頼することをおすすめします。
まとめ
不動産M&Aは、売り手企業と買い手企業の両方にメリットがある不動産取引方法です。将来的に不動産の売却や購入を考えているなら、不動産M&Aを検討してみるのも良いでしょう。
ただし、正しく不動産M&Aのメリットを得るためには、仲介会社によるサポートが欠かせません。その際、「不動産取引」と「M&A」の知識・経験を持つ仲介会社を選ぶことがポイントになります。
レバレジーズM&Aアドバイザリー株式会社は、M&A全般のサポートに対応している仲介会社です。各領域に精通しているコンサルタントも在籍していますので、まずはお気軽にご連絡ください。