学習塾のM&Aの概要や事例、売却相場やメリットなども解説
2024年8月8日
このページのまとめ
- 学習塾業界とは、主に義務教育や高等教育を受ける児童・生徒を対象としている
- 少子化が進む昨今、生き残るための戦略としてM&Aが活用されることがある
- 学習塾M&Aの相場は、規模や立地、設備、講師のレベルなどによって変動する
- 学習塾M&Aの売り手のメリットは、廃業せずに済むことや指導レベルのアップなど
- 学習塾M&Aの買い手のメリットは、講師・生徒の増加やエリア拡大などができること
「学習塾業界でのM&Aの状況は?」と気になっている方もいるのではないでしょうか。
少子化が進み、ターゲットとなる層の人口が減少している状況において、M&Aは活路となる手段として見出されています。
本コラムは、学習塾業界のM&Aについて解説します。
市場動向や取引価額の相場、事例を紹介。そのほか、M&Aを行うメリットを売り手・買い手の立場に分けて解説しています。
目次
学習塾業界とは
学習塾業界とは、義務教育課程あるいは高等教育以上の課程の児童・生徒を対象としている学習塾が属する業界です。
総務省が定める日本標準産業分類の大分類においては「教育、学習支援業」にあたります。
学習塾では、学校での公的な教育以外で学ぶ場を提供し、学習指導や進路指導を行います。
参照元:総務省『日本標準産業分類 大分類O-教育,学習支援業』
学習塾業界の市場動向
学習塾を利用するのは主に子どもです。
そのため、少子化は学習塾業界に大きな影響を及ぼします。
厚生労働省が2020年に公表した『令和2年版厚生労働白書-令和時代の社会保障と働き方を考える-』によると、1950年から2019年までの出生数の推移は下記のとおりです。
第2次ベビーブームの1971年〜1974年以降、ほぼ減少の一途をたどっています。
引用元:厚生労働省『令和2年版厚生労働白書-令和時代の社会保障と働き方を考える-』 図表1-1-7 出生数、合計特殊出生率の推移
2019年は出生数が87万人まで下がっており、2040年には74万人まで減少すると予測されています。
ターゲットが減っていくなかで生徒数を確保するためには、サービスの品質向上やエリア拡大などの対策が必須であるといえます。
そうした対策を講じるために、今後M&Aが活用される場面が増えていくでしょう。
参照元:厚生労働省『令和2年版厚生労働白書-令和時代の社会保障と働き方を考える-』
学習塾業界におけるM&Aの相場
学習塾業界におけるM&Aの相場は、学習塾の規模によって異なります。
小規模・中規模な学習塾のM&Aでは、1,000万円〜3,000万円ほどの案件が多いです。
個人塾の場合は、1,000万円未満の取引価額になることもあります。
一方で大規模な学習塾の企業のM&A案件は、取引価額が数億円になることもあるでしょう。
学習塾業界におけるM&Aでの取引価額に影響を及ぼすのは、規模だけではありません。
規模以外にも、学習塾の立地や設備・ITシステム、契約している生徒数、所属している講師のレベルなども要素によって、取引価額が上下します。
【売り手側】学習塾業界M&Aの4つのメリット
学習塾業界でM&Aを行う売り手側(譲渡企業)のメリットは、主に下記の4つです。
- 学習塾を存続させられる
- 指導レベルを上げられる
- 創業者利益が獲得できる
- スケールメリットが得られる
それぞれのメリットについて詳しく解説します。
学習塾を存続させられる
学習塾業界M&Aで売却を行うことにより、学習塾を存続させられます。
「後継者がいない」「運営資金が足りない」などの事情によって学習塾を廃業しなければならない状況において、M&Aは活路となります。
学習塾をM&Aで売却すれば、譲受企業のもとで学習塾が存続します。
また、学習塾が存続するため、従業員も働きつづけることが可能です。
指導レベルを上げられる
指導のレベルをアップさせられることは、学習塾業界M&Aで売却するメリットです。
学習塾業界M&Aによって指導レベルが高い学習塾の傘下に入れば、多くの恩恵を受けられます。
譲受企業が持つ豊富なノウハウや充実した設備を活用することが可能です。
その結果、学習塾の指導レベルをアップさせることができ、サービスの質向上につながるでしょう。
創業者利益が獲得できる
学習塾業界M&Aで売却を行うメリットの一つは、創業者利益を獲得できることです。
M&Aの手法によっては、学習塾を売却する対価として現金を得ることができます。
創業者利益を獲得できれば、リタイア後の私生活を充実させられたり、新規事業にチャレンジしたりすることが可能です。
スケールメリットが得られる
学習塾業界M&Aで売却することで、スケールメリットを獲得できます。
学習塾業界M&Aによって売却すればスケールメリットが得られ、経営の効率化やコスト削減などが実現します。
また、大手企業にグループインした場合、知名度・ブランド力が上がり、競争力を向上させることができます。
【買い手側】学習塾業界M&Aの4つのメリット
学習塾業界でM&Aを行う買い手側(譲受企業)のメリットは、主に下記の4つです。
- 講師を獲得できる
- 生徒数を増やせる
- エリアを拡大できる
- 新規参入できる
それぞれのメリットについて詳しく解説します。
講師を獲得できる
学習塾業界M&Aで買収するメリットは、譲渡側の学習塾に所属している優秀な講師を獲得できることです。
優秀な講師の獲得により、質が高い指導を提供できるようになります。
また、学習塾業界M&Aで講師を獲得できれば、採用にかける手間や費用を省けます。
さらに、すでに経験を積んでいるため、初期の育成コストもかかりません。
生徒数を増やせる
学習塾業界M&Aで買収することにより、生徒数を増加させられることがメリットです。
学習塾業界M&Aで買収すれば、譲渡側の学習塾と契約している生徒を承継することができます。
また、譲渡側がブランド力のある学習塾である場合、M&Aがきっかけとなって新たな入塾希望者が増えることも期待できるでしょう。
エリアを拡大できる
学習塾業界M&Aで買収するメリットの一つは、エリア拡大できることです。
未開拓の地域で事業展開をする学習塾を買収することで、エリア拡大できます。
一から事業を立ち上げて学習塾を設立する場合は多大なコストがかかりますが、M&Aを活用すれば低コストでエリアを拡げられます。
新規参入できる
学習塾業界M&Aを活用することで、他業種の企業が学習塾をM&Aで買収することによって、学習塾業界に新規参入することが可能です。
すでに事業運営を行っている学習塾を買収するため、スピーディに新規参入できます。
また、一から学習塾を設立するケースと比べて、設立コストや事業失敗のリスクが低くなります。
学習塾業界M&Aの3つの事例
最後に、学習塾業界で実施されたM&Aの事例を3つご紹介します。
- 駿台グループとマナボのM&A事例
- 学研HDとGPM社のM&A事例
- 明光ネットワークジャパンとSimpleのM&A事例
それぞれ詳しく解説します。
駿台グループとマナボのM&A事例
2018年5月末、駿台グループのエスエイティーティー株式会社(以下「SATT」)は、株式会社マナボ(以下「マナボ」)の全株式を取得し、完全子会社化しました。
譲受企業 | 譲渡企業 |
エスエイティーティー株式会社 | 株式会社マナボ |
譲受側のSATTは、eラーニングシステム「学び~と」や人材開発事業、教育関連システムの開発などを行う会社です。
譲渡側のマナボは、スマートフォン一つで24時間オンライン上で質問ができるシステム「manabo」を開発・運用していました。
本M&Aの主な目的は、両社が持つeラーニングシステムを融合させることでさらに優れた新サービスを開発することです。
他業種に向けた教育サービスの開発も視野に入れています。
また、駿台グループが有する海外校との連携による事業のグローバル展開や、EdTech開発の推進にも力を入れていくとのことです。
参照元:
エスエイティーティー株式会社『駿台グループのエスエイティーティーが株式会社マナボの全株式を取得』
学研HDとGPM社のM&A事例
2022年3月末、株式会社学研ホールディングス(以下「学研HD」)は、株式会社ジープラスメディア(以下「GPM」)の全株式を株式譲渡によって取得しました。
本M&Aによって、GPMは学研HDの完全子会社となりました。
譲受企業 | 譲渡企業 |
株式会社学研ホールディングス | 株式会社ジープラスメディア |
譲受側の学研HDは、学習塾などの教育サービスを中心に、出版物の発行や介護施設・子育て施設の運営などの事業も行う持株会社です。
譲渡側のGPMは、日本で生活を営む外国人向けの情報Webサイトをリリースしている企業です。外国人の顧客に高い支持を得ています。
今回のM&Aの目的は、デジタル戦略およびグローバル戦略の加速化です。
GPMが持っている顧客基盤と国内外最大級の外国人プラットフォームが、学研HDが保有する事業・ノウハウと合わさったときに大きなシナジー効果を発揮するとしています。
GPMにとっても、大企業である学研HDの傘下に入ることで多くのメリットを得られます。
参照元:
株式会社学研ホールディングス『株式会社ジープラスメディアの株式の取得(子会社化)に関するお知らせ』
株式会社ジープラスメディア『株式会社 学研ホールディングスへの移行のお知らせ』
明光ネットワークジャパンとSimpleのM&A事例
2022年4月、株式会社明光ネットワークジャパン(以下「明光ネットワークジャパン」)は、Simple株式会社(以下「Simple」)の全株式を取得し、完全子会社化を行いました。
譲受企業 | 譲渡企業 |
株式会社明光ネットワークジャパン | Simple株式会社 |
譲受側の明光ネットワークジャパンは、個別指導塾「明光義塾」やAIタブレット学習塾「自立学習RED」をはじめとする多様な教育ブランドの直営と、各事業ブランドのフランチャイズ展開を行っている企業です。
譲渡側のSimpleは、保育士・幼稚園教諭を専門とした転職支援サービスや栄養士に特化した転職支援サービスを運営している企業です。
明光ネットワークジャパンは、自社とSimpleは企業風土の親和性が高く、シナジー効果が期待できると判断し、今回のM&Aを決断しました。
M&Aにより、明光ネットワークジャパンが掲げる「人の可能性をひらく企業グループ」にさらに近づけるとしています。
また、Simpleが展開している保育業界における人材紹介事業が、明光ネットワークジャパンの事業ポートフォリオの強化につながることも、株式取得を行った理由の一つです。
参照元:株式会社明光ネットワークジャパン『Simple株式会社の株式取得(子会社化)に関するお知らせ』
まとめ
学習塾業界とは、公的な教育以外で学ぶ場を提供し、学習指導や進路指導を行う学習塾を運営する企業が属する業界です。
少子化が進行する状況下で生徒数を確保するために、学習塾はサービスの品質向上やエリアの拡大などの必要に迫られています。
M&Aは、学習塾が生き残るための戦略として選ばれています。
M&Aを実施することによって、指導のレベルを上げたり、生徒・講師を増やしたりすることが可能です。
また、M&Aを活用することでエリア拡大や新規参入も実現できます。
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