保育園M&Aの動向や事例、相場やメリット、注意点なども解説
2024年8月8日
このページのまとめ
- 保育園業界では、組織再編や経営戦略の転換を目的とするM&Aが増加すると予測される
- 社会福祉法人が保育園M&Aを行うときは、手法や対価の設定に注意が必要
- 保育園M&Aの取引額は、事業価値や規模、立地などの要素によって変動する
- 保育園M&Aで譲渡するメリットは、従業員雇用の継続や後継者問題の解決など
- 保育園M&Aで譲受するメリットは、許認可の承継や事業拡大ができることなど
「保育園業界でのM&Aの動向は?」と疑問をお持ちの方もいるのではないでしょうか。
保育園業界では、今後業界再編やシェア拡大などを目的としたM&Aが増加すると予測されます。
本コラムでは、保育園業界でのM&A動向や売却相場の基準などを紹介します。
また、保育園M&Aを行うメリットやM&Aの全体の流れ、実施の際の注意点についても解説します。
そのほか、保育園M&Aの事例も紹介するので参考にしてください。
目次
保育園業界の現況とM&A動向
保育園M&Aの動向を、保育園業界の市場状況と併せて紹介します。
待機児童数と保育園利用率の現状
2023年のこども家庭庁の調査によると、保育所等待機児童数および保育所等利用率の推移は、下記のとおりです。
保育利用率は右肩上がりで上昇しており、待機児童数は大幅に減っています。
待機児童数は、2023年には2,680人になりました。
引用元:こども家庭庁『「保育所等関連状況取りまとめ(令和5年4月1日)」を公表します』保育所等待機児童数及び保育所等利用率の推移
待機児童数は減少傾向にありますが、一部の都道府県ではいまだに100人以上の待機児童がいます。
100人以上の待機児童がいる都道府県は下記の表のとおりです。
都道府県 | 待機児童数(人) | 待機児童率(%) |
沖縄県 | 411 | 0.66 |
埼玉県 | 347 | 0.25 |
東京都 | 286 | 0.09 |
兵庫県 | 241 | 0.20 |
神奈川県 | 222 | 0.12 |
滋賀県 | 169 | 0.44 |
大阪府 | 147 | 0.08 |
千葉県 | 140 | 0.11 |
三重県 | 103 | 0.26 |
沖縄県が最も待機児童数が多く、そのほか、東京都や近郊の数値が高くなっています。
参照元:こども家庭庁『「保育所等関連状況取りまとめ(令和5年4月1日)」を公表します』
保育園業界におけるM&A動向
少子化が進行して子どもの数が減っているなか、保育施設は増加しており、供給が需要を上回っていくことが予測されます。
そのため、保育園業界では業界再編や経営戦略の転換などを目的としたM&Aが活発化するでしょう。
また、待機児童数が多い都道府県に進出するためにM&Aを活用するケースも増えると考えられます。
保育園の種類
ここでは、保育園の種類や保育園と幼稚園の違いなどについて解説します。
認可保育園と認可外保育園
保育園は、大きく分けると「認可保育園」と「認可外保育園」の2つがあります。
認可保育園とは、国が児童福祉法において定めている基準を満たし、都道府県の認可を受けている保育所のことです。
基準となる項目には、設備や保育時間、保育の内容、職員の配置、保育士の人数などが設けられています。
認可保育園の運営費は保護者が支払う保育料のほか、国の負担金や税金などによって賄われています。
認可外保育園とは、上記の認可保育園以外の保育園のことです。
保育園の主な種類
保育園の主な種類は下記のとおりです。
種類 |
認可の有無 |
施設概要 |
認可保育園 |
認可あり |
国の基準を満たし、都道府県の認可を受けて運営している認可保育所。 |
地域型保育園 |
認可あり |
就労する保護者に代わって保育を行う認可保育所。 |
認定こども園 |
認可あり |
親の就労の有無にかかわらず、幼児教育と保育の両方を提供する認可施設。 |
企業主導型保育園 |
認可外 |
企業が従業員を対象に設置された、認可外の保育施設。 |
院内保育所 |
認可外 |
病院に勤務する職員を対象に設置された、認可外の保育施設。 |
ベビーシッター |
認可外 |
利用者の自宅や託児所などに出向いて、子どもの保育・教育を行う職業。 |
待機児童問題や保護者のニーズの多様化などを受けて、認可外保育施設も増えています。
保育園と幼稚園の違い
子どもを預かる施設には、保育園以外に「幼稚園」もあります。
保育園と幼稚園は異なる役割を担っており、ほかにもいくつかの違いがあります。
両者の主な違いは、下記のとおりです。
保育園 | 幼稚園 | |
管轄 | 厚生労働省 | 文部科学省 |
法律 | 児童福祉法 | 学校教育法 |
施設の目的 | 就労する保護者に代わって、子どもの保育を行う | 就学前教育を行い、子どもの心身の発達を助長する |
預かる対象 | 保育に欠ける乳児と幼児 | 満3歳~小学校就学の始期に達するまでの幼児 |
保育・教育の時間 | 8時間を基準とする | 4時間を基準とする |
保育園は「保育所保育指針」を基準に運営しています。
幼稚園は「幼稚園教育要領」をもとに、教育を提供しています。
保育園の運営者の種類
保育園の運営者の種類には、以下のようなものがあります。
- 社会福祉法人
- 学校法人
- 宗教法人
- 医療法人
- 自治体
- 株式会社・有限会社
- 個人事業主
2000年に「保育所設置に係る主体制限」が撤廃されて規制が緩和されたことにより、さまざまな法人および個人事業主が保育所を設置しました。
そのなかでも最も多い運営者は、社会福祉法人です。
社会福祉法人は2000年の規制緩和の前から運営者として認められていました。
社会福祉法人が保育園M&Aを行うときの3つの注意点
社会福祉法人は非営利団体です。
そのため、一般的なM&Aとは異なる注意点があります。
- 利益供与が禁止されている
- M&Aのスキームが限られる
- 法人外への資金流出が認められていない
以下で、3つの注意点について解説します。
利益供与が禁止されている
社会福祉法人においては、関係者に利益を与えることを禁止しています。
そのため、対価性のあるM&A取引は実施することができません。
M&Aのスキームが限られる
社会福祉法人が保育園M&Aを行うときは、採択できるスキームが限られるため注意が必要です。
M&Aの手法では「合併」や「事業譲渡」が利用できます。
また、評議員・理事・理事長の交代により、社会福祉法人の実質的な経営権を取得する方法もあります。
法人外への資金流出が認められていない
社会福祉法人は、法人外に資金を流出させてはいけません。
実際の価値よりも低い価額でM&A取引を実施した場合、資金流出だとみなされるリスクがあります。
M&Aの手法に事業譲渡を選択する場合は、対価の設定金額に注意しましょう。
価値算定した価額よりも低い金額に設定しないでください。
保育園M&Aの取引額の相場
保育園M&Aにおける取引額の相場は、主に下記の4つの要素に左右されます。
- 事業価値
- 規模
- 立地
- 広さ
それぞれの項目について、詳しく解説します。
事業価値
保育園の事業価値が評価されると、M&Aの取引額は高くなる傾向があります。
事業価値は事業計画をもとに算出されます。
規模
M&Aの取引額は、保育園の規模の大小によって変動します。
規模が大きく、定員数が多い保育園であれば、その分多くの保育料を得られます。
そのため、規模が大きいほど取引額は高くなります。
広さ
保育園の広さは、受け入れられる子どもの人数の上限に影響を与えます。
そのため、定員を増やしたいと考えている譲受先であれば、保育園の広さを高く評価してくれる可能性があります。
立地
保育園を運営するにあたって有利な立地である場合、M&Aの取引額は高額になる傾向にあります。
近隣に住宅街やマンションがある保育園や、送迎しやすい駅の近くにある保育園などは好立地であるといえます。
保育園M&Aの流れ
手法によって異なる場合がありますが、保育園M&Aの一般的な流れは下記のとおりです。
- ニーズの発生・M&Aの検討
- M&A業者の選定・契約
- 機密保持契約書の締結(M&A業者との間で)
- アドバイザーとの面談
- 企業価値評価
- ロングリストの作成
- ショートリストの作成
- ノンネームシートの作成
- ネームクリアの検討
- 機密保持契約書の締結(買い手と売り手との間で)
- 企業概要書の提示
- 企業価値評価・スキームの絞り込み
- トップ面談
- 条件の交渉
- 意向表明書の提出
- 基本合意書の締結
- デューデリジェンスの実施
- 最終条件の交渉
- 最終契約書の締結
- クロージング
M&Aの実施までには複数のプロセスを踏む必要があり、複雑です。
また、M&Aに関する専門的な知識も求められます。
保育園M&Aの実施を検討する際は、M&A仲介会社などの専門家にサポートを依頼することがおすすめです。
【売り手側】保育園M&Aを行う5つのメリット
保育園M&Aを行う売り手側のメリットは、下記の5つです。
- 従業員の雇用を守れる
- スケールメリットを得られる
- 後継者問題を解消できる
- 売却益を得られる
- 個人保証から解放される
それぞれのメリットについて、詳しく解説します。
従業員の雇用を守れる
保育園M&Aを行うメリットは、従業員の雇用を守れることです。
もし保育園が閉鎖する事態に陥った場合、従業員である保育士は雇用を失うことになります。
しかし保育園M&Aを実施し、保育士を譲受先に承継すれば、保育士は働き続けることが可能です。
スケールメリットを得られる
保育園M&Aで大規模な法人の傘下に入れば、多くのスケールメリットを得られます。
設備や備品にかけていたコストを削減できたり、譲受側が持つブランド力を活用できたりします。
後継者問題を解消できる
後継者不足により閉鎖の危機にあった保育園は、M&Aを行うことによって後継者問題を解決できます。
廃業になると続いてきた保育園がなくなってしまうことはもちろん、廃業費用もかかるため、M&Aで引き継ぐことは有益な手段だといえます。
売却益を得られる
非営利団体ではない法人が保育園をM&Aを行う場合、売却益を得ることができます。
売却益を得られれば、リタイア後の生活資金にしたり、新規事業の立ち上げ資金にしたりすることが可能です。
個人保証から解放される
借入の際に個人保証を提供している場合、M&Aを機に解除できることがあります。
M&Aの手法によっては、資産とともに債務や個人保証も移行させることが可能です。
【買い手側】保育園M&Aを行う5つのメリット
保育園M&Aを行う買い手側のメリットは、下記の5つです。
- 人材を確保できる
- 設備を獲得できる
- 許認可を引き継ぐことができる
- 事業拡大できる
- 新規開業しやすい
それぞれのメリットについて、詳しく解説します。
人材を確保できる
保育園M&Aのメリットは、人材を確保できることです。
従業員を承継する契約内容であれば、譲渡側で働いていた保育士を迎え入れることができます。
ノウハウを持った保育士を承継できるため、採用や教育に要する費用もカットできます。
設備を獲得できる
保育園M&Aによって、土地や保育施設などを獲得できます。
保育園の設置に理解がある地域で事業を始められることや、すでに建設された状態の保育施設を手に入れられることは、大きなメリットだといえるでしょう。
許認可を引き継ぐことができる
M&Aの手法によっては、許認可を引き継ぐことが可能です。
許認可を取得するためには厳しい審査を通過したり費用を払ったりする必要があるため、許認可を承継できることはメリットになります。
事業拡大できる
事業拡大できることは、M&Aを実施するメリットの一つです。
運営する保育園の施設形態の幅を広げられたり、エリアを拡げられたりすることができます。
新規開業しやすい
先述したように、M&Aを実施すれば人材や設備、許認可などを承継することが可能です。
M&Aで保育園を取得することで、一から開業するよりも比較的簡単に事業を始められます。
保育園M&Aの3つの事例
最後に、保育園業界におけるM&Aの事例を、3つ紹介します。
- 仙台ぱれっと福祉会とJCIきっずのM&A事例
- ソラストとなないろのM&A事例
- WITHホールディングスとアンジェリカのM&A事例
以下でそれぞれの事例について詳しく解説します。
仙台ぱれっと福祉会とJCIきっずのM&A事例
2024年の4月、株式会社JCIきっず(以下「JCIきっず」)は「諏訪ぱれっと保育園」と「川前ぱれっと保育園」の2施設の運営に関する事業を、関連法人である社会福祉法人仙台ぱれっと福祉会(以下「仙台ぱれっと福祉会」)に譲渡しました。
譲受側 | 譲渡側 |
社会福祉法人仙台ぱれっと福祉会 | 株式会社JCIきっず |
譲受側の仙台ぱれっと福祉会は、保育・医療・介護・福祉サービスをシームレスに提供することを目指して運営をしている社会福祉法人です。
譲渡側であるJCIきっずは、保育園運営・各種販売・コンサルティングを行う株式会社です。
両者はもともと関連法人の関係にあり、事業譲渡後も保育園運営に関する方針や職員体制、提供するサービスなどに変更はありません。
新体制後も引き続き地域の保育を担い、地域社会に貢献していくとのことです。
参照元:社会福祉法人仙台ぱれっと福祉会『事業運営譲渡のお知らせ』
ソラストとなないろのM&A事例
2022年3月、株式会社ソラスト(以下「ソラスト」)は、株式会社なないろ(以下「なないろ」)の株式を取得し、子会社化しました。
譲受側 | 譲渡側 |
株式会社ソラスト | 株式会社なないろ |
譲受側のソラストは、東京都を中心に認可保育園などを運営する上場企業です。
こども事業のほか、医療事業や介護事業も営んでいます。
保育事業においては「すべてはそこに暮らす子どもたちのために」という理念を掲げ、園づくりに取り組んでいます。
譲渡側のなないろは、東京都を中心に認可保育園などを運営する株式会社です。
都内に19ヶ所の認可保育園を運営していました。
本M&Aの大きな目的は、都内における認可保育園のシェア拡大です。
19ヶ所の保育園がソラストグループに加わります。
また、M&Aによって互いが持つ知見を融合させて、数ある保育園の中から選ばれる園を目指していくとのことです。
参照元:株式会社ソラスト『株式会社なないろの株式の取得(子会社化)に関するお知らせ』
WITHホールディングスとアンジェリカのM&A事例
2021年10月、株式会社WITHホールディングス(以下「WITHホールディングス」)が株式会社アンジェリカ(以下「アンジェリカ」)の株式を取得したことを、ティーキャピタルパートナーズ株式会社(以下「TCAP」)が発表しました。
譲受側 | 譲渡側 |
株式会社WITHホールディングス | 株式会社アンジェリカ |
譲受側のWITHホールディングスは、TCAPが管理・運営するTMCAP2016投資事業有限責任組合の投資先です。
WITHホールディングスは東京都城東・城北地区および埼玉県を中心に保育事業を営んでいます。
譲渡側のアンジェリカは双日株式会社のグループ子会社であり、東京の城南地区を中心に保育施設を展開している企業です。
将来的に需要と供給が逆転していくであろう保育園業界において生き残るためには、良質な保育サービスを提供する必要があります。
今回のM&Aは「選ばれる保育園」を目指すために実施されました。
WITHホールディングスとアンジェリカの間で、主に食育・英語・音楽などに関するノウハウを共有し、サービスの質向上に取り組みます。
参照元:ティーキャピタルパートナーズ株式会社『株式会社WITHホールディングスによる株式会社アンジェリカの株式取得について』
まとめ
保育園業界は、保育施設の増加や少子化の影響などを受けて、今後供給が需要を上回っていくと考えられます。
そのため、業界再編や経営戦略の転換などを目的としたM&Aが活発化すると予測されます。
また、待機児童数が多い都道府県にエリア拡大をするためにM&Aを行うケースも増加するでしょう。
レバレジーズM&Aアドバイザリー株式会社は、M&A全般をサポートする仲介会社です。
各領域に精通したコンサルタントが在籍しており、M&Aのご成約まで一貫したサポートを提供することが可能です。
料金体系はM&Aご成約時に料金が発生する完全成功報酬型です(譲受会社のみ中間金あり)。
ご相談も無料です。保育園業界でのM&Aをご検討の際には、ぜひお気軽にお問い合わせください。