人材派遣業界のM&A最新動向・メリット・譲渡・売却事例を解説

2024年8月6日

人材派遣業界のM&A最新動向・メリット・譲渡・売却事例を解説

このページのまとめ

  • 人材派遣業を行うには厚生労働省が定める許認可が必要になる
  • 人材派遣業界の市場自体は拡大すると予想されるが参入のハードルは高い
  • 大手企業への対抗や特化型の人気の高まりなどを受けてM&Aが盛んに行われている
  • 人材派遣のM&Aを行うメリットには「取引先の獲得」「マッチング率向上」などがある
  • M&Aを成功させるにはデューデリジェンスなどの実施が必要になる

人材派遣業界では、大手企業が多くのシェアを占めていることから「M&Aで対抗力をつけたい」などを考えている方もいるのではないでしょうか。

人材派遣のM&Aには、事業拡大や取引先の拡大、マッチング率の向上など多くのメリットがあるため検討することもひとつの手です。しかし、許認可の取得や合併前の調査などやるべきことも多いため、注意しながら丁寧に進めましょう。

本コラムでは、人材派遣のM&Aにおけるメリットや注意点、具体的な事例、必要な費用などについて解説します。自社の事業を拡大したいと考えている企業は、ぜひ参考にしてみてください。

WEBから無料相談
M&Aのプロに相談する

人材派遣業界とは

人材派遣は「人材紹介」と間違われやすい業界です。両者はビジネスモデルが異なるため、M&Aを検討するにあたって、まず違いを把握しておきましょう。

人材派遣業界の定義

人材派遣とは、派遣元の事業主が契約している労働者を派遣先へ提供し、派遣先の指揮命令のもと労働に従事させる仕組みのことです。正式には「人材派遣事業」ではなく「労働者派遣事業」と呼ばれます。

人材派遣事業を行うには、平成27年の「労働者派遣法」の改正により、厚生労働省大臣による認可を受けることが必要となりました。

また、人材派遣事業では以下の業務は実施できません。

  1. 港湾運送業務
  2. 建設業務
  3. 警備業務
  4. 病院等における医療関係の業務
  5. その他(弁護士など8資格の業務・建築事務所の管理建築士の業務など)

さらに、以下のような派遣先の就労期間制限も存在します。

  • 派遣先事業所単位の期間制限
    同じ派遣先の事業所に対して派遣できる期間は、原則3年
  • 派遣労働者個人単位の期間制限
    同じ労働者を、派遣先事業所における同一の組織単位(「課」など)に派遣できる期間は、原則3年

人材派遣業を行う際は注意しましょう。

人材派遣と人材紹介の違い

人材紹介とは、求人を出している企業と求職者の間に入り、企業と求職者の間で雇用関係が成立するようサポートする事業です。厚生労働省大臣の許可が必要で、厚生労働省では「職業紹介」と呼ばれています。
企業と求職者間で雇用契約が成立することで、手数料をもらうビジネスモデルです。

人材派遣では「派遣元と派遣スタッフ」の間で雇用契約が発生しますが、人材紹介では「求人を出している企業と求職者」の間で直接雇用関係が発生します。
求職者が求人を出している企業に求職者が雇用されるため、給与は紹介会社を挟まず直接支払われるところが、人材派遣業界との大きな違いといえるでしょう。

職業紹介事業には以下の2種類があります。

  • 有料職業紹介事業
  • 無料職業紹介事業

「有料職業紹介事業」とは、求職者と企業を結びつけ、手数料や報酬を得る仕組みのことです。
有料職業紹介事業は、職業安定法により禁止されている仕事を除き紹介可能です。

「無料職業紹介事業」とは、求職者と企業を結びつけた際に手数料や報酬を受け取らない仕組みのことです。例として、学校のキャリアセンターやハローワークなどが該当します。

WEBから無料相談
M&Aのプロに相談する

人材派遣界の現状

2023年時点で人材派遣業界の市場規模は拡大し続けています。

2020年度に厚生労働省が発表したデータによれば、派遣先件数は約75万件に到達しており、前年度から7.6%も増加しています。
無期雇用派遣労働者数は「71万2,896人(前年度比18%増)」、有期雇用派遣労働者数は「121万3,591人(前年度比1.5%減)」となっており、トータルで市場が拡大していることがわかるでしょう。派遣労働者への賃金も8時間換算で「1万5,590円(前年度比2.3%増)」となっており、待遇が改善され、働きやすい状況が整えられていると言えます。

また、2020年に施行された同一労働同一賃金の導入は、人材派遣業界を変える大きなきっかけとなりました。同一労働同一賃金とは、同じ企業内で正規雇用者と非正規雇用者の間の不合理な待遇格差を解消する考え方のことです。

2020年4月1日に施行された「労働者派遣法」にて定められています。国民の働き方が多様化する中、どのような雇用形態を選んでも納得して労働に従事できるようになることを目的としています。

一方で上記のような法改正により、新規で人材派遣業界に参入するハードルが高まったことも事実です。同一賃金同一労働を実現させるために、企業が派遣スタッフへの待遇を上げる必要があるかもしれません。待遇を上げることはもちろん大切ですが、資金面で賃上げが難しい企業も存在するでしょう。

さらに2015年9月の労働者派遣法改正によって、人材派遣業者には一定の資産要件が課せられ、労働者のキャリアアップを見据えた教育訓練の実施も求められるようになりました。

このように、人材派遣業界の市場には伸び代がありますが、さまざまな要件が追加されたことで参入のハードルは高まっています。

参照元:厚生労働省「令和2年度 労働者派遣事業報告書の集計結果(速報)

WEBから無料相談
M&Aのプロに相談する

人材派遣業界の今後の課題

労働者派遣法の改正など、人材派遣事業への参入に際して超えるべきハードルはいくつか存在します。
しかし、人材派遣業界の市場は今後も成長が見込まれるため、その動向を随時チェックすることが重要です。

特に2023年現在、少子高齢化に伴う人材不足を解消するための人材派遣の活用が活発になっています。
以前、人材派遣会社を利用する中には「正規雇用を避けて賃金を抑えたい」という目的も多かったですが、今では「専門的な知識や能力を持つ人材を採用したい」という理由も増えてきています。

厚生労働省の発表によると、2020年時点の人口統計は以下のとおりです。

総人口1億2,615万人
65歳以上3,603万人
15歳~64歳7,509万人

2070年には以下のように推移すると考えられています。

総人口8,700万人
65歳以上3,367万人
15歳~64歳4,535万人

労働力の中心である「15〜64歳」の世代が大きく減少していることが確認できます。

労働人口の大幅な減少によって、多くの企業が人材不足を深刻に感じることになるでしょう。
特にIT業界では、人材不足が既に大きな課題となっており、経済産業省の調査によると2030年までに40万〜80万人の人材が不足すると予測されています。
ビッグデータ、IoT、人工知能などの分野での人材不足が特に懸念されており、人材派遣業界も「専門知識の高い人材の確保」が大きな課題となっています。

参照元:
厚生労働省「我が国の人口について
経済産業省「参考資料(IT人材育成の状況等について)」p.5〜6

WEBから無料相談
M&Aのプロに相談する

人材派遣業界でM&Aが活発に行われている理由

人材派遣業界におけるM&A件数は増加傾向にあり、2021年における東証適時開示ベースでの人材派遣会社のM&A件数は増加傾向にあります。

人材業界においてM&Aが活発な理由として、主に以下が挙げられます。

  • 大手人材派遣業者に対抗するため
  • 過半数の企業が後継者不足に陥っているため
  • 特化型の人材派遣業者が人気になっているため

それぞれについて詳しく解説します。

大手人材派遣業者に対抗するため

中小規模の人材派遣業者が、大手に対抗する手段としてM&Aは有効です。

株式会社デジタルワークスの調査によると、2023年時点での人材派遣業者の売上高ランキングTOP5は以下のようになっています。

企業名売上高
リクルートHD15,852億円
パーソルHD12,239億円
アウトソーシング6,897億円
パソナグループ3,725億円
テクノプロHD1,998億円

人材派遣業の2022年の市場規模は、88,600億円となっており、売上TOP5の企業だけで40,711億円の売上高を誇り、人材派遣業界全体の約46%を占めていることから、大手派遣会社による独占状態が続いています。

売上の小さな中小派遣事業者が生き残るには、拡大に向けたM&A実施などの施策が必要です。
M&Aで他社を買収し、企業の規模を大きくできれば、売上拡大だけでなく技術力や強み、登録スタッフなども強化できます。
お互いの技術や登録スタッフ、案件を融合させることで、ビジネス間にシナジーが生まれ、事業拡大を加速できるでしょう。

参照元:
業界動向サーチ「人材派遣業界 売上高ランキング
株式会社矢野経済研究所「人材ビジネス市場に関する調査を実施(2023年)

後継者不足に陥っているため

2023年時点において、日本では人材派遣業界も含め、後継者不足の企業が過半数を占めています。帝国データバンクの調査によると、2022年時点で国内企業の後継者不在率は「57.2%」でした。後継者不在率自体は5年連続で低下していますが、それでも過半数を占めていることから、経営の継続が難しい中小企業が多いと言えます。

さらに、中小企業庁の調査によると、2020年に廃業した事業者のうち「61.5%」は黒字でした。黒字にもかかわらず、後継者の不在を理由として廃業した割合は「29%」に達します。

このように、売上が黒字であっても後継者がいないことで廃業せざるを得ない中小企業の割合は高くなっています。M&Aを行うことで、外部の有能な人材を自社に引き入れられる可能性が高まるため、後継者問題を解消するきっかけとなるでしょう。つまり、人材派遣業界の需要が

参照元:
帝国データバンク「後継者不在率、初の60%割れ
中小企業庁「事業承継とは

特化型の人材派遣業者が人気になっているため

特化型の人材派遣業者になる手段として、M&Aを選択する事業者も増えています。

人材派遣業界では、大手企業数社が市場シェアの過半数を占める状況が続いています。大手企業は知名度や資金力も高いため、派遣スタッフや派遣先企業からも選ばれやすく、売上をさらに伸ばしやすいでしょう。

上記の状況で中小派遣事業者が勝負するには、分野を特化して他社と差別化することが重要です。分野特化としては、例えば以下が挙げられます。

  • 看護師派遣に特化
  • エンジニア派遣に特化
  • デザイナー派遣に特化

特化分野を持つ人材派遣会社であれば、労働者としても自分のスキルと照らし合わせて「どこに登録すべきか」を考えやすいです。派遣先企業としても、自社で足りないジャンルの人材にあわせて適切な派遣会社を選べるでしょう。

分野を特化するには、ノウハウを持つ人材派遣会社とのM&Aが有効です。M&Aを行うことで、他社のノウハウを自社に取り込み新たな強みとして打ち出せます。

WEBから無料相談
M&Aのプロに相談する

人材派遣業界における事業売却・M&Aの事例

実際に人材派遣業界では、以下のようなM&Aの事例が発生しています。

  • パナソニックによるテンプスタッフへの子会社一部譲渡
  • リクルートによる米GLASSDOOR社のM&A
  • パソナグループによるNTTグループ人材会社の子会社化

それぞれ詳しく解説します。

パナソニック子会社によるテンプスタッフへの株式一部譲渡

両企業の価値向上を目的として、2015年にパナソニックとテンプスタッフのM&Aが実施されました。パナソニックの100%子会社であり、事務や技術者派遣を行うパナソニックエクセルスタッフ株式会社の株式のうち66.61%を、テンプスタッフが譲り受けた形です。

パナソニックとテンプスタッフは、両社とも知名度の高い企業です。しかし、知名度に頼ることなく、両社の顧客基盤やサービスラインを活用して、アジアを代表する人材派遣会社を目指すとしています。

参照元:パナソニック株式会社「NEWS RELEASE

リクルートによる米GLASSDOOR社のM&A

リクルートとアメリカのGlassdoor社のM&Aは2018年に実施されました。

Glassdoor社は、オンライン求人サービスの領域において世界屈指の規模と成長率を誇る企業です。求人企業のレビューや給与情報など、さまざまな角度からの情報をまとめたオンラインデータベースを求職者に提供し、その透明性で高く評価されました。

両社は、保有するプラットフォームを大切にしつつ、お互いの強みを補完し合い、さらなる成長を目指しています。

参照元:株式会社リクルートホールディングス「Glassdoor, Inc.の株式取得(子会社化)に関するお知らせ

パソナグループによるNTTグループ人材会社の子会社化

パソナグループとNTT グループ会社のM&Aは2017年に実施されました。M&Aの目的としては、派遣事業の強化と官公庁や大手企業との信頼度向上だと言われています。

パソナとNTTのM&Aでは、以下2つのグループ会社が生まれています。

  • 株式会社パソナヒューマンソリューションズ(旧NTTヒューマンソリューションズ株式会社)
  • 株式会社パソナジョブサポート(旧テルウェル・ジョブサポート株式会社)

株式会社パソナヒューマンソリューションズでは、NTTグループ会社(NTT東日本やNTT西日本、NTTドコモなど)や通信建設企業など、NTT特有の業界に対して多くのスタッフを派遣しています。ネットワークエンジニアなどのIT業界にも強く、人材不足の可能性が高い業界の課題解消が期待されています。

株式会社パソナジョブサポートでは、派遣スタッフへの定期的な研修などを通じて、質の高い労働力を提供する仕組みを整えている段階です。なお、2020年6月に株式会社パソナヒューマンソリューションズと株式会社パソナジョブサポートは合併し、株式会社パソナHSとなりました。

参照元:
PASONA「NTTグループ人材サービス会社の株式取得に関するお知らせ
PASONA HS「会社概要

WEBから無料相談
M&Aのプロに相談する

人材派遣業界でM&Aを行うメリット

人材派遣業界でM&Aを行うと、さまざまなメリットが享受できます。

ここでは譲受企業・譲渡企業、両方の視点から、それぞれのメリットを解説します。

譲受企業のメリット

  • 新たな取引先を獲得できる
  • 企業規模の拡大により求人企業と求職者のマッチング率が向上する
  • 優秀な派遣スタッフを確保できる

M&Aを実施することで、譲渡企業が抱える派遣の取引先が引き継ぐため、新規顧客を獲得できます。人材派遣業界に限らず、新規顧客の獲得は簡単ではありません。数多くの企業に営業して受注する必要があります。M&Aによって買収先の取引先も獲得し、事業規模を拡大できるのは大きな魅力です。

また、企業の規模が拡大し、自社に登録している「求人数派遣先企業数」が増加すれば、純粋に母数を増やせます。
母数が増えれば派遣スタッフ・派遣先企業ともに選択肢が広がり、条件に合う相手とマッチングする可能性も高まるでしょう。マッチング率が向上すれば、自社の売上増加も見込めます。

優秀な派遣スタッフを確保できる点もM&Aの魅力です。日本は多くの業界で人材不足に陥っています。特に、少子高齢化による労働人口の減少は深刻です。労働力が減少する中で、優秀なスタッフを囲い込むことは簡単ではありません。
M&Aによって買収先が抱える派遣スタッフも確保できれば、母数が増えて優秀な人材と契約できる可能性が高まります。

譲渡企業のメリット

  • 大手の傘下入りで生き残りを図れる
  • 社員雇用を維持できる
  • 後継者不足を解消できる
  • 売却利益を獲得できる
  • 事業の集中と選択を図れる
  • 経営者の保証負担を解除できる可能性がある

譲受企業が大手の場合、傘下に入ることで生き残りを図れます。人材派遣業界は、数社の大手企業のシェアが多く、中小企業が生き抜くのは厳しい環境です。
M&Aによって大手の傘下に参入できれば、知名度やノウハウを自社で活用でき、生き残れる可能性が高まります。

また、M&Aをすることで、自社の社員の雇用維持にも貢献できます。廃業に追い込まれると、社員や登録スタッフ、その家族にまで大きな影響を及ぼすでしょう。M&Aを活用して、撤退のリスクを減らし雇用を維持することは大きな魅力と言えます。

さらにM&Aは後継者不足の解消にも寄与します。労働人口も減少している中で、自社内だけで後継者を探すには限界があるかもしれません。経営者の適性を持つ人材を見つけるのは簡単ではないですが、M&Aを通じて、適切な後継者を外部から選べるでしょう。

売却利益を獲得するのもM&Aの魅力です。人材派遣事業のM&Aによる譲渡利益は、数千万円レベルに及ぶことがあります。資金を確保してリタイア後の生活を楽しむことは、経営者にとっては魅力的です。ただし、譲渡利益には一定の税金が発生するので注意が必要です。

また、特定の事業を譲渡することで、自社が本当に集中したい事業に資源を集中できます。M&Aでは、全事業を売却する必要はありません。「赤字部門を売却し、その利益で人材派遣事業を強化する」という選択も考えられます。

経営者の保証負担を軽減する観点からも、M&Aを活用するのは有効です。M&Aにおいては、契約の内容次第で、買収側が売却側の借入金を引き継ぐことが可能です。これにより、負債を減少させ、売却する側の負担を軽減できます。

WEBから無料相談
M&Aのプロに相談する

人材派遣業界でM&Aを行う際の注意点

人材業界のM&Aには、メリットだけでなく注意点もあります。

ここでは、譲受企業・譲渡企業の両方の視点からM&Aを実施する際の注意点について解説します。

譲受企業の注意点

  • 事業譲渡の場合、事業に必要な許認可を引き継げない
  • 登録者の個人情報が流出するリスクがある
  • 簿外債務に注意する

事業譲渡によってM&Aを実施した場合、人材派遣業に必要な許認可は引き継げません。
人材派遣業を営むには、いくつかの要件を満たす必要があります。
必要な許認可としては、例として以下が挙げられます。

  • 指定の条件を満たす「派遣スタッフへのキャリア支援制度」を設けている
  • 指定の条件に沿った「派遣元の責任者」を選定している
  • 企業の規模に応じた資産条件を満たしている

許認可の取得には手間がかかるため、注意が必要です。買収側が許認可を持っていない場合、新たに取得する必要があります。既に買収側が許認可を取得している場合でも、法人名を変更などがある場合は、別途届出が必要です。ただし、株式譲渡の場合、株主が変わるだけで会社の形態自体は変わらないため、許認可も引き継がれます。

また、買収側がとくに注意すべきなのは「簿外債務」です。簿外債務とは、賃借対照表に計上されていない負債のことで、以下が例として挙げられます。

  • 未払い残業代
  • 未払い給与
  • 未払いの社会保険料
  • 損害賠償リスク

賃借対照表に記載されていないため、一見すると負債がないように見える場合があります。簿外債務を見過ごしてM&Aを実施すると、上記の負債も引き継ぐことになるので注意が必要です。簿外債務のリスクを軽減する方法として、事業譲渡で特定財産のみを引き継ぐ方法が有効です。

譲渡企業の注意点

  • 競業避止義務が課せられる

M&Aでは売り手側に競業避止義務が課せられることが通例です。競業避止義務とは、売り手企業に対して一定期間、競業となるビジネスの展開を禁止する義務や条項のことです。

特に事業譲渡については、下記のように会社法第21条にて一定の制限が規定されています。

”競業避止義務については、売り手・買い手の間で期間やエリア制限を設けることが可能です。
例えば事業譲渡の場合において、特段の契約がない場合でも、売り手は買い手と同一の市町村や隣接する市町村において「事業を譲渡した日から20年間」は同一の事業を実施できません。”

参照元:e-GOV法令検索「会社法第二十一条

WEBから無料相談
M&Aのプロに相談する

人材派遣企業のM&Aの売却相場と必要な費用

人材派遣企業の売却には相場があります。また、諸々の費用もかかるため確認しておきましょう。

人材派遣企業のM&A売却相場

人材派遣企業がM&Aを行った際の売却相場は、以下の計算式で求められます。

  • 株式譲渡の場合:時価純資産金額+(営業利益+役員報酬)×2〜5年分
  • 事業譲渡の場合:事業資産金額+事業利益×2~5年分

なお、時価純資産金額とは、時価評価した企業の資産から時価評価した負債を差し引いた後の金額のことです。

算出年数については2〜3年分を目安とすることが多いです。例えば「時価純資産金額:5,000万・営業利益:4,000万・役員報酬1,000万・3年分で算出」という条件で株式譲渡を行なった場合、M&Aによる売却相場は「2億円」となります。

もちろん、上記の計算式で求められる金額はあくまでも目安です。実際の売却価格は、業界の環境や企業規模、ブランド力などさまざまな要素によって変動するため、正確には予測できません。人材派遣の場合は、登録スタッフの質や許認可の有効年数などの要素も考慮が必要です。実際の算出には専門的な知見が必要なため、M&Aの仲介会社などに相談するとよいでしょう。

より具体的な企業価値を算出する方法として、主に以下の3つが挙げられます。

  • インカムアプローチ:売り手の将来的な収益や利益額に注目して算出する方法
  • マーケットアプローチ:売り手と規模が似ている上場企業や類似取引事例に注目して企業価値を算出する方法
  • コストアプローチ:財務諸表の純資産に注目して売り手の企業価値を算出する方法

これらの評価手法を組み合わせることで、より精度の高い企業価値の算出が可能になります。最終的な評価は、企業の特性や市場環境、売買の背景など多岐にわたる要因を総合的に考慮して行われます。

人材派遣企業のM&Aに必要な費用

人材派遣企業のM&Aでは、以下のような費用が必要です。各社料金体系が異なる場合がありますので、詳しくはご利用される人材派遣サービスの料金体系をご確認ください。

費用説明相場
相談料正式な依頼前に相談をした場合に発生する費用1万円程度
着手金仲介会社へ正式に依頼した時点で発生する費用無料~200万円程度
デューデリジェンス費用M&Aの相手先を調査する際に必要な費用200万~300万円程度
中間報酬基本合意書が締結された際に支払う費用50万〜200万円程度あるいは成功報酬の10〜20%程度
M&A成功報酬費用M&Aが成功した際に支払う費用・〜5億円まで:5%
・5億円を超えて10億円まで:4%
・10億円を超えて50億円まで:3%
・50億円を超えて100億円まで:2%
・100億円超え:1%
リテイナーフィー(月額報酬)仲介会社と契約してM&Aが成立するまでに毎月支払う費用50万円程度
その他(株券印刷代や登記費など)株券の印刷代や登記にかかる費用、書類作成代など諸々の雑費も負担不明
WEBから無料相談
M&Aのプロに相談する

人材派遣企業がM&Aを成功させるポイント

人材派遣企業がM&Aを成功させるには、いくつかポイントがあります。

ここではM&Aを成功させるポイントについて、買収側・売却側、両方の視点から解説します。

買収側企業のポイント

買収側企業が意識すべきポイントは以下の4つです。

  • デューデリジェンスを厳密に行う
  • 金融機関から理解と協力を得る
  • 良好な関係を築ける取引先を選ぶ
  • M&A仲介サービスを利用する

それぞれ詳しく解説します。

デューデリジェンスを厳密に行う

M&Aの際は、デューデリジェンスを厳密に実施しましょう。デューデリジェンスとは、M&Aの実施にあたり買収側が相手企業を事前に調査することです。

本来はM&Aが実施されるまでに、売却される企業から買収側へ財務や経営状況などを細かく共有することが望ましいです。
しかし、場合によっては「簿外債務を隠す」「抱えている訴訟案件の詳細を伝えない」など、売却企業にとって不都合な事実が隠されているかもしれません。M&A後に債務やリスクの存在が明らかになると、両者間のトラブル要因となります。納得してM&Aができるよう、デューデリジェンスは事前に細かく実施しましょう。

金融機関から理解と協力を得る

M&Aでは、金融機関からの理解と協力を得ることも大切です。

費用相場の箇所で解説したように、M&Aでは多額の費用がかかります。自社内で費用を全額確保できることが理想ですが、大企業ならまだしも中小企業では資金的に厳しいこともあるでしょう。

資金面で厳しさを抱える中小企業がM&Aを実施するのであれば、銀行など金融機関からの融資が必要です。

金融機関からの融資を受けるには、自社の返済能力や事業の見通しなどを正しく評価してもらい、安心して協力できる状態を整えることが大切になります。

良好な関係を築ける取引先を選ぶ

M&Aでは、買収側・売却側、両方のビジネスに大きな影響を与えるため、良好な関係を築くことが必要です。お互いの理念や合併によるシナジーに共感がなければ、良好な関係を築き協力することはできません。

もしも関係性を築かないままM&Aを強引に進めると、正しい情報共有がされず、合併後にトラブルへと発展するリスクがあります。

お互い納得して合併を成功させるためには、良好な関係性を持つ取引先を選ぶことが大切です。
自社にとって良い取引先を選ぶ際、仲介サービスを活用してプロの視点からの選定を受けることも考慮すると良いでしょう。

M&A仲介サービスを利用する

M&Aの仲介サービスの活用もおすすめです。

M&A自体は、買収側・売却側の2社間で進めることも不可能ではありません。とはいえ、複雑な契約の締結や金額交渉などもあるため、M&Aの経験がなければ成約できる可能性は低くなるでしょう。

仲介サービスであれば、M&Aの経験が豊富なプロの視点で適切な取引先を選んでくれます。デューデリジェンスも丁寧に実施してくれるため、M&A後のトラブル発生リスクも回避できるでしょう。一定の費用はかかりますが、M&Aを成功させて自社の事業をさらに伸ばすためには、必要な投資といえます。

売却側企業のポイント

売却側企業が意識すべきポイントは以下の2つです。

  • 人材流出を防ぐ
  • 複数の企業と交渉を進める

それぞれ詳しく解説します。

人材流出を防ぐ

M&Aでは、登録スタッフや社員のモチベーションも管理して人材の流出を防ぎましょう。

M&Aで合併したことに伴い、労働条件や社風などに変更があった場合、既存スタッフや社員に反発されるリスクもあります。人材不足解消のためにM&Aを実施したにもかかわらず、方針の違いなどで優秀なスタッフが辞めてしまっては合併の意味がありません。

事前に買収側・売却側で雇用に関する条件などもすり合わせて、合併後にミスマッチが発生しないよう意識しましょう。

複数の企業と交渉を進める

M&Aでは、複数の企業と交渉を進めることも大切です。

合併にあたっては、買収側・売却側の双方にメリットが発生するよう、調整が必要になります。
お互いが納得できるポイントを知るためには実際に交渉しなければならず、話が進んでから「条件が合わないため白紙に戻る」というケースも考えられます。

スムーズに契約が進むとは限らないという前提を考慮し、複数の企業との交渉を進めることが重要です。複数企業と交渉を進めていれば、一方との条件が合わない場合でも、別の企業へ切り替えて対応できます。

WEBから無料相談
M&Aのプロに相談する

まとめ

少子高齢化に伴う労働人口の減少もあり、人材派遣業界では専門スキルを持つ人材の確保が求められています。
M&Aによって事業規模を拡大することで、自社の登録スタッフ数も増え、優秀な人材を確保できる可能性が高まるでしょう。

しかし、人材派遣のM&Aでは、許認可の取得の手間や個人情報流出の懸念など、気を配るべき点も多いです。
M&Aを成功させるには、上記のような複雑な部分への細かい対応が必要になります。

M&AならレバレジーズM&Aアドバイザリーにご相談を

レバレジーズM&Aアドバイザリー株式会社は、M&A全般をサポートする仲介会社です。各領域の専門コンサルタントが御社の状況や希望条件を丁寧にヒアリングし、スキーム策定や交渉、契約書作成など、M&Aのあらゆるプロセスをご支援いたします。特に人材派遣のM&Aでは、許認可の取得や登録スタッフの個人情報保護などで手続きの手間も増えやすいため、安全にM&Aを成功させたい方はぜひ弊社にお任せください。

料金体系はM&Aご成約時に料金が発生する完全成功報酬型です。M&Aのご成約まで、無料で利用できます(譲受会社のみ中間金あり)。
ご相談は無料です。M&Aにかかりがちな費用の多くを省いているため、自社の負担も減らせるでしょう。
M&Aをご検討の際には、ぜひお気軽にご連絡ください。