クリニックのM&A相場は?医院承継の事例やメリットも解説
2024年8月5日
このページのまとめ
- 事業存続・資金調達・事業承継を目的として、クリニックのM&Aが増加している
- M&Aの実施により、買収側にはスタッフ確保や事業拡大などのメリットがある
- 売却によって、スタッフの雇用や地域医療を守ることができる
- クリニックのM&Aを行う際は、行政手続きや雇用契約面での注意が必要になる
「クリニックのM&Aを実施したいが迷っている」とお困りの人もいるでしょう。
クリニックのM&Aは、人材不足の解消や事業拡大などメリットがある一方、行政手続きや雇用条件面で注意事項があるため、細やかなチェックが必要です。
本コラムでは、クリニックのM&Aにおけるメリット・デメリットや事例、相場の求め方などを紹介します。
M&Aの注意点も記載しているため、実施を検討している方はぜひ参考にしてみてください。
目次
クリニックや病院のM&A最新動向
現在、M&Aの件数は増加傾向です。中小企業庁が2023年に発表した「2023年版 中小企業白書(p.Ⅱ-173)」によると、2022年のM&A件数は4,304件と報告されています。
医療業界も同様で、クリニックや病院のM&Aは増加傾向にあります。日本医師会総合政策研究機構が2019年に発表した「日医総研ワーキングペーパー – 医業承継の現状と課題(p.20)」によると、医療業界における事業承継はここ10年間で17倍に増加しました。
医療業界でM&Aが増加している理由として、特に考えられるのは下記の2点です。
- 政府による医療制度改革の推進
- 医療従事者の不足
それぞれについて詳しく解説します。
参考:
日本医師会総合政策研究機構「日医総研ワーキングペーパー – 医業承継の現状と課題 – 」3.インタビュー調査について – 3.4インタビュー結果
中小企業庁「2023年版 中小企業白書」第2部 変革の好機を捉えて成長を遂げる中小企業 – 第2章 新たな担い手の創出 – 第1節 事業承継・M&A – 4 M&A
政府による医療制度改革の推進
少子高齢化に伴う保険料の伸び悩みや医療費の増加など、医療業界が直面する課題を解決し、持続可能な社会保険制度の構築を実現するために健康保険法などの改正が進められています。
また、保険診療において実施される医療行為に対して、公的医療保険から支払われる診療報酬は、2年に1回(薬価については年に1回)のペースで改定されています。
東京保健医師会が2021年12月に発表した資料によると、2022年度に医療機関が受け取れる診療報酬は「5回連続の実質マイナス改定」となる見込みと伝えられました。
2022年度の診療報酬改定率について、医師の人件費や技術料などの「本体」部分(は0.43%引き上げ、医療機器や薬の価格などの「薬価」部分は1.3%引き下げとなり、トータルではマイナスの数字となりました。
こうした現状を踏まえると、医療機関の収益減少は避けられない状況と考えられ、M&Aを検討される医院やクリニックが増えていくと考えられます。
参照元:東京保険医協会「2022年度 診療報酬改定 本体わずか0.43%増 全体ではマイナス改定」
医療従事者の不足
医療業界では、医師や看護師などの医療従事者不足が深刻化しています。
2022年に厚生労働省が公表した「令和4年版 厚生労働白書」によると、2040年に必要と見込まれる医療・福祉就業者数は1,070万人である一方、実際に確保できる人数は974万人と推計されています。
人材不足の状況が続けば、医療従事者の確保が難しくなり、将来的に施設の運営に支障をきたすと考えられます。そうした事態を避ける手段として、M&Aは有効です。
参照元:厚生労働省「令和4年版 厚生労働白書 -社会保障を支える人材の確保-」
事業存続・資金調達・事業承継のためのM&Aが増加
2019年に厚生労働省から発表された「社会福祉法人及び医療法人の経営の大規模化・協働化等の推進について(p.15)」の調査では、医療法人のM&A件数は増加傾向にあるとされています。
2015年からは3年連続で増加しており、報酬改定による経営の厳しさや人材不足に直面する医療機関の増加が考えられる状況では、今後もM&Aを選ぶ事業者が増えていくでしょう。
医療機関のM&Aは、医療従事者や後継者の確保、安定経営の実現、事業規模の拡大など、さまざまなメリットを得られる最適な選択肢と言えるのです。
参考:厚生労働省「社会福祉法人及び医療法人の経営の大規模化・協働化等の推進について」
病院承継のM&A事例
2020年に厚生労働省が発表した「令和元年度 医療施設経営安定化推進事業 医療施設の合併、事業譲渡に係る調査研究報告書(p.28)」から、医療機関で実施されたM&Aの事例を一つご紹介します。
広島県福山市の医療法人社団 梶尾会福山泌尿器病院では、派遣医師の引き上げに伴い、スタッフの確保が難しい状況でした。
同院は、大学の泌尿器科教室に打診しましたが、医師の補充は期待できません。そこで、医師不足の早期解消を目指した同院は社会医療法人祥和会にM&Aを提案します。
この頃、祥和会も「総合的な専門病院を目指す」という目標を掲げていた時期であったため、事業拡大を見据えてM&Aが実施されることに。双方の思惑が一致したM&Aの好例と言えます。
参照元:厚生労働省医政局委託(委託先:株式会社川原経営総合センター)「令和元年度 医療施設経営安定化推進事業 医療施設の合併、事業譲渡に係る調査研究報告書」
クリニックや病院におけるM&Aで押さえるべきポイント
クリニックや病院でM&Aを進める際には、医療法による区分や業界の状況などを理解し、地域から求められる診療の提供を目指す姿勢が欠かせません。
押さえるべきポイントについて、詳しく解説します。
医療機関の区別
「医療法第一条の五」では、病床数19以下の医療機関を「診療所」、同20以上の医療機関を「病院」と区別しています(診療所は、医院・クリニックを含んだ総称です)。さらに、入院施設(病床)を持つ診療所は「有床診療所」、入院施設を持たない診療所を「無床診療所」と区別しています。
厚生労働省の統計「令和3(2021)年医療施設(動態)調査・病院報告の概況 I医療施設調査 – 統計表1施設の種類別にみた施設数・病床数及び人口10万対施設数・病床数の年次推移」によると、全国の医療機関の数は病院が減少し、診療所では「無償診療所」が増加しています。
参考:
e-GOV法令検索「医療法(昭和二十三年法律第二百五号)」
厚生労働省「令和3(2021)年医療施設(動態)調査・病院報告の概況」
個人事業と法人の違い
1945年の終戦後、施設基準を満たせば自由に開業できる自由開業制が採られたものの、逼迫した経済情勢では医師1人での病院開設は困難でした。そこで国は、資金調達を容易にするため1950年に医療法人制度を導入。当時は3人以上の医師の常勤を条件として、医療法人設立が認められていました。その後、1985年の医療法改正により医師1人での医療法人設立が認められたことから、医療1人による医療法人が増加しています。
厚生労働省「令和4(2022)年医療施設(動態)調査・病院報告の概況 医療施設調査」によると、2017年には医療法人の数が個人医院を上回りました。
医療法人形態の分類とM&Aの留意点
医療法人は「社団医療法人」「財団医療法人」「特定医療法人」「社会医療法人」に分類されます。厚生労働省「令和4(2022)年医療施設(動態)調査・病院報告の概況 医療施設調査」、および同「種類別医療法人数の年次推移」によると、医療法人と個人診療所を合わせた一般診療所数は2022年の施設数は約10.5万院とされ、医療法人数は約5.7万院です。
また、医療法人のうち「社団医療法人」は「持分あり」と「持分なし」に区分でき、「社団医療法人(持分あり)」は3.7万院、「社団医療法人(持分なし)」は1.9万院となりました。
医療法人のうち、そのほとんどは社団医療法人であり、医療法人のM&Aの対象は大半が「社団医療法人(持分あり)」です。ちなみに「社団医療法人(持分なし)」は2006年の医療法改正で作られた制度で、2007年以降に設立された医療法人はすべて「社団医療法人(持分なし)」です。そのため、現在新設合併および新設分割で設立できる医療法人は「出資持分なし医療法人」となります。
医療法人のM&Aは「個人」と「医療法人」、また「社団医療法人」は「持分あり」と「持分なし」によって使えるスキームが異なります。
参考:厚生労働省「種類別医療法人数の年次推移(令和5年3月31日現在)」、「種類別医療法人数の年次推移」
M&Aスキームの選定
クリニックのM&Aを進めていくスキームは、以下の3つが代表的です。
- 事業譲渡
- 合併
- 持分譲渡
それぞれについて、概要を簡単に解説します。
まず「事業譲渡」とは、分院がある医療法人において利用されるスキームです。債務の引き受けリスクはありませんが、権利移転や行政上の手続きが必要になります。
個人医院のM&Aで使えるスキームは、事業譲渡だけです。譲渡側は廃業し、譲受側が新規開業(個人の場合)もしくは分院開設(医療法人の場合)の手続きを取ります。従業員の雇用契約やリース契約は別途、締結し直します。
「合併」は、出資持分にかかわらず選択できるスキームです。片方の運営母体を存続させる「吸収合併」と、新設のクリニックに権利や義務を承継させる「新設合併」の2種類があります。
「持分譲渡」は、出資持分あり医療法人で実行可能なスキームです。理事や社員が持つ出資持分を譲渡することで、雇用契約やカルテ、労務管理などをそのまま引き継げます。持分譲渡を実施する際は、理事も含めて社員を一度入れ替える場合が多いです。
また、財団医療法人は定款で寄付行為として定めている場合に限り、理事の2/3以上の同意を得て、吸収合併または新設合併が可能です。
社会医療法人と特定医療法人は、公益性に関する要件を満たす医療法人として国税庁の承認された医療法人で、税制上優遇されています。そのため、社会医療法人と特定医療法人のM&Aでは分割が認められていません。
地域医療構想による機能分化
高齢者人口が増えるにつれ、医療・介護需要は大きく増えていきます。いわゆる「団塊の世代」が後期高齢者(75歳)となる2025年までに、各地域に求められる医療機関の配置を行うために、都道府県ごとに「地域医療構想」が定められています。
厚生労働省による「地域医療構想について」では、医療機関の機能分化として、医療費の負担の大きい急性期病床を減らし、地域ごとに適切な病床を割り当てるという考え方が示されました。
先進・高度な医療を提供する病院と一般の入院医療を提供する病院機能のすみ分けが進むなか、診療所は外来機能を受け持つ「かかりつけ医」の役割が求められています。
参考:厚生労働省「地域医療構想について」
医師・医療機関の偏在
必要な医療を受けることができない医療過疎地域を解消するため、国は平成20年度から医学部定員を大幅に増員し、医師を増やしてきました。
しかし、医師の地域偏在や診療科偏在は今もなお解消されておらず、医師の確保に向けて都道府県は主体的かつ実効的に対策を行える体制の整備を求められています。
具体的には、地域病院の再編による医師の派遣集約、医師の少ない地域で勤務する医師が疲弊しない持続可能な環境整備、医療機関に対するインセンティブの付与、新規開業や事業維持に関連した行政の支援策実施など、方針および対策が実施されています。
参考:厚生労働省「医師偏在対策について」
クリニックや病院のM&Aのメリット・デメリット
クリニックや病院のM&Aには、メリット・デメリットの両方が存在します。買収側・売却側、それぞれに影響があるため、慎重に検討してからM&Aを進めましょう。
買収側のメリット
買収側の代表的なメリットは以下の5つです。
- 人材不足の解消
- 病床の拡大
- 既存患者の引き継ぎる
- 施設や設備への初期投資を抑えられる
- 事業の多角化
それぞれについて詳しく解説します。
人材不足の解消
M&Aを実施すると、買収したクリニックや病院の医師・看護師を引き継ぐことが可能です。もし自院が人材不足で悩まれている場合、専門技術や経験を持つ人材を迎え入れることで解決できます。
研修や教育にかかるコストも抑えながら、安定した医療行為を提供できる体制を整えられます。
病床の拡大
各都道府県には、一部の地域に過剰に病床が増えることを防止するために定められた「基準病床数制度」が、厚生労働省により定められています。
もし、各地域における認可病床数が基準病床数を超えている場合、新たな公的医療機関などの開設や増床は原則許可されません。
その点、M&Aでは医療機関が持つ病床も引き受ける形になるため、基準病床制度による影響を受けない点がメリットといえるでしょう。多店舗経営による事業拡大を目指すクリニックにとって、有効的な手段です。
既存患者の引き継ぎ
クリニックを新たに開業する場合には、一から患者を集患する必要があります。M&Aでは買収先のクリニックの患者を引き継ぐことが可能です。
地域住民を集患する際の広告費を抑えながら、経営を安定させやすい点はメリットといえます。
施設や設備への初期投資を抑えられる
クリニックを新たに開設する場合、建物や設備には多額の費用がかかります。
M&Aによって設備や建物を引き継ぐことができれば、初期投資を抑えて事業を展開できます。
事業の多角化
事業を多角化できる点もM&Aの魅力です。M&Aにより新たな診療科を合併できれば、クリニックの対応範囲を広げられます。
専門技術を持つ人材を買収先から迎え入れることも可能です。事業拡大によってクリニックの対応範囲を広がれば、利益の向上も期待できます。
買収側のデメリット
買収側のデメリットとしては、以下の2点が考えられます。
- 建物の修繕や医療機器の入れ替えが必要なケースがある
- スタッフや患者が離れる場合も
それぞれの項目について、詳しく解説します。
建物の修繕や医療機器の入れ替えが必要なケースがある
M&Aでは、建物や医療機器の引き継ぎが可能です。ただし、状態次第ではそのまま使えない場合があります。
例えば、建物の老朽化が進んでいれば修繕が欠かせず、医療機器が古ければ更新が必要な場合があります。また、理想とする内装やレイアウト、機器を導入したい場合には新たな費用が発生します。
M&Aにより初期費用を抑えても、多額のコストが発生すればメリットが低減してしまいます。
修繕の必要性や設備の状態など、事前に現地チェックや売却側へのヒアリングを実施し把握しておきましょう。
スタッフや患者が離れる場合も
M&Aでは、事業承継後にクリニックの方針やスタッフの雇用条件などを変更する場合があります。
こうした方針の変更が患者やスタッフにとって受け入れ難い内容であれば、旧来から主力だった人材の退職が想定され、患者も「医療方針が変わった」「信頼していた医師が辞めてしまった」などの理由によって、離れてしまうかもしれません。
引き継いだ患者やスタッフに信頼されるよう、事前に患者の要望やスタッフとの雇用条件説明しておくことが重要です。
売却側のメリット
一方で、M&Aにおける売却側のメリットについても解説します。
- 後継者不在問題の解消
- 地域医療を守れる
- スタッフの雇用を維持
- 譲渡利益の確保
それぞれ、詳しく見ていきましょう。
後継者不在問題の解消
株式会社帝国データバンクによる「東北6県企業「後継者不在率」動向調査(2022年)」によると、病院・医療関係は後継者不在率が66.8%と、全業種の中でワースト5位となりました。
また、病院・医療関係に関わらず、60歳以上の経営者が将来的に廃業を予定している割合も50%を超え、そのうち30%は「後継者不在」を理由としています。
M&Aにより第三者を後継者の対象にすることで、事業継承の可能性を高められます。
参考:株式会社帝国データバンク「東北6県企業「後継者不在率」動向調査(2022年)(p.3)」
地域医療を守れる
後継者不在問題は各地域で深刻化しており、上述した「東北6県企業「後継者不在率」動向調査(2022年)」によると、全業種における後継者不在率が50%以上となった地域は36都道府県になりました。最も深刻な島根県では、75.1%と非常に高い数字を示しています。
医療分野の場合、後継者の不在により医療機関が廃業となれば、地域住民の健康に影響を与えかねません。
また、地域に根づいて長年にわたり地元で医院を経営されていた方にとって、後継者不在による廃業は避けたい事態です。
M&Aにより後継者を迎えることにより、地域医療を守れる医療機関は少なくありません。
スタッフの雇用を維持できる
クリニックや病院の運営を維持できない事態になれば、スタッフの雇用が守れません。クリニックを支えてきたスタッフやその家族を路頭に迷わせることは、経営者としても避けなければなりません。
M&Aでは、買い手との交渉次第でスタッフの雇用を継続可能です。ただし、個人クリニックでM&Aを実施する場合は原則として雇用条件が引き継がれないため、M&Aの条件として雇用の継続および雇用条件が変動しないよう、入念にすり合わせを進めましょう。
譲渡利益の確保
売却による譲渡利益は売り手にとっての魅力です。クリニックの売却によって得られる譲渡利益は、条件により異数千万円レベルに達する場合もあります。
大きな利益を得て、「引退後はセカンドライフを楽しみたい」と考えている経営者にとって、M&Aのメリットは少なくないでしょう。また、得た利益を元手に新たな事業の立ち上げも可能です。
ただし、譲渡価格に応じた税金が課されるため、その点は留意する必要があります。
売却側のデメリット
売却側に考えられるデメリットは、やはり「互いが求める条件が合わず、交渉が成立しない場合もある」点です。
金額や雇用条件、行政上の手続きなどさまざまな要因により条件が合わず、M&Aが成立しないこともあります。
M&Aの交渉で時間や労力を割いても、合意に至らなければ要した時間が水の泡となってしまうため、交渉不成立となることも認識して、交渉に臨みましょう。
クリニックや病院のM&Aにおける注意点
クリニックや病院のM&Aには、人材不足や後継者不在問題の解決、地域医療の継続、譲渡利益の獲得など、買収側・売却側の双方にメリット・デメリットがあるので、慎重に検討することが重要です。
実際にM&Aを進める際には、以下4点のポイントに注意しましょう。
- 許認可の引き継ぎ要件を確認
- 人材流出を防ぐ対策を立てる
- スケジュールに余裕を持って進める
- 新たな雇用契約を結ぶ場合も
それぞれ詳しく解説します。
許認可の引き継ぎ要件を確認
クリニックのM&Aを進める際には、許認可の引き継ぎ要件を細かくチェックしておきましょう。
そもそも、個人経営のクリニック・医院をM&Aで事業承継する場合には、いったんクリニックを廃業したうえで、新たに個人医院の開業(承継先が法人の場合は分院の設立)など、事業譲渡に必要な手続きを行います。
そのほか、「医療法 第七条」では「営利を目的として、病院、診療所又は助産所を開設しようとする者に対しては、第四項の規定にかかわらず、第一項の許可を与えないことができる」と定められているように、医療施設は非営利性を求められるため、M&Aを実施する際の手続きが複雑です。
クリニックのM&Aにおいて、個人医院と医療法人では行政手続きの方法が異なります。必要な手続きを忘れないよう、M&A後の流れを細かく確認しておきましょう。
また、カルテをスムーズに引き継ぐには、保健所から「一定期間、以前の院長と一緒に診療すること」を求められる場合があります。この点も、M&Aをクロージングする前に保健所に確認しておくことがポイントです。
参考:医療法「e-Gov法令検索」
人材流出を防ぐ対策を立てる
スタッフの理解を得ないままに、診療方針や雇用条件を変更変更すれば、反発を買うおそれがあるため注意しましょう。人材の確保をM&Aの目的の一つにしていた場合、M&Aのメリットが薄れてしまいます。
人材流出を防ぐには、事前にスタッフと話し合い、条件や待遇面で明確に合意を得ることが欠かせません。
スケジュールに余裕を持って進める
クリニックのM&Aが成立するまでにはさまざまな行政上の手続きが必要になるため、時間を要します。そのため、余裕のあるスケジュールでM&Aを進めることが大切です。
新たに雇用契約を結ぶ場合も
法人を事業譲渡する場合は、原則としてスタッフの雇用もそのまま引き継がれます。給与や制度の見直しを行う場合には、その都度職員に告知が必要です。
一方で個人クリニックの事業譲渡では、スタッフの雇用を継続する義務はありません。M&Aの後に同じスタッフを雇用する場合は、新規で契約を結ぶ形になります。そのため、M&A後に雇用条件を変更することや、新たに雇用契約を結ばなくてもルール上は問題ありません。
とはいえ、M&A後にも患者からの信頼関係を維持するためにはスタッフの継続雇用を検討する必要があるでしょう。継続して雇用する場合には、スタッフと円滑に院内を運営していくためにも、雇用条件について慎重に話を進めましょう。
クリニックや病院のM&Aの相場を調べる方法
クリニックや病院のM&Aにおいて、譲渡価格の相場を算出する方法は複数あります。
- 修正純資産法
- 類似会社比較法
- DCF(Discounted Cash Flow)法
それぞれの方法について、理解を深めましょう。
修正純資産法
クリニックに限らず、M&Aにおいて広く用いられる相場の調査方法です。資産・負債の時価評価を行った上で純資産を求めるため、より実態に近い純資産額を算出できます。
なお、クリニックのM&Aでは、算出した純資産に将来の見込み利益を足して調節する場合が多いです。将来の見込み利益は「のれん代」や「営業権」とも呼ばれ、クリニックのブランド力や地域からの信頼、認知度といった無形資産が含まれます。
類似会社比較法
過去のクリニックのM&A事例に基づいて、相場を決める方法です。施設の規模や具体的な取引額、売上高、利益、従業員数、負債状況などを参考に、最適なM&A額を決定します。
DCF(Discounted Cash Flow)法
クリニックが将来的に生み出すキャッシュフローを想定して現在価値を測り、具体的な金額を算出する方法です。
DCF法では事業計画書の内容をもとに算定する場合が多く、現在価値についてはクリニックの負債などリスクや不確実性を「割引率」としてキャッシュフローから差し引いて算出します。
ただし、DCFの計算に使う項目は明確に定められていないため、計算方法によって金額に大きな振れ幅が発生します。
具体的な譲渡価額の算定はM&A仲介会社に相談
M&Aの譲渡価格は上記の計算方法で求められますが、自力での計算は非常に複雑です。具体的な金額を把握したい場合は、まずM&A仲介会社に相談することを検討しましょう。
M&Aの仲介会社は金額計算に関する知見を豊富に持っているため、より正確な金額を算出できます。
まとめ
人材不足や高齢化の影響もあり、クリニックのM&Aは今後増加していくと予想されます。M&Aによる経営の健全化は、スタッフの雇用はもとより、地域医療の維持にもつながるため、多くの面でメリットがあるといえるでしょう。
一方で、医療関連のM&Aは法律上のルールが複雑で、行政手続きや雇用条件の結び直しなど、複雑なプロセスを踏んでいきます。
そのため、M&Aを円滑に進めるパートナーと共に進めていくと良いでしょう。
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