会計事務所のM&Aとは?相場やメリット、流れについて解説
2024年7月30日
このページのまとめ
- 会計事務所と税理士事務所は、経理・税務サービスを提供する同様の事務所である
- 会計事務所のM&Aにより後継者問題解決、売却利益獲得、規模拡大、新エリアの展開が期待できる
- 会計事務所のM&Aでは、相場を把握し高値で売却する戦略を熟知することが重要
- 会計事務所のM&Aは、スキームの限定性や顧客契約打ち切りなどのリスクがある
- 相場感の理解、適切なアドバイザー選択、両企業の事前調査がM&A成功の鍵に
会計事務所の経営者は60歳以上の割合が高く、個人事業で運営している人も多いです。今後も高年齢化が続けば、いずれは後継者を見つけて引退を考える経営者も増えるでしょう。そんな中、多くの経営者が有資格者であり、かつ経営者の素質も持つ人物を見つけたいと考えているのではないでしょうか。そんな魅力ある人材を見つけるためにも、M&Aは有力な選択肢となり得るでしょう。
本コラムでは、会計事務所のM&Aにおけるメリットや売却価格を高めるためのポイント、実施時の注意点、具体的な手順などについて網羅的に解説します。会計事務所の後継者探しを考えている方は、ぜひ参考にしてください。
目次
会計事務所の現状と税理士事務所・税理士法人との違い
会計事務所のM&Aを検討する際には、まず業界の現状を把握し、税理士事務所と税理士法人の違いを考慮して進めましょう。
- 会計事務所の現状
- 税理士事務所との違い
- 税理士法人との違い
それぞれについて詳しく解説します。
会計事務所の現状
会計事務所とは、法人および個人に対して以下の経理・税務サービスを提供する事務所です。
- 税務相談
- 税務申告代行
- 記帳代行
税理士や公認会計士など、経理・税務に関する専門知識を有する人物が運営しています。e-Stat「経済センサス‐活動調査 令和3年経済センサス‐活動調査 事業所に関する集計 産業横断的集計 事業所数、従業者数」によると、2021年時点での全国の公認会計事務所数は2,808事業所(税理士事務所は29,438事業所)です。
国税庁「税理士制度」によると、税理士の登録者数は以下のとおりです。
年数 | 税理士の登録者数 |
2010年 | 72,039人 |
2015年 | 75,643人 |
2020年 | 79,404人 |
2021年 | 80,163人 |
2022年 | 80,692人 |
また、「金融庁 公認会計士・監査審査会「令和5年版モニタリングレポート(p12)」によれば、公認会計士の登録者数は以下のとおりです。
年数 | 公認会計士の登録者数 |
2020年3月末 | 31,793人 |
2021年3月末 | 32,478人 |
2022年3月末 | 33,215人 |
2023年3月末 | 34,436人 |
年ごとに登録者数は増加していますが、難関資格であるため、人材の増加はわずかです。
中小企業庁「事業承継を知る」によると、経営者年齢のピークはこの20年間で60代~70代に上昇し、後継者の不在は深刻な状況にあるとされています。個人事業として経営するケースが多い会計事務所においても、身近な人物から後継者を見つけることが難しい現状です。
参照元:
e-Stat「経済センサス‐活動調査 令和3年経済センサス‐活動調査 事業所に関する集計 産業横断的集計 事業所数、従業者数」
国税庁「税理士制度」
金融庁 公認会計士・監査審査会「令和5年版モニタリングレポート」
中小企業庁「事業承継を知る」
税理士事務所との違い
会計事務所と税理士事務所の業務はほぼ同様ですが、法律における「名称の定義」に違いがあります。
国税庁「第2条《税理士業務》関係」への記載のとおり、税理士法第40条2項にて税理士が設立する事務所は「税理士事務所」が正式名称とされています。その内容を踏まえると「正式名称:税理士事務所」「俗称:会計事務所」と捉えて問題ないでしょう。
正式名称と俗称が存在する理由として、業務内容のイメージを正しく伝えることが考えられます。税理士事務所は、税務、決算処理や経営コンサルティングなど幅広い業務を展開しています。
ただ、「税理士事務所」という名称は税務関係のみ対応していると誤解を与えかねません。そのため、税務以外にも会計関連業務に幅広く対応していることをイメージを持たせるため、会計事務所という俗称を用いていると考えられます。
参照元:国税庁「第2条《税理士業務》関係」
税理士法人との違い
税理士事務所と税理士法人は、組織形態に大きな違いが存在します。税理士事務所は代表者を税理士が務める個人事業である一方、税理士法人は2人以上の税理士で構成される法人です。
税理士法人は2人以上の税理士が所属し、支店を展開できるなど幅広く業務を担当できるため、大規模プロジェクトや複雑な税務問題に対応する体制を有します。
会計事務所がM&Aを行うメリット
会計事務所がM&Aを実施することで、以下のメリットを実感できます。
売り手のメリット |
買い手のメリット |
|
|
売り手・買い手、それぞれの視点で詳しく解説します。
売り手側の5つのメリット
会計事務所をM&Aした際、売り手の主なメリットは以下の5つです。
- 買収後も税理士として事務所に残れる可能性が高い
- 既存顧客の業務を引き継げる
- 事務所スタッフの雇用を守れる
- 後継者問題を解消できる
- まとまった売却利益を獲得できる
それぞれ詳しく解説します。
買収後も税理士として事務所に残れる可能性が高い
会計事務所の業務には、以下のように税理士しか実施できない業務があります。そのため、会計事務所を売却(および買収された)後も、所長など既存の役職に留まれる可能性が高いでしょう。
業務の名称 |
概要 |
税務代理 |
税務官公署に対する申告や税務官公署の調査、処分に関して税務官公署に対して行う主張、あるいは陳述について代行する業務 |
税務書類の作成 |
税務官公署への申告等に必要な申告書類等を作成する業務 |
税務相談 |
税務官公署に対する申告等、法第2条第1項第1号に規定する主張や陳述、申告書等の作成に関し、租税の課税標準等の計算に関する事項について相談に応じる業務 |
税理士資格を持たない人物がもし上記業務を行なった場合、税理士法違反となります。こうした独占業務は税理士に限定されているため、事務所を売却しても貴重な資格保持者として重宝されるでしょう。
参照元:国税庁「6 税理士法違反行為」
既存顧客の業務を引き継げる
顧客の中には「長い付き合いのある事務所だから取引する」場合もあるでしょう。重要なお金を扱うため、長年の信頼度を重視しても何ら不思議ではありません。
M&Aを実施した後も既存顧客を買収先に引き継ぐことで、継続して依頼を受けることが可能です。
事務所スタッフの雇用を守れる
M&Aを通じて、事務所スタッフの雇用を維持することが可能です。
会計事務所を廃業する際には、雇用する従業員の解雇は経営者として最も避けたい事態でしょう。M&Aによって事務所の売却が成功すれば、スタッフが引き続き買収先にて雇用される可能性が高まります。
ただし、M&Aの契約内容によっては「従業員の雇用を継続しない」というケースもあるため注意しましょう。また、M&Aの後に現在の雇用条件が維持されない可能性もあります。従業員をこれまでどおり雇用し続けるためには、M&Aの前に条件を確認しすり合わせることが重要です。
後継者問題を解消できる
M&Aを通じて、会計事務所の後継者問題を解決できます。
中小企業庁の「事業承継を知る」によれば、会計事務所を含む多くの中小企業では後継者不足が悩みです。2020年時点で経営者の年齢ピークは60〜70代で、70代経営者のうち「後継者が不在」と回答した割合は約4割に上ります。黒字にもかかわらず廃業を選択する事業者も増加しており、後継者不在は日本全体の課題といえます。
特に会計事務所の場合、経営者の資質のみならず国家資格の保有も業務引き継ぎの必要条件です。そのため、会計事務所の後継者探しは難易度が高くなります。
M&Aを実施することで、外部の有資格者を後継者として迎え入れられれば、廃業を回避することが可能です。また、買収先が会計事務所の場合は有資格者が在籍しているため、これまでどおりに業務を進められます。
参照元:中小企業庁「事業承継を知る」
まとまった売却利益を獲得できる
M&Aの実施により、まとまった売却利益を得ることが可能です。会計事務所の売却価格は、市場の需要や会計事務所の地理的位置、特有のクライアント基盤の強さ、サービスの質など、多様な要因により算出されます。
まとまった売却利益が得られれば、その資金を元手に新規事業をスタートさせることも可能です。また、M&Aを機にリタイアして引退後の人生を満喫するのもよいでしょう。M&Aによる売却利益があることで、売却側にさまざまな選択肢が生まれるのは魅力といえます。
買い手側の4つのメリット
会計事務所をM&Aした際、買い手側の主なメリットは以下の4つです。
- 税務関係の有資格者を獲得できる
- 会計事務所の規模拡大スピードを早められる
- 売り手の既存顧客を引き継げる
- 新エリアで効率良く事業を展開できる
それぞれ詳しく解説します。
税務関係の有資格者を獲得できる
会計事務所のM&Aを実施することにより、税理士など有資格者を獲得できる可能性があります。
税理士や公認会計士などの資格保有者は、数が限られています。人材の増加が緩やかな状況で税理士資格保持者を自社採用することは、簡単ではないでしょう。
貴重な有資格者の獲得は、買い手側の会計事務所にとって大きなメリットです。
会計事務所の規模拡大スピードを早められる
会計事務所の規模拡大を加速させたい場合にも、M&Aは有効です。
会計事務所の規模拡大を目指すには、従業員の増員も必要です。その一方で、税理士や公認会計士などの難関資格を保有する人材は限られており、思うように規模拡大を早められないことも想定されます。
M&Aを通じて有資格者を採用できれば、メンバーの増員とともに事業規模の拡大スピードを早めることが期待できます。
売り手の既存顧客を引き継げる
M&Aの実施により、売り手が抱えていた既存顧客を引き継ぐことができます。
会計事務所に限らず、事業拡大のためには新規顧客の獲得が必要です。しかし、会計事務所の場合、顧客は長年の信頼関係を築いた事務所に税務関係を任せていることから、新規顧客の獲得は容易ではありません。
M&Aの実施により、売り手の顧客を引き継ぐことで顧問先が広がり、収益の拡大につながります。また、顧問先が増えることで、今後新たな顧客をご紹介いただける可能性もあります。
新エリアで効率よく事業を展開できる
M&Aの実施により、新たなエリアで事業をスムーズに展開できます。
会計事務所の規模を拡大するには、別の都道府県など未進出エリアでの事業展開が必要です。
とはいえ、未進出エリアで活動する有資格者が豊富にいるとは限らず、すでに地域に根ざし力のある会計事務所があれば、新規参入は難しいかもしれません。
その点、未進出エリアで事業展開する会計事務所とM&Aを実施すれば、新たなエリアでの事業展開を効率的に進められます。ゼロから新規顧客を集客するコストも削減できるため、新しいエリアでの事業展開を計画している会計事務所はM&Aが有効手段になり得ます。
会計事務所のM&A売却価格とできるだけ高く売却する方法
会計事務所のM&Aでは、可能な限り高値での売却が理想的です。高値で売却するためには相場を把握し、戦略を熟知しておくことが重要です。
会計事務所の売却価格相場
会計事務所の売却相場は、企業規模や従業員数、財務状況など幅広い観点で決まるため、一概には言えません。目安として、事務所の年間顧問報酬の額を売却価格の目安として参考にすることが一般的です。
事業会社のM&Aの際はインカムアプローチやマーケットアプローチなどを用いて売却価格を求めることが多いです。しかし、これらの方法が会計事務所のM&Aにおいて使われるケースはあまり見受けられません。
顧問報酬は、税理士や公認会計士など専門性の高い人材を抱える事務所が、業務委託契約を結んだ際に発生する報酬です。多くの場合は年間の顧問報酬額や直近2〜3年の営業利益などを基に算出され、目安ではありますが取引価格は2,000万円から5,000万円ほどが想定され、相応の売却利益を期待できます。
できるだけ高く売却するには
会計事務所をできるだけ高く売却するために、以下のポイントを押さえておきましょう。
- 年間売上高の向上により企業価値を高める
- 優秀なスタッフの在籍を強調する
- 優良顧客の多さを強調する
- 可能な限り早期にM&A準備を開始する
それぞれ詳しく解説します。
年間売上高の向上により企業価値を高める
売却価格を高めるには、何よりも「自社の企業価値の高さ」のアピールが欠かせません。というのも、1年間の顧問報酬額もしくは2〜3年分の営業利益が売却価格の相場とお伝えした通り、売上が売却額に直接関わることが分かります。
つまり、売上高が高いということは、それだけ営業利益が高い可能性が高いため、売却額も高くなる可能性が高いと言えます。
優秀なスタッフの在籍を強調する
M&Aの際にはスタッフの優秀さもアピールしましょう。ここまでに触れた通り、税理士や公認会計士などの資格を保有している人数は限られています。資格保持者を採用できなければ、規模拡大は叶いません。
優秀なスタッフが在籍しているほど、買い手に「専門資格を持つ優秀なスタッフが多く在籍している」とアピールでき、大きな強みとなります。
優良顧客の多さを強調する
売却の際は、優良顧客の存在をしっかりと伝えましょう。
会計事務所を新規で開業する場合、顧客をゼロから開拓する必要があります。しかし、多くの事業者は長年同じ税理士に依頼していることが多く、会計事務所を開業する場合のハードルは低くありません。
M&Aでは、売り手の既存顧客を引き継ぐため、売却価格を決める際のアピールポイントになります。特に高利益をもたらす大口顧客の存在は、売却価格をアップする良い材料です。
可能な限り早期にM&A準備を開始する
高値で売却するためには、M&Aのスピード感も大切な要素です。
M&Aの成功には、優秀なスタッフや優良顧客の存在がアピールポイントになります。しかし、時間の経過によりスタッフや顧客が離れれば、会計事務所としての価値も低下します。
また、経営者の高齢化や引退、急病などの要因から、急ぎで売却をしなければならない場合もあるでしょう。その場合、M&Aの実施までに時間を十分に確保できず、交渉の準備が疎かになり、相場より安く見積もられる可能性があります。
M&Aを検討されている会計事務所は、最適なタイミングで十分な時間を確保して売却できるように意識しましょう。
会計事務所がM&Aを行うリスクや注意点
会計事務所がM&Aを行うリスクや注意点としては、以下の4点が挙げられます。
- 他業種と比べてM&Aのスキームが限られる
- 既存顧客との契約が打ち切られるケースがある
- 雇用している有資格者が流出する可能性がある
- 情報漏洩に気をつける
それぞれ詳しく解説します。
他業種と比べてM&Aのスキームが限られる
多くの会計事務所は「個人事業」として運営されており、税理士法人としての法人格を持つケースは少ないです。そのため、法人格がない場合は、出資持分譲渡を用いたM&Aを実施することはできません。この点を踏まえ、主に営業譲渡を通じたM&Aが行われます。
営業譲渡は、売り手側の会計事務所の事業用資産から買収する対象を選んで売買する手法です。買い手は個人税理士と税理士法人の両方が想定されます。個別承継とも呼ばれており、双方の同意があれば、「売り手は売りたいものだけ」「買い手は買いたいものだけ」を選べます。
既存顧客との契約が打ち切られるケースがある
M&Aの実施により、既存顧客からの契約を打ち切られるリスクも考慮する必要があります。
会計事務所と契約している顧客は特定の税理士に信頼を寄せている場合も多く、M&Aによって担当が変わる場合、契約を解消されることが想定されます。
顧客から信頼を得ている税理士が事務所を離れた場合、大きな売上ダウンになりかねません。買収側は、既存顧客による売上も考慮して買収金額を設定しており、顧客が離れる事態は避けたいところです。
M&Aを実施する前に顧客に事前説明のうえ、担当が変わらないよう配慮するなどの対応を行い、契約の打ち切りを回避しましょう。
雇用している有資格者が流出する可能性がある
M&Aによって、有資格者などの従業員が退職する可能性もあります。
M&Aでは異なる事業者が統合されるため、社風の不一致や信頼していた上司や同僚が離れることを理由に、従業員が辞めるケースもゼロではありません。従業員の雇用条件の変化も同様です。
専門資格保持者を採用するのは簡単ではないため、買い手としても既存の従業員には引き続き働いてほしいところです。M&A前には従業員の雇用契約や社風についての話し合いやすり合わせを行ない、買収後に認識のズレが発生しないように留意しましょう。
情報漏洩に気をつける
M&Aの際は情報漏洩にも気を配りましょう。
万が一、M&Aの情報が事前に漏れてしまえば断片的な情報が広がるリスクがあります。個人事業の場合、情報の漏洩は特にデリケートな問題です。
断片的な情報だけで従業員や取引先に不安が広がれば、買収前に従業員が退職したり、顧客との取引が失われたりするなどの事態になりかねません。最悪の場合、M&Aの話が白紙に戻ることもあるでしょう。
社内外の混乱を避けるためにも、M&Aを実施する際には情報漏洩が起きないように対策します。具体的な対策としては、関係者間で秘密保持契約(NDA)を結ぶことが有効手段です。M&Aに関する情報が内部から外部に漏れ出るのを法的に防げます。
また、M&Aに関連する重要情報へのアクセスを限定するなど、内部での情報管理も欠かせません。
M&Aを成功させるポイント
M&Aを成功させるために、以下のポイントを意識しましょう。
- 売却価格の相場感を把握しておく
- 適切なアドバイザーを選ぶ
- 事前にお互いの企業について綿密に調査しておく
それぞれのポイントについて詳しく解説します。
売却価格の相場観を把握しておく
M&Aを実施する際は、事前に売却価格の相場感を把握しておくことが重要です。相手と条件をすり合わせる際に適切な金額で交渉できます。
適切なアドバイザーを選ぶ
M&Aは、基本的に2社間の合意があれば成立できます。しかし、実際は金額交渉や契約書締結のように専門知識が必要な場面も多く、M&A未経験者同士ではうまく話がまとまらないケースもあるでしょう。M&Aの際にはアドバイザーの力を借りることも大切です。
事前にお互いの企業について綿密に調査しておく
相手の事業の資産状態や負債、税務状況などについても綿密な調査が必要です。財務情報を正確に把握していないと、予期せぬ負債を承継するという事態が発生する可能性があります。
交渉を円滑に進め、想定外の問題を避けるためには、専門家で構成されるアドバイザリー企業に相談することをおすすめします。
会計事務所のM&A・事業承継の流れ
会計事務所のM&A・事業承継の主なプロセスは以下のとおりです。
- 準備・仲介会社に相談
- 売却先選定
- 交渉
- 基本合意書締結
- デューデリジェンス
- 価格交渉
- 契約
- 代金支払い・クロージング
それぞれについて、詳しく解説します。
1.準備・仲介会社に相談
まずは、M&Aの仲介会社に相談して準備を進めます。M&Aは2社間でも実施できますが、金額交渉や契約締結など専門的な工程が多いため、専門家のサポートが欠かせません。
専門家にはM&Aアドバイザリー会社や証券会社、銀行、法律事務所などが含まれます。選定した業者と仲介業務契約を結び、M&Aの成立に向けた取り組みをスタートしましょう。
2.売却先選定
仲介業者が決まったら、売却先の選定を始めましょう。売却先を決める際には、ご自身の目的などを踏まえて、条件に合致する相手を見つけることが大切です。
リストアップは仲介業者と共に進めていくと良いでしょう。仲介業者に希望売却価格や相手の規模感などを伝えることにより、希望に沿った売却先候補をピックアップしてもらえます。
3.交渉
売却先が決まったら具体的な交渉に入ります。交渉では資産、負債、税務状況など、自社の詳細な情報を開示し、お互いの希望をすり合わせることが重要です。
交渉段階で開示情報に抜け漏れがあると、M&A後にトラブルの原因となりかねません。相手に不信感を抱かせることになるため、自社の情報を細かく提示して相手に判断材料を提供しましょう。
また、M&Aでは金額面や財務状況のほか、経営陣との理念や今後の事業展開に関する考え方のすり合わせが重要です。仮に金額面が好条件だとしても、経営理念や今後の事業構想にズレが生じると、長期的に見て一緒にビジネスを進められない可能性があります。
M&A後は同じ組織として働くことになるため、経営理念や事業展開など方向性を確認しながら、お互いが納得できるように進めることが重要です。
4.基本合意書締結
交渉内容がまとまったら、基本合意書を締結しましょう。基本合意書とは、M&Aにあたって買い手・売り手の双方が基本条件に合意したことを示す書類のことです。
書面には、主に以下の内容を提示します。
- 買収対象
- M&Aのスキーム
- 買収価格
- M&Aのスケジュール
- デューデリジェンス実施に関する事項
- 独占交渉権と違約金
- 秘密保持義務
- 善管注意義務
- クロージングを行うための前提条件など
基本合意書の締結により、お互いに金額や条件面での認識のズレをなくし、円滑に契約できる状態を作り出せます。ただし、基本合意書自体には法的拘束力がない点は留意しておきましょう。
5.デューデリジェンス
基本合意書の締結後は、買い手企業によるデューデリジェンスが実施されます。デューデリジェンスとは、買い手が売り手に対して行う企業調査のことです。資産や負債などの財務内容や法的リスク、簿外債務、偶発債務などが存在しないかを調査します。
買い手企業は、デューデリジェンスの実施により資産や負債状況などを正しく把握し「想定より事業のシナジーを得られない」「簿外債務を見逃していた」といったリスク回避を慎重に見極めます。売却価格にも影響を与えるため、デューデリジェンスの実施は欠かせません。
会計事務所が実施するデューデリジェンスでは、従業員の資格取得状況、顧問契約の収益性、およびM&Aによる契約解除リスクなども焦点になります。
6.価格交渉
デューデリジェンスの完了後は、本格的な価格交渉です。ここまでのプロセスで収集した情報を活用し、企業の価値を適正に算出します。その後、売却価格について、買収側と公正なラインで交渉し双方にとって合意できる価格を決定します。
年間顧問報酬の1年分などの計算式で求める売却価格は、あくまでも目安でしかありません。具体的な売却価格は、より細かい状況を考慮に入れて総合的に判断する必要があります。
7.契約
金額面での合意後は、最終契約を締結します。最終契約書は、双方がM&Aを実施する意思を明確に示した書類であり、基本合意書と異なり法的拘束力を持ちます。仮に、合意締結後に解約された場合は、解約側に損害賠償請求が可能です。
最終契約書には、主に以下のような内容を記載します。
- 前文と定義
- M&Aの合意と譲渡対象の価格
- 表明保証
- 誓約事項
- クロージングの前提条件
- 補償条項
- 契約解除の条件
- 一般条項
双方の認識にズレがないかを入念にチェックしましょう。
8.代金支払い・クロージング
最終契約書の締結後、買い手から売り手に代金が支払われます。代金の支払い完了後、M&Aが成立します。
会計事務所のM&Aの現状と動向
会計事務所のM&Aは、どのような動きを見せているのでしょうか?最後に、M&Aの現状や今後の動向をチェックしましょう。
現在、日本では会計事務所に限らず中小企業のM&Aが数多く成立しています中小企業庁「中小企業白書 第2節M&Aを通じた経営資源の有効活用」によると、2016年からの5年間で中小企業のM&A件数は以下のように推移しました。
年数 | 中小企業の件数 |
2016年 | 2,652件 |
2017年 | 3,050件 |
2018年 | 3,850件 |
2019年 | 4,088件 |
2020年 | 3,730件 |
新型コロナウイルス感染症の影響から2020年は若干減少しましたが、基本的には増加傾向にあります。
また、日本税理士会連合会「データで見る税理士のリアル。」によると、2015年時点で税理士の年齢層分布は以下のようになりました。
年代 | 年齢層分布 |
20歳代 | 0.6% |
30歳代 | 10.3% |
40歳代 | 17.1% |
50歳代 | 17.8% |
60歳代 | 30.1% |
70歳代 | 13.3% |
80歳代 | 10.4% |
少子高齢化が進行する日本では、比例して税理士の年齢層が高まっていると考えられます。今後、年齢層が高くなるにつれて「後継者に事業を譲りたい」と考える税理士が増えることも想定できます。
その一方で会計事務所の後継者を見つけるハードルは高く、有資格者であり経営スキルをあわせ持つ人物を見つけることは簡単ではないでしょう。
後継者問題に対応する手段としても、M&Aは検討に値します。M&Aは外部人材から経営者候補を探せるため、後継者を見つけられる可能性が高まります。税理士の年齢層が高い現状を考えると、今後も優秀な人材を確保するためのM&Aの活用が加速するのではないでしょうか。
参照元:
中小企業庁「中小企業白書 」
日本税理士会連合会「データで見る税理士のリアル。」
まとめ
会計事務所がM&Aを検討する背景には、経営者の高齢化や後継者不足といった業界全体の課題が存在します。
その点、M&Aにより新たな人材の採用、顧客獲得や事業拡大などのチャンスを得ることも期待できます。M&Aが成功すれば、会計事務所は強固な経営基盤を築き、変化する市場環境にも対応可能です。
後継者問題の解消や売却利益の獲得など多くのメリットをもたらすM&Aの成功には、適切な準備と戦略が欠かせません。
M&AならレバレジーズM&Aアドバイザリーにご相談を
レバレジーズM&Aアドバイザリー株式会社は、会計事務所のM&Aをはじめ、M&A全般をサポートする仲介会社です。各領域の専門コンサルタントが御社の状況や希望条件を丁寧にヒアリングし、スキーム策定や交渉、契約書作成など、M&Aのあらゆるプロセスをご支援いたします。
料金体系はM&Aご成約時に料金が発生する完全成功報酬型です。M&Aのご成約まで、無料で利用できます(譲受会社のみ中間金あり)。ご相談も無料です。M&Aをご検討の際には、ぜひお気軽にご連絡ください。