ドラッグストアのM&A動向・メリット・譲渡・売却事例を解説
2024年6月6日
このページのまとめ
- 医薬品販売規制緩和などによりドラッグストアは食品や日用品を扱うようになった
- 薬剤師は増えているが人材不足傾向にある
- ドラッグストア業界は大手を中心にM&Aが活発
- ドラッグストア業界の課題は「薬剤師の確保」「小売業者との差別化」「サービスの拡充」など
- ドラッグストアのM&Aのメリットは「人材確保」「新規領域への参入」「後継ぎ問題解決」など
- ドラッグストアのM&Aのデメリットは「人材流出リスク」「負債引継ぎリスク」「ブランド毀損」など
「ドラッグストアのM&Aを検討していて動向や将来性を知りたい」と考えている経営者の方も多いのではないでしょうか。ドラッグストア業界では大手を中心にM&Aが活発です。本コラムではドラッグストア業界の現状や今後の課題、M&A動向や事例、またM&Aをするメリットやデメリットを譲渡側と譲受側の両方の視点で解説していきます。ドラッグストアのM&Aを成功させるためのポイントについても紹介しますので参考にしてください。
目次
ドラッグストア業界の特徴と業界構造
ドラッグストアのM&Aを成功させるには、業界の内部事情を把握しておくことが重要です。そこでまずドラッグストア業界の特徴や現状、業界構造について解説します。
ドラッグストア業界とは
ドラッグストアとは、医薬品や化粧品を中心に日用雑貨や(日用家庭品、文房具、フィルム)食品(生鮮食品を除く)も取り扱う小売店舗を指します。もともとは医薬品を中心に扱う店舗として知られていましたが、最近は薬以外の食品や生活用品も幅広く取り扱っているところが増えています。
ドラッグストア業界の沿革と変遷
従来医薬品は、特定の店舗でしか販売が許可されていませんでした。
なぜなら、医薬品を販売するには薬種商販売業や一般販売業としての許可が必要であったため、販売できる店舗が限られていたからです。
しかし「薬事法の一部を改正する法律(2006年6月14日公布)」と「薬事法の一部を改正する法律の施行期日を定める政令(2009年6月1日施行)」により、一般用医薬品の販売規制緩和がされました。具体的な規制緩和の影響としては、一部の医薬品がコンビニでも販売されるなどがあります。
また、一般用医薬品が安全面のリスクから第一類、第二類、第三類に分類されたのもこの時期です。2014年6月の改正により、医薬品の販売規制が更に緩和され、第一類医薬品および第二類医薬品の一般用医薬品のすべてが一定の条件のもとインターネット販売可能となりました。
また、2017年1月から医療費控除の特例として『セルフメディケーション税制(特定の医薬品購入額の所得控除制度)』がスタートしました。
セルフメディケーション税制(特定の医薬品購入額の所得控除制度)とは、スイッチOTC医薬品(要指導医薬品、一般用医薬品のうち、ドラッグストアで一般に販売できるよう転用された医薬品)を購入した際に税制上の優遇を受けられる制度のことを指します。
セルフメディケーション税制対象商品の年間購入額が、1万2000円を越えた場合に一定の条件のもと利用できます。
参照元:
厚生労働省「一般用医薬品のインターネット販売について」
厚生労働省「健康・医療セルフメディケーション税制(特定の医薬品購入額の所得控除制度)について」
経済産業省「商業動態統計(METI/経済産業省)」
ドラッグストア業界の特徴
こうした規制緩和に伴い、昨今のドラッグストア業界では従来の医薬品販売のみで経営を維持することが困難になってきています。近年では、食品など医薬品以外の商品を幅広く取り扱っている店舗も少なくありません。
経済産業省の商業動態統計によると、2022年のドラッグストア商品販売総額は7兆7086億円となっています。市場は2000年度の約2兆6630億円から20年で約3倍に成長していますが、注目すべきはその内訳です。食品が2兆3921億円と、ドラッグストア商品販売総額の約3割を占めています。
参照元:経済産業省「商業動態統計(METI/経済産業省)」
ドラッグストア業界における今後の課題
ドラッグストア業界における今後の課題を3つ紹介します。
- 薬剤師不足の解消
- 他業種の小売業者との差別化
- サービスの充実
薬剤師不足の解消
ドラッグストア業界の課題の中で特に解決すべきは、薬剤師の数です。厳密には、薬剤師の数は増えているのですが、ドラッグストアの増加件数に対して薬剤師の数が追いついていないことが大きな問題となっています。
他の小売業との差別化
他の小売業との差別化も必要です。医薬品販売規制緩和の動きを受けて、インターネット通販やコンビニエンスストアなどでの医薬品の販売が増えてきました。
さらに、高齢化や食に対する健康ニーズの高まりに伴い、スーパーでの健康食品の取り扱いも増えています。今や競合は同業だけではなく、他業種の小売業者も含まれるため、差別化を図ることがますます重要となっています。
サービスの拡充
サービスの拡充も重要な課題です。
昨今、政府はセルフメディケーションを推進する指針を打ち出しています。セルフメディケーションとは「自分自身の健康に責任を持ち、軽度な身体の不調は自分で手当てすること」と定義されています(日本薬剤師会HPより)。
セルフメディケーションが推進されているのには以下のような背景があります。
- 単に医薬品を販売するだけでなく、消費者の生活を支える拠点として認知されつつある
- 少子高齢化や市場構造の変化により、多くの課題が発生している
前出のセルフメディケーション税制の導入も、セルフメディケーション推進の一環として実施されたものです。
ドラッグストア業界にも、セルフメディケーション推進に向けた役割が求められています。経済産業省の資料によると、今後ドラッグストアには次のような役割が求められます。
- 健康増進・予防(医療機関からの指示を受けて運動・食事指導を行うサービス、簡易な検査を行うサービスなど)
- 生活支援(医療と連携した配食サービスを提供する仕組みづくり等( 予防・健康的な生活に向けた支援(運動や健康体操の推進))
- 社会インフラ、コミュニティ構築 (在宅介護および介護保険情報提供)
セルフメディケーション推進に資するものを中心にサービスを拡充していくことが大切です。
参考:経済産業省「ドラッグストア業界の現状及び 業界を巡る環境の変化について」(p.7~9など)
ドラッグストア業界のM&A動向
大手による事例を中心にドラッグストア業界のM&Aが活発に行われています。M&Aを成功させるには、ドラッグストアの業界研究をすることが大切です。
そこで次に、近年のドラッグストア業界のM&A動向を見ていきましょう。
大手が中小規模のドラッグストアを続々と傘下に
大手が中小規模のドラッグストアを傘下に入れるM&A事例が相次いでいます。
2022年9月1日、ドラッグストアチェーン「サンドラッグ」を展開する株式会社サンドラッグが四国でドラッグストアを運営する株式会社大屋の全株式を取得、子会社化しています。
また2019年2月1日ドラッグストア大手の株式会社ココカラファインは、新宿に店舗を持つ株式会社小石川薬局を子会社化しています。2022年1月18日ウエルシアホールディングス株式会社は、株式会社コクミンと株式会社フレンチの株式を取得し、資本業務提携を結びました。
株式会社コクミンは関西を地盤とするドラッグストアで、ウエルシアホールディングスの販売網が手薄な北海道や九州などの地域に店舗を持っていることが、買収の決め手になったとされています。
2021年10月には当時業界6位のマツモトキヨシホールディングスと7位のココカラファインが経営統合したことで、マツキヨココカラ&カンパニーが誕生しました。
マツモトキヨシホールディングスとココカラファインのM&Aは当時大きな話題となり、多くのメディアで報じられましたので、ご存知の方も多いしょう。
また、ウエルシアホールディングス株式会社は、株式会社ププレひまわりと資本業務提携を結び、子会社化しています。
PB商品開発に注力するためのM&Aも増加傾向
PB商品開発に注力するためのM&Aも増加傾向にあります。ドラッグストア業界では、食品や日用品を格安で販売して集客し、医薬品や化粧品で収益を上げるビジネスモデルが長らく続いていました。
しかし2009年6月の薬事法改正による医薬品販売規制が緩和されたことで、医師の処方箋を必要としない一般用医薬品が通販やコンビニなどでも販売され、従来のビジネスモデルで収益を上げるのは難しくなりました。そこで、近年では収益率の高いプライベートブランドを扱うドラッグストアが増加しています。
また、ドラッグストアのM&A動向として、大手流通企業やチェーンとM&Aを進め、収益率の高いプライベートブランド商品を取り扱うことで、さらなる収益の向上や事業エリアの拡大を狙う動きも増加しています。
EC事業強化を目的とした異業種のM&Aも増える見通し
2023年1月から電子処方箋の運用が開始されました。これにより、複数の医療機関や薬局で直近に処方・調剤情報の参照や重複投与のチェックなどが可能となっています。
現在、政府は電子処方箋の全国的な普及を目指して、さまざまな取り組みを進めています。この動きに対応する形で、ドラッグストアも適応しなくてはいけません。既に、電子処方箋の運用開始を受けて、多くの企業がECサイトやオンラインでの服薬指導の体制整備を進めています。
今後、EC事業を強化する目的での異業種のM&Aも増えると予想されます。
5.今後は健康関連のビジネスも展開
ドラッグストア業界は、商品販売のみでは頭打ちになりつつあるのが現状です。そこで、健康相談や測定サポートなどの関連ビジネスに力を入れる企業も現れています。
その一つが株式会社ココカラファインです。ココカラファインは「健康サポート薬局」と称して、以下のようなサービスを提供する店舗を展開しています。
- 市販薬や衛生用品などの選び方サポート
- 生活習慣病に関連する数値を測定するための検体測定室を設置
- 定期的に健康情報の発信
今後、商品販売以外の関連ビジネスを展開する企業が増えると思われます。
ドラッグストア業界におけるM&Aの今後を予測
ドラッグストア業界では、人材確保だけでなくコンビニエンスストアやスーパーとの差別化の必要性が高まっています。これらの課題に対処するため、ドラッグストア業界ではM&Aが積極的に行われています。
これからドラッグストア業界のM&Aはどんな方向に向かうのか、今後を予測について解説します。
今後しばらく大手によるM&Aが続く
当面、大手ドラッグストアによる買収を中心にM&Aが続くでしょう。近年、医療費の透明性確保や患者負担額の軽減などを目的に調剤報酬が段階的に下げられています。減収分を補える体制が構築できていない中小の薬局は、どうしても収益が減ってしまう傾向にあります。
一方、大手薬局は、調剤報酬が下がるなかでも企業経営をより効率的に行うためのノウハウや仕組みを備えていることが多く、M&Aに有利なのです。
そのため大手による市場シェア拡大がどんどん進んでいます。今後も大手ドラッグストアによるM&Aが続いていくでしょう。
機を逃すとM&Aが難しくなる可能性も
大手による寡占化が進むと、M&Aが困難になる可能性があります。そもそも、M&Aは主に以下のような目的で実行されます。
- シナジー効果の獲得
- 事業継承
- 経営拡大
- 市場やビジネス環境の変化への対応
- 新規市場参入など
自社に不足している技術や人材、事業をM&Aにより補完し、重複する部分は効率化して成長を目指します。事業を成長させるためには、日々変化する顧客ニーズ、市場動向、技術進歩に対応することが欠かせません。
しかし、自社のリソースだけでは、これらの変化に対応するのが難しいこともあります。そこで、市場の変化へ迅速に対応できる企業とM&Aを行うわけです。
ところが、大手企業が業界を寡占すると、市場が狭まります。その結果、残された企業間でM&Aの相手先を見つけるのが難しくなる可能性が高まります。
ドラックストア業界でM&Aが活発に行われる理由
ドラッグストアのM&Aが活発な理由について解説します。
1.人材不足の解消
M&Aが活発な理由として、深刻な人材不足が挙げられます。薬剤師の数自体は増え続けていますが、ドラッグストアの薬剤師が足りていません。
その背景には以下のような要因が考えられます。
- ドラッグストアの増加
- 潜在薬剤師の多さ
ドラッグストアの店舗が増加しています。そのため、薬剤師の数が増えても、ドラッグストアの増加に追いつかない状態です。
また、薬剤師免許を取得していながら、実際に薬剤師として勤務していない「潜在薬剤師」の多さも、ドラッグストア業界の薬剤師不足の一因と考えられます。多くの薬剤師は女性で、結婚や出産で現場から離れているケースが少なくありません。
また、令和4年に厚生労働省より発出された「令和2(2020)年 医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」によると令和2年12月31日現在の薬剤師総数は321,982人です。
人口10万人あたりの薬剤師数の都道府県の平均は255.2人ですが、都道府県によって大きな開きがあります。
例えば、東京の人口10万人あたりの薬剤師数は376.2人、 大阪は 308.97人ですが島根は212.9人、福井は 194.2人と地方と都心では倍近い差があります。そのため、特に地方では人手不足が顕著です。
参照元:厚生労働省「医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」(p.43)
2.中小規模店舗の経営難と後継者不足の解消
中小規模店舗のドラッグストア店舗は経営難と後継者不足に直面しています。
しかし、中小規模のドラッグストアは、大手ドラックストアに譲渡需要が高いこともあり、今後は廃業よりもM&Aという選択で第三者に引き継ぐ経営者が増加することが予想されます。
また、ドラッグストア業界全体としては、消費者のニーズの多様化や競争の激化の影響を受けて、以下のような業態の変化が求められています。
- オンライン販売の拡大
- プライベートブランドの強化
- ヘルスケアサービスの提供
しかしながら、資金力を持たない中小規模店舗にとっては、これらの変化への対応が困難です。
経営難に陥っている中小規模店舗も少なくありませんが、大手企業とのM&Aを通じて経営の安定を図ることができます。さらに、ドラッグストア業界は人材不足に悩んでおり、特に中小規模の店舗でその傾向が顕著です。
3.安定経営の獲得
中小のドラッグストアが安定経営を目指し、大手に事業を売却するケースが少なくありません。
中小零細企業は、経営が傾きやすい傾向にあります。その理由として、競争力の低さや資金調達手段も限られていることが挙げられ、事業環境の変化に対応しづらいからです。
大手ドラッグストアチェーンの傘下に入ることで、中小規模のドラッグストアが事業再生を目指すケースも増えています。
今後、ドラッグストア業界で経営を安定化させるためには、差別化が必要です。具体的な例を3つ紹介します。
- 新規領域への進出
- 新規サービスの導入
- 多様な顧客層への訴求
上記の差別化は、資金力の低い中小零細企業にとって、簡単ではありません。M&Aを通じて大手の傘下に入ることで、経営基盤を強化し、業績回復の可能性を高められます。
4.売却益の取得
ドラッグストア業界に限らず、売却益の獲得がM&Aの目的となることが多いです。
引退後の資金を確保する目的で売却益を獲得する事例も少なくありません。最近では「アーリーリタイアメント」と呼ばれる早期に引退する選択肢をとる経営者も増えています。
5.薬事法改定による医薬品販売規制の緩和
薬事法の改正による医薬品販売規制緩和で、コンビニエンスストアやインターネットでも医薬品の販売が可能となりました。そのため、医薬品だけでなく家庭用品や食品など健康全般に関する商品やサービスがドラッグストアに求められるようになったわけです。
今やドラッグストアは、スーパーやコンビニエンスストアとも競争しなければなりません。
こうした業界構図の変化による競争激化は、ドラッグストア業界のM&Aが増加した大きな要因と言えるでしょう。
ドラックストア業界でM&Aを行うメリット・デメリット
続いて、ドラックストア業界でM&Aを行うメリット・デメリットについて見ていきましょう。
譲渡企業(売り手)のメリット・デメリット
まずは、譲渡企業(売り手)のメリット・デメリットについて紹介します。
メリット
譲渡企業(売り手)のメリットには、例えば以下のようなものがあります。
- 後継者不足の解決
- 従業員の雇用維持
- 創業者利益の獲得
- 事業拡大の可能性
- 事業・企業再生を目指せる
ドラッグストアは後継者問題を抱えているケースが多いです。ただでさえ人材不足の状況にあるドラッグストアは、人材の確保が簡単ではありません。
特に中小の店舗の場合、収益を伸ばすことが困難です。
そのため、後継者になりたいと考える子どもや親族は減っています。
後継者が見つからず廃業すると、従業員の再雇用の負担も増えます。
M&Aで大手企業に法人譲渡や事業継承を持ち掛ければ、後継者問題も解決でき、従業員の雇用も守れて、シナジー効果を得るはずです。
事業拡大が加速し店舗や取り扱う医薬品が増えれば、大量に仕入れることによってコストの削減もできるでしょう。
特に多角化経営を行っている企業は、譲受企業との相乗効果がうまく発揮されれば、効率的に利益をあげることもできるでしょう。
譲受企業の有するノウハウや顧客・販売チャネルも得られるため、売上増加も見込めます。
また経営難の状況にあっても、譲受企業の傘下で事業再生を図ることが可能です。
デメリット
ドラッグストアのM&Aにおける譲渡企業(売り手)のデメリットには、例えば次のようなものがあります。
- 譲受企業(買い手)が見つかるとは限らない
- 経営統合の失敗リスク
- 従業員・薬剤師の離職リスク
- 顧客・取引先からの反対
- 風評被害のリスク
まず、譲受企業(買い手)が見つからない場合もあります。いくらM&Aを検討しても、買収してくれる企業がいなければM&Aは実現しません。
仮に条件を満たす譲受企業(買い手)が見つかっても、必ずしも良好な相互作用が得られるとは限りません。経営統合がうまく進まない場合、企業価値が低下し、業績へ影響してしまいます。
さらに、M&Aにより企業方針や待遇などの条件が変わることで、従業員や薬剤師が離職してしまうリスクも増大します。特に薬剤師の離職は売却金額に大きな影響を及ぼすでしょう。
核となる従業員や薬剤師へは、M&Aの交渉をする前に説明し、不安を払拭することが重要です。
経営方針が変われば顧客・取引先からの反対される可能性があります。そのため、M&Aのメリットを説明し、取引先から理解を得ることが大切です。
譲受企業(買い手)のメリット・デメリット
続いて、譲受企業(買い手)のメリット・デメリットについて見ていきましょう。
メリット
譲受企業(買い手)のメリットには、以下のようなものが挙げられます。
- シナジー効果(規模経済)を享受できる
- ブランドや信用力などを吸収できる
- 立ち上げリスクの低減
- 事業の効率化
- 薬剤師不足の解消
M&Aを実行することで、譲受企業(買い手)は譲渡企業(売り手)の調剤薬局が持つ経営や業務上のノウハウを取得できます。
事業拡大を加速し、売上増加が期待できます。また、シナジー効果を得ることで、ブランド力の強化や新規販路の開拓も可能です。
地域での知名度が向上すると、薬剤師をはじめとする人材の確保も容易となります。
さらに、シナジー効果により時間やコストの削減が可能となり、自社にない技術をM&Aで取り入れることで、設備の導入コストも抑えられます。
これが、事業の効率化をもたらすのです。
特に、深刻な薬剤師不足の状況にあるドラッグストア業界のM&Aでは、薬剤師を獲得できる点が譲受企業(買い手)の大きなメリットとなります。
デメリット
譲受企業(買い手)のデメリットには、以下のようなものがあります。
- ブランドイメージの混乱
- 経営統合が失敗する可能性
- 譲渡企業(売り手)のリスクを引き継ぐ恐れ
ドラッグストアは顧客のニーズや地域の特性に応じて、さまざまなブランドイメージを持っています。
異なるブランドがM&Aで一つに結合されると、顧客の認知や信頼が低下するだけでなく、ブランドの統一や変更に多くのコストや時間がかかります。
また異なる組織文化や価値観を持つ企業がM&Aで合併する際、従業員のモチベーションや不満にも注意が必要です。
さらに、異なる経営戦略が統合されることにより、混乱も発生するでしょう。
売り手側が抱えているリスクとして、例えば偶発債務や簿外債務の引き継ぎリスクも存在します。
簿外債務とは、未払残業代や賞与引当金といった帳簿外の債務を指すことです。
負債が大きいと、契約締結後にM&Aを後悔するリスクが高まります。
2016年、中国大手精密機器メーカーの鴻海がシャープの買収を試みた際、偶発債務リストの確認に伴い交渉期限を延長しています。結果的に契約は成立していますが、偶発債務等の確認には譲受企業側も慎重になることがほとんどです。
この事例は、最終的にM&A締結に至りましたが、財務調査不足による失敗のケースは珍しくありません。
残業代や給与の未払いの訴訟などのリスクも引き継がれます。そのため、偶発債務や簿外債務の有無を確認する「デューデリジェンス」が大切です。
尽力調査とは、買収対象会社の契約書や訴訟記録を精査し、偶発債務や簿外債務の存在や内容を把握することです。
これにより、M&Aのリスクを低減することが期待できます。
ドラックストア業界の過去M&A事例
続いて、ドラックストア業界の過去M&A事例を紹介します。
ウエルシアHDによるふく薬品の子会社化
2022年7月22日、ウエルシアホールディングス株式会社は、沖縄県を地盤とするドラッグストアの株式会社ふく薬品の株式52.58%を12月1日付で取得し子会社化することを発表しました。ふく薬品は沖縄県を中心に医薬品や化粧品、医療器具などの仕入れ販売事業を展開する会社で、調剤薬局も有しています。
ウエルシアホールディングスは、自社ノウハウや人材等の経営資源と培ってきた信用力のシナジー効果で、経営規模の拡大と経営体質の強化を狙ったとのことです。
参照元:
日本経済新聞「ウエルシアHD、ふく薬品の株式取得(子会社化)について発表」
ココカラファインによる有限会社タツオカのM&A
2017年10月11日、株式会社ココカラファインの連結子会社であるココカラファインヘルスケアは、有限会社タツオカから調剤薬局2店舗を事業譲渡契約しました。事業譲受の目的は、エリアにおけるドミナント強化により、地域のヘルスケアネットワークの構築を推進することです。
株式会社ココカラファインは大手の薬局として知られていますが、実は地域に根差した「健康サポート薬局」作りに重点を置いています。そして経営理念である「人々のココロとカラダの健康を追求し、地域社会に貢献する」を実現するためにM&Aを積極的に行っており、本M&Aもその一環とのことです。
参照元:
日本経済新聞「ココカラファイン、タツオカより調剤薬局2店舗を譲受」
アインホールディングスによる土屋薬品のM&A
2019年3月28日、株式会社アインホールディングスは、長野県長野市に本社を置く株式会社土屋薬品とM&A(株式譲渡)を実行しました。アインホールディングスが土屋薬品を子会社化した形です。土屋薬品株式会社は、長野県に調剤薬局36店舗を展開する企業で、県内でのトップのシェアを持つとされています。患者の立場に立った調剤業務をはじめ、社内研修や勉強会の開催による機能強化、患者サービスと技術向上のための各委員会を運営するなど、積極的な改善活動に向けた取り組みを行っています。
土屋薬品の取り組みや経営方針が、アインホールディングスの事業方針と共通していることから株式取得に至ったとのことです。この買収により、アインホールディングスは調剤薬局事業を拡大することに成功しました。
参照元:
日本経済新聞「アインHD、長野県の薬局を完全子会社に」
マツキヨココカラ&カンパニーのグループ内組織再編
2021年2月26日、株式会社マツキヨココカラ&カンパニーは、グループ内組織再編を決定しました。
株式会社MCC マネジメントを承継会社とし、マツモトキヨシグループの保有する以下の全株式の取得することで合意しています。
- 株式会社エムケイプランニング
- 株式会社マツモトキヨシ保険サービス
- 株式会社マツモトキヨシメディカル
- 株式会社マツモトキヨシアイ・エス・ピー
- 株式会社マツモトキヨシ・ドットコム
営業企画・運営支援機能などをMCCマネジメントに集約することで、グループ全体の経営効率化やシナジー効果を追求する狙いです。
参照元:
日本経済新聞「グループ内組織再編(連結子会社間での吸収合併)に関するお知らせ」
ウエルシアHDとププレひまわり(広島県)の業務提携
2021年7月16日、ウエルシアホールディングス株式会社は、株式会社ププレひまわりとの資本業務提携を目的とした基本合意書を締結しました。ウエルシアホールディングスはププレひまわりを子会社化した形となりました。です。
ププレひまわりは、大型ドラッグストアや化粧品に特化した店舗、食品を多く取りそろえた「フード&ドラッグ」を中心に展開している会社です。クリニックを同敷地内に置く「医療モール」のほか「併設エステサロン」を展開しています。
ウエルシアホールディングスは、ププレひまわりとの資本業務提携を目的とし、基本合意書を締結したと発表しました。この提携により、中国四国地方の店舗網拡大や経営資源の共有による経営規模の拡大が見込まれ、経営体質の強化も期待されます。
参照元:
ウエルシアホールディングス株式会社「グループ会社に関するお知らせ」
日本経済新聞「ウエルシア、広島の中堅ドラッグ買収」
ドラックストア業界でM&Aを成功させるポイント
最後にドラックストア業界でM&Aを成功させるポイントを解説していきます。
人材の確保
ドラッグストア業界は人材不足の状況にあります。ドラッグストア業界でM&Aを成功させるには、人材の確保が重要です。
人材不足を解消するための対策としては、以下のようなものが考えられます。
- 労働環境改善
- 給与アップ
- 未経験者の採用
- 薬学生や潜在薬剤師を対象とした就職・副職説明会
特に、優秀な人材が揃っていれば、M&Aも成功しやすくなるでしょう。
サービスの充実
ドラッグストア業界でM&Aを成功させるには、サービスの充実も重要になります。
競争激化するなかでは、他社との差別化が大切です。
サービスの内容としては差別化のためにも、他社が行っていないものを行うのがベターでしょう。
特に今後、「買い物弱者のためのサービス」のニーズが高まると予想されています。
経済産業省が平成26年11月7日~平成27年1月28日に『セルフメディケーション推進に向けたドラッグストアのあり方に関する研究会』を開催しました。そのなかで「ドラッグストア業界に対するニーズと求められる役割」として「買い物弱者対策などの取組の強化」が掲げられているのです。
買い物弱者とは「人口減少や少子高齢化等を背景とした流通機能や交通網の弱体化等の多様な理由により、日常の買物機会が十分に提供されない状況に置かれている人々(経済産業省資料より)」を指します。
従前、買い物弱者は過疎化の進んだ農村や山間部の問題として認知されていましたが、近年は都市部でも問題として顕在化してきているのです。
都市部では高度成長期に建てられた大規模団地等を中心に増加傾向です。
買い物弱者のためのサービスとしては、例えば次のようなものが考えられます。
- 商品宅配サービス
- 移動販売
- 顧客送迎サービス
従前の店舗まで来てもらう「集客型」から、消費者の需要を積極的に掘り起こしていく「接客型」に移行していくことが必要です。
消費者ニーズを捉えたサービスであれば企業価値も上がり、M&Aが成功しやすくなるでしょう。
参考:経済産業省「ドラッグストア業界の現状及び 業界を巡る環境の変化について」(p.8)
地域性の強みを活かす
ドラッグストア業界でM&Aを成功させるポイントの一つが、地域性の強みを活かすことです。ドラッグストア業界では、特定の地域に大量出店する多店舗展開戦略がよく採用されます。
特定の地域に複数の店舗を出店することで、各店舗の商圏のすき間を埋めることができ、商圏内のシェアを獲得できます。
ドラッグストアを買収する側では、商圏の拡大を目的として地域性の強みを伸ばすことができます。また、ドラッグストアを売却する側としては、特定の地域に対してのシェアを獲得出来ていれば、地域を拡大したい買い手から魅力的に見える可能性が高くなります。
長期的な関係性を築ける相手を選ぶ
将来にわたって良好な関係性を築ける相手を選ぶことも、ドラッグストアのM&Aを成功させるためには重要です。
ドラッグストア業界における事業承継やM&Aは活発ですが、失敗に終わるケースも少なくありません。
市場ニーズの動向や将来性、相手企業のサービスや経営状況などを入念に検討したうえで、長きにわたって付き合えそうな企業とM&Aを実行することが重要です。
M&A仲介専門業者に相談する
M&A仲介専門業者に相談することも、大切なポイントと言えます。実のところ、競争が熾烈化しているドラッグストア業界のM&Aを個人で成功させるのは容易ではありません。ドラッグストアは店舗を増やし、事業エリアを拡大して収益を上げるパターンが多いですが、都心部では大手チェーンの寡占化が進み、すでに新規参入の余地がなくなっている状況です。
中小規模のドラッグストアにとって、都心部への進出は現実的な路線ではないでしょう。
M&A仲介専門業者に相談するのが得策です。
まとめ
近年、大手のM&Aを中心に、ドラッグストア業界の吸収・合併が盛んに行われています。今後、大手による競合が激化していくことから、タイミングを逃すとM&Aの実行が困難になる可能性があります。ドラッグストア業界のM&Aを自社だけで実行するのも不可能ではありませんが、M&Aの専門家に相談するのがおすすめでしょう。
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