病院・医療法人M&Aの動向や事例を紹介!メリットや成功方法も解説
2024年6月4日
このページのまとめ
- 医療業の後継者不在率は高く、病院・医療法人M&Aの必要性が高まっている
- 病院・医療法人M&Aに関する支援対策は増加している
- 病院・医療法人M&Aを行う際は医療法人類型や出資持分の有無に配慮する必要がある
- 病院・医療法人のM&Aスキームには合併や事業譲渡、社員の入退社などがある
「病院・医療法人の業界でM&Aはできる?」と疑問をお持ちの方もいるのではないでしょうか。
病院・医療法人M&Aは実施されており、事例もあります。しかし一般企業のM&Aよりも専門的な知識が求められます。
本コラムでは、病院・医療法人M&Aの動向や実施するためのスキーム、行うメリットを紹介します。また、病院・医療法人M&Aの事例や成功のポイントも解説するため、参考にしてください。
まずは基礎知識を身に付け、M&Aへの第一歩を踏み出しましょう。
目次
病院・医療法人業界のM&A動向
まずはじめに、病院・医療法人業界の現状をふまえたM&A動向について紹介します。
病院・医療法人業界の後継者不在率
株式会社帝国データバンクの『特別企画:全国「後継者不在率」動向調査(2023年)』によると、2023年度の日本全国・全業種の後継者不在率の平均は53.9%です。
日本全国・全業種の後継者不在率はここ数年で改善傾向にあり、53.9%という数字は調査開始以降、過去最低の記録です。
病院・医療法人が属する「医療業」の後継者不在率も、前年の68.0%から2.7pt下がって65.3%でした。
しかし、この数字は業種中分類別で上位2位にあたり、全国・全業種の平均より11%以上も高い後継者不在率をマークしています。
病院・医療法人の業界は、依然として後継者不在率が高い状態だといえます。
病院・医療法人業界におけるM&Aの課題
病院・医療法人業界において、円滑なM&Aを阻害する要因は主に下記の4つです。
- M&Aの選択肢が浸透していない
- 行政の手続きが煩雑である
- M&Aの案件が探しにくい
- M&Aの相談先が充実していない
病院・医療法人業界ではほかの業界と比べて、事業承継の選択肢にM&Aがあることが浸透していません。また、案件や相談先も見つかりにくい状態です。
さらに、M&Aを進行するにあたって必要な過程が一般的なM&Aと異なり、手続きが煩雑であることも、M&Aの実施を躊躇する要因となっているようです。
病院・医療法人業界におけるM&Aの今後
国は、2040年医療提供体制の展望を見据えるなかで、病院・医療法人の組織再編や事業承継に関する取り組みにも着手するとしています。
挙げられている施策例は、M&A資金の融資制度の創設や、M&Aの事例集の作成・周知などです。
また、国や医師会を中心に事業承継対策が推進されています。
たとえば、岡山県医師会では県の補助を受けて、2015年に医院継承事業として「医院継承バンク」をスタートしています。
そのほか、福島県では県からの委託によって「福島県医業承継バンク マッチングナビ」が2019年に設置されました。
後継者不足による廃院を国・医師会も問題視しており、今後もM&Aに関する支援体制は充実していくと考えられます。
支援体制が充実し、事業承継の方法が浸透していけば、病院・医療法人業界のM&A件数は増加していくでしょう。
参照元:
株式会社帝国データバンク『特別企画:全国「後継者不在率」動向調査(2023年)』(2023年11月21日)
厚生労働省『医療施設の合併、事業譲渡に係る調査研究』(2020年3月)
病院・医療法人M&Aの特徴
病院・医療法人には、一般企業と異なり株式が存在しないため、通常のM&Aでよく活用される株式譲渡の手法は活用できません。
また、売り手・買い手が医療法人か個人かという違いや、医療法人の類型の違いによって、取るべき手続きに差異があります。
現行の医療法における医療法人の類型は以下の図のとおりです。
引用元:厚生労働省『平成23年版 厚生労働白書』医療法人制度
医療法人は、設立時の基盤の違いによって「社団医療法人」と「財団医療法人」の2つに分類されます。
社団医療法人は人間の集まりが基盤となり、財団医療法人は寄附された財産が基盤です。
さらに、社団医療法人は「出資持分なし社団医療法人」と「出資持分あり社団医療法人」の2つに分けられます。
なお、改正医療法によって出資持分あり社団医療法人を新規設立することはできなくなりました。
現在、出資持分あり社団医療法人は「経過措置型医療法人」として扱われています。
「特定医療法人」とは、租税特別措置法に基づいて設置された、財団または持分の定めのない社団の医療法人です。
「社会医療法人」とは、公益性の高い医療を担うことができる医療法人のことです。
これらの病院・医療法人の特徴をふまえたうえで、M&Aスキームの検討を始めましょう。
参照元:
厚生労働省『医療法人の基礎知識』
厚生労働省『平成23年版 厚生労働白書』
病院・医療法人のM&Aスキーム
病院・医療法人のM&Aのスキームは、主に「合併」「事業譲渡」「分割」です。
それに加えて、「社員の入退社・持分譲渡」によってM&Aが実施されます。
引用元:厚生労働省『医療施設の合併、事業譲渡に係る調査研究』2.医療機関M&Aの全体像 図表Ⅴ-2(2020年3月)
上記の図には記載されていませんが、個人開業の診療所(医院・クリニック)がM&Aを行うケースでは、基本的には資産のみが取引の対象となる「資産譲渡」を行います。
病院・医療法人のM&Aで一般的に活用されている5つの方法について、それぞれ解説します。
合併
医療法において定められた病院・医療法人のM&Aのスキームの一つに、合併があります。
合併は包括承継であるため、手続きが比較的スムーズに進められる点がメリットです。
また、適格要件を満たせば譲渡損益が繰り延べられることもメリットだといえます。
合併には「吸収合併」と「新設合併」の2種があり、病院・医療法人のM&Aにおいては「吸収合併」が選択されるのが一般的です。
吸収合併では、譲渡側が「消滅医療法人」となり、譲受側が「存続医療法人」となります。
吸収合併を実施することによって、消滅医療法人が保有する権利・義務を存続医療法人が包括的に承継します。
吸収合併後、消滅医療法人は解散します。
吸収合併後の医療法人の類型は、消滅医療法人と存続医療法人の組み合わせによって異なります。
吸収合併前の医療法人の類型 | 吸収合併後の医療法人の類型 | |
<消滅医療法人> | <存続医療法人> | |
財団医療法人 | 財団医療法人 | 財団医療法人 |
出資持分なし社団医療法人 | 財団医療法人 | 財団医療法人 |
出資持分あり社団医療法人 | 財団医療法人 | 財団医療法人 |
出資持分なし社団医療法人 | 出資持分なし社団医療法人 | 出資持分なし社団医療法人 |
出資持分あり社団医療法人 | 出資持分なし社団医療法人 | 出資持分なし社団医療法人 |
財団医療法人 | 出資持分なし社団医療法人 | 出資持分なし社団医療法人 |
出資持分あり社団医療法人 | 出資持分あり社団医療法人 | 下記のいずれかを選択 出資持分あり社団医療法人 出資持分なし社団医療法人 |
財団医療法人 | 出資持分あり社団医療法人 | 出資持分なし社団医療法人 |
吸収合併後の医療法人の類型は基本的に存続医療法人の類型になりますが、例外が2パターンあります。
出資持分あり社団法人同士で吸収合併を行うケースでは、吸収合併後の医療法人の類型は「出資持分あり社団医療法人」と「出資持分なし社団医療法人」のどちらかを選択することが可能です。
なお、吸収合併後の医療法人の類型を「出資持分あり社団医療法人」にしたい場合、出資持分あり社団法人同士でのM&Aが唯一の方法となります。
もう一つの例外は、存続医療法人を出資持分あり社団医療法人とし、消滅医療法人を財団医療法人とするパターンです。
このケースでは、吸収合併後の医療法人の類型に「出資持分あり社団医療法人」を選ぶことができません。吸収合併後は出資持分なし社団医療法人になります。
参照元:
e-Gov法令検索『医療法』第五十七条、第五十八条
厚生労働省『医療施設の合併、事業譲渡に係る調査研究』
厚生労働省『医療法人の基礎知識』
厚生労働省『社団たる医療法人と財団たる医療法人の合併について』
事業譲渡
病院・医療法人のM&Aにおいて、運営している一部あるいはすべての病院や施設を譲渡・譲受したいと考えている場合、事業譲渡のスキームが活用できます。
事業譲渡は個別承継です。双方の医療法人格は維持したまま、取引対象として選択した事業に関する資産を譲渡します。
承継する資産は選択することができるため、基本的に負債や瑕疵は引き継がれません。
職員との雇用契約や取引先との契約、建物の賃貸借契約、入院患者・入所者との契約は引き継がれないため、再度個別に同意・契約締結をすることが必要です。
また、病床や許認可についても引き継ぎできないことがあるため、必要に応じて手続きを行ってください。
また、事業譲渡を実施する際は、承継後に当該施設の閉鎖および新規開設を行う必要があります。
参照元:
厚生労働省『医療施設の合併、事業譲渡に係る調査研究』
分割
分割は、医療法において規定されている病院・医療法人M&Aのスキームです。
分割を活用してM&Aを実施できるのは、出資持分なし医療法人です。出資持分あり医療法人・特定医療法人・社会医療法人は対象外となります。
運営している一部あるいはすべての病院や施設を、ほかの医療法人に譲渡することを希望する場合、吸収分割が選択されます。
分割は、2015年の医療法改正によって2016年9月から選択することが可能になった病院・医療法人M&Aの手法です。
医療法人格を保ったまま一部の病院・施設を譲り渡す場合、事業譲渡を選択することが一般的でしたが、個別承継のため手続きが煩雑だったことから、分割の制度が創設されました。
事業譲渡と比べた際の分割の特徴は、下記の比較表のとおりです。
分割 | 事業譲渡 | |
承継の範囲 | 包括承継 | 個別承継 |
各種契約等 | 個別の同意・再契約が不要 | 個別の同意・再契約を要する |
負債などの引き継ぎ | 引き継がれる | 引き継がれない |
閉鎖・開設の届出 | 不要 | 必要 |
税制優遇制度 | 適格要件を満たせば 法人税の課税繰延べ 不動産取得税が非課税 | なし |
分割は包括承継であるため、手続きが比較的簡易に済むことが大きなメリットです。
一方で、マイナスの資産も引き継いでしまうため、譲渡側に負債や瑕疵がある場合は注意が必要です。
また、適格要件を満たしていれば税制上の優遇措置を受けられる点も、分割を選ぶメリットだといえます。
参照元:
e-Gov法令検索『医療法』第六十条
厚生労働省『医療施設の合併、事業譲渡に係る調査研究』
厚生労働省『医療法人における分割の仕組みの新設について』
社員の入退社・持分譲渡
病院・医療法人のM&Aのスキームの一つに「社員の入退社・持分譲渡」があります。
「社員」とは医療法人の構成員であり、1人につき1つの議決権を有しています。
社員になるための資格の取得については定款に規定されており、出資の有無および多寡は関係ありません。
医療法人の最高意思決定機関は、社員によって構成される「社員総会」です。
引用元:厚生労働省『第13回社会保障審議会医療部会 資料1』医療法人のイメージ図(社団の場合)
したがって、譲受側の自然人や非営利法人を譲渡側の医療法人に入社させて過半数を占めれば、実質的な支配権が移行してM&Aが完了します。
また、理事および理事長の交代がともに実施されることもあります。
出資持分は議決権との関連性はありませんが、同時に譲渡が行われることが多いです。
本スキームのメリットは、社員の入れ替えのみでM&Aが完了する簡便さです。
双方の法人格は維持され、権利・契約関係に影響を及ぼしません。煩雑な手続きをしなくて済むことは大きなメリットだといえるでしょう。
M&Aの実施にあたって理事・理事長の解任や出資持分の譲渡を同時に行う場合は、役員退職金の支払いや出資金の払い戻しが発生するため、資金拠出や税金の支払いに留意しましょう。
参照元:
厚生労働省『医療施設の合併、事業譲渡に係る調査研究』
厚生労働省『第2章 医療法人の適正な運営に関するチェックリスト(組織・運営)』
厚生労働省『医政発0325第3号 医療法人の機関について』
資産譲渡
個人が運営する診療所のM&Aを希望する場合、資産譲渡のスキームを活用します。
このケースでは、M&Aの取引の対象は資産のみです。
引き継がれるのは土地や建物、内装、医療機器などの資産です。負債は引き継がれません。
また、医療機器の保守点検契約や雇用契約なども譲渡対象にならないため、注意しましょう。
契約を継続したい場合は、当事者間で新たに契約を交わす必要があります。
本スキームでは運営が引き継がれるわけではないため、譲渡側は廃業の手続きを、譲受側は開業の手続きを、それぞれ行うことになります。
必要となる主な届出は以下のとおりです。
【譲渡側(売却側)に必要な届出】
届出の名称 | 届出の提出先 |
診療所廃止届 | 管轄の保健所 |
保険医療機関廃止届 | 管轄の地方厚生局 |
個人事業の開業・廃業等届出書 | 納税地を所轄する税務署長 |
事業廃止届出書 | 納税地を所轄する税務署長 |
所得税の青色申告の取りやめ届出書 | 納税地を所轄する税務署長 |
給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書 | 給与支払事務所等の所在地の所轄税務署 |
健康保険・厚生年金保険適用事業所全喪届 | 管轄の年金事務所 |
被保険者資格喪失届 | 管轄の年金事務所 |
雇用保険適用事業所廃止届 | 管轄のハローワーク |
雇用保険被保険者資格喪失届 | 管轄のハローワーク |
【譲受側(買収側)に必要な届出】
届出の名称 | 届出の提出先 |
診療所開設届 | 管轄の保健所 |
診療所使用許可申請書 | 管轄の保健所 |
保険医療機関・保険薬局指定申請書 | 管轄の地方厚生局 |
保険医・保険薬剤師登録申請書 | 管轄の地方厚生局 |
事業開始等申告書(個人事業税) | 自治体の税事務所 |
個人事業の開業・廃業等届出書 | 納税地を所轄する税務署長 |
青色事業専従者給与に関する届出・変更届出書 | 納税地を所轄する税務署長 |
給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書 | 給与支払事務所等の所在地の所轄税務署 |
雇用保険適用事業所設置届 | 管轄のハローワーク |
必要となる届出はケースバイケースになるため、状況に応じて提出してください。
病院・医療法人M&Aのメリット
病院・医療法人がM&Aを行うメリットは、主に下記のとおりです。
譲渡側(売却側)のメリット |
譲受側(買収側)のメリット |
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|
廃院を検討している医療機関は、M&Aを選択肢の一つに入れることがおすすめです。
廃院ではなくM&Aを選べば、上記のようなメリットが得られます。
廃院にかかる費用が不要なうえ、創業者利益を獲得したり、職員の雇用を守ったりすることが可能です。地域医療への貢献も継続できます。
病院・医療法人M&Aの譲受側にとっても、数多くのメリットがあります。
新規開業するケースよりもコストが削減できます。また、譲渡側の専門職や患者を引き継ぐことができるため、スムーズに参入できます。
譲渡側の病院・医療法人が高度なレベルの設備を保有している場合、それを得られることも譲受側の大きなメリットとなるでしょう。
病院・医療法人M&Aのデメリット
病院・医療法人がM&Aを行うデメリットには、主に以下のようなものがあります。
譲渡側(売却側)のデメリット |
譲受側(買収側)のデメリット |
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病院・医療法人がM&Aを行う場合、事業承継に時間・労力がかかることに留意しておきましょう。事業承継では譲渡側・譲受側がお互いに協力し合い、進めていく必要があります。
また、M&Aの前後で経営方針が大きく変わる場合は注意が必要です。
もし経営方針に大幅な変更が生じた場合、譲渡側で混乱が起こってしまうおそれがあります。
それによって職員の不満が募ると、離職につながってしまう可能性もあります。
大量離職が起こってしまった場合、譲受側もM&Aに期待したメリットを得られなくなってしまうでしょう。
病院・医療法人M&Aを成功させる7つのポイント
病院・医療法人M&Aを成功に導くためのポイントは主に下記の7つです。
- 病院・医療法人M&Aの特徴を知る
- 早めに準備を始める
- M&Aの目的を明確にする
- 適切なM&Aスキームを選択する
- 面談・交渉の際は真摯に対応する
- 情報漏洩に気を付ける
- 関係者への説明を怠らない
各ポイントについて詳しく解説します。
1.病院・医療法人M&Aの特徴を知る
病院・医療法人のM&Aは、一般企業が行うM&Aとは大きく異なります。
株式がなかったり、法人が利益追求を目的としてなかったり、会社法ではなく医療法の知識が必要になったりと、一般的な企業とは違った特徴があります。
また、医療法人の類型の種類によって手続きにも違いがあります。
病院・医療法人のM&Aを実施する際は、特徴をふまえたうえで臨みましょう。
M&Aには専門的な知識が求められるため、病院・医療法人のM&Aに詳しい専門家や支援機関にサポートを依頼することもおすすめです。
2.早めに準備を始める
病院・医療法人のM&Aにはたくさんの手続き・時間がかかります。
「管理体制の整備」や「病院・医療法人に関する情報の整理」、「書類の作成」などのほか、行政での手続きも必要です。
そのうえ、M&Aにまつわる作業を通常業務に加えて行う必要があります。
これらの準備はすぐに完了するものではありません。
早めに計画を立てて取り掛かりましょう。
3.M&Aの目的を明確にする
病院・医療法人のM&Aを成功させるためには、M&Aを行う目的を明確化することが肝要です。
M&Aの目的が曖昧なまま進めてしまった場合、M&Aが途中で破談になったり、M&Aが成約しても想定していたメリットが得られなかったりするおそれがあります。
病院・医療法人がM&Aを実施しようとする際は、必ず目的を定めましょう。
目的を明確にすることによって、マッチングの成立や円滑な交渉、M&A後の満足度の向上などにつながります。
4.適切なM&Aスキームを選択する
病院・医療法人のM&Aでは、M&Aの目的のほか、取引の対象や売り手・買い手の類型によって選択するべきスキームが変わります。
当該M&Aがどれに当てはまるのかを見極めて、適切なスキームを選びましょう。
5.面談・交渉の際は真摯に対応する
病院・医療法人のM&Aを進行するにあたって、トップ同士の面談や条件交渉のプロセスがあります。
面談や交渉では、隠し事はせず、真摯に対応するようにしてください。
たとえネガティブな内容であっても、嘘をついて隠すのは厳禁です。
虚偽の報告をしてM&Aを進行させた場合、のちのちに大きなトラブルに発展する可能性があります。
6.情報漏洩に気を付ける
病院・医療法人のM&Aを進行する際は、情報が漏洩しないように徹底的に注意してください。
「M&Aを検討している」ということが予期せぬタイミングで知られてしまった場合、職員や患者の間に混乱を招いてしまうリスクがあります。
また、情報漏洩のタイミングによってはM&Aの取引相手にも迷惑がかかります。
最悪の場合、「守秘義務違反をした」として訴訟問題に発展することもあるため、M&A関連の情報の取り扱いには細心の注意を払いましょう。
7.関係者への説明を怠らない
病院・医療法人のM&Aを実施するときは、関係者への説明を怠らないようにしてください。
病院・医療法人のM&Aの関係者は、理事会の役員や管理者、職員、出資者、患者などです。
各ステークホルダーにとって適したタイミングにおいて、適切な情報量・伝達方法で情報開示を行います。
もし説明が不十分だった場合、信用を失ったり反発を受けたりするおそれがあります。
M&Aの実施後もスムーズに運営を続けられるように、説明の機会を設けましょう。
病院・医療法人M&Aの3つの事例
病院・医療法人M&Aの事例を3つ紹介します。
木下会と沖縄徳洲会の吸収合併
社会医療法人木下会と医療法人沖縄徳洲会が、2019年12月に吸収合併を行ったM&A事例です。
吸収合併消滅医療法人が社会医療法人木下会で、吸収合併存続医療法人が医療法人沖縄徳洲会です。
譲渡側(売却側)の医療法人 | 譲受側(買収側)の医療法人 |
社会医療法人木下会 | 医療法人沖縄徳洲会 |
今回の社会医療法人木下会と医療法人沖縄徳洲会の吸収合併の目的は、経営の合理化やコンプライアンス・ガバナンスの強化などです。
吸収合併により、消滅医療法人である社会医療法人木下会が有する3つの病院と4つの介護老人保健施設の法人名が変更になりました。
医療法人沖縄徳洲会は、徳洲会グループに所属する医療法人です。
本吸収合併により、病院を傘下に置く徳洲会グループの法人は医療法人徳洲会・医療法人沖縄徳洲会・埼玉医療生活協同組合の3つになりました。
徳洲会グループは、組織力の強化やサービスの質向上を目的に、法人統合を推進しています。
参照元:
千葉西総合病院『医療法人合併に関するご案内』
徳洲会グループ『社会医療法人木下会 沖徳に吸収合併』
ちとせ会と桜会の吸収合併
医療法人社団ちとせ会と医療法人財団桜会が、2024年5月に吸収合併を行ったM&A事例です。
吸収合併消滅医療法人が医療法人社団ちとせ会で、吸収合併存続医療法人が医療法人財団桜会です。
譲渡側(売却側)の医療法人 | 譲受側(買収側)の医療法人 |
医療法人社団ちとせ会 | 医療法人財団桜会 |
医療法人社団ちとせ会と医療法人財団桜会は、全国に130以上の関連事業所を展開する医療法人社団葵会のグループ法人です。
医療法人社団ちとせ会は2008年に、医療法人財団桜会は2009年に葵会グループに加入しました。
今回の吸収合併は、同じグループ内で実施された事例です。
本吸収合併により、「医療法人社団ちとせ会 熱海ちとせ病院」は「医療法人財団桜会 熱海ちとせ病院」へ名称が変更されました。
法人名が変わったのみで、人員・体制等の変更はありません。
このM&Aを機に、気持ちを新たに一丸となって地域医療・介護をより一層推進していくとのことです。
医療法人財団桜会は本吸収合併で熱海ちとせ病院を迎え入れることで、病院を東京都に2つ・静岡県に1つ、介護老人保健施設を神奈川県・静岡県・愛知県に1つずつ有する医療法人財団となりました。
参照元:
熱海ちとせ病院『法人吸収合併に関するお知らせ』
熱海ちとせ病院『法人合併のお知らせ』
尾谷内科と同仁会の事業譲渡
医療法人社団尾谷内科と医療法人同仁会が、2023年5月に事業譲渡・事業譲受を行ったM&A事例です。
医療法人社団尾谷内科が持つ新千歳空港クリニックを、医療法人同仁会に事業譲渡のスキームで譲り渡しました。
譲渡側(売却側)の医療法人 | 譲受側(買収側)の医療法人 |
医療法人社団尾谷内科 | 医療法人同仁会 |
患者・取引先が不便を感じることのないよう、双方で円滑な承継を行い、カルテ等の診療情報についても引き継ぐとのことです。
譲受側の医療法人同仁会は、M&Aの実施以前に千歳市で千歳第一病院と向陽台病院の2院を運営していました。
千歳第一病院は8つの診療科目に対応し、一般病床を42床、障がい者病棟を40床備えている病院です。
向陽台病院は千歳市内唯一の医療療養型病院です。3つの診療科目に対応し、療養病床を60床有しています。
今回の事業譲受で新千歳空港クリニックを譲り受けたことにより、医療法人同仁会が運営する医療施設は3つになりました。
今後、新千歳空港クリニックでは、すべての空港利用者に対して家庭医療の取り組みを通じた外来診療を提供します。
参照元:
医療法人社団尾谷内科『「新千歳空港クリニック」事業譲渡のお知らせ』
医療法人同仁会『新千歳空港クリニック事業譲受のお知らせ』
まとめ
医療業の後継者不在率の高さは、業種中分類別で上位2位です。
病院・医療法人の業界は、後継者不在に悩まされている業界だといえます。
しかし、国・医師会もこの状況を問題視しており、さまざまな事業承継対策に取り組んでいます。
今後も事業承継対策に関する支援は増えていくと予測されます。
病院・医療法人のM&Aスキームは、主に「合併」「事業譲渡」「分割」「社員の入退社・持分譲渡」「資産譲渡」の5つです。
M&Aの実施にあたってどの手法を用いるかは、医療法人の類型や出資持分の有無、手続きの手間、かかる税金などを考慮したうえで決定します。
病院・医療法人のM&Aは一般的なM&Aと異なり、M&Aを滞りなく進めるためにはより専門的な知識が必要です。
M&Aだけでなく、医療法や医療業界のM&A事情に詳しい専門家のサポートを受けると安心してM&Aを進められるでしょう。
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料金体系はM&Aご成約時に料金が発生する完全成功報酬型です(譲受会社のみ中間金あり)。
ご相談も無料です。病院・医療法人業界でのM&Aをご検討の際には、ぜひお気軽にお問い合わせください。