化粧品会社のM&A動向、譲渡や売却の事例を紹介
2024年4月2日
このページのまとめ
- 化粧品市場は堅調で、業界の競争が激化している
- 2023年以降は化粧品業界大手の動きが活発になり、EC化が進む
- 化粧品会社は他業種のM&Aをするケースが多い
- 化粧品会社のM&Aのメリットは「開発力強化」「事業拡大」「安定した需要確保」など
- 化粧品会社のM&Aのデメリットは「ブランド毀損」「データ統合が困難」など
「化粧品会社のM&Aを検討していて、自分に合った事業継承の方法を知りたい」とお悩みではないでしょうか。化粧品業界は堅調に市場規模を伸ばしており、大手を中心にM&Aも活発です。
本コラムでは化粧品会社の事業継承の方法や化粧品業界の最新動向などについて解説します。また今後の化粧品業界の動きやM&Aの事例、M&Aのメリットやデメリット、注意点などについても触れていますので参考にしてください。
目次
化粧品業界の業界動向と予測
化粧品会社のM&Aを成功させるには、業界の動向を把握しておくことが重要です。はじめに化粧品業界の業界動向を確認しておきましょう。
化粧品会社の業態
化粧品業界における業態は、その販売ターゲットによって2つに分類されます。
リテール業態 | ドラッグストア、セレクトショップなどの小売店、通販ショップなど個人や中小企業を対象にした小口の取引業態 |
プロフェッショナル業態 | サロン専売商品などの業務用化粧品を扱う、美容室やエステサロンなど法人向けの大口の取引業態 |
販路によって、収益構造がかわります。
リテール業態の場合一般的には販路は以下の2通りです。
1.メーカーから直接消費者へ販売する(DtoC、D2C)
2.百貨店やドラッグストアなどの小売店舗に卸す(BtoC)
D2Cの場合、中間マージンが不要なため利益が高くなります。
小売店舗に卸す場合は、D2Cよりも利益が低くなります。卸価格での販売になり、小売価格は店舗側の裁量で決定されます。
プロフェッショナル業態の場合、卸価格にて美容ディーラーに販売し、ディーラーが美容室やエステサロンなどの店舗に販売することが一般的です。
プロフェッショナル業態でも、ディーラーを介さず美容院などの店舗に直接販売するメーカーも存在します。
化粧品業界の市場規模
化粧品市場は2019年まで右肩上がりでしたが、コロナ禍により一旦落ち込みました。以下のようなことが背景として考えられるでしょう。
- インバウンド需要の減少
- テレワークの拡大・外出自粛などによるメーキャップ需要の減少
- 長引くマスク生活による、ファンデーション、口紅といった化粧品類の支出の減少
しかし2021年から若干の回復基調を示します。
2021年度は、新型コロナウイルス感染症の流行が続いたものの、2020年度よりも外出機会が増えたことが原因で回復基調となりました。
矢野経済研究所の予測によると2022年度の化粧品市場規模(ブランド出荷ベース)は2,355,000億円(予測値)です。
2022年はコロナ禍が沈静化し外出機会が増加し客足が戻り、百貨店や量販店などの売上回復が進むと予測されます。
2023年は、新型コロナ流行に落ち着きがみられ脱マスクが進み、ほうれい線などマスクで隠れていたパーツのケア需要が高まることが予想されます。
外出機会が増加し、百貨店やメーカー直営店の本格的な回復が期待できるでしょう。入国制限も一部緩和されたことから、インバウンド需要も回復に向かうとみられています。
参照元:
矢野経済研究所「化粧品市場に関する調査を実施(2022年)」
財務省「日本の化粧品産業の展望」
化粧品業界の2023年以降の動き
厚生労働省が2023年3月13日からマスク着用は個人の判断を基本とし、5月にはコロナウイルスの感染症法上の位置づけを2類から5類へ移行したことで、化粧品含む様々な品目の需要拡大が期待されています。
2023年以降、化粧品業界では以下のような動きが予測されます。
- EC化・デジタル化が進行
- 大手の動きが活発化
EC化・デジタル化が進行
近年、物販系分野におけるEC化・デジタル化が進んでいます。
経済産業省の「令和3年度 電子商取引に関する市場調査 報告書』によると、物販系分野におけるBtoC-ECの市場規模は2019年が10兆515億円、2020年が12兆2,333億円、2021年が13兆2,865億円と堅調です。
EC化率をみると2019年が6.76%、2020年が8.08%です。2019年からの1年間でEC化率が119%伸びています。
コロナウイルスを機に非対面での販売需要が増加し、EC化が加速したものと思われます。
一方、2022年の「化粧品、医薬品」分野におけるBtoC-ECの市場規模は8,552億円で、対前年比で9.82% 上昇する結果になりました。EC 化率は7.52%です。
化粧品はもともと試して購入する商品特性があり、店頭販売・訪問販売が中心でしたが、コロナ禍での実店舗需要減少に対応して、各メーカーがデジタル技術を活用し、ECでの利用を促進してきました。
例えばAR活用で自宅でもヴァーチャル試用ができたり、店頭の肌解析サービスとECサイトを連携させたりするなど、消費者のレスポンスを直接把握することができるようになります。
デジタル化によって、様々なビジネス展開が進展しています。
- SNS や口コミサイトを活用したマーケティングの推進
- LIVEコマースの導入
今後EC化・デジタル化は一層進んでいくでしょう。
デジタル化に対応できないと取り残される可能性があるため、注意が必要です。
参照元:
経済産業省「令和3年度 電子商取引に関する市場調査(p.5,59.60)」
経済産業省「化粧品産業ビジョン(p.23)」
大手の動きが活発化
2023年以降は大手メーカーの動きが活発になると予想されます。社長交代が相次いでおり、攻めの戦略が期待できるからです。
例えば23年1月1日には資生堂社長COOに藤原憲太郎氏が、ポーラ・オルビスHDの社長には横手喜一氏が就任しています。
両新社長に共通するのは高価格帯のブランドを手掛けた経験があることです。
また、化粧品メーカーは市場ニーズの変化への対応力を高めることで、企業価値向上を目指す動きもみられます。
例えば資生堂は、2021年から2023年までの3ヶ年中期戦略「WIN 2023」を推進しており、スキンケアなどの領域に集中して強い収益基盤を構築しました。
オルビスでは、2023年5月に化粧品業界初の無人販売店舗である「ORBIS Smart Stand」をオープンしました。新しい顧客体験価値の提供を実現する狙いです。
参照元:ORBIS「オルビス、業界初となる無人販売店舗『ORBIS Smart Stand』ローンチ」
化粧品会社のM&A・事業継承の手法
化粧品会社の事業継承は次の3パターンがあります。
- 親族内事業継承
- 親族内事業継承
- M&Aによる事業継承
それぞれ解説していきます。
親族内事業承継
親族内事業承継とは、経営者の親族が事業を引き継ぐ事業継承です。
割合としては親族外継承とM&Aによる事業継承よりも多いですが、近年は親族内事業承継が減少傾向にあります。
以前は家業として親族が引き継ぐケースは珍しいことではありませんでした。しかし近年は職業選択が自由になり、親族内で事業を引き継ぐことが困難になってきたのです。
親族内事業承継のメリット
親族内事業承継には以下のようなメリットがあります。
- 従業員、取引先と信頼関係を築きやすい
- 後継者教育のための期間を長期間確保できる
- 相続等により財産や株式を後継者に移転できる
親族内で事業を引き継ぐ場合、家族間の信頼関係があるため、スムーズな移行が期待できます。既存の顧客や取引先とのつながりを損なうことなく、事業を継続していくことが可能です。
外部から後継者を選ぶ場合、どうしても準備期間が短くなってしまいます。スキルや知識が未熟な人材に引き継いだ結果、事業が傾いてしまうかもしれません。
しかし家族内で事業を受け継ぐ場合は、幼少期から事業に触れ、経営者からの教育を受ける機会が多い傾向にあります。つまり事業を継承する時点で、後継者に経営に対する理解や経験が備わっているわけです。
長期的な視野で経営者としてのスキルや知識を磨くことができるため、事業の安定的な成長が期待できるでしょう。
また、事業の株式や財産が後継者に移ることで、経営権と所有権が一致し経営に対する強い責任感を持った経営者が誕生します。
会社の経営方針もスピーディに決定され、経営の安定性が増すことも見込まれます。
親族内事業承継のデメリット
他方、親族内事業承継にはデメリットも存在します。例えば以下のようなものです。
- 適格な後継者候補が見つからないリスク
- 相続人が複数いる場合に争いが生じるリスク
化粧品会社を成長させるには、ビジネススキルや経験や知識が必要です。
しかし経営に必要なスキルやビジネス経験を備えた人材が、親族内にいるとは限りません。
経営能力やビジネス経験が未熟な後継者が経営にあたると、事業の成長や競争力の向上が難しくなることが考えられます。
さらに、相続人が複数いる場合、後継者の決定や経営権の集中が難しくなるリスクもあります。親族間の人間関係や感情的な要素が絡み、争いが起きる可能性があるのです。
経営権の集中が難しい場合、複数の相続人がそれぞれの意見を主張し、決定がなかなかまとまらないことが考えられます。結果として、会社の方向性が定まらず、経営において混乱が生じるリスクがあります。
親族外事業承継
親族外継承とは従業員や取引先の紹介者など親族以外の人が事業を引き継ぐ方法です。
親族内承継が難しくなっているので、親族外承継の割合が増えています。
親族外継承では、現経営者の右腕として業務に精通した従業員が引き継ぐ場合と金融機関などの紹介で経営経験のある後継者候補を招聘する場合があります。
親族外継承のメリット
親族外継承のメリットには、以下のようなものがあります。
- 業務に精通した優秀な従業員に後継できる
- 経営事情にくわしい優秀な人材を招聘できる
親族の中から後継者を選ぶ親族内事業継承の場合、能力のある人材がいない場合、候補者の選定や育成に時間がかかり、事業を継続できないリスクがあります。
しかし親族外で後継者を選ぶ場合、適格な人材を後継者に選ぶることができます。
経営者としての能力や知見、センスなど化粧品会社を成長させるために必要な資質を備えた人材に継承すれば、事業の持続的な成長が期待できるでしょう。
経営に対する熱意や専門知識を持つ後継者が事業を引き継ぐことで、会社の将来に対する安心感が高まります。
特に長年にわたって会社に貢献してきた従業員の場合、会社の文化や価値観を理解し、経営方針を共有していることが多いです。このような従業員が後継者となることで、組織文化や取引先との信頼関係がスムーズに引き継がれ、会社の安定性が維持される可能性が高くなります。
親族外継承のデメリット
親族外継承のデメリットには以下のようなものがあります。
- 従業員の場合は、株式取得等の資金力が無い
- 外部の後継者の場合は、従業員や取引先との信頼を得にくい
親族外の後継者は、従業員の場合と外部の後継者では事情が異なります。
従業員の場合は、株式を取得する際に資金面での問題が生じることがあります。一般的に、化粧品会社の経営には多額の資金が必要となりますが、親族外の後継者は自身の資産だけでなく、外部からの借り入れや出資を検討しなければならない場合があります。
また、従業員の後継者には、事業のノウハウや企業文化に精通していますが、外部の後継者の場合は、これらの理解が不足しています。
さらに、外部の後継者が経営を引き継ぐ場合、従業員や取引先との信頼関係の構築に時間がかかる可能性があります。家族内で事業を受け継ぐ場合は、家族間の信頼があるため、スムーズに経営を引き継ぐことができますが、外部の後継者の場合はその信頼を築く必要があるわけです。
M&Aによる事業承継
M&Aとは「Merger(合併)and Acquisitions(買収)」の略で、「会社や事業経営権の取得」を意味します。年々増加している事業承継のスキームです。
M&Aによる事業承継のメリット
M&Aによる事業承継には次のようなものが挙げられます。
- 現経営者が売却益を獲得できる。
- スピーディに後継者問題を解決できる
売却元企業の経営者は、株式や買収代金などで売却益を得ることができます。
化粧品のM&Aに限らず、売却益の獲得を目的に吸収合併をするケースは少なくありません。
事業や会社を売却することで得た資本金をもとに、あらたなサービスの展開や商品開発に着手することも可能です。
とりわけ、経営が厳しい状況にある中小零細の経営者にとって売却益の獲得は大きなメリットとなるでしょう。
また、スピーディに後継者問題を解決できる点も大きなメリットです。「お家騒動」という言葉がありますが、企業の成長と安定のためには、経営者の交代はスムーズに実行されることが望ましいといえます。
M&Aによる事業継承では、既存の経営体制を引き継ぐことができるため、後継者問題をスムーズに解決することができるのです。
特に、経営者の引退や突然の辞任などがあった場合には、迅速な対応が求められます。M&Aは、そのような緊急性のある状況において、企業の安定を維持する手段として有効です。
M&Aによる事業承継のデメリット
一方M&Aによる事業承継には以下のようなデメリットも存在します。
- 希望通りの買い手が見つかるとは限らない
- 従業員や取引先からの反発がある場合もある
- 狙ったシナジー効果が発揮されない可能性もある
M&Aは相手先の企業との合意があって初めて実行されるものです。
特に負債を抱えているなど売り手企業の価値が低い場合、相手企業が見つからない可能性もあります。
仮に候補が見つかっても希望の条件でM&Aが締結できるとは限りません。M&A先の従業員や取引先からの反発が生じる可能性があります。
企業の統合や再編を伴うことが多いM&Aでは、従業員の雇用や業務体制に変化が生じることがあります。
結果として従業員の不安や不満が募り、企業の安定性や信頼性に影響を及ぼす可能性もあるのです。
売り手と買い手の事業がうまくマッチすれば、シナジー効果を得られますが、実際には予想した効果が得られないことが少なくありません。
化粧品会社のM&A事例5選
近年、化粧品会社のM&Aが盛んです。続いて化粧品会社のM&Aにはどのようなケースがあるのか、目的や背景と合わせて最新事例を見ていきましょう。
アイケイ子会社とコンビ
2022年6月8日、コンビ株式会社が2009年に立ち上げた自然派化粧品ブランド「Nana robe(ナナローブ)」の化粧品事業を株式会社アイケイの連結子会社である株式会社プライムダイレクトに譲渡しました。
コンビはベビー用品大手です。ベビー用品の製造・販売、独自開発美容成分を用いた自然派化粧品や機能性食品の製造なども展開しています。
プライムダイレクトは、愛知県名古屋市に本社を構える TVショッピングやECを中心とした事業を展開する会社です。
2014年に設立された若い中小企業ですが、ダイレクトマーケティングに深い知見を有しています。
参照元:
Combi「化粧品事業譲渡・業務提携に関するお知らせ」
M&Aの目的・背景
譲渡企業:ダイレクトマーケティング・ECに関する深い知見を持つプライムダイレクトに化粧品ブランドを譲渡し、EC・デジタルマーケティングの強化を図る
また譲渡後も業務提携(美容成分の研究開発及び原料生産、供給)を通じて同ブランドの事業成長に関わりつつ、両社のさらなる発展を図る
譲受企業:ダイレクトマーケティング事業・EC・デジタルマーケティング事業の販路を通した譲受ブランド商品の販売を拡大する
ロレアルとSparty
ロレアル・グループが、コーポレートべンチャーキャピタルファンド、BOLD(Business Opportunities for L’Oréal Development) を通じて、Sparty(スパーティー)に少数株主として出資しました。
ロレアル・グループは化粧品の輸入・製造・販売およびマーケティング事業を展開する化粧品会社です。パリに本社を置きます。
Sparty(スパーティー)は日本のD2C美容スタートアップ企業です。
将来的にはグローバルな展開も視野に入れています。
参照元:日本ロレアル『仏・ロレアルのベンチャーキャピタルファンド「BOLD」 パーソナライズド美容に特化した美容スタートアップ企業「Sparty」に少数株主として出資』
M&Aの目的・背景
譲渡企業:調達した資金とロレアルが有する戦略的専門知識・流通ネットワークなどを積極的に活用することで、パーソナライズ分野の普及・発展の最前線に立ち、サービスの質の向上を図る
譲受企業:高い成長が見込めるパーソナライズ化粧品分野への投資
オリックスとDHC
2022年11月11日、オリックス株式会社が、化粧品大手の株式会社DHCの買収を発表しました。
買収総額は3,000億円程度です。
オリックスはリース業から始まり、「法人金融」「産業・ICT機器」「環境エネルギー」「自動車関連」「不動産関連」「事業投資・コンセッション」「銀行」「生命保険」などおこなっている事業は多岐にわたります。
参照元:日本経済新聞「オリックス、DHC買収発表 3000億円、事業承継で最大級」
M&Aの目的・背景
譲渡企業:創業者からの事業承継
譲受企業:ヘルスケアセクターでの事業多角化
オリックスは、アフターコロナにより一層の高まりが予想される美容・健康市場動向から、DHCが展開する化粧品や健康食品の長期的な需要を見込んで買収を決断したとのことです。
DHCは2023年1月31日付で、株式譲渡契約を結んでいたオリックスの子会社になっています。
化粧品会社のM&Aのメリット・デメリット
続いて化粧品会社のM&Aのメリット・デメリットについて見ていきましょう。
売り手と買い手の組み合わせとしては様々なパターンが考えられますが、今回は次の5パターンについて解説します。
- 買い手:化粧品メーカー×売り手:化粧品メーカー
- 買い手:化粧品メーカー×売り手:化粧品原料メーカー
- 買い手:化粧品原料メーカー×売り手:化粧品メーカー
- 買い手:化粧品メーカー x 売り手化粧品EC・D2C
- 買い手:小売×売り手:化粧品メーカー
買い手:化粧品メーカー|売り手:化粧品メーカー
まずは、買い手が化粧品メーカーで売り手が化粧品メーカーのケースを見ていきましょう。
メリット
買い手が化粧品メーカーで売り手が化粧品メーカーの場合、以下のようなメリットがあります。
- 商品ラインナップの拡張・補完によるブランドポートフォリオの拡充
- 新たな市場や顧客層へのアクセス拡大
- 規模拡大による製造・販売の効率化
- ECなどの販売チャネル拡充、オムニチャネル化
- 新製品・新技術の開発力アップ
- 環境・SDGs関連の対応力強化
- ファブレスメーカー(自社ブランドの製品を企画・開発する企画開発特化型メーカー)による製造内製化
生産設備や施設が統合されることで、生産能力が拡大します。
売り手の設備や技術、商品ラインナップを取り入れることで、研究開発能力の向上や競争優位性の獲得、製品ラインナップの拡張・補完が可能です。
買い手企業が企画開発特化型の”ファブレスメーカー”であれば、買収により製造プロセスの内製化も可能です。生産効率が向上し、製品の品質管理がより容易になります。
ファブレスと混同されやすい手法にOEMがあります。
OEMとは、自社製品を「他社ブランド」として供給する方法、ファブレスは、あくまでも「自社ブランドの製品」を企画・開発する手法です。
海外での化粧品ブランド展開を視野に入れた場合、グローバル基準での課題にも対応していかなければなりません。昨今世界中で叫ばれている課題の一つが、「SDGs(Sustainable Development Goals)=持続可能な開発目標」です。
買収先の企業が持つSDGs(持続可能な開発目標)に関連する取り組みや技術を取り込むことで、自社のサステナビリティへの取り組みが強化されます。環境・SDGs関連の取り組みが増えれば、企業ブランドイメージのUPも見込めるでしょう。
ECなどの販売チャネル拡充: 買収により、売り手の企業が持つ販売チャネルを活用することで、自社の製品をより多くの顧客に届けることができます。特に、電子商取引(EC)の強化は、オンラインでの販売を推進し、市場の拡大に寄与します。
デメリット
メリットだけではありません。買い手が化粧品メーカーで売り手が化粧品メーカーのM&Aには以下のようなデメリットも存在します。
- 統合失敗リスク
- 買収価格が高額になる可能性がある。
- ブランド毀損
合併により、売り手のブランド価値が失われる可能性があるため注意が必要です。また、顧客層によっては、マーケティングや広告の再調整が必要となる場合もあります。
両社が同じ製品や市場を持っている場合、規模の経済で効率アップを図れる反面、統合後に事業の重複が生じ、効率性や収益性に悪影響を及ぼす可能性もあります。
買い手:化粧品メーカー|売り手:化粧品原料メーカー
続いて、買い手が化粧品メーカー、売り手が化粧品原料メーカーのM&Aにおけるメリット・デメリットを見ていきましょう。
メリット
買い手が化粧品メーカー、売り手が化粧品原料メーカーのM&Aにおけるメリットには以下のようなものが挙げられます。
- 調達コスト削減
- 新製品・新技術の開発力強化
- 事業拡大と多角化
本来であれば化粧品メーカーは製品の原料を外部から調達しなければなりません。
化粧品原料メーカーを買収することによって、化粧品メーカーは原料の調達コストが削減できます。
また、共通のサプライヤーとの交渉力も増し、より有利な契約条件を獲得できる可能性が高まるでしょう。
製品に関するノウハウ取得や技術や独自原料の使用により開発力強化が可能となります。
化粧品メーカーは化粧品原料メーカー買収により、自社の事業を多角化させることが可能です。原料メーカーの技術や製品を取り込むことにより、新たな市場への進出が可能になります。結果として化粧品メーカーは事業の安定化が見込めるでしょう。
デメリット
他方、買い手が化粧品メーカー、売り手が化粧品原料メーカーのM&Aの場合次のようなデメリットもあります。
- 原材料の価格変動リスク
- 業務プロセスの調整コスト
原材料が高騰した場合、買い手である化粧品メーカーにしわ寄せがきます。市況の変動により原料コストが上昇した場合、当然買い手の利益に悪影響を及ぼすわけです。
化粧品を扱う点は同じでも、化粧品メーカーと原料メーカーでは業務やプロセスは大きく異なります。M&Aをした場合、それらの調整をしなければなりません。
原料メーカーの運営に関する知識や経験が不足している場合、経営が困難になる可能性がある。
買い手:化粧品原料メーカー|売り手:化粧品メーカー
買い手が化粧品原料メーカーで売り手が化粧品メーカーのM&Aのメリット・デメリットを見ていきましょう。
メリット
買い手が化粧品原料メーカーで売り手が化粧品メーカーのM&A場合以下のようなメリットがあります。
- 化粧品メーカーとして自社製品の新たな市場や顧客層へのアクセス
- 新製品・新技術の開発加速
- 生産能力拡充
- 安定した需要確保
売り手である化粧品メーカーの製品やサービスを自社のポートフォリオに加えることで、化粧品の開発力・製造力を活用しより多様なニーズに応えられるようになります。また、自社の弱点を補うこともできます。
企業が持つ市場シェアやブランド力を利用することで、新規市場や顧客層への訴求も可能になるでしょう
買収した企業が持つ技術や人材を自社の研究開発に活用することで、新製品や新技術の開発促進も図れます。
デメリット
他方、次のようなデメリットも存在します。
- 統合後のミスマッチによる従業員の離脱リスク
- ブランド毀損
化粧品業界に限らず、M&Aでは、買い手と売り手の組織文化や制度の違いにより、従業員に不満が生じるケースがあります。
福利厚生や勤務体制の変化が原因で従業員が離職してしまう可能性も否定できません。
また化粧品メーカーは独自のブランド価値を持っています。
例
- 洗練されたパッケージ
- 高級感のある香り
- ネーミング
- デザイン
その化粧品メーカーならではの特色に価値を見出している消費者も多いでしょう。特に化粧品はブランドイメージが極めて重要です。
原材料メーカーが買収した場合、ブランドのイメージが変わる可能性があります。ブランドのファンや顧客からの反発や不信感が生じ、場合によっては売上が落ちるかもしれません。
買い手:化粧品メーカー|売り手:化粧品EC・D2C
買い手が化粧品メーカーで売り手が化粧品EC・D2Cのケースです。
メリット
メリットとしては次のようなものがあります。
- EC・デジタルマーケティングの強化
- デジタル世代の顧客継承
- 売上安定化
- 販売チャネルを持つことで顧客指向の製品開発ができる
- 事業拡大
買い手は化粧品EC・D2CのデジタルマーケティングおよびECのノウハウを取得することができます。
デジタル世代の顧客も引き継ぐことも可能です。
トレンドの推移が激しい化粧品業界において、直接顧客の声を集めることができるEC、D2Cの販路を持つことは大きなメリットの一つでしょう。
デメリット
他方、次のようなデメリットも存在します。
- シナジー効果を得られない可能性も
- データ統合の困難性
- 顧客の信頼低下
デジタルマーケティングやECのノウハウを取得したからといって、必ずしもプラスに働くとは限りません。デジタルマーケティングは経験が重要だからです。
ノウハウそのものはとり入れることができてもEC・D2Cに関する経験が不足している場合、経営が困難になる可能性があります。
化粧品メーカーによる買収で、ECサービスやポリシーの変更を余儀なくされるケースがあります。
配送やカスタマーサポートの品質の低下などが顧客満足の低下につながるリスクも否めません。
その結果として顧客離れを引き起こせば、売り手のECにとって、大きなマイナスとなるでしょう。
またデータ統合も困難です。
ECプラットフォームは多くの顧客データを蓄積しています。しかし、化粧品メーカーがそれらのデータをそのまま使えるわけではありません。データの相違や重複している場合があるからです。また一人の顧客が複数のアカウントを所持しているケースも考えられます。
買い手の化粧品メーカーの顧客データとECの顧客データを一つひとつ突き合わせ、確認することが求められるのです。
データの統合そのものはクリアできても、プライバシーの問題などその他の問題が発生する可能性があります。
買い手:小売|売り手:化粧品メーカー
買い手が小売、売り手が化粧品メーカーのケースを見ていきましょう。
メリット
買い手が小売、売り手が化粧品メーカーのM&Aのメリットには次のようなものが挙げられます。
- 製品ラインナップの拡充
- 自社ブランド化粧品事業の新規展開・拡大
- 販売チャネル販路開拓
相手先の商品ポートフォリオを取り入れることで商品ラインナップを拡大可能です。
化粧品メーカーの開発力、製造力を生かして、オリジナルブランド化粧品事業を立ち上げることができます。
今後化粧品業界では、差別化が重要になりますからオリジナルブランドを生み出せる点は魅力的と言えるでしょう。
デメリット
他方、次のようなデメリットも存在します。
- ブランドイメージ毀損
- 統合失敗リスク
- 知識や経験不足による経営悪化リスク
化粧品メーカーのブランドイメージは、消費者にとって大切な選択基準の一つです。買収によりブランドイメージが変わると、消費者からの信頼を失う可能性があります。結果としてビジネスの成長を妨げるかもしれません。
化粧品メーカーの業務は小売業者の業務と様々な点で異なります。
(例)
- 製品開発
- 生産
- 品質管理
新たな業務が増えることで経営が複雑化し、手間が増える可能性があります。
買収後に期待通りのシナジー効果が得られなかった場合、企業全体の経営が悪化する恐れがあります。
化粧品会社と他業種とのM&Aが増加傾向
近年、化粧品会社は他業種とM&Aをするケースが増えています。化粧品会社がM&Aをすることが多い業種や、その背景について見ていきましょう。
ファンド
化粧品会社がM&Aをするケースが多い業種の1つが、ファンドです。
化粧品会社がファンドとM&Aや事業譲渡する目的は次のようなものがあります。
- 事業基盤安定化
- 成長加速
- 競争優位性獲得と大幅な利益率向上
- 販売チャネル拡大
ファンドと資本提携を結ぶことで事業基盤が安定します。
ファンドの有するネットワークや内部資源の活用、販売チャネルの最適化により、収益性を向上させることも可能です。
これからの化粧品市場では顧客ニーズに応じた製品作りや差別化が欠かせません。
ファンドの支援を受けることにより、新たな技術や製品開発に取り組むことができます。
需要の変化や市場のトレンドに柔軟に対応できる体制を整えることができ、競合に優位に立つことができるわけです。
例えば資生堂が一部事業をファンドに譲渡した事例があります。
資生堂ブランドとマーケティング戦略が異なるスキンケアビューティー分野について、資生堂ブランドから分離独立した上で、経営改革・事業ポートフォリオ再構築を行いました。さらに、新しい組織に資本提携し、世界的な競争優位性獲得と大幅な利益率向上を図る戦略を実行しました。
コンサルティング・飲食
コンサルティングや飲食の会社とM&Aをする化粧品会社も少なくありません。
化粧品会社がコンサルティング会社と提携する目的には以下のようなものが考えられます。
- マーケティングなどのノウハウ取得
- 既存商品のブランディング
競争が激化する化粧品業界においては、ブランディングや差別化が重要です。コンサルティング会社のブランド・マーケティングノウハウを取得すれば、 化粧品のブランドリニューアルの推進が見込めるでしょう。
飲食業界とM&Aをする背景としては、例えば以下のようなものが考えられます。
- ビジネスチャンスの創出
- ブランドイメージの向上
化粧品会社が飲食会社を買収することで、新しいプロダクトやサービスを開発する可能性が広がります。例えば、美容成分を配合した飲食商品の開発などです。
化粧品会社が飲食会社を買収することで、化粧品会社のブランドイメージに「健康」や「自然」などの新たな価値を追加することが可能となります。
消費者の健康志向が高まりを見せる昨今において、ナチュラルなイメージは化粧品会社にプラスの影響をもたらしてくれるでしょう。
まとめ
化粧品業界は堅調ですが、今後大きな変化が予想される業界でもあり、対応できないと取り残される可能性があります。
化粧品会社のM&Aは業種・業態によってメリット・デメリット、注意点が異なります。個人でM&Aを行うことも不可能ではありませんが、専門家に相談するのが安全でしょう。
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