旅行代理店(旅行会社)のM&Aとは?旅行業界の動向や事例も紹介
2024年3月19日
このページのまとめ
- 2022年以降、旅行業界において観光需要が大幅に回復しつつある
- 旅行代理店・旅行会社のM&Aは、同業種間のほか異業種間でも実施されている
- 旅行代理店M&Aの買い手のメリットは、スケールの拡大や新規参入ができること等
- 旅行代理店M&Aの売り手のメリットは、後継者問題の解消や従業員の雇用継続など
旅行代理店のM&Aを検討している方もいるのではないでしょうか。
近年、旅行業界同士でも、異業種と旅行業界でも、M&Aが実施されています。
このコラムでは、旅行業界・旅行代理店の動向やM&Aを成功させるポイントなどを紹介しています。そのほか、旅行代理店のM&Aを実施するメリットや、相場も説明しているため、参考にしてください。
目次
旅行業界・旅行代理店の特徴・特色
一般的に、旅行業界とは、旅行者のために移動手段や宿泊施設を手配したり、パッケージ旅行のプラン作成やツアーの仲介・販売などを手がけたりする業界のことです。旅行業界には、旅行業と旅行業者の販売を代理する旅行業者代理業があります。
旅行業を営む場合も旅行業者代理業を営む場合も、旅行業法に基づき観光庁長官または都道府県知事による登録を受けなければなりません。
登録の際、旅行業者や旅行業代理業者は以下の5種類に区分されます。
- (旅行業者)第1種
- (旅行業者)第2種
- (旅行業者)第3種
- (旅行業者)地域限定
- 旅行業者代理業
5種類の主な違いは、それぞれの業務範囲です。
たとえば、海外の募集型企画旅行は第1種の旅行業者しかできません。募集型企画旅行とは、旅行業者があらかじめ旅行計画を作成し、旅行者を募集する業務のことです。
旅行代理店とは、5種類のうち旅行業者代理業のことを指します。旅行代理店ができるのは、旅行業者から委託された業務のみです。その代わり、他の4種と異なり営業保証金を用意する必要がありません。
旅行業界・旅行代理店の動向
日本では、ビザの戦略的緩和や訪日外国人旅行者向け消費税免税制度の拡充、交通ネットワークの充実など観光に関するさまざまな政策を実施したことで、2011年以降インバウンド需要が順調に拡大していました。
しかし、新型コロナウイルス感染拡大に伴う水際措置の強化などにより、2020年・2021年の外国人観光客数は大幅に減少します。2019年の訪日外国人旅行者数が3,188万人を記録したのに対し、2020年は412万人、2021年は25万人でした。
2022年3月に入り、まん延防止等重点措置が全面解除され、同年10月に全国旅行支援が始まったことで、観光需要が大幅に回復しつつあります。
近年「ワーケーション」や「ブレジャー」など、新たな旅のスタイルが誕生しました。
「Work(仕事)」と「Vacation(休暇)」を合わせた造語の「ワーケーション」は、テレワークなどを活用して普段の職場や自宅とは異なる場所で仕事をしつつ、自分の時間も過ごすことです。
また、「Business(ビジネス)」と「Leisure(レジャー)」を組み合わせた造語の[「ブレジャー」は、出張などの機会に現地での滞在を延長し、余暇を楽しむことを指します。
今後、旅行業界(旅行代理店)は、インバウンド復調に伴う外国人観光客の取り込みや、新たな旅のスタイルにいかに対応していくかが生き残りの鍵となるでしょう。
参照元:
国土交通省「令和5年版観光白書について(概要版)」
国土交通省 観光庁「『新たな旅のスタイル』ワーケーション&ブレジャー」
旅行代理店・旅行会社のM&A
旅行代理店や旅行会社でも、M&Aが実施されています。M&Aとは、「Mergers(合併)and Acquisitions(買収)」の略で、主に会社の売買のことです。
ここから、旅行代理店や旅行会社のM&Aの現状や、相場について解説します。
旅行代理店・旅行会社のM&Aの現状
旅行代理店・旅行会社のM&Aは、同業種のなかで実施されるほか、異業種との間で実施されることもあります。
同業種同士の場合は、サービスをカバーできる範囲を広げること、異業種とのM&Aの場合は新規参入を図ることなどが主な目的です。
また、M&Aを実施するにあたって、さまざまな手法が用いられています。代表的な手法が、株式譲渡や第三者割当増資です。
株式譲渡とは、M&Aの対象会社の株式の対価を金銭で支払い、経営権を取得する手法を指します。株式譲渡のメリットは、手続きが比較的スムーズな点などです。
第三者割当増資とは、特定の第三者に対して新株を割り当てて発行することを指します。第三者割当増資を用いれば、売り手は新株発行で経営権を手放さずに資金調達できます。
そのほか、株式譲渡や第三者割当増資のような(狭義の)M&A以外に、旅行代理店・旅行会社が資本業務提携を締結することもあります。資本業務提携を締結すれば、他の旅行代理店が有する販売チャネルなどの経営資源を活用できる点がメリットです。
なお、資本業務提携を広義のM&Aに含めることもあります。
旅行代理店のM&A相場
対象企業の規模によって金額が大きく異なるため、旅行代理店のM&A相場を出すことは困難です。過去には、1億円を超える事例もあるため、売却側は強みがあれば高値での取引も期待できるでしょう。
M&Aの価格は、コストアプローチ・インカムアプローチ・マーケットアプローチの手法を用いて企業価値を算出してから、買い手と売り手の交渉で決まることが一般的です。企業価値の算出には、専門的な知識が必要になります。
売り手はできるだけ高く、買い手はできるだけ安く取引するためには、対象会社の適切な価格を把握できるように、専門家へ相談しましょう。
旅行代理店のM&Aにおける買収側のメリット
旅行代理店のM&Aをするときの買収側のメリットは以下の3つです。
- 事業の強化やスケール拡大ができる
- 異業種でも短期間で旅行業界に参入できる
- 旅行業界ならではのシステムやノウハウを引き継げる
買収側にとってのメリットを詳しく解説します。
事業の強化やスケール拡大ができる
旅行代理店をM&Aで買収すれば、事業の強化やスケールの拡大ができる点が買い手のメリットです。たとえば、九州・沖縄旅行に強みがある会社が、北海道旅行に強みのある会社をM&Aで買収すれば、北から南まで幅広いエリアをカバーできます。
今まで国内旅行しか手がけていない旅行代理店・旅行会社でも、海外旅行を扱う会社を買収すれば、ビジネスチャンスが広がるでしょう。
異業種でも短期間で旅行業界に参入できる
旅行業とは異なる事業を営む異業種の会社でも、旅行代理店とのM&Aを行うことによって短期間で旅行業界に参入できる点もメリットです。
本来、旅行代理店や旅行会社を一から立ち上げるためには、以下の手続きを進めなければなりません。
- 旅行業者、旅行業者代理業者として登録する
- 旅行業務取扱管理者を選任する
- 旅行代理店を営む営業所を確保する
旅行業法によると、旅行業者や旅行業者代理業者は、営業所ごとに一定の資格を持った旅行業務取扱管理者を選任し、旅行の取引条件の説明などの業務の管理・監督にあたらせなければなりません。原則として、旅行業務取扱管理者になるには国家試験(旅行業務取扱管理者試験)への合格が必要です。
すでに営業している旅行代理店をM&Aで取得すれば、上記のような手続きを省略できます。スムーズに旅行業界に参入できるでしょう。
参照元:国土交通省 観光庁「国家試験のご案内(旅行業務取扱管理者)」
旅行業界ならではのシステムやノウハウを引き継げる
異業種の場合、旅行代理店とのM&Aで旅行業界のシステムを手に入れられる点もメリットです。たとえば、オンライン予約システムなどが整っている旅行代理店を買収できれば、幅広い層にアプローチできます。
また、旅行業界のノウハウを備えた人材を獲得できる点も、M&Aを実施するメリットです。優秀な人材がいれば、異業種から参入しても早い段階から安定した売上を期待できるでしょう。
旅行代理店のM&Aにおける売却側のメリット
旅行代理店をM&Aで売却する場合、主なメリットは以下のとおりです。
- 後継者不在の課題を解消できる
- 従業員の雇用を継続できる
- 売却益を得られる
各メリットを解説します。
後継者不在の課題を解消できる
後継者不在の課題を解消できる点がメリットです。後継者が不在で、やむをえず廃業を考えている場合でも、買い手を見つけてM&Aを実施すれば事業を継続できます。
株式会社帝国データバンクの2『全国企業「後継者不在率」動向調査(2022)』によると、2022年の全国・全業種約27万社の後継者不在率は57.2%でした。近年改善傾向にはありますが、依然として半分以上の会社で後継者不在率の問題を抱えていることがわかります。
また、2022年の代表者の就任経緯では、「M&Aほか」の割合が調査開始以降初めて2割(20.3%)を超えたとのことです。
データは全業種のものですが、旅行業界でも後継者不在を解消する方法として、今後M&Aが注目を集めるでしょう。
参照元:株式会社帝国データバンク『全国企業「後継者不在率」動向調査(2022)』(2022年11月16日)
従業員の雇用を継続できる
M&Aで売却することで、事業を廃業させずに従業員の雇用を継続できる点もメリットです。
経営者は会社を残したいと考えていても、後継者不在や業績不振などの理由で廃業せざるをえないことがあります。しかし、廃業すると従業員の雇用を継続できなくなってしまいます。
そういった状況下でM&Aを選択すれば、旅行代理店で働く従業員の雇用を継続できます。場合によっては、M&A後のほうが従業員の待遇が良くなる可能性もあります。
売却益を得られる
M&Aで売却することによって、譲渡した会社や事業の対価が受け取れます。
対価が現金であるM&Aのスキームを選択すれば、売却益を得ることが可能です。
旅行代理店(旅行会社)のM&A事例
旅行代理店(旅行会社)が買い手としてM&Aする事例、旅行代理店(旅行会社)が売り手としてM&Aする事例など、旅行業界のM&A事例は豊富です。近年では、以下の事例があります。
- 旅行会社がアプリ事業を買収
- タクシー会社が旅行会社を買収
- 旅行会社の子会社を印刷会社に売却
各事例の詳しい内容を確認していきましょう。
旅行会社がアプリ事業を買収
2020年3月、アジアを舞台に旅行事業やライフイノベーション事業、投資事業などを手がける株式会社エアトリが、自社の子会社を通じてFAST JAPAN株式会社の事業である「Tabiko(タビコ)」を買収した事例を紹介します。
Tabikoは、訪日外国人観光客向けのチャットコンシェルジュアプリです。タビマエ(旅行前)からタビナカ(旅行中)まで、ユーザーに寄り添うホスピタリティが特徴として挙げられます。
エアトリが事業譲受を決断したきっかけの理由は、子会社であるインバウンドプラットフォーム社の訪日観光客向けポケットWi-Fiや、キャンピングカーのレンタル事業などの強化につながると考えたためです。
事業譲受後の2020年3月に、さっそくTabikoをリニューアルしています。
タクシー会社が旅行会社を買収
2019年12月、タクシーやバス運営などの事業を営む第一交通産業株式会社が、日中間の旅行を中心とした旅行業を営む西日本日中旅行社を買収した事例です。
第一交通産業は、ツアー業務の企画・募集が可能になり、インバウンドの客層を取り込めると判断し、西日本日中旅行社の買収を決断しました。本件により、第一交通産業の中国子会社との連携による相乗効果を高めることも期待できる見込みです。
参照元:第一交通産業株式会社「株式会社西日本日中旅行社の株式取得について」
旅行会社の子会社を印刷会社に売却
2020年3月、株式会社JTBのグループ会社で観光関連の販促事業を担う株式会社JTBプランニングネットワークが、大日本印刷株式会社(DNP)に売却された事例です。
大日本印刷はJTBプランニングネットワークの株式の95%を取得して子会社化し、JTBプランニングネットワークの社名をDNPプランニングネットワークに変更しています。
日本でMICEに代表されるビジネスイベントで多くの集客交流が見込まれるため、大日本印刷は旅行・観光関係の市場拡大を期待して子会社化を決断しました。今後は、DNPプランニングネットワークの強みやノウハウを活かし、高い相乗効果を発揮して旅行・観光事業の拡大を図るとのことです。
参照元:大日本印刷株式会社「JTBプランニングネットワークを子会社化」
旅行代理店M&Aで買収を成功させるポイント
M&Aで旅行代理店を買収する際の主なポイントは、以下のとおりです。
- 事業の将来性を分析する
- シナジー効果を見極める
各ポイントを詳しく解説します。
事業の将来性を分析する
買い手は、買収する予定がある旅行代理店の将来性を分析することがポイントです。
業界や買収対象会社について調査し、将来性を測りましょう。
また、旅行代理店をM&Aで買収するうえでは、リスクも見極めなければなりません。M&Aを実施する際は、財務面・法務面・税務面などさまざまなリスクがあります。専門家によるデューデリジェンスを実施することにより、リスクについて調査してください。
シナジー効果を見極める
旅行代理店をM&Aで取得する買い手は、対象の企業を買収することでどのようなシナジー効果を期待できるかを見極めることが大切です。シナジー効果とは、M&Aによってそれぞれが単独で活動する以上の効果を発揮できることを指します。
たとえば、専門エリアが異なる会社同士のM&Aや、対面販売に強い会社とオンライン販売に強い会社のM&Aであれば、シナジー効果を期待できるでしょう。
旅行代理店M&Aで売却を成功させるポイント
M&Aで旅行代理店を売却する際の主なポイントは、下記のとおりです。
- 強みをつくる
- 財務改善をする
それぞれのポイントを以下で詳しく解説します。
強みをつくる
旅行代理店の経営者がM&Aで売却することを考えているのであれば、事前に強みをつくることがポイントです。オンライン売買システムが整っているなど、強みやシナジー効果をアピールすれば、相場より高く売却できることがあります。
財務改善をする
交渉前に財務内容や業績の改善を目指すことも大切です。遊休資産がある場合は、あらかじめ処分して現金化しておくとよいでしょう。
まとめ
旅行代理店・旅行会社のM&Aは同業種同士だけでなく、異業種との間で実施されることもあります。
同業種でM&Aが実施される場合、事業の拡大・強化ができるメリットが期待できます。
異業種がM&Aで旅行代理店を買収する場合、一から立ち上げるよりもスムーズに旅行業界に参入できる点がメリットです。
M&Aで旅行代理店を売却する側も、後継者問題の解消や従業員の雇用継続などのメリットを得られます。
M&Aで旅行代理店を買収する際は、将来性を分析したり、シナジー効果を見極めたりすることが大切です。M&Aで失敗しないために、専門家によるデューデリジェンスを検討しましょう。
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