製造業M&Aの最新動向や事例を紹介 成功する企業の特徴や相場価格も解説

2024年8月16日

製造業M&Aの最新動向や事例を紹介 成功する企業の特徴や相場価格も解説

このページのまとめ

  • 製造業の分野では大手企業と中小企業との間のM&Aや異業種間のM&Aが多い
  • 製造業界のIT化や事業の方向転換を目的とするM&Aもある
  • 製造業M&Aを成功させる企業には、業績の安定や経営資源が希少といった特徴がある
  • 製造業M&Aの売却相場は、規模や会社形態に合わせた算定方法を用いて計算する

製造業のM&Aを考えている方もいるのではないでしょうか?
製造業界でのM&Aは活発に実施されており、成功事例も多くあります。

この記事では、製造業におけるM&Aの最新動向や事例を紹介します。また、M&Aが成功している企業の特徴や、売却価格の相場の考え方についても解説します。
製造業M&Aの動向やポイントを押さえて、自社のM&Aの実施に万全の状態で臨みましょう。

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製造業界の市場規模

政府統計「経済構造実態調査」によると、製造業の売上高は、以下の通り推移しています。

製造業売上高(百万円)
2020年385,918,889
2021年414,819,046
2022年453,846,613

製造業は日本経済の重要な柱であり、その市場規模は国内総生産(GDP)の約2割を占めています。例えば、2021年には、製造業におけるGDPは約113兆円で、日本全体の20.6%を占めていました。また、2022年には製造業の売上高が約453兆8,466億円に達しています。

参照元:
総務省「「2022年経済構造実態調査」二次集計結果 産業横断調査(企業等に関する集計)
総務省「「2023年経済構造実態調査」一次集計結果 産業横断調査(企業等に関する集計)」 

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製造業のM&A動向

ここでは、製造業のM&A動向をご紹介します。

IT化導入を目的とした異業種M&A

現代社会においては社会経済活動のあらゆる側面において電子機器が普及しIT化が進んでいます。しかしその一方で、電子化やIT化が浸透せずに旧態依然とした非効率的なやり方が残っている部分も少なくありません。

経済産業省は、2010年代後半以降、IT技術を活用して業務効率を向上させるDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進を重要政策として位置づけ、産業界におけるDX推進を後押ししてきました。
また、2021年9月にデジタル庁が発足し、行政実務においてもDX推進が積極的に進められるようになったのも記憶に新しいところです。

このような社会的事情を背景として、IT化・DX推進のための契機として行われる異業種間のM&Aが着目されるようになっています。

業務効率の上昇やコスト削減を目的としたM&Aも増加

製造業の分野においても、製品、製造設備、技術やノウハウに着目した直接部門に対する施策としてだけでなく、間接部門における業務効率の上昇やコスト削減といったことをも目的としてM&Aが増加中です。伝統的な製造事業者が、最新のテクノロジーを有するITベンチャー企業を買収する事例が増えてきています。
すでにある程度DXが進んだ製造事業者が、さらなる改善や技術革新によって競争力を高めるために、積極的にM&Aを行う場合もあります。

中小の製造業事業者の中には、優れた製品を製造する力があっても、製造工程に直接関連しない部分でIT技術の導入が進んでいなかったり、ITに長けた人材が不足したりしていて、技術面及び人的資源の問題からDX推進が実現できずにいる企業が一定数あります。
一方で、ITベンチャー企業は、自らの技術やサービスが広く活用されて社会的、経済的に影響力を有するようになることを目指しており、自社の事業を高く評価してくれる企業に対して事業自体を売却することに積極的です。

事業の方向転換のためのM&A

歴史と伝統のある企業が、既存事業からの方向転換を図るためにM&Aを活用するケースがあります。

製造業者は、製造ライン、原材料、製品、従業員といった有形資産を多く抱えており、サービスや技術を提供している企業と比べて事業の方向転換を図ることが容易ではありません。
そこで、M&Aが採択されます。法人や事業部門そのものを買収したり売却したりすることで、事業の刷新を図ります。
M&Aにより、従来の人的・物的資源を生かしつつ、新しい技術やノウハウを取り込んで新しい製品を製造することが可能になります。
自社単独で新製品の製造販売を目指してゼロから開発を手がけるよりも、M&Aを通じて、より迅速かつ効率良く目的を達成できるでしょう。

コアとなる事業以外の事業を売却するケースも増加

また、これまで複数の事業を手掛けて多角的に経営してきた製造事業者が、対象製品や事業を限定して経営効率を上げるために、コアとなる事業以外の事業を売却するケースもあります。
この場合、売却対象の事業は売却先に引き継がれるので、自社が築き上げてきた事業を守ることができます。そのうえ、事業の売却代金を資金繰りに当てたり、コア事業への投資に活用したりすることが可能です。

中小企業が大手企業の傘下に入るためのM&A

日本の製造業は、製品の品質や供給の安定性に関しては世界有数の高いレベルを誇ります。
その一方で、少子高齢化による労働人口の不足、賃金や原材料の高騰、国内市場の縮小、競争力のある外国製品との競争の激化といった社会構造的な問題にさらされて、中小製造業者の多くは、資金繰り悪化による倒産のリスクや後継者不在の課題を抱えています。

倒産件数の増加と後継者不足

東京商工リサーチが公表した「全国企業倒産状況(2023年)」によると、2023年の全国企業倒産(負債総額1,000万円以上)は8,690件で前年比35.1%増、このうち製造業の倒産件数は977件で前年比35.31%増であり、倒産件数は増加傾向にあります。

一方、後継者不在の問題に関して、株式会社帝国データバンクの「全国「後継者不在率」動向調査(2023年)」によると、2023年の製造業における後継者不在率は45.5%で、ここ数年は後継者不在率が改善してきています。

この点については、中小企業の多くがコロナ関連融資等を活用して自社事業の将来性に改めて向き合い、後継者問題解決・改善が進んだものと分析されています。
ただ、それでもなお後継者不足の問題が解消したというにはほど遠く、現在も製造業のうち、半分近い企業が後継者不足の問題を抱えている状況です。

参照元:
株式会社東京商工リサーチ「2023年(令和5年)の全国企業倒産8,690件
株式会社帝国データバンク「全国「後継者不在率」動向調査(2023年)」p3

中小企業が大手企業の傘下に入ることを選択するケースが増加

こういった倒産や後継者不在の問題は、経済動向や社会構造上の問題に由来するものであり、一企業の自助努力によって容易に解消できるものではありません。
むしろ、経済社会の変化の波に押されて、ますます問題が深刻化していくことが予想されるところです。

このようなことから、資金繰り難や経営者の高齢化を機に、中小企業が大手企業の傘下に入ることを選択するケースが増えています。

大手企業の側としても、これまで部品製造やOEM等で取引をしていた技術力のある企業を自社グループに取り込むことで、製造工程の効率化と安定化を図ることができます。
また、自社にはない製品の製造事業を買収することで、自社のラインナップに新しい製品を加えることができるようになります。

ファンドによる業績低迷中のメーカー買収

ファンドとは、投資家から預かったお金を使ってさまざまな分野で投資を行い、投資を上回るリターンを得て投資家に還元することを目的とする組織体のことです。

投資対象や投資戦略によってさまざまなファンドのカテゴリーが存在しますが、企業への投資手段として積極的にM&A 市場に参加しているのは、主にプライベートエクイティ(PE)ファンドやベンチャーキャピタル(VC)ファンド、再生ファンドと呼ばれるファンド群です。

ファンドは、M&A 市場に参加するにあたって資金や経営改善によって成長する可能性がある企業を投資の対象として選定して投資を行います。
日本には規模に関係なく業績は低迷していても高い技術力を持っているという製造業者が一定数あるため、こういった製造業者がファンドによる買収の対象となるケースのM&Aが数多くあります。

技術革新を目的としたM&A

製造業は、技術革新を達成するためにM&Aを活用しています。新たな技術や特許を持つ企業とのM&Aを通じて、製造業者は自社の製品開発能力を強化し、競争力を向上させることができます。

特許技術は、その技術に関して独占的に使用できる権利であるため、特許を持つ企業とのM&Aにより、製造業者はその技術を自社の製品開発に活用できます。これにより、製造業者は製品の性能を向上させたり、新たな製品ラインを開発したりすることが可能となります。

特許技術を持つ企業とのM&Aにより、製造業者は競合他社が持っていない技術を手に入れることが可能です。これにより、製造業者は市場での立ち位置を強化し、事業の成長を促進できます。

また、新たな技術の開発は、時間とコストがかかるだけでなく、成功しないリスクもあります。すでに特許を取得している技術を持つ企業とのM&Aにより、このリスクを軽減できます。

生産効率化を目的としたM&A

生産効率の向上が目的である場合、特に、生産体制やノウハウの集約を目指すM&Aに注目が集まっています。これには、生産プロセスをより効率的に管理し、コストを削減するための重要な戦略が含まれているためです。

例えば、同じ製品を製造する複数の事業所を一つに集約することで、設備投資や人件費などのコスト削減が可能です。また、ある企業が持っている生産ノウハウを取り入れることで生産プロセスをより効率的に管理し、効率化と品質向上の両方を実現できます。

さらに、M&Aを通じて生産拠点を複数の地域に分散できます。これにより、一つの地域で生じた問題(例えば自然災害や労働争議など)が全体の生産活動に影響を及ぼすリスクを軽減できます。

市場拡大を目的としたM&A

新たな市場への進出は、企業の成長を促進し、競争力を強化する重要な戦略です。異なる市場に強い企業とのM&Aを通じて新たな顧客層を獲得し、売上増加が目指せます。

新たな市場への進出による新たな顧客層獲得ができなければ、現状維持あるいは売上減少要因につながります。新たな市場に進出するには、その市場の特性を理解し、競合他社と差別化するための戦略が欠かせません。これには、製品の品質、価格、ブランド力など、企業の競争力を強化する要素が関わってきます。

異なる市場に強い企業とのM&Aを通じて、製造業者は相手企業が持つ市場知識、顧客ネットワーク、ブランド力などを活用できます。これにより、新たな市場にスムーズに進出し、新規顧客層を獲得、結果的に売上増加が見込めます。

環境対応を目的としたM&A

境対応技術を持つ企業とのM&Aを通じて、製造業者は環境負荷の軽減を図り、持続可能な製造プロセスを実現できます。

環境対応技術を自社の製造プロセスに活用できるためです。この場合の環境負荷の軽減とは、製造工程におけるエネルギー効率の向上により二酸化炭素の排出量の削減、排水処理の最適化を図ることが挙げられます。排水から有害な資源を回収することで水質汚染を防止し、製品の設計や原材料の選定、製造、市場への流通に至るまで、製品のライフサイクル全体における環境負荷の低減が可能となるでしょう。化石燃料の使用を減らし、温室効果ガスの排出を削減することも挙げられます。

昨今の社会的な流れであるSDGsの取り組みもあり、環境対応は製造業のM&Aにおいても注目されています。

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製造業界の課題

ここでは、昨今の日本における製造業界の課題について解説します。

少子高齢化による人材不足

日本全体の問題でもある少子高齢化は製造業界にも深刻な影響を与えており、人材不足が深刻化しています。製造業の就業者数はこの20年間で大幅に減少しており、特に若年層の減少が顕著です。一方で、高齢就業者は増加しており、業界全体での高齢化が進行しています。

このような状況下、企業は人材確保に苦慮しており、経済産業省のアンケート調査に対して多くの企業が「人材確保に課題がある」と回答しています。製造業においては、人材の採用と定着が最優先課題であり、3Kという負のイメージを払拭し、魅力的な職場環境を整えることが求められます。最悪の場合、「人がいなくても稼働する」体制の構築も検討するべきでしょう。

参照元:経済産業省「我が国ものづくり産業が直面する課題と展望」p25

設備投資の不足による自動化の遅れ

現在、多くの製造業では老朽化した設備を使い続けており、結果的に自動化の遅れにつながっています。特に、メーカーのサポートが終了した設備では故障時のリスクが高く、生産ラインが止まる可能性もあります。新型コロナウイルスの影響で一時期設備投資が停滞しましたが、最近では投資が増加傾向であるといえます。

ただし、有形固定資産への投資は進んでいるものの、無形固定資産への投資が不足しているため、工場のIoT化やテレワークの推進が遅れています。無形固定資産への投資は業務効率化やコスト削減にも寄与するため、今後の設備投資においてはこれらへの重点的な投資が必要です。

人材育成が進まず技術承継が困難

日本の製造業は高い技術力を誇りますが、その技術力の多くは職人個人に依存しています。このため、技術の教え方や伝え方がうまくいかず、育成に時間がかかることや引き継ぐ人がいないという問題が発生しています。

経済産業省のデータによれば、計画的なOJTやOFF-JTを実施する企業の割合が減少しており、人材育成において指導する人材の不足が深刻です。技術の承継ができなければ高い技術力を持っていても衰退してしまうため、AIやIoTを活用した技術共有の仕組みづくりが急務です。

参照元:経済産業省・厚生労働省・文部科学省「2022年版 ものづくり白書(令和3年度 ものづくり基盤技術の振興施策)概 要」,p18

人件費の高騰

日本では生産年齢人口の減少により労働力が不足しており、これが人件費の高騰を招いています。特に専門的な技能を持つ人材が不足しており、企業は優秀な人材を確保するために高い待遇を提供する必要があります。

さらに、最低賃金の引き上げも人件費の高騰に影響を与えており、企業は他社に人材を奪われないようにするために、最低賃金以上の賃金を提示せざるを得ません。これらの要因が重なり、製造業界では人件費の高騰が避けられない状況となっています。

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製造業のM&Aのメリット(買収・売却)

ここでは、製造業のM&Aにおけるメリットについて解消できる課題を中心に、買収側と売却側のそれぞれの立場から解説します。

買収側のメリット

買収側のメリットには、以下の5つが挙げられます。

技術力がある人材の確保ができる

製造業界では、団塊の世代の退職により人材の確保や育成が深刻な課題となっています。人材の確保や育成には多大な時間とコストがかかるものの、M&Aによって譲受企業は譲渡企業の技術と人材を同時に確保できるため、これらの負担を大幅に削減できます。特に、優秀な人材や最新の技術を一括で獲得できることは、初期投資や採用・教育活動の手間を省き、即戦力を確保する手段として有効です。

必要な設備や技術をそのまま活用できる

M&Aによって製造業の企業を譲受することで、既存の設備や技術をそのまま活用することができます。一から原材料の仕入れ先を探し、設備を整えるには多大なコストと時間がかかりますが、M&Aを活用すれば初期コストを抑え、迅速に事業を展開することが可能です。コスト管理は将来内製化を目指す場合にも必要になるため、特に重要視されます。M&Aにより、事業の立ち上げや拡大に必要な時間と費用を大幅に削減することができます。

事業の内製化ができる

製造業界では、業務の効率化やコスト削減を目的として内製化を進める企業が多くあります。内製化には自社が持たない技術やノウハウが必要となるため、これらを持つ企業をM&Aで買収することで効率的に実現できます。外部委託していた業務を自社内で行うことで、業務プロセスの効率化やコスト削減が可能となり、競争力を強化することができます。

事業の成長・立ち上げにかかる時間を短縮できる

製造業の成長や新規事業の立ち上げには、ノウハウや技術、人材、取引先などの経営資源が不可欠であり、一から揃えるには多大な時間がかかります。しかし、M&Aを通じてこれらの経営資源を一括で取得することで、迅速に事業を展開し、市場の変化にも対応することが可能です。

シナジー効果が期待できる

買収企業と売却企業のシナジー効果とは、具体的には、販売シナジーや生産シナジー、投資シナジー、経営シナジーなどがあります。

販売シナジーは流通経路や生産設備、生産シナジーは生産に関する情報、投資シナジーは投資のノウハウや技術、経営シナジーはMA&によりもたらされる経営能力の向上に関する相乗効果を指します。これにより、事業の多角化や強化、拡大を図ることでスケールメリットを得ることができます。その結果、コスト削減や知名度向上による広告費用の削減など、事業全体の効率性と収益性を向上させることにつながります。

売却側のメリット

売却側のメリットには、以下の5つが挙げられます。

後継者がいなくても事業が継続できる

製造業界では人材不足による後継者問題が深刻化していますが、M&Aを選択することで、新たな経営者のもと、会社や事業を存続させられます。

さらに、事業を売却することで得られる譲渡益を新事業の立ち上げなどに活用できるため、経営者にとっては多大なメリットとなります。また、廃業に伴う設備や施設の処分コストを削減できるため、企業の持続的な発展に役立ちます。

経営者の老後の資金が確保できる

後継者がいない場合や経営者が高齢で引退を考えている場合、事業を売却することで、経営者は譲渡益を得て老後の生活資金も確保できます。

さらに、M&Aを通じて経営者が負っている連帯保証(個人保証)を解除することが可能となり、会社が倒産した場合でも個人で債務を返済する必要がなくなります。これにより、経営者は財務リスクから解放され、安心して引退生活を送ることができます。

従業員の雇用先を確保できる

特に中小企業の場合、大手企業との合併や買収は、従業員の長期的な雇用を保障する手段となり得ます。

さらに、資源の統合によって従業員のキャリアアップの機会が増えることも期待でき、製造業の悩みの一つである技術の承継も可能になります。ただし、事業譲渡などの手法では雇用契約を締結し直す必要がある場合も想定されるため、注意が必要です。

廃業コスト削減ができる

企業が廃業する際には設備や施設の処分に多大なコストがかかりますが、M&Aを通じて事業を売却することでこれらを削減することができます。特に製造業では廃業に伴う処分コストが高額になることが多いため、経済的なメリットが大きいです。

顧客や従業員への影響を最小限に抑えることができる点でも、経営者は安心して事業を譲渡することができます。これにより、企業の持続可能な成長を支援し、地域経済への影響を軽減することにつながります。

売却・譲渡益の獲得ができる

この譲渡益は、新事業の立ち上げや事業拡大のための資金として活用することができます。特に製造業では設備投資や人材育成に多額の資金が必要とされるため、売却による資金調達は大きなメリットです。M&Aを通じて得られる譲渡益は、経営者が次のステップへ進むための強力なサポートとなります。

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製造業のM&Aの4つの事例

2023年上半期の製造業のM&Aの事例を4つご紹介します。

サンコーテクノと新光ナイロンのM&A

2023年4月、建材メーカーであるサンコーテクノ株式会社は、新光ナイロン株式会社の全株式を取得し子会社化しました。

グループの製品バリエーションを拡充し、既存市場および新市場への販売拡大を積極的に進めることが目的とされています。

参照元:サンコーテクノ株式会社「新光ナイロン株式会社の株式の取得(子会社化)に関するお知らせ

日本電産と緑測器のM&A

2023年3月、日本電産株式会社は傘下の日本電産コパル電子株式会社を通じて、電子部品製造を行う株式会社緑測器の全株式を取得し子会社化しました。

両社はいずれも安定して成長しており、製品ラインナップに重複がありません。グループ化によって両社共に売上拡大を図れると見込まれました。両社の開発リソースを結集することで新製品開発の相乗効果も期待できるため、今回のM&Aに至ったと説明されています。

参照元:日本電産株式会社「当社子会社による株式会社緑測器の株式取得に関する譲渡契約締結のお知らせ

雪国まいたけと三蔵農林のM&A

2023年2月、株式会社雪国まいたけは同社の完全子会社である株式会社三蔵農林について、雪国まいたけを存続会社として三蔵農林を消滅会社とする吸収合併を行いました(効力発生は4月)。

雪国まいたけグループの事業シナジー強化による販路拡大や生産効率改善が目的とされています。

参照元:株式会社雪国まいたけ「吸収合併に関する事後備置書類

影山鉄工所と小出鋳造所のM&A

2023年2月、株式会社影山鉄工所と同社グループは、株式会社小出鋳造所の全株式を取得しました。

小出鋳造所は高い技術があり安定した経営ながら、事業承継が課題だったことから、影山グループが得意とする生産管理のデジタル化等のノウハウを活用して生産性を向上して収益性を高めるために、今回のM&Aが行われました。

なお、影山鉄工所グループは2020年からM&Aを積極的に進めており、小出鋳造所とのM&Aで4社目になります。

参照元:
株式会社影山鉄工所「【PressRelease】事業拡大へ向けてM&Aを活用!影山グループに碧南市の株式会社小出鋳造所が加入
株式会社影山鉄工所「私たちのM&Aの取り組み

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製造業のM&Aが成功する企業の3つの特徴

M&Aを成功させた企業の成功要因はさまざまですが、複数の事例を比較してみると共通している特徴があることがわかります。

以下では、M&Aを成功させた企業に共通する3つの特徴をご紹介します。

業績が安定していて将来性がある

製造業のM&Aの事例を見ると、売却側の企業の業績が安定していて将来性がある場合ほど成功しやすいということがわかります。

業績が安定していて将来性があれば、M&Aで事業を売却する必要はないのではないかと思う方もいるかもしれません。
しかし、今は業績が安定していても今後もそうだとは限りません。業績が安定していて企業価値・事業価値が高く付きやすいタイミングで先行して事業を売却したり、さらなる発展のためにより大きな企業グループの傘下に入ることを選択したりすることは、極めて合理的な判断だといえます。

買収側としても、現時点で業績が安定している会社であれば安心して買収を検討できます。

なお、「経営は不安定であるが事業には将来性がある」という製造業者がM&Aで事業の売却を希望する場合、買収側から事業の将来性について厳しくチェックされるということを認識しておく必要があります。
買い手企業にとって、将来性がある事業を営んでいるにもかかわらず経営がうまくいっていないことは懸念点です。しかし、交渉をとおして有望な事業だと買収企業に伝えることができれば、経営が不安定だとしても将来性が加味された金額で売却できる可能性があります。

希少性のある経営資源を持っている

M&Aでの売却を成功させた製造業者の特徴の一つとして、希少性のある経営資源を持っていることが挙げられます。

製造業における経営資源とは、製造設備という物的資源に加えて、技術やノウハウといった技術的資源、仕入先や取引先、販売網、製品の市場シェア、認知度といった環境資源、さらに経営陣や従業員、スタッフの人的資源などを指します。
こうした各種類の経営資源について魅力的なものを持つ製造業者は、その希少性に着目した相手に自社の事業を良い条件で買い取ってもらえる可能性が高くなります。

PMIに注力している

M&Aの実施後、新しい経営体制の下で経営・業務・意識などの統合を行います。。これらの統合プロセスのことをPMI(Post Merger Integration)と呼びます。

PMIをとおして新しい価値が生み出されて相互にとってプラスとなること、つまりはシナジー効果を生み出すことこそが、M&Aを行う最大の目的です。

PMIを怠った場合、当初想定していたシナジー効果を生み出せない恐れがあります。経営の悪化、業務効率の低下、人材流出などの事態を招いてしまうこともあるでしょう。

買収する側・売却する側ともに、M&Aによるシナジー効果を最大限にするためにPMIの過程までしっかりやり通すことが大切です。

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製造業のM&Aにおける売却価格の相場の考え方

M&Aのスキームは大別して、株式譲渡・株式交換・第三者割当増資といった手続を利用した「株式取得」と、事業譲渡の手続を利用した「事業取得」の二つに分けることができます。

株式取得の場合は、買収側が一定の資金を提供して売却側の株式を取得することになりますので、取得する株式の時価総額(一株あたりの株価×取得株式数)がいくらかということが観点となります。

事業取得の場合は、買収側が売却側から事業を購入することになりますので、その購入価格(事業譲渡価格)がいくらになるのかということが観点です。

M&Aの対価を決定する際には、まず売却側の企業や事業の価値の評価(バリュエーション)を行います。そのうえで具体的な売却条件を考慮して、買収側と売却側の交渉によって最終的な金額を決定します。

バリュエーションにもさまざまな手法があり、当該事案において適切と思われる手法を選択して用います。
以下においては、売却側の企業の属性に応じて、典型的な評価手法をご紹介します。

中小企業の売却相場の考え方

売却側が中小企業・零細企業の場合は、コストアプローチという対象企業が保有する資産を基準としたバリュエーションが行われることが多いです。

コストアプローチは、貸借対照表に記載された純資産額という数値データを基にするため客観性がありますが、その反面、将来的に生み出される収益やM&Aによるシナジー効果は考慮されません。

コストアプローチによる算定方法には、簿価純資産法と時価純資産法などがあります。

簿価純資産法

簿価純資産法は、賃借対照表の総資産から負債を差し引いて算出した純資産額を評価額とする方法です。
貸借対照表の数値を用いて簡易に算定できるため、簡易的なバリュエーションにも使えて便利ですが、簿外債務等の存在により貸借対照表の数値が実態と乖離している場合には正確性を欠くことになる点に注意が必要です。

時価純資産法

時価純資産法は、資産や負債を時価に換算したうえで純資産額を算定し、これを評価額とする計算法です。
すべての資産や負債について時価評価することは煩雑かつ困難ですので、不動産や売掛金等の含み損益が生じやすい科目のみを時価に換算することで対応することが多いです。

なお、この時価純資産法をベースとしつつ、時価純資産価額に含まれない無形の経営資産(のれん)として数年分の営業利益を加算して算出する年買法(年倍法)という方法が採用されることもあります。
ただし、年買法(年倍法)はM&A実務では理論的な裏付けが薄いため、あまり使用されなくなっています。

ベンチャー・中堅・大企業の売却相場の考え方

ベンチャー企業・中堅企業・大企業のバリュエーションについては、インカムアプローチやマーケットアプローチが採用されることが多いです。

インカムアプローチは将来的に期待される収益価値を換算する手法で、主なものとしてはDCF法(ディスカウンテッド・キャッシュフロー法)と配当還元法があります。

DCF法

DCF法は、将来的なキャッシュフローを現在の価値に換算する計算方法で、最も一般的なバリュエーション手法です。
具体的には、市場動向等も考慮に入れて概ね5年分の収益予測を立てたうえで、一定の割引率を適用して現在価値を算出します。
製造業の場合、保有している特許権や特許権を得る可能性がある技術についての評価を考慮に入れることができる点で非常に有効です。

配当還元法

配当還元法は、将来の株主への配当金に基づき売却価格を算定する計算法です。
配当金成長率等から比較的簡単に計算することができる反面、対象企業の配当政策次第で変動するために予測に基づく計算と実績が大きく乖離する可能性があるので、株主が少数の場合などに限定して用いられています。

類似企業比較法

マーケットアプローチは株式市場の取引を参考にする手法で、主なものとして類似企業比較法があります。
類似企業比較法は、業種や規模の点で対象企業と類似している複数の上場企業をピックアップし、それらの企業の財務指標を元にバリュエーションを行う方法です。
財務資料としてよく用いられるのは、EBITDA(イービットディーエー/利息及び税金控除前利益+減価償却費)です。
EBITDA倍率を用いた計算では、買収対象の事業から生まれるキャッシュフローから何年で買収金額を回収できるかという観点でバリュエーションを行います。

上場企業の場合の売却相場の考え方

売却側が上場企業である場合のバリュエーションについては、市場株価法が使えます。

市場株価法は、対象企業の株価をベースに価値を算定する方法です。
株価は長期的に見れば企業価値を適切に反映されていくと考えられる一方で、短期的にはマーケット情勢や社会情勢等によって企業価値と無関係に変動することもあるので、毎日の終値について過去1ヶ月~6ヶ月などの平均値を取ったうえで評価額とします。

市場株価法は株式市場の参加者によって形成された株価をベースに評価されるため、通常は客観性が高いものになると考えられています。

しかし、上場企業でも株式取引数が少なく株式の流動性が低い場合や、さまざまな要因により一時的に株価が乱高下している場合には、バリュエーションの方法として適切でないこともあるので注意が必要です。

なお、売却側が上場企業である場合において、株式取得によってM&Aを行うときは、通常、金融商品取引法及び関連規定に従って株式公開買付け(TOB)を行います。この際の株式購入価格(TOB価格)は直近の株価(株式市場における取引価格)がベースになります。

この場合でも、実際の購入価格をいくらに設定するかの判断のためにバリュエーションが行われます。

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まとめ

製造業界では、大手企業と中小企業のM&Aが増加しています。主な目的は資金繰りの悪化や後継者問題などを解決することです。また、IT化を推進するための異業種とのM&Aや、事業の方向転換をさせるためのM&Aも実施されています。

製造業でのM&Aを成功させるためには、将来性のある事業を持っていることをアピールすると良いでしょう。業績が安定している状態でM&Aに乗り出せば、さらに成功率が上がります。経営が窮地に追い込まれてからM&Aを検討するのではなく、計画的に売却することを考えましょう。
また、希少性の高い経営資源を持つ企業もM&Aを成功させやすいです。自社が持つ物的資源・技術的資源・環境資源・人的資源を整理し、強みを見出してください。
そのほか、M&A後の経営統合作業であるPMIに注力することも成功のポイントです。M&Aで生じるシナジー効果を最大限にさせられるような戦略を立てましょう。

レバレジーズM&Aアドバイザリー株式会社は、製造業をはじめとするさまざまな分野のM&A全般をサポートする仲介会社です。
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監修者|山口 智寛

監修者

山口 智寛

弁護士。M&A、事業再生、事業承継、中国台湾関連案件、その他企業法務全般を取り扱う。モットーは、「紛争解決よりも紛争予防」「フットワークは軽く、コミュニケーションは厚く」。経済産業省の経営革新等支援機関の認定を受け、規模、業種、地域を問わず様々な企業法務案件を手掛ける。一方、趣味として学んでいた中国語を業務にも活かすべく、台湾に留学。国立台湾大学での学習の傍ら、現地の法律事務所で実務研修を受ける。帰国後は従来の専門分野である企業法務に加え、中国・台湾のネットワークを活用した支援業務を行っている。