半導体業界でM&Aが活発な理由は?売却・買収の事例や最新動向を紹介

2024年8月16日

半導体業界でM&Aが活発な理由は?売却・買収の事例や最新動向を紹介

このページのまとめ

  • 半導体の会社でM&Aが活発な理由は、業界の需要拡大や政策支援が進んでいることなど
  • 半導体業界のM&Aの売り手のメリットは、事業の継続や大手の傘下に入れることなど
  • 半導体業界のM&Aの買い手のメリットは、事業成長の促進やシナジー効果の獲得など
  • 半導体業界のM&Aを成功させるためには、事前の調査や入念な戦略策定が大切

この記事をお読みの方の中には半導体業界でのM&Aを検討している方もいらっしゃるのではないでしょうか?近年、半導体の需要は拡大しており、業界内でのM&Aも活発化しています。

本記事では、半導体業界においてM&Aが盛んに実施されている理由、M&Aの動向や事例を紹介します。そのほか、半導体業界の市場動向やM&Aを実施するメリットやデメリットも解説するので、ぜひ参考にしてM&Aの成功にお役立てください。

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半導体業界の市場動向と今後の見通し

この章では、世界と日本における半導体業界の市場動向と今後の見通しについて解説します。

世界の半導体市場動向

2023年の世界半導体市場は前年比8.2%の減少となりました。これは世界的なインフレや金利の上昇、地政学的リスクの増大が個人消費や企業の設備投資に影響を与え、AI関連や自動車用途を除いた半導体需要が低調だったためです。

2024年には前年比16.0%の成長が予測されています。AI関連投資が引き続き世界的に活発であり、メモリや一部のロジック製品の需要が急増することが期待されているためです。しかし、AI関連を除くと上述のマイナス要因が継続しており、半導体需要は依然として低調です。そのため、2024年春季半導体市場予測会議では下半期の急回復は見込まれず、通年では多くの製品で前年比マイナス成長の予測となりました。

なお、2025年には、前年比12.5%のさらなる市場拡大が見込まれています。AI関連の需要に加え、環境対応や自動化などの成長分野が半導体市場の継続的な成長を支えると期待されています。

日本の半導体市場動向(円ベース)

2023年の日本の半導体市場は、前年比3.8%増の約6兆5,637億円となりました。2024年には4.6%のプラス成長が続き、市場規模は約6兆8,670億円となる見込みです。2025年には成長が加速し、前年比9.3%増の約7兆5,088億円に達すると予測されています。

参照元:一般社団法人電子情報技術産業協会「世界半導体市場統計(WSTS) 2024年春季半導体市場予測について

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半導体業界のM&Aの動向

半導体産業の分野は競争が激しいうえに技術革新のスピードも速いです。しかし新規開発や製造ラインの見直しを行うためには、多額の資金が必要です。そのため、従来から半導体関連事業者でのM&Aによる業界再編や統合が行われる傾向があります。

加えて、半導体需要の拡大や日本を含む世界各国政府による政策支援を背景として、近年は、ファンドや商社が半導体事業者を買収するM&A、日本企業と外国企業との間のM&Aが非常に増えてきています。また、買収金額が数千億円を超える規模の超大型M&Aも発生しています。

世界的に技術革新やIT化・DX推進が盛んになっており、世界各国が半導体関連事業を重要産業分野と位置付けて政策支援を行っている状況です。半導体業界の競争が国内に留まらず、国際的な競争になることもあるでしょう。

これらのことを踏まえると、半導体業界のM&Aは今後も加速・拡大していく可能性が高いものと思われます。

世界の半導体業界におけるM&A動向

半導体業界においては、激しい競争と急速な技術革新が進行する中、各企業は市場での成長と市場シェアの拡大を目指してM&A(合併および買収)を積極的に活用しています。これにより、業界内の地位や影響力が変容しつつあります。

大手企業の統合と市場シェアの拡大

近年、半導体業界では特に大手企業による統合が目立ちます。その結果、企業は研究開発力や製造能力を結集し、より競争力のある製品を提供できるようになっています。
2016年に実施されたソフトバンクグループ株式会社によるARMの3.3兆円規模の買収もその例です。

参照元:ソフトバンクグループ株式会社「当社によるARM買収の提案に関するお知らせ

技術の獲得と革新の促進

M&Aは新たな技術や知的財産を取得する手段でもあります。特に、先進的な半導体技術や特許を保有するスタートアップ企業の買収が増加しています。また、企業間のシナジー効果により、新製品やサービスの開発が加速されることもあります。
2018年にベインキャピタルが東芝メモリを2.05兆円で買収した事例もあります。

参照元:株式会社東芝「東芝メモリ株式会社の株式譲渡に関するお知らせ

グローバルな競争と地域の影響力

半導体業界ではグローバルな競争が激化し、特に中国やアジア地域の企業が急成長しています。これにより、従来の主要企業に対する競争が一段と厳しくなり、地域の影響力の再編が進んでいます。また、地政学的なリスクや規制の変化もM&Aの展開に影響を与えています。

日本の半導体業界におけるM&Aの動向

半導体業界のM&Aは、業界全体の発展において重要な役割を果たしており、今後もその動向が注目されます。日本の半導体業界においても、M&Aがシェアの再編や競争力の強化に向けて重要な手段として位置付けられています。

日本企業は1980年代には設計から開発・製造まで行う垂直統合型のデバイスメーカーとして世界的なシェアを誇っていましたが、1990年代以降、そのシェアは低下し続けています。

この低下の原因として以下の要因が考えられます。

  • 日米半導体協定による貿易規制
  • メモリからロジック(CPU)へのトレンドの変化
  • ファブレス企業やファウンドリ企業との連携が遅れ、水平分離・オープンイノベーション型ビジネスモデルへの適応が難航
  • 国内のデジタル投資の遅れにより、半導体の国内設計体制が整わなかったこと
  • 長期不況による国内企業の投資縮小と、韓国・台湾・中国の半導体企業の国家的支援による成長

このような状況に対応するため、日本政府は2021年に半導体戦略の策定を行いました。

戦略の柱の一つとして、海外先端ファウンドリ企業の誘致と日本企業との共同開発・共同生産の推進があります。この戦略の一環として、日本の大手企業による海外ファウンドリ企業へのM&A(出資)の動きも始まっています。

日本企業の多くは半導体メーカーとしてはシェアを低下させる中で、半導体素材・部品・製造装置分野では比較的高い競争力を維持しており、M&Aの買い手または売り手として活発に動いています。

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半導体業界のケース別のM&A傾向

ここからは、半導体業界同士のM&Aのほか、IT会社やファンドが半導体関連会社を買収したケースなどについて、それぞれメリットや目的について解説します。

売却側・買収側ともに半導体メーカーである場合のM&A

半導体業界のM&Aにおいて、売却側・買収側ともに半導体メーカーであるケースでは、半導体需要の拡大に応じるための製品開発や技術革新が主な目的です。この目的を果たすために半導体メーカー同士での提携や協力、合併などを行うことが有効であると考えられ、M&Aが実施されます。
合併によってスケールメリットを獲得すると同時に、相互の長所を生かして競争力を向上させられます。また、技術提携や製造拠点の統廃合などにより経営の合理化が実現することも可能です。

売却側が半導体専門商社・買収側がIT関連商社である場合のM&A

売却側が半導体専門商社、買収側がIT関連商社というM&Aもあります。

この場合、買収側のIT関連商社の商品ラインナップの中心は、電子機器やそれらを用いたサービスです。
M&Aで半導体の販売事業を取得し、自社の商品ラインナップの中に半導体を加えたいということが目的です。半導体事業を取り入れることで、販売力を強化したり取り扱う半導体製品の種類やグレードを上げて販路を拡大したりできます。

一方、売却側である半導体専門商社の側の目的としては主に「不採算事業の切り離し」や「大手企業の傘下に入ること」です。

売却側が半導体メーカー・買収側がファンドである場合のM&A

売却側が半導体メーカー、買収側がファンドの場合、買収側であるファンド側の目的は明確です。

ファンドは、投資家から預かったお金を投資によって増やし、投資家に還元することを事業の根幹としています。
そのため、ファンドが半導体メーカーを買収する場合は、「技術力があるが経営上の課題を抱えている半導体メーカー」や「将来性のある半導体メーカー」がメインです。
そうしたメーカーを買収し、経営改善を図り企業価値を高めたうえで、IPOや自らが売却側となるM&Aによって売却します。

そのファンドが出資している他企業とのシナジー効果も考慮に入れて、半導体メーカーの買収に乗り出すこともあります。

売却側の半導体メーカーのM&Aの目的は、主に製造ラインの拡充のための資金投入や、業務オペレーションの効率化援助、人員整理や拡充、販路開拓などです。

業績が安定している半導体メーカーが、上場を目指す過程でファンドとのM&Aを行う(ファンドに資本参加してもらう)ケースもあります。

売却側が電子部品メーカー・買収側が半導体メーカーである場合のM&A

買収側の目的は事業の幅を広げ、総合的なソリューション能力を強化することです。半導体メーカーは、電子部品メーカーの持つ独自の技術や製品を獲得することで、製品を拡充し、技術的優位性を高めます。特に、電子部品メーカーが特定のニッチな技術や特許を持っている場合、半導体メーカーにとって非常に魅力的なターゲットとなります。

一方、売却側である電子部品メーカーは、大手半導体メーカーの傘下に入ることで、経営資源(資金、人材、技術など)の最適化が図れ、事業継続の安定性が高まるメリットがあります。

売却側・買収側ともに半導体商社である場合のM&A

売却側と買収側の目的は取り扱い商品を充実させ、お互いの顧客基盤を活用して販売を拡大することです。異なる製品ラインを持つ商社同士の統合により、提供する製品やサービスが多様化し、顧客に対してより広範なソリューションを提供できるようになります。また、人材や技術、情報などの経営資源を共有することで、全体の効率を高めることにもつながります。

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半導体業界でM&Aが活発である3つの理由

半導体業界ではM&Aが非常に活発に行われています。ここではその理由をご説明します。

半導体の需要が拡大している

総務省の「令和4年 情報通信白書」によると、世界における半導体の出荷額は2015年から増加傾向にあり、2021年には9兆4,999億円となりました。

日本では半導体の出荷額が2018年から減少していましたが、2021年は7,412億円と増加に転じています。

半導体需要の拡大の背景には、新しい通信規格の普及、産業分野におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進に伴うデータ通信機器の需要増大、生活分野におけるIoT機器の普及、電気自動車(EV)等の最新機器の生産増大等が挙げられます。

さらに、2020年以降はコロナ禍での在宅勤務用の機器の需要急増と製造工場の稼働の不安定が重なり、半導体の需要がますます拡大しました。今後も半導体の需要は拡大し続けることが予想されます。

日本の半導体メーカーはこのような半導体需要の拡大を背景として、市場競争力の低下を克服するためにさまざまな取り組みを行っています。

例えば、工場買収を伴う国内メーカー同士のM&Aによって製造面でのスケールメリットを獲得したり、国外企業との提携によって新たな開発拠点や製造拠点を取得したりして活路を見出そうとするケースが増えています。

参照元:総務省「令和4年 情報通信白書

半導体産業への政策支援が行われている

日本の半導体産業は、技術革新や研究開発体制整備の遅れから生産規模や製造技術では最先端とは言えなくなってきており、国際競争力が低下しています。
このような状況を克服するべく、日本政府は半導体産業への政策的支援を行っています。

2021年から経済産業省が開催している「半導体・デジタル産業戦略検討会議」が提言した「半導体・デジタル産業戦略」では、具体的な目標として以下の3つの項目を挙げています。

  1. 国家事業としての産業基盤の確保
  2. 日本に根差す事業者の確立と世界的相互依存関係での地位確立
  3. デジタル化とグリーン化の同時達成、早期実用化

これらの目標を達成するための具体的な施策の1つとして、日本メーカーと海外メーカーとの提携についても言及されています。

また、日本政府は、2022年5月に成立した「経済安全保障推進法」に基づき安定供給をめざす「特定重要物資」の一つとして半導体を指定し、今後、国家予算を投じて半導体のサプライチェーン強化を図っていくこととしました。

このような半導体産業への政策支援を背景として、半導体業界内での事業再編と統合の機運がさらに高まり、半導体業界でのM&Aがますます活発になっています。

参照元:
経済産業省「半導体・デジタル産業戦略
経済産業省「経済安全保推進法

技術革新のスピードが速い

半導体産業の分野は国内外を問わず競争が激しく技術革新のスピードも速いため、トレンドに遅れた半導体メーカーが凋落するケースも多々あります。

一方で、競争力を維持・獲得するために研究開発を行って新しい技術を開発したり、先端の製造装置を導入して製造工程を刷新したりするためには多額の資金が必要であり、資金力が乏しい企業が容易にできることではありません。

そのため、半導体業界内での事業再編と統合が行われやすい土壌にあります。

従来から半導体メーカー同士でのM&Aの事例が多くみられるほか、ファンドや商社が資金を投じて半導体事業で勝負するために既存の半導体メーカーをM&Aによって買収する事例もあります。

買収金額が数千億円を超える規模の超大型M&Aも少なくない一方で、固有の分野に強みを持つ中小企業のM&Aも多くあります。

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半導体業界のM&Aの事例

この章では半導体業界のM&Aの事例をご紹介します。

フェローテックホールディングスとコスモ・サイエンスのM&A

2023年4月、半導体関連製品の製造・販売事業者であるフェローテックホールディングスは、グループ会社であるフェローテックマテリアルテクノロジーズを通してコスモ・サイエンス(半導体製造装置部品メーカー)の全株式を取得し子会社化しました。

同社グループは地政学的リスク分散などの観点から、生産拠点を日本にしたいと考えています。今回のM&Aにより、日本国内での生産能力や開発力の向上、金属加工事業の強化を期待しています。

参照元:PR TIMES「真空装置の受託製造企業コスモ・サイエンス社買収に関するお知らせ

ミネベアミツミとSSCのM&A

2023年4月、ミネベアミツミは、グループ会社のエイブリックを通じて半導体設計を手がけるSSCの全株式を取得し子会社化しました。

エイブリックが有する半導体の設計・開発ノウハウと、SSCが有する最先端の技術力の両方を活用して、商品開発およびマーケット開発を強化する目的とされています。

参照元:ミネベアミツミ株式会社「株式会社SSCの株式取得(子会社化)完了に関するお知らせ

TOWAとK-Tool EngineeringのM&A

2023年2月、半導体製造装置メーカーであるTOWAは、マレーシアに子会社を設立したうえで、金型製造メーカーであるK-Tool Engineering Sdn. Bhd.から金型製造事業を取得することを決めました。

TOWAは東南アジア各国に半導体製造装置の製造・販売拠点を持っており、近年、EV向け車載用半導体や電力用パワー半導体の需要が高まる中、東南アジアでの設備投資を活発化させています。

今回のM&Aは半導体製造装置と金型の設計、製造、販売の一貫体制を構築することが目的とされています。

参照元:TOWA「マレーシアにおける金型製造事業譲受及び製造子会社の設立並びに特定子会社の異動に関するお知らせ

ブイ・テクノロジーとジャパンクリエイトのM&A

2022年12月、精密機器メーカーのブイ・テクノロジーは、半導体製造装置メーカーのジャパンクリエイトの全株式を取得して子会社化することを決めました。

ブイ・テクノロジーは、主力のフラットパネルディスプレイ用製造装置・検査装置事業のノウハウを生かして半導体製造装置事業を開拓することを企図しており、ジャパンクリエイトの顧客基盤と製品技術との相乗効果を見込んでM&Aに至りました。

参照元:株式会社ブイ・テクノロジー「ジャパンクリエイト株式会社の株式取得(完全子会社化)に関するお知らせ

キオクシアと中部東芝エンジニアリングのM&A

2022年6月、半導体メモリー大手であるキオクシアホールディングスは、中部東芝エンジニアリングの全株式を取得し完全子会社化しました。中部東芝エンジニアリングは東芝の子会社で半導体開発・設計の支援業務などを手掛ける会社です。

これに伴い、「中部東芝エンジニアリング株式会社」は社名を「キオクシアエンジニアリング株式会社」に変更しました。

キオクシアホールディングスは東芝の半導体メモリー事業が独立する形で設立された法人であり、中部東芝エンジニアリングは、従前、キオクシアホールディングスの工場所在地に事業所を持ち支援業務を手がけていました。

今回のM&Aは、コスト改善、技術開発力の強化、工場における生産システムの開発・運用の強化を図る目的であると説明されています。

参照元:
キオクシアホールディングス株式会社「中部東芝エンジニアリング株式会社の株式取得(子会社化)の完了とキオクシアエンジニアリング株式会社への社名変更について
東芝デジタルソリューションズ株式会社「中部東芝エンジニアリング株式会社の株式譲渡について

ディー・クルー・テクノロジーズと日清紡ホールディングスのM&A

2022年2月、半導体等の製造販売等を営む日清紡ホールディングスは、半導体開発事業を営むディー・クルー・テクノロジーズ(エレコム傘下)の全株式を取得し完全子会社化しました。

ディー・クルー・テクノロジーズは日清紡グループからの開発受託で収益の安定化を図り、同グループの顧客基盤を活用して受注を拡大、過去の開発資源を再利用できます。日清紡ホールディングスは、子会社である日清紡マイクロデバイスが、アナログ半導体技術を基にした各種産業向け総合ソリューション提供事業を展開するために必要な技術分野を補完できます。

参照元:エレコム株式会社「ディー・クルー・テクノロジーズ株式会社の株式譲渡に関するお知らせ

京都セミコンダクターとデクセリアルズのM&A

2022年3月デクセリアルズがマイクロデバイス、光半導体デバイス製品の開発・製造を行う京都セミコンダクターを子会社化しました。デクセリアルズが京都セミコンダクターの全株式を取得し、18.9%について日本政策投資銀行に譲渡しました。

譲渡金額は約88億円(京都セミコンダクターの株式の81.1%の取得金額とアドバイザリー費用などを含む)です。

両社の強みを組み合わせて、高速通信やセンシング分野での新製品や新技術の共同開発、顧客基盤の拡大を目指すとのことです。

参照元:デクセリアルズ株式会社「株式会社 京都セミコンダクターの株式の取得(子会社化)に関するお知らせ

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半導体業界のM&Aのメリット

ここでは、売却側と買収側それぞれの立場に立って半導体業界のM&Aのメリットを紹介します。

売却側の3つのメリット

まずは、半導体業界のM&Aにおける売却側のメリットを紹介します。

事業を継続できる

中小の半導体メーカーの多くは、収益構造や資金繰りの悪化、人員不足、後継者不在といった課題を抱えています。
コロナ以降はこのような課題がますます悪化し、もはや自社だけでは解決できない状況になり、倒産や廃業の危険にさらされているところも少なくありません。

このような場合、M&Aを実施することで倒産や廃業を回避し、買収側の企業の下で事業継続を図ることができる可能性があります。

大手企業の傘下入りが可能となる

半導体業界は競争が激しく変化のスピードが速いため、中小企業が競争力を維持することは容易ではありません。
また、賃金や原材料の高騰、国内市場の縮小、競争力のある外国製品との競争の激化といった社会構造的な問題にも立ち向かう必要があります。

このような背景から、中小企業が大手企業の傘下に入ってグループ企業の一つとして事業を営むことの優位性が大きくなっています。
大手企業の傘下に入るというメリットを享受するための手段として、中小企業がM&Aを選択するケースが増えています。

事業の選択と集中につながる

これまで複数の事業を手がけて多角的に経営してきた半導体事業者が、対象製品やサービスを限定して経営効率を上げるために、コアとなる事業以外の事業を売却する例もあります。

この場合に採用される方法がM&Aによる売却です。売却対象の事業を廃業してしまうのではなく売却先に引き継いでもらうことで、自社が築き上げてきた事業を守ることができます。
M&Aを成功させることができれば、事業の売却代金を資金繰りに当てたりコア事業への投資に活用したりすることもできます。

買収側の3つのメリット

次に、半導体業界のM&Aにおける買収側のメリットを紹介します。

製造工程と商品の充実が見込める

M&Aにより製造ラインを内製化することで、コスト削減・品質向上・安定供給等を実現できる可能性があります。
また、自社にはない半導体製品の製造事業を買収することで、自社のラインナップに新しい製品を加えることができるようになります。

成長のスピードアップが見込める

新規事業をゼロから立ち上げて確立させることは、多大な労力と時間がかかります。また、自社単独で事業を拡大させることも容易ではありません。
しかし、M&Aを活用すれば、事業が安定した状態で新規参入したり、スピーディな事業成長を進めたりすることが可能です。

シナジー効果が生まれる

半導体業界のM&Aには、売却側・買収側ともに半導体メーカーであるケースが多くありますが、同じ業種であったとしても企業文化や持っている経営資源は異なっています。
M&A実行後はM&Aの効果を最大化させるための経営統合プロセス(PMI)を行います。PMIを経て、相互の強みを補強し合った形でシナジー効果が生まれることは、M&Aを行う買収側にとってのメリットの一つです。

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半導体業界のM&Aのデメリット

次に、半導体業界のM&Aのデメリットを紹介します。

売却側の3つのデメリット

半導体業界のM&Aにおける売却側のデメリットは以下のとおりです。

期待した効果が得られない可能性がある

さまざまな要因によりM&Aを行う目的が達成されない可能性があることは、デメリットの一つだといえます。

たとえば、従業員の雇用を守るために廃業ではなく事業譲渡を選択したのに、タイミングを見計らって買収側が従業員のリストラを敢行し、結局従業員の雇用を守ることができなかったというようなケースです。

このような事態を防ぐためには、M&Aの条件交渉および契約の段階で、専門家の助言を得ながら慎重に対応することが重要です。

また、買収側に悪質な意図がなくても、M&A実行後に当初想定した成果を得られないこともあります。事前のリスクヘッジも入念に行いましょう。

買収側が経営破綻する恐れがある

中小事業者が大手企業との間でM&Aを行い、大手企業に事業を売却して傘下に入った後、買取側の企業の経営が破綻してしまう可能性もゼロではありません。

M&Aは会社や従業員の未来を左右する、非常に大きな選択です。M&Aを実施する前に、必ず買収側の経営状態を精査しましょう。調べた結果、懸念点が見つかった場合は、M&Aの実施を見送ることも検討してください。

期待した効果が得られない可能性がある

M&Aは新たな市場機会を追求できる一方で、文化の違いや競争法の順守、データセンターなどのインフラ整備、財務リスクなどさまざまな課題も伴います。計画したM&Aが成約しない場合もあります。したがって、企業はリスクとリターンを慎重に評価し、戦略的に取り組む必要があります。

買収側の3つのデメリット

次に、半導体業界のM&Aの買収側のデメリットを紹介します。

資金不足に陥る可能性がある

首尾よくM&Aを実施したとしても、想定外の追加資金の投入が必要となったり、買収した事業が思うような業績を出せなかったりして、結局資金不足に陥るケースも少なくありません。

M&Aによって資金繰りが悪化する事態を回避すべく、買収側は、M&Aの実施前・実施後のいずれにおいても常に資金繰りをチェックする必要があります。

計画が頓挫することがある

一定の目的をもって計画的にM&Aを実施したものの、想定していたような成果を上げることができず、計画が頓挫する可能性があるのも、買収側のデメリットといえます。

M&Aそのものは問題なく実施されたとしても、その後の経営統合プロセス(PMI)が円滑に行われないことで、結局、上記のような計画の頓挫に至ってしまうこともありますので留意が必要です。

売り手企業の技術や特許によるシナジーが実現されない可能性がある

M&Aによって期待したシナジーが実現しない可能性もあります。たとえば、買収した企業の技術や特許が自社の既存技術や製品と互換性がない場合、技術の統合が困難になることがあります。また、買収対象の技術が開発途上である場合、その技術を実用化するまでに多大な時間とリソースが必要となり、期待されたシナジー効果が発揮できない可能性があります。

半導体業界のM&Aにおいて、売り手企業の技術や特許が自社にどのようなシナジーをもたらすかが重要なポイントです。

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まとめ

半導体業界では以前から多数行われていたM&Aがさらに活発化しており、国際競争力を獲得するための大型のM&Aや異業種からの半導体関連事業へ参入するためのM&Aも増加しています。

M&Aを成功させるためには、まずは目的を明確にすることが大切です。また、メリットやデメリットを踏まえたうえでM&A戦略を立てる必要があります。

半導体業界のM&Aの事例や最新動向を足がかりにして、自社の発展につなげられるようにしましょう。

レバレジーズM&Aアドバイザリー株式会社には、高い専門性を持つコンサルタントが在籍しています。人事部門をはじめとする各デューデリジェンスにも対応しており、M&Aのご成約まで一貫したサポートを提供することが可能です。

料金体系は完全成功報酬型で、M&Aご成約まで無料で利用できます(譲受会社のみ中間金あり)。ご相談も無料なので、まずはレバレジーズM&Aアドバイザリー株式会社にお問い合わせください。

監修者|山口 智寛

監修者

山口 智寛

弁護士。M&A、事業再生、事業承継、中国台湾関連案件、その他企業法務全般を取り扱う。モットーは、「紛争解決よりも紛争予防」「フットワークは軽く、コミュニケーションは厚く」。経済産業省の経営革新等支援機関の認定を受け、規模、業種、地域を問わず様々な企業法務案件を手掛ける。一方、趣味として学んでいた中国語を業務にも活かすべく、台湾に留学。国立台湾大学での学習の傍ら、現地の法律事務所で実務研修を受ける。帰国後は従来の専門分野である企業法務に加え、中国・台湾のネットワークを活用した支援業務を行っている。