設計事務所が取るべきM&A戦略とは?事例も踏まえてポイントを解説
2023年10月4日
このページのまとめ
- 設計事務所は多重下請け構造の建築プロセスにおける上流の設計を担うプレイヤー
- 設計事務所の市場は全体的に成長鈍化・人材不足・資材高騰などの課題に直面
- 市場の潮流から設計事務所単体での成長が困難となりM&Aの戦略的重要性が高まっている
- M&Aの目的には、エリアや規模の拡大・設計以外の建築機能獲得・他業種連携がある
- 設計事務所はM&Aの選択肢から戦略や強み/弱みなどを加味して判断すべき
設計事務所は業界の特性上、各事務所の得意とする領域が細分化されており、その特徴からM&Aの戦略にも多様な選択肢が存在します。さらに、業界が抱える課題などに応じて選択すべき戦略は変わってくると言えるでしょう。
本稿は、まずは複雑な設計事務所業界の特徴や構造を整理し、設計事務所が取り得るM&Aのパターンについて、過去の事例も用いながら解説することを目的としています。
目次
設計事務所のM&A動向 | 市場動向と業界課題
まず初めに、設計事務所業界全体の動向や近年抱える課題について解説します。
設計事務所業界の市場動向
設計事務所は大きな括りとして建築業界に属しており、その中の1領域を担っています。
市場規模と市場動向
建築業界全体は、XENO BRAIN 「市場規模 5年間の推移予測 建築」によると国内でおよそ25兆円の巨大市場です。市場の特徴として、オリンピックや万博など大型の国家イベントが発生した際には特需として成長するものの、近年は国内市場の成熟によって長年停滞傾向にあり、今後も同様の推移となることが予想されています。
この巨大な建築市場における設計事務所業界の占める割合を見てみましょう。日経アーキテクチュア 2022年9月8日号「設計事務所白書 2022」によると、売上高上位50社の合計から、設計事務所業界は約2,000〜4,000億円を占めていると推測できます。
これは、建築業界全体のうち約1~2%の規模にすぎません。しかし、建築市場は建物自体や設備に多くの投資を必要とすることに鑑みれば、設計という領域のみでこれだけの規模があることは、この業界の大きさを物語っているとも言えます。
※参照元:
XENO BRAIN 「市場規模 5年間の推移予測 建築」
日経アーキテクチュア 2022年9月8日号「設計事務所白書 2022」
主なプレイヤー
主なプレイヤーとしては、日建設計やNTTファシリティーズ、三菱地所設計、日本設計など、売上高100億円規模の大手企業が挙げられます。さらに数10億円ほどの中規模プレイヤーも乱立しており、特定企業による寡占はありません。非常に競争の激しい構造であると言えるでしょう。
設計事務所業界の課題
上記のような構造を持つ設計事務所業界ですが、近年ではいくつかの課題に直面していることも事実です。以下に解説します。
日本経済の停滞
建築市場とは、オフィスビルや商業施設などの開発を行うビジネス向け市場と、住居などの建築を行う家庭向け市場に分類することができます。前者のビジネス向け市場は、企業の動向すなわち日本経済の動向に左右される側面が強く、2000年代以降の日本経済の停滞を考慮すれば、建築市場への影響も容易に推測できることでしょう。
人口減少
また家庭向け市場についても、日本の人口減少により新たな戸建の建築の需要が少なくなっていることは想像に難くありません。このような日本全体のトレンドの影響によって、業界全体で成長が停滞していることは近年の課題の1つです。
人材不足
もう1つの重要な課題は慢性的な人手不足です。少子高齢化による労働人口の減少はさまざまな業界で問題視されていますが、設計事務所業界にとってはより深刻な影響をもたらしていると言っても過言ではありません。
それは設計やデザインという領域自体が個人の感性やクリエイティビティに左右される側面が強く、属人的な要素が大きいためです。このため、特に中小規模の企業では後継者不足が重要な課題として顕在化しています。
市場の変化
またここ数年で発生した課題としては、資材価格の高騰が挙げられます。各設計事務所の経営者の悩みのタネとして急速に問題視されるようになりました。
記憶に新しいCOVID-19をはじめ、グローバル経済の停滞、ロシア-ウクライナ戦争を起因とした反グローバリズムの潮流および、素材そのものの確保量の減少によって、重要資材である木材の価格が上がっています。これは「ウッドショック」と呼ばれ業界全体の課題となっており、他にもさまざまな資材の高騰によって経営難に陥る設計事務所は少なくありません。
このように、業界自体の成長鈍化、労働の担い手となる設計者の不足、資材価格の高騰によるコスト圧迫といった課題に設計事務所業界は直面しています。
設計事務所とは
続いて、設計事務所の役割や種類など、基礎事項について紹介します。
建築業界における設計事務所の特徴
設計事務所が属する建築業界は多重下請け構造になっています。多重下請け構造の特徴とは、多くのプレイヤーが各専門領域を担当し、縦割り的に工程を進める点です。建築のプロセスは、ビジネス向け市場で言えばビルオーナーや施設オーナーの、家庭向け市場では家主など施主と呼ばれる所有者の依頼や要望に基づいてスタートします。
設計事務所は建築プロセスの上流に位置する
オーナーや施主の要望に基づき、設計事務所が建築物の設計を行います。設計事務所とは、建築士や設計士など設計のスキルやノウハウを持つ人材を抱えるプレイヤーであり、設計事務所は建築プロセスにおける上流側に位置しています。
建築プロセスには多くのプレイヤーが関与する
次に、設計事務所が描いた設計に基づき、実際の施工の計画や設備計画などを行うのがゼネコンと呼ばれるプレイヤーになります。そして、サブコンと呼ばれるプレイヤーや特定の専門技術を担う工事業者が施工を担い、また資材の手配などを担う技能工と呼ばれるプレイヤーもここに関与します。
もちろん、これらの定義はあくまで基本的な例であり、例えばゼネコンが設計や施工を担うなど、各領域をまたぐ場合もあることには留意してください。いずれにしても、建築業界は多くのプレイヤーが連携し、工程を分割する多重下請け構造の形態を取っており、設計事務所はこの構造における上流の役割を担っていると覚えておきましょう。
設計事務所の種類
上記のように、建築業界では得意とする工程に応じてプレイヤーが細分化されており、設計領域を担うプレイヤーが設計事務所と位置付けられています。そしてさらに、設計事務所業界の中でもプレイヤーの種類を分類することができます。主な分類は下記の通りになります。
- 意匠設計事務所
- アトリエ設計事務所
- 組織系事務所
- コンサル系事務所
- 構造設計事務所
- 設備設計事務所
まず主要な分類として、意匠設計・構造設計・設備設計に分けることが可能です。
- 意匠設計:主に、建物の外観や内装のいわゆるデザイン部分を担う
- 構造設計:荷重構造や耐震性などの安全性を保つ構造の設計を担う
- 設備設計:電気設備や衛生設備などのインフラの設計を担う
設計事務所のプレイヤーの中でも、これらの機能を全て保有している総合設計事務所もあれば、専門性を強化し特定の分野のみを担う企業も存在します。
また、意匠設計については、建築家個人が主管するアトリエ設計事務所、アトリエと対照的に属人的ではなく組織的に設計を行う組織系事務所、アドバイザーとして都市計画や資金計画などを担うコンサル系事務所と細分化されます。
家庭向け市場における住居などの建築やリノベーションなどでは、意匠設計事務所のうち、アトリエ設計事務所か組織系事務所のいずれかに依頼するケースが多いと言えます。一方で、法人団体がビル開発などを行う際には、これらの事務所だけでなく、コンサル系事務所や構造設計事務所、設備設計事務所にも合わせて依頼することが多くなります。
設計事務所がM&Aを必要とする背景
ここからは、これまで紹介してきた業界構造やその特徴を踏まえた上で、設計事務所業界でM&Aが求められる理由について解説します。
冒頭で紹介した通り設計事務所業界は、市場全体における成長の停滞や、各プレイヤー間の激しい競争、さらに慢性的な人手不足、資材高騰などにより経営難という課題を抱えています。
このような特性から、オーガニック成長すなわち自社で育成や採用、継続投資などによる事業拡大を行うことが困難になっています。したがって、他社のリソースの活用を前提に成長を図るインオーガニック戦略が極めて重要な経営アジェンダとなりつつあるのです。
つまり設計事務所業界では、近年、業界全体における課題から自社のみでの成長が困難になっており、そのためM&Aの必要性が高まっていると言えます。
設計事務所のM&Aのパターン
続いてこの章では、設計事務所業界で行われるM&Aの主なパターンについて紹介していきます。
前章にて言及した通り、設計事務所業界の課題である業界全体の停滞や人手不足、コスト増による経営難、競争の激化の解消がM&Aを選択する目的です。設計事務所業界におけるM&Aのパターンは、どの課題の解消を主眼とするかで下記の3つに分類することができます。
- 水平統合:エリアまたは規模の拡大
- 垂直統合:建築領域の総合化
- 異業種連携:他業種のケイパビリティの獲得
1. 水平統合
まず1つ目のパターンとしては、設計における同領域でのエリアないしは規模の拡大(国内外問わず)が挙げられます。これはM&Aの分野では水平統合と呼ばれ、特定の既存領域での買収が該当します。
例えば、設備設計事務所は同じ設備設計事務所を買収し、意匠設計事務所は同じ意匠設計事務所を買収するといったケースです。
水平統合の目的
このパターンの目的としては、人手不足の解消または競争力の強化が挙げられます。例えば、東京をメイン拠点とする設計事務所が関西圏をメイン拠点とする設計事務所を買収することで顧客のネットワークを拡げることができますし、単純に設計者が足りていない事務所が他社の人員を獲得することでその不足を賄うことも該当するでしょう。
特にエリアの拡大は、建築業という業種自体が、建物の設計場所となる物理的な範囲に依拠する特性を抱えているため、重要な競争戦略の1つとなり得ます。エリア拡大は顧客ネットワークを拡げることになりますし、下流のプレイヤーとの関係性を拡げる効果も期待できます。
2. 垂直統合
2つ目のパターンは、特定の領域から別の領域のケイパビリティを獲得するケースです。これは水平統合に対して垂直統合と呼ばれ、専門性を強化するために実施されます。具体的には、意匠設計事務所が構造設計事務所を買収したり、設計事務所がサブコンや技能工を擁する会社を買収したりするケースが挙げられます。
垂直統合の目的
設計事務所が垂直統合を行う目的としては、経営難の解消や競争力の強化と言えるでしょう。
自分たちの従来の領域からビジネスを伸長することで、これまでのサービスを超えた新たな付加価値を創出し、利益改善を図ることができます。また、複数の領域を担えるという強みを有することで、提案時に他社との差別化を期待できます。
3. 異業種連携
最後のパターンは、設計業以外の異なる業種のケイパビリティを獲得するケースです。設計事務所業界に限らず、このM&Aパターンは近年増加傾向にあります。例えばIT業界の企業が自動車業界やヘルスケア業界に参入するために当該領域の企業の買収や、小売業界の企業が物流業界の企業を買収するといった例が挙げられます。
異業種連携の目的
異業種の買収を行う目的には、市場の停滞による影響の緩和や競争力強化が該当するでしょう。異なる業種と連携し、これまでの業界の枠を超えたビジネスを営むことで、一方の業界における影響を少なくすることができます。また、顧客への直接的な付加価値向上に寄与することも可能です。
このように設計事務所が行うM&Aのパターンとしては、水平統合・垂直統合・異業種連携の3つが挙げられます。各社の取り得る戦略や強みと弱みによって、適切な選択をすることが肝要と言えるでしょう。
設計事務所のM&Aの事例
ではここからは、前章の3つのパターンについて、実際の事例を用いながらそれぞれの違いを詳しく解説していきます。
水平統合:日建設計とBuchan(オーストラリア)
最初の事例は、1つ目のパターンの水平統合におけるエリア拡大を企図したM&Aになります。本件は2015年9月に発表され、日本の大手総合設計事務所である日建設計が、オーストラリアの大手建築設計事務所のBuchanと業務提携を行いました。
Buchanはオーストラリアをはじめ中国やイギリスにも拠点を持つなど、グローバルでのネットワークを有していました。グローバル展開を狙う日建設計はこのネットワークを活用し、ASEANなどへの進出が1つの狙いであったと言えるでしょう。
また、Buchanは商業施設の開発に強みを有しており、日建設計の住宅向け開発の強みと掛け合わせた垂直統合的な狙いも含んでいたと考えられます。
※参考:株式会社日建設計「オーストラリアの大手建築設計事務所・Buchan社との業務提携」
水平統合:梓設計と柳澤孝彦+TAK建築研究所
水平統合のパターンとしては、エリアを拡大することの他、人手不足解消や属人的なノウハウの獲得を狙いとした規模の拡大もあると紹介しました。本事例は、規模拡大におけるケースとなります。
株式会社梓設計は日本の大手総合設計事務所の1つですが、2019年4月に株式会社柳澤孝彦+TAK建築研究所の買収を発表しています。
柳澤孝彦+TAK建築研究所は、会社名から推測できる通り、意匠設計におけるアトリエ設計事務所に該当します。柳澤孝彦氏は数々の受賞歴や業界団体での地位を持つ著名な建築家であり、梓設計は同氏が設立した設計事務所の全株式を取得しました。
設計業務はその特性上、属人的な側面があり、優れたスキルを有する人材の獲得は、直接的に競争力の強化に繋がることも多々あります。このような性質から、梓設計も同氏の事務所が持つノウハウや権威の獲得を狙いとして、買収を実施したと推測できるでしょう。
※参照元:梓設計「株式取得のお知らせ。|News」
垂直統合:池下設計と蒼設備設計
続く事例は、2つ目のパターンである垂直統合を取り上げます。本件は2019年4月に発表され、意匠設計事務所である株式会社池下設計が株式会社蒼設備設計の買収を実施しました。
蒼設備設計は設備設計事務所に該当し、建築設備における設計や監理を専門領域としています。したがって、池下設計としては別領域である設計領域のノウハウを獲得したこととなり、これは典型的な垂直統合のケースと言えるでしょう。
本買収によって池下設計は、従来の意匠領域における外観や内装のデザインに加えて設備設計の領域も一気通貫で担えることになり、競合との差別化が可能となりました。
※参照元:池下設計「株式取得(子会社化)に関するお知らせ」
異業種連携:NTTファシリティーズ とエレクトロニック・エンバイオメンツ(アメリカ)
3つ目のパターンに該当する事例として、NTTファシリティーズによるアメリカのIT企業の買収を取り上げます。2014年11月、アメリカのエレクトロニック・エンバイオメンツがNTTグループ傘下のNTTファシリティーズの子会社になると発表されました。
エレクトロニック・エンバイオメンツはデータセンターの設備保守事業などを営む企業です。大手総合設計事務所であるNTTファシリティーズにとっては異業種であり、データセンターという特殊で専門性も必要な領域であることから、既存ビジネス領域の拡大を企図した買収であることが伺えます。
また、NTTグループ全体ではデータセンター事業にも強みを有しています。NTTファシリティーズとしてグループの強みを生かすための連携強化も期待したと言えるでしょう。
※参照元:NTTファシリティーズ「米国のデータセンターエンジニアリング会社Electronic Environments Corporationへの出資について」
その他:日建設計、NTTファシリティーズ、三菱地所設計の分社化
最後に上記の3パターンには当てはまらないケースとして、大手コングロマリットによる設計事務所領域の分社化を紹介します。この事例は、一般的には難しいケースですが、経営権を変えるという広義のM&Aに当てはまるパターンです。
当初、これらの大手設計事務所は、それぞれ住友グループ・NTTグループ・三菱グループにおいて建築などを担う企業の1つでした。しかし、専門的に設計に関する事業運営を行うために、母体企業から分社化され現在の形となっています。
このように専門性を高めるための分社化という手段も選択肢の1つです。また一方で、他業種との連携を狙いとして、コングロマリット企業の傘下となる戦略もあるでしょう。実際にこれらの大手設計事務所は、各母体企業のノウハウを持ち、他業種企業とも連携することで独自の強みを有しています。
設計事務所のM&Aの種類
次に、設計事務所のM&Aにおける基本的な手法などを紹介します。
株式譲渡
基本的には他業界と同様に、設計事務所のM&Aにおいても手法は株式譲渡と事業譲渡の2つに大別できます。
両者の主な違いは、企業の経営権そのものを売買するか、企業の特定の範囲(事業)を売買するかにあります。
株式譲渡は前者にあたり、株式の売買によって企業の経営権が移行する点が最大の特徴です。経営権そのものが取引対象となるため、面倒な手続きなどがなく、スピーディーに実行することが可能です。
事業譲渡
一方の事業譲渡は、企業が複数営んでいる事業の中から、該当する一部の事業のみを売買する手法となり、株式譲渡と異なって企業の経営権は売却企業側に残り続けます。また、売買対象とする範囲を両社の合意により特定できる点が特徴であり、資産や従業員なども選択の対象です。
このため、事業譲渡は手続きに時間と手間を要してしまうものの、買い手にとっては事業の選択と集中ができること、売り手にとっては負債などを抱えるリスクを最小化できることがメリットと言えるでしょう。
両者の違いについては、こちらの「株式譲渡と事業譲渡の違いとは?M&A手法としてのメリット・デメリット」にて詳しく解説していますので合わせてご参照ください。
親族内承継
また、中小規模の設計事務所や個人経営のアトリエ系事務所などでは、親族内承継が行われるケースもあります。
親族内承継とはその名の通り、事業を親族に承継する手法です。関係者の理解が得やすい上、株式・資産が相続や贈与扱いとなり税制措置を受けやすいメリットが存在します。ただし、後継者の経営適性が問題になる場合や、親族間トラブルに発展するおそれなどのデメリットもあることは留意しておきましょう。
いずれにしても、株式譲渡や事業譲渡、親族内承継といった手段の中から、それぞれの設計事務所のM&Aの狙いや戦略に応じた判断が肝要です。
設計事務所のM&Aの流れ
最後に、M&Aを行う際の基本的なプロセスについても紹介します。
株式譲渡および事業譲渡時の流れ
M&Aにおける流れは、株式譲渡や事業譲渡を選択した場合と、親族内承継とで少し異なります。まずは株式譲渡や事業譲渡におけるプロセスですが、基本的には他業界のM&Aでも同様です。
- 戦略策定
- 対象先候補のリストアップ(ロングリスト・ショートリスト)
- マッチング
- 基本条件交渉(スキーム選択・トップ面談・バリュエーション・基本合意締結など)
- 最終条件交渉(デューデリジェンス・統合計画・最終契約締結など)
- クロージング
- 経営統合(PMI:Post Merger Integration)
基本的にM&Aは上記の7つのプロセスに沿って実施されます。戦略を策定した上で、候補企業を選定し、その後は評価と交渉を行い統合へと向かう流れです。
設計事務所に特有の点としては、5つ目の最終条件交渉におけるデューデリジェンス(DD)と言えるでしょう。通常、DDは早い段階で売買価格の算定やリスクの特定を目的に実行されます。しかし設計事務所の場合は、慎重な判断および交渉に時間を要することが一般的です。
なぜなら、設計という業務の特性上、人のスキルやノウハウへの依存度が高いため、誰がどのようなスキルや実績を有しているかという点が、価格に大きく影響を与えるからです。ただし、この評価は主観的な要素を排除することができないため、どうしても企業間でギャップが生じるケースが多くなります。そのため、外部アドバイザーの力も借りながら、可能な限り客観的な分析が必要となるでしょう。
親族内承継時の流れ
一方の親族内承継では上記のプロセスとは異なり、次のような流れで実行されます。
- 承継計画の策定
- 後継者の選定・育成
- 資産・株式などの承継
- 個人保証・負債などの処理
株式譲渡や事業譲渡と異なり、親族内承継では企業の選定や条件の交渉が不要なので、それらに関するプロセスがなくなります。一方で、企業選定の代わりに後継者の育成などが必要となり、また企業としての承継処理の他、経営者個人の負債なども引き継ぎの対象となる点が異なります。
まとめ
本稿では、設計事務所のM&Aについて、前提となる業界構造や市場のトレンドおよびM&Aの種類などを、実際の事例も用いながら解説しました。
設計事務所では業界全体の課題からM&Aのニーズが高まっており、今後ますます活性化していくことが予想されます。水平統合や垂直統合、または異業種連携といった戦略のうち、どのオプションを取るべきか、自社の立ち位置や目指すべき方向に応じて慎重な判断を心がけましょう。
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