学習塾の事業承継とは?メリットやデメリット、事例を解説
2023年9月21日
このページのまとめ
- 学習塾業界は少子化などのマイナス要因、教育費増加などのプラス要因がある
- 学習塾を獲得することで生徒や講師の囲い込みや業界への新規参入が可能となる
- 学習塾を売却することで事業継続や創業者利益獲得などのメリットを得られる
- 円滑な事業承継には利害関係者の理解が不可欠である
- 学習塾業界では事業承継が活発に行われている
少子化に伴う業界再編などの影響で、学習塾業界では事業承継が活発に行われています。学習塾の事業承継は買い手、売り手の双方にとってメリットがあります。しかし、生徒や講師など直接の利害関係者が多いため、周囲の理解を得ながら事業承継を進めなければなりません。本稿では、学習塾業界で実施された事業承継の事例を交えながら、学習塾業界における事業承継の動向などを解説します。
目次
学習塾の事業承継とは
学習塾業界における事業承継のポイントを理解する前に、「学習塾」と「事業承継」の定義を把握しておきましょう。
学習塾
学習塾とは、小学生や中学生、高校生などの生徒を対象に、学校教育の補助や進学指導を行う施設です。
総務省が公表している「日本標準産業分類(平成25年10月改定)」では、学習塾とは「小学生、中学生、高校生などを対象として学校教育の補習教育又は学習指導を行う事業所」と定義されています。学習塾には進学塾や予備校なども含まれますが、家庭教師は含まれません。
一概に学習塾と言っても、マンツーマンで生徒に指導を行う個別指導塾や、集団でひとりの講師から授業を受ける集団塾などがあり、指導形式や目的はさまざまです。
※参照元:総務省「日本標準産業分類(平成25年10月改定)」P8
事業承継
中小企業庁「財務サポート 「事業承継」」によると、事業承継とは「企業の熱い想いや技術を次の世代へつなぐこと」です。具体的には、企業の事業を現経営者から後継者に引き継ぐことを指します。
事業とは経営権だけではなく、理念やノウハウなどの知的資産、株式や事業用資産などの資産を含むさまざまな経営資源です。
学習塾業界においては、経営者の高齢化が深刻な問題となっており、黒字にも関わらず廃業するケースも少なくありません。このような事態を回避し、学習塾を事業承継することが課題となっています。
※参照元:中小企業庁「財務サポート 「事業承継」」
学習塾の事業承継の形態とメリット・デメリット
中小企業庁「事業承継ガイドライン」によれば、学習塾の事業承継は、承継先によって「親族間承継」「従業員承継」「M&A」に分類されます。
事業承継の形態別のメリット、デメリットを解説します。
※参照元:中小企業庁「事業承継ガイドライン」
親族間承継
親族間承継とは、学習塾の経営者の子や兄弟、娘婿などの親族に承継する方法です。中小企業やオーナー企業などでよく見られます。講師などの利害関係者の理解を得やすい点や、準備期間を確保し、後継者を早期に教育できる点がメリットです。
一方で、後継者に自社株を承継させることで相続資産の配分が不公平になる、資質を備えた後継者が見つからないことがある、などのデメリットがあります。
従業員承継
経営者の親族以外の従業員に事業を承継させる形態です。従業員承継は、中小企業で親族間承継に代わって増加しつつあります。後継者候補の幅が広いため、経営能力のある人材を見極めて承継させることができます。
長期にわたり勤務した従業員であれば、経営の一体性を維持できる点もメリットでしょう。
ただし、後継者が自社株を買い取る資金に乏しい場合がある点や、法定相続人以外に相続資産が偏り相続問題を誘発しやすい点がデメリットです。
M&A
創業希望者や他企業などの第三者に承継する形態です。親族や従業員に適当な後継者がいない場合、広く後継者候補を募れるメリットがあり、採用する企業が増加しています。現経営者は、株式譲渡によって創業者利益を獲得できます。
一方で、講師の雇用や買収価格の面で希望を満たす相手を見つけることが困難な点や、生徒や講師などの利害関係者の理解を得にくい点はデメリットと言えるでしょう。
特に売り手の社員の雇用が継続されるかどうかは買い手次第となるため、雇用が継続されない場合もあります。社員の雇用を確実に守りたい場合にはデメリットになるでしょう。
学習塾の事業承継で知っておきたい業界動向
学習塾の事業承継に際して、事前知識として知っておきたい業界動向を解説します。
少子化と生徒数の減少
文部科学省「令和4年度学校基本調査」によると、1980年代以降、小学校、中学校、高等学校の在学者数は徐々に減少しています。在学者が減少している理由として考えられるのが少子化です。生徒数の減少は、学習塾の顧客ターゲット層の減少につながります。
少子化がすぐに止まることは考えにくいため、学習塾の顧客ターゲット層の減少は今後も続くでしょう。学習塾は、講師などの人件費や賃料などの固定費が経費の大部分を占めるため、顧客の減少は利益の圧縮要因となります。
※参照元:文部科学省「令和4年度学校基本調査」P4
教育費の増加
少子化が進行し、生徒数が減少する一方で、子ども一人あたりの教育費は増加しています。
参議院「子どもの減少と相反する一人あたり教育費の増加」を見ると、1970年から2017年にかけて一人にかかる教育費は2.4万円から37.1万円へと増加し、約16倍になりました。学習塾に支払う費用も増加しているため、生徒数の減少が学習塾業界の終焉を意味するわけではありません。教育への関心が高い家庭も増えていることから、付加価値の高い教育を提供できる学習塾は生き残れるでしょう。
※参照元:参議院「子どもの減少と相反する一人あたり教育費の増加」P2
教育のデジタル化
デジタル化の波は学習塾業界にも押し寄せています。小学校や中学校などの義務教育ではプログラミング学習が導入されたり、学習にタブレット端末を利用したりする動きがみられます。そのため、学校教育の補習を目的とした学習塾でも、デジタル化への対応が必要です。
小学校や中学校などの教育現場ではAIを活用したオーダーメイド授業の設計や、eラーニングの導入も進んでいます。学校教育の補習を担う学習塾が生き残るためには、AIやeラーニングを活用して生徒の利便性を向上させることが鍵となるでしょう。
人件費の増加
三井住友銀行「学習塾業界を取り巻く事業環境と今後の方向性」によると、塾講師の全国時給平均は緩やかな上昇傾向にあります。近年では、講師の人材難を背景とした待遇改善や、アルバイト講師の賃金未払いが社会問題化したことで、賃金を上げる動きがあります。一方で、大手学習塾の業績を見ると、利益率は少しずつ下降しています。
人件費や賃料などの固定費が経費の大部分を占める学習塾において、人件費の高騰は利益を圧迫する要因です。利益率低下に対して事業の選択と集中を進めるため、不採算エリアからの撤退ニーズがあることから、学習塾の事業承継は一段と進むでしょう。
※参照元:三井住友銀行「学習塾業界を取り巻く事業環境と今後の方向性」P7
買い手から見た学習塾の事業承継のメリット
買い手の視点で、学習塾を買収するメリットを4つ解説します。
新しいエリアの生徒を獲得できる
他の地域やエリアの学習塾を買収することで、事業拡大が期待できます。買収した学習塾の生徒や顧客ベースを引き継ぎ、自社と合わせたグループ全体の生徒数が増えるためです。
また、買収した学習塾のネットワークを活用し、地域の教育需要を開拓することで、生徒数のさらなる獲得も可能でしょう。ただし、効果を最大化するためには、買収対象の学習塾や市場の条件について十分な計画と調査が必要です。
新形態の学習塾のノウハウを獲得できる
学習塾は指導形式や目的によって必要な技術やノウハウが異なります。例えば、講師がマンツーマンで教える個別指導塾と、一人の講師が生徒の集団に教える集団指導塾では、講師に求められる技術や費用設定、集客の方法などが違ってくるでしょう。
公教育の補習を目的とする学習塾と、進学指導を行う学習塾の違いについても同じことが言えます。同じ学習塾業界であっても、いきなり新しい形態の学習塾を開業することは容易ではありません。
しかし、異なる形態の学習塾を買収すれば、買収先のノウハウをそのまま活用して、新形態の学習塾を展開できるでしょう。事業承継によって学習塾を買収することは、事業が軌道に乗るまでの時間短縮や労力の軽減につながります。
異業種から学習塾業界に新規参入できる
異業種の企業が学習塾業界への新規参入を図る際には、講師の育成や生徒の集客、ブランドの確立が必要であり、事業が軌道に乗るまでに多くの時間がかかります。その間、講師の人件費や施設の賃料などの固定費の支出は続きます。しかし、時間や費用をかけても学習塾事業が成功するとは限りません。
事業承継によって中小の学習塾を獲得すれば、すでに完成している事業を引き継ぎ、講師の確保や教育、生徒の集客なしで学習塾事業を展開できます。結果として、学習塾の新規開業に必要な時間を短縮し、低リスクで成果を出せるでしょう。
優秀な講師を獲得できる
学習塾にとって講師は最も重要な資産です。講師の指導スキルが学習塾の成果に直結します。また、人気講師には一定のファンがおり、特定の講師を目的に学習塾に入塾する生徒もいます。優秀な講師を雇用していることが与える効果ははかり知れません。しかし、講師の教育や採用には時間がかかります。
学習塾を事業承継で獲得すれば、多くの講師を一度に確保できます。採用や教育にかかる時間やコストを削減しつつ、学習塾の指導技術やノウハウを高められるでしょう。
売り手から見た学習塾の事業承継のメリット
学習塾業界を含め、円滑な事業承継は中小企業全体の課題です。
売り手の視点で学習塾を事業承継で売却するメリットを3つ紹介します。
廃業せずに事業を継続できる
事業承継が完了せずに学習塾の経営者が引退を迎えると、学習塾は廃業します。業績が黒字でも経営者が不在になれば黒字廃業となり、会社が消滅してしまいます。講師をはじめとした社員は仕事を失い、会社が培ってきた技術やサービスも消滅するでしょう。
学習塾に通う生徒への影響も甚大です。他の学習塾への移籍を余儀なくされ、学習スタイルや計画が狂ってしまいます。進学指導を行う学習塾が受験シーズン真っ只中に廃業すれば、合否に影響するかもしれません。
さらに、廃業の影響は経営者個人にも及びます。経営者は社長の地位を失い、個人保証による負債を背負うことになります。しかし、事業承継ができれば、学習塾事業は存続し、廃業による講師、生徒、経営者への影響を回避することが可能です。
大手の傘下に入り学習塾の質が向上する
事業承継の方法としてM&Aを選択すると、外部の第三者に事業が承継されます。M&Aは、資金力に余裕のある大手事業者によって行われることが多いです。小規模零細・中小の学習塾が大手の学習塾傘下に入ることで、多くの面で学習塾の質が向上すると期待できます。
大手学習塾は豊富な運転資金、顧客データとそれに基づく指導技術、経営ノウハウなど、さまざまな経営資源を保有しています。M&A実施後に買収側の大手学習塾による資金、情報、設備面での支援が行われるため、売り手はこれまで以上に事業を拡大できるでしょう。
また、大手学習塾は生徒の間での知名度が高く、ブランド力は絶大です。M&A後には、大手学習塾の看板を使うことが許される場合もあり、より効果的な集客が可能となるでしょう。
創業者利益を獲得できる
創業者利益とは、学習塾の経営者が自社株式を売却することで得る金銭的利益です。事業承継において後継者やM&Aを行う外部企業は、会社の経営権確保のために経営者が保有する自社株式を買い取ります。
中小の学習塾のほとんどは未上場ですが、未上場企業の自社株式を売却する機会は相続時以外にないでしょう。事業承継は自社株式を売却し、利益を獲得するチャンスです。
M&Aを選択した場合、学習塾のサービスや講師、将来の潜在的な成長力が評価されれば、純資産額より高い評価を受け、予想以上の利益を獲得できるかもしれません。事業承継によって獲得した利益は、引退後の悠々自適な生活に充当したり、新しい事業を開始するための資金に使ったりすることができます。
学習塾を後継者に事業承継する流れ
学習塾の事業承継はどのような流れで行うのでしょうか。
事業承継計画を作成する準備段階までを解説します。
学習塾の経営状況を把握する
まずは学習塾の経営状況を把握することが重要です。経営状況を把握することで、自社の強みや弱み、潜在的な成長力、業界における競争力の源泉などを整理できます。事業承継後に強みを伸ばし、弱みを克服するための方向性を見出すことが大切です。
学習塾の経営状況とは、具体的に以下を指します。
- 自社株式の価値
- 学習塾の保有資産
- 高利益率の商品
- 株式の保有状況
- マネタイズの仕組み
- 後継者の有無
- 経営者の相続資産
- 学習塾業界における立ち位置
財務諸表は税理士などに一任している経営者もいますが、保有資産を確認するためには財務諸表を見る必要があります。自社株式の価値を算定するには専門的な知識が欠かせません。金融機関やM&Aアドバイザーなどの専門家の支援を受けながら行いましょう。
事業承継の方法や後継者の決定
経営状況を把握したら、事業承継の方法や後継者を決定します。具体的には「親族間承継」「従業員承継」「M&A」の3種類から承継方法を選びます。親族や従業員に後継者候補がいる場合は、以下の点を確認しましょう。
- 後継者候補の適性や意欲
- 相続資産
- 相続時の納税方法
- 自社株式の買い取り方法
- 学習塾の経営に対する理解や経験
従業員承継の場合、納税方法や自社株式の買い取りが問題となることが多いため、税金対策や買い取り資金の用意について検討しておく必要があります。
社内に後継者候補がいない場合は、M&Aが選択肢として浮上します。顧問税理士や金融機関、M&A仲介会社などに依頼して、候補となる相手を探してもらいましょう。
事業承継計画の作成
資産や経営権をどのように承継するかを明確にし、計画書を作成します。
中小企業庁「事業承継ガイドライン」によると、事業承継計画への主な記入事項は以下のとおりです。
- 今後の環境変化の予測と対応策・課題の検討
- 事業承継の時期等を盛り込んだ事業の方向性の検討
- 具体的な目標の設定
- 円滑な事業承継に向けた課題の整理
特に事業承継について、経営者の引退予定年齢や、後継者の準備期間などの承継のタイミング、後継者の育成計画、自社株購入のための資金調達の方法や相続対策などを把握しましょう。計画は経営者と後継者が共同で作成し、今後の行動について整理する必要があります。
※参照元:中小企業庁「事業承継ガイドライン」P46
社員や生徒など利害関係者への説明
利害関係者とは、学習塾の顧客である生徒や社員である講師、付き合いのある金融機関、経営者の親族などを指します。事業承継の事実や承継先について、利害関係者に対して説明しなければなりません。
生徒やその保護者にとって、通っている学習塾が譲渡されることは大きな出来事です。承継先やその時期などは気になるものでしょう。社員である講師は、雇用についての不安を抱えています。相続権を有する経営者の親族は、相続資産の配分について関心があります。
事業承継のあとに遺留分減殺請求を行使されると混乱を招くため、承継前に合意を得ておきましょう。一方で、利害関係者への説明の時期が早すぎると、生徒や講師の流出につながるおそれがあります。承継先や時期が確定してから説明を行ってください。
事業承継の実施
事業承継計画書に基づき事業承継を実施しましょう。親族や従業員、外部企業など適当な承継先に学習塾を承継します。承継時期について、経営者の定年にこだわる必要はありません。生徒や講師との関係を考慮し、柔軟に決めましょう。
状況の変化に応じて、随時事業承継計画書を修正することも大切です。税の負担や法的な手続きが必要となる場面も増えるため、金融機関や税理士などの支援を受けましょう。
学習塾の事業承継の事例
学習塾の事業承継事例をケースごとに解説します。
学習塾同士の事業承継
学習塾を買収する買い手、譲渡する売り手ともに学習塾業界に属する場合の事業承継の事例を紹介します。
昴によるタケジヒューマンマインドの買収
2020年3月、株式会社昴は株式会社タケジヒューマンマインドを事業承継することを発表しました。昴は、九州や沖縄で68校の学習塾事業を経営しています。一方のタケジヒューマンマインドは、沖縄で大学受験を専門にした予備校「即解ゼミ127°E」を運営する企業です。
昴は買収の目的について「経営基盤の拡大と中長期にわたり安定的な経営環境を構築」することを挙げています。昴の営業基盤は鹿児島、 宮崎の2県ですが、営業基盤を拡大する必要性を感じていました。沖縄の予備校事業を譲渡されることで、沖縄に確固たる営業基盤を築くことを目指しています。
※参照元:JASDAQ「株式会社タケジヒューマンマインドの株式取得(子会社化)に関するお知らせ」
学研ホールディングスによる文理学院の買収
学研ホールディングスは、全国で学習塾事業や家庭教師事業を運営する学習塾業界最大手です。
一方の株式会社文理学院は、山梨県と静岡県で地域特化型の学習塾事業を展開し、独自カリキュラムが高い評価を受けています。
学研ホールディングスは、今回の買収により全国規模での学習塾事業の展開を可能としました。山梨県や静岡県などの甲信越・東海地域で営業基盤を拡大したい考えです。一方の文理学院は、業界最大手である学研ホールディングスの経営資源を活用し、学習塾の質の向上を図っています。
※参照元:株式会社学研ホールディングス「学研グループ事業概要」
ZEホールディングスによる栄光ホールディングスの買収
2015年5月、ZEホールディングスは栄光ホールディングスを買収することを発表しました。
ZEホールディングスは、本件買収を目的に増進会出版社を設立したため、実質的には増進会出版社による買収です。増進会出版社は、「Z会」で知られる通信教育事業で知られ、特に大学受験に強みがあります。
一方で栄光ホールディングスは「栄光ゼミナール」を展開し、小学生や中学生指導に定評があります。両社の強みを活かし、少子化のなかで生徒の囲い込みを図りたい考えです。また、栄光ホールディングスが持つ対面教育のノウハウを取り込み、企業グループとして通信から対面まで網羅することを目指しています。
※参照元:日本経済新聞「「Z会」の増進会出版社、栄光HDにTOB」
学習塾以外の同業種事業承継
学習塾を買収する買い手、譲渡する売り手のいずれかが学習塾業界に属する場合の事業承継の事例を紹介します。ただし、両社とも教育業界の企業のため、同業種の事業承継と言えます。
城南進学研究社によるアイベックの買収
2018年8月、アイベックは城南進学研究社に事業承継されました。
城南進学研究社は、乳幼児から社会人までの幅広い層を対象に総合教育事業を展開している企業です。「城南コベッツ」などの個別指導の学習塾事業、「城南予備校オンライン」などの大学受験の学習塾を運営しています。
一方のアイベックは、社会人向けのビジネス英語学習や人材派遣事業を展開しており、主な顧客は企業と社会人です。城南進学研究社は学習塾に強みがありますが、社会人対象の事業を強化する必要性を感じていました。
アイベックの持つ事業を譲渡されることで、社会人を対象とする教育事業の本格的な強化を目指しています。
※参照元:城南進学研究社「株式会社アイベック 株式会社アイベックの株式取得(子会社化)に関するお知らせ の株式取得(子会社化)に関するお知らせ の株式取得(子会社化)に関するお知らせ」
ナガセによるヒューマレッジの買収
2022年10月31日付のプレスリリースで、株式会社ナガセは株式会社ヒューマレッジの買収を発表しました。ナガセは「東進ハイスクール」「東進衛星予備校」「四谷大塚」「早稲田塾」「イトマンスイミングスクール」などの有名学習塾を経営する学習塾業界・民間教育業界最大手の企業です。
一方のヒューマレッジは大阪府、兵庫県など関西圏を中心に、学習塾「木村塾」を34校舎展開しています。小学生、中学生、高校生など幅広い学生層を対象とした学習塾は「地域No.1の有力塾」の評価を受けています。
今回の事業承継について、ナガセは「ヒューマレッジの幅広い学力層への指導に関する知見やノウハウを、当社の全国ネットワークにおいて融合、活用すること」を目的に挙げています。
※参照元:株式会社ナガセ「株式会社ヒューマレッジの株式の取得(連結子会社化)に関するお知らせ」
スプリックスによる湘南ゼミナールの買収
2020年11月13日付、株式会社スプリックスは株式会社湘南ゼミナールの事業を買収することを発表しました。湘南ゼミナールは、首都圏と新潟県で個別指導の「森塾」、大学受験指導の「河合塾マナビス」を運営しています。また、中国語や読書学習用の教材開発も手がけており、総合教育会社として知られています。
スプリックスは、神奈川県を中心とした首都圏、静岡県、愛知県などで集団指導の学習塾を運営する企業です。小学生から中学生、高校生まで幅広い生徒を対象としています。
今回の事業承継によって、単一グループで個別指導、集団指導を提供し、生徒の多様なニーズに対応することが可能となります。また、首都圏で東京に次ぎ人口が多く学習塾の需要がある神奈川県の教室を単一グループで利用できるため、運営効率の向上が期待されます。
※参照元:株式会社スプリックス「株式会社湘南ゼミナールの株式取得(子会社化)に関するお知らせ」
ベネッセホールディングスによる京都洛西予備校の買収
2023年3月15日付のリリースで、株式会社ベネッセホールディングスは株式会社京都洛西予備校の事業を買収することを発表しました。
ベネッセホールディングスは、「進研ゼミ」をはじめとした幼児から高校生向けの通信教育や、大学生、社会人向けの動画学習サービスなどを展開する総合教育会社です。グループ系企業が個人指導、集団指導の学習塾を運営しています。
京都洛西予備校は、京都市西京区を中心に展開している地域密着型の学習塾です。小中学生向けの学習塾「洛西進学教室」などを運営しています。ほかにも「洛進パーソナル」や「ラクヨビNEXT」などを運営し、京都の公立高校受験に強みがあります。
今回の事業承継で、ベネッセホールディングスは京都府内におけるグループ塾の拠点展開数を充実させ、存在感を強めたい考えです。
※参照元:株式会社ベネッセホールディングス「株式会社京都洛西予備校の株式取得に関する株式譲渡契約締結のお知らせ」
異業種事業承継
事業承継は、買い手が学習塾業界に新規参入する手段としても活用されます。
学習塾業界以外の異業種企業による学習塾の事業承継事例を紹介します。
ヒューリックによるリソー教育の買収
2021年10月27日の日本経済新聞の「ヒューリック、リソー教育の筆頭株主に 70億円追加出資」によれば、リソー教育の事業がヒューリックに譲渡されました。ヒューリックは都内を中心に不動産事業を展開し、オフィスビルや賃貸マンションを保有しています。
リソー教育といえば、首都圏で運営する個別指導の学習塾「TOMAS」が有名です。個別指導型の学習塾のほか、幼児教育や家庭教師派遣事業も展開しています。
ヒューリックは、主力のオフィス賃貸事業以外の収益源を模索していましたが、オフィスビル事業と学習塾事業の親和性に注目し、今回の買収に踏み切りました。ヒューリックには入居者を教育関連に特化したビルを開発する計画があり、リソー教育の知見を活かしたい考えです。
※参照元:日本経済新聞「ヒューリック、リソー教育の筆頭株主に 70億円追加出資」
さくらさくプラスによるVAMOSの買収
2021年6月11日付の日本M&Aセンター「さくらさくプラス、都内3か所に学習塾を展開するVAMOSの全株式取得、子会社化」の発表によれば、さくらさくプラスはVAMOSから事業を譲渡されることが分かりました。
さくらさくプラスは、子会社「さくらみらい」が関東圏を中心に70を超える認可保育所、小規模認可保育所を運営しています。一方でVAMOSは、中学受験に特化した「進学塾VAMOS」で知られる企業です。
開成中や灘中、麻布中、桜蔭中などの難関中学に合格者を多数輩出し、学習塾業界で高い評価を受けています。また、小学生から高校生までを顧客ターゲットにした学習塾も経営しています。
今回の事業承継によって、さくらさくプラスは学習塾事業に参入すると同時に、顧客ターゲット層を幼児から中学生受験対象者まで広げることを目指しています。
参照元:さくらさくプラス「子どもの「なりたいみらい」の実現に向けて さくらさくプラスが学習塾VAMOSを完全子会社化」
ヤマノホールディングスによる東京ガイダンスの買収
2022年4月28日付のプレスリリースで、ヤマノホールディングスは東京ガイダンス株式会社の事業承継を発表しました。ヤマノホールディングスは、着物や和装小物などの販売を行う「和装事業」、ジュエリーや時計、アクセサリーの販売を行う「宝飾事業」を経営しています。譲渡される側の東京ガイダンスは「やる気スイッチ」で知られる個別指導塾「スクールIE」を東京都や神奈川県などの首都圏で16教室経営しています。
今回の事業承継は、新型コロナウイルスが契機となりました。ヤマノホールディングスが経営する小売事業はコロナ禍で打撃を受け、事業ポートフォリオの見直しやグループ全体の成長戦略の再構築が必要となりました。
※参照元:株式会社ヤマノホールディングス「東京ガイダンス株式会社の株式取得(子会社化)及び報告セグメントの変更並びに資金の借入に関するお知らせ」
ヤマノホールディングスによるマンツーマンアカデミーの買収
2019年12月20日付のプレスリリースで、ヤマノホールディングスは株式会社マンツーマンアカデミーの事業承継を発表しました。マンツーマンアカデミーは、個別指導塾「スクールIE」のフランチャイズ加盟店として、千葉県、茨城県、埼玉県などの関西圏で学習塾を36店舗経営しています。
今回の事業承継が発表されたのは、新型コロナウイルスの発生前です。ヤマノホールディングスはM&Aを活用して既存事業以外のマーケットにおいても、積極的に新規事業の開拓を進めていました。
その背景には、同社の主力事業である「和装事業」が衰退していることが挙げられます。衰退産業に代わる新しい収益源を獲得し、構造改革を実施する必要性に迫られた結果の事業承継と言えるでしょう。
※参照元:株式会社ヤマノホールディングス「株式会社マンツーマンアカデミーの株式取得(連結子会社化)に関するお知らせ」
まとめ
本稿では、学習塾業界における事業承継について、メリットや流れ、実際の事例などを解説しました。
学習塾の事業承継とは、公教育の補助を行う学習塾や、進学指導を行う進学塾の事業を次の後継者に承継することです。学習塾業界では、少子化が逆風となる一方で、教育費の増加や教育のデジタル化などプラスの要素もあります。買い手、売り手の双方にメリットのある事業承継は、学習塾業界で今後増加するでしょう。
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