食品製造業界のM&A動向やメリット・事例・相場を解説【2023年最新】

2023年8月30日

食品製造業界のM&A動向やメリット・事例・相場を解説【2023年最新】

このページのまとめ

  • 食品製造業界では労働生産性の低さや人員確保などが課題となっている
  • 売却価格の相場は「時価純資産+営業利益の2〜5年分」となる傾向がある
  • 食品製造業のM&Aでは製品ラインナップの拡充などがメリットとなる
  • 食品業界ではIT業界や川下業種とのM&Aも活発に行われている
  • 食品業界のM&Aでは衛生管理や原料調達の安定性をチェックすることが重要

食品業界では、国内人口の減少や消費者のニーズの変化、競争激化などを理由に、同業者間だけでなく、関連業種とのM&Aも活発に行われています。M&Aの実施により、物流の効率化や事業承継の実現、売却益の獲得などのメリットを期待できます。食品業界におけるM&Aの動向や買収・売却事例、メリット、相場を解説します。

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食品製造業界の概要

食品製造業界について、定義やビジネスモデルの特徴、市場規模、業界の現状を解説します。

「食品製造業界」とは

総務省の「日本標準産業分類 大分類 E 製造業」によると、食品製造業界は製造業における「中分類 09 食料品製造業」に当てはまります。具体的には、「畜産食料品」や「水産食料品」、「野菜缶詰・果実缶詰」、「調味料」、「パン・菓子」などを製造する事業所が含まれます。広義では、飲料を製造する業種も該当します。

※参照元:総務省「日本標準産業分類 大分類 E 製造業

食品製造業界の市場規模

農林水産省の「食品産業動態調査」によると、食品製造業の製造品出荷額等(市場規模)は、2009年の30兆8,790億円から右肩上がりに拡大し、2018年には36兆1,741億円に達しました。コロナ禍の影響などもあり、その後微減し、2020年の出荷額は35兆5,984億円となっています。

※参照元:農林水産省「食品産業動態調査」(令和4年度)

食品製造業界の業界動向・課題

食品製造業では、人口減少に伴い国内需要が今後減少する懸念があります。日本政策金融公庫の「食品産業動向調査結果」では、「人員確保・育成」や「需要変化に対応した商品の開発」などが経営課題として挙げられています。

また、農林水産省の公表資料「第7節 食品産業の動向」によると、食品製造業では「労働生産性」が製造業全体と比較して低い水準であることが指摘されています。

今後は、消費者のニーズの変化(健康志向や環境配慮の高まりなど)を踏まえた製品開発、ITや設備への投資の加速による生産性向上、労働環境の改善やM&Aによる優秀な人材確保が求められます。

※参照元:
日本政策金融公庫「食品産業動向調査結果
農林水産省「第7節 食品産業の動向

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食品製造業界における企業の売却価格の決め方

この章では、食品製造業界の売却価格の決め方や、企業価値の評価方法を解説します。

食品製造業界の売却価格は「交渉」によって決まる

一般的なM&Aでは、後述するアプローチによって算出した企業価値を基準に、売り手・買い手双方の交渉によって売却価格を決定します。また、企業価値だけでなく、デューデリジェンスの結果や市場動向、売り手企業が有する独自の強み、買い手企業との事業で想定されるシナジー効果なども売却価格を決める際の材料となります。

以上のとおり、売却価格にはさまざまな要素が影響を及ぼすため、相場とは大きく異なる金額でM&Aが成約するケースも少なくありません。

年倍法によって算出する食品製造業の相場

厳密な意味での「相場」はありませんが、一般的な中小食品メーカーでは年倍法の算出結果を売却金額とするケースが多いです。相場とは「ある時点における市場の取引価格」を意味するため、年倍法の算出結果を「相場」と考えることが可能です。

年倍法では、「時価純資産+営業利益の2~5年分」によって売却価格を計算します。2〜5年分の営業利益は、ノウハウやブランドなど、将来的に収益を生み出す無形資産の価値(営業権)を表します。買い手側が売り手企業の将来性や市場を高く評価する場合には、営業権として足し合わせる利益の年数は大きくなります。

たとえば時価純資産が1,000万円、3年分の営業利益が8,000万円の場合、売却価格の相場は「1,000万円 + 8,000万円 = 9,000万円」となります。

ファイナンス理論に基づいた方法ではないものの、簡易的に計算できることから、食品製造業の売却価格を検討する際の「目安」として役立ちます。

バリュエーション(企業価値評価)における3つのアプローチ

交渉によって売却価格を決定する際、まずはインカムアプローチ(DCF法など)やマーケットアプローチ(マルチプル法など)、コストアプローチ(時価純資産法など)をもとにバリュエーション(企業価値評価)を行い、交渉のベースとなる価格を算出します。

各アプローチのメリット・デメリットは、以下のとおりそれぞれ異なります。状況に応じて使い分けたり、複数のアプローチを併用したりすることが一般的です。

アプローチの類型

メリット

デメリット

インカムアプローチ

  • 将来的な収益性を加味できる
  • 売り手企業における個別の価値(強み)を反映できる
  • 評価者の恣意を排除できない
  • 事業を続行しない企業の評価には適さない

マーケットアプローチ

  • 客観性が高い
  • 類似会社や過去事例などがないと適用できない
  • 市場の短期的な変動に左右されやすい
  • 個別の価値を反映しにくい

コストアプローチ

  • 客観性が高い
  • 比較的計算が容易
  • 将来的な収益性や市況を加味できない
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食品製造業界におけるM&Aのメリット【売り手側】

食品製造業界でM&Aを行うメリットを、売り手側の視点で解説します。売り手側では、食品製造会社・事業の売却によって、以下のメリットを期待できます。

後継者不在の問題を解決し、事業承継を行える

M&Aでは会社の経営権を外部の第三者に譲渡できるため、後継者不在の企業でも事業承継を行えます。事業承継の実現により、会社や従業員の雇用を存続させることが可能です。また、長年培ってきたノウハウやブランドも後世に残せます。

事業基盤が安定している大手グループに参画できる

事業基盤が安定している、または事業規模が大きい大手食品グループの傘下入りを果たせます。大手企業が有する資金やブランド力、知名度を活用することで、収益や従業員の雇用を安定化できます。また、採用強化や大手企業との取引実現などにより、事業の成長を加速できる可能性もあります。

不採算の工場や部門、事業を手放せる

事業の選択と集中を果たせる点もM&Aのメリットです。不採算の工場や部門、事業を他社に譲渡することで、業績を悪化させていた原因がなくなるため、会社全体の業績を改善できます。また、部門や事業の売却によって空きができた経営資源を新規・主力事業に投下することで、さらなる業績改善が見込めるほか、新たな領域にチャレンジできるようになります。

創業者利益を確保できる・資金調達できる

株式譲渡や事業譲渡により、株式や事業の売却利益を得られます。前述のとおり、一般的な相場として「数年分の営業利益+純資産」に相当する現金をまとめて得られるため、悠々自適なリタイア後の生活を実現できます。もしくは、得られた資金を元手に主力事業を拡大させたり、新規事業を立ち上げたりすることもできるでしょう。

負債や個人保証から解放される

株式譲渡によって会社を丸ごと売却すると、買い手側が負債も同時に引き継ぐことになります(正確に言うと、買い手側が経営権を引き継ぎます)。負債が買い手側に移転することで、金融機関との交渉次第ではあるものの、売り手側経営者は個人保証から解放されることが一般的です。

負債や個人保証から解放されることで、仮に倒産した場合に自らの財産によって返済するプレッシャーからも解放されます。

スポンサーとなる買い手企業の下で経営再建を図れる

債務超過や赤字の企業でも、スポンサーとなった買い手企業の下で経営再建を図れます。資金力や事業に関するノウハウなどを有している企業がスポンサーとなってくれることで、自力では実現困難な状況でも経営再建を図ることが可能となります。

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食品製造業界におけるM&Aのメリット【買い手側】

「食品製造業界の会社同士のM&A」と「食品製造業界の会社と異業種企業のM&A」に分けてメリットを解説します。

食品製造業界の会社同士によるM&Aのメリット

以下のメリットがあります。

経営資源を獲得し、売上や市場シェアを拡大できる

食品メーカーを買収することで、食品製造業に必要となる工場や設備、人材などのリソースを獲得し、売上や市場シェアの拡大を見込めます。

仕入コストの削減や生産・物流の効率化を図れる

売り手企業・買い手企業が共同で原料等を大量仕入したり、重複する部門や工場等の統廃合を行ったりできます。それにより、事業にかかるコストの削減や生産・物流の効率性を高める効果が期待できます。

商品開発力や技術力、消費者ニーズへの対応力を強化できる

売り手企業が有する食料品の開発力やその基となる技術力、消費者ニーズへの対応力などを獲得し、自社グループ全体で活用できるようになります。

海外市場への進出や商品ラインナップの拡充を図れる

海外企業の買収により、その国・地域への事業進出を果たせます。また、自社とは異なる食品ジャンルを取り扱う会社を買収すると、商品ラインナップの拡充などを図れます。こうした効果により、売上の拡大を図ると同時に、会社全体で業績が悪化するリスクを軽減できます。

食品製造業界の会社と異業種企業のM&Aのメリット

卸売や小売などの川上・川下の業者が食品製造会社とM&Aを行うケースや、飲食店やIT企業などとのM&Aが該当します。こうしたケースでは、以下のメリットを期待できます。

本業とのシナジー創出による売上拡大

本業とのシナジー創出を期待できます。たとえば飲料メーカーの買収により、食料品と飲料のクロスセルが可能となることで、売り手事業・買い手事業の合計収益を増やせる可能性があります。

事業の多角化によるリスク分散、新しい収益源の確保

他業種・他業界の会社を買収することで、事業の多角化を図れます。既存事業とは顧客層や商品が異なる分野に進出することで、既存事業と新規事業の間で経営悪化のリスクを分散できます。また、多角化によって新たな事業領域で収益を得られるようになるでしょう。

商品やサービスの品質向上

相手企業が有する専門知識や技術を獲得できます。たとえば食品製造業界の企業がIT企業を買収する場合、ビッグデータ解析に関する知識などを獲得し、より消費者のニーズに適う商品の開発を図れると考えられます。

内製化によるコスト削減、ワンストップでの事業運営の実現

異業種企業の買収により、特定業務やサービスを外部委託する必要性が低くなり、外注分のコストを削減できます。

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食品製造業界における2023年の買収・譲渡事例4選

2023年の買収・譲渡事例を4例紹介します。

稲畑産業による大五通商の買収

買い手の稲畑産業は電子材料や合成樹脂等を取り扱う専門商社、売り手の大五通商は農水産加工品の製造・販売などの事業を運営しています。

稲畑産業は食品製造・加工機能などを獲得し、食品ビジネスのさらなる収益拡大を図る目的で、2023年2月にM&Aを実施。株式譲渡の手法によって大五通商株式の56.7%を取得し、同社を子会社化しました。取得価額は開示されていません。

※参照元:稲畑産業「大五通商株式会社株式の取得(子会社化)に関するお知らせ

キリンホールディングスによるBlackmores Limitedの買収

買い手のキリンホールディングスは酒類メーカーや清涼飲料水メーカーなどを傘下に持つ持株会社、売り手のオーストラリアに本社を置くBlackmores Limitedはアジア・パシフィック地域においてサプリメントをはじめとした栄養補助食品の製造・販売事業を展開しています。

キリンHDは、ヘルスサイエンス事業における商品ラインナップおよびケイパビリティの充実化により事業規模の拡大を図る目的で、M&Aを実施します。

本件のM&Aは、豪州会社法に基づくSOAというスキームにより、2023年8月上旬を目処に実施される予定です(2023年5月時点)。全株式を取得する予定であり、取得価額は約1,692億円です。

※参照元:キリンホールディングス「豪州の健康食品(ナチュラル・ヘルス)会社Blackmores Limited社の株式取得(子会社化)に向けた契約の締結に関するお知らせ

小僧寿しによるモリヨシの買収

買い手の小僧寿しは持ち帰り寿司を含めた小売事業や飲食業など、売り手のモリヨシは和惣菜を中心とした製造・販売事業や食料品卸の事業を展開しています。

小僧寿しは、自社ブランドに新しい付加価値をもたらすことなどを目的にモリヨシを買収しました。2023年5月に実施されたM&Aでは、モリヨシの全株式を取得。取得価額は1,000円(同時に買収したモリヨシの親会社、東洋商事を含む)でした。

※参照元:小僧寿し「株式譲渡契約締結(株式取得による完全子会社化)に関するお知らせ

伊藤忠製糖によるツルヤ化成工業の買収

買い手の伊藤忠製糖は砂糖や健康食品等の食品製造・加工・販売事業、売り手のツルヤ化成工業は食品添加物や健康食品等の製造・販売事業を展開しています。

子会社である伊藤忠製糖は営業開発機能を強化し、機能性素材分野の事業拡大を図る目的でM&Aを実施。2023年5月に実施されたM&Aでは、ツルヤ化成工業株式の20.03%を取得。取得価額は開示されていません。

※参照元:ウェルネオシュガー「子会社による株式取得及び第三者割当増資引受(持分法適用会社化)に関するお知らせ

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食品製造会社同士のM&A事例4選

食品製造会社同士のM&A事例を4例紹介します。

三井物産による五洋食品産業の買収

買い手の三井物産は金属資源や食品、エネルギーなどの幅広い商材を取り扱う総合商社です。売り手の五洋食品産業は、冷凍洋菓子の製造業を展開しています。

三井物産は売り手企業が有する冷凍ケーキ製造技術などを獲得することで、高付加価値製品への事業拡大およびモノづくり機能の強化を図る目的でM&Aを実施しました。

本件のM&AはTOB(公開買付け)の形式で実施されました。2021年10月〜12月の期間に、1株あたり879円で買付けが実施され、三井物産は1,506,083株におよぶ五洋食品産業の株式を取得しました。

※参照元:
五洋食品産業「三井物産株式会社による当社株式に対する公開買付けに関する意見表明のお知らせ
五洋食品産業「三井物産株式会社による当社株式に対する公開買付けの結果並びに親会社及び主要株主である筆頭株主の異動に関するお知らせ

ブルボンによるマルキンの買収

買い手のブルボンは多数のロングセラー商品を生み出してきた菓子メーカーです。売り手のマルキンは、バウムクーヘンやプチケーキなどの製造・販売事業を展開しています。

ブルボンからマルキンに対して新製品開発やマーケティング等のノウハウを提供し、事業のさらなる成長および収益性向上を実現する目的でM&Aが行われました。2023年2月に実施されたM&Aでは、株式譲渡のスキームによってブルボンがマルキンの全株式を取得し、同社を子会社化しました。取得価額は開示されていません。

※参照元:ブルボン「株式会社マルキンの株式取得に関するお知らせ

わらべや日洋ホールディングスによるヒガシヤデリカの食品製造事業の買収

買い手のわらべや日洋ホールディングスはコンビニエンスストア向け商品の開発・製造事業、売り手のヒガシヤデリカは、大手コンビニエンスストア向けに調理麺、焼きたてパン等の製造・販売事業を展開しています。

わらべや日洋HDは首都圏における麺およびパンカテゴリーなどへの新規参入を図る目的で、子会社であるわらべやによってヒガシヤデリカが運営する食品製造事業の買収を決定しました。

事業譲渡は2024年3月までに行われる予定であり、譲受価額は約24億円(北関東/特定の工場の土地を除く概算)です。

※参照元:わらべや日洋ホールディングス「当社子会社における事業譲受に関するお知らせ

日清製粉グループによるDAIZへの出資

買い手の日清製粉グループは業務用小麦粉などの製造事業、売り手のDAIZは発芽大豆由来の植物性食品の研究開発等の事業を展開しています。

DAIZ社が開発した植物肉と自社グループが有する食品素材に関する知見を組み合わせることにより、新しい価値を創造する目的で、日清製粉グループは出資を行いました。

2022年7月に行われた出資に関して、具体的なスキームや出資額は非公表です。

※参照元:日清製粉グループ「スタートアップ企業DAIZ株式会社への出資に関するお知らせ

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食品製造会社による異業種企業の買収・出資事例4選

食品製造会社が異業種企業を買収または異業種企業に出資した事例を4例紹介します。

味の素とおいしい健康の資本業務提携

味の素はうま味調味料などの製造事業、おいしい健康はAIによる献立・栄養管理支援アプリの提供事業を展開しています。

両社はデジタル技術を活用した食体験の価値向上や食と健康に関するエビデンスの拡充などを図る目的で資本業務提携を行いました。

2022年1月に公表された本件の資本提携は、味の素を引受先とする第三者割当増資のスキームで実施されました。取得価額は明らかにされていません。

※参照元:おいしい健康「味の素株式会社との資本業務提携のお知らせ

不二製油とcottaの資本業務提携

不二製油は植物性油脂や業務用チョコレート、大豆加工素材などの食品加工事業を展開しています。一方でcottaは、製菓製パンのECサイトを運営しています。

両社は消費者との接点を強化し、新しい需要の創造に挑戦する目的で資本業務提携を行いました。具体的には、消費者ニーズを汲み取った製品の共同開発などに取り組んでいます。

資本提携は、2022年5月に株式譲渡のスキームで実施され、不二製油がcotta株式(議決権比率)の5.09%を取得しました。取得価額は非公表です。

※参照元:不二製油「国内No.1製菓製パンのECサイトcottaと資本業務提携を締結

サントリーホールディングスとシナモンの資本提携

サントリーホールディングスは清涼飲料水や洋酒などの製造・販売事業、シナモンはAI関連製品およびサービスを開発・提供しています。
両社は顧客体験を向上させるDXの加速、需要予測精度の改善、オンライン販売における売上向上に向けた手法開発などを目的に、資本提携を行っています。

2021年9月に公表された本件の資本提携は、サントリーホールディングスを引受先とする第三者割当増資のスキームで実施されました。取得価額は明らかにされていません。

※参照元:
サントリーホールディングス「DXの取り組み強化 人工知能スタートアップ「株式会社シナモン」へ資本参加
シナモン「人工知能テクノロジー・スタートアップのシナモンAI、第三者割当増資によりサントリーホールディングスから資金調達を実施

日新製糖によるツキオカフィルム製薬の買収

日新製糖は砂糖の精製販売事業を展開しています。一方でツキオカフィルム製薬は、食用純金箔や箔押、フィルム事業を展開しています。

買い手の日新製糖は食品関連分野における商品ラインナップの拡充や事業領域の拡大を目的にM&Aを実施。2017年10月に実施されたM&Aでは、日新製糖がツキオカフィルム製薬株式の80%を取得し、同社を子会社化しました。取得価額は非開示とされています。

※参照元:日新製糖「ツキオカフィルム製薬株式会社の株式取得(子会社化)に関するお知らせ

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異業種企業による食品製造会社への買収・出資事例4選

異業種企業による食品製造会社への買収・出資事例を4例紹介します。

アークランドサービスホールディングスによるコスミックダイニングの買収

買い手のアークランドサービスホールディングスはとんかつ専門店などの飲食店経営、売り手のコスミックダイニングはスーパーや飲食店向けの冷凍食品製造・販売事業を展開しています。

買い手側は冷凍食品への事業領域拡大、売り手側はアークランドサービスHDが有する事業基盤を活かした販路開拓を図る目的でM&Aを行いました。

2020年6月に実施されたM&Aでは、株式譲渡のスキームによってアークランドサービスHDがコスミックダイニングの全株式を取得し、同社を子会社化しました。取得価額は非公表です。

※参照元:アークランドサービスホールディングス「コスミックダイニング株式会社の株式取得(子会社化)に関するお知らせ

オーイズミによる下仁田物産の買収

買い手のオーイズミは遊技場設備機器、太陽光発電や酒類醸造などの事業、売り手の下仁田物産はこんにゃくゼリーなどの食品製造業を展開しています。

オーイズミはスケールメリットを追求する目的でM&Aを行いました。

2020年1月に実施されたM&Aでは、株式譲渡のスキームによってオーイズミが下仁田物産の全株式を取得し、同社を子会社化しました。取得価額は開示されていません。

※参照元:オーイズミ「株式会社下仁田物産の株式の取得(子会社化)に関するお知らせ

D Capitalによるおやつカンパニーの買収

買い手のD Capitalはプライベートエクイティファンドを運営しています。売り手のおやつカンパニーは有名商品を数々生み出してきたスナック菓子メーカーです。 

おやつカンパニーはD Capitalの支援を受けて、創業以来培ってきた強みにデジタルを組み合わせることで、事業の成長可能性を高めるためにM&Aを行いました。

2022年12月に公表されたM&Aでは、株式譲渡のスキームによってD Capitalの運営ファンドがおやつカンパニーの株式(割合非公表)を取得しました。取得価額は開示されていません。

※参照元:D Capital「株式会社おやつカンパニーの株式譲渡契約締結に関するお知らせ

双日によるマリンフーズの買収

買い手の双日は自動車や航空機などを取り扱う総合商社です。売り手のマリンフーズは水産加工食品の製造・加工・販売事業を展開しています。

両社が有する強みを組み合わせることで、アジアや北米をはじめとした海外展開の強化・拡大を図る目的でM&Aが実施されました。

2022年3月に実施されたM&Aでは、株式譲渡のスキームによって双日がマリンフーズの全株式を取得し、同社を子会社化しました。マリンフーズの親会社であった日本ハムは、本件のM&Aによって88億円の売却益を計上したと公表されています。

※参照元:
双日「双日、日本ハム子会社である水産食品加工会社の全株式を取得
日本経済新聞「日本ハム、水産子会社を双日に譲渡 売却益88億円

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食品製造業のM&Aを成功させるポイント

食品製造業のM&Aを成功させるポイントを4つ紹介します。

1.相場を理解した上でM&Aを行う

売却側・買収側双方にとって、M&Aの相場に対する理解は不可欠です。

相場を知らずにM&Aの交渉に臨む場合、売り手側の視点で見ると安値で事業を買い叩かれたり、実態に見合わない高値を提示することで交渉が成立しにくくなったりするおそれがあります。一方で買い手側の視点で見ると、高値掴みして買収資金を回収できないリスクが高まるでしょう。

2.市場や事業が成長しているタイミングでM&Aを行う

市場や事業が成長しているタイミングであるほど、食品製造業に対する買収ニーズは多い傾向があります。そのため、買い手候補が見つかりやすい(取引が成立しやすい)上に、満足できる条件(売却価格など)でM&Aを成立させやすいです。

また、買い手側の視点で見ても、市場が成長しているタイミングや、売り手の食品製造事業が成長しているタイミングでM&Aを行う方が、買収後により多くの収益やシナジー効果を期待できると考えられます。

3.状況や目的に応じてスキームを選択する

売り手・買い手企業の状況やM&Aの目的によって、最適なM&Aのスキームは変わってきます。たとえば会社丸ごと売買したいケースや、可能な限り手続きを簡便に済ませたいケースでは株式譲渡が適しています。一方で、一部の事業のみ売買したいケースや、売り手企業が不要な資産や過大な負債を抱えているケースでは事業譲渡が適しています。

4.衛生管理や原料調達の安定性をチェックする

不適切な衛生管理を行っている食品製造会社を買収すると、食品の安全面で問題が表面化し、法律違反や消費者からの訴訟に発展するリスクがあります。また、原料調達が不安定な企業の買収では、製品の生産や供給に遅れが生じてしまい、売上の減少や消費者からの信頼度低下を招きかねません。こうしたリスクを軽減するためにも、衛生管理状況や原料調達の安定性に問題がない食品製造業の会社を買収することが成功のカギです。

また、売り手企業としても、上記のリスクを原因に買収を見送られる事態を防ぐためにも、あらかじめ衛生管理や原料調達面の問題は解消しておくことがおすすめです。

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食品製造業の売却でかかる税金

最後に、食品製造業の売却でかかる税金について、代表的なスキームである「株式譲渡」と「事業譲渡」に分けて解説します。

株式譲渡

株式譲渡によって食品製造会社ごと売却する場合、個人株主と法人株主によって課税される税金の種類が異なります。国税庁の「株式等を譲渡したときの課税(申告分離課税)」をもとに解説します。

個人株主の場合、譲渡所得に対して合計20.315%の所得税等(所得税、復興特別所得税、住民税)が分離課税方式によって課税されます。譲渡所得は「譲渡金額 – 取得費 – 譲渡費用」の計算式で算出できます。

一方で法人株主の場合、譲渡益(譲渡金額−取得費−譲渡費用)に対して、総合課税の方式により法人税等が課税されます。法人税等の税率は会社の規模等によって変動し、概ね30〜40%の実効税率となります。

事業譲渡

国税庁の「株式等を譲渡したときの課税(申告分離課税)」、「営業の譲渡をした場合の対価の額」によると、事業譲渡によって事業の一部または全部を売却する場合、譲渡益に対して法人税等が課税されます。
譲渡益は「事業譲渡の金額 −(簿価資産 − 簿価負債)」によって算出します。法人株主に対する株式譲渡の税金と同様に、法人税等の税率は会社の規模等によって異なります。

また、譲渡する資産に有形固定資産(土地除く)や営業権などの「課税資産」が含まれる場合には、課税資産に対して消費税も課税されます。消費税の税率は10%(2023年5月時点)です。

※参照元:
国税庁「株式等を譲渡したときの課税(申告分離課税)
国税庁「営業の譲渡をした場合の対価の額

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まとめ

本稿では、食品業界におけるM&Aのメリットや事例、相場、成功のポイントなどを解説しました。

食品会社のM&Aでは、シナジー創出による売上拡大や創業者利益の獲得などのメリットを期待できます。衛生管理状況のチェックや相場の理解などが、食品業界における会社および事業の売却・買収を成功させるポイントとなるでしょう。

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