社会福祉法人の売却方法は?売却時の注意点や流れを解説
2023年1月10日
このページのまとめ
- 社会福祉法人とは、社会福祉事業を行う目的で設立された法人
- 社会福祉法人が買収を行うメリットは「事業効率化」と「運営体制の見直し」
- 社会福祉法人は株式がなく株式譲渡ができない点に注意
- 社会福祉法人が売却を行う方法は「合併」と「事業譲渡」
- 社会福祉法人の売却には専門家のサポートが必要
「社会福祉法人の売却を行いたいけど方法が分からない」と悩んでいる経営者も多いことでしょう。社会福祉法人の売却では、株式会社の売却と違う点を意識して進めることが大切です。
また、社会福祉法人の売却を成功させるためには、売却の流れを知り、社会福祉法人ならではの特徴も把握しておくことが求められます。本コラムでは、社会福祉法人の売却方法や注意点、実施の流れを解説します。
目次
社会福祉法人とは
社会福祉法人とは、社会福祉事業を行う目的に、社会福祉法に基づいて設立された法人です。社会福祉事業には、社会福祉法で定められている、「第一種社会福祉事業」および「第二種社会福祉事業」が該当します。
第一種社会福祉事業の具体的な内容は、次のとおりです。
- 特別養護老人ホーム
- 児童養護施設
- 障害者支援施設
- 救護施設
第二種社会福祉事業には、次のような事業が該当します。
- 保育所
- 訪問介護
- デイサービス
- ショートステイ
また、社会福祉法人は、社会福祉事業のほかに、公益事業と収益事業も実施できます。
公益事業の内容は、次のとおりです。
- 子育て支援事業
- 入浴・排せつ・食事などの支援事業
- 介護予防事業・有料老人ホーム・老人保健施設の経営
- 人材育成事業
収益事業には、貸ビルや駐車場、公共的な施設内の売店経営などが該当します。
参照元:厚生労働省「社会福祉法人の概要」
社会福祉法人が売却やM&Aを行う2つのメリット
社会福祉法人が売却やM&Aを行うメリットは、次の2つです。
- 事業の効率化
- 運営体制の見直し
それぞれのメリットを解説します。
事業の効率化
売却やM&Aを行うことで、事業の効率化が見込めます。
交渉相手のノウハウや従業員の活用により、自社で事業拡大を行う場合よりも、負担を軽減できるからです。
また、事業拡大に注力する箇所の重複を防いだり、コスト削減による効率化も期待できるでしょう。
運営体制の見直し
売却やM&Aを行うメリットの1つが、運営体制の見直しです。M&Aによって、経営状況の改善や、事業再生を行うことができます。
経営改善が実施できれば、利用者に対して提供しているサービスの質を良くできるでしょう。
また、経営難で苦しむ社会福祉法人の場合、売却やM&Aで法人を残すことができます。廃業する必要がなくなることで、施設の利用者に対する影響を抑えることもできます。
社会福祉法人で売却やM&Aを行うポイント
社会福祉法人で売却やM&Aを行う場合のポイントは、「株式譲渡が実施できない」点です。社会福祉法人は、公益法人であり、株式会社とは異なります。株式が発行されていないため、株式を使用したM&Aが行えません。
社会福祉法人の売却やM&Aを行う場合には、「合併」または「事業譲渡」の2つになることを覚えておきましょう。また、合併に関しては、社会福祉法人間のみで実施が認められています。
社会福祉法人の事業展開に係るガイドライン
社会福祉法人で売却やM&Aを行う場合には、「社会福祉法人の事業展開に係るガイドライン」と「合併・事業譲渡等マニュアル」を参考にしましょう。
「社会福祉法人の事業展開に係るガイドライン」は、社会福祉法人が事業譲渡や合併を行うために、手続きや留意点を記したガイドラインです。
また、合併や事業譲渡を行う場合は、社会福祉法に基づいて行う必要があります。「合併・事業譲渡等マニュアル」では、必要な法令や手続きに関して記載されています。
参照元:「社会福祉法人の事業展開に係るガイドライン」
参照元:「合併・事業譲渡等マニュアル」
社会福祉法人がM&Aや売却を行う方法
社会福祉法人がM&Aや売却を行う方法は、次の2つです。
- 合併
- 事業譲渡
それぞれの方法に関して、解説します。
合併
合併とは、2つ以上の法人を1つに集約するM&A手法です。合併には、「新設合併」と「吸収合併」の2つがあります。
新設合併は、新しく法人を設立し、ほかの企業を新設した法人に吸収させる方法です。
吸収合併は、1つの法人を残し、残した法人に吸収される法人の権利義務、資産を引き継がせる方法です。
合併では、次のような効果が期待できます。
- 経営基盤の強化
- 事業の効率化
- サービスの向上
- 組織活性化
- 人材育成
社会福祉法人が合併を行う場合は、社会福祉法人間のみでしか認められていないため、注意しましょう。
事業譲渡
事業譲渡とは、特定の事業を継続するために、事業に関する財産をほかの法人に譲り渡すことです。財産には、土地や建物のように目に見える財産だけではなく、有形・無形的な財産すべてが含まれます。
事業譲渡で期待できるメリットは、次のとおりです。
- 経営基盤の強化
- 事業の効率化
- サービスの向上
- 組織活性化
- 人材育成
- 事業継続困難な社会福祉事業の継続
- 事業拡大または拡充の負担軽減
社会福祉法人の事業譲渡の場合、一部の社会福祉事業のみの譲渡が認められています。社会福祉事業すべてを譲渡はできないため、注意しましょう。
社会福祉法人の合併を行う流れ
社会福祉法人で吸収合併を行う流れは、次のとおりです。
- 合意形成
- 役員等の検討
- 合併契約書の作成と締結
- 事前開示
- 評議員会の承認
- 所轄庁の認可
- 債権者保護手続き
- 合併の登記手続き
- 事後開示
- 会計・税務処理
- 職員の処遇の検討および説明
- 利用者・利用者家族・地域への説明
- システムなどの整備
それぞれの流れに関して、解説します。
1.合意形成
合併を行うために、相手法人との合意構成を行います。合意構成を行う場合には、次の3つが必要です。
- 秘密保持契約
- 合併を行う法人間での事前協議
- 基本合意書の作成と締結
まず、合併実施に向けて、秘密保持契約を締結しましょう。法人同士で内部情報を開示するため、契約締結が必要です。また、合併に向けて協議を行うことになることから、理事会への報告、または承認を行います。
次に、合併を行う法人同士で、事前協議を行いましょう。事前協議では、次のような内容を話し合います。
- 合併の目的
- 合併後の理念・事業の存続や撤退
- 役員選任
- 従業員の待遇
事前協議を行う前に、合意形成を図っておくことも重要です。
そして、合併に関する基本合意書の作成と締結を実施します。事前協議で決まった内容をもとに、合意しましょう。
合併をスムーズに進めるために、委員会を設置し、協議を行う方法もあります。
2.役員等の検討
合併後の役員等に関して検討を行いましょう。具体的には、評議員・理事・監事・会計監査人の検討を実施します。定員を変更する場合には、定款の変更が必要になるため注意しましょう。
また、「合併後の決算において事業活動計算書におけるサービス活動収益が30億円を超える場合」または「貸借対照表における負債が60憶円を超える場合」は、次の会計年度から特定社会福祉法人に該当します。会計監査人の設置義務が発生するため、準備を進めましょう。
3.合併契約書の作成と締結
合併を行う場合、合併契約の締結が必要です。合併契約書を作成し、検討と承認を行いましょう。承認は、法人内の理事会で行います。また、決議を行う際は、議事録を残しておきましょう。
合併内容の合意ができたら、契約を実施します。合意には評議員会の決議が必要になるため注意が必要です。
また、吸収合併契約には、次のような内容を記載しましょう。
- 法人の名称および住所
- 吸収合併の効力発生日
- 職員の処遇
そのほかには、双方の合意が必要な事務手続きなども記載します。
4.事前開示
吸収合併では、事前開示が必要です。吸収合併で存続する法人と、消滅する法人の両方で事前開示が必要になります。
開示期間は、消滅する法人の場合、「吸収合併契約に関して決議を行う評議員会の日の2週間前から、吸収合併の登記日まで」です。
存続する法人の場合、「吸収合併契約に関して決議を行う評議員会の日の2週間前から、吸収合併の登記日後、6ヶ月を経過する日までになります。
備置する場所は、主たる事務所です。
また、閲覧の請求に関する準備も行いましょう。吸収合併で消滅する社会福祉法人の債権者、および評議員は、事前開示事項を記載した書類の閲覧を請求できるからです。もし、請求があった場合には、対応が求められます。
5.評議員会の承認
社会福祉法人の合併には、評議員会の決議が必要です。吸収合併で消滅する法人、存続する法人ともに、承認を受ける必要があります。決議に関しては、議事録を残しておきましょう。
また、存続する法人の場合、消滅する法人から受け入れる債務額が資産を超える場合は、評議員会での説明が求められます。
6.所轄庁の認可
社会福祉法人の合併には、所轄庁の認可が必要です。申請書に必要書類を併せて、所轄庁に提出しましょう。
申請に必要な書類は、次のとおりです。
- 合併認可申請書
- 合併理由書
- 評議員会での合併承認を証明する書類
- 存続する法人の定款
- 吸収合併で消滅する法人の財産目録および貸借対照表
- 吸収合併で消滅する法人の負債を証明する書類
- 吸収合併で存続する法人の合併後の財産目録
- 吸収合併で存続する法人の合併後の事業計画書および収支予算書
- 吸収合併で存続する法人の合併後の評議員・役員となるべき者の履歴書および就任承諾書
- 評議員・役員になる者に関して、ほかに役員等になる者と婚姻関係または3親等以内の親族関係にある者がいる場合などは、その氏名およびその者との続柄を記載した書類
所轄庁の認可を受けていない場合、吸収合併の効力が生じません。専門家に相談しながら、申請を進めましょう。
7.債権者保護手続き
債権者保護手続きでは、次のような事項の実施が必要です。
- 貸借対照表の要旨の作成
- 公告の実施
- 個別の債権者への催告書の送付
- 債権者が異議を述べた場合の対応
それぞれ解説します。
貸借対照表の要旨の作成
最終会計年度に係る、貸借対照表の要旨を作成しましょう。次の基準に従って、作成を行います。
- 公告対象法人で最終会計年度がない場合:その旨を文書で説明
- 公告対象法人が清算法人の場合:その旨を文書で説明
- 上記以外の場合:貸借対照表の要旨を作成
貸借対照表の要旨は、100万円単位、または10億円単位で表示しましょう。
公告の実施
合併では、官報での公告が義務付けられています。合併に関して、債権者が異議を述べる機会を用意するためです。債権者に対して、異議がある場合は異議を述べるよう、公告を実施しましょう。
個別の債権者への催告書の送付
債権者が判明している場合は、個別で催告書を送付します。次の事項を記載し、催告を行いましょう。
- 吸収合併を行うこと
- 吸収合併で消滅する法人の名前と住所
- 「貸借対照表の要旨の作成」に記載した計算書類に関する事項
- 債権者は一定期間内に異議を述べることができること
また、異議を述べるための期間は。2ヶ月以上を設定しましょう。
債権者が異議を述べた場合の対応
債権者が異議を述べた場合は、次のいずれかの対応が必要です。
- 債務の弁済
- 相当の担保提供
- 信託会社などに相当の財産を信託
ただし、合併を行っても債権者に害がない場合は、弁済などを行う必要はありません。
8.合併の登記手続き
合併後には、登記手続きが必要です。合併による変更登記と解散登記を行いましょう。
合併後に存続する法人は、合併による変更登記を行いましょう。変更登記には、次のような書類が必要です。
- 社会福祉法人合併による変更登記申請書
- 定款
- 合併契約書
- 評議員会の議事録
- 所轄庁の合併認可書
- 公告・催告をしたことを証明する書面
- 公告を掲載したことを証明するもの
- 異議を述べた債権者に対する弁済証書
- 役員の選任を証する書面
- 消滅法人の登記事項証明書
- 財産目録
- 委任状(代理人が申請する場合)
登記申請を行う際は、事務所の所在地を管轄する法務局で行いましょう。
また、合併後に消滅する法人は、合併による解散登記を行います。合併による登記申請と同時に行いましょう。
9.事後開示
吸収合併で存続する法人は、事後開示事項を記した書類を備置しましょう。登記した日から6ヶ月間、事務所に置いておく必要があります。
事後開示事項の内容は、次のとおりです。
- 登記日
- 債権者保護手続きの経過
- 承継した重要な権利義務
- 事前開示事項
- そのほかの吸収合併に関する重要事項
また、債権者や評議員からの閲覧請求にも準備しておきましょう。
10.会計・税務処理
合併後の会計・税務処理では、次のような手続きが必要です。
- 資産と負債の評価
- 社会福祉充実計画の確認
- 税務処理
それぞれ解説します。
資産と負債の評価
合併で消滅する法人は、結合時の適正な簿価を算定するため、仮決算を行いましょう。
合併では、仮決算で算出した資産と負債に関して、結合時の適正な簿価で引き継ぎます。
社会福祉充実計画の確認
既存の社会福祉充実計画がある場合、合併に伴い計画の変更が必要かを検討します。もし、計画変更が必要だと判断した場合は、所轄庁の承認、または届出が必要です。
具体的に、所轄庁の承認、または届出が必要な事項は、次のとおりです。
変更承認事項 | 変更届出事項 | |
事業内容関連 |
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事業実施地域関連 |
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事業実施期間関連 |
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社会福祉充実残額関連 |
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そのほか |
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税務処理
合併後には、税務処理が必要です。引き継ぐ権利義務で税務処理は変わるため、税務署などに確認を行いながら進めましょう。
また、合併で事業規模が拡大した場合、新たな課税義務が発生するケースもあります。
たとえば、合併で年間収入が8,000万円を超えると、公益法人等の損益計算書等の提出義務が生じます。
11.職員の処遇の検討および説明
合併では、職員の処遇検討や十分な説明が必要です。
まず、給与体系や就業時間などの検討を行いましょう。基本的には、吸収合併の場合、職員の労働条件は以前の状況が引き継がれます。
しかし、合併前と合併後で労働条件が大きく異なる場合、問題になる可能性もあります。合併後に急激な変化が起きないよう、職員の希望に応じて選択肢を用意するのも大切です。
また、合併後の給与などの待遇に関しては、全職員に対して説明しましょう。合併前に、説明会や相談会を開催し、対応を行います。
もし、合併後に労働条件が変わる場合や、職員に不利益が生じる場合は、変更内容に関して職員から同意を得ておくことが必要です。
労働組合が組織視されている場合は、労働協約も引き継がれます。労使合意の内容に関しても確認しておきましょう。
12.利用者・利用者家族・地域への説明
利用者やその家族、地域に対しても説明が必要です。
合併の目的や合併後の運営に関して説明し、理解を得ましょう。
合併では、利用者の契約も引き継がれます。ただし、合併でサービス内容や料金が変わる場合は、利用者に説明し、同意を得る必要があります。利用契約の再締結に関しても実施しましょう。
地域住民や自治体に対しても、合併の説明を行うことが望ましいでしょう。利用者同様、合併目的や合併後の運営に関して説明し。理解を得る必要があります。
13.システムなどの整備
合併後の運営がスムーズに行えるように、システムや規程を整備しておきましょう。
業務に関しては、マニュアルの整理と統合が必要です。存続する法人のマニュアルをベースに、消滅する法人のマニュアル変更・廃棄を進めましょう。
法人内で使用しているシステムに関しても、統合を進めます。情報システムや経理システムなど、必要なシステムを整備しましょう。統合には時間が掛かるため、余裕をもって準備を進めるようにしましょう。
社会福祉法人の事業譲渡を行う流れ
社会福祉法人の事業譲渡を行う場合、次のような流れで実施します。
- 調査・検討の準備
- 事前調査
- 事業譲渡契約
- 事業に係る各種申請
- 定款の変更
- 会計や税務処理
- 資産や負債などの移管
- 人事・労務関連
- 利用者・利用者家族・地域への説明
- 規程・マニュアル類、システムなどの整備
それぞれの工程に関して詳しく解説します。
1.調査・検討の準備
対象の社会福祉法人が事業譲渡可能か、調査を行いましょう。社会福祉法人の場合、社会福祉事業を実施できる法人格が制限されていたり、所轄庁の認可が必要な事業があったりするからです。譲渡する事業が譲渡先の企業で継続できるか、確認しておきましょう。
また、事業譲渡の調査や検討を行う際は、次のような事項に取り掛かります。
- 事業譲渡方針の相互確認
- 秘密保持契約の締結
- 事前協議の実施
- 基本合意書の締結
- 委員会などの設置
また、事業譲渡では、利用者へのサービスが継続されることが大切です。譲渡先にふさわしいか、入念に調査しましょう。所轄庁や行政庁から説明を求められた場合、説明責任が発生します。
2.事前調査
事業譲渡が可能か判断するために、事前調査を行いましょう。
調査項目には、次のような項目があります。
- 財務状況の確認
- 人件費の確認
- 運営形態の確認
- 収支のシミュレーション
調査を行う際は、弁護士のような外部の専門家を活用しましょう。
また、プロジェクトの人員を確保したり、譲渡法人の協力を得ることも大切です。
調査が終われば、譲受可能かの判断が行われます。譲受可能な場合には、譲受法人側から、譲受の条件が提示されます。
3.事業譲渡契約
事業譲渡の実施が決まれば、契約を締結します。まずは事業譲渡契約書を作成しましょう。
事業譲渡契約書は、譲渡時のトラブルを防ぐためにも必要です。
また、事業譲渡を行う際は、理事会または評議員会での決議を行いましょう。譲渡側・譲受側の両方で必要です。決議を行う際は、議事録を残しておきましょう。
4.事業に係る各種申請
事業に係る各種申請とは、次のような事柄を指します。
- 基本財産の処分申請
- 補助金に係る財産処分の申請
- 施設の廃止申請および設置申請
- 付随機能の申請
それぞれ解説します。
基本財産の処分申請
譲渡法人が財産処分を行うためには、所轄庁の承認が必要です。承認では、次の書類を準備しましょう。
- 財産処分承認申請書
- 評議員会議事録
- 財産目録
- 処分物件が不動産の場合は価格評価書
- 対象施設の図面
申請に関しては評議員会の決議後に実施します。
補助金に係る財産処分の申請
国庫補助で取得した財産を処分する場合、定款に定められた手続きを行い次の手続きが必要です。
- 当該処分に関しての承認申請の作成
- 補助金申請の行政窓口へ書類提出
ただし、財産処分の簡素化措置が認められる場合を除きます。
承認に必要な書類は、次のとおりです。
- 財産処分承認申請書
- 財産処分の概要
- 既存施設の図面
- 既存施設の写真
- 老朽度調書または現存率評価調書
- 評価調書
- 国庫負担(補助)金交付決定通知書および確定通知書の写し
- 総事業費を確認できる決算書など
- そのほか参考資料
添付書類の様式は、所轄庁で用意しているケースもあります。担当窓口に確認しながら進めましょう。
施設の廃止申請および設置申請
譲渡事業を継続して運営するためには、廃止と設置の認可に時間を空けないことが大切です。申請先と前もって相談し、スケジュールを調整しておきましょう。
譲渡法人側では、運営法人が変更になるため、施設の廃止申請が必要です。
譲受法人側では、施設の設置申請を行いましょう。
付随機能の申請
譲渡事業に関して付随する申請が必要な場合、申請を行いましょう。
たとえば、譲渡法人内に設置されている施設内保育園の運営を行う場合は、施設の譲渡と譲受法人で活用する場合の保育所の廃止・設置申請が必要になります。
5.定款の変更
譲渡法人、譲受法人ともに、定款の変更も必要です。
譲渡法人は、譲渡する事業の廃止や基本財産の処分など、定款変更に必要な事項を評議員会で決議しましょう。譲受法人は、事業や基本財産の追加などを評議員会で決議します。
また、定款変更では、所轄庁への申請が必要です。次のような書類を用意しましょう。
- 社会福祉法人定款変更認可申請書
- 理事会議事録
- 評議員会議事録
- 現行の定款
- 変更後の定款
- 事業計画書
- 収支予算書(2年分)
- 事業譲渡契約書
- 施設長就任書・履歴書
必要な書類は、譲渡内容や定款変更の内容次第で変わるケースもあります。所轄庁に相談しながら進めましょう。
6.会計や税務処理
会計や税務処理では、次のような事柄を実施します。
- 会計処理
- 社会福祉充実計画および社会福祉充実残額の確認
- 税務処理
それぞれ解説します。
会計処理
会計処理の場合、譲受法人は資産と負債に関して、結合時の公正な評価額を算出します。
A法人が支払対価300を支払い、B法人の一部事業を譲受けた場合の会計処理は、次のとおりです。
譲渡法人では、譲渡事業の資産と負債の純額と受取対価で差額が発生した場合、損益で処理します。処理に関しては、次のようになります。
社会福祉充実計画および社会福祉充実残額の確認
既存の社会福祉充実計画がある場合、事業譲渡に伴い、計画の変更が必要か検討します。変更が必要な場合には、所轄庁の承認または提出が必要です。
所轄庁の承認や届出が必要な変更事由は、次のとおりになります。
変更承認事項 | 変更届出事項 | |
事業内容関連 |
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事業実施地域関連 |
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事業実施期間関連 |
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社会福祉充実残額関連 |
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そのほか |
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税務処理
譲受法人、譲渡法人ともに、税務処理が必要です。
譲受法人の場合には、次のような課税が発生します。
- 法人税
- 登録免許税
- 不動産取得税
また、譲渡法人の場合には、次のような課税が発生します。
- 消費税
- 法人税
- 所得税
ただし、事業や法人によって、課税範囲は異なります。税務署に確認しながら、税務処理を行いましょう。
7.資産や負債などの移管
資産や負債などの移管に関しては、次のような事項を実施しましょう。
- 基本財産の譲渡
- 負債の譲渡
- 不動産の登記移転
それぞれ詳しく解説します。
基本財産の譲渡
事業譲渡では、事業継続に必要な財産を譲渡します。土地などの有形財産はもちろん、従業員との雇用契約のように、無形財産も含まれます。
譲渡時には、福祉法人間で合意を確認するために、書面で契約を行いましょう。
基本財産以外の資産に関しては、処分に制限はありません。
ただし、「社会福祉事業の存続要件となるものはみだりに処分しない」とされています。
負債の譲渡
負債も譲渡対象に含まれるケースがあります。債務引受を行う場合は、債権者からの承認が必要です。
たとえば、独立行政法人福祉医療機構から借入金がある場合は、次のような書類を用意しましょう。
- 債務引受申込書
- 譲渡法人における施設廃止申請書および認可証(写し)
- 譲受法人における施設設置認可申請書および認可証(写し)
- 債務引受申込者と現債務者との譲渡契約書(写し)
- 譲渡法人および譲受法人それぞれの定款・法人登記簿謄本・決算書(財産目録含む)
- 譲渡法人および譲受法人それぞれの事業譲渡等を行うことを協議した理事会議事録
- 債務引受後の譲受法人の財産目録・収支予算書
- 債務引受後担保物件の登記簿謄本(写し)
ただし、ケースによって違いはあるため、担当窓口に相談しましょう。
不動産の登記移転
譲受法人は、不動産の登記移転が必要です。
譲渡契約で所有権が移動した段階で、登記申請を行いましょう。
また、債務とともに不動産を引き継いだ際には、債務引受手続きと抵当権の債務者変更登記も必要です。
8.人事・労務関連
人事労務関連では、次のような事項に対応しましょう。
- 職員の引継ぎ
- 労働条件の検討
- 職員に対する説明
- 雇用契約締結
それぞれ解説します。
職員の引継ぎ
事業譲渡では、職員の雇用関係は自動的に引き継がれません。譲受法人に転籍させる場合、従業員の同意が必要です。職員を引き継ぐ際は、既存の労働条件を維持した状態で、転籍を行います。
労働条件の検討
転籍に伴って労働条件を変更する場合は、労働条件変更に対して同意を得る必要があります。転籍とは別に、同意を得ましょう。
また、労働条件を変更する場合でも、賃金などが大きく変更しないように注意が必要です。職位を著しく下げたり、安易に人員を減らしたりするのも避けましょう。
職員に対する説明
転籍対象の職員に対して、説明を行いましょう。職員が転籍条件に同意しない場合、転籍ができないからです。職員の不満解消や、不安を取り除くための対応が求められます。
また、労働組合があり、労働条件の変更が行われる場合は、労使合意の手続きが求められます。労使間で合意を行いましょう。
雇用契約締結
転籍に同意した職員とは、個別に雇用契約を結びます。監査で雇用契約書が必要になる場合もあるため、個別で雇用契約を締結するようにしましょう。
9.利用者・利用者家族・地域への説明
利用者や利用者家族、地域への説明も求められます。
まず、利用者や利用者家族に対しては、事業譲渡の目的や今後の運営に関して説明しましょう。混乱や動揺を与えないことが大切です。すべての利用者、利用者家族に説明し、同意を得ましょう。
説明後は、利用者との再契約が必要です。事業譲渡の場合は、契約が自動的に引き継がれるわけではありません。契約手続きが必要な利用者とは、個別に契約を行いましょう。
また、地域に対しても、説明を行います。地域の不安を解消するために、説明会を実施しましょう。説明会の対象者は、施設運営の関係者や地域の代表者などが一般的です。
10.規程・マニュアル類、システムなどの整備
事業譲渡後に運営がスムーズにできるよう、マニュアルやシステムなどを整備しましょう。譲受法人の理念や経営方針に基づき、整備を進めます。
また、名義変更が必要な場合は、譲渡後の法人名に変更しましょう。保険契約やリース契約などで、変更が必要です。
社会福祉法人の売却やM&Aを行う際の4つの注意点
社会福祉の売却やM&Aを行う際の注意点は、次の4つです。
- 所轄庁の認可が必要になる
- 職員に十分な説明を行う
- 利用者にも十分な説明を行う
- 寄附財産の扱いを確認する
それぞれの注意点に関して、解説します。
1.所轄庁の認可が必要になる
社会福祉法人の売却やM&Aを行う場合、所轄庁の認可が必要です。
合併では、所轄庁に対し、合併の目的や背景を説明しましょう。その際、吸収合併と新設合併では、申請が異なります。
また、事業譲渡を行う際は、定款の変更を行う場合に、所轄庁の認可が必要になります。
2.職員に十分な説明を行う
合併や事業譲渡前に、職員に十分な説明を行うようにしましょう。職員の理解や同意を得てから、合併などを進めることが大切です。
まず、合併を行う場合は、労働条件も引き継がれます。もし、労働条件の変更を行う場合は、職員の同意が必要です。
また、事業譲渡の場合は、労働条件が自動的に引き継がれるわけではありません。職員の同意を得なければ、再契約できないことに注意しましょう。
3.利用者にも十分な説明を行う
利用者に対しても、十分な説明を行いましょう。合併や事業譲渡で発生する影響を説明しておく必要があります。サービス内容や価格に変更が発生するかどうか、説明しましょう。
また、事業譲渡の場合は、利用者との契約が引き継がれないケースもあります。その場合、再契約が必要になるため、注意しましょう。
4.寄附財産の扱いを確認する
社会福祉法人がM&Aを行う場合、寄附の扱いを確認しましょう。寄付財産の譲渡、または承継を行う場合には、次の事由が発生します。
- 合併で租税特別措置法第40条の適用を受ける場合は、所轄の税務署を経由し、国税庁長官あてに書類提出を行う
- 事業譲渡の場合は、事業譲渡の資産が有償・無性に関係なく、非課税承認が取り消され、譲渡企業は納税が必要になる
また、事業譲渡の場合は、支払対価にも注意しましょう。社会福祉法人は、法人外に対価性のない支出が認められていないからです。
譲渡側は、譲渡事業の価値を算出し、価値以上の受取対価でない場合は、法人外への支出として判断されます。
譲受側は、譲受事業の価値を見積もり、価値以下の支払対価でなければ、法人外の支出に該当すると判断されます。
行政庁や税務署に相談しながら、手続きを進めるようにしましょう。
まとめ
社会福祉法人の売却やM&Aは、株式会社と異なる点に注意しましょう。
株式がないため、株式譲渡が実施できません。
社会福祉法人が売却やM&Aを行う場合は、合併または事業譲渡のどちらかになります。
社会福祉法に基づき進める必要があることも覚えておきましょう。
スムーズに手続きを進めるためには、専門家の協力が欠かせません。
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