歯科医院のM&Aの流れは?買収・売却のメリットも解説
2024年4月26日
このページのまとめ
- 歯科業界では、歯科医師過剰と歯科衛生士・歯科技工士不足の課題がある
- 歯科医院は個人経営が7割を超え、小規模事業者が多い
- 歯科業界のM&Aでは、個人医院の売却希望が多い
- 医療法人のM&Aでは、医療法の規定により合併・分割に制限がある
歯科業界のM&Aでは、個人医院が多いという業界の特性に加えて、デジタル化や人手不足を背景とした業界特有の事情もあり、実状が気になるという人もいるのではないでしょうか。
本コラムでは、歯科業界のM&A動向、売却側・買収側から見たM&Aのメリット・デメリット、成功ポイントを解説します。歯科のM&Aを検討している方はぜひ参考にしてください。
目次
歯科医院経営の現状と課題
歯科医院では後継者不足や経営者の高齢化が進んでいます。また、コロナ禍の受診控えもあり、休廃業が増える一方、歯科医院のM&Aも増えています。
この章では、歯科医院経営の現状と課題を解説し、デジタル化が進む歯科医院特有のM&Aの背景とその実態について解説します。
個人医院が多いが、医療法人化が進んでいる
2022年現在、全国の歯科医院の総数は約68,000院を超え、競争が厳しい状況が続いています。経営形態としては、個人院が75%、医療法人が24%と個人院の方が圧倒的に多いですが、近年は医療法人が増えつつあります。
実際に、歯科医院全体における医療法人の割合は、1999年には11%でしたが2022年には24%にまで増加しています。比較的経営状態のよい歯科医院が、個人医院を医療法人化するというのが主流です。
歯科医院が医療法人化すると、節税効果や社会的信用が得られるなどの一般的な法人化のメリットがあることに加え、分院の設立が可能となり事業拡大もしやすくなる背景があります。
参照元:厚生労働省「令和3(2021)年医療施設(動態)調査・病院報告の概況 表3」
コロナ禍の受診控えの影響で医療収益が減少
「全国保険医団体連合会のアンケート調査」によれば、コロナ禍の受診控えで来院患者が減り、3割の歯科医院で保険診療収入が30%以上減少しています。
コロナの影響は、特に定期的な通院を必要とするメンテナンス・虫歯予防目的の利用が極端に減っている傾向にあります。
加えて、コロナに感染すると重篤化しやすい70代以上の高齢者の来院数が減っていることは、今後も少なからず影響する可能性があります。
参照元:全国保険医新聞2020年7月5日号「全国1万件のアンケート 医療機関9割で収入減 受診控えで症状悪化も懸念」
歯科医師の数は緩やかな増加傾向
歯科意思の数は、緩やかな増加傾向ですが、令和2年から4年にかけては減少傾向にあります。この減少傾向は人口減少とともに歯科医師の数が減っている状況なので、将来的には減少傾向が続く可能性があります。
歯科医院を経営する視点で見ると、歯科医師全体の数は減少傾向が続くとなると、今後は採用コストが高まっていく可能性があります。
参照元:厚生労働省「令和4年(2022年)医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」
歯科医院の倒産件数
歯科医院の倒産件数の推移を見ると、10~15件前後での推移で、大きく増加傾向にあるわけではありません。
2018年に、急激に倒産件数が増えて23件となっている背景には、コロナ禍の影響が大きく収益に関わっており、倒産に追い込まれるケースが増えたことがあります。
しかし、2020年にはコロナ支援策の効果で大幅に倒産件数を減らすことができていますが、一次的な対処になり、コロナが尾を引いて2023年まで増加が進んでいる背景が見て取れます。
2023年の負債総額は、歯科医院が倒産15件で50億5600万円なのに対して、診療所は23件で55億9700万円と、診療所よりも歯科医院の方が1件当たりの負債が多いことが分かります。
負債規模が大きいことは、それだけ事業規模が大きいことを示すので、事業規模が小さい方が倒産傾向にあると分かります。
そのため、今後もコロナ等の外部の影響を受けて倒産するのは、事業規模の小さい歯科医院である傾向が強いため、M&Aを活用した事業拡大が有効に働く可能性を検討することが重要です。
参照元:
PRTimes「「医療機関」の倒産、2年連続で40件超え 今後は診療所の動向に注目 病院、歯科医院で大型倒産が発生、負債総額は過去10年で最大に」
株式会社帝国データバンク「「医療機関」倒産動向―全国企業倒産集計2024年1月報」
歯科医院のM&Aの背景
歯科医院のM&Aの背景には、居抜き物件を求める歯科医師も多い点があります。施設や設備がそのままM&Aによって手に入るため、開業資金を抑えられるという大きなメリットがあります。
また、歯科業界のM&A事情として、親族内継承が多い点もあります。特に個人経営の歯科医院に関しては、子供に引き継いで経営を継続しているケースが今も昔も非常に多いです。
逆を言えば、第三者継承を検討する前に子供への継承を検討するケースが多いため、買い手視点で言えば、「親族内継承の検討をしたが、見つからなかった」といった歯科医院を見つけることが最初のステップになります。
歯科医院における運営主体別のM&A手法
歯科医院のM&Aには、一般企業と違い医療法に従った手続きが必要になります。買い手は医師・もしくは医療法人などの医師資格者のいる非営利法人に限定されます。株式会社が歯科医院の買い手になることはできません。
ここでは、運営主体の種類ごとの代表的なM&A手法(スキーム)を解説します。
個人事業主(個人医院)のM&A
個人事業主(個人医院)が売却側として行うM&Aでは、これから開業する個人医師もしくは、医療法人が買収側となります。個人医院の院長は複数の歯科医院の院長(管理医師)になることはできないのでM&Aの買い手にはなれません。
歯科医院を買収したい場合には、個人医院を医療法人化することで、分院として買収できる環境を整える必要があります。
つまり、医療法人化することで、ようやくM&Aの買い手になることができます。
個人事業主から個人事業主へのM&A
個人から個人へのM&Aでは、主に事業譲渡のスキームを使います。
建物、内装、医療設備や什器に加えて、患者カルテ、従業員をすべて引き継ぐことができますが、医療法上は売り手の現院長の廃業手続きと買い手の新院長の診療所新設の手続きが必要です。新設なので、歯科医院名を変えることもできます。
具体的な手順としては、まずは売り手の院長が自身の医院の廃業手続きを行います。続いて、買い手の新院長が、同じ場所で診療所の新設手続きを行うという手順を踏むことになります。
よって、歯科医院の名称はこのタイミングで変更することが可能です。また、建物、内装、医療設備や什器に加えて、患者カルテ、従業員をすべて引き継ぐことができます。
個人事業主への事業譲渡で重要なポイントがあります。
それは、事業承継を前提として、非常勤でもいいので現院長の元で3ヶ月から半年程度一緒に働き、勤務実績を作ることです。承継者として、患者や従業員の信頼をあらかじめ得ておくことで、従業員や患者カルテをスムーズに引き継ぐことができます。
また、保険医療機関コードの申請については、現院長の廃業前に指定申請を出すことができないため、新コード発行まで1ヶ月ほど保険診療ができない期間が生じてしまいます。それを避けるため、遡って保険診療請求を認めてもらう遡及請求申請を行います。この訴求請求の条件として診療の継続性が問われるため、廃業前に勤務実績を作っておくことが大事です。
個人事業主から医療法人へのM&A
個人医院を医療法人に売却するケースでも、事業譲渡のスキームを使います。
先程同様、まずは売り手の個人医院が廃業手続きを行います。次に、買い手側の医療法人が、同じ場所で医療法人の分院を開設する手続きを行います。この際に、医療法人側が法務局の変更登記、保健所への分院解説、厚生局への保険医申請などを行います。
建物や内装、医療設備や什器、患者カルテ、従業員はすべてC法人の分院として引き継がれますが、従業員の雇用契約や賃貸借契約、リース契約などは、医療法人側が新たに契約を締結する必要があります。
医療法人のM&A
医療法人を譲渡するM&Aを行う際の方法としては、医療法人の事業譲渡と合併・分割があります。医療法人の種類によって必要な手続きが異なります。
事業譲渡と合併・分割
事業譲渡は、事業を切り離して譲渡する方法で、合併はM&Aで買収した医療法人を法人格ごと、既存の医療法人に譲渡する方法です。
合併に関しては2種類あり、吸収合併と新設合併とがあり、「消滅する会社がどれか」という点で違いがあります。
分割は大きく2種類に分かれ、医療法人の一部を分割し、既存の法人に吸収する方法と新たに法人を新設する方法があります。ただし、特定医療法人、社会医療法人、出資持分あり医療法人は分割が認められておりません。
以下、さらに詳しく解説していきます。
事業譲渡
G法人の事業の中で、J院の事業だけをH法人に譲渡します。J院の事業に関する資産・負債や従業員・患者カルテは、基本的にH法人に引き継ぎますが、個別に患者や従業員の同意が必要です。また、不動産など、権利の移転に変更登記が必要となります。
事業譲渡では、譲渡する対象の権利義務の範囲を個別に交渉し、譲渡契約で取り決めます。他の方法では、包括的に引き継ぎ、個別の移転手続きが不要です。
吸収合併(医療法人譲渡)
D法人の持つ資産・負債や従業員・患者カルテなどをすべてC法人が引き継ぎます。従業員との雇用契約や賃貸借契約、債務もすべて包括的に引き継ぎます。D法人は消滅し、C法人の分院として事業を継続します。
新設合併
D法人とE法人が合併して、新たにH法人を作ります。この場合は、D法人とE法人の持つ資産・負債や従業員・患者カルテなどをすべてH法人が引き継ぎます。従業員との雇用契約や賃貸借契約、債務もすべて包括的に引き継ぎます。
しかし、新設法人として、行政上の許認可や登記の手続きが必要になります。D法人、E法人は消滅し、H法人が認可され次第、事業を継続します。
吸収分割
H法人の一つのクリニックを分割し、M法人の事業として継続します。分割した事業に関する資産・負債や従業員・患者カルテは、M法人に引き継ぎます。行政には必要な変更手続きを行います。
新設分割
H法人の一つのクリニックを分割し、新規にL法人を設立します。分割した事業に関する資産・負債や従業員・患者カルテは、L法人として引き継ぎ、行政には新規法人設立に必要な変更手続きを行います。
その他の医療法人特有のM&A
医療法人は、社団医療法人、財団医療法人、特定医療法人、社会医療法人に分類されます。さらに、社団医療法人は、定款の定めにより出資者が財産権(出資持分)を持つ法人と、定款に定めがなく出資者が財産権(出資持分)を持たない法人とに分かれます。これらの医療法人には、一般法人のM&A手法とは別で、特有のM&A手法があります。
社団医療法人(出資持分あり)のM&A
まず前提として、2007年4月の医療法改正により、出資持分ありの医療法人は設立出来なくなっています。
出資持分ありの医療法⼈とは、設⽴時の社員は出資額に対して出資持分という権利を持ちます。持分とは、設立時の社員のうち、誰が、どのくらいの割合で会社の財産権を持つかを示すものです。持分を譲渡することで、経営権を移転することができます。
持分譲渡で、買収側が売却側の法人の社員の過半数を占めると、社員総会で単独で役員(理事・監事)の解任・選任などを行えます。持分譲渡することで、経営権を取得することができます。
社団医療法人(出資持分なし)と財団医療法人のM&A
社団医療法人(出資持分なし)と財団医療法人の間でM&Aを実施する場合、経営権を移転する方法として社員・評議員の入れ換えによる経営権取得を行います。
売り手法人の社員・評議員が辞職し、代わりに買収側の社員・評議員がその地位に就いて、過半数の議決権を得ることで、経営権を取得できます。これにより、持分譲渡と同様に経営権を移転することができます。
買い手は、売り手側法人の社員・評議員・役員に対し、対価として退職金を支払います。
財団医療法人のM&A
財団医療法人は、金銭その他の財産の寄附行為により設立され、吸収合併又は新設合併をすることができる定めが定款にある場合に限り、吸収合併又は新設合併をすることができます。
ただし、吸収合併契約又は新設合併契約では、理事の3分の2以上の同意を得なければ契約自体を締結することはできません。
社会医療法人・特定医療法人のM&A
社会医療法人と特定医療法人は、公益性に関する特別な要件を満たす医療法人(財団又は持分の定めのない社団医療法人)として、医療の普及や社会福祉への貢献などに寄与し、かつ公的に運営されているとして国税庁長官の承認を受けた医療法人で、税制上優遇的な扱いを受けます。
そのため、M&Aでは、分割が認められておりません。
歯科医院のM&Aの流れ
歯科業界のM&Aの流れについて、買い手側の立場を中心として解説します。
具体的な流れは下記のようになります。
- 事前準備と相談
- マッチング
- 基本合意書締結
- デューデリジェンス
- 契約
それぞれの流れを順番に見ていきましょう。
1. 事前準備・仲介会社の選択
仲介会社に相談する前に、事前にどんな歯科医院の売却・買収希望があるのかリサーチし、希望に近い地域や規模のM&A情報を集めます。さらに、歯科医院のM&Aを扱っている仲介会社のM&Aの流れや仲介手数料を確認しましょう。
次に、仲介会社に相談する前に、おおまかな買収希望をリストアップします。地域、ユニット数、広さ、従業員、診療方針や予算などの希望を書き出します。
その上で、信頼できる相談先(税理士、金融機関、先輩開業医など)に相談し、適切なM&A仲介会社を選びます。
2.マッチング
相談するM&A仲介会社は、最初は必ずしも一社に絞る必要はありません。複数のM&A仲介会社とアドバイザリー契約および秘密保持契約を結び、紹介案件を受けながら、アドバイザーのサポート体制を確認します。
マッチングでは、「ノンネームシート」と呼ばれる売り手側の個人情報を伏せた売却案件の情報を入手します。
信頼できる仲介会社と共に希望の地域の人口推移や歯科医院の需給などの外部環境分析を行い、成功が見込める地域・条件を絞り込みます。この段階で、信頼できる仲介会社と専任契約を結び、本格的な交渉を始めます。
3.基本合意書の締結
選定した候補案件に対し、買収の意思表示を行い、情報提供を依頼します。提供された詳細資料や歯科医院名の情報をもとに、企業の評価や財務分析を行い、個別交渉に進みます。
価格交渉だけでなく、売却側の課題や従業員・患者にも配慮して条件の調整を行いながら、双方の要望に合致する契約条件を見つけます。双方の合意が取れた段階で、「トップ面談」を行い、基本的な条件の検討に入ります。
面談後、売却価格および支払い方法、時期、独占交渉権などの合意ができたら、基本合意書を締結します。
4.デューデリジェンス
基本合意書の締結後、歯科医院のデューデリジェンス(実態調査)を行います。売却側からの評価資料だけでなく、買収側からも税理士、弁護士、社会保険労務士などの専門家と連携し、法務や財務の問題がないかを精査します。
歯科医院のデューデリジェンスでは、医療機器の仕様や保守費用、レセプト関係、自由診療の状況などについて、実地調査も含めてしっかり実態調査を行うことが大切です。
デューデリジェンスの評価を元に、最終的な買収価格や詳細な条件を詰め、契約に向けて交渉します。
5.契約・クロージング
デューデリジェンス後の最終条件がまとまったら、契約を締結します。契約に際して、具体的な取引条件および両者の責任範囲、支払い方法や期限などを決めます。
契約が締結されても終わりではありません。M&Aでの経営権移転を完了させるために、最終的な法的手続きや関係者との調整などを行います。これをクロージングと呼びます。
クロージングには、賃貸借やリース契約の手続きなどが含まれる他、歯科医院の場合は、保健所や法務局での法的手続きが必要です。
歯科医院など医療法人のM&Aでは、次のような手続きが必要になります。それぞれの手続ごとに期限が決まっているため、事前に医療法人の行政手続き専門の行政書士と確認しておきましょう。
- 都道府県への事前相談
- 都道府県への定款変更
- 法務局への法人変更登記申請
- 保健所への分院開設届け
- 厚生局への保険医療機関指定申請
- その他、諸官庁への各種届出、申請
歯科医院のM&Aのメリット
歯科医院のM&Aは、買収側と売却側の双方に大きなメリットがあります。それぞれの立場で、新規開業や廃業に比べてどんなメリットがあるのか、解説します。
買収側のメリット
歯科医師にとって、M&Aのメリットは何よりも資産と時間を手に入れることができる点です。具体的なメリットは以下の通りです。
- 開業の初期費用を削減できる
- 従業員や患者を引き継ぐことができる
- 黒字になるまでの期間を短縮し、経営の安定を図ることができる
歯科医院の資産は、内装や設備だけでなく、従業員や患者、さらには地域の信頼といった見えない要素も含まれます。M&Aによってこれらの資産を承継することが可能です。
新規開業の場合、内装に加えて診療ユニットやレントゲン機器などの医療設備が必要となり、一般的には3,000~4,000万円ほどの初期費用がかかります。また、歯科衛生士や歯科技工士などの従業員が不可欠ですが、前述した通り、業界全体で人材不足が問題となっていることから、これらの人材を新たに確保することは容易ではありません。
M&Aでは、歯科衛生士や歯科技工士を含めた従業員を引き継ぐことができるため、新患獲得だけでなく、安定経営に不可欠な医療従事者を確保することができます。これにより、安定経営までの時間を短縮できるメリットがあります。
売却側のメリット
歯科医院のM&Aにおいて、売却側のメリットは以下の通りです。
- 廃業費用を抑えることができる。
- 従業員の雇用を確保できる。
- 退職金として創業者利益を確保できる。
歯科医院を廃業する際には、設備の廃棄や建物内装の復元などの費用がかかります。まだ使用可能な医療設備であってもコストがかかるのです。M&Aでは、設備や建物内装をそのまま買い手に引き継げるため、これらのコストをかけずに済む点がメリットだといえます。また、地元で長く開業していた歯科医院では、共に働いてきた従業員の雇用継続が重要な課題です。M&Aでは現状の雇用環境を維持できるため、安心です。
さらに、M&Aによる事業売却により、債務や個人保証を解消できたり、売却益を引退後の老後資金として活用できたりする点もメリットです。
歯科医院のM&Aのデメリット
歯科医院のM&Aは、買収側・売却側の双方にメリットが多いものですが、デメリットもあります。
買収側のデメリット
歯科医院のM&Aでは、主に以下のようなデメリットが買収側に発生する可能性があります。
- M&Aの手数料がかかる
- 希望の買収先が見つからない
- 簿外負債の発覚によるトラブル発生
- 経営者変更による従業員の離職
M&Aでの歯科医院開業では、新規開業よりは開業資金を抑えることができますが、別途M&A手数料を払う必要があります。なかでも優良物件の場合は、M&A手数料が高額になりがちです。
また、希望の開業地域に適切な案件がなかったり、条件が合わなかったりする場合には、M&Aが成立しない可能性もあります。その場合は、改めて新規開業の資金計画を立て直す必要があります。
さらに、M&A後に経営者が把握していなかった簿外債務が発覚し、トラブルに発展する可能性もあることに注意が必要です。従業員の未払い残業代や自由診療の前払いの債務などです。
また、従業員や医師が新院長の経営理念に反発し退職するなど、事業継続に影響を与えるリスクもあります。
売却側のデメリット
売却側にもいくつかのデメリットが存在します。
- 売却先が見つからない場合がある。
- 希望の条件で売却ができない場合がある。
- M&A前に院長の死亡や病気により廃院となる場合がある。
M&Aを希望しても、条件が悪いために売却先が見つからないこともあります。また、引退時期を遅らせることで患者数の減少や従業員の離職が進み、売却条件がますます厳しくなる可能性もあります。
院長が高齢である、または体調不良によりM&Aを希望している場合には、M&A先が見つからないまま、院長の死亡や病気により診療が続けられず、廃院せざるを得ない場合もあるので、注意が必要です。
歯科医院のM&Aと居抜きの違い
歯科医院のM&Aは、居抜きとどう違うのでしょうか?その違いと注意点を解説します。
どちらが初期費用を抑えられるか
そもそも居抜きというのは、閉院した歯科医院の内装・設備をそのまま譲り受けて開業する賃貸借契約です。新規開業では、内装費に加えて歯科医療の設備費がかかりますが、居抜きの場合は主な歯科医療機器だけでなく、受付や待合室の什器、診察室の備品なども引き継ぐことができます。
居抜きでは、賃料や礼金・敷金に加えて、造作譲渡として設備の譲渡金額を支払います。新規に設備一式を購入するより大幅に初期費用を抑えることができます。
注意点は、設備のメンテナンス費が過大になることや希望しない古い設備も受け入れざるを得ないことです。賃貸物件で造作譲渡が条件の場合は、一部の古い設備が不要であってもまとめて譲渡することが条件になっている場合が多く、契約後に処分費用が発生します。
M&Aと違って閉院した後の譲渡になるので、患者のカルテ情報や従業員は引き継げません。
どちらが従業員や患者を引き継ぐのに最適か
M&Aは開業中の歯科医院の有形資産や経営権に加えて、従業員や患者も引き継ぐことができます。
M&A手数料はかかりますが、買収する歯科医院の経営状態や設備を調査した上で今後の成長性に対して譲渡金額が決定されるので、居抜き譲渡より経営上のリスクは低くなります。M&Aの条件によっては、前院長の元で数ヶ月引き継ぎ期間を確保し、経営ノウハウを得ることも可能です。
ただし、個人医院からのM&Aの場合は、事業譲渡の形になるので、必ずしも資産や従業員を引き継ぐ必要はありません。譲渡資産は、今後の診療に必要な内装、医療機器、什器備品は、当事者間の合意で引き継ぐかどうかを決めて、譲渡価格を決定します。
従業員の再雇用については、従業員に再雇用の意思があれば、新たに雇用契約することが可能です。ベテランの従業員の存在が、開業後に経営上のトラブルになる場合もあるので、新規雇用以上に慎重に決める必要があります。
歯科医院のM&Aの事例3選
歯科業界のM&Aの実態を理解しやすくするため、3つの事例をご紹介します。
日本ピストンリングが石福金属興業を買収
日本ピストンリングは、自動車エンジン部品の製造・販売を行うメーカーです。
2014年6月に、日本ピストンリングは、歯科インプラント事業に参入するため石福金属興業の買収を決定しました。
扱ったことのない分野への新規参入となるため、0から立ち上げるよりも事業拡大のスピードを上げられる買収の手段を取りました。
また、この買収が業績に与えるリスクに関しても軽微だと判断されたため、買収に踏み切っています。
参照元:
日本ピストンリング株式会社「歯科インプラント事業の譲受について」
メディカルネットがSuccess Sound Co.,Ltdを子会社化
インターネットを活用した医療・生活関連情報サービスの提供を中心に事業展開しているメディカルネットが、タイで歯科医院の運営を行うSuccess Sound Co.,Ltdを子会社化しました。
タイ・バンコクの歯科医院運営に参入し、海外諸国の日本の先進医療の普及を目指す一手を打つ形で決定しています。
取引額は3000万円となり、経営リスクも少なく、M&Aを活用して上手く事業拡大に繋げる施策の一つとなっています。
参照元:
株式会社メディカルネット「Success Sound Co.,Ltd の株式の取得(子会社化)に関するお知らせ」
CBCがabc dentalを買収
CBCグループは、総合商社であり、中でもデュッセルドルフの欧州現地法人CBC(Europe)GmbH は 30 年以上に渡り欧州、中東、アフリカ地域の事業推進を進めています。
主な取扱いサービス・製品は、医薬品原体、植物防疫関連製品、栄養食品および医薬品向け化学品、さらには高品質ビデオ監視システムを主とする建築およびインフラ市場向けソリューションビジネスです。
この中でも、医療分野の事業拡大を考え、歯科材料・歯科機器販売を手がけるabc dental ag(スイス)を買収しました。
スイスを始めとするヨーロッパ諸国に対して事業展開を進めるための一手として、M&Aを活用することで、効率的な事業展開が可能となり、シナジー効果も見込める一石二鳥の買収となりました。
参照元:
CBC「ABC DENTAL AG JAPANESE」
歯科医院のM&Aのポイント
歯科医院のM&Aについて、買収側と売却側それぞれのポイントを解説します。資産や従業員の引き継ぎも大事ですが、地域に求められる歯科医院としての診療方針や院長の思いに共感できるかどうかが売却の決定要因になることも少なくありません。
買収側のポイント
歯科医院の開業や分院展開を検討している買収側にとって、M&Aは条件さえ合えば非常に有利に歯科医院の経営を引き継ぐことができます。初期開業費用を抑え、経営が軌道に乗るまでの期間短縮を狙うことができます。
その反面、リスクもあります。例えば、内装や設備が古く、メンテナンスや補修、新規入替が必要になり、結果的に予定外の費用がかかってしまうことがあります。
そのため、買収前に内装や設備の改修が必要なのかも含め、事前に見積もっておくことが大切です。前述したように、買収側は初期開業費用を抑えることや経営が軌道に乗るまでの期間短縮を狙っていたにも関わらず、新規立ち上げよりも費用や経営安定までの期間がかかってしまうケースもあります。
また、買収後に院長が変わるケースもあるため、従業員の離職が進むケースもあります。そのため、買収前に事前に従業員の離職を予防する施策が必要な場合もあるので、チェックしておくことが大切です。
売却側のポイント
第三者継承の前提で売却を進めようとする場合、M&A事例でも見たように、自院がどの分野に強いのか、どのような技術に強いのか、どういった顧客を集客できているのかなどの魅力をしっかり伝える必要があります。
買収側の狙いが、自社の強みとぴったりはまれば、売却の意思決定をしやすくなります。
例えば、買収側が新規参入したい分野を持っていれば、買収が成立後に新規分野にスムーズに参入できるため、売却の可能性は十分です。
また、買収側が海外展開を目指しているのであれば、既に海外にある歯科医院の買収を検討することもあるため、売却できるケースも大いにあります。
つまり、狙いや目的に合致する買収先を探しているのが買収側なので、売却側は買収側に対していかに魅力的だと思ってもらえるかという点に注力することが大切です。
加えて、売却先の目途が立った段階では、従業員の待遇等の取り決めについても注意しておく必要があります。
まとめ
歯科医院は、コロナの影響もあり、2018年から倒産に追い込まれる歯科医院が増加する時期がありましたが、ひと山超えて横ばいとなっています。
倒産に追い込まれているのは、事業規模が小さい歯科医院と見て取れるデータもあり、M&A活用による事業拡大の必要性も高まっています。
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