自動車整備業界のM&Aを成功させるには?メリットや注意点、事例を解説
2023年12月7日
このページのまとめ
- 自動車整備業界は人材不足や技術革新などの課題を抱え、市場規模も縮小傾向にある
- 自動車整備業界のM&Aは事業の拡大や効率化、事業承継などのメリットがある
- 電気自動車や自動運転などの技術革新で、M&Aの対象や目的自体が変化している
自動車整備業界には個人経営の中小企業も多く、急速に進む技術革新や市場環境の変化に対応するために、M&Aを活用する動きが活発です。M&Aは、事業の拡大や効率化、収益の向上などのメリットがあります。一方で、リスクやコストも伴う難しい経営判断が求められます。本稿では、自動車整備業界においてM&Aを検討するメリットや注意点を解説し、あわせて最新情報やトレンドもお伝えします。
目次
自動車整備業界におけるM&Aの背景と目的
自動車整備業界におけるM&Aとは、自動車整備工場や自動車販売店などが、事業や株式を売買することです。自動車整備工場が同業他社の買収によって工場の数を増やす、自動車販売店が工場を獲得するなどのパターンがあります。まず、自動車整備業界でM&Aが実施される背景と主な目的について確認します。
自動車整備業界でM&Aが実施される背景
自動車整備業界でM&Aが実施される背景には、以下の要因があります。
- 高度化・複雑化する整備業務に対して専門の整備士が不足している
- 高齢化により、事業承継が困難になっている
- 人口減少や若者の車離れ、カーシェアリングの普及により市場規模が縮小している
- 電気自動車(EV)や自動運転などの技術革新、脱炭素などの環境問題に対応するために、新たなサービスや設備、先進技術の習得が必要になっている
- 競争力やブランド力を強化するために、他社との連携やシナジー効果が求められている
自動車整備業界におけるM&Aの目的
自動車整備業界で上記の要因を解消するためにM&Aを行う目的は、以下の通りです。
- 事業の拡大や効率化、経営の多角化による収益性向上
- 専門の整備士などの人材・設備の獲得
- リスク分散・事業承継
- 技術の進化に対応する新たなサービス・技術の開発
自動車整備業界におけるM&Aのメリット
自動車整備業界は人材不足や技術革新などの課題を抱えており、市場規模も縮小傾向ですが、自動車の整備や修理といったサービスには一定の需要はあるためM&Aは有効な経営戦略となり得ます。自動車整備業界におけるM&Aのメリットとして、以下の5つが挙げられます。
- 人材や設備を獲得できる
- 事業の拡大や効率化、スケールメリットの獲得が期待できる
- 競争力やブランド力を強化できる
- 新たなサービスや技術を開発できる
- リスク分散や事業承継ができる
それぞれについて解説します。
人材や設備を獲得できる
M&Aを行い、相手企業の人材や設備を獲得することで、人材不足の解消や、技術力の向上につながる可能性があります。
自動車整備業界は、高度な技術や専門知識が必要な分野ですが、人口減少や高齢化などにより人材確保が困難です。さらに、電気自動車や自動運転など技術の進化は目覚ましく、2020年には電子制御装置整備について必要な資格が定められるなど、自動車整備を取り巻く環境は大きく変化しています。
こうした状況の中、新たな知識・技術を習得した人材や、高度な設備、工具が求められています。M&Aを行えば、そのための投資コストを抑える効果が見込めます。
特に、異業種から自動車整備業界に参入する場合には、新規参入に比べて事業展開がスムーズになると言えるでしょう。
事業の拡大や効率化、スケールメリットの獲得に期待できる
自動車整備業界は市場規模が縮小し、競争が激化しています。車種や関連商品の多様化、最先端技術への対応が求められており、特に個人経営の企業では消費者ニーズの多様化への対応が難しくなっています。
このような状況下で、M&Aはネットワークや顧客基盤の拡大、事業領域や地域の拡大、シナジー効果によるコスト削減や収益増加を実現する有効な手段です。異なる強みを持つ企業が合併することで、事業の拡大や効率化、収益性の向上を実現し、経営基盤の強化に期待できるでしょう。
競争力やブランド力を強化できる
自動車整備業界では、顧客からの信頼感や満足度が重要な要素です。個人経営の自動車整備工場は地域密着型が多く、信頼性や顧客の満足度はあります。一方で、知名度や宣伝力が低く、競争力に欠ける場合があります。また、自動車販売店や中古車販売店は、自社で車検や整備を行えないとサービスの質や付加価値が低くなるでしょう。
M&Aによって大きな会社の傘下に入った場合、サービスの質や付加価値を高めると同時に、自動車整備工場と自動車販売店のM&Aの場合、自社グループ内で部品を調達できる、満足度の高い工場と提携できるといった効果も期待できます。
新たなサービスや技術を開発できる
自動車整備業界では、技術革新や環境問題への対策が求められており新たなサービスや技術開発が欠かせません。しかし、1企業では、研究開発にかかる時間やコストが負担になります。また、自社だけでは思いつかないアイデアやノウハウもあるでしょう。
M&Aを行うことで相手企業のサービスや技術を取り入れ、新たに開発を進める可能性が高まります。
リスク分散ができる
自動車整備業界では、市場環境や競合他社の動向によって事業の成否が左右されます。強みの異なる企業とM&Aを行うことで経営を多角化し、リスク分散を進めることができます。
事業承継に役立つ
後継者不在や高齢化によって事業を継続できないケースもあります。売り手企業にとって、M&Aによる事業承継が成功すれば、さらなる成長や雇用の安定に寄与するでしょう。これらの観点から、M&Aは自動車整備業界における有効な戦略と言えます。
自動車整備業界におけるM&Aの注意点
自動車整備業界におけるM&Aは、多くのメリットがありますが、同時にさまざまな注意点もあります。自動車整備業界におけるM&Aの注意点として、以下の5つが挙げられます。
リスクやコストが高い
M&Aを行うには多額の資金が必要です。相手企業の財務や法務などの調査、評価(デューデリジェンス)にもコストがかかります。また、M&A後に発生する可能性のある訴訟や紛争にもコストがかかります。不正行為などのリスクも考慮しておきましょう。
相手企業との価値観や文化の違いがある
M&Aを行うと、相手企業と1つの組織になります。相手企業との価値観や組織文化の違いは、統合後に摩擦や対立が発生する要因になりかねません。共通のビジョンや価値観を持つことで、競合他社に対抗できます。
合併後の経営陣の配置が難しい
合併後、人事やシステム統合の実施には、無駄な経営コストがかかり効率的な事業運営に支障をきたすおそれがあります。
海外展開を視野に入れる場合、グローバル展開とローカル対応のバランスも重要です。買収先の市場や顧客に対する理解や関係構築を意識しましょう。
いずれにしても、十分なコミュニケーションをとり、明確なビジョンを共有して効率的な人事やシステムの統合を進めることが大切です。
法律や税務などの専門知識が不可欠である
M&Aには、株式譲渡や合併などのさまざまな手法があり、法律や税務などの専門知識が必要となります。また、相手企業との契約や権利義務、許認可の引き継ぎなどにも注意しなければなりません。
短期的な市場の変化に対応できるか不確実である
M&Aは長期的な視点で行うべき経営戦略です。短期的な市場環境や競合他社の動向に対応できるか、不確実性があることは否めません。合併後、できるだけ早く事業が軌道に乗るように詳細な分析を行い、長期的な戦略を練って臨む必要があります。
自動車整備業界においては、自動車業界全体の性質上、国内企業を対象としたM&Aだけではなく海外企業との取引も視野に入れ実行する必要があるでしょう。
自動車整備業界におけるM&Aの成功のポイント
上記の注意点を踏まえ、自動車整備業界におけるM&Aの6つの成功ポイントを解説しましょう。
目的と戦略を明確にする
第一に、M&Aが必要な理由、実施する目的を明確にしましょう。それによって、得られる効果や成果を予測することが可能になります。
目的に即した手法や条件、必要な期間、予算を精査し、具体的な戦略を立てることがポイントです。
M&Aの効果は、自社にない強み(技術)を得るだけではありません。既存事業の合理化や集約も必要です。手間はかかりますが、目的や戦略を明確にすることは、リスクやコストを抑えることにもつながります。
相手企業を精査する
相手企業を選定するには、自社との相性や相手企業の価値を詳細に評価することが重要です。自社とのとの相性とは、相手企業の価値観や企業文化、経営方針などが自社と合うかどうかを指します。相手企業の価値とは、財務状況や事業内容、市場シェアなどが適切かどうかを意味します。
専門家や仲介会社に相談する
M&Aを行うには、法律や税務などの幅広い専門知識が必要です。自社の人材のみでカバーするのは難しいため、専門家や仲介会社に相談することが重要です。
専門家や仲介会社は、M&Aに関する豊富な知識や経験があり、自社の要望に応じたサポートが受けられます。弁護士や税理士は法律や税務に関わる専門的な調査が可能です。エージェントやコンサルタントは、相手先企業の紹介や交渉、契約のサポートを行います。
自動車整備業界は、エンジンの整備が得意な企業や板金塗装を専門としている企業、販売営業がメインの企業など、企業ごとに担う領域が異なります。そのため、自社では取り扱っていない領域の企業とのM&Aを検討する場合には、市場環境に関する知識が不足していることもあるでしょう。不足している知識を補い、スムーズなM&Aを行うためには、専門家や仲介会社に相談することをおすすめします。
資金調達および返済の計画を綿密に立てる
M&Aを行うには多額の資金が必要です。そのため、M&Aを検討する段階から、スキームに応じた資金調達や返済の計画をしっかりと立てることが重要です。資金調達には、例えば自己資金や株式発行、借入などがあります。返済計画にはM&A後の収益予想や資産売却計画などが含まれます。
合併後の経営体制や人事管理の統合をスムーズに行う
M&Aを行った後には、経営体制や人事管理の統合をスムーズに行うことが重要です。合併後の経営体制とは、組織の構造や役割分担、決裁権限などを決めることです。親会社と子会社の関係になる、あるいは持株会社を設立するなどの選択肢があります。
人事管理とは、従業員の配置や評価、教育などを決めることです。人員削減や配置換え、研修やコミュニケーションなども含みます。
経営体制や人事管理がスムーズに統合・実施できなければ、競合他社との競争に出遅れる可能性があります。
市場環境や競合他社の動向に柔軟に対応する
M&Aは長期的な経営戦略に基づいて行うものであり、短期的な市場の変化も織り込んだ上で実行することが大切です。市場環境の変化や競合他社の動向には、あくまで柔軟に対応するよう心がけましょう。
市場環境の変化とは、消費者のニーズや嗜好、法律や規制などが変わることを意味します。競合他社の動向とは、同業他社の戦略や行動などが変化することです。これらの変化にも対応できる経営基盤を固めることで、M&A後の事業の成長や競争力を維持できます。
自動車整備業界におけるM&Aに関する最新情報やトレンド
自動車整備業界におけるM&Aに関する最新情報やトレンドは常に変化しています。
近年のトレンドについて解説します。
新型コロナウイルスの影響で、M&Aの需要が増加
新型コロナウイルスの感染拡大により、自動車整備業界は大きな影響を受けました。販売台数や走行距離の減少、自動車離れもあり、整備や車検の需要は低下しています。経営環境が悪化し、資金繰りが厳しい企業が増加してきました。
このような状況下で、事業エリアや規模の拡大、サービスの多様化を通して収益性の向上を目指すM&Aが目立ってきました。同時に、事業承継や資金調達などの目的でM&Aを検討する企業も増加中です。ただし、不確実性が高まる中、価格交渉はより困難となり、M&Aを見合わせる企業も増えるという状況が続いています。
電気自動車や自動運転などの技術革新により、M&Aの対象や目的が変化
自動車整備業界は、電気自動車や自動運転などの技術革新に対応する必要があり、整備士の資格制度も始まっています。自動車整備の方法や内容、さらには消費者のニーズに大きな影響を与えるでしょう。
このような状況下で、M&Aの対象や目的も変化しています。M&Aの対象企業を選定する場合、新たな設備やサービス、技術を持つ企業に注目が集まっています。自動車部品メーカーの松尾製作所は、EV(電気自動車)に対応できる部品メーカーを買収しました。
競争力強化のため、M&Aを通じて新たな事業領域や市場に進出する企業も増えています。他方で、新技術に対応できない場合や新技術に興味がない企業は、M&Aの対象から外れるようになると考えられます。
※参照元:
経済産業省 製造産業局 自動車課「自動車産業を巡る構造変化とその対応について」
日本経済新聞「EV部品拡充へ約100億円 松尾製作所、めっき企業を買収」
デジタル化やオンライン化により、M&Aのプロセスや方法が変化
デジタル化・オンライン化はM&Aに影響を与えています。
例えば、オンラインでのM&Aマーケットプレイスでは、売り手と買い手がオンラインで出会い、取引する機会が増えています。これにより、取引の機会やスピードが向上し、多様な取引が可能になっています。
また、AIを用いることでM&Aのターゲット企業の選定、ポストマージャーインテグレーションのプロセスなどが効率化されています。
ターゲットを見つけたあとのプロセスでは、企業はM&Aの判断を下す際に必要となるリスクの評価や価値評価、シナジー効果などを、ビッグデータやアナリティクスの利用により、精度の高い分析を得られるようになっています。これらデジタル化やオンライン化は自動車整備業界も例外ではありません。
ただし、デジタル化やオンライン化により、得られるメリットは大きいものの、セキュリティや信頼性などのリスクが高くなる可能性もあります。
自動車整備業界におけるM&Aの事例
自動車整備業界におけるM&Aの事例として、オートバックスセブンとイエローハットの2つのケースを紹介します。
オートバックスセブンの事例
株式会社オートバックスセブンは、カー用品販売業界のリーディングカンパニーとして、自社の事業拡大とシナジーのある企業とのM&Aを組み合わせることで、継続的に企業価値を高めてきました。。
2023年にIoTソリューション事業を展開するトライポッドワークス株式会社に資本出資を行い、法人向けクラウド型社用車管理システム「FLEETGUIDE」を共同で開発しサービスの提供を開始しました。
※参照元:オートバックスセブン「法人向けクラウド型社用車管理システム『FLEETGUIDE』サービス開始」
イエローハットの事例
イエローハットは国内第2位のカー用品販売大手であり、M&Aによる企業活力向上を目的とした積極的投資を継続しています。2012年には、ドライバースタンドとモンテカルロを相次いで買収し、店舗網や商品ラインナップを拡大しました。また、2012年には出光興産との資本業務提携を実施。新たなサービスステーション業態として「アポロハット」を展開し、新規顧客獲得を目指しています。
※参照元:
日本経済新聞 「イエローハット、買収進め営業増益」
イエローハット「株式会社イエローハットと出光興産株式会社の業務・資本提携に関するお知らせ」
アポロリンク「アポロハットとは」
まとめ
本稿では、自動車整備業界におけるM&Aに関する内容を解説しました。事業の拡大や効率化、収益の向上などのメリットがありますが、一方で、リスクやコストが高い点なども理解しておかなければなりません。
自動車整備業界のM&Aに関する最新動向としては、新型コロナウイルスの影響で、需要や価格が変動していることが挙げられます。電気自動車や自動運転などの技術革新は加速しており、環境問題や社会貢献の観点からも評価されるようになりました。M&Aの対象や目的、基準や条件も変化します。今後はM&Aのプロセスや方法も変化するでしょう。
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