アパレル業界のM&A動向やメリット・成功のコツ|売却・買収事例も解説
2023年10月27日
このページのまとめ
- アパレル業界では、ブランド力強化などを目的としたM&Aが活発
- アパレル業界では、商品の過剰供給やIT化の遅れなどが課題となっている
- アパレル業界のM&Aには、優秀なデザイナーを獲得できるなどのメリットがある
- アパレル会社の買収では、適切な価格での買収などが成功のコツとなる
- アパレル会社の売却では、デザイン力などの強みを確立することが重要
アパレル業界では、EC事業への進出や垂直統合などを目的とした同業者の買収が活発です。M&Aにより、買い手は優秀なデザイナーの獲得、売り手は大手アパレル会社への傘下入りなどのメリットが期待できます。M&Aを成功させるコツとして、売り手側は希少な強みの確立、買い手側はデューデリジェンスによるリスクの精査などがあります。本記事ではアパレル業界におけるM&Aの動向やメリット、成功のコツ、事例などを解説します。
目次
アパレル業界のM&A動向
近年のアパレル業界で行われているM&Aは、主に以下4つの目的で実施される傾向があります。
ブランド強化や市場での生き残り
アパレル業界では、ブランド力を強化し、市場での生き残りを求める手段としてM&Aが注目されています。具体的には、買収によってライバルの排除や自社ブランドの強化、競合他社との差別化を図るケースが中心です。
また、業績の低迷や、自社のみでの成長に限界を感じた中小アパレル会社が、市場での生き残りをかけて主体的に会社・事業の売却を図るケースもあります。
EC事業をはじめとした将来性の高い分野への進出
前述のとおり、近年はアパレルECの市場規模が急速に成長しています。これを受けて、成長分野への適応を目的としたM&Aも活発です。
具体的には、ECでのアパレル販売に強みを有するアパレル会社を買収することで、販路拡大や顧客数の増大を図ることが可能となります。また、ECサイトでの集客を得意とするアパレル会社を買収すれば、オムニチャネル戦略(さまざまな販路・物流・情報を連携させることで、顧客に対して一貫的にアプローチする戦略)を推進することにつながります。
垂直統合
サプライチェーンにおける垂直統合を目的としたM&Aも活発です。たとえば、アパレル小売業の会社がアパレル製造業や物流業の会社を買収するケースが当てはまります。
M&Aによる垂直統合の多くは、生産効率や品質管理の向上、コスト削減を図る目的で実施されます。また、サービスの品質向上による顧客満足度アップ、SPA(製造小売業)へのビジネスモデルの転換などを目的とする事例も顕著です。
デジタルマーケティングやDXの推進
アパレル業界はIT化の遅れを指摘されることも多く、デジタルマーケティングやDX化の推進を目的としたM&Aも増えています。
たとえば、大手アパレル会社とシステム開発会社がM&Aを行うケースが当てはまります。システム開発会社は、在庫管理や顧客管理などに役立つツールを開発・提供する即戦力となり得るためです。また、顧客のニーズに即した商品開発やオンラインでの顧客体験向上を図る目的で、デジタルマーケティングを得意とする企業をM&Aの相手先として選ぶケースも特徴的です。
こうしたM&Aでは、顧客のLTV(顧客生涯価値)や競争優位性の向上が期待できるでしょう。
アパレル業界の概要
続いて、アパレル業界全体の定義や構造、市場規模を解説します。
アパレル業界の定義
アパレル(apparel)とは、「服装」や「衣服」を指す言葉です。経済産業省は「アパレル・サプライチェーン研究会報告書」において、アパレル産業は「製品(衣服)の製造に関わる事業者と企画・流通・販売に関わるアパレル企業によって構成される」と定義されています。
つまり、衣料品を作る段階から消費者の手元に届くまでの流れに携わる各事業者がアパレル業界に含まれるのです。
※参照元:経済産業省「アパレル・サプライチェーン研究会報告書」
アパレル業界の構造
アパレル業界は、具体的に以下の事業者によって構成されています。
- 原材料メーカー:糸や生地の製造や縫製、染色・加工などを担う
- 繊維商社:繊維の輸出入や買付けなどを担う
- アパレル製造会社:衣料品の企画や製造。流通、卸売、小売などを総合的に担う場合もある
- アパレル物流会社:生地や衣料品などの物流を担う
- アパレル小売業者:仕入れた衣料品を消費者向けに販売する
- SPA(製造小売り)企業:自社で企画・製造した商品を自社店舗やECサイトで販売する
アパレル業界の市場規模
矢野経済研究所「国内アパレル市場に関する調査を実施(2022年)」によると、2021年における国内アパレル総小売の市場規模は約7兆6,105億円でした。2016年から2019年にかけては約9兆円を上回る水準でしたが、2020年以降はコロナ禍での行動制限による影響などで市場規模は縮小傾向です。
一方で、アパレルECの分野に限定すると市場規模は拡大傾向です。経済産業省「電子商取引に関する市場調査の結果を取りまとめました」によると、衣類・服装雑貨等におけるBtoC-ECの市場規模は、2019年には1兆9,100億円でしたが、2021年には2兆4,279億円まで拡大しています。コロナ禍による巣ごもり消費の影響により、2020年以降、市場規模が拡大していると考えられます。
最後に、アパレル製造の市場規模を紹介します。e-Stat「経済構造実態調査」および「データセット(令和3年度経済センサス-活動調査)」によると、2018年から2021年において、和装製品・その他の衣服・繊維製身の回り品製造業の市場規模は以下のとおりほぼ横ばいに推移しています。
- 2018年:2,594億3800万円
- 2019年:2,422億7800万円
- 2020年:2,725億6200万円
- 2021年:2,693億0600万円
※参照元:
矢野経済研究所「国内アパレル市場に関する調査を実施(2022年)」
経済産業省「電子商取引に関する市場調査の結果を取りまとめました」
e-Stat「経済構造実態調査」
e-Stat「データセット(令和3年度経済センサス-活動調査)」
アパレル業界の課題
経済産業省「アパレル・サプライチェーン研究会報告書」をもとに、アパレル業界の課題を「企画・流通・販売」、「製造」、「サプライチェーン全体」という3つの視点から解説します。
※参照元:経済産業省「アパレル・サプライチェーン研究会報告書」
企画・流通・販売上の課題
企画・流通・販売上の課題として、主に以下3つが挙げられます。
- 商品の過剰供給
- 商品開発力およびクリエイション力の低下
- 過剰在庫につながりやすい販売方式
特に深刻なのが1つ目の課題です。
アパレル業界では、過剰店舗と商品の過剰供給が問題とされてきました。少子高齢化などの影響で需要が伸び悩む一方で、無秩序な出店競争が繰り広げられたことにより、集客力の低下が生じています。
また、商品の過剰供給に伴い、バーゲンで商品価格を下げて販売するケースが増えています。この結果、原価率や品質の低下が生じ、結果的に消費者における購買意欲の減退にもつながっていると指摘されています。
製造上の課題
製造上の課題として、主に以下4つが挙げられます。
- 不十分な原価計算による業績悪化
- 不安定な受注による稼働率の低さ
- 人材不足および外国人研修生への依存度の高さ
- 設備の老朽化およびIT化の遅れ
上記課題の背景にあるのは、製造業者全体における「受身意識の強さ」です。価格交渉や原価計算を十分に行わず、採算割れや倒産に至るケースが少なくありません。また、経営者や作業者の高齢化に伴い、深刻な労働力不足に悩む製造業者も増えています。
サプライチェーン全体の課題
サプライチェーン全体の課題として、以下の2点が指摘されています。
- 非合理的な商取引慣行の常態化
- サプライチェーンにおける連携不足
1.非合理的な商取引慣行の常態化
非合理的な商取引慣行の常態化の課題として、歩引き(一定以上の購入や早期支払いに対する割引)などが挙げられています。1万円の商品を9,800円に割引するケースが該当します。
アパレル業界では、アパレル会社と仕入先(繊維メーカーなど)のパワーバランスから、こうした歩引きが常態化していました。歩引きすると、メーカー側では資金繰りの悪化や利益率の低下を招くおそれがあるため、改善を図る動きが広まっています。
また、業者間におけるコスト削減とリスク負担の押し付け合いという課題もあります。
2. サプライチェーンにおける連携不足
たとえばテナントによるオムニチャネル販売に消極的な商業施設が多いことが指摘されます。オムニチャネル販売を行うと、そうでない場合と比べて、「ニーズに合う販売促進の実現による顧客満足度の向上」や「購入経路の拡大による機会損失の削減(顧客の離脱防止)」などのメリットを期待できます。
多様化する消費者のニーズに対応するためには、従来の製造・販売方法を見直すことが求められます。そのためには、サプライチェーン全体で連携を深め、消費者視点に立った価値の創造を図ることが重要と言えるでしょう。
アパレル業界での買収を行うメリット
アパレル会社・事業を買収すると、以下4つのメリットが期待できます。
事業規模の拡大
アパレル業界でのM&Aは、事業規模を拡大する1つの手段として役立ちます。
たとえばアパレル製造会社が同業者を買収することで、工場や人員などのリソースを獲得し、生産規模を拡大させることが可能です。その結果、売上(利益)の増加を見込めます。
また、サプライチェーンにおける川上・川下企業の買収により、事業規模の拡大を図ることも可能です。この場合、売上の増加はもちろん、生産プロセスや設備の効率化、原材料の一括仕入れなどによるコスト削減も期待できるでしょう。
多角化や海外進出によるリスク軽減、新たな収益源の確保
リスク軽減や新しい収益源確保につながる点も、アパレル会社を買収するメリットです。
たとえば別業界の会社がアパレル業界の会社を買収することで、アパレル業界への新規参入を実現できます。その結果、本業の収益悪化をアパレル事業の収益でカバーすることが可能となる上に、新しい収益源を確保することで会社全体の売上アップにもつながります。
ちなみに、一から自社で新規事業を立ち上げることによる多角化も可能です。ただし、その場合は多額の予算を要する上に、顧客やノウハウなどを持っていない状態から始めるためハイリスクです。買収の場合は、すでに軌道に乗っているビジネスを取得するため、新規事業立ち上げと比べて多角化のリスクを軽減できます。
また、海外のアパレル会社を買収することで、海外進出も可能です。人口や経済が上向きな国・地域に進出できれば、中長期的にリスク軽減や収益性向上を図れます。特に、消費者の人口が減少している日本のアパレル会社にとって、海外進出の実現は大きなメリットとなり得るでしょう。
人気ブランドや優秀なデザイナーなどの希少な経営資源の獲得
前述のとおり、今後のアパレル業界で生き残るには、消費者のニーズに適う商品を生産・提供することが欠かせません。そのためには、すでに消費者から人気を集めているブランドやニーズを満たす商品を生み出せるデザイナーが重要です。
M&Aによってアパレル会社を買収することで、人気ブランドや優秀なデザイナーといった希少な経営資源を獲得できます。希少かつ収益に直結するリソースの獲得により、単純に売上を伸ばせるだけでなく、中長期的に強力な競争優位性を築ける可能性があります。
また、自社が有するノウハウや販路(ECサイトなど)とのシナジー効果により、収益性の向上やコスト削減の効果を見込めるでしょう。
ブランド育成や新規領域への進出にかかる時間の削減
人気ブランドの育成や新規領域への進出には相応の時間がかかります。デザイナーや技術者の育成、設備の補強、マーケティング活動などが必要となるためです。
一方でM&Aでは、人気ブランドや優秀なデザイナー、ECサイトなどの経営資源を有するアパレル会社を買収できます。必要な経営資源を一括で確保できるため、ブランド育成や新規領域への進出といった目標達成にかかる時間の大幅な削減につながります。
アパレル業界での売却を行うメリット
アパレル会社・事業を売却すると、以下4つのメリットが期待できます。
大手アパレル会社への傘下入り
M&Aによって大手アパレル会社の傘下入りを果たすと、買い手企業が有する資金力やブランド、知名度、販路などの経営資源を活用できるようになります。それに伴い、さまざまなメリットが期待できます。
たとえば資金力を活用することで、業績や資金繰りの改善を見込めます。知名度やブランド、販路などを活用すると、収益の安定化・拡大や成長性の向上、採用力の強化といったメリットを期待できるでしょう。
不採算事業や低迷ブランドの切り離しによる事業の選択と集中
事業譲渡などのスキームを活用すると、一部の店舗や部門のみを手放すことができます。それにより、事業の選択と集中を図れます。
たとえば不採算の事業を譲渡すると、その部分に費やしていたリソース(人材など)を収益性や成長性の高い事業に投下できるようになります。その結果、業績の改善や収益の向上につながるでしょう。
会社や事業の売却益獲得
アパレルの会社・事業を売却すると、株主(≒経営者)や会社側は売却利益を得られます。
目安としては、一般的な中小企業だと「時価純資産価額+営業利益×2〜5年」で算出した金額で売却でき、そこから諸費用を差し引いた分が利益として手元に残ります。買い手からのニーズがある経営資源(優秀なデザイナーなど)を有している場合は、より大きな金額で売却できる可能性もあります。
売却益は、新規事業の立ち上げや主力事業の強化、借入金の返済など、さまざまな用途に資金を投入できます。また、経営からリタイアして経済的に余裕のある生活を送る準備ができます。
後継者不在の解消やそれに伴う従業員の雇用維持
アパレル業界においても、後継者不在は重要な課題です。後継者不在の問題が解消されないと、黒字でも廃業する事態になりかねません。その結果、ブランドや技術などを後世に残せないだけでなく、従業員の雇用も維持できなくなります。
M&Aを活用すると外部の企業や第三者が経営権を引き継ぐため、事業承継、従業員の雇用の維持が実現できます。
また、M&Aによって会社が成長した場合、それに伴って従業員の待遇改善なども期待できます。
アパレル業界における同業者同士のM&A事例
この章では、アパレル業界における同業者同士のM&Aの事例を3件解説します。
事例ごとに、M&Aの目的や用いられた手法、取得価額を取り上げます。
TSIホールディングスによる上野商会の買収
買い手のTSIホールディングスは複数のブランドを抱える大手アパレル会社です。売り手の上野商会はアパレルブランドの企画や生産、輸入などの事業を展開しています。
買い手側は、ブランドポートフォリオの拡大やグローバルでの成長を目的としてM&Aを行いました。2018年10月に実施されたM&Aでは、株式譲渡のスキームによってTSIホールディングスが上野商会株式の79%を取得しました。取得価額は150億4,600万円です。
※参照元:TSIホールディングス「(株)上野商会の株式の取得(子会社化)に関するお知らせ」
RBKJによるアディダス ジャパンからの事業買収
買い手のRBKJは、Reebokの国内事業のために設立されたロコンド(現ジェイドグループ)の連結子会社です。売り手のアディダス ジャパンはアディダス・リーボックブランド製品の販売およびその付帯事業を展開していました。
買い手側は、ブランド事業の強化や品揃えの拡充、EC事業の強化を図る目的でM&Aを行います。2022年10月に実施されたM&Aでは、事業譲渡のスキームによってRBKJがアディダス ジャパンからReebokブランドの日本国内事業の一部を譲受しました。具体的にはEC事業および一部店舗運営、靴卸事業であり、取得価額は11億3,800万円です。
※参照元:
ロコンド「Reebok 国内事業の運営に関する伊藤忠商事株式会社とのライセンス契約締結および合弁会社の設立のお知らせ」
ロコンド「当社連結子会社による事業の(一部)譲受けに関するお知らせ」
ナルミヤ・インターナショナルによるハートフィールの買収
買い手のナルミヤ・インターナショナルは百貨店やショッピングセンターなどを通じて子供服を企画・販売する事業を、売り手のハートフィールは小中学生男児向けアパレルブランドの事業を展開しています。
買い手側は、男児向けブランドへの事業展開を図る目的でM&Aを行いました。2019年3月に実施されたM&Aでは、株式譲渡のスキームによってナルミヤ・インターナショナルがハートフィールの全株式を取得しました。取得価額は7億900万円です。
※参照元:ナルミヤ・インターナショナル「ハートフィールの株式の取得(子会社化)に関するお知らせ」
アパレル業と異業界・異業種のM&A事例
次に、アパレル業を展開する会社と異業界・異業種の会社によるM&Aの事例を3件解説します。
前章と同様に、M&Aの目的や手法、取得価額を取り上げます。
ZホールディングスによるZOZOの買収
買い手のZホールディングス(2019年10月にヤフーから社名変更)はインターネット広告やEコマースなどのIT事業を多角的に展開、売り手のZOZOはファッションECサイトの運営やプライベートブランドの販売事業を展開しています。
買い手側は売り手企業とのシナジー創出によるEコマース事業のさらなる飛躍を図る目的で、売り手側は新しいユーザー層への訴求や買い手企業が有する経営資源の活用による利益向上を図る目的でM&Aを行いました。2019年11月に実施されたM&Aでは、TOBのスキームによってZホールディングスがZOZO株式の50.1%を取得しました。取得価額は4,007億3,600万円です。
※参照元:
ヤフー「株式会社ZOZO 株式(証券コード3092)に対する公開買付けの開始予定及び資本業務提携契約の締結に関するお知らせ」
Zホールディングス「株式会社ZOZO 株式(証券コード3092)に対する 公開買付けの結果及び子会社の異動に関するお知らせ」
アダストリアによるプレティア・テクノロジーズへの出資
出資側であるアダストリアはカジュアルファッション専門のSPAブランドを、出資を受けたプレティア・テクノロジーズはARクラウドや各種ARサービスの開発・運営事業を展開しています。
アダストリアはファッション領域におけるDXを推進する目的でM&Aを行いました。2021年3月に公表されたM&Aでは、資本提携の一環として出資が行われました。出資額は1億円と見られています。
※参照元:
PR TIMES「アダストリアがスタートアップ企業との協業によるオープンイノベーションを本格化!」
日本経済新聞「アダストリア、プレティアに出資 自宅でAR試着」
三井物産によるビギホールディングスの買収
買い手の三井物産は鉄鉱石や原油などを扱う大手総合商社です。売り手のビギホールディングスは複数の著名ブランドを持ち、洋服および服飾雑貨の企画・製造・販売事業を展開しています。
買い手側は、変化の激しい小売市場における柔軟な対応を可能とするブランドポートフォリオの形成を目指してM&Aを行いました。2018年2月に実施されたM&Aでは、株式譲渡のスキームによって三井物産と三井物産系のMSDファンドが共同でビギホールディングスの全株式を取得しました。取得価額は非公表です。
※参照元:三井物産「株式会社ビギホールディングスの全株式取得」
アパレル業界での買収を成功させるコツ
会社・事業の買収による成功は、「M&A後に投資資金を回収し、事業規模拡大などの効果を実現すること」と言えます。この前提に立つと、アパレル業界での買収を成功させるには、以下3つのポイントを押さえることが効果的です。
適切な価格で買収する
実態に対して買収金額が高すぎると、買収に費やした資金を回収できなくなり、多額の損失を被るおそれがあります。その結果、会社全体の業績が悪化し、本業の継続にも支障をきたしかねません。
こうしたリスクを回避するためにも、アパレル業界の買収を成功させるには、適切な買収価格の設定に取り組みましょう。具体的には、買収先の強みや想定されるシナジー効果を過大評価しないことがコツです。
目的に応じてM&Aスキームを選定する
目的に合ったM&Aスキーム(手法)を選択することも、買収を成功させるカギです。
M&Aのスキームには、株式譲渡や事業譲渡、会社分割、合併などさまざまなものがあり、それぞれメリットやデメリットは異なります。たとえば株式譲渡は面倒な手続きが原則不要で会社ごと買収できる点がメリットですが、簿外債務や偶発債務を引き継ぐリスクがあります。
つまり、M&Aの目的や自社の状況に応じて、最適なM&Aスキームを選定することが求められます。例を挙げると、アパレル会社ごと買収する場合には支配権の取得を可能とする株式譲渡や株式交換、アパレルの一部門のみを取得したい場合には買収する資産を自由に選べる事業譲渡や会社分割が一般的です。
デューデリジェンスによってシナジー効果やリスクを精査する
デューデリジェンスとは、潜在的なリスクやシナジー効果を洗い出すM&Aのプロセスで、買い手企業が実施します。洗い出したリスクやシナジー効果をもとに、買収計画全体の組み立てを行います。
シナジー効果が発揮されないと、買収費用を回収できない、期待通りまたはそれ以上の収益を得られない可能性が高まります。また、訴訟や未払残業代などのリスクを対策なしに引き継ぐと、後々に莫大な損失を被ったり、事業の継続が困難となったりするおそれがあります。
こうした事態を防ぐために、デューデリジェンスによるシナジー効果やリスクの精査は重要です。
デューデリジェンスには、財務や法務、ビジネスなどの専門的な知識が求められます。各分野の専門家(弁護士や公認会計士など)に調査をサポートしてもらうことがおすすめです。
アパレル業界での売却を成功させるコツ
会社・事業の売却による成功は、「価格面などで満足できるM&Aを実施し、かつ事業承継などの目的を達成すること」と言えるでしょう。この前提に立つと、アパレル業界での売却を成功させるには、以下3つのポイントを押さえることが効果的です。
デザイン力や人気ブランドなどの希少な強みを確立する
基本的に売り手側としては、可能な限り高い価格でアパレル会社・事業を売却したいと考えます。そのために必要な要素の1つとして、「買い手側からニーズがある希少な強みを持っていること」が挙げられます。
たとえば優れたデザイン力(デザイナー)や人気ブランドがあれば、短期的には売上増加、中長期的には競争優位性の確立につながります。ただし、こうした経営資源は獲得することが容易ではなく、得るまでには時間がかかります。
そのため、このような経営資源を有していると、買い手側から高く評価される傾向にあるのです。高値で売却したいならば、デザイン力などの希少な強みを確立し、企業価値の向上に努めましょう。希少な強みを獲得するには、自社の強み・弱みや外部環境(競合他社や市場動向など)を分析した結果をもとに経営戦略を立案・実行することが重要です。外部環境の分析には3C分析や5フォース分析、自社の強みを分析する際にはVRIO分析などのフレームワークが役立ちます。
また、こうした経営資源の存在を買い手側にアピールすることも大切です。
事業や市場が成長しているタイミングで売却する
有利な条件でアパレル会社・事業を売却する上で、もう1つ重要なのがタイミングです。
売却価格などの条件は、基本的に買い手との交渉によって決定されます。そのため、買い手から需要があるタイミングで売却することが欠かせません。具体的には、事業や市場が成長しているタイミングでの売却が最適です。
早い時期からM&Aの成功に向けた準備を進める
前述のとおり、アパレル会社・事業の売却を成功させるには、強みの確立や成長しているタイミングでの売却が重要です。しかし、このような課題の解決には相応の時間がかかるため、早い時期からM&Aの準備を進めておく必要があります。
前もって進めておかないと、強みが確立していない状態でM&Aの必要に迫られてしまい、不利な条件で買収される事態になり得ます。もしくは、買い手が見つかる前に業績や市場が衰退してしまい、M&Aを行えなくなるリスクもあります。
こうした事態を防ぐためにも、数年単位で計画を立ててM&Aの準備に取り掛かることがおすすめです。具体的には、前述した強みの確立やM&Aを行う目的の明確化などを実施します。
また、不要な在庫や労務問題(未払残業代など)といった買い手側からネガティブに受け取られる要素を排除しておくことも、M&Aの成功には欠かせません。
まとめ
本稿では、アパレル業界におけるM&Aの動向や売却・買収の事例、メリットなどを解説しました。
アパレル業界では、DX推進や市場での生き残りなどを目的にM&Aが活発に行われています。M&Aにより、人気ブランドなどの希少な経営資源獲得、事業承継の実現などのメリットが期待できます。メリットを最大化するためには、デューデリジェンスの徹底や早い時期からの準備などを行うことがコツです。
レバレジーズM&Aアドバイザリー株式会社には、アパレル業界のM&Aに関する専門知識を有するコンサルタントが在籍しています。M&A戦略の策定やバリュエーションにも対応しており、M&Aのご成約まで一貫したサポートを提供しています。円滑かつ安心なM&Aを実現します。ぜひレバレジーズM&Aアドバイザリー株式会社のご利用をご検討ください。