印刷会社のM&A動向と課題とは?特徴や事例をあわせて解説
2024年7月30日
このページのまとめ
- 印刷会社は、書籍・雑誌・パンフレットなどの印刷・製版・製本を行う
- 印刷会社は、デジタル化によって需要が低迷している
- 印刷会社のM&Aは、デジタル化・電子化を目的に盛んになっている
- 印刷業界のM&Aは、資本力のある企業が積極的に行っている
- 印刷業界のM&Aは、海外企業が売り手となるケースも少なくない
現在印刷会社を営んでいる方の中には、M&Aの実施を検討している人も多いのではないでしょうか。印刷会社の属する印刷業界は、盛んにM&Aが行われている業界です。技術力を持つ中小企業を資本力のある大企業がM&Aによって買収したり、資本提携を結ぶケースが多くなっています。
この記事では、印刷会社のM&Aの動向や印刷業界の市場動向について詳しく解説するとともに、M&Aの事例も10件紹介します。
目次
印刷業界とは
印刷産業は、印刷・製版・製本および印刷物加工・印刷関連サービスという4つのサブセクターに分けられます。印刷産業の製品範囲は幅広く、書籍・雑誌・パンフレット・チラシ・ポスター・新聞・シール・ラベル、紙製品、包装材、建材、電子部品など、多岐にわたります。これらの需要に対応する印刷技術も、平版オフセット印刷・グラビア印刷・凸版印刷・スクリーン印刷などが多種多様な方式があります。
印刷業界の特徴の1つは、製造業でありながらも受注ベースで運営されている点です。近年は、DTP(デスクトップパブリッシング)や印刷機の進歩、技術の均一化が競争を激化させています。
また、これまでは国内市場依存の産業でしたが、大手の凸版印刷と大日本印刷では、海外売上高比率が2〜3割程度になるなど、海外展開が積極的に行われています。
印刷業界の動向と課題
本章では、印刷業界の市場規模や課題、主なトレンドについて解説します。
印刷産業の出荷額の推移
「一般財団法人 日本印刷産業連合会」が2024年に発表した調査によると、印刷産業の出荷額および付加価値額は、以下の通り推移しています。
年 | 印刷産業出荷額(百万円) | 印刷産業付加価値額(百万円) |
2015 | 5,458,247 | 2,422,596 |
2016 | 5,275,282 | 2,220,754 |
2017 | 5,237,815 | 2,222,062 |
2018 | 4,982,881 | 2,118,862 |
2019 | 4,998,127 | 2,129,072 |
2020 | 4,663,047 | 2,143,250 |
2021 | 4,855,506 | 2,234,242 |
2015年から2021年にかけて出荷額は約6,000億円減少しており、落ち込みが顕著です。この傾向は続くと予想されるため、印刷会社には売上を維持・向上させるための努力が求められているといえます。
付加価値額の推移
付加価値額とは、企業が生産活動を通じて新たに創出した価値を数値で表したものです。
付加価値額が上昇すればその分企業が生産活動を通じて新たに創出した価値が高いことを意味し、逆に付加価値額が減少すればその分企業が生産活動を通じて新たに創出した価値が低いことを意味します。
付加価値額は基本的に以下の算式で計算されています。
付加価値額 =出荷額等 +(年末在庫額 -年初在庫額)-(推計酒税等の額 + 推計消費税額)- 原材料使用額等 - 減価償却額【算式の表記未確認】
先ほどの表を見てみると、2018年までは出荷額とともに下落してきた付加価値額ですが、2019年には出荷額の若干の回復とともに上昇しました。そして2020年には新型コロナ禍等の影響で出荷額はさらに下落しましたが、付加価値額は若干上昇しました。これには原材料使用額等が大きく関係しています。
原材料使用額等は原材料の使用額、燃料と電力の使用額、委託生産費や製造等に関連する外注費等の合計です。算式の通り原材料使用額等が小さいと付加価値額は大きくなります。
2020年工業統計調査確報 産業別統計表によると、2019年の印刷業の従業者4人以上の事業所に関する原材料使用額等は2兆4,241億5,200万円でした。一方令和3年経済センサス‐活動調査によると、2020年の印刷業の従業者4人以上の事業所に関する原材料使用額等は2兆1,389億8,400万円であり大幅に減少しています。結果として2020年は2019年より付加価値額は大きくなりました。
さらに、2021年は2020年と比較して出荷額が回復したこともあり、付加価値額も増加しました。
参照元:
一般財団法人 日本印刷産業連合会「印刷産業 Annually Report Vol.3 2024年」
経済産業省「2020年工業統計調査確報 産業別統計表」
経済産業省「令和3年経済センサス‐活動調査」
印刷業界の課題
印刷業界は、情報メディアが紙からデジタルへと大きく移行するなか、停滞期にあるといえます。パッケージ印刷を除けば、どの領域も需要は落ち込み続けている状況です。
印刷業界の今後の主な課題は以下の通りです。
課題1:設備投資に費用がかかる
印刷業界では、競争力を維持するために印刷機、加工機、検査機などの設備投資が欠かせません。保有する設備が製品ラインナップや生産効率、キャパシティの多くを決定するため、さまざまな専門機器を揃える必要があります。特に印刷機に関しては大規模な投資が求められます。
課題2:相場変動のリスクが大きい
印刷業界の原材料(紙・フィルム・インク・溶剤など)は、原油価格の変動に大きく左右されるため、生産コストが増加するリスクがあります。また、印刷業界は製品ごとの原価を正確に把握するのが難しく、受注や発注の際に相場が安定しないという特徴もあります。
製品別の原価は製造間接費などを用いて計算しますが、印刷業界では多品種小ロット生産が基本であり、労働集約的な性格が強いため、製品別の原価計算には多大な手間がかかります。
課題3:業界の多くを小規模事業者が占めている
印刷業界には、売上高が1兆円を超える大手印刷会社がある一方で、従業員300人未満で売上高が小さい中小・小規模事業者が多数を占めています。このため、印刷業界では大手印刷会社が出版社や新聞社からの受注を受け、印刷業務の一部を中小・小規模事業者に下請け発注することが一般的となっています。
課題4:労働集約的な多品種少量生産の事業形態
印刷業は、多品種小ロット生産を基盤としており、労働集約的な性格が強い業界です。製品ごとの売上が小さく、生産工程も複雑であるため、製品別の原価計算を行うには多大な手間がかかります。その結果、製品別の原価計算は「実施しても費用対効果が悪い」と敬遠され、正確な製品別原価を把握していない小規模事業者も多く存在します。
課題5:エンドユーザーの影響が大きい
印刷業界は、エンドユーザー(最終消費者)が属する業界の影響が大きく、季節変動による売上高への影響が顕著です。そのため、製品生産の安定化が簡単ではないという特性があります。
近年、エンドユーザーの価値観が多様化する中で、印刷会社には高い対応力が求められているといえるでしょう。特に商業印刷では情報の賞味期限が短く、タイムリーな製品生産が求められるため、打ち合わせや生産体制の構築に多くの時間と人件費がかかることが想定されます。
課題6:デジタル化により市場縮小が避けられない
デジタル化の進展により、特に出版印刷の需要は減少を続けています。スマートフォンやタブレットの普及に伴い、紙媒体の売上は減少し、一方で電子書籍の需要は増加しています。
また、近年のDTP(デスクトップパブリッシング)の技術向上により、個人でも簡単に印刷ができるようになり、印刷会社への依頼が減少しています。この傾向は今後も加速すると予想されており、印刷業界にとって大きな課題となっています。
印刷業界の主なトレンド
そのほか、印刷業界のM&Aを検討する上で押さえておくべき主なトレンドは以下の通りです。
ポイント1:パッケージ・包装の高需要
今後もパッケージや包装印刷の需要は高いと予想されます。消費者の多様なニーズに対応するため、多種多様なパッケージが必要とされます。また、ライフスタイルの多様化により、個食化が進み、個食用包装の需要も増加しています。
ポイント2:異業種や新事業への積極的参入
印刷業界では、印刷ノウハウを活かして異業種に転換したり、新たな事業に参入したりする企業も増えています。例として、販促のためのソリューション提供や、電子化した出版物を閲覧できるサイト運営などがあります。
また、いくつかの印刷会社では、印刷業を営む企業であるにも関わらず、液晶ディスプレイのカラーフィルターに注力するなど、電子機器の設計や製造まで手がけるようになっています。ほかにも、VR映像やデジタルアーカイブを用いた展示事業を推進する会社もあり、紙の印刷事業からのシフトが盛んに行われています。
ポイント3:DX導入による生産性の効率化
多くの業界で進行しているDX(デジタルトランスフォーメーション)の導入が印刷業界でも期待されています。ある企業は、全国の印刷機の稼働状況を一括管理し、非稼働時間を有効活用するシェアリングプラットフォームを運用しています。また、印刷業で身につけた技術を活かし、メタバースの基盤を提供する企業もあるなど、新たなビジネスモデルを構築しています。
ポイント4:カーボンニュートラル・ESGへの対応
世界は温室効果ガスの排出を実質ゼロにするカーボンニュートラルを目指しており、日本政府も2050年までにこれを達成すると宣言しました。印刷業界では、CO2排出量を減少させるデジタル印刷機の導入が進められています。また、女性が安全に作業できる環境を提供することで、女性の社会進出やダイバーシティの促進にも寄与しています。
印刷業界は、大量印刷・大量廃棄から脱却し、環境保護や職場環境に配慮した経営が求められています。これにより、投資家や金融機関からの信頼を得て、持続的な成長を遂げることが期待されます。
このように印刷業界は、デジタル化の進行とともに変革を迫られていますが、新たな可能性も秘めています。今後の展望として、パッケージ・包装の需要増、DXの導入、異業種参入や新事業の展開、カーボンニュートラルやESG経営への対応が重要となるでしょう。
印刷業界におけるM&Aの特徴
上記で説明した課題やトレンドを受けて、資本力のある企業によるM&Aも盛んになっています。ここからは、印刷業界におけるM&Aの特徴を解説していきます。
M&Aを活用した業界再編が進んでいる
伝統的に、日本の印刷業界は多くの中小企業が市場を支えてきた業界であり、それぞれが特化した技術やサービスを提供することで競争力を維持してきました。しかし、テクノロジーの進歩と消費者のニーズの変化に対応するためには、より大規模な投資とイノベーションが求められます。このため、企業間の協力や統合が進むようになり、M&Aが一般的になりました。
伝統的な印刷業というと、版面にインクをつけて版面上の文字や絵などを紙や布などに写すことを想像しますが、現在はそれにとどまりません。印刷業界はデジタルテクノロジーの発展と共に進化し続けており、その変化は多方面に及んでいます。たとえば、デジタル印刷や印刷系Webサービスのほか、デジタル広告、デジタルマーケティングなどの事業に進出する印刷会社も存在しています。
このような技術をM&Aによって手に入れることで、新たな市場に進出したり、ビジネスモデルを変革したりすることが可能になります。また、大手企業が中小企業を買収することで、中小企業の持つ独自の技術やノウハウを活用し、全体の競争力を高めることもあります。これらの動きは、印刷業界全体のデジタル化を進め、業界の構造を変えています。
資本力のある企業によるM&A
資本力のある企業によるM&Aが盛んな理由の1つは、より大きな市場シェアを得るためです。M&Aにより、購入した企業の市場シェアを手に入れることができるため、一気に市場での影響力を強めることが可能となります。
また、M&Aは新たな技術やサービスの獲得を可能にします。新しいテクノロジーやビジネスモデルへの投資には高額な費用が必要であり、一から開発するには時間もかかります。しかし、M&Aによって既にそれらを持つ企業を手に入れることで、コストと時間を節約することが可能です。
たとえば、2022年4月、印刷業界最大手の凸版印刷株式会社は、タイ・アユタヤを本社に置く、軟包装製造と販売を営む企業であるMajend Makcs Co., Ltd.の株式を取得して子会社化しています。凸版印刷はほかにも、2022年2月に、パンジャーブ州を中心に活動するインドのOPP(二軸延伸ポリプロピレン)フィルム製造大手、Max Speciality Films Limitedを子会社化しました。もともと、2017年に関連会社としていた会社の株式を追加で取得して、連結子会社としています。
大手印刷会社は、印刷業だけでなく別事業に進出する傾向が見受けられ、そのためにM&Aが活発に行われているという側面もあるでしょう。
参照元:
凸版印刷株式会社「凸版印刷、タイのパッケージメーカーを買収」
凸版印刷株式会社「凸版印刷、インドのフィルムメーカーを連結子会社化」
既存事業強化のためのM&A
印刷業界でM&Aが行われる理由の1つに、既存事業の強化があります。売り手と買い手の顧客基盤や販路などの経営資源を統合することで、グループ全体の競争力を向上させることができるからです。自社単独では達成が難しい、あるいは時間がかかりすぎると判断された場合に、既存事業強化のためのM&Aが行われます。
海外企業とのM&A
印刷業界では、新たな市場を開拓するために海外企業を買収するM&Aが見られます。特に経済成長が著しいアジア圏は、印刷業界にとって事業拡大のチャンスが多い地域とみなされています。さらに、海外拠点を設けることで人件費の削減も期待でき、労働集約的な印刷業界においては製品別原価に大きく影響します。
電子書籍対応や事業拡大のためのM&A
現在、紙媒体に加えてWEBやタブレットなどさまざまな媒体から情報が得られるようになっています。特に若年層は紙媒体以外を主な情報源としているため、印刷業界では紙媒体の売上が減少傾向にあります。この課題を克服するために、印刷業界ではM&Aを通じてデジタルメディア領域に進出し、電子書籍対応や事業拡大を図る動きが見られます。
異業種企業とのM&A
印刷業界では、事業の多角化や安定化を目的として異業種企業とのM&Aも多く行われています。ITやデジタルマーケティング分野の強化など、さまざまな目的で異業種企業の買収が進んでいます。また、特殊印刷やパッケージ印刷技術を持つ企業の需要が高く、これらの技術を内製化したり新製品開発を目指したりする異業種企業による買収も増えています。
印刷業界のM&Aにおいて買い手が見るポイント
印刷業界のM&Aで買い手が見るポイントにも特徴があります。
事業領域 |
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管理体制・原価管理 |
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法務面のリスク |
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印刷会社のM&A事例10選
最後に、資本力のある印刷会社が主体となって実施した、中小企業に対するM&A事例を10件紹介していきます。比較的近年に実施された事例が多くあり、M&Aが活発な業界であることが分かるでしょう。
日本創発グループによる飯島製本の子会社化
2023年4月28日、日本創発グループは、飯島製本(名古屋市)の追加株式取得を行い、子会社にすることを明らかにしました。飯島製本の代表取締役および、ほか1名から8万株を取得する予定で、その金額は3億8,400万円です。
飯島製本は1921年9月に創業し、1世紀以上の長い歴史を持つ、独立資本による日本最大規模の製本企業です。名古屋市に本社を置き、中京圏に3つの工場を持ちつつ、関東圏と関西圏にも各1つの工場を展開するなど、業界で最高レベルの生産力を誇っています。
その一方で、日本創発グループは、顧客の創造性を引き出すための多種多様なソリューションを提供する「クリエイティブを支える企業グループ」を目指し、クリエイティブサービスを主力にビジネスを展開しています。単に汎用的な情報用紙への印刷だけでなく、特殊素材や立体物への印刷も手掛けるほか、ノベルティ、フィギュア、3Dプリント造形など多様な形状の物品や、デジタルコンテンツを含むクリエイティブな提案をもってソリューションを提供しています。
飯島製本と日本創発グループは、さまざまに多様化するクリエイティブな要求に対応すべく、お互いが持つ設備や知識を統合することで製品の価値を高め、両社の企業価値と株主価値の向上が可能となると認識しています。
もともとは、2021年に日本創発グループの第三者割当増資の引受により、飯島製本はその関連会社となっています。今回の追加株式取得を通じて飯島製本が連結子会社となることで、両社は一層の連携を図ることになりました。各社が持つ製造設備・製造管理技術・印刷技術などの経営資源をさらに統合し、印刷物の製造効率や品質の向上、ワンストップサービスの強化など、顧客の要望に応える力を強化することで、飯島製本及び日本創発グループの企業価値を一層高めることを目指しています。
参照元:株式会社日本創発グループ 「飯島製本株式会社の株式の追加取得による連結子会社化に関するお知らせ」
BookLiveによるメモリアの子会社化
2023年3月、大手印刷企業である凸版印刷の子会社、株式会社BookLiveは、NFTマーケットプレイスを提供する株式会社メモリアの株式を取得し、これにより同社を子会社とすることを公表しました。
BookLiveは「新しい価値を創造することで、楽しいをかたちにする」という企業理念のもと、電子書籍ストア「ブックライブ」などの運営を行っています。また、アニメーションや映像化される優れたオリジナル作品を創出するIP事業、さらにクリエイター向けの包括的なプラットフォームサービス「Xfolio」などのコミュニティビジネスも展開している企業です。2022年4月の中期経営計画では、「グローバル・デジタル・エンターテイメントカンパニーへの進化」をビジョンに掲げて、読者の要求に応えるIPの創出と、クリエイターやコンテンツの価値を高めることを打ち出していました。
今回のM&Aで、BookLiveはメモリアのNFTマーケットプレイスを自社に吸収することで、新たな市場を獲得し、事業を拡大していく姿勢がうかがえます。
参照元:BookLive「BookLive、NFTマーケットプレイスを運営する株式会社メモリアの株式取得(子会社化)について」
大日本印刷によるシミックCMOの株式取得
大日本印刷(DNP)は、2023年4月17日に、シミックホールディングスの子会社であるシミックCMOの株式を50.1%取得しました。シミックCMOは、日本政策投資銀行から自社の株式2445株(保有比率49.6%)を取得し、大日本印刷にこれらの株式を譲渡します。さらに、大日本印刷に対する第三者割当増資(50株)を行う予定です。これにより、大日本印刷はシミックCMOの株式を2,495株保有することとなり、シミックCMOは、シミックホールディングスが49.9%、大日本印刷が50.1%をシミックCMOの株式を保有する共同出資企業となりました。
DNPグループは、長年にわたり培ってきた印刷および情報の強みをもとに、食品パッケージ技術を進化させた医薬品パッケージ事業のほかに、精密な有機合成技術を活用した原薬事業なども展開してきました。また、先進的な再生医療分野にも早期から注目し、AIを使用した検査技術で先進医療事業者を継続的に支援しています。
一方、シミックホールディングスは、1992年に医薬品開発支援事業を開始し、その後製剤開発・製造支援事業に進出。長い経験を通じて、確固たる顧客基盤と高い製剤技術を築いてきました。医療業界は、少子高齢化が進むなかで、慢性疾患やがんの発症率の増加や新型感染症の流行など、さまざまな課題に直面しています。このような状況の中で、医療費の抑制とともに、新薬の迅速な開発、ICTを利用した地域医療、データに基づく予防医療など、多様で高度な問題解決が求められています。
今回の提携を通じて両社はリソースを組み合わせ、製薬企業のバリューチェーンに対する更なる支援を行うとともに、医薬品の保存・流通に関する新たな価値提案や健康維持・増進、生活習慣病のリスク低減に向けた予防医療など、現代社会が直面する課題解決に向けたヘルスケアソリューションの開発を進めていきます。
参照元:大日本印刷株式会社「大日本印刷とシミックホールディングス メディカルヘルスケア分野の新たな価値創出を目指して戦略的事業提携基本合意書を締結」
日本創発グループによるグレートインターナショナルの完全子会社化
2023年5月、日本創発グループは、グレートインターナショナルの完全子会社化に成功しました。
グレートインターナショナルは、グラフィックデザイン、CG・VFX、イラストレーション、プロモーションビデオなどの企画制作を専門とする企業です。同社は、ICTに基づいた教育用デジタル教材のソフトウェア開発で学校や自治体のICT化を支援するなど、ビジネス領域を広げています。
その一方で、日本創発グループは、印刷事業を中心に、クリエイティブソリューションの提供に力を入れています。グレートインターナショナルが日本創発グループの完全子会社になることで、両社はそれぞれの強みを活かし、新たな商品の販売機会の拡大やサービスの展開など、多様化するクリエイティブニーズに対応していきます。これにより、両社の企業価値と株主価値が向上すると期待されています。
参照元:株式会社日本創発グループ「簡易株式交換による株式会社グレートインターナショナルの完全子会社化に関するお知らせ」
ラクスルによるネットスクウェアの子会社買収
2023年3月、ネットスクウェア株式会社が株式会社ラクスルに対してサービスを提供していたオンデマンド印刷事業を、会社分割により株式会社ラクスルファクトリーとして承継。ラクスルは、ラクスルファクトリーの全株式を取得して、子会社化しました。
ネットスクウェア社は、オンデマンド印刷の領域において国内でトップクラスの印刷機の数を抱え、その専門知識を活用して事業展開を行っています。特に、迅速な納品や小規模な生産、コスト抑制に重点を置いたビジネスモデルを構築しています。
また、ラクスルの運用ノウハウの利用、サービスの自動化と効率化によって生産性を向上させた事例があるなど、協力関係を通じてこれまでもシナジーを生み出してきました。デジタル印刷はオフセット印刷と比べて印刷過程での二酸化炭素排出量が少ないため、ネットスクウェア社のサプライチェーン全体での環境負荷を軽減する役割も果たしています。事業環境の一層の整備のために、ラクスルによるネットスクウェアの当該事業の子会社化が実現したようです。
参照元:ラクスル株式会社「株式取得(子会社化)の基本合意に関するお知らせ」
プロネクサスによるシネ・ホールディングスの子会社化
2023年3月、株式会社プロネクサスはシネ・ホールディングスを完全子会社化することを発表しました。東京・千代田のライジング・ジャパン・エクイティ第二号投資事業有限責任組合から33,660株を取得することで、議決権所有比率が0%から100%に上昇することになります。
プロネクサスは、株式の印刷事業からスタートした、株主総会運営支援サービスを行っている企業です。現在では、開示書類の作成・印刷のほか、事業報告のスライド制作から映像機器の設営、バーチャル株主総会の運営支援までを包括的にサポートしています。一方、シネ・ホールディングスは映像技術の専門家として、株主総会、企業イベント、学術集会などを運営しています。
これまで株主総会の領域で協力関係を築いてきた両社は、プロネクサスのこの株式取得により、株主総会運営支援サービスの体制をさらに強化しています。また、双方の顧客基盤を利用して、株主総会以外の企業イベントへの販売拡大や、新規ビジネス領域への拡大を追求しています。
参照元:株式会社プロネクサス「株式会社シネ・ホールディングスの株式取得(子会社化)に関するお知らせ」
KYORITSUによる山陰クリエートの子会社化
2023年3月、印刷業界に属する株式会社KYORITSUは、リサイクルプラスチックの開発・製造・販売に従事する株式会社山陰クリエートの全株式を取得し、子会社化すると発表しました。山陰クリエートの代表取締役社長と個人の株主1人から合計で3,600株を取得しましたが、その価格は公開されていません。
山陰クリエートは、廃棄されたプラスチックを用いて、新たな合成樹脂や化石燃料の代替品となる高カロリーの固形燃料「RPF」の生産・販売を行っています。さらに、自社所有の最終処分場を利用して、廃プラスチックの収集からリサイクル製品の開発・製造・販売・処分にいたるまでの一連のプロセスを手掛ける、リサイクルプラスチック事業を展開している企業です。
この買収によって、KYORITSUはグループのネットワークを活用してポリプロピレン(PP)の収集と農業用資材の回収システムを確立し、自社製造のリサイクルプラスチック製品の全国販売を促進する計画です。また、既存の生分解性プラスチック事業と組み合わせて、新たな価値提供を追求します。
参照元:株式会社KYORITSU「株式取得(子会社化)に関する株式譲渡契約締結のお知らせ」
ナカバヤシによる日本通信紙の完全子会社化
2023年2月、印刷製本を行うナカバヤシ株式会社は、子会社である日本通信紙の株式を追加で取得し、100%子会社とすることを明らかにしました。
ナカバヤシは株式取得時で既に51.25%の株式を保有していましたが、日本製紙、日本紙パルプ商事、日本紙通商からさらに163,800株を取得することとなります。取得金額は7億400万円と公表されています。
ナカバヤシのビジネスプロセスソリューション事業では、ビジネスフォーム、データプリントサービス、BPO支援サービスなどが、新型コロナウイルスの影響でペーパーレス化とデジタル化がさらに進展しており、新しい価値の創出と、より深いデジタル変革への対応が求められています。
ナカバヤシによる日本通信紙の完全子会社化は、労働力不足や働き方改革など、現代のビジネス環境全体を支援する「BPO総合支援サービス」の拡大を加速させるための一環となります。これまでにも、ナカバヤシと日本通信紙は生産体制の最適化と効率化を通じて、シェア拡大・顧客基盤の強化・人材交流・ノウハウの共有を推進し、一定のシナジー効果を得ることができていました。完全子会社化を通じて、今後は、日本通信紙を含むナカバヤシグループ全体でシナジーを最大限に引き出し、人材不足や働き方改革などのビジネス環境への全面的な支援を行う「BPO総合支援サービス」の展開をさらに加速させるとしています。
参照元:ナカバヤシ株式会社「連結子会社株式の追加取得による完全子会社化に関するお知らせ」
凸版印刷によるICIの子会社化
2023年1月に、凸版印刷株式会社はICI株式会社が新たに発行する株式を追加取得して、ICIを凸版印刷の連結子会社とすることになりました。これにより、両社は協力を深め、医療分野のビッグデータのさらなる活用と、新しいヘルスケアサービスの開発を目指すとしています。
2018年5月に施行された次世代医療基盤法は、健康と医療に関連した研究開発を推進し、新たな産業や事業を生み出すことで健康長寿社会の実現を目指した法律です。この法律の施行に伴い、医療分野のビッグデータの利用が全国的に推進されています。
凸版印刷とICIは2019年から共同で、一般財団法人日本医師会医療情報管理機構が収集した電子カルテデータを匿名化し、データベースを構築してきました。また、そのデータベースを利用した製薬会社向けの電子カルテデータ分析ツール「DATuM IDEA」を2022年4月から提供し始めています。
今回の株式追加取得により、凸版印刷とICIは、構築中の電子カルテデータベースを強化し、データ分析ツールをさらに充実させることで品質を向上させる計画です。これにより、両社は効率的な薬品開発、治験モデルの構築、およびパーソナライズド医療の実現に寄与するとしています。
参照元:凸版印刷株式会社「凸版印刷、医療ビッグデータ活用を進めるICIを子会社化」
東洋ドライルーブによる真永の株式取得
2023年1月東洋ドライルーブは、自動車部品の塗装や印刷加工を専門とする株式会社真永の株式を取得したことを公表しました。取得価格などの詳細は明らかにされていません。
真永株式会社は2003年5月に設立された、印刷会社としては比較的新しい企業です。静岡県焼津市に拠点を置き、自動車部品の塗装や印刷加工に携わってきました。生産量を増加させるために資金の支援者を求めており、東洋ドライルーブが株式の取得に関する意向を示したところ、真永の株主が東洋ドライループを選出しました。これにより、両社の株主間で株式譲渡に関する基本合意を結ぶことに成功しました。
東洋ドライルーブは、真永の事業が自社グループとの販売チャネルに重ならず、国内外のグループ展開を含めた相乗効果が期待できると判断したとしています。今後は真永の事業環境を整備し、生産設備の更新を推進し、受注体制と営業体制を強化する計画です。
参照元:東洋ドライルーブ株式会社「株式譲受に関するお知らせ」
まとめ
印刷会社の事業は、書籍や雑誌、パンフレットなどの製本・製造が中心です。デジタル化が進む中で紙の需要は低迷し、新たな事業へのシフトが迫られています。
そんな印刷業界では、M&Aを活用した業界再編が活発化しています。大きな資本力を持つ企業がデジタル化・電子化に強みを持つ中小企業を買収する事例も増加中です。また、印刷以外の事業にも視野を広げ、経営の多角化を見据える企業もみられます。
M&Aは、印刷業界の課題を解決し、業界の衰退とともに会社の業績が下がってしまうことを防ぐ手段の一つです。
レバレジーズM&Aアドバイザリー株式会社には、各領域の専門性に長けたコンサルタントが在籍しており、印刷会社のM&Aのサポートにも対応します。M&Aのご成約まで一貫したサポートを提供し、安心かつ円滑なM&Aを実現します。ぜひレバレジーズM&Aアドバイザリー株式会社のご利用をご検討ください。