医療機器卸売業のM&A動向、売却・買収事例、メリット、相場を解説
2024年7月29日
このページのまとめ
- 医療費増加などを理由に医療機器業界の市場は拡大傾向
- 医療機器卸業のM&Aでは相手企業の経営資源活用などがメリットとなる
- 医療機器卸業界では大手への傘下入りを目的としたM&Aなどが活発
- 医療機器卸業のM&Aでは独占販売権などの強みを確立することが重要
- 売却価格の相場は「時価純資産+営業利益の2〜5年分」
医療機器卸業界では、競争力強化を目的とした買収・合併や中小企業による事業承継を目的とした買収が活発に行われています。M&Aの実施により、医療機関とのネットワーク獲得や従業員の雇用維持などのメリットを期待できます。相場の理解や医療機器に関する独占販売権などの強みを確立することが、M&Aを成功させるポイントとなります。医療機器卸業界におけるM&Aの動向や課題、買収・売却事例、メリット、相場を解説します。
目次
医療機器卸業界の現状
はじめに、医療機器卸業界について、定義や市場規模、業界動向・課題を解説します。
医療機器卸の業界定義
総務省の日本標準産業分類「日本標準産業分類 大分類 I‐卸売業,小売業」によると、医療機器卸業界は「大分類I-卸売業,小売業」における「医療用機械器具卸売業(歯科用機械器具を含む)」に当てはまります。具体的には、レントゲン装置や歯科医療機械、吸入器などの卸売を行う事業所が該当します。
なお、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律 第2条4項」では、医療機器を「人若しくは動物の疾病の診断、治療若しくは予防に使用されること、又は人若しくは動物の身体の構造若しくは機能に影響を及ぼすことが目的とされている機械器具等」と定義しています。具体的には、医療機器卸業は、医療機器メーカーから製品を仕入れ、その製品を医療機関などの取引先に販売するビジネスを指します。
この記事では、上記定義に該当する商品の卸売業を行っている事業所を前提に、医療卸売業のM&Aに関する解説を進めます。
参照元:
総務省「日本標準産業分類 大分類 I‐卸売業,小売業」
e-Gov「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律 第2条4項」
市場規模
政府統計「令和4年(概要)薬事工業生産動態統計調査」によると、2018年〜2022年にかけて、医療機器の生産・輸出・輸入金額はそれぞれ以下のとおり推移しています(単位:百万円)。
年次 | 生産金額 | 輸出金額 | 輸入金額 |
2018年 | 1,948,961 | 667,631 | 1,620,422 |
2019年 | 2,494,164 | 953,539 | 2,578,963 |
2020年 | 2,403,590 | 974,782 | 2,526,755 |
2021年 | 2,604,294 | 1,004,214 | 2,741,155 |
2022年 | 2,582,869 | 1,094,141 | 2,918,018 |
生産、輸出入ともに金額が増加傾向であることから、医療機器卸の市場規模は拡大していると言えます。
国内生産品を製品名称ごとに見ると、2022年においては以下の製品が上位を占めています。
- 医療用鏡:307,283百万円
- 医療用嘴管および体液誘導管:242,621百万円
- 内臓機能代用器:237,470百万円
- 医療用エックス線装置および医療用エックス線装置用エックス線管:237,001百万円
- 血液検査用器具:194,984百万円
高齢化を理由とした医療費の増加などに伴い、医療機器業界の市場は拡大傾向にあります。なお、医療機器の販売に際しては、取り扱う機器の分類に基づいた許可申請や届出を行う必要があるため、参入障壁は比較的高いと言えます。
詳しくは、東京都の場合、東京都保健医療局「1 医療機器のリスク分類と販売業・貸与業の許可・届出」で確認することができます。
参照元:
e-Stat「令和4年(概要)薬事工業生産動態統計調査」
東京都福祉保健局「1 医療機器のリスク分類と販売業・貸与業の許可・届出」
医療機器卸業界の課題
医療機器卸の会社では「優秀な営業人材の確保・育成」や「独占販売権などの強みによる差別化・競争優位性の確立」が成長を図る上での課題です。こうした要素が課題となっている背景には、医療機器卸業界に特有の事情があります。
医療機器は自由に価格設定ができない
国立保健医療科学院 保健医療経済評価研究センター「医薬品や医療機器の価格」にあるとおり、厚生労働省が医療機器(公的医療保険で提供されるもの)の価格を決定している点が挙げられます。市場の需給などをもとにした自由な価格設定ができないため、市場が成長しているとはいえ、利益の確保には工夫が求められます。
参照元:国立保健医療科学院 保健医療経済評価研究センター「医薬品や医療機器の価格」
売上が営業担当者のスキル・知識に依存しやすい
医療機関は人の健康や生命を左右する医療行為を行っており、トラブル回避の観点から、新しい機器の購入には慎重になる傾向があります。そのため、医療機関の担当者を納得させるだけの営業力や医療機器に関する専門知識が求められ、営業担当者のスキル・知識によって売上が左右されやすい傾向にあります。
上記のとおり医療機器卸の業界では、価格の制約や営業における難易度の高さから、単純に人材や資金といった経営資源の投下量を増やすだけでは、売上・利益の増大を図るのが難しいのが現状です。
こうした事情から、優秀な人材確保による「生産性・収益性の向上」や独占販売権などの強みの確立による「新規顧客獲得や固定客におけるLTVの向上」の重要性が高まっているのです。
地域密着型の企業が多く、新しい地域への進出が難しい
医療機器卸の事業で安定的に収益を上げるには、クリニックや病院などと継続的な関係を築くことが重要です。そのため、特定の地域に根差した事業展開を図る企業が多く見受けられます。
こうした事情から、医療機器卸の業界では、新しい地域に事業を展開していくことは難しい傾向にあります。新規で参入した場合、長期的に良好な取引関係を構築している既存他社との関係を優先する医療機関が多く、契約数を伸ばせないリスクがあるためです。
新しいエリアへの参入を成功させるには、価格やサービス、取扱品目を工夫して営業するといった工夫が求められます。もしくは、そのエリアに密着している医療機器卸の企業を買収する戦略も効果的です。
一部品目で輸入依存率が高い
経済産業省「医療機器産業を取り巻く課題について」によると、医療機器の輸入依存率が50%を超える品目の割合は48%、90%を超える品目は30%も存在するとのことです。輸入依存率が高いと、市場や国際情勢などの変化に伴って供給がひっ迫し、医療機関で製品が不足する事態が生じ得ます。
中には救命に必須の医療機器もあるため、人の生死を左右する重要な課題として認識されています。こうした課題の解決に向けて、政府は国内製品の新規開発を支援する対策を講じています。民間の医療機器卸会社は、輸入ルートを分散し、常時需要に対応できる体制を構築しておくことが重要となるでしょう。
参照元:経済産業省「医療機器産業を取り巻く課題について」
医療機器卸売業の業界構造と今後の展望
医療機器卸業界の構造や、それを踏まえた今後の展望を解説します。
上位企業による業界再編が進む可能性がある
政府統計「令和4年度医薬品・医療機器産業実態調査」の表11によると、業界全体における売上高のうち、売上高上位5社が34.9%、上位10社が55.3%を占めており、一部の大手企業が市場シェアの大半を占めていることがわかります。
こうした背景から、大手企業が自社のポジションをさらに強固なものとするために、買収やグループ内の合併を図る動きが活発化すると考えられます。また、経営の存続をかけて、大手医療機器卸売会社の傘下入りを目的に、会社売却を図る中小企業も増えてくると予想されます。
参照元:e-Stat「令和4年度医薬品・医療機器産業実態調査」
DX化や取り扱う製品面での差別化が進む
上位企業がシェアの大半を占めていることから、零細〜中小規模の医療機器卸会社は、厳しい経営環境に直面していると言えます。こうした企業は、対策を講じなければ、業績の悪化に伴い倒産や廃業に追い込まれることになります。
そこで今後は、営業活動のDX化や取り扱う製品を大手企業と差別化するなどの戦略により、市場での生き残りを図る中小企業が増えてくると考えられます。その手段としても、M&Aや資本業務提携は一定のニーズを得るでしょう。
医療機器卸のM&A動向
本章では、医療機器卸のM&A件数や、M&Aに見られる特徴を解説します。
医療機器企業のM&A件数推移
医療機器政策調査研究所「公開情報を用いた国内医療機器企業のM&Aの動向調査」によると、医療機器の製造・販売を手がけている上場企業のうち、売上高上位20社によるM&Aの件数(※)は以下のとおり推移しています。
対象期間 | M&A件数 |
2010年〜2015年(前半期間) | 66件 |
2016年〜2021年9月(後半期間) | 88件 |
※グループ内での吸収合併や株式の追加取得、売り手企業の事業内容が医療機器事業と関連性がないM&Aは除外
前半期間と比べて、後半期間はM&A件数が約33%増加しています。また、1社あたりのM&A件数(中央値)も増えていることから、医療機器業界ではM&Aが活発化していると言えます。
上記は医療機器業界全体のデータであるものの、関連性が高いことから、卸の分野でもM&A(株式・事業譲渡など)は活発になってきていると考えられます。
参照元:医療機器政策調査研究所「公開情報を用いた国内医療機器企業のM&Aの動向調査」
医療機器卸のM&Aに見られる特徴
医療機器卸業界のM&Aの特徴について、経済産業省「日本の医療機器の国際展開の進展に向けた課題について」をもとに解説します。医療機器卸業界のM&Aには以下4つの特徴が見られます。
1.大手企業による競争力強化を目的とした買収・合併の増加
大手医療機器メーカー・卸会社は、市場のさらなる競争激化を見越して、中小企業の買収や中堅〜大手企業との合併を積極的に進めています。たとえば中小規模の医療機器卸売会社の買収により、特定地域における競争力の強化を図ったり、同規模の企業の買収や合併により、市場シェアの拡大やライバルの排除を図ったりする動きも見られます。
2.大手企業を中心とした海外進出・多角化
現時点における医療機器卸の国内市場は、医療費の増加などを理由に拡大しています。しかし将来的には、人口減少を理由に国内の市場規模は縮小する事態が想定されます。一方で、世界的には欧州以外の地域では人口増加が見込まれている上に、アジア地域では人口増加に加えて経済成長も期待されています。
こうした状況を踏まえて、大手企業を中心に海外市場への進出を図る動きも活発になっています。ただし、医療機器事業の国際展開に関しては、「現地の医療ニーズに適応した展開が不十分」などの課題が経済産業省の資料などで指摘されています。こうした課題を解決する手段として、現地の医療機器メーカー・卸会社を買収することで、海外展開を図る動きが見られます。
また、医療機器卸事業との関連性が高い分野(医療機器製造など)への多角化を目的にM&Aを行うケースも少なくありません。多角化により、経営のリスク分散や本業とのシナジー創出を図っていると推察されます。
3.中小企業による大手グループの傘下入り
上記のとおり、大手企業は競争力強化や海外進出の動きを活発化しています。その影響により、相対的に中小規模の医療機器卸売会社の中には、厳しい経営状況となっているところもあります。
そこで、大手グループの傘下に入り、経営状況の改善や市場での生き残り、事業の成長加速を図る中小企業の動きも活発となっています。前述のとおり、親会社の経営資源を活用することで、経営状況の改善や事業の成長など、自社のみでは不可能だった課題を実現できる可能性は高まります。
4.中小・零細企業による事業承継
前述のとおり、親族や従業員の中に後継者が不在であることを理由に、中小・零細企業が事業承継を目的としたM&Aを行うケースも活発です。また、経営状況の悪化や先行き不安を受けて、より自社事業を成長させてくれる可能性が高い外部の企業(経営者)に、事業を引き継いでもらおうとする動きも見られます。
参照元:経済産業省「日本の医療機器の国際展開の進展に向けた課題について」
医療機器卸のM&Aを行うメリット【売却側】
売り手として医療機器卸のM&Aを行うメリットは以下の4つです。
1.後継者不在でも事業承継を行い、従業員の雇用を維持できる
帝国データバンクの「特別企画:全国企業「後継者不在率」動向調査(2022)」、「全国企業「休廃業・解散」動向調査(2022年)」によると、2022年における卸売業の後継者不在率は減少傾向にあるものの54.6%であり、2社に1社は後継者がいない状況となっています。
医療機器卸の分野でも、後継者不在を理由に事業承継を行えない企業は少なくありません。後継者が見つからない状況が続くと、経営者の高齢化や体調悪化により、事業の継続が困難となるおそれがあります。
そのような中において、M&Aは後継者不在の企業でも事業承継を実現する手段として有力な選択肢の1つとなります。具体的には、会社や事業、従業員の雇用を買い手企業に引き継ぎ、存続させることが可能です。
参照元:
株式会社帝国データバンク『全国企業「後継者不在率」動向調査(2022)』(2022年11月16日)、『全国企業「休廃業・解散」動向調査(2022年)』(2023年1月16日)
2.創業者利益を獲得できる
医療機器卸の会社・事業を売却すると、経営者(または会社)は売却利益を得られます。
詳しくは後述しますが、一般的には営業利益の数年分+時価純資産に相当する金額が売却額の相場となり、そこから仲介会社への手数料等を差し引いた余りが利益となります。したがって、一般的にはまとまった金額のキャッシュを得ることができます。
創業者利益の獲得により、経営からリタイアした後に経済的に豊かな生活を送れたり、新規事業や主力事業に資金を投下できたりするでしょう。
3.負債や個人保証、資金繰りの悩みから解放される
医療機器卸の事業では、人件費などをはじめとして多額の運転資金を必要とします。そのため、中小規模の医療機器卸売会社では、経営者が個人保証をした上で負債を抱えているケースが少なくありません。
M&Aによって会社ごと売却すると、基本は買い手側に負債が移ることとなります。また、個人保証も解除されることが一般的です。加えて、事業の運営に対する責任がなくなるため、資金繰りの悩みからも解放されるでしょう。
4.買い手企業の取扱機器や販売網、資金力などを活用できる
買い手企業の傘下に入ることで、その企業が有する取扱機器や販売網、資金力などのリソースを活用して、自社の事業を運営できるようになります。そのため、自社のみで事業を行っていた場合と比べ、収益の安定化や事業の成長、新しいビジネスチャンスの創出などを実現しやすくなります。
医療機器卸のM&Aを行うメリット【買収側】
買い手として医療機器卸事業や他業種の買収を行うメリットは以下の4つです。
1.新しい地域に事業を拡大できる
他の地域にある医療機器卸事業の買収により、未進出地域や海外進出が可能となります。特に医療機器卸業界では、中小企業を中心に、特定の地域で密着型のビジネスを展開しているケースが少なくありません。そのため、未進出地域への進出を軌道に乗せやすくなるでしょう。
また、新興国などの経済成長が見込める地域の医療機器卸売会社を買収すれば、新たな収益源の確保や国内事業とのリスク分散を図れます。
2.事業規模の拡大により、売上拡大やスケールメリットの獲得を見込める
同業他社の買収により、単純に買収した事業の分だけ売上の拡大を見込めます。売り手企業とのシナジー効果(相互送客など)により、各社が別々に事業を行う場合の合計よりも大きな売り上げを創出できる可能性もあります。
また、一括仕入や医療機器輸送の効率化、部門の統廃合などにより、コスト削減のスケールメリットも期待できるでしょう。
3.優秀な人材や医療機関との繋がり、新しい機器などの経営資源を確保できる
医療機器のメーカーや卸会社を買収すると、優秀な人材(営業マンや技術者等)や医療機関とのネットワーク、医療機器の新しいラインナップなどの経営資源を売り手企業から取り込めます。
こうした経営資源の獲得により、技術力の強化や収益性・成長性の向上、新しいビジネスチャンスの創出などが可能です。また、取得した経営資源が希少である場合は、持続的な競争優位性の確立にもつながるでしょう。
4.事業の立ち上げ・拡大にかかる時間を短縮できる
M&Aでは、売り手企業が有する経営資源を一括で取得できます。そのため、自社のみの力で新規事業への参入や既存事業の拡大を図る場合と比べて、目標達成までの時間を短縮できる可能性が高まります。
また、すでに特定の事業や地域で事業を軌道に乗せている売り手企業とM&Aを行うことで、事業が失敗するリスクの軽減にもつながるでしょう。
特に、新しく医療機器卸の事業に他業種から参入する場合や医療機器卸の会社が他業種に新規参入する場合、ノウハウや知名度などがない状態からのスタートとなるため、事業が軌道に乗るまでに多大な時間を要する上に失敗する可能性も高いと考えられます。
こうしたケースにおいて、時間の削減やリスク軽減を図れるM&Aは有効な選択肢となるでしょう。
2023年〜2024年における医療機器卸の最新M&A事例5選
2023〜2024年における、医療機器卸業界のM&A事例を5例紹介します。
株式会社クスリのアオキと株式会社ママイの合併(予定)
存続会社であるクスリのアオキは、医薬品・化粧品・日用雑貨などの小売事業を展開しています。消滅会社となるママイは、医療機器や医薬品などの製造・卸売・販売事業を展開しています。親会社であるクスリのアオキホールディングスは、経営の効率化および意思決定の迅速化を実現する目的で、両社の合併実施を決定しました。
2024年9月に行われる予定のM&Aでは、吸収合併の手法が用いられます。本合併では現金が対価として交付されますが、金額は非開示です。
参照元:株式会社クスリのアオキホールディングス「連結子会社(株式会社ママイ)の吸収合併に関するお知らせ」
ウイン・パートナーズ株式会社による株式会社トライテックの買収
買い手企業のウイン・パートナーズは、医療機器の販売事業を展開しています。一方で売り手企業であるトライテックは、心臓血管外科・循環器内科の分野を中心に医療機器の卸や輸出入販売事業を展開しています。
ウイン・パートナーズは、取扱製品の拡充や顧客基盤の強化などを目的にトライテックの買収を実施。2023年4月に行われたM&Aでは、株式譲渡の手法が用いられました。ウイン・パートナーズがトライテックの全株式を取得し、同社を子会社化しました。取得価額は非開示となっています。
参照元:ウイン・パートナーズ株式会社「子会社の異動を伴う株式取得に関するお知らせ」
アルフレッサ ホールディングス株式会社による株式会社宮崎温仙堂商店の買収
買い手企業のアルフレッサ ホールディングスは、医療用検査試薬や医療機器、医薬品等の卸や製造販売の事業を展開しています。一方で売り手企業である宮崎温仙堂商店は、医療機器や医薬品等の卸事業を展開しています。
アルフレッサ ホールディングスは、九州エリアにおける事業基盤強化を目的に買収を実施しました。
2023年2月に行われたM&Aでは、株式譲渡の手法が用いられました。
アルフレッサ ホールディングスが宮崎温仙堂商店の全株式を取得し、同社を子会社化しました。取得価額は非公表です。
参照元:アルフレッサ ホールディングス株式会社「宮崎温仙堂商店の株式取得(完全子会社化)および業務提携に関するお知らせ」
グローム・ホールディングス株式会社による福山医療器株式会社の買収
買い手企業のグローム・ホールディングスは、主に医療支援事業を展開しています。売り手企業である福山医療器は、医療用機械器具や医療用品の卸売事業を展開しています。グローム・ホールディングスは、アライアンス先に対して高品質なサービスの提供を図る目的で、福山医療器の買収を実施しました。
2023年9月に行われたM&Aでは、株式譲渡の手法が用いられました。グローム・ホールディングスが福山医療器の全株式を取得し、同社を子会社化しました。取得価額は2億1,000万円です。
参照元:グローム・ホールディングス株式会社「福山医療器株式会社の株式の取得(子会社化)に関するお知らせ」
ヤマシタヘルスケアホールディングス株式会社による有限会社鹿児島オルソ・メディカルの買収
買い手企業のヤマシタヘルスケアホールディングスは、グループ全体で医療関係の事業を行なっています。売り手企業である鹿児島オルソ・メディカルは、整形分野専門の医療機器卸売事業を展開しています。ヤマシタヘルスケアホールディングスは、九州南部における事業展開の加速を図る目的で鹿児島オルソ・メディカルの買収を実施しました。
2023年12月に行われたM&Aでは、株式譲渡の手法が用いられました。ヤマシタヘルスケアホールディングスが鹿児島オルソ・メディカルの全株式を取得し、同社を子会社化しました。取得価額は非開示です。
参照元:ヤマシタヘルスケアホールディングス株式会社「有限会社鹿児島オルソ・メディカルの株式取得(子会社化)に関するお知 らせ」
医療機器卸の売却・買収事例3選
大手企業が売り手または買い手となった医療機器卸の売却・買収事例を3例紹介します。
エムスリー株式会社による東和産業株式会社の買収
買い手企業のエムスリーは医療従事者専門サイトの運営、東和産業は眼科医療機器の卸・販売事業を展開しています。
エムスリーは、サービス提供地域の拡大やDX推進などのシナジーを想定し、東和産業を買収しました。2021年1月に公表されたM&Aでは、株式譲渡の手法が用いられました。エムスリーが東和産業の全株式を取得し、同社を子会社化しました。取得価額は非公表です。
参照元:エムスリー株式会社「東和産業株式会社を子会社化」
フランスベッドホールディングス株式会社による株式会社ホームケアサービス山口の買収
買い手企業のフランスベッドホールディングスは連結子会社を通じて主に寝具・医療用ベッドや福祉用品等の製造・卸事業を、ホームケアサービス山口は福祉用品の販売・レンタル事業・介護事業を展開しています。
フランスベッドホールディングスは、メディカルサービス事業の基盤強化を図る目的でM&Aを行いました。
2021年12月に実施されたM&Aでは、株式譲渡のスキームが用いられました。連結子会社であるフランスベッドホールディングスがホームケアサービス山口の全株式を取得し、同社を子会社化しました。取得価額は非公表です。
参照元:フランスベッドホールディングス株式会社「当社連結子会社による株式取得(孫会社化)に関するお知らせ」
エア・ウォーター株式会社による株式会社山村医科器械の買収
買い手企業のエア・ウォーターは病院業務のアウトソーシング受託や設備機器のメンテナンス事業を、山村医科器械は脳神経外科や整形外科に対する医療機器卸の事業を展開しています。
エア・ウォーターは取り扱い商材のラインナップ拡充などを、山村医科器械は営業エリアの拡大による事業成長を目的にM&Aを行いました。2018年12月に実施されたM&Aでは、株式譲渡のスキームが用いられました。エア・ウォーターが山村医科器械の全株式を取得し、同社を子会社化しました。取得価額は非開示です。
参照元:エア・ウォーター株式会社「山村医科器械の株式取得について」
医療機器卸のM&Aを成功させるポイント【売却側】
売却側の視点から、医療機器卸のM&Aを成功させるポイントを4つ解説します。
1.相場を理解しておく
相場を理解していないと、安売りによって後悔する事態になったり、実態に見合わない高い金額を提示して交渉がいつまで経っても決まらなかったりするおそれがあります。過去の事例などを参考にするだけでなく、M&Aアドバイザーに適正価格についてアドバイスを受けたり、企業価値算定を依頼したりするのがおすすめです。
2.市場や業績が成長しているタイミングで譲渡する
売り手企業は、市場や業績が成長しているタイミングで会社・事業を譲渡することが重要です。市場や業績が成長しているタイミングでは、買い手企業からのニーズが高く、高値での売却が成立しやすくなるためです。また、成長性や市場取引をもとにした企業価値評価も高くなる傾向があります。
反対に、市場や業績が低迷しているタイミングでM&Aを行うと、想定よりも安い価格での売却となる可能性が高まるため注意です。
3.最適なM&A手法を選ぶ
医療機器卸のM&Aでは、株式譲渡や事業譲渡、合併、会社分割など様々な手法が活用されます。ただし、手法によってメリット・デメリットや手続きは異なるため、自社や買い手企業の状況に応じて最適な手法を選ぶことが成功のカギです。
たとえば会社ごと売却したい場合は、会社丸ごとを評価される上に、簡便な手続きのみで実行できる株式譲渡が適していると考えられます。一方で、不採算事業のみを売却したい場合や多額の負債を抱えていて会社の買い手が見つかりにくい場合には、事業譲渡のスキームが適しているでしょう。
4.競合他社にない強みの確立と売却先へのアピール
医療機関とのネットワークや医療機器の独占販売権などは、競合他社が保有・獲得しにくい強みであり、長期的な競争優位性を生み出す源泉となり得ます。希少かつ価値のある強み(経営資源)は買い手企業からのニーズも高いため、M&Aの交渉を有利に進めたいならば、早い時期から確立できるように努めるのがおすすめです。
また、すでにこうした強みを保有している場合は、買い手候補に対して積極的にアピールすることが重要です。自社が有する経営資源の希少性や価値を理解してもらえれば、相場と比較して高い価格でM&Aを行える可能性が高まるでしょう。
医療機器卸のM&Aを成功させるポイント【買収側】
買収側の視点から、医療機器卸のM&Aを成功させるポイントを4つ解説します。
1.病院との関係性や独占販売権などの強みを確認する
病院との良好な関係性や医療機器の独占販売権などを有する医療機器卸売会社を買収すると、売上の安定化や大幅な増加、長期的な優位性の確立といったメリットを期待できます。そのため、買収を検討している企業がこうした強みを有しているかは入念にチェックしておきましょう。
2.デューデリジェンスにより経営状況やリスクを精査する
売り手企業の経営状況が悪いと、買収後に想定していたシナジー効果を得られなかったり、買収資金を回収できなかったりするおそれがあります。また、未払残業代などの簿外債務や訴訟リスクなどの偶発債務などを抱えている場合もあります。
したがって、買収後に想定外の損失が発生したりトラブルに巻き込まれたりしないためにも、デューデリジェンス(売り手企業の詳細な調査)を行い、経営状況やリスクを精査することが重要です。
専門家の協力を得た上で財務や法務、ビジネスなどの観点からデューデリジェンスを実施し、調査結果に応じて買収資金の修正や買収可否の決定、買収後における対策の検討などを行いましょう。
3.高すぎる買収は避ける
そもそもM&Aの成功には、最低限買収資金を回収し、なおかつ利益を得ることが求められます。買収金額が高すぎると、その分だけM&A後の事業運営で回収しきれないリスクが高まるため注意が必要です。
具体的には、前述したデューデリジェンスで発見されたリスクに応じて買収金額を減額することや、シナジー効果を過度に評価しすぎないことがポイントとなります。特にM&Aの実施経験が豊富でない場合、まずは小規模なM&Aを行い、リスクを最小限に留めることがおすすめです。
4.シナジー効果を見込める売り手企業を選定する
シナジー効果とは、売り手企業との統合により、自社と相手企業がそれぞれ別々に事業を行なっている場合の合計よりも、大きな効果が生み出されることです。たとえば、医療機器のクロスセルによる売上の増加や調達の一元化によるコスト削減などが該当します。
技術や販路、コストなど多角的な視点により、大きなシナジー効果を期待できる売り手企業を選定しましょう。
医療機器卸の売却価格・相場
最後に、医療機器卸の売却価格が決まる流れや相場、企業価値の算定方法を解説します。
医療機器卸の売却価格の決まり方
一般的に医療機器卸の売却価格は、はじめに基準となる「企業価値」を算定し、企業価値やデューデリジェンスの結果等を踏まえて、売り手企業と買い手企業の話し合いによって決定されます。したがって、話し合いの結果によっては、相場とは大きく乖離した価格での成約となる場合もあります。
たとえば実際の売却価格には、企業価値やデューデリジェンスの結果だけでなく、買い手企業の資産状況やM&Aに対する緊急度合い、その時点における医療機器卸市場の動向なども影響を与えます。そのため、相場は参考程度に留めておき、状況に応じて適切な価格を見定めることがポイントとなるでしょう。
なお、買い手企業やM&Aアドバイザーが提案した価格がそのまま採用されたり、複数企業によるオークション形式で価格が決定したりするケースもあります。
企業価値の算定方法
企業価値の算定方法は、大きく「インカムアプローチ」「マーケットアプローチ」「コストアプローチ」の3種類に分けられます。
インカムアプローチとは、将来的な収益性を基準に評価するアプローチであり、DCF法が代表的な手法です。将来性や特有の強みなどを反映させやすいメリットがある一方で、評価者による恣意が評価結果に影響するおそれがあります。
マーケットアプローチとは、市場や類似会社を基準に評価するアプローチであり、類似会社比較法が代表的な手法です。メリットは客観性の高さ、デメリットは個別の強みなどを反映しにくい点です。
コストアプローチとは、純資産を基準に評価するアプローチであり、時価純資産法が代表的な手法です。メリットは客観性の高さ、デメリットは収益性や市場の状況を反映できない点です。
医療機器卸売会社の相場
前述のとおり、売却価格にはさまざまな要素が影響を及ぼすため、厳密な意味での「相場」はありません。ただし、一般的な中小規模の医療機器卸売会社が売り手の場合は、年倍法の計算結果を相場と考える場合が多いです。
年倍法では、「時価純資産+のれん代(営業利益の2〜5年分)」の計算式で売却価格の相場を算出します。たとえば時価純資産が3,000万円、3年分の合計営業利益が5,000万円の場合、売却価格の相場は「3,000万円+5,000万円=8,000万円」となります。
年倍法では比較的簡単に相場を見積もることが可能ですが、市場環境や売り手・買い手企業の意向を考慮していない上に、ファイナンスの理論に基づいた計算方法ではない点に注意が必要です。
まとめ
本稿では、医療機器卸業界におけるM&Aのメリットや売却価格、事例、成功のポイントなどを解説しました。医療機器卸の業界では、競争激化を見越して、中堅〜大手企業による多角化や海外進出が活発です。
医療機器卸のM&Aでは、新しい医療機器の取り扱いが可能となるなどのメリットを得られます。相場の理解や独占販売権などの強みを確立することが、医療機器卸業の買収・売却を成功させるポイントとなるでしょう。
レバレジーズM&Aアドバイザリー株式会社には、医療機器卸業界のM&Aに関する専門性を有するコンサルタントが在籍しています。医療機器卸業界に特有の強み(独占販売権など)を踏まえた売却額査定にも対応しており、M&Aのご成約まで一貫したサポートを提供することが可能です。安心かつ円滑なM&Aを実現します。ぜひレバレジーズM&Aアドバイザリー株式会社のご利用をご検討ください。