このページのまとめ
- 家族間で行う株式譲渡には「相続」「贈与」「売買」という3つの方法がある
- 家族間の株式譲渡は、主に「贈与」で行われる
- 最も節税効果が見込まれるのは、暦年贈与による生前贈与である
- 家族間の株式譲渡を売買で行う場合、適切な価格設定にすることが大切
「事業承継で株式を譲渡したいけど、どの方法がよいだろう」「できれば節税したい」と考えている方もいるでしょう。家族間で株式譲渡する方法は「相続」「贈与」「売買」の3つがあり、それぞれの方法にメリット・デメリットがあります。
本記事では、家族間で株式譲渡する際の方法を紹介するとともに、発生する税金の種類や手続きの流れなどを解説します。節税効果の高い方法も説明しますので、譲渡の際の参考にしてください。
目次
株式譲渡とは
家族に株式を譲渡する方法について解説する前提として、株式譲渡について確認しておきましょう。株式譲渡は上場株式と非上場株式の2種類があり、種類によって譲渡の内容や目的が異なります。
そのなかでも家族間の株式譲渡は、事業承継の際に行われるのが一般的です。
ここでは、株式譲渡の概要と家族間の株式譲渡について解説します。
譲渡する株式は2種類
株式譲渡とは、売り手企業が株式を買い手側の企業または個人へ譲渡し、会社の経営権を譲渡する手法です。中小企業のM&Aで多く採用されています。
株式は主に上場株式と非上場株式の2種類に分けられ、上場株式は株式市場で自由に取引できるもので、売買・配当を目的として売買されることも少なくありません。非上場株式は会社の経営権を維持するために経営者が所有していることが多く、株式譲渡の多くは経営権も一緒に譲渡する事業承継を目的とします。
家族間の株式譲渡
家族間における株式譲渡は、経営権を後継者に移す事業承継として行われるのが一般的です。株式譲渡により経営者は退任し、株式と経営権を譲り受けた親族が会社経営を行います。
この株式譲渡にはいくつかの方法があり、どの方法を選ぶかによって発生する税金が異なるため、どの方法が自社に適しているか、事前によく確認しておくことが大切です。
関連記事:株式譲渡とは?手続きの流れや注意点・メリット・デメリットなどを解説
家族間で株式譲渡する3つの方法
家族間で株式譲渡する場合、「相続」「贈与」「売買」の3つ方法があります。それぞれの方法には次のようなメリット・デメリットが存在します。
譲渡方法 |
メリット |
デメリット |
相続 |
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贈与(生前贈与) |
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贈与(遺贈) |
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贈与(民事信託) |
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売買 |
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上記のなかでも家族間の株式譲渡に最も用いられる手法は、「生前贈与」です。その理由も含めて、それぞれの方法の詳細を見ていきましょう。
相続
株式を所有している経営者が亡くなった場合に、発生するのが相続です。相続で株式譲渡を行うメリットは次のとおりです。
メリット
- 法定相続人の相続トラブルを防ぎやすい
- 3,600万円以下の場合は相続税が発生しない
相続による株式譲渡は基本的に遺言書などに記載された遺言どおりに行われます。そのため、事前に後継者と譲渡する株式の割合を指定しておけば、法定相続人間でのトラブルを防ぎやすい傾向にあります。
また、相続税には基礎控除額(3,000万円+法定相続人の人数×600万円)があり、その額は法定相続人の人数で変動します。たとえば法定相続人が1人の場合は、「3,000万円+1人×600万円=3,600万円」が基礎控除となり、相続する資産の総額がこれ以下の場合には相続税は発生しません。
次に家族間の株式譲渡で相続を活用するデメリットを見ていきましょう。
デメリット
- 相続準備ができていないと、後継者に経営権が承継できないおそれがある
- 後継者以外の法定相続人が遺留分侵害額請求を行った場合も、経営権が分散するおそれがある
- 遺言書は法令に沿った形式でないと無効となるおそれがある
相続による株式譲渡の場合、遺言書等の相続準備ができていないと、「後継者以外の法定相続人に株式が渡る=後継者に経営権が承継できない」おそれがでてきます。また、相続準備をしていたとしてもほかの法定相続人が遺留分侵害額請求を行った場合には、経営権が分散してしまうおそれも。うまく後継者に経営権の承継ができなくなります。
さらに遺言書を作成する際は、法令に沿った形式でないと無効となるおそれがあります。そのため、自分で作成するのではなく、専門家に依頼して作成するのがおすすめです。
贈与
家族間で株式を譲渡する場合、無償で株式を譲渡する贈与を選ぶのが一般的です。株式を購入する資金を用意するという譲受側の負担がありません。
贈与には「生前贈与」「遺贈」「民事信託」という3つの方法があります。それぞれのメリット・デメリットをみていきましょう。
生前贈与
家族間で株式譲渡を行う際に選択されやすいのが生前贈与です。無償で譲渡できるうえに、後継者の税金負担の低減も狙え、さらに経営者の意思も反映しやすいためです。
メリット
- 年間110万円までの譲渡であれば非課税
- 相続時精算課税制度を利用すれば、2,500万円まで非課税で譲渡可能
- 相続よりも経営者の意思を反映しやすい
生前贈与の大きなメリットは節税効果が高い点です。節税対策には「暦年贈与」と、「相続時精算課税制度」があります。暦年贈与を活用すれば年間110万円まで非課税で贈与可能。一方、相続時精算課税制度では、2,500万円までであれば、非課税で譲渡できます。ただし、両者は併用不可な点に注意が必要です。
相続の場合は、遺留分侵害額請求などにより遺言の内容が100%通らないこともあります。しかし、贈与であれば、経営者が存命のうちに後継者を指定し、適切なタイミングで株式譲渡を開始できます。そのため、相続よりも経営者の意思を反映しやすいというメリットがあるのです。
これらのメリットに対して、贈与による株式譲渡は次のようなデメリットを持ち合わせます。
デメリット
- 年間110万円以上または2,500万円を譲渡する場合は贈与税がかかる
- 暦年贈与途中で経営者が亡くなった場合、死亡から3年以前は相続扱いとなる
- 非課税で贈与する場合、完了まで長期化しやすい
節税対策として「暦年贈与」や「相続時精算課税制度」を選択できる贈与ですが、両者の適用条件を超えた場合は贈与税が発生します。
特に注意したいのが、資産額が高く、かつ暦年贈与を選択した場合です。暦年贈与で非課税対象となるのは年間110万円までの譲渡です。そのため、資産額が高い場合は、それなりの年数がかかることが予想されるでしょう。
また、この間、経営者が亡くならないとは限りません。暦年贈与の場合、経営者が亡くなってから3年以前は相続扱いとなります。この場合、死亡から3年以前に贈与された分は相続資産として加算され、相続税の対象となるので、思ったような節税効果が得られなかったというケースも出てきます。
そのため、できるだけ後継者の負担を軽減するためには、資産額に応じて早めに贈与を行っておく必要があります。
遺贈
遺贈とは、遺言書によって贈与することです。遺言を残す必要があり、贈与の相手は法で定められた相続人でなくてもよい点が相続と異なります。
生前贈与が生前に財産を無償で譲る契約であるのに対し、遺贈は遺言者の一方的な意思表示です。生前贈与は特別な様式もなく口頭でも成立しますが、遺贈は必ず法令で定められた所定の様式による遺言書で行わなければなりません。
メリット
- 遺言書を作成するため相続人間の揉め事を減らせる
- 与える割合を指定できる
- 法定相続人ではない親族に財産を贈れる
遺贈は遺言書を残すため、相続手続きで相続人同士の揉め事を減らせます。
また、生前に遺言書で贈与の範囲を指定でき、孫や兄弟姉妹、甥や姪など法定相続人でない人にも株式を譲渡できる点がメリットです。後継者を法定相続人ではない人にしたい場合に向いています。
デメリット
- 遺言書の作成に手間がかかる
- 相続人が権利を放棄してほかの相続人間で争いが発生する可能性がある
遺贈は、遺言書の作成に手間がかかる点がデメリットです。遺言書の作成から保管まで遺贈者自身で行う自筆証書遺言にする場合、ミスがあると無効になってしまうため注意しなければなりません。
また、遺贈の受遺者は権利を放棄することができ、その場合にほかの相続人間で争いが起こる可能性があります。
なお、遺贈では相続の場合と同じく相続税が発生します。「相続」の項目で説明したように、資産の総額が3,600万円以下の相続には相続税が発生しません。
民事信託
民事信託とは、信頼できる親族や知人などを受託者として、信託契約を締結する制度です。信託とは財産の管理や処分を行うことで、委託者は自身が判断能力がある間に財産の管理や処分について受託者へ託します。
民事信託は家族間で設定する「家族信託」もでき、自社株式の管理・処分の委託も可能です。
メリット
- 柔軟な事業承継を実現できる
- 事業承継による経営の空白期間ができない
民事信託による事業承継では、受益者の設定や事業承継が実行される条件など、経営者の意向に基づいた条件をつけることができます。
また、経営者が亡くなると同時に経営権が自動的に指定された後継者に移動し、事業承継のための手続きをする必要がありません。経営に空白期間ができない点もメリットです。
デメリット
- 経営者の死亡による事業承継が前提
- 遺留分減殺請求に対する対応法が定まっていない
民事信託は経営者の死亡による事業承継が前提で、元気なうちに承継したい場合には利用できません。生前に事業承継したい場合は、ほかの方法を選ぶ必要があります。
また、民事信託には、遺留分減殺請求をされたときの対処法が明確に定まっていないという問題があります。遺留分減殺請求とは、特定の相続人にだけ有利な遺産分配がされた場合、ほかの相続人が自分が受け取れる最低限の遺産の取り戻しを請求できる制度です。経営者だけで株式譲渡の内容を設定してしまうと、ほかの親族から不満が出る可能性があります。
売買
売買は第三者に株式譲渡する場合に一般的な方法であり、家族間ではあまり選択されることはありません。しかし、家族間でも以下のメリットにより売買するケースも考えられます。
メリット
- 資金力のない後継者候補の介入を防げる
- 相続や贈与よりも経営者の意思を反映しやすい
- 相続時に遺留分侵害額請求から除外できる
株式の売買では、後継者に株式価格に相当する資金力が求められます。割合にもよりますが、会社の経営権を握るには半数以上の株式を取得する必要があるので、後継者は事前にかなりの資金を調達しておく必要があります。
しかし、これは裏を返せば「資金力のない後継者候補の介入を防げる」ということです。後継者には事前に譲渡用として役員報酬を多めに渡すなどしておけば、資金面の心配がなくなります。こうした対策により、相続や贈与よりも経営者の意思を反映しやすいというメリットがあります。
また、売買した株式は、経営者が亡くなったとしても相続資産には加算されません。そのため、後継者以外の法定相続人による遺留分侵害額請求の対象から外すことができます。
デメリット
- 後継者に資金力が求められる
先にも触れていますが、売買は後継者の資金力が物を言う方法です。経営権を持てるほどの株式となると、それなりの金額になることが予想されます。後継者は、譲渡を実行するまでに計画的に資金を準備しておく必要があります。
家族間の株式譲渡で発生する税金
家族間で株式譲渡する際には、選択する方法によって次の税金が発生します。
- 相続による株式譲渡・・・相続税
- 贈与による株式譲渡・・・贈与税
- 売買による株式譲渡・・・譲渡所得税等
ただし、条件によっては、非課税での譲渡も可能。譲渡によって必ず課税されるわけではありません。各税金の特徴や非課税の条件に関して詳しく見ていきましょう。
相続税
経営者が亡くなったタイミングで発生する相続時に課される税金が相続税です。相続税は相続する課税遺産総額に応じて税率が決まる累進課税制度が採用されています。課税遺産総額は次の計算式を使用して算出します。
課税遺産総額=課税価格の合計額−基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)
たとえば、課税価格の合計額が1億円で法定相続人が配偶者1人と子2人の合計3人いた場合の課税遺産総額は「1億円-(3,000万円+600万円×3人)=5,200万円」です。
課税遺産総額の5,200万円を法定相続分で分けた場合、配偶者は2,600万円、子は1人あたり1,300万円です。
相続税は以下の速算表をもとに計算します。
法定相続分に応ずる取得金額 | 税率 | 控除額 | |
1,000万円以下 | 10% | - | |
3,000万円以下 | 15% | 50万円 | |
5,000万円以下 | 20% | 200万円 | |
1億円以下 | 30% | 700万円 | |
2億円以下 | 40% | 1,700万円 | |
3億円以下 | 45% | 2,700万円 | |
6億円以下 | 50% | 4,200万円 | |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
表を参考にして計算すると、配偶者の相続税は「2,600万円×15%-50万円=340万円」で、子1人あたりの相続税は「1,300万円×15%-50万円=145万円」です。
したがって、相続人全員で納めるべき相続税の総額は「340万円+145万円+145万円=630万円」になります。
贈与税
生前贈与で暦年贈与や相続時精算課税制度の限度額を超えた場合は、超過した額に対して贈与税が課されます。
相続時精算課税制度を利用し、非課税限度額である2,500万円を超えた場合は、一律で20%の贈与税が発生します。たとえば、数年にわたり5,000万円の贈与を受けた場合は
「(5,000万円-2,500万円)×20%=500万円」が贈与税となります。
一方、暦年贈与を選択した場合は、下記の計算式で贈与税価額の算出が可能です。
贈与税価額=(1年間で贈与された財産の合計価額−基礎控除額110万円)×税率−控除額
参照:国税庁「No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)」
贈与税にも相続税と同じく、金額に応じて税率と控除額が設けられています。ただし、贈与税の場合は、贈与する人と贈与される人の関係性によって税率・控除額が変動します。
兄弟間・夫婦間の贈与、親から子への贈与で子が18歳未満の場合など
基礎控除後の課税価格 | 税 率 | 控除額 |
200万円以下 | 10% | ‐ |
300万円以下 | 15% | 10万円 |
400万円以下 | 20% | 25万円 |
600万円以下 | 30% | 65万円 |
1,000万円以下 | 40% | 125万円 |
1,500万円以下 | 45% | 175万円 |
3,000万円以下 | 50% | 250万円 |
3,000万円超 | 55% | 400万円 |
参照:国税庁「No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)」
祖父母から孫への贈与、親から子への贈与で子が18歳以上の場合など
基礎控除後の課税価格 | 税 率 | 控除額 |
200万円以下 | 10% | ‐ |
400万円以下 | 15% | 10万円 |
600万円以下 | 20% | 30万円 |
1,000万円以下 | 30% | 90万円 |
1,500万円以下 | 40% | 190万円 |
3,000万円以下 | 45% | 265万円 |
4,500万円以下 | 50% | 415万円 |
4,500万円超 | 55% | 640万円 |
参照:国税庁「No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)」
たとえば贈与を受ける側が18歳以上で1年間に500万円の贈与を受けたと仮定した場合、贈与税価額は「(500万円-110万円)×15%-10万円=48.5万円」となります。
譲渡所得税等
譲渡所得税は、株式購入時の金額よりも売買時に評価額が高くなっていた場合の譲渡益にかかる税金です。株式を売った人に対して、所得税・復興特別所得税・住民税が課されます。なお、復興特別所得税は、所得税率15%に2.1%を乗じる形で含まれます。
譲渡所得等の税額=譲渡益(譲渡価額−必要経費)×税率20.315%(所得税15.315%、住民税5%)
※復興特別所得税は令和19年まで課税
参照:国税庁「No.1463 株式等を譲渡したときの課税(申告分離課税)」
たとえば手数料などの必要経費を引いた譲渡益が1,000万円の場合、譲渡所得等の税額は「1,000万円×20.315%=203万1,500円」となります。
相続による株式譲渡の手続き方法
ここからは各方法における株式譲渡の手続きの手順を紹介します。まず、相続による株式譲渡の手続きの手順は次のとおりです。
- 株式の相続者を決める
- 株式の名義変更をする
3つの方法のうち、最も手続き工数が少ないのが相続です。しかし、先にも触れているとおり、相続は株式所有者が亡くなってから行われるので、遺言などにより後継者を決めていたとしてもトラブルが発生する可能性が高く、相続者決めが難航するおそれがあります。
1.株式の相続者を決める
相続による株式譲渡ではまず、法定相続人の間で遺産分割協議を行い、「遺産分割協議書」を作成する必要があります。遺言などで後継者が決まっている場合は、遺言の内容を考慮しながら分割協議を行います。
ただし、遺言書は絶対ではないため、後継者に指定された人以外の法定相続人が遺留分侵害額請求をしてきた場合は、その請求に応じなければいけません。この場合、後継者の経営権が保てなくなる可能性が出てくるので、事前に後継者も含めた相続人の間で良好な関係性が築けるよう根回ししておく必要があります。
なお、遺産分割協議書には、被相続人の名前や相続日、協議した法定相続人、相続財産の処分内容などを記載します。
2.株式の名義変更をする
遺産分割協議書が作成できたら、その内容を元に株式の名義変更手続きを行います。上場株式の場合は証券会社に、非上場株式の場合は株式を発行している会社に名義変更を申請します。また、名義変更には遺言書がある場合、相続人が1人の場合など、ケースごとに必要書類が違う点にも注意が必要です。
ケース |
必要書類 |
遺言書がある場合 |
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遺産分割協議書を作成した場合 |
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相続人が1人の場合 |
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裁判所の遺産分割調停、審判の場合 |
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贈与による株式譲渡の手続き方法
次に生前贈与で株式譲渡を行う場合の手続きの流れを見ていきましょう。
- 株式価格を評価する
- 贈与契約書を作成する
- 株式の名義変更をする
- 契約を実行する
- 確定申告をする
贈与になると少々手続き工数が増えます。毎年行うことなので手間が多いのは面倒ですが、最も節税効果が期待できるため、多少の面倒は目をつぶりましょう。
1.株式価格を評価する
暦年贈与を意識して株式譲渡を行う場合は、株式価格を年間110万円までに抑える必要があります。そのため、株式価格の評価がとても重要です。上場株式の場合は、まず次の4つの評価額を確認します。
- 贈与される日の最終価格
- 贈与される月の最終価格における平均額
- 贈与される前月の最終価格における平均額
- 贈与される2ヶ月前の最終価格における平均額
これらのうち、最も低い価格が株式の価格となります。
2.贈与契約書を作成する
株式価格が決まったら、贈与契約書を作成します。贈与契約は譲渡側・譲受側の合意によって成立するため、口頭でも問題ありません。ただし、のちのち相続が発生する可能性がある場合は、相続税の計算に用いられることもあるため、文書にて作成しておくことをおすすめします。
贈与契約書には決まった形式はなく、次のような内容を記載すれば有効書類としてみなされます。
- 贈与者の氏名
- 受贈者の氏名
- 贈与に対する意思
- 贈与日
- 贈与対象
- 贈与の方法
最低限、上記の項目は記載が必要です。
3.株式の名義変更をする
契約書が作成できたら、株式の名義変更を行います。上場株式の場合は証券会社が、非上場株式の場合は、株式を発行している会社に名義変更手続きを依頼しましょう。
4.契約を実行する
契約書の内容に沿って、契約を実行します。
なお、毎年決まった額を決まった時期に贈与してしまうと、「定期贈与」とみなされ、贈与した金額の合計額に対して贈与税が課されます。そうなると節税メリットが相殺されてしまいます。定期贈与とみなされないために、贈与するごとに贈与契約書を作成・実行すること、贈与額と贈与するタイミングをずらすことをおすすめします。
5.確定申告をする
贈与された株式が年間110万円を超えた場合は確定申告が必要です。110万円を超過した分は贈与税が課されます。申告漏れは脱税とみなされるため、必ず確定申告を行いましょう。
売買による株式譲渡の手続き方法
最後に売買にて株式譲渡を行う手続きの流れを紹介します。
- 株式譲渡承認を請求する
- 株式譲渡の承認決議を行う
- 株式譲渡の承認通知を行う
- 株式譲渡の契約を締結する
- 株主名簿を書き換える
- 株主変更手続きを行う
贈与や相続の場合、経営者と後継者間で譲渡が済んでいましたが、売買になると会社の承認が必要になってきます。各手続きの詳細を見ていきましょう。
1.株式譲渡承認を請求する
売買で株式を譲渡する場合は、株式譲渡承諾請求書を会社に提出して株式譲渡の承認を得る必要があります。株式譲渡承諾請求書に記載する主な内容は次の2点です。
- 譲渡先
- 譲渡する株式の数や種類
株式の売主が請求する場合は売主単独でも大丈夫ですが、買主が請求する場合は売主との連名で請求しなければいけない点は留意しておきましょう。
2.株式譲渡の承認決議を行う
株式譲渡承認の請求後は、会社の取締役会または株主総会にて株式譲渡の承認決議を行います。なお、株式譲渡の承認について、別の組織や役職者が承認する旨が定款に記載されている場合はその内容に従って決議します。
3.株式譲渡の承認通知を行う
株式譲渡の承認決議が開催されたのち、会社は2週間以内に承認・不承認について請求者に通知する必要があります。なお、2週間以内に通知が行われない場合も「承認」とみなされます。また、通知期限は会社と請求者の同意があれば2週間から変更可能です。
4.株式譲渡の契約を締結する
承認決議により株式譲渡の承認が下りた場合は、株式譲渡契約を締結します。株式譲渡契約では次の内容を記載します。
基本合意事項(株式の数と金額など)
- 表明保証事項(買主に対して売主が保証する事項)
- 売主と買主の署名や捺印
5.株主名簿を書き換える
株式譲渡が承認されたら、株主名簿の書き換え請求を行います。株式不発行会社の場合は、売主・買主が共同で請求しますが、株式発行会社の場合は、買主のみで書き換え請求が可能です。
この手続きは売主が株式譲渡を二重に行っていた際に、別の買主から所有権を主張される等のトラブル抑制効果もあるので、忘れず行っておきましょう。
6.株主変更手続きを行う
最後に株主名簿記載事項証明書の交付請求を行い、株主変更の手続きが完了しているか確認して売買による株式譲渡の手続きは終了です。
家族間の株式譲渡の税金を抑えるポイント
家族間で株式譲渡を行う際にかかる税金は、次のポイントを意識することで抑えられます。
- 事業承継税制を利用する
- 生前贈与を利用する
事業承継税制では、承継時に発生する相続税・贈与税の納税猶予・免除を受けられます。生前贈与では、毎年110万円を非課税で譲渡できるので、両者を活用できれば、かなりの節税効果が見込まれるでしょう。
事業承継税制を利用する
事業承継税制とは、中小企業の事業承継の際に課税される相続税や贈与税の猶予または免除を受けられる制度です。制度の活用には次の条件を満たす必要があります。
経営者側の条件 |
後継者側の条件 |
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|
参照:国税庁「法人版事業承継税制 非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予・免除(法人版事業承継税制)のあらまし(令和4年5月)p.3」
上記の条件に該当すれば事業承継税制の利用が可能になります。ただし、猶予を受けている税額の免除が適用されるには、承継後5年間は「会社の代表者であること」や「会社の株式を保有し続けること」、「平均8割の雇用を維持すること」などの条件をクリアする必要があります。
生前贈与を利用する
相続による株式譲渡を考えている場合は、生前贈与の活用も視野に入れておきましょう。なぜなら生前贈与を行うことで、相続税の軽減に繋がるからです。生前贈与であれば、年間110万円まで非課税で贈与ができるので、かなりの節税対策となるでしょう。
前述している相続税精算課税制度でも節税効果は見込めます。しかし、相続時に相続資産として加算されるため、評価額によっては贈与税を課され、節税効果が薄れます。その点、生前贈与であれば、毎年微少ではありますが、被相続人である経営者の資産を確実に減らせるので節税効果が高くなるといえるでしょう。
家族間で株式譲渡する際の注意点
家族間の株式譲渡を売買で行う場合、不適切な価格設定に注意が必要です。基本的に、売買では売り手側に譲渡所得税が課せられます。しかし、親族間の売買では価格を低く設定するケースもありがちで、適正時価を下回る価格で譲渡した場合には、差額分が贈与とみなされて買い手側に贈与税が課せられます。
また、家族間における非上場株式の売買では、自社株の時価を適正に設定することも大切です。家族間の株式譲渡は任意の時価設定が可能であるため、税務署のチェックはより厳しくなる可能性があります。
国税庁の「財産評価基本通達」に基づいて、適正な時価を設定してください。税理士や公認会計士など、専門家に相談するのもよいでしょう。
まとめ
家族間の株式譲渡は事業承継で行われることが多く、その方法は「相続」「贈与」「売買」から選べます。このなかでも特に節税効果が高いのが、暦年贈与による生前贈与です。それぞれの方法にはメリット・デメリットがあるため、自社に最も合う方法を比較検討しましょう。売買で行う場合は価格設定にも注意が必要です。
譲渡方法によって手続きも異なるため、あわせてチェックしてください。
「事業承継のために株式譲渡をしたいが、自社に合う方法がよくわからない」「手続きが煩雑で対応が難しい」という方には、専門家への相談がおすすめです。
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