このページのまとめ
- 株式譲渡とは、株式を渡し、対価をもらうことで事業承継を行う方法
- 株式譲渡は、従業員や資産も含めて承継できるメリットがある
- 株式譲渡成功に向けて、M&A仲介会社のような専門家が大切
「株式譲渡でM&Aを行いたいけど、何をすれば良いか分からない」と悩んでいる経営者も多いのではないでしょうか。事業拡大や新規事業参入に向けて、株式譲渡を検討している企業も多いことでしょう。株式譲渡でのM&Aを成功させるためには、メリットや注意点を把握し、自社の目的やニーズに合う手法か確認しておくことが大切です。本記事では、株式譲渡の概要や、実施に向けた準備、流れなどを解説します。
目次
株式譲渡とは
株式譲渡とは、売り手企業が買い手企業に、自社の株式を譲渡するM&A手法のことです。企業の経営権を譲る目的や、事業承継、企業規模拡大などさまざまな目的で実施されます。特徴は、ほかのM&A手法と比べて、比較的手続きが簡単なところです。また、株式譲渡の方法には、「市場買付け」「TOB(公開買付け)」「相対取引」の3パターンがあります。
市場買付け
市場買付けとは、株式市場内で流通している株式を購入する方法です。市場内に株式が流通しているため、買付けを行いやすいメリットがあります。注意点は、株式市場内で買付けを行い過ぎると、相場が変動してしまう点です。相場が高くなってしまうと、買付けも行いにくくなるため、経営権を獲得する目的では、あまり使用されません。
TOB(公開買付け)
TOBとは、株式市場外で取引を行い、株式を購入する買付けのことです。事前に「購入する株式数」「株式の金額」「買付け期間」などを公開し、買付けを行います。TOBの特徴は、株式市場の影響を受けにくい点です。相場やほかの投資家の影響を受けずに、株式譲渡を実行できます。
相対取引
相対取引とは、株主と直接交渉を行い、買付けを行う方法です。上場企業ではなく、株式市場に株式が流通していないケースで使用されます。上場企業ではない場合、株主が株式を所持しているケースが多くなります。そのため、株主と直接交渉を行い、株式譲渡を目指す相対取引が有効です。
事業譲渡との違い
株式譲渡と混同されやすい手法が、事業譲渡です。事業譲渡とは、売り手企業の事業のうち、一部またはすべてを譲渡するM&A手法です。企業全体を譲渡する株式譲渡とは異なります。
事業譲渡の場合、譲渡する事業や資産は個別に選択可能です。そのため、買い手は必要な資産だけを買い取り、売り手は売りたい資産だけを売却できます。一方で、株式譲渡では企業全体がM&Aの対象です。負債のように、引き継ぎたくない資産も引き継ぐ必要があることを覚えておきましょう。
【売り手側】株式譲渡を行うメリット・デメリット
売り手側にとって、株式譲渡を行うことは、メリットもあればデメリットもあります。想定されるメリットとデメリットを説明します。
【売り手側】株式譲渡を行うメリット
売り手側で株式譲渡を行うメリットは、次の4つです。
- 必要な手続きが少ない
- 事業を存続できる
- 資金を獲得できる
- 税金が抑えられる
M&A成功に向けて、売り手側のメリットを確認しておきましょう。
必要な手続きが少ない
売り手側のメリットは、必要な手続きが比較的少ない点です。事業譲渡などと比べると、少ない手続きで実施できます。株式譲渡の場合、資産や契約を個別に引き継ぐ必要がありません。譲渡契約を行い、対価を支払い、株式名簿を書き換えることで契約が完了します。事業譲渡の場合は、引き継ぐ資産ごとに契約が必要になるため手間が掛かります。このように、ほかのM&A手法よりも必要な手続きが少ない点は、実行に向けてメリットになるでしょう。
事業を存続できる
譲渡を行うことで、事業を存続できる点もメリットです。経営に不安を抱えている売り手企業も、安心して事業を継続できます。
近年では後継者問題に悩む企業が増加しています。その際、第三者に事業承継ができれば、事業を存続でき、後継者問題も解決するでしょう。従業員の雇用や取引先との契約も維持できるため、周囲に迷惑を掛けない点もポイントです。
資金を獲得できる
売り手企業は譲渡を行うことで、資金が獲得できる点もメリットです。新しい事業を始めたり、経営者を引退して生活をしたりと、自由に過ごせるでしょう。株式譲渡では、譲渡した株式の対価に、資金で支払われるケースがほとんどです。そのため、売り手企業は売却で資金を獲得でき、今後の生活に活用できる点もメリットになります。
税金が抑えられる
事業譲渡と比べて、税金が抑えられる点もメリットです。株主が個人の場合は、譲渡所得に対する税率が約20%になります。税金を抑えることで、売り手企業の手元に残る資金も多くなるでしょう。税金を抑えて得をしやすいこともメリットになります。
【売り手側】株式譲渡を行うデメリット
売り手で株式譲渡を行う場合のデメリットは、次の3つです。
- 負債があると買い手が減る
- 利益が出ていない事業があると売却価格が下がる
- 会社の経営権がなくなる
ここでは、これらの内容に関して詳しく解説するため、参考にしてください。
負債があると買い手が減る
自社が負債を抱えていた場合、買い手が減りやすい点に注意しましょう。事業譲渡とは異なり、負債も含めて買収が行われるからです。株式譲渡では、資産はもちろん、従業員や負債も含めて包括承継を行います。そのため、負債があった場合、買い手は負債を含めて引き継ぎます。もし、負債額が大き過ぎた場合、買い手は買収をためらってしまうでしょう。負債があると買い手が減りやすい点が、デメリットになります。
利益が出ていない事業があると売却価格が下がる
事業を複数所持している企業の場合、利益が出ていない事業がないか注意しましょう。利益が出ていない事業の影響で、売却価格が下がるからです。株式譲渡での企業価値は、事業全体の価値で決まります。そのため、A事業が好調でも、B事業が赤字の場合、両方を合わせた価値で企業価値を決めなければなりません。
利益が出ていない事業があるほど、総合的な企業価値は下がります。事業が複数ある場合は、利益が出ていない事業を抱えていないか注意が必要です。
会社の経営権がなくなる
株式の譲渡数によっては、会社の経営権を失うことを覚えておきましょう。具体的には、50%以上の株式を譲渡すると、経営権を失います。事業譲渡とは異なり、自社の法人格も含めて譲渡されます。譲渡する株式数によっては、会社の経営権を失うことを覚えておきましょう。
【買い手側】株式譲渡を行うメリット・デメリット
買い手側によっても、株式譲渡はメリットだけでなく、デメリットがあります。よくあるメリットとデメリットを説明します。
【買い手側】株式譲渡を行うメリット
買い手側で株式譲渡を行うメリットは、次の4つです。
- 会社の経営権を獲得できる
- 施設や人材を引き継げる
- 許認可を引き継げる
- 手続きの負担が少ない
ここでは、それぞれのメリットに関して解説します。
会社の経営権を獲得できる
株式を取得したことで、会社の経営権を獲得できることがメリットになります。50%以上の株式を取得した場合、売り手企業の経営権を持てることを覚えておきましょう。この際、会社の経営権を完全に取得するためには、株式を100%取得するようにしましょう。ほかの株主から、反発を受ける可能性があるからです。もし、会社の経営権を完全に獲得したい場合は、100%の株式取得を目指して、M&Aを行いましょう。
施設や人材を引き継げる
売り手企業の施設や人材を引き継げる点もメリットです。事業拡大や新規事業の立ち上げが行いやすくなるでしょう。たとえば、売り手企業の施設をそのまま使うことで、新しい設備投資を抑えて事業を進められます。また、人材を引き継ぐことで、経験やノウハウを持つ従業員を抱えられるため、すぐに事業が再開できるでしょう。
施設や人材を引き継げることで、M&A後に事業を始めやすくなります。包括承継ができる、株式譲渡ならではのメリットです。
許認可を引き継げる
許認可を引き継げる点も、株式譲渡を行うメリットです。業種によっては、許認可がなければ事業が始められないケースもあります。
たとえば、運送業を行うには、許認可が必要です。そのため、許認可を目的にM&Aを行うケースもあります。事業譲渡などでは、許認可が引き継げない、あるいは手続きが複雑になるケースも発生するでしょう。許認可を引き継ぎ、事業を始められる点もメリットになります。
手続きの負担が少ない
ほかのM&A手法に比べて、手続きの負担が少ない点もメリットです。担当者の負担を減らせるでしょう。株式譲渡の場合、個別での契約を結びなおす必要がありません。企業全体と契約を結ぶことで、譲渡が成立します。M&A実施のハードルを下げるためにも、手続きが少ない点はメリットです。
【買い手側】株式譲渡を行うデメリット
買い手側でM&Aを行う場合のデメリットは、次の4つです。
- 負債も引き継がれる
- 簿外債務のリスクがある
- 全株式を獲得できない可能性がある
- シナジーが起きない可能性がある
それぞれ解説するため、参考にしてください。
負債も引き継がれる
株式譲渡の場合、負債も引き継がれる点に注意しましょう。企業全体が譲渡対象になるからです。たとえば、施設や人材を引き継げる点はメリットになります。しかし、負債は必要ないからと言って、引継ぎから外すことはできません。個別に引き継ぎ内容を選ぶ場合は、事業譲渡を行う必要があります。株式譲渡の場合は、負債も含めて引継ぎが必要になることを覚えておきましょう。
簿外債務のリスクがある
簿外債務発生のリスクに関しても注意しましょう。企業全体を引き継ぐことで、発見できていなかった負債がのちに見つかる可能性もあります。簿外債務を避けるためには、デューデリジェンスを実施し、交渉段階で負債がないか調べておくことが大切です。M&A仲介会社のような専門家にデューデリジェンスを依頼し、買収リスクを下げるようにしましょう。
全株式を獲得できない可能性がある
株主が複数いる場合、全株式を獲得できない可能性に注意しましょう。株主が株式取得に反対し、譲渡してくれないケースもあるからです。もし、株式を取得できない場合は、「株式等売渡請求」を活用しましょう。株式等売渡請求とは、議決権のうち90%以上を所持している場合、強制的に株主の買い取りができる方法です。実施する際は、M&A仲介会社のような専門家に相談し、株式取得に向けて動きましょう。
参照元:中小企業庁「事業承継ガイドライン」
シナジーが起きない可能性がある
買収を行った結果、シナジーが起きない可能性に注意しましょう。シナジーが起きないことで、M&Aの成果が下がってしまいます。シナジーが起きない要因には、「企業風土の違い」「組織体制の違い」などがあります。組織を強化するためにM&Aを行っても、それぞれの企業でシナジーが起きなければ意味がありません。M&Aを行う前に、自社とシナジーが起きる企業なのか、十分に確かめましょう。
株式譲渡を行う際の流れ
株式譲渡実施に向けて、どのように進めるかを把握しておきましょう。基本的には、次のような流れで実施します。
- 株式譲渡の承認を得る
- 臨時株主総会を開く
- 株式譲渡の承認を決議する
- 株式譲渡契約を締結する
- 株主名簿を書き換える
- 株主名簿記載事項証明書を発行する
ここでは、工程ごとに進め方を解説するため、参考にしてください。
1.株式譲渡の承認を得る
実施に向けて、まずは譲渡の承認を得ましょう。企業の多くが非公開企業であり、株式譲渡に制限があるからです。制限がある企業から譲渡を受ける場合、株主譲渡承認請求書を作成し、承認を得ます。ただし、上場企業から譲渡を受ける場合は、株式の売買に制限がないため、自由に実施可能です。
2.臨時株主総会を開く
株式譲渡の承認を決議するために、臨時株主総会を開催しましょう。株主に対して、株主総会の開催を通知します。
3.株式譲渡の承認を決議する
臨時株主総会では、株主譲渡の承認を決議しましょう。承認を受けることで、株式譲渡に制限がある企業の株式を購入できるようになります。
4.株式譲渡契約を締結する
株式譲渡契約を締結し、手続きを進めましょう。株式譲渡契約書を作成し、締結を行います。契約書には、次のような内容を記載しましょう。
- 基本合意の内容
- 譲渡価格
- 対価の支払い方法
- 譲渡承認手続きに関して
- 表明保証に関して
- 損害賠償に関して
- 株主名簿の書き換えに関して
5.株主名簿を書き換える
契約締結後は、株主名簿を書き換えましょう。株主名簿が書き換えられることで、効力が発揮されます。株主名簿を書き換えるためには、「株主名簿の書き換え請求手続き」を実施しましょう。
6.株主名簿記載事項証明書を発行する
株主名簿の書き換え請求手続きを受理した企業は、株主名簿記載事項証明の発行を行います。発行が終わることで、株式譲渡の手続きは完了です。
株式譲渡に必要な書類
株式譲渡実施には、さまざまな書類を準備する必要があります。取締役会の有無によっても変わるため、覚えておきましょう。ここでは、取締役会の有無に合わせて、株式譲渡で必要な書類を紹介します。
取締役会がある場合
取締役会がある企業の場合は、次の書類を準備しましょう。
- 株主名簿
- 取締役会議事録
- 株式譲渡承認請求書
- 株式譲渡承認通知書
- 株式譲渡契約書
- 株式名義書換請求書
- 株主名簿記載事項証明書
取締役会がある企業では、承認決議を取締役会で実施します。そのため、取締役会議事録が必要になることを覚えておきましょう。
取締役会がない場合
取締役会がない場合の企業は、次のような書類が必要になります。
- 株主名簿
- 株主総会招集に関する取締役の決定書
- 株式譲渡承認請求書
- 臨時株主総会招集通知
- 臨時株主総会議事録
- 株式譲渡承認通知書
- 株式譲渡契約書
- 株主名簿名義書換請求書
- 株主名簿記載事項証明書交付請求書
- 株主名簿記載事項証明書
取締役会がない場合、株主総会で承認を行います。そのため、「株主総会招集に関する取締役の決定書」「臨時株主総会招集通知」のように、株主総会に関わる書類が必要になることを覚えておきましょう。M&Aの専門家に相談し、必要書類を揃えておくことで、安心して実施できます。
株式譲渡実施前の注意点
株式譲渡を実施する前に注意したい点は、次の3つです。
- 譲渡制限を確認する
- 株券発行を確認する
- 株式譲渡契約書を準備する
それぞれポイントを解説するため、参考にしてください。
譲渡制限を確認する
株式の譲渡を行うために、譲渡制限の有無を確認しましょう。上場企業ではない場合、譲渡制限があるケースが増加します。譲渡制限がある場合、譲渡を行うためには、取締役会や株主総会での承認が必要になります。必要な手続きが増えるため、譲渡実施前に確認しておきましょう。
株券発行を確認する
自社が株券を発行しているかどうかも確認しましょう。株券発行の有無によって、必要な手続きが変わるからです。株式会社の場合には、自社の定款と登記事項証明書を確認しましょう。
株式譲渡契約書を準備する
取引を行うにあたり、株式譲渡契約書を準備しましょう。具体的には、次のような内容が必要になるため、覚えておきましょう。
- 基本合意の内容
- 譲渡価格
- 対価の支払い方法
- 譲渡承認手続きに関して
- 表明保証に関して
- 損害賠償に関して
- 株主名簿の書き換えに関して
- クロージング
- クロージング時の履行義務
- 契約違反時の解除事項
株式譲渡契約書は、最終契約にあたり、重要な契約書です。専門家に確認しながら、作成しましょう。
株式譲渡で企業価値を算出する方法
株式譲渡を行うためには、企業価値を決め、対価の支払いを行う必要があります。そのために、企業価値の算出方法を覚えておきましょう。基本的には、次の3種類を活用し、企業価値を算出します。
- マーケットアプローチ
- インカムアプローチ
- コストアプローチ
ここでは、それぞれの算出方法を解説するため、参考にしてください。
マーケットアプローチ
マーケットアプローチとは、過去の事例や市場価格を参考にして、企業価値を算出する方法です。たとえば、上場企業の場合は、株式市場の価格をもとに算出します。上場していない場合は、同じ業種、規模の上場企業を探し、参考にしましょう。
マーケットアプローチのメリットは、市場価格を参考にするため、客観的な価値を算出しやすい点です。特殊な業界や業種の場合、比較対象を見つけにくい点には注意しましょう。
インカムアプローチ
インカムアプローチとは、売り手企業が今後稼ぐ利益を想定し、企業価値を算出する方法です。インカムアプローチの計算方法には、次のような種類があります。
- DCF法
- モンテカルロDCF法
- 配当割り当てモデル
- APV法
コストアプローチ
コストアプローチとは、売り手企業の純資産を評価する方法です。コストアプローチのメリットは、計算がしやすく、わかりやすい点です。
コストアプローチには、「時価純資産法」と「簿価純資産法」の2種類があるため、覚えておきましょう。時価純資産法の場合は、売り手企業の時価資産から、負債を引いた金額を企業価値にします。一方で、簿価純資産法は、賃借対象表に記載された純資産を、そのまま企業価値に算出する方法です。
企業価値の算出は、M&A実施で重要なポイントです。M&A仲介会社のような専門家にアドバイスを受けながら、適切な企業価値を算出しましょう。
株式譲渡で発生する税金とは
株式譲渡を実施すると、株式を売却して得られた利益に対して税金が課せられます。主な税金の種類と、状況による違いについて説明します。
株式譲渡で発生する税金は主に3種類
発生する税金は主に所得税・住民税・法人税の3種類です。個人が株式譲渡をすると、譲渡所得に対して所得税と住民税が課せられます。譲渡所得は以下の計算式で求めます。
譲渡所得=株式譲渡によって得た金額-(取得費用+譲渡費用)
取得費用とは株式を取得するときにかかった費用です。購入時の株式価格や手数料などが含まれます。また、譲渡費用とは譲渡するときにかかった費用です。
上記の計算式で求めた譲渡所得が0以下のときは、所得税・住民税ともにかかりません。たとえば、購入時よりも安価に株式を譲渡した場合は、所得税・住民税ともに非課税です。
一方、法人が株式譲渡をした場合は、譲渡所得に対して法人税が課せられます。個人の場合と同様、譲渡所得が0以下になるときは法人税は非課税です。
状況・立場ごとによる税金の違い
株式譲渡を行ったとき、譲渡所得があるときは売り手に税金が課せられます。また、時価の2分の1未満で買ったときは買い手にも税金が課せられます。主な税金については以下をご覧ください。
売り手側 | 買い手側 | 発生する税金の種類 |
個人 | 個人 | 売り手:所得税、住民税 買い手:贈与税 |
個人 | 法人 | 売り手:所得税、住民税 買い手:法人税 |
法人 | 個人 | 売り手:法人税 買い手:所得税、住民税 |
法人 | 法人 | 売り手:法人税 買い手:法人税 |
株式譲渡で発生する税金に関する注意点
株式譲渡では、売り手・買い手ともに納税が必要になることがあります。以下の点に注意して、正しく納税しましょう。
- 非上場企業の場合、税金は時価基準になる
- 家族や親族に株式譲渡する場合も課税対象となる
- 上場企業と非上場企業が株式譲渡をするときは、譲渡損失を繰り越せない
2016年以降、上場企業と非上場企業間での株式譲渡については、譲渡損失を繰り越せなくなりました。一方、上場企業同士もしくは非上場株式会社同士の場合は、譲渡損失の繰り越しは可能です。
株式譲渡したあとの売り手企業の扱い
株式譲渡で話題に上がることが、譲渡後の売り手企業の扱いです。売り手企業の経営者や従業員は、どのようになるのでしょうか。ここでは、譲渡を行った売り手企業が、どのような扱いを受ける傾向にあるか、解説します。
経営者
経営者の場合は、譲渡した目的によって処遇が変わります。たとえば、事業拡大やシナジー発生が目的の場合、譲渡企業に残り、経営を続けるケースが一般的です。買い手企業にとっても、ノウハウや経験を持つ経営者の活躍が大切だからです。
しかし、経営者によっては、事業承継を目的に譲渡を行うケースもあります。その場合、譲渡後に退職し、自由に生活を行うことになるでしょう。このように、経営者に関しては、企業に残るケースと、退職するケースのパターンがあります。譲渡目的に応じて、変わってくるでしょう。
従業員
従業員に関しては、雇用が継続されるパターンがほとんどです。株式譲渡では、従業員の獲得も目的にM&Aが行われるケースもよくあります。ポイントは、譲渡後の経営統合をスムーズに行えるように準備をしておくことです。企業風土の違いなどから、離職が発生するケースもあります。経営統合に関して、あらかじめ説明しておくなど、対応をしておきましょう。
取引先
取引先に関しても、継続して取引を続けるケースが一般的です。譲渡後の再契約も不要なため、覚えておきましょう。ポイントは、売り手企業の経営者に依頼し、取引先との関係性を形成しておくことです。経営統合前に挨拶を行うなどしておくと、安心して契約を維持できるでしょう。
株式譲渡における特殊なケースへの対応
株主側の事情によっては、通常とは異なる対応が必要なこともあります。特殊なケースの株式譲渡について解説します。
株主が未成年だった場合
事業承継などの結果、株主が未成年のケースもあります。この場合、「保護者の特定」「保護者の確認」が必要になるため、覚えておきましょう。株式譲渡に関しては、未成年は実施できません。そのため、保護者が代理で進めるか、同意を得ることが必要になります。
株主が分かれている場合
株主が複数存在し、株式をバラバラに所持している場合もあります。株式獲得に向けて、対応が求められるでしょう。基本的には、売り手企業の代表株主が、ほかの株主に依頼し、株式を集めることになります。その際、委任状が必要になるため、株主が分散している場合は、準備しておきましょう。
株主への連絡が取れない場合
連絡が取れない株主が発生した場合、裁判所に相談しましょう。裁判所の許可を得ることで、株式の売却が実施できるようになります。注意点は、連絡が取れないからと言って、株主名簿から削除してはなりません。また、勝手に売却できないことも覚えておきましょう。まずは、株主名簿を確認し、株式売却に関する通知を行うことが必要です。
株式譲渡を相談できる専門家
株式譲渡をするか迷ったときや、譲渡の過程でトラブルが生じたときは、専門家に相談しましょう。相談可能な専門家について紹介します。
商工会・商工会議所
商工会や商工会議所の会員になっている場合は、ぜひ相談してみましょう。商工会・商工会議所では会員向けに無料相談サービスを実施しています。ただし、株式譲渡などのM&Aの専門機関ではないため、相手企業探しや代理交渉などの実質的なサポートは受けられない可能性があります。
事業承継・引継ぎ支援センター
事業承継・引継ぎ支援センターは、事業承継に関する公的機関です。個人や中小企業向けにサポートを提供しており、誰でも無料で利用できます。ただし、対応に時間がかかることもあるため、利用するときは早めに相談しましょう。
金融機関
取引のある金融機関なども相談先として検討できます。金融機関によっては株式譲渡などのM&Aや事業承継の専門部署を置いていることもあり、サポートを得られることもあります。ただし、手数料が割高な傾向にあることと、大企業向けのサポートであることが多い点に注意しましょう。
士業専門家:公認会計士・税理士など
公認会計士や税理士などの士業専門家にも相談できます。顧問会計士・顧問税理士がいるならば、自社の財務状況なども詳しく把握しているため、スムーズな相談が可能です。ただし、株式譲渡の専門家ではないため、実務的なサポートは得られない可能性があります。
M&A仲介会社・FA会社
M&A仲介会社やFA(ファイナンシャルアドバイザー)会社は、いずれも株式譲渡などのM&Aを専門とする会社です。M&A仲介会社は売り手・買い手の間になって、FA会社はいずれか一方の側に立って、株式譲渡成立をサポートしてくれます。手数料はかかりますが、相手企業探しから契約成立まで一貫したサポートを受けられる点が特徴です。
株式譲渡によるM&Aを行った企業の事例
株式譲渡によってM&Aを実施するケースも少なくありません。企業事例を紹介します。
アウルスからエン・ジャパンへの株式譲渡
ウェブやアプリのデザイン開発やコンサルティングを行うアウルスは、2019年2月エン・ジャパンに株式譲渡を行いました。これによりアウルスはエン・ジャパンの子会社となり、エン・ジャパンは顧客企業へのコンサルティングの提供や、採用強化を実現するウェブサイトの作成を自社で行えるようになります。
参照元:エン・ジャパン「エン・ジャパン、UXデザインカンパニーのアウルス株式会社を子会社化」
COMBOからテクノモバイルへの株式譲渡
VR/AR開発などを手がけるCOMBOは、モバイルアプリなどの開発を行うテクノモバイルに株式譲渡を行いました。初回の話し合いから約2か月というスピーディな成約となりましたが、M&A直後からシナジー効果が生まれています。
参照元:PR TIMES「VR/AR開発に強みをもつIT企業をテクノモバイルに譲渡(事業承継M&Aプラットフォーム「ビズリーチ・サクシード」経由)」
コウイクスからSDアドバイザーズへの株式譲渡
コウイクスはSDアドバイザーズに全株式を譲渡しました。コウイクスの代表取締役社長が高齢により経営継続が難しくなったためで、株式譲渡により事業承継と資本提携を実現しています。なお、コウイクスの前取締役が、コウイクスの代表取締役に昇格しました。
参照元:コウイクス「事業承継のお知らせ」
参照元:SDアドバイザーズ「株式会社コウイクスの事業承継及び資本業務提携のお知らせ」
まとめ
事業拡大や事業承継を目的に、株式譲渡が行われています。施設や従業員を含めた企業全体を承継できるため、事業を始めやすくなるでしょう。また、手続きに関しても、事業譲渡などと比べて行いやすいメリットがあります。株式譲渡を成功させるためには、専門家の協力が欠かせません。実施に向けて、まずはM&A仲介会社に相談してみましょう。
M&AならレバレジーズM&Aアドバイザリーにご相談を
レバレジーズM&Aアドバイザリー株式会社は、各領域に特化したM&Aサービスを提供する仲介会社です。各領域で実績を積み重ねたコンサルタントが、相談から成約まで一貫してサポートを行います。
料金に関しては、M&Aの成約時に料金が発生する、完全成功報酬型です。
M&A成約まで、無料でご利用いただけます(譲受側のみ中間金あり)。
相談に関しては、無料で実施しています。
株式譲渡でのM&Aを検討している際には、お気軽にお問い合わせください。