このページのまとめ
- 跡取りとは家督を継ぐこと、または家督を継ぐ本人のことを言う
- 「跡取り」と「跡継ぎ」「後継ぎ」との明確な違いはない
- 跡取りは親族や従業員から選ぶ場合と、M&Aにより第三者を候補とする場合がある
- 各メリットやデメリットと自社の状況を照らし合わせて、跡取りを選択しよう
「跡取りとは誰がなれる?」「どう引き継げばよい?」とお悩みの方に向けて、候補や承継の手順などを解説します。
現在、息子や娘を跡取りにするほか、従業員を跡取りに選出する場合があります。さらに昨今ではM&Aにより第三者を跡取りにするケースも見られます。
今回は、親族・従業員・第三者をそれぞれ跡取りとして迎えた場合のメリット・デメリットについて解説。それらを踏まえたうえで、ベストな跡取りを選択しましょう。
目次
跡取りとは
跡取りとは、家督を継ぐこと、または家督を継ぐ本人のことを指して使用されます。
跡取りに継がせるものには、家の財産や事業、権利などがあります。跡取りと聞くと親族を連想しがちですが、前任者が指定した人であれば、たとえば会社の従業員や第三者でも跡取りになることが可能です。
「跡継ぎ」「後継ぎ」との違い
跡取りと似たような言葉に「跡継ぎ」「後継ぎ」があります。これらの言葉は基本的に「家督を継ぐこと」を意味するため、大きな違いはありません。ただし、「後継ぎ」は「前任者や師匠から地位や役割、芸、芸術などを引き継ぐ人」という意味も持ち合わせます。
跡取りに息子や娘を選ぶメリット・デメリット
会社の跡取りに自身の息子や娘を選ぶのには、次のようなメリット・デメリットがあります。
メリット | デメリット |
従業員に納得してもらいやすい長い時間をかけて準備できる所有と経営を統一できる | 経営者の資質がないと難しい教育に時間がかかる親族間トラブルが生じやすい |
詳しい内容は後述しますが、上記のメリット・デメリットを踏まえると、息子・娘を跡取りに選ぶのは「経営者の資質がある息子・娘がいる」かつ、「跡取りに指定した本人およびその親族が納得している」会社に最適な方法です。
跡取りに息子や娘を選ぶ3つのメリット
跡取りに息子・娘を選ぶと次のようなメリットを享受できます。
- 従業員に納得してもらいやすい
- 長い時間をかけて準備できる
- 所有と経営を統一できる
それぞれ詳しく解説していきます。
従業員に納得してもらいやすい
昨今、親族への事業承継は減少傾向にあります。とはいえ、まだまだ一般的な方法です。そのため、従業員をはじめ取引先などからも受け入れてもらいやすい傾向にあります。特に代々、一族経営していた会社であれば、受け入れるのが当然であり、疑問を持たれることもないため、スムーズに事業承継ができるでしょう。
長い時間をかけて準備できる
息子・娘であれば、幼い頃からの教育が可能です。長期間かけて会社の理念や経営方針、経営に関する知識などをじっくり教えられます。いわゆる経営者としての英才教育を幼少期から実施できるのです。万が一、本質的に経営資質がなかったとしても、早期教育により補うこともできるでしょう。
また、前任者の意思と意向をそのまま承継しやすいので、世代交代により突然経営方針が変わるなど、従業員や取引先の混乱を招くような事態を避けられます。
所有と経営を統一できる
会社には所有者(株主)と経営者が存在します。大企業ではこの2つが分離していることが多く見られます。分離していると、経営者による独断的な経営を防げるというメリットがある一方で、株主は会社の利益を優先するため、自由な経営をしづらいというデメリットがあります。
それに対して、中小企業では所有と経営が同一であることがほとんどです。特に親族承継では所有と経営を統一しやすい傾向にあります。
所有と経営が一致していると、株主の意見に左右されることなく、人材育成や設備投資など、中長期的な目線で戦略を立てやすいというメリットがあります。また、経営者一人で判断できるため、迅速な舵取りが可能な点も利点として挙げられるでしょう。
跡取りに息子や娘を選ぶ3つのデメリット
跡取りに息子や娘を選ぶと、次のようなデメリットが出てくる点には注意しておかなければいけません。
- 経営者の資質がないと難しい
- 教育に時間がかかる
- 親族間トラブルが生じやすい
次項から詳しく解説します。
経営者の資質がないと難しい
息子・娘を跡取りに考えていても、本人たちに意欲がない、経営者としての資質がないケースもあります。教育で補える部分もあるかもしれませんが、経営者としての優れた嗅覚やセンスなど、もともとの資質は養うのが難しい部分です。
経営の資質がないにも関わらず、息子・娘だからといって継がせてしまうと、経営難に陥る可能性も出てきます。誰の目から見ても経営は向いていないと分かっているのに無理に継がせてしまうと、本人たちに「継がせる不幸」を背負わせてしまううえに、従業員からも反発を受けるでしょう。
不安を覚えた従業員の大量離職による廃業も考えられるので、教育の過程で経営の資質がなさそうだと判断した場合は、従業員や外部から跡取りを迎えることも検討する必要があります。
教育に時間がかかる
息子・娘を跡取りに据える場合、幼少期から本人が納得していれば教育期間は十分に取れます。しかし、息子・娘に意欲がなく、跡取りを拒否したために幼少期から教育ができなかった場合や、跡取り問題に直面した段階で教育を施そうとした場合は、時間との戦いになります。
帝国データバンクの「事業承継に関する企業の意識調査(2021年8月)」によると、事業承継を実施する際に必要な期間は「3年以上を要する」と回答した経営者は51.9%にも上ります。息子・娘を後継者に置きたい場合は、3年以上前から準備期間を設けなければいけません。
参照元:帝国データバンク「事業承継に関する企業の意識調査(2021年8月)」
親族間トラブルが生じやすい
跡取りが決まっているにも関わらず、生前に事業承継できなかった場合は親族間のトラブルに発展する可能性があります。
たとえば口約束のみで跡取りが決まっている場合、別の親族が候補として名乗りでることもあるでしょう。また、死亡した経営者が遺言などで資産の割合を指定していなかった場合、保有していた資産は法定相続分が各相続人に分配されます。これにより跡取りが事業運営に必要な資金を失い、廃業することも考えられます。
また、息子・娘が複数おり、跡取りに指定した人以外の兄弟が跡取りを希望している場合もトラブルに発展することがあるでしょう。トラブルを防ぐためにも早めに事業を承継し、資産分配の割合を決め、遺言書を用意しておくなどの対策を取ることをおすすめします。
跡取りに従業員を選ぶメリット・デメリット
跡取りとして自社の従業員を選ぶ際のメリット・デメリットは次のとおりです。
メリット | デメリット |
育成に時間がかからない取引先からの信頼を得やすい社風や方針を維持しやすい | 大胆な革新が起こりにくい従業員間で派閥が生じやすい所有と経営が分離しやすい |
上記のメリット・デメリットを踏まえたうえで、跡取りに従業員を選ぶのは「誰が見ても経営資質のある従業員がいる」という会社に向いているといえます。
跡取りに従業員を選ぶ3つのメリット
跡取りに従業員を選ぶメリットには次のような点があります。
- 育成に時間がかからない
- 取引先からの信頼を得やすい
- 社風や方針を維持しやすい
特に勤続年数が長い従業員であれば、社風や経営方針を熟知しているので、世代交代によるハレーションを起こしにくいでしょう。また、経営資質のある従業員がいる場合は、育成期間の短縮にも繋がります。
育成に時間がかからない
社外から跡取りを迎える場合、まず社風や方針から理解してもらう必要があります。その点、勤続年数が長く着実に昇格していった従業員であれば、社風や方針はもちろん、経営についても理解が進んでいると推測できます。
また、こうした従業員であれば、実務により人を束ねる術や動かす術を学んでいるので、育成期間は比較的短く済むといえるでしょう。
取引先からの信頼を得やすい
世代交代をする場合、従業員や取引先にも少なからず影響が発生します。特に社外から跡取りを迎える場合、社風や経営方針がガラッと変わることも多いため、影響が大きくなることが予想されます。これにより取引先や従業員から反発が出ることも珍しくありません。大量離職や業績悪化などにより最悪の場合、倒産することも考えられるでしょう。
一方で従業員が跡取りになった場合、社風や方針を理解し、そのまま承継することが多いため、世代交替による取引先や従業員へのストレスを極力抑えられます。そのため、取引先や従業員からの信頼を保ったまま、スムーズに事業承継ができるでしょう。
社風や方針を維持しやすい
社外から跡取りを迎えた場合、社風や方針を一変させるケースも珍しくありません。しかし、会社のことを熟知している従業員に継がせる場合は、既存の社風・方針を維持しながら事業承継が可能です。企業文化を崩すことなく、事業承継ができるので、世代交代後も従業員が円滑に業務を遂行できるでしょう。
跡取りに従業員を選ぶ3つのデメリット
メリットがある一方で、従業員を跡取りに選ぶことにはデメリットも存在します。
- 大胆な革新が起こりにくい
- 従業員間で派閥が生じやすい
- 所有と経営が分離しやすい
既存の社風や方針を踏襲して事業を承継するため、大胆な革新は起こりづらいと言えます。また、従業員時代に構築してきた人間関係によっては、従業員間に派閥を生むきっかけになることもあり得ます。
大胆な革新が起こりにくい
後継者に選ばれた人の方針や経営理念などにもよりますが、基本的には現在の経営者の意思を継いでくれる従業員を後継者に据える傾向にあります。つまり、企業文化に染まった従業員が跡取りに選ばれやすいため、既存の社風・方針から大胆に逸れた革新的な方針転換は望めなくなるということです。
VUCA時代といわれる現代では、ビジネスにおいても想定外なことが次々と起こります。ときには大きく舵を取らなければいけないこともあるでしょう。変革が必要な際には、柔軟な対応が取れる従業員の選定が、跡取り選び成功の鍵になります。
従業員間で派閥が生じやすい
従業員に複数の候補者がいる場合、適性を見極めるための期間を設け、課題を課すこともあるでしょう。しかし、各候補者が競争するよう仕向けてしまうと、それぞれを慕う従業員間で派閥が生じてしまうことも考えられます。
また、若い社員を抜擢した場合、世代間での派閥が生まれる可能性も否めません。こうした事態を避けるためには、事前の話し合いが必須です。すべての人に納得してもらうのは難しい面がありますが、できるだけ多くの人からの理解を得られるように対策しておきましょう。
所有と経営が分離しやすい
現在の経営者が会社を所有している場合、その所有権を後継者に譲らずに退任することも可能です。従業員承継においては、こうした背景により所有と経営が分離するケースも考えられます。
前任者が会社の所有権を所持しているということは一定数の株を保有していることを意味します。つまり、それ相応の発言権を持っているということです。後継者は経営において前任者の意向を汲むことになるため、独自性を発揮できなくなるのです。
これにより、従業員間でもどちらの意見に従うべきか迷いが生じ、社内の一体感が損なわれることも考えられます。後継者の安定的な経営が期待できなくなるだけでなく、所有者・経営者・従業員のベクトルがバラバラになることで、経営状況が悪化することも十分にあり得ます。そのため、親族等に配慮しながら所有権の移行も検討するのがおすすめです。
跡取りの候補を決めたら行う5つのこと
跡取りの候補を決めたら、次の順で事業承継を実施していきます。
- 会社を継ぐ意思の確認
- 跡取りとしての育成
- 事業承継方法の決定
- 事業承継計画の作成
- 事業承継の実施
一般的に跡取りの育成期間は5~10年は必要と言われています。現経営者が高齢の場合は、育成期間中に万が一のことが起きないとも限らないので、できるだけ早めに跡取りを探し、育成に着手するようにしましょう。
1.会社を継ぐ意思の確認
適任者が見つかったとしても本人にやる気がなければ意味がありません。そのため、候補者には事前に会社を継ぐ意思があるかどうかを確認しましょう。その際、経営状況を含め、跡取りとしての育成期間などにも触れておきます。
特にこれまで会社に関わりがなかった息子や娘を候補者にする場合は、「経営状態の良い会社をすぐにもらえる」と勘違いしているケースもあるため、事前の説明は必須です。そのうえで会社を継ぐ意思があるかどうかを確認すると、認識のズレによるトラブルを防止できます。
2.跡取りとしての育成
経営者には会社経営やマネジメント、経済学などさまざまな知識が必要です。また、現場を知らないことには効果的な経営はできません。そのため、社内で複数の部門を経験させたり、社外の取引先企業に出向させて経験を積ませたりする必要があります。
経営者としての資質を磨くためにはこうした下積み期間は欠かせません。さまざまなことを経験し学ぶことで、多角的に物事を判断できるようになります。多くの経験を積ませるためにも育成期間は最低でも3年、もしくはそれ以上の期間を確保しておくことをおすすめします。
3.事業承継方法の決定
親族(息子・娘)に承継する場合と、従業員に承継する場合で選択できる方法が異なります。
■息子・娘に承継する方法
相続 | 経営者の死後に相続が発生した場合、跡取りが承継する方法。跡取りに事業関係の資産を相続させる遺言書の作成が必要 |
生前贈与 | 経営者が生きているうちに事業資産を跡取りに相続させる方法。跡取りに承継しやすい一方で、税金が高くなるデメリットがあるため、税金対策が必須 |
売買 | 株式の売買によって承継する方法。親族間ではあまり見られない。跡取りに株式を買い取る資金力が求められる |
■従業員に承継する方法
経営権のみ譲渡する | 所有と経営を分離させて承継する方法。世代交代後も前経営者の意向が強く反映される一方、後継者は承継時に金銭的負担をせずに済む |
株式を有償で譲渡する | 経営権と一緒に所有権も有償で譲渡し、承継する方法。後継者は株式を買い取るための資金を用意する必要がある反面、自由に経営できる権利も手に入れられる |
株式を無償で譲渡する | 経営権と一緒に所有権を無償で譲渡し、承継する方法。後継者は金銭的負担もなく、さらに経営権を手に入れられるが、親族等から反発の声が上がりやすい。また、贈与税が発生することがある |
いずれにしてもメリット・デメリットが発生します。後継者、後継者以外の親族・従業員が揉めることなく事業を承継できる最善の方法を模索しましょう。
4.事業承継計画の作成
事業の承継方法が決まったら、いつ・どのようなことをするのか計画を立案していきます。事業承継計画は経営者のみで作成するのではなく、跡取りとなる人や役員などにも意見を聞くことがおすすめです。
また、専門家を交えて作成すると引き継ぎ漏れの防止や現状課題、会社が保有する財産などをスムーズに把握できるでしょう。
事業承継計画を文章にすることで、現経営者や後継者をはじめ、親族や役員などの利害関係者間で認識のズレが起こることを防げます。
5.事業承継の実施
事業承継計画が完成したら、計画通りに事業の承継を進めます。うまくいかない場合は、その都度修正を行いましょう。
跡取りに引き継ぎが終わってもしばらくはサポートが必要です。一人で判断できるよう、独り立ちを促し、サポートが不要になるよう最終仕上げを行います。無事に独り立ちができたら、事業承継は成功といえるでしょう。
跡取りがいない場合はM&Aがおすすめ
帝国バンクデータの全国企業「後継者不在率」動向調査(2022)によると、2022年における中小企業の後継者不在率は57.2%。2018年より跡取り不在問題は徐々に改善しつつあるとはいえ、未だに深刻な状況であることに変わりありません。
多くの会社が直面している跡取り問題の解決策としておすすめなのがM&Aです。M&Aとは企業の合併・買収のことをいいます。
M&Aでは外部の第三者に経営権を有償譲渡するため、高額な売却益の獲得が可能です。後継者は外部で経営経験を積んでいる人が多く、経営に関する育成期間が発生しないため、短期間での事業承継が叶います。また、外部から新しい風を入れることで、反発も生まれやすくなりますが、大々的な革新が生まれる可能性もあります。それにより事業の拡大が期待できる点は、M&Aを行う大きなメリットといえるでしょう。
これらの特徴を踏まえたうえで、M&Aは次のような会社におすすめです。
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- 短期間で事業承継をしたい会社
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まとめ
息子や娘、従業員など、跡取りを育成するには5~10年程度の時間がかかります。そのため、早めに候補を見つけて、育成に取りかかる必要があります。「日々の業務が忙しくてなかなか着手できない」という場合や、「探しているけど適任者がいない」という場合はM&Aも検討してみましょう。
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