会社分割の新設分割とは?吸収分割との違いやメリット、手続き方法を解説

2024年2月27日

会社分割の新設分割とは?吸収分割との違いやメリット、手続き方法を解説

このページのまとめ

  • 新設分割とは新しく会社を設立し、分割した事業を新設会社に譲渡する手法
  • 新設分割は、分社型新設分割・分割型新設分割・共同新設分割の3つに分類できる
  • 新設分割はグループ内の事業再編やM&A、第二会社方式で事業再生を図る際に活用される
  • 新設分割のメリットは「事業が引き継ぎやすい」「M&Aや組織再編が柔軟にできる」など
  • 新設分割のデメリッは「税務上の取り扱いが複雑」「実施に必要な手続きが煩雑」など

「事業再編をしたい」「一部の事業を承継したい」と考えている経営者の方もいるでしょう。そういった場合には新設分割が適切な選択肢になることがあります。

本コラムでは、新設分割について詳しく解説します。本コラムを読めば、新設分割の方法やメリット・デメリット、手続きの流れがわかります。発生する税金や具体的な事例も複数紹介するので、ぜひ参考にしてください。

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新設分割とは  

新設分割とは、会社分割の手法のひとつです。
会社を新しく設立し、設立した会社に事業譲渡を行うM&Aの手法です。

会社法では、「1つまたは2つ以上の株式会社または合同会社がその事業に関して有する権利義務の全部または一部を分割により設立する会社に承継させることをいう」と定義されています。

新設分割の特徴は、事業を譲渡した側の企業が、その後も存続できることです。そのため、後継者不足の解消や、企業再編などでも使用されます。

また、新設分割には、

  • 分社型新設分割
  • 分割型新設分割
  • 共同新設分割

の3種類があります。

分社型新設分割

分社型新設分割とは、事業を譲り渡した対価を譲渡企業が受け取る方法です。譲渡企業は対価に新設会社の株式を受け取ることで、新設会社の親会社になります。
持分会社化する際に、使用されます。

分割型新設分割

分割型新設分割は、事業を譲り渡した対価を譲渡企業の株主が受け取る手法です。グループ再編を行う場合、よく使用されます。

譲渡企業の株主は、新設会社の株式を取得するため、譲渡企業と新設会社両方の株式を保有できます。

共同新設分割

共同新設分割とは、2社以上が事業を分割し、新設会社に譲り渡す方法です。
同じ事業を行っている企業同士が、事業を統合する場合に使用されます。

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新設分割と吸収分割の違い 

新設分割と似た手法に吸収分割もあります。どちらも、会社分割に該当する手法です。

吸収分割では、分割した事業を既存の企業に譲渡します。そのため、新しく会社を設立し、事業を譲渡する新設分割とは異なります。

また、新設分割の場合、譲渡の対価は株式に限定されるため注意しましょう。一方で、吸収分割は金銭などの財産も対価に選択できます。

会社分割(新設分割・吸収分割)と事業譲渡の違い 

新設分割を含めた会社分割と似た手法に、事業譲渡があります。事業譲渡とは、企業の一部、または全部の事業を他社に譲渡する手法です。

会社分割と事業譲渡の違いは、事業を包括的に承継するかどうかです。会社分割の場合、事業や契約、取引なども包括的に承継されます。また、会社法上で組織再編に該当するのもポイントです。
一方で、事業譲渡の場合、個別で事業の売買を行います。契約や取引などは自動的に承継されず、個別の再契約が必要です。

また、事業譲渡の場合、競業避止義務も発生します。会社法第21条で、「事業を譲渡した会社は、当事者の別段の意思表示がない限り、同一の市町村の区域内およびこれに隣接する市町村の区域内においては、その事業を譲渡した日から20年間は、同一の事業を行ってはならない」と定められているからです。

一方で、会社分割の場合は、競業避止義務が発生するとは限りません。

関連記事:会社分割とは?事業譲渡との違いや実施方法、ポイントを解説

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新設分割を活用する3つのケース

新設分割を活用するケースは、主に次の3つです。

  • グループ内の事業を再編する場合
  • M&Aの手法として活用する場合
  • 第二会社方式で事業再生を図る場合

それぞれ、詳しくみていきましょう。

グループ内の事業を再編する場合

新設分割は、グループ内の事業を統合・整理して再編することを目的に、吸収分割とともに活用されます。
また、新設分割は、一部の事業を切り出して子会社を作ったり、複数のグループ企業から関連性のある事業を取り出して1社にまとめたりする際に便利です。

新設分割は、事業譲渡で扱う事業よりも規模が大きい事業の承継に向いており、大企業の再編によく活用されています。

M&Aの手法として活用する場合

新設分割は、M&Aの手法として活用されることもあります。

売り手企業は、主に不採算事業を切り離しや会社のスリム化などを目的に、特定事業のみ売却します。
買い手企業は、リスクのある事業を除いて自社に有用な事業のみを取得するというケースです。

M&Aの手法では、主に株式譲渡と併用する方式で行われます。譲渡対象の事業を新設会社に移転したあと、新設会社の株式を買い手企業に譲渡する方法です。

第二会社方式で事業再生を図る場合

新設分割は、「第二会社方式」で事業再生を図る際にも用いられます。
第二会社方式とは、債務超過となって経営難に陥っている会社から優良事業だけを分離して企業再生を図る方法です。
新設分割を用いる場合、別会社(第二会社)へ分離することで優良事業の存続を図ります。不採算事業・過剰債務などが残された旧会社は特別清算します。

第二会社方式を利用するメリットは、想定外の債務リスクを遮断できることや、スポンサー・金融機関の協力を得やすいことです。また、回収不能債権を損金に算入でき、課税所得を小さくできるというメリットもあります。

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新設分割の5つのメリット 

新設分割には、次の5つのメリットがあります。

  1. 契約や資産が引き継ぎやすい
  2. 資本準備金と資本剰余金が引き継げる
  3. 要件を満たす場合、含み益が課税対象外になる
  4. M&Aや組織再編が柔軟にできる
  5. 会社立ち上げの資金が少なくて済む

それぞれのメリットを解説します。

1.契約や資産が引き継ぎやすい

新設分割には、契約や資産が引き継ぎやすいメリットがあります。
包括承継が実施できるため、個別の契約が必要ありません。

事業譲渡などを使用する場合、資産の移転手続きや、雇用や取引関係の再契約が必要になります。新設分割はまとめて契約や資産を引き継げるため、スムーズに手続きが実施できるでしょう。

2.資本準備金と資本剰余金が引き継げる

資本準備金と資本剰余金が引き継げる点もメリットです。
資本準備金とは、将来に予想される損失や支出に備えて、準備しておく資金のことです。会社法第445条にて、積み立てを行うことが義務付けられています。
また、資本剰余金とは、株式発行などで集めた資金のうち、資本金と資本準備金にあてはまらない資金のことです。

譲受企業は資本準備金や資本剰余金を、承継した事業の株主資本相当額の範囲で振り分けることができます。

3.要件を満たす場合、含み益が課税対象外になる

適格分割を行うことで、含み益が課税対象外になります。

含み益とは、会社が所有する資産において、価格変動を理由に発生する帳簿上には含まれない利益のことです。

適格分割を行うための要件には、

  • 分割した事業の主要な資産や負債が承継されている
  • 分割した事業に従事する従業員の8割以上が承継先の業務で従事する予定がある
  • 分割した事業が承継先で引き続き行われる

などがあります。

企業の支配関係によって要件は変わるため、M&A仲介会社などの専門家に確認しておきましょう。

4.M&Aや組織再編が柔軟にできる

M&Aや組織再編や柔軟に行いやすいこともメリットです。

特定の事業だけを移動させたり、複数の事業をまとめたりが簡単に行えます。
経営戦略や売り手の希望、対象事業などを考慮し、状況に適したM&Aを進められるでしょう。

5.会社立ち上げの資金が少なくて済む

株式を対価に事業を引き継げることで、会社立ち上げの資金が少なくて済むこともメリットです。まとまった資金を用意しなくても、M&Aが実施できます。

事業譲渡などを使用する場合は、現物出資になるため、裁判所の選任を受けた検査役に調査してもらわなければなりません。

また、新設会社を設立した場合、非公開会社である場合がほとんどです。非公開会社の株式には譲渡制限が課せられていることから、売り手は株式の現金化が困難になります。株式を対価に受け取っても、メリットを感じにくいでしょう。

新設分割であれば組織再編合意に該当するため、新設会社や承継会社の株式のみ対価にすれば法人税課税の特例を受けることができます。準備する資金が少なく済むだけではなく、資金面での恩恵も発生します。

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新設分割の4つのデメリット 

新設分割を行う場合、次の4つのデメリットに注意しましょう。

  1. 譲受企業が非上場の場合、株式の現金化が難しい
  2. 税務上の取り扱いが複雑である
  3. 偶発債務を引き継いでしまう可能性がある
  4. 実施に必要な手続きが煩雑

それぞれのデメリットを解説します。

1.譲受企業が非上場の場合、株式の現金化が難しい

譲受企業が非上場の場合、対価として受け取った株式の現金化が難しいことに注意しましょう。譲渡制限がついている場合が多いからです。
また、非上場株式の場合、証券取引所に上場しておらず、簡単に取引ができません。
買い手を自分で探さなければならないため、現金に変えることが大変です。

2.税務上の取り扱いが複雑である

税務上の取り扱いが複雑な点は、デメリットになるでしょう。
移転する資産などに関して要件があり、税務上適格か、非適格かを判断されるためです。
グループ内の分割割合などによっても適格かが変わるため、要件を確認しておく必要があります。

3.偶発債務を引き継いでしまう可能性がある

包括承継で実施するため、偶発債務を引き継いでしまう可能性があります。
偶発債務が発生しないか、デューデリジェンスを行い確かめておきましょう。

4.実施に必要な手続きが煩雑

分割を行うためには、労働契約承継法や会社法に基づく手続きが必要です。
事業譲渡を利用するよりも、手続きが煩雑になる点は注意しましょう。
手続きに必要な時間とコストを考えると、新設分割以外の手法を使う方が、スムーズに行える場合もあります。

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会社法に基づいた新設分割の手続きの流れ 

新設分割を行う場合、会社法に基づいて手続きを進める必要があります。
その際、次のような流れで実施しましょう。

  1. 新設分割計画を作成する
  2. 必要書類の事前開示と備置を行う
  3. 株主総会で特別決議を承認する
  4. 反対株主への対応を進める
  5. 債権者保護の手続きを実施する
  6. 新設分割の登記を行う
  7. 債権者からの債務履行請求への対応を進める
  8. 必要書類の事後開示と備置を行う
  9. 新設分割無効の訴訟に対応する

それぞれの流れに関して、詳しく解説します。

1.新設分割計画を作成する

新設分割実施に向けて、計画書の作成が必要です。
会社法763条に基づき、次のような項目を記載した、新設分割計画を作成しましょう。

  1. 新設会社の目的・商号・本店の所在地および発行可能株式総数
  2. 新設会社の定款で定める事項
  3. 新設会社の取締役の氏名
  4. 新設会社の会計参与・監査役・会計監査人の氏名
  5. 新設会社が分割をする会社から承継する資産・債務・雇用契約など権利義務に関する事項
  6. 新設分割の対価に交付する新設会社の株式数・資本金・準備金額
  7. 新設分割会社に対する株式の割当てに関する事項(共同新設分割を行う場合)
  8. 対価として交付する新設会社の社債・新株予約権・新株予約権付社債の種類・内容・金額・数
  9. 新設分割会社に対する社債の割当てに関する事項(共同新設分割を行う場合)
  10. 新設会社新株予約権と引き換える分割会社新株予約権の内容(新株予約権を交付する場合)
  11. 引き換えを行う場合の新設会社新株予約権の内容・数(新株予約権を交付する場合)
  12. 新株予約権引き換えに係る社債の債務が新設会社に承継されることと、社債の種類と金額または算定方法(新株予約権を交付する場合)
  13. 新株予約権の割当てに関する事項
  14. 分割会社の株主に交付される予定の新設会社株式に関する事項

また、任意の項目には、競業避止義務や効力発生日の記載があります。

2.必要書類の事前開示と備置を行う

必要書類の事前開示と備置を実施しましょう。
書類の備置場所は会社本店、備置期間は6ヶ月です。
また、債権者と株主は、事前開示書類の閲覧、または書面での交付が請求できるようになります。

3.株主総会で特別決議を承認する

新設分割実施には、株主総会での特別決議が必要です。
特別決議を行うためには、次の2つの条件を満たさなければなりません。

  1. 議決権株式総数のうち、過半数の株主が出席している
  2. 出席した株主のうち、3分の2以上の賛成がある

ただし、簡易組織再編、または略式組織再編の条件を満たしている場合、特別決議の実施が不要になります。

4.反対株主への対応を進める

新設分割の実施に反対する株主がいる場合、株式の買取を実施しましょう。
特別決議が成立してから2週間以内に、株主に対して個別の通知、または公告を行う必要があります。
反対する株主側は、通知や告知から20日以内に、株式の買い取り請求を行います。

5.債権者保護の手続きを実施する

分割を行うことで債権者が損失を被る場合があるため、債権者保護の手続きを実施しましょう。債権者に対し、個別の催告と官報での公告を行いましょう。
その際、次のような内容の記載が求められます。

  • 新設分割を行うこと
  • 新設会社の住所・商号
  • 分割会社の計算書類(貸借対照表・損益計算書・株主資本等変動計算書など)
  • 新設分割に対し、期間内であれば異議申し立てができること

異議申し立て期間は、最低1ヶ月以上を設けましょう。
もし、債権者の権利に変化がない場合には、債権者保護手続きは不要になります。

6.新設分割の登記を行う

新設分割を行う場合、登記が必要です。分割会社は変更登記を行い、新設会社は設立登記を行いましょう。
注意点は、同時に登記を行う必要があることです。

また、登記申請は、「同時申請」と「経由申請」の2種類があります。

同時申請は、新設会社と分割会社が同じ登記所の管轄区域にある場合の申請方法です。新設分割と変更登記の手続き両方を行いましょう。

経由申請は、新設会社と分割会社が別の登記所の管轄区域にある場合の申請方法です。この場合、新設会社の管轄区域にある登記所にて、新設分割と変更登記の手続きの両方を行いましょう。

また、新設分割の登記を行う場合には、次のような書類が必要です。

  • 新設分割契約の承認を示す書類ー
  • 会社分割に異議を述べた債権者がいない旨の上申書
  • 債権者保護手続きに関する書類
  • 新設分割計画書
  • 新設会社の定款・役員就任承諾書・資本金計上証明書  
  • 新設会社に就任した役員の印鑑証明書   
  • 株主リスト
  • 官報公告のコピー
  • 登記事項証明書(分割会社のもの)
  • 印鑑証明書(分割会社のもの)
  • 代表取締役選定書
  • 委任状

上記以外にも、準備が必要になる場合があります。法務局や専門家に相談し、確認しておきましょう。

7.債権者からの債務履行請求への対応を進める

「債権者保護の手続きで個別催告を実施しなかった」、または「債権者に損害を与えることを知りながら債務の承継を行わなかった」場合、債務履行請求を受ける可能性があります。
分割会社も新設会社も、債務履行請求に応じる必要があるため注意が必要です。

分割会社の場合は、新設分割が成立した日に、分割会社が所有していた財産が請求可能の限度額になります。新設会社の場合には、新設会社に引き継がれた財産額が限度額です。

債権者に損害を与えることを知りながら債務の承継を行わなかった場合

債権者に損害を与えることを知りながら債務の承継を行わなかった場合とは、企業再生で優良事業のみが新設会社に承継された場合です。不良事業が移転せずに残った企業の債権者は、不良事業が残ったままの会社の債権を持つことになり、貸し倒れするリスクがあります。

この場合、債権者は不良事業が残った企業に債務履行を請求できることから、債権者保護手続きの対象になりません。この状況の悪用を防ぐために、債権者は新設会社に対し、承継財産の金額を上限にした債務履行請求が実行できます。

8.必要書類の事後開示と備置を行う

新設分割の効力発生後には、事後開示書類の備置を行いましょう。
事後開示書類には、次のような内容を記載します。

  • 新設分割の効力が発生した日
  • 新設会社に承継された権利義務
  • 新設分割に関する重要事項
  • 債権者保護・反対株主の株式買取請求・差止請求・新株予約権買取請求など、各手続きの経過

また、事前開示書類と同様、会社本店に、6ヶ月以上の備置が必要です。

9.新設分割無効の訴訟に対応する

分割会社の役員や株主、新設分割を不服とする債権者は、新設分割無効の訴訟が実施できます。期間は、新設分割成立から6ヶ月以内です。

もし、訴えが認められた場合、新設会社は解散になり、分割会社は登記変更が行われ、新設分割前の状態に戻ってしまいます。

訴訟を受けないためには、専門家と相談しながら、関係者に対して慎重に対応を進めることが必要です。

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労働契約承継法関連に基づいた新設分割の手続きの流れ 

新設分割では、労働契約承継法に基づいた手続きが求められます。
次のような手順で手続きを進めましょう。

  1. 労働組合・労働者代表との協議を行う
  2. 労働協約の債務的部分に関する労使合意をする
  3. 労働者と協議を進める
  4. 労働者・労働組合へ通知する
  5. 労働者から異議申し立てがあった場合対応を行う

それぞれの手続きに関して、解説します。

1.労働組合・労働者代表との協議を行う

新設分割を行う場合、従業員から理解や協力を得るように努めなければなりません。労働組合、労働組合がない場合には労働者の過半数を代表する人物と協議を行いましょう。
協議する内容には、次のような内容があります。

  • 新設分割実施の理由や背景
  • 新設分割後の債務履行に関して(未払い賃金など)
  • 新設会社に移籍する従業員の基準
  • 労働協約の承継
  • 新設分割を原因に労働組合や従業員と争いが生じた場合の解決方法

労働組合などとの協議時期は、新設分割契約書の作成前が望ましいとされています。

2.労働協約の債務的部分に関する労使合意をする

労働協約のうち、債務的部分に関する労使合意を行いましょう。
労働協約は、債務的部分と規範的部分に分類可能です。

そのうち、規範的部分は、新設会社とも同様の内容が締結されたものとして扱われます。
この際、分割を行った企業も、労働協約の当事者であることが継続されます。

債務的部分に関しては、労働組合と合意を行うことで新設会社に承継が可能です。承継を行った場合、分割会社と結んでいた労働協約は効力を失うため注意が必要です。

また、労使合意がされなかった債務的部分は新設会社と自動的に締結され、分割会社にも残る状態になります。

3.労働者と協議を進める

分割事業を担当する従業員と、新設会社に移籍予定の従業員に対しては事前協議が必要です。この際、該当の従業員は全員が対象になります。
労働者との協議では、次のような内容を話し合います。

  • 新設分割実施の理由や背景
  • 新設分割後の債務履行に関して(未払い賃金など)
  • 新設会社に移籍する従業員の基準
  • 労働契約を新設会社に引き継ぐかどうか
  • 労働契約の引き継ぎによる勤務内容の変化

労働者の意見を聞きながら、話し合いを進めましょう。

4.労働者・労働組合へ通知する

分割事業を担当する従業員と、新設会社に移籍予定の従業員に対して通知を行う必要もあります。該当の従業員に対しては、次のような内容を通知しましょう。

  • 移籍時の待遇や条件、業務内容
  • 労働契約が新設会社に承継されるか
  • 債務の履行見込み
  • 異議申し立ての期間・方法

また、労働組合に対しては、次のような内容の通知が必要です。

  • 労働協約の継承に関して
  • 労働承継が一部だけ承継される場合、その範囲および内容
  • 新設会社に移籍する従業員の名簿

労働契約承継法では、労働者などへの通知は、株主総会開催日よりも2週間前に行うと定められています。

加えて、「事前開示書類の備置を行った日」と「株主総会の招集通知の発送日」のどちらか早い方で行うことが望ましいとも示されています。

5.労働者から異議申し立てがあった場合対応を行う

労働者から異議申し立てがあった場合、対応が必要です。
従業員は、

  • 分割される事業に従事しているにもかかわらず移籍対象外(分割会社に残留)
  • 分割される事業に従事していないにもかかわらず移籍対象(新設会社に移籍)

になっている場合、措置の拒否が可能です。

異議申し立てが合った場合、移籍、または残留の措置が撤回されます。

異議申し立ての期間は、労働者や労働組合へ通知した翌日以降から最低13日間です。
この際、株主総会開催日よりも早い日を指定する必要があります。

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情報開示・独禁法に関連する新設分割の手続き 

証券取引所に上場した企業は、新設分割を実施する場合、情報開示義務があります。
新設分割の実施を取締役会で決定し、情報開示を行いましょう。
また、独占禁止法第15条にて、共同新設分割を行う場合の届出が決められています。
次のいずれかに該当する場合、公正取引委員会に届出を行い、審査を受けましょう。
ただし、共同新設分割に関係する企業すべてが、同一企業のグループ会社の場合は届出が不要となります。

  • 共同新設分割をしようとする会社のうち、いずれか1社に係る国内売上高の合計額が200億円を超え、かつ他のいずれか1社に係る国内売上高合計額が50億円を超える場合
  • 共同新設分割をしようとする会社のうち,いずれか1社に係る国内売上高合計額が200億円を超え、かつ、他のいずれか1社の当該承継の対象部分に係る国内売上高が30億円を超える場合
  • 共同新設分割をしようとする会社のうち、いずれか1社に係る国内売上高合計額が50億円を超え、かつ、他のいずれか1社の当該承継部分に係る国内売上高が100億円を超える場合
  • 共同新設分割をしようとする会社のうち、いずれか1社の当該承継の対象部分に係る国内売上高が100億円を超え、かつ、他のいずれか1社の当該承継の対象部分に係る国内売上高が30億円を超える場合

さらに、金融商品取引法でも、情報開示を行うことが定められています。

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新設分割にかかる期間 

新設分割実施にかかる時間は、2ヶ月から3ヶ月程度です。
会社法や労働契約承継法など、定められた手続きに従い進める必要があるからです。

ただし、「株主総会で特別決議を即時議決できる」「債権者保護手続き実施時に債権者からの異議が発生しない」などの状況であれば、手続きを素早くできる場合もあります。

また、十分な知識や経験を持つ専門家のサポートがあることで、スムーズに進めることも可能です。手続きのミスやトラブルを防ぐことにもつながるため、専門家のアドバイスを受けながら、手続きを進めると良いでしょう。

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新設分割で発生する税務 

新設分割を行う場合、次のような税務が発生します。

  1. 資産や負債の譲渡損益に課される税金
  2. 株主のみなし配当に課される税金
  3. 不動産取得税
  4. 組織再編税制の特例

それぞれの税務に関して、解説します。

1.資産や負債の譲渡損益に課される税金

新設分割で資産や負債の譲渡が発生した場合、資産を譲受する新設会社は時価で計上します。承継する分割会社は、簿価で計上を行いましょう。
この際、簿価と時価で差額が発生し、この差額が譲渡益または譲渡損で扱われます。
発生した譲渡益または譲渡損は、新設会社の課税所得になり、法人税が課されます。

2.株主のみなし配当に課される税金

株主へのみなし配当にも、税金が発生します。
新設分割で分割会社側が対価を受け取る場合、資本金扱いを受ける部分と、利益積立金扱いを受ける部分に分かれます。利益積立金扱いの部分は、配当所得となり、課税対象に該当するため注意しましょう。

3.不動産取得税

不動産を取得した場合、不動産取得税が課せられます。ただし、非課税になる場合もあるため、要件を確認しておきましょう。

分社型新設分割を行う場合は、次の要件を満たすと非課税になります。

  • 分割の対価に、株式以外の資産が交付されていない
  • 分割された事業の主要な資産や負債が新設会社に移転されている
  • 分割された事業が新設会社で引き続き運営される
  • 分割された事業に従事する従業員のうち、8割以上が新設会社に移籍して勤務する

分割型新設分割を行う場合は、次の要件を満たすと非課税になります。

  • 分割の対価に、株式以外の資産が交付されていない
  • 対価とする株式の交付比率が、分割会社の株主が所持する分割会社株式所有比率と同じ
  • 分割された事業の主要な資産や負債が新設会社に移転されている
  • 分割された事業が新設会社で引き続き運営される
  • 分割された事業に従事する従業員のうち、8割以上が新設会社に移籍して勤務する

使用する分割手法によって要件が変わるため、専門家にも確認しながら進めるようにしましょう。

4.組織再編税制の特例

適格要件を満たすことで、組織再編税制の特例を受けられる場合もあります。
特例を受けることで、新設会社に承継する資産や負債を簿価で計上できるようになり、法人税の課税対象外になります。
適格要件が発生するケースは、次の3つです。

  • 完全支配関係にある場合
  • 支配関係にある場合
  • グループ外企業との共同事業を行う場合

完全支配関係にある場合

完全支配関係とは、分割会社が新設会社の100%親会社にあたる状態です。
完全支配関係にある場合、新設会社から分割会社への対価が、株式以外の資産で支払われていなければ要件を満たします。

支配関係にある場合

支配関係とは、新設会社の親会社にあたる分割会社の支配率が50%超から100%未満の場合です。
支配関係にある場合は、

  • 新設会社から分割会社への対価が、株式以外の資産で支払われていない
  • 分割された事業が新設会社で継続して運営される
  • 分割された事業に従事する従業員のうち8割以上を引き継ぐ
  • 分割された事業の資産と負債を引き継ぐ

の要件を満たす必要があります。

グループ外企業との共同事業を行う場合

グループ外企業との共同事業の場合、

  • 新設会社から分割会社への対価が、株式以外の資産で支払われていない
  • 分割された事業が新設会社で継続して運営される
  • 分割された事業に従事する従業員のうち8割以上を引き継ぐ
  • 分割された事業の資産と負債を引き継ぐ
  • 分割する事業が分割会社の事業に関連している
  • 事業規模が同等〜5倍の範囲に該当する
  • 双方の役員が経営陣に加わる
  • 対価に交付された株式が継続して保有される

の要件を満たすようにしましょう。

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新設分割の具体的な6つの事例

新設分割を利用し、成功を収めている企業の事例は数多くあります。ここでは、6つの事例を紹介します。

古河電工とNTTエレクトロニクス

光通信・送電・電子製品などの精密部品を手がける大手非鉄金属メーカー古河電気工業株式会社は、 光通信システム用機器・部品を手掛ける電子機器メーカーのNTTエレクトロニクス株式会社と統合し、合弁会社を立ち上げました。

光通信の分野は今後ますます成長・拡大が予想され、通信基盤を支える光部品の需要も増大すると予測されます。そのため、両社は部品生産を効率化して強力な供給体制を構築することを目的に、2017年4月に古河ファイテルオプティカルデバイス株式会社を立ち上げました。

親会社の研究開発部門や事業部門と密接に協力し合い、新製品を取り込みながら、製造ノウハウを蓄積することを目標にしています。

参照元:
古河ファイテルオプティカルデバイス株式会社「企業情報」
NTTイノベーティブデバイス株式会社「平面光波回路および光半導体の製造会社2社を設立」

帝人による新設会社の設立

大手化学メーカーの帝人株式会社は、2023年、新設分割によって新設会社を設立することを決定しました。承継させる対象は再生医療CDMO事業に関する権利義務で、新たに設立する帝人リジェネット株式会社に承継させます。

CDMOは「Contract Development and Manufacturing Organization」の略で、再生医療等製品・医薬品の製造工程の開発から治験薬・商業生産までを受託する事業を指します。 

今回の新設分割は、再生医療CDMO事業の今後の展開・拡大に向け、機動的かつ柔軟な事業戦略の遂行を推進することを目的に行われました。

帝人が分割会社となり、新設分割により設立される帝人リジェネットを承継会社とする簡易分割で、新設会社は帝人の100%子会社となる予定です。

参照元:帝人株式会社「会社分割(簡易新設分割)による子会社設立に関するお知らせ」

凸版印刷株式会社による半導体原版メーカーの設立

凸版印刷株式会社(現・TOPPANホールディングス株式会社)は、2022年4月に新設分割により、半導体用フォトマスク事業を行う新会社「株式会社トッパンフォトマスク」を設立しました。
投資ファンドのインテグラル株式会社を出資パートナーとして、株式譲渡契約を締結しています。
トッパンフォトマスクは、凸版印刷とインテグラルの合弁会社という形式で設立されました。

凸版印刷株式会社は1961年にフォトマスク事業を開始し、半導体用フォトマスクの外販市場におけるトップシェアを占めています。

一方で、半導体市場の急速な成長でフォトマスクの市場は転換点を迎え、事業の拡大・成長のためには、これまで以上に迅速で柔軟な研究開発・設備投資を行うことが必要になりました。

このような事情のもと、事業の継続的な拡大・成長のため、今回の新設分割を行っています。

参照元:TOPPANホールディングス株式会社「凸版印刷、半導体原版メーカーを会社分割により設立」

信越ポリマーによる昭和電工マテリアルズの子会社化

フィルムや半導体の材料などを手がける化学メーカーの昭和電工マテリアルズ株式会社は、2021年、新設分割により食品包装用ラッピングフィルム事業を承継する新会社を設立しました。
その株式を化学メーカーの信越ポリマー株式会社が取得し、完全子会社化しています。

昭和電工マテリアルズの食品包装用ラッピングフィルム事業は、外食産業向けを中心に塩ビ小巻ラップの国内市場でトップシェアを持ち、市場での地位を確立しています。

信越ポリマーは対象事業を承継した新設会社の株式を取得することにより、塩ビ小巻ラップにおける国内市場での高いシェアを獲得し、競争力の向上を図ることを目的に子会社化を実施しました。 

参照元:信越ポリマー株式会社「食品包装用ラッピングフィルム事業の譲受に関するお知らせ」

白洋舎と共同リネンサプライのグループ内再編

大手クリーニング会社の株式会社白洋舎は2023年、連結子会社である共同リネンサプライ株式会社の事業の一部を承継しています。

承継したのは、大阪を拠点とするホテル・レストラン向けリネンサプライ事業および不動産賃貸・管理事業に関する権利義務です。これらの事業を新設分割により設立する新設会社へと承継しました。

白洋舍が共同リネンサプライの株式を追加取得して完全子会社化したあと、吸収合併を実施しています。

今回の組織再編は、関西圏における競争力強化を図るとともに、白洋舍と商圏が重複する東京事業を白洋舍に集め、経営資源の集中と業務効率化を図ることを目的としています。

参考:共同リネンサプライ株式会社「会社沿革」

旭化成と三井化学の共同新設分割

総合化学メーカーの旭化成株式会社と三井化学株式会社は、2023年、両社の不織布事業に関して有する権利義務を、共同新設分割を行って新設会社に承継させました。共同して新たに設立したのは、エム・エーライフマテリアルズ株式会社という会社です。

近年、アジアでの競合メーカーによる増強が続いていることで、不織布市場の競争激化が想定されていました。そのため、両社は競争力を保持するため、事業を統合することが最善の策であるという結論に至ったということです。

新設分割により、両社の技術やノウハウを融合させてシナジー効果の最大化を図るとともに、グローバルに展開する不織布メーカーとして、事業のさらなる成長を図ることを目的としています。

参照元:三井化学株式会社「三井化学、不織布事業に関する共同新設分割を旭化成と実施へ」

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まとめ

新設分割とは、会社分割の方法のひとつです。新しく会社を設立して事業を譲渡する方法で、分割した事業を既存の企業に譲渡する吸収分割とは異なります。

新設分割は、「契約や資産が引き継ぎやすい」「資本準備金と資本剰余金を引き継げる」などのメリットがあります。

ただし、税務上の取り扱いが難しく、必要な手続きも多い点に注意が必要です。事業譲渡などほかの手法と比べながら、最適な手法を選びましょう。

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