事業譲渡でかかる消費税の算出方法は?課税対象になる資産も解説

2024年2月27日

事業譲渡でかかる消費税の算出方法は?課税対象になる資産も解説

このページのまとめ

  • 事業譲渡で消費税が発生したときは、譲受側が負担して譲渡側が納付する
  • 事業譲渡では消費税の課税対象となる資産と非課税資産がある
  • 事業譲渡では消費税以外にも、法人税や所得税、不動産取得税などが発生することがある
  • 組織再編行為にあたる会社分割のスキームを選ぶ場合、消費税は発生しない
  • 事業譲渡における「のれん」を損金算入することで節税効果につながる

「事業譲渡では消費税が発生するのだろうか」と気になっている方も多いのではないでしょうか。
事業譲渡では、不動産や機械設備などの高額な資産のやり取りが起こるため、消費税が課税される場合は消費税額が高額になると考えられます。

本コラムでは、事業譲渡で消費税の課税対象となる資産、また、消費税以外の税金についてまとめました。消費税の負担なしにM&Aを実施する方法も紹介するので、ぜひ参考にしてください。

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事業譲渡と消費税 

事業譲渡では、売却した資産に対して、消費税が発生します。資産には、負債や従業員などの財産も含まれます。
課税対象になる資産がある場合、「課税資産額×消費税」が事業譲渡で発生する税金です。

ただし、資産にも、課税対象にならないものがあります。たとえば、土地や有価証券は、課税対象になりません。

譲渡側・譲受側の双方に消費税が課税される

事業譲渡により資産を譲渡するときは、資産の種類によっては消費税が発生します。

消費税は資産を購入(譲受)する側に課せられる税金です。そのため、負担するのは譲受側です。しかし、購入価額に上乗せして譲渡側に支払うため、実際に納税するのは譲渡側になります。

また、事業譲渡により赤字が生じた場合でも、消費税が発生することもあるため注意が必要です。

事業譲渡における消費税の計算方法

事業譲渡では、次の手順で消費税額を求めます。

  1. 譲渡資産を課税資産と非課税資産に分ける
  2. 課税資産の譲渡額を合計する
  3. 課税資産の譲渡額の合計に消費税率をかける

なお、消費税率は10%(軽減税率は8%。2023年10月時点)です。

譲渡対象の課税資産の合計額が1億円だった場合、消費税額は1億円×10%=1,000万円です。譲受側は譲受資産の価格(課税資産、非課税資産すべて含む)に1,000万円を加えて、譲渡側に渡します。また、後日、譲渡側は1,000万円を消費税額として納付する義務を負います。

会社分割では消費税は課税されない

事業譲渡と比較されるM&A手法に、会社分割があります。
会社分割を行う場合は、課税対象外です。

消費税の課税対象になる要件に、「資産の譲渡等」が挙げられます。資産の譲渡とは、事業として有償で行われる資産の譲渡、資産の貸付けおよび役務の提供です。

会社分割の場合は、資産の譲渡ではなく、組織再編行為にあたると判断されます。資産の譲渡等に該当しないことから、会社分割は課税対象外です。

参照元:国税庁「No.6117 「資産の譲渡等」とは

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事業譲渡の課税資産と非課税資産 

事業譲渡で譲り受けた資産は、課税資産と非課税資産に分類できます。

課税資産非課税資産
土地を除く有形固定資産
無形固定資産
棚卸資産
のれん代(営業権)
土地
有価証券
債権

それぞれ、どのような資産が当てはまるか確認しておきましょう。

課税資産

課税資産には、次のような資産が該当します。

  • 土地を除く有形固定資産
  • 無形固定資産
  • 棚卸資産
  • のれん代(営業権)

それぞれの資産の詳細を解説します。

土地を除く有形固定資産

有形固定資産には、次のような資産が含まれます

  • 建物
  • 機械および装置
  • 車両運搬具
  • 器具備品
  • 船舶

有形固定資産のうち、「土地」は課税対象外のため注意しましょう。

無形固定資産

無形固定資産とは、形に残らない資産のことです。

無形固定資産には、

  • ソフトウェア
  • 漁業権
  • 商標権
  • 特許権

などの資産が含まれます。

棚卸資産

棚卸資産とは、企業が販売を目的とし、一時的に保有している資産の総称です。

  • 商品
  • 製品
  • 原材料
  • 仕掛品

などが含まれます。

一般的に「在庫」と呼ばれる資産も棚卸資産に含まれます。

のれん代(営業権)

のれん代や営業権も課税対象です。
のれん代とは、企業が持つブランド力や技術力のような、無形固有資産を指します。

のれん代の価値は、「営業利益と減価償却費を足し合わせた額の、3年分から5年分」で計算するケースが一般的です。

非課税資産

非課税資産には、次のような資産が該当します。

  • 土地
  • 有価証券
  • 債権

消費税を計算する際には、売却金額から非課税資産を差し引くことになります。

土地

事業譲渡で発生する消費税を計算する場合、土地は非課税で計算されます。
ほかの有形固定資産は課税対象になるため、混同しないようにしましょう。

有価証券

有価証券とは、印紙税法により「財産的価値のある権利を表彰する証券であって、その権利の移転、行使が証券をもってなされることを要するもの」と規程されています。

具体的には、

  • 株式
  • 小切手
  • 手形
  • 商品券
  • プリペイドカード

などが該当します。

消費税を計算する場合、売却金額から有価証券の額を控除しましょう。

参照元:国税庁「有価証券の範囲

債権

債権とは、特定の人や企業に対して、行為または給付を請求できる権利です。
金銭の支払いや労力の提供を求めることができます。

仕訳や会計処理の場面での、売掛金などが債権に該当します。

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事業譲渡で発生するそのほかの税金

事業譲渡で発生する税金は、消費税だけではありません。消費税以外に課せられる可能性がある税金について、譲渡側・譲受側に分けて解説します。

譲渡側に課せられる税金

資産を譲渡したときは、発生した利益に対して税金が課せられます。譲渡側が法人なら法人税、個人なら所得税・住民税を納付しなくてはいけません。

法人税

事業譲渡により所得が発生したときは、法人税の課税対象です。課税対象額は以下の計算式で求めます。

法人税課税対象額=譲渡価格-譲渡資産の簿価

法人税の課税対象額に対して事業税と法人住民税、地方法人税も課せられます。4つの税金すべてを合わせると、実効税率は約31~35%です。

所得税・住民税

個人事業主が事業譲渡した場合は、発生した利益に対して、所得税(2037年までは消費税額の2.1%を復興特別消費税として納税)と住民税が課せられます。

所得税額・住民税額は譲渡した資産によっても異なります。たとえば、不動産を譲渡した場合なら、不動産を所有していた年数が5年を超えるときは所得税率15%・住民税率5%、所有年数が5年以下なら所得税率30%・住民税率9%です。

参照元:
国税庁「No.3211 短期譲渡所得の税額の計算
国税庁「No.3208 長期譲渡所得の税額の計算

譲受側に課せられる税金

譲受側は、譲受する資産の種類によって課せられる税金が異なります。不動産を譲受するときは不動産取得税と登録免許税、会社自体を譲受するときは登録免許税が課せられることがあります。

不動産取得税

土地や建物などの不動産を取得したときは、不動産取得税が課せられます。不動産所得税は不動産の価値に対して発生する税金のため、無償で譲受したときでも課税対象です。

ただし、相続で譲受した場合は、課税対象外になります。

事業譲渡における不動産取得税の税率は土地と家屋は3%、家屋以外の建物は4%で、それぞれの不動産評価額に対して発生します。

参照元:総務省「不動産取得税

登録免許税

登録免許税とは、登記や登録、許認可に対して課税される税金です。譲渡対象の資産に不動産が含まれている場合、不動産の所有権移転登記を法務局で実施する必要がありますが、その際に登録免許税が課されます。

また、許認可が必要な事業が譲渡対象に含まれている場合は、再度許認可を取得することになり、登録免許税の課税対象となります。

土地の所有権移転登記の登録免許税額は、売買による移転は不動産評価額の1.5%です。住宅用家屋以外の建物は不動産評価額の2.0%、法人の登記事項変更については3万円、取締役や代表取締役の変更は3万円(資本金が1億円以下のときは1万円)です。

許認可の再取得に関しては、対象となる許認可の種類によって登録免許税額が異なるため、税理士などの専門家に相談しておきましょう。

参照元:
国税庁「No.7191 登録免許税の税額表
e-Gov「登録免許税法

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事業譲渡の仕訳方法 

事業譲渡を実施した場合の、仕訳方法を確認しておきましょう。

本コラムでは、以下のようなケースを想定して計算します。

勘定科目簿価(千円)時価(千円)
土地100,000150,000
建物20,00015,000
機械装置30,00020,000
棚卸資産10,00010,000
特許権1,00010,000
商標権5002,000
合計161,500207,000

譲渡企業と譲受企業、それぞれの場合を解説します。

譲渡企業の場合

事業譲渡を行う場合、時価で売却価格を定めます。
しかし、譲渡資産は簿価で計上を行うため、差額を差し引かなけばなりません。

時価総額から簿価総額を引き算し、事業譲渡益を計算しましょう。

この際、借方には売却価格を記載し、貸方には売却資産と事業譲渡益を記載します。

借方貸方
勘定科目金額(千円)勘定科目金額(千円)
現金預金207,000土地100,000
  建物20,000
  機械装置30,000
  棚卸資産10,000
  特許権1,000
  商標権500
  事業譲渡益45500

消費税に関しては、貸方に仮受消費税を記載しましょう。
借方には、仮受消費税と同じ金額で現金預金を記載します。

譲受企業の場合

譲受企業の場合、資産は時価で計算しましょう。今回の例では、譲渡側に利益が出ます。
借方には受け取る資産を記載し、貸方に現金預金を記載しましょう。

借方貸方
勘定科目金額(千円)勘定科目金額(千円)
土地150,000現金預金207,000
建物15,000  
機械装置20,000  
棚卸資産10,000  
特許権10,000  
商標権2,000  

消費税に関しては、貸方に仮受消費税を記載します。
借方には、仮受消費税と同じ金額の現金預金を記載しましょう。

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事業譲渡で発生する消費税の注意点

事業譲渡で発生する消費税に関しては、次のような点に注意しましょう。

  1. のれん代に注意する
  2. 棚卸資産の変動で課税額が変わる
  3. 消費税の引き上げに気を付ける
  4. 簡易課税は消費税の還付が受けられない

それぞれの注意点を解説します。

1.のれん代に注意する

のれん代が大きくなることで、消費税が増えるため注意しましょう。
のれん代は、課税資産に該当します。

のれん代は無形資産であり、価値決定が難しい資産です。一般的な目安としては、「営業利益と減価償却費を足し合わせた額の、3年分から5年分」で計算されます。

営業利益が増えるほど、のれん代も増加し、消費税にも影響します。
事業譲渡ではのれん代にも注意して、取引を行うようにしましょう。

2.棚卸資産の変動で課税額が変わる

棚卸資産の状況により、課税額が変わるため注意しましょう。棚卸資産の金額は、事業譲渡を行う日を基準に決定します。

もし、事業譲渡を行う日に企業が抱える在庫が多ければ、棚卸資産は増加します。

また、在庫を多く抱える事業を運営している場合も、必要な消費税が増大する点に注意が必要です。棚卸資産で発生する消費税にも注意して、M&Aを実行するかどうか考えましょう。

3.消費税の引き上げに気を付ける

消費税が引き上げられる可能性にも注意が必要です。増税が決まると、支払う消費税も増加します。

事業譲渡は取引金額が高額なため、1%の増税でも大金が動きます。増税時期も見極めながら、取引を進めるようにしましょう。

4.簡易課税は消費税の還付が受けられない

簡易課税を採用する企業は、消費税の還付が受けられないため注意しましょう。

消費税の課税事業者は、「簡易課税」と「本則課税」が選択できます。

簡易課税は、預かった消費税に、みなし仕入れ率を掛けて消費税を算出する方法です。
そのため、事務処理を簡単にできるメリットがあります。

本則課税では、預かった消費税から支払った消費税を差し引き、差額を納付します。
この際、預かった消費税の方が多ければ、還付を受けられる仕組みです。

たとえば、買い手企業が事業譲渡で不動産を譲り受けたとします。この際、預かった消費税よりも、支払った消費税が上回ることが一般的です。
本則課税を選択している企業は、還付を受けることができます。

しかし、買い手企業が簡易課税を選択していれば、還付対象になりません。
簡易課税はみなし仕入れ率を計算し、消費税の納税額が生まれるからです。

本則課税に変更するためには、税務署に簡易課税制度選択不適用届出書を提出しましょう。適用を取りやめようとする、課税期間初日の前日までに提出が求められます。

参照元:国税庁「[手続名]消費税簡易課税制度選択不適用届出手続

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事業譲渡で実施したい節税対策 

事業譲渡で支払う消費税に対し、次のような対策を行うこともできます。

  1. 増税前に事業譲渡を行う
  2. 組織再編の条件を満たすように工夫する
  3. のれんを損金算入する

それぞれ解説します。

1.増税前に事業譲渡を行う

事業譲渡を行う場合は、増税前に実施しましょう。今後も消費税の増税が行われる可能性があります。

増税に周期はなく、実施時期は決まっていません。ただし、増税が行われることが決まった場合には、増税開始までに取引を終わらせることができるか、調整してみましょう。

2.組織再編の条件を満たすように工夫する

会社分割を選択すると、消費税がかかりません。組織再編行為とみなされるからです。

会社分割も、事業譲渡同様、事業の一部または全部を売却する手法です。
また、包括承継に該当するため、権利義務をまとめて承継できます。

もちろん、会社分割にもメリット・デメリットがあります。
事業譲渡との違いは、把握しておかなければなりません。

もし、消費税がネックになるのであれば、会社分割も選択肢に入れてみましょう。

関連記事:株式譲渡による事業承継のメリットは?税金や手続きについても解説

3.のれんを損金算入する

事業譲渡の買い手側は、のれんを5年間にわたって償却し、税務上の損金として算入することが可能です。
のれんとは「営業権」とも呼ばれ、ノウハウや企業のブランド的価値などの無形資産のことです。
のれんを損金算入することで、節税効果が期待できます。

関連記事:M&Aにおける事業譲渡とは?メリット・デメリット、手続き・ポイントなどを解説

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まとめ 

事業譲渡で移動する資産によっては消費税が発生します。不動産や機械設備は高額になることがあるため、消費税額も高額になる傾向にあります。あらかじめ消費税額も含めて見積もっておくことが大切です。

また、消費税以外にも、法人税や登録免許税、不動産取得税などの税金が課せられることがあります。高額な資産が移動するときは税額も高額になるため、税理士などの専門家に税額や節税について相談しておくほうがよいでしょう。

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