事業譲渡で掛かる消費税の算出方法は?課税対象になる資産も解説!
このページのまとめ
- 事業譲渡の消費税は課税資産額に消費税率を乗算して求める
- 事業譲渡では課税資産のみに消費税が掛かる
- 事業譲渡ではなく会社分割の場合、消費税が掛からない
- 事業譲渡の消費税は、のれん代の金額や棚卸資産の変動に注意する
- 事業譲渡の消費税で損をしないために、専門家への相談が大切になる
「事業譲渡を行う場合、どのように消費税を計算するか知りたい」と考える経営者も多いことでしょう。M&Aでに掛かる費用は高額であり、どのくらい税金が必要か把握しておくことが求められます。また、どの部分に消費税が掛かるかも気になることでしょう。
本コラムでは、事業譲渡で発生する消費税の計算方法や、課税対象になる資産を解説します。注意点も解説するため、参考にしてください。
事業譲渡で発生する消費税
事業譲渡では、売却した資産に対して、消費税が発生します。
資産には、負債や従業員などの財産も含まれます。
課税対象になる資産がある場合、「課税資産額×消費税」が事業譲渡で発生する税金です。
ただし、資産にも、課税対象にならないものがあります。たとえば、土地や有価証券は、課税対象になりません。
事業譲渡で発生するそのほかの税金
事業譲渡では、消費税以外にも、次のような税金が発生します。
- 法人税
- 不動産取得税
- 登録免許税
それぞれの税金に関して、説明します。
1.法人税
事業譲渡で利益が発生した場合、法人税の支払いが必要です。
譲渡した事業の資産から負債を差し引いた額よりも、もらった対価が多ければ、事業譲渡の利益になります。
利益が発生した場合、本業の事業損益と足し合わせて、法人税率を掛けた金額の申告と納付が必要です。
2.不動産取得税
不動産取得税とは、土地や家屋を取得した際に必要になります。
有償・無償に関係なく、発生する税金です。
ただし、相続などのように、課税対象外になる場合もあります。
不動産取得税は、取得した不動産の評価額に、3%を掛け算して算出します。
参照元:京都府「不動産取得税」
3.登録免許税
登録免許税は、所有権移転登記を行う場合に必要な税金です。
土地の売買や贈与を行う場面で実施します。
事業譲渡を行う場合、資産に土地などが含まれている場合もあるでしょう。その場合、名義を自社に変えるため、所有権の移転登記を行います。
登録免許税に掛かる費用は、不動産の課税標準額に1.5%を掛けた金額です。
事業譲渡の課税資産と非課税資産
事業譲渡で譲り受けた資産は、課税資産と非課税資産に分類できます。
それぞれ、どのような資産が当てはまるか確認しておきましょう。
課税資産
課税資産には、次のような資産が該当します。
- 土地を除く有形固定資産
- 無形固定資産
- 棚卸資産
- のれん代(営業権)
それぞれの資産の詳細を解説します。
土地を除く有形固定資産
有形固定資産には、次のような資産が含まれます
- 建物
- 機械および装置
- 車両運搬具
- 器具備品
- 船舶
有形固定資産のうち、「土地」は課税対象外のため注意しましょう。
無形固定資産
無形固定資産とは、形に残らない資産のことです。
無形固定資産には、
- ソフトウェア
- 漁業権
- 商標権
- 特許権
などの資産が含まれます。
棚卸資産
棚卸資産とは、企業が販売を目的とし、一時的に保有している資産の総称です。
- 商品
- 製品
- 原材料
- 仕掛品
などが含まれます。
一般的に「在庫」と呼ばれる資産も棚卸資産に含まれます。
のれん代(営業権)
のれん代や営業権も課税対象です。
のれん代とは、企業が持つブランド力や技術力のような、無形固有資産を指します。
のれん代の価値は、「営業利益と減価償却費を足し合わせた額の、3年分から5年分」で計算するケースが一般的です。
非課税資産
非課税資産には、次のような資産が該当します。
- 土地
- 有価証券
- 債権
消費税を計算する際には、売却金額から非課税資産を差し引くことになります。
土地
事業譲渡で発生する消費税を計算する場合、土地は非課税で計算されます。
ほかの有形固定資産は課税対象になるため、混同しないようにしましょう。
有価証券
有価証券とは、印紙税法により「財産的価値のある権利を表彰する証券であって、その権利の移転、行使が証券をもってなされることを要するもの」と規程されています。
具体的には、
- 株式
- 小切手
- 手形
- 商品券
- プリペイドカード
などが該当します。
消費税を計算する場合、売却金額から有価証券の額を控除しましょう。
参照元:国税庁「有価証券の範囲」
債権
債権とは、特定の人や企業に対して、行為または給付を請求できる権利です。
金銭の支払いや労力の提供を求めることができます。
仕訳や会計処理の場面での、売掛金などが債権に該当します。
会社分割の場合は課税対象外になる
事業譲渡と比較されるM&A手法に、会社分割があります。
会社分割を行う場合は、課税対象外になるため覚えておきましょう。
消費税の課税対象になる要件に、「資産の譲渡等」が挙げられます。資産の譲渡とは、「事業として有償で行われる資産の譲渡、資産の貸付けおよび役務の提供」です。
会社分割の場合は、資産の譲渡ではなく、組織再編行為と判断されます。資産の譲渡等に該当しないことから、会社分割は課税対象外です。
事業譲渡は課税対象になるため、注意が必要です。
参照元:国税庁「No.6117 「資産の譲渡等」とは」
事業譲渡における消費税の計算方法
事業譲渡で発生する消費税を計算する手順は次のとおりです。
- 譲渡資産を課税資産と非課税資産に分ける
- 課税資産に消費税率を掛ける
それぞれの手順を解説します。
譲渡資産を課税資産と非課税資産に分ける
消費税を計算するためには、譲渡された資産を課税対象と非課税対象に分別します。
たとえば、次のような資産が譲渡されたとしましょう。
- 土地:2億円
- 装置:5,000万円
- のれん代:2,000万円
- 売掛金:500万円
- 棚卸資産:1,000万円
この場合、課税資産と非課税資産に分けると、以下のようになります。
課税資産 |
非課税資産 |
|
|
課税資産を合計すると、
5,000万円+2,000万円+1,000万円=8,000万円
になります。
この8,000万円が、事業譲渡で消費税が必要になる資産の合計です。
課税資産に消費税率を掛ける
課税資産の合計に消費税率を掛けることで、必要な税金が分かります。
2022年時点の消費税率は10%になるため、掛け算しましょう。
8,000万円×10%=800万円
注意点は、消費税以外にも法人税や不動産所得税なども掛かる点です。
消費税以外の税金も準備しておきましょう。
事業譲渡の仕訳方法
事業譲渡を実施した場合の、仕訳方法を確認しておきましょう。
本コラムでは、以下のようなケースを想定して計算します。
勘定科目 |
簿価(千円) |
時価(千円) |
土地 |
100,000 |
150,000 |
建物 |
20,000 |
15,000 |
機械装置 |
30,000 |
20,000 |
棚卸資産 |
10,000 |
10,000 |
特許権 |
1,000 |
10,000 |
商標権 |
500 |
2,000 |
合計 |
161,500 |
207,000 |
譲渡企業と譲受企業、それぞれの場合を解説します。
譲渡企業の場合
事業譲渡を行う場合、時価で売却価格を定めます。
しかし、譲渡資産は簿価で計上を行うため、差額を差し引かなけばなりません。
時価総額から簿価総額を引き算し、事業譲渡益を計算しましょう。
この際、借方には売却価格を記載し、貸方には売却資産と事業譲渡益を記載します。
借方 |
貸方 |
||
勘定科目 |
金額(千円) |
勘定科目 |
金額(千円) |
現金預金 |
207,000 |
土地 |
100,000 |
建物 |
20,000 |
||
機械装置 |
30,000 |
||
棚卸資産 |
10,000 |
||
特許権 |
1,000 |
||
商標権 |
500 |
||
事業譲渡益 |
45500 |
消費税に関しては、貸方に仮受消費税を記載しましょう。
借方には、仮受消費税と同じ金額で現金預金を記載します。
譲受企業の場合
譲受企業の場合、資産は時価で計算しましょう。今回の例では、譲渡側に利益が出ます。
借方には受け取る資産を記載し、貸方に現金預金を記載しましょう。
借方 |
貸方 |
||
勘定科目 |
金額(千円) |
勘定科目 |
金額(千円) |
土地 |
150,000 |
現金預金 |
207,000 |
建物 |
15,000 |
||
機械装置 |
20,000 |
||
棚卸資産 |
10,000 |
||
特許権 |
10,000 |
||
商標権 |
2,000 |
消費税に関しては、貸方に仮受消費税を記載します。
借方には、仮受消費税と同じ金額の現金預金を記載しましょう。
事業譲渡で発生する消費税の注意点
事業譲渡で発生する消費税に関しては、次のような点に注意しましょう。
- のれん代に注意する
- 棚卸資産の変動で課税額が変わる
- 消費税の引き上げに気を付ける
- 簡易課税は消費税の還付が受けられない
それぞれの注意点を解説します。
1.のれん代に注意する
のれん代が大きくなることで、消費税が増えるため注意しましょう。
のれん代は、課税資産に該当します。
のれん代は無形資産であり、価値決定が難しい資産です。一般的な目安としては、「営業利益と減価償却費を足し合わせた額の、3年分から5年分」で計算されます。
営業利益が増えるほど、のれん代も増加し、消費税にも影響します。
事業譲渡ではのれん代にも注意して、取引を行うようにしましょう。
2.棚卸資産の変動で課税額が変わる
棚卸資産の状況により、課税額が変わるため注意しましょう。棚卸資産の金額は、事業譲渡を行う日を基準に決定します。
もし、事業譲渡を行う日に企業が抱える在庫が多ければ、棚卸資産は増加します。
また、在庫を多く抱える事業を運営している場合も、必要な消費税が増大する点に注意が必要です。棚卸資産で発生する消費税にも注意して、M&Aを実行するかどうか考えましょう。
3.消費税の引き上げに気を付ける
消費税が引き上げられる可能性にも注意が必要です。増税が決まると、支払う消費税も増加します。
事業譲渡は取引金額が高額なため、1%の増税でも大金が動きます。増税時期も見極めながら、取引を進めるようにしましょう。
4.簡易課税は消費税の還付が受けられない
簡易課税を採用する企業は、消費税の還付が受けられないため注意しましょう。
消費税の課税事業者は、「簡易課税」と「本則課税」が選択できます。
簡易課税は、預かった消費税に、みなし仕入れ率を掛けて消費税を算出する方法です。
そのため、事務処理を簡単にできるメリットがあります。
本則課税では、預かった消費税から支払った消費税を差し引き、差額を納付します。
この際、預かった消費税の方が多ければ、還付を受けられる仕組みです。
たとえば、買い手企業が事業譲渡で不動産を譲り受けたとします。この際、預かった消費税よりも、支払った消費税が上回ることが一般的です。
本則課税を選択している企業は、還付を受けることができます。
しかし、買い手企業が簡易課税を選択していれば、還付対象になりません。
簡易課税はみなし仕入れ率を計算し、消費税の納税額が生まれるからです。
本則課税に変更するためには、税務署に簡易課税制度選択不適用届出書を提出しましょう。適用を取りやめようとする、課税期間初日の前日までに提出が求められます。
参照元:国税庁「[手続名]消費税簡易課税制度選択不適用届出手続」
事業譲渡の消費税に対策する方法
事業譲渡で支払う消費税に対し、次のような対策を行うこともできます。
- 増税前に事業譲渡を行う
- 事業譲渡ではなく会社分割を行う
それぞれ解説します。
1.増税前に事業譲渡を行う
事業譲渡を行う場合は、増税前に実施しましょう。今後も消費税増税が行われる可能性があります。
増税に周期はなく、実施時期は決まっていません。ただし、増税が行われることが決まった場合には、増税開始までに取引を終わらせることができるか、調整してみましょう。
2.事業譲渡ではなく会社分割を行う
会社分割を選択すると、消費税が掛かりません。組織再編行為とみなされるからです。
会社分割も、事業譲渡同様、事業の一部または全部を売却する手法です。
また、包括承継に該当するため、権利義務をまとめて承継できます。
もちろん、会社分割にもメリットデメリットがあります。
事業譲渡との違いは、把握しておかなければなりません。
もし、消費税がネックになるのであれば、会社分割も選択肢に入れてみましょう。
まとめ
事業譲渡を行った場合、消費税が発生します。
譲渡した資産の総額によって金額が変わることに注意しましょう。
また、資産には課税資産と非課税資産があります。
どの資産に消費税が掛かるか、把握しておくことが大切です。
もし、消費税がネックになる場合は、会社分割のように別の方法も検討してみましょう。
別手法を選択した方が、M&Aのメリットを享受できる場合もあります。
困ったときは、M&A仲介会社のような専門家に相談してみましょう。
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