EV/EBITDA倍率とは?計算方法や算出のメリット・デメリットも解説

2024年1月11日

EV/EBITDA倍率とは?計算方法や算出のメリット・デメリットも解説

このページのまとめ

  • EV/EBITDA倍率とは企業価値の指標である
  • EV/EBITDA倍率が平均よりも高いと割高で、低いと割安な企業と判断できる
  • EV/EBITDA倍率の「EV」は企業価値を表し、「EBITDA」は収益力を表す
  • 日本だけでなく世界中で使用される指標である
  • EV/EBITDA倍率は他の企業と比較しやすく、比較的簡単に算出できることがメリット

EV/EBITDA倍率とは、日本だけではなく世界で使用されている企業価値の指標です。
今回は今後M&Aを考えている経営者の方に向けて、EV/EBITDA倍率を算出する方法やEV・EBITDAの概要、メリット・デメリットなどを紹介します。

計算方法やメリット・デメリットなどを知り、EV/EBITDA倍率を有効活用しましょう。

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EV/EBITDA倍率とは

EV/EBITDA倍率とは、事業価値(EV)を収益力(EBITDA)の何年分で補えるかを表す数値です。別称として、簡易買収倍率と呼ばれることもあります。

EV/EBITDA倍率は世界的な株価比較の基準として使用されています。

EVやEBITDA単体で企業価値を図ることも可能です。しかし、今後何年で買収価格を超えられるか、取引価格の相場などを検討する際には、EV/EBITDA倍率が役立ちます。

EV/EBITDA倍率で算定されたコストの回収可能年数が、該当する業界の平均倍率よりも低ければ、その企業は割安であるといえます。

EVとは企業価値を表す

EVとは、「Enterprise Value」の略称で、企業価値を表す指標です。M&Aの際は、EVを算出することが重要なポイントです。

買い手にとっては、その企業を買収する価値があるのかどうかや、買収にかける妥当な金額を算出できます。

憶測ではなく、実際に算出される数値で測れるため客観性もある情報です。その時点の企業価値を表すため、M&Aの判断材料として重宝されます。

売り手にとって、EVで算出される数値は自社の価値や売却できる可能性について測るものです。売るタイミングや売値の設定にも役立ちます。

EBITDAとは企業の収益力を表す

EBITDAとは、「Earnings Before Interest Taxes Depreciation and Amortization」の略称で、企業の収益力を測る数値です。買収後の経営状況や集客力を予測します。

EBITDAによって、その企業を買収した場合にどの程度の利益が出るかが分かります。そのため、買い手企業が重要視する判断材料とされる数値です。

M&Aでは、EVで算出される企業の「現在の価値」だけではなく、EBITDAの「今後の収益力」も評価されます。
EVとEBITDAどちらかの数値が低い場合、そのM&Aはうまく行かない可能性があります。双方にとって利益のあるM&Aを進めるために、必要な指標といえるでしょう。

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EV/EBITDA倍率の計算方法

EV/EBITDA倍率の計算方法は、以下の通りです。

EV/EBITDA倍率 = EV(時価総額+純有利子負債)÷ EBITDA(営業利益+各種償却費)

例として、EVが3億2,000万円、EBITDAが4,000万円の場合、以下のように計算します。

例:EV/EBITDA倍率 = 3億2,000万円(EV)÷ 4,000万円(EBITDA)

上記の場合のEV/EBITDA倍率は8です。
したがって、買収にかかったコストは8年で回収可能という計算になります。

EV/EBITDAが求められていれば世界共通の指標として活用できるため、グローバル展開をしている企業・業界に用いることができます。
とくに、機械系や自動車産業など、世界中に企業がある業界では共通の指標とされています。

EVの計算方法

EV/EBITDA倍率の算出の前提となる、EVの計算方法についても念のため確認しておきましょう。EVの計算には、売り手側の企業の決算書に記載されている数値が用いられます。計算方法は以下の通りです。

EV=時価総額+純有利子負債

時価総額資産とは少数株主の持分を含んだ株式価値のこと、純有利子負債とは有利子負債から現預金などを差し引いた金額のことです。
負債が残っている場合も、企業にとってその負債は返済の見込みがあるとされているため、EVに含まれます。

時価総額が3億円、準有利子負債が2,000万円だったときの計算は以下のようになります。

例:EV=3億円(時価総額)+2,000万円(純有利子負債)

この場合、EVは、3億2,000万円です。
この金額がEVであり、その時点の企業価値として判断されます。

EBITDAの計算方法

EVと同様、EV/EBITDA倍率の計算に必要なEBITDAの計算方法には、詳細に算出する一般的な方法と、簡易的に算出する方法の2種類があります。
詳細に算出できる一般的な計算方法は以下の通りです。

EBITDA=税引前当期純利益+少数株主損益+支払利息+法人税+減価償却費

簡易的な計算には、以下の計算式が用いられます。
数値は多少ずれることもありますが、大まかな収益力を測れる計算式です。

EBITDA=営業利益+各種償却費

営業利益が3,000万円、減価償却費が1,000万円だった場合の計算は以下の通りです。

例:EBITDA=3,000万円(営業利益)+1,000万円(減価償却費)

上記の場合、EBITDAは4,000万円です。

計算できない場合もある

EV/EBITDA倍率が正確に計算できない場合もあります。たとえば、時価総額の低い会社に多額の内部留保があるときです。EVがマイナスの状態の場合、倍率の数値も正常に計算できません。

また、企業が成長途中で、収益力がマイナスの場合も当てはまります。
EV・EBITDAがマイナスになっている状態の企業は、倍率が計算できないため、指標としての役割を果たしません。
この場合、別の算定方法を検討することが必要です。

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EV/EBITDA倍率の平均や目安

EV/EBITDA倍率を算出しても、その基準がわからないと、企業価値が高いのか低いのかを判断するのは難しいといえます。ここでは、EV/EBITDA倍率の平均や目安を解説します。

EV/EBITDA倍率の平均

上場企業のEV/EBITDA倍率は8倍から10倍が平均とされます。しかし、ベンチャー企業などではEV/EBITDA倍率が3倍から8倍であることが多く、8年での投資回収は割高であると判断されることは珍しくありません。そのため、EV/EBITDA倍率を投資の判断材料にする場合は、業種や企業規模などを考慮する必要があります。

EV/EBITDA倍率の目安

中小企業の場合は、株式の市場価格などのEVの計算に必要となるデータが乏しいため、EV/EBITDA倍率の平均を算出することは困難です。

したがって、EV/EBITDA倍率の平均倍率を参考にするのではなく、何年で買収資金を回収したいかによって判断することになるでしょう。一般的には、買い手企業が買収価格を検討する際、3〜5年で買収資金の回収を目指すケースが多いとされているため、「3未満」が中小企業のEV/EBITDA倍率の一つの目安といえます。

ここまでEV/EBITDA倍率の平均や目安をお伝えしてきましたが、業界によって平均値が異なるため、EV/EBITDA倍率のみで企業価値を判断するのは避けましょう。業界の平均を把握したうえで、個々の企業のEV/EBITDA倍率を確認することをおすすめします。

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EV/EBITDA倍率を計算する2つのメリット

メリットは主に2つあります。

  1. 他の企業と比較しやすい
  2. 簡単に算出できる

それぞれについて詳しく解説します。

1.他の企業と比較しやすい

EBITDAは、国や金融機関に関係なく、企業が持つ本来の収益力を見極められる数値です。
利息や税金、減価償却費などは国や金融機関などによって変動します。しかしEBITDAは、利息や税金、減価償却費などが差し引かれる前の数値のため、企業の収益力を正確に把握しやすいという特徴があります。

つまり、国による制度の違いに関係なく比較・検討できるため、海外企業のM&Aの際にはとくに役立ちます。

2.簡単に算出できる

もうひとつのメリットは、簡単に算出できる点です。EV/EBITDA倍率は企業の決算書から得られる情報で簡単に計算できます。
M&Aの初期段階において、買収する企業を絞る際に役立ちます。

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EV/EBITDA倍率を算出する2つのデメリット

EV/EBITDA倍率を算出するデメリットは、以下の通りです。

  1. 業界によっては類似企業が見つからない
  2. 将来性については慎重に判断する必要がある

デメリットを詳しく把握して、リスクを回避しましょう。

1.業界によっては類似企業が見つからない

企業数が多い業界は、比較できる類似企業が多く、平均値も出しやすい傾向があります。しかし、企業の数が少ない業界の場合、類似企業が見つからないことも。その場合、EV/EBITDA倍率の数値がどの立ち位置であるか、比較できません。

EV/EBITDA倍率を用いて比較することが難しいときは、営業利益やそのほかの運営状況を分析し、M&Aの判断基準にしましょう。

2.将来性については慎重に判断する必要がある

EV/EBITDA倍率で算出した数値は、過去の実績を元にしています。将来性は、その数値や他の資料・業界の傾向から予測する必要があるため、確実に伸びる保証はありません。判断に主観が入りすぎないように注意する必要があります。

たとえば、定期的に設備投資が必要な業界は、営業利益・減価償却費も参考にしてM&Aを検討しましょう。

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EV/EBITDA倍率を改善する3つのポイント

EV/EBITDA倍率を改善するためのポイントを3つご紹介します。

  1. サービス、商品の原価を削減する
  2. サービス、商品の価格を見直す
  3. 営業利益を増やして負債を減らす

買い手側に魅力的だと感じてもらうことを目指す売り手企業はぜひ参考にしてください。

1.サービス、商品の原価を削減する

サービス・商品の原価を削減することが、EV/EBITDA倍率の改善につながります。
原価が下がれば経費を削減することができ、純利益や営業利益が上がります。
EBITDAが上がるとEV/EBITDA倍率は低くなり、買い手側にとって割安で魅力的な企業になります。

2.サービス・商品の価格を見直す

サービスや商品の価格を見直して売上純利益を向上させることができれば、EV/EBITDA倍率の改善が図れます。
値上げをする場合は、現在の売り上げを維持および増加させることが必要です。
値下げをする場合は、売り上げ数の大幅な向上を狙い、純利益を上げましょう。

3.営業利益を増やして負債を減らす

営業利益が増えれば負債を返済できます。有利子負債を減らすことができれば、EVが低くなり、EV/EBITDA倍率を改善することが可能です。

また、負債の返済後に資金が余った場合は自己株式を消却することで、株価を保ったまま時価総額を減少できます。時価総額が減少することにより、EV/EBITDA倍率の改善につながるでしょう。

関連記事:企業価値とは?計算方法や高めるための4つの方法をわかりやすく解説

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EV/EBITDA以外の企業価値の指標

EV/EBITDA倍率以外にも、企業価値の指標や算出法が存在します。たとえば非上場企業の企業価値を検討する際に用いるのが、マルチプル法と呼ばれる手法です。マルチプル法は「類似企業比較法」とも呼ばれ、類似した上場企業の評価倍率を参考にして、対象となる企業の相対的な価値を算出する方法のことを指します。

マルチプル法のなかでもM&Aの株式価値の算定でもっとも一般的なのは、EV/EBITDAマルチプル法です。類似した企業の評価倍率(マルチプル)は、「EBIT」「EBITDA」「PER」「PBR」などの指標を用いて算出します。ここでは、すでに説明した「EBITDA」以外の指標について解説します。

1.EBIT

EBIT(イービット)とは、「Earnings Before Interest and Taxes」の略語で、日本語では「利払前・税引前利益」を意味する言葉です。EBITは、以下の算式で求めます。

EBIT=税引前当期利益+支払利息-受取利息

EBITは、財務活動に関わる費用や収益である「支払利息や受取利息」の影響を除いた、事業活動から生じる利益のみを表す指標です。

2.PER

PER(ピーイーアールまたはパー)は「Price Earnings Ratio」の略語で、日本語では「株価収益率」です。企業の株価が1株あたりの純利益の何倍かを表します。PERは以下の式で算出します。

PER=株式時価総額÷当期純利益

マルチプル法で用いる際は、「同じ業種の場合はPERもおおよそ似た倍数になる」ことを前提とします。

3.PBR

PBR(ピービーアール)は「Price Book-value Ratio」の略語で、日本語では「株価純資産倍率」という意味です。株価が1株あたりの純資産と比べ何倍かを表す指標であり、求めるための算式は以下のとおりです。

PBR=株式時価総額÷簿価純資産

PBRの数値が大きいと株価が割高、逆に小さいと割安と判断されます。

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まとめ

今回は、M&Aを考える企業の多くが指標の一つにするEV/EBITDA倍率について解説しました。
EV/EBITDA倍率とは、買収にかかるコストが何年で回収できるかを測る数値です。業界の平均倍率よりも低ければ、その企業は割安で買収できる企業と判断できます。
EV/EBITDA倍率を算出する方法を知り、有効活用しましょう。

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