M&Aや会計におけるのれんとは?意味や計算方法をわかりやすく解説

2024年2月29日

M&Aや会計におけるのれんとは?意味や計算方法をわかりやすく解説

このページのまとめ

  • のれんとは、企業を買収したときの額と買収される企業の時価純資産の差額
  • のれんには「ブランド力」「人材」「ノウハウ」などが含まれる
  • のれんを会計処理する場合、日本基準と国際会計基準で方法が異なる
  • のれんは目には見えない資産になるため、専門家に評価してもらうことが大切

「M&Aでのれんという言葉を耳にしたけど、よくわからない」という経営者も多いのではないでしょうか。のれんは買収価格に影響するため、買い手企業と売り手企業の双方にとって重要な要素です。
M&Aをスムーズに進めるためには、のれんに関して知っておくことが大切です。本コラムでは、のれんの概要や計算方法、日本と国際的な会計処理の違いなどを解説します。

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のれんとは

のれんとは、買収された企業のブランド的価値を表します。ここでは、M&Aにおけるのれんの意味や、負ののれんについて解説します。

M&Aにおけるのれんの意味

のれんとは、企業を買収したときの買収額と買収される企業の時価純資産の差額です。買収価額が企業の時価純資産より高いときの差額は、企業のブランド価値とみることができます。

例えば、譲渡企業の純資産が6億円で実際の買収価格が10億円の場合、のれんは4億円(10億円-6億円)です。

また、ノウハウや信用力など、数値にはできないものの実際に存在する価値も、のれんということが可能です。

「負ののれん」もある

企業買収では、「負ののれん」も発生します。「負ののれん」とは、「買収される企業の純資産よりも低い金額で買収を行う場合に発生する差額」です。

買い手が買収を検討した結果、簿外債務の発見や、業績悪化などの理由から、純資産よりも評価が下回るケースもあります。たとえば、純資産が10億の企業で、買収価格が5億になったとしましょう。この場合、5億円分の「負ののれん」が発生します。

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M&Aでのれんを計算する方法 

M&Aでののれんは、次のような計算式で算出します。

買収金額-買収される企業の純資産

そのため、のれんを計算するためには、「買収金額」「買収される企業の純資産」の2つを求める必要があります。

買収金額

買収金額を計算するためには、次の3つを使用します。

  • インカムアプローチ
  • マーケットアプローチ
  • コストアプローチ

インカムアプローチとは、買収される会社の将来計画を基準に計算を行う方法です。将来の収益力が算出額に反映されるため、買収金額の計算によく使用されます。

マーケットアプローチとは、市場の売買価格を基準に計算を行う方法です。最新の取引基準を参考にできるため、マーケットアプローチもよく使用されます。

コストアプローチとは、企業が持つ資産や負債の時価から、純資産を算出する方法です。会社の資産や負債の価値を調べる方法になることから、のれんの計算ではあまり使用されません。

買収金額を算出する場合は、これら3つを活用し、金額を算出しましょう。

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買収される企業の純資産

買収される企業の純資産は、時価で計算を行います。金融商品、または不動産を所持している場合は、時価で算出しましょう。

時価で換算できる資産がない場合、簿価純資産が買収される企業の純資産になります。

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のれんの金額

のれんの金額は、買収金額によって大きく変わります。買い手企業によって、売り手企業の「ブランド力」「人材」「ノウハウ」に対する評価が変わるからです。

買収される企業の純資産に関しては、誰が計算してもあまり差はありません。そのため、買い手企業が目には見えない資産を評価し、買収金額が上がるほど、のれんの金額は高くなります。

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財務諸表でののれんの扱い

組織再編の種類に応じて、財務諸表でののれんの扱いは変わります。

ここでは、「株式譲渡や株式交換などの場合」と「株式合併など」の場合に関して解説します。

株式譲渡や株式交換などの場合

まずは、株式譲渡や株式交換を行い、売り手企業が子会社になる場合です。この場合、買い手企業の単体財務諸表では、のれんは計上されません。株式の取得になり、株式が計上されるのみの扱いになります。

ただし、連結財務諸表では、のれんが計上されます。

株式合併などの場合

次に、株式合併などで、売り手企業が吸収される場合です。この場合は、買い手企業の単体財務諸表にて、のれんの計上が行われます。
連結財務諸表の作成がある場合には、引継ぎが行われ、同じ額の計上を実施します。

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のれんの仕訳方法

前の項目で見たように、株式譲渡や株式交換、株式合併ではのれんを計上するタイミングが異なります。

ここでは、次の事例で仕訳例をみていきましょう。

  • 買収される会社(A社):資産500万円・負債300万円・純資産200万円
  • 買収する会社(B社):資産1,000万円・負債500万円・純資産500万円
  • 取得対価:300万円

株式譲渡や株式交換などの場合

株式譲渡や株式交換で買収するB社の仕訳は以下のとおりです。

単体財務諸表(B社)

借方貸方
A社株式 300万円現預金 300万円

連結財務諸表

借方貸方
純資産 200万円A社株式300万円
のれん100万円

単体財務諸表では現預金がA社株式に変わっただけで、のれんは計上されません。

連結財務諸表を作成するタイミングでのれんが計上されます。

株式合併などの場合

株式合併の仕訳は、以下のとおりです。

単体財務諸表(B社)

借方貸方
資産 500万円負債 300万円
のれん100万円現預金300万円

合併ではA社をB社が取り込むため、取得対価と純資産の差額がのれんとして計上されます。連結財務諸表の仕訳は行いません。

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各会計基準におけるのれんの取り扱い

のれんの会計処理は、日本の会計基準と国際的な基準で異なります。日本の会計基準ではのれんを毎年償却しますが、国際基準ではのれんの償却は行いません。

各会計基準の処理方法をみていきましょう。

日本の会計基準の場合

日本の会計基準で償却を必要とする理由は、のれんも有形資産と同じく将来の価値が変わると解釈するためです。

有形の固有資産は年月の経過で劣化し、価値が下がることから減価償却を行います。これと同じく企業ブランドなどの無形資産も年月の経過で価値は下がると解釈し、償却期間を定めて毎年償却するものとされています。

日本の会計基準でのれんの処理をするメリット・デメリットは以下のとおりです。

  • メリット:規則的に償却するため、業務の負担が小さい
  • デメリット:営業利益にマイナスの影響が出やすい

メリット・デメリットについて詳しく解説します。

日本会計基準のメリット

日本の会計基準では減損の兆候がない限り規則的に償却を行うため、事務処理の負担を軽減できます。償却年数を決定することで1年ごとに計上する費用が明確になり、予算の計上をしやすい点もメリットです。

日本の会計基準のデメリット

のれんの償却は「販売費および一般管理費」に計上されるため、計上により営業利益を圧迫する可能性があります。

利益を生む目的でM&Aを行ったにもかかわらずマイナスの影響が出るということのないよう、のれん償却を見越して予算配分をするなどの対策が必要です。

のれんの償却

日本の会計基準では、のれんを20年以内の期間で定額法により毎年償却するものとされています。

のれんの償却で毎年10万円を計上する場合の仕訳は以下のとおりです。

借方貸方
のれん償却 10万円のれん 10万円

ただし、実際に20年の期間で償却を行っている上場企業は少なく、多くの企業ではのれんの償却期間について、その会社を買収するために投じた費用を何年で回収できるかを基準に決定しています。

減損テスト

減損テストとは、帳簿価額と回収可能価額とを比較して、計上したのれんが現在も価値を維持しているか確認する手続きです。 回収可能価額より帳簿価額の方が高い場合は減損損失と判断し、回収可能価額まで帳簿価額を減額します。

後述する国際的な基準では減損テストを毎期行いますが、日本の会計基準では原則として行いません。例外的に、のれんの価値が大幅に下がる場合に減損処理が行われます。

国際的な基準(IFRS)の場合

国際的な会計基準(IFRS)とは、国際会計基準審議会が定める世界共通の会計基準のことです。日本企業は日本の会計基準と国際的な会計基準のどちらでも任意に選べます。

国際的な会計基準では、のれんの処理を行いません。国際的な会計基準を採用するメリット・デメリットは以下のとおりです。

  • メリット:毎年償却されないため、損益計算書上、利益がマイナスにならない
  • デメリット:減損テストを行うため、事務処理の負担が大きい

国際会計基準のメリット

国際会計基準ではのれん償却による利益への影響が避けられるため、M&Aをしやすい点がメリットです。

毎年のれん償却をしなければならない日本会計基準と比較して、事務処理上の負担もありません。

国際会計基準のデメリット

国際会計基準では定期的な償却は行わないものの、減損がある場合は処理が必要です。毎期の償却を行わないため、一気に費用を計上することで高額になる可能性があります。減損時のダメージが大きくなるリスクは把握しておかなければなりません。

のれんの償却

国際的な会計基準では、毎期ごとののれんの償却を行いません 。のれんは貸借対照表に計上されたままです。その代わり、減損テストを毎期行う必要があり、のれんの価値が著しく下落した場合には減損処理を行います。

企業を買収したあとに企業の業績が悪化した場合、減損テストによって多額の減損損失が計上されることもあります。毎年帳簿の価格が逓減する日本の会計基準に比べ、買収後の変化を測定しやすいのが特徴です。

減損テスト

国際的な会計基準では毎期の償却を行いません。その代わり年に一度の減損テストを行い、価値が減少しているときは減損処理を行います。 減損処理とは、投資額を回収できるだけの利益が出ていない場合に、回収できない金額を損失計上する手続きです。

例えば、M&A後に会社名の変更などで一部の商品の売上が落ち込み、企業価値が大幅に減少した場合は、減損損失として損失額を計上します。

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税務上におけるのれん(資産調整勘定)の取り扱い

税務上、のれんは資産調整勘定とされています。資産調整勘定は、税制非適格とされる組織再編における、買収企業の支払額と税務上の時価純資産の差額です。

すべての会計上ののれんが、税務上におけるのれんになるわけではありません。また、償却期間も日本の会計基準とは異なります。

それぞれ、具体的にみていきましょう。

資産調整勘定の対象

法人税は基本的に単体財務諸表に対して税金計算を行うため、連結財務諸表上でのれんが計上される株式譲渡などは、税務上ののれんではありません。合併など単体財務諸表に計上する場合に税務上におけるのれんの計上が問題になります。

税務上ののれんが発生する主なM&Aは、事業譲渡と非適格分社型分割(税制非適格となる会社分割)です。

償却期間

日本の会計基準における償却期間は20年以内で自由に設定できますが、税務上ののれんは原則として5年の均等償却を行います。5年以内で自由に設定できるわけではなく、5年間の固定です。強制償却となり、償却額は調整できません。

会計処理で税務上の償却期間と異なる償却期間を設定している場合、確定申告の際に調整が必要です。

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のれんを決算書で評価する場合の注意点 

のれんを決算書で評価する場合の注意点は、次の3つです。

  • 減損リスクを考慮する
  • 評価が難しいことを理解しておく
  • 買収価格を左右する

それぞれ解説します。

減損リスクを考慮する

資産を占めるのれんの割合が大きい場合、注意しましょう。賃借対照表を確認しただけでは、のれん価値を判断しにくいからです。

企業評価をする場合は、「のれんに見合った売上規模があるか」「営業キャッシュフローがプラスになっているか」などが必要です。賃借対照表だけで判断しないように、注意しましょう。

評価が難しいことを理解しておく

のれんは評価が難しいことを理解しておきましょう。ブランド力のように、目には見えない資産を金額化するからです。

評価する場合には、企業の経営が健全であるか、企業が存続するかなども踏まえて評価しましょう。また、次のような要因で評価を行うことも大切です。

  • ブランド力
  • 技術力
  • 人的資源
  • 地理的な条件
  • 顧客リスト

のれんを評価するためには、M&Aの専門家にも相談しましょう。

買収価格を左右する

のれんの価値は、買取価格を左右します。交渉に影響を与えることに注意しましょう。
資産や負債に関しては、デューデリジェンスで調査し、客観的に算出できます。

しかし、のれんの価値は、将来の収益予想の影響を受けるものです。客観的に決めることが難しく、売り手と買い手で協議を行います。交渉が難航するケースもある点に注意しましょう。

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売り手企業がのれんの価値を高めるために意識する内容 

売り手企業の場合、のれんの価値を高めるために次の3つを意識しましょう。

  • 自社の強みを分析する
  • 評価してもらえる企業を見つける
  • 他社からの声かけもあると示唆する

自社の強みを分析する

自社ののれんの価値を高めるには、分析により自社の成長している分野や強みを洗い出すことが大切です。同業他社と比べて差別化できる点を見つけましょう。

外部からの意見も参考にすることで、社内ではわからない自社の強みを発見できます。M&AコンサルタントやM&A仲介会社など、外部の意見を取り入れてみるのもよいでしょう。

評価してもらえる企業を見つける

売り手企業の場合は、評価してもらえる企業を見つけましょう。のれんが高額になることで、買い取り価格の増加が期待できます。

シナジーのある買い手企業が見つかれば、のれんの価値も上がりやすくなります。ノウハウや顧客リスト、システムなどが評価されるでしょう。

他社からの声掛けもあると示唆する

M&Aの場合、他社からの声掛けを示唆すると良いでしょう。買い手企業が、のれんの価値を高く計算してくれるケースが発生します。

買い手企業が1社の場合、提示された条件が適正かどうか、判断が難しいでしょう。買い手企業は、M&A経験を重ねているケースも多くなります。あえてのれんの評価を低くして、交渉に臨んでくる場面もあるでしょう。

注意点は、他社からの声掛けを示唆した結果、買い手企業が交渉撤退してしまう可能性がある点です。期待していたM&Aが実施できず、問題になるでしょう。他社の存在を示唆する場合は、M&Aの専門家に相談しながら、駆け引きを行うことが大切です。

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まとめ

M&Aでは、買収金額にのれんが含まれるケースがあります。のれんとは買収された企業のブランド的価値のことで、買い手企業が売り手企業の企業価値を算定する際に考慮する必要があります。 M&Aを進める際は、どのような資産がのれんに該当するか事前に把握しておきましょう。

のれんの価値を高めることで買収金額にもプラスの影響がありますが、のれんは目には見えない資産です。評価が難しいため、M&Aの専門家に相談することをおすすめします。

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