会社分割とは?事業譲渡との違いや実施方法、ポイントを解説
このページのまとめ
- 会社分割とは、事業を切り離し別会社に譲渡するM&A手法
- 会社分割は吸収分割と新設分割に分類される
- 会社分割のメリットは、「手続きが行いやすい」「必要な事業だけ分割できる」
- 会社分割では、「時間が掛かる」「債務を引き継ぐ可能性」に注意
- 会社分割をスムーズ行うためには、M&A仲介会社がおすすめ
「会社分割を実施したいけど、どのように進めるか分からない」と悩む経営者も多いのではないでしょうか。経営の立て直しや、選択と集中を目的に、実施を考えている企業も多いことでしょう。
会社分割をスムーズに行うためには、どのように進めるか実施する流れを知り、手続きや準備を行うことが大切です。本コラムでは、会社分割の種類やメリット、実施時の流れなどを解説します。
会社分割とは
会社分割とは、企業が持つ事業を切り離し、別会社に譲渡を行うM&Aの手法です。「吸収分割」「新設分割」の2種類に分類されます。会社分割の特徴は、企業が持つ施設や従業員なども含めて、包括的に承継される点です。一般的には、経営難の企業が事業再編を行う場合や、事業承継を目的に利用されます。
吸収分割
吸収分割とは、会社分割のうち、設立済みの企業に譲渡するケースのことです。事業譲渡と比べて、手続きを簡単にできるメリットがあります。ただし、経営統合を行うことにより、従業員が対応できず、混乱する可能性には注意しましょう。また、吸収分割は、「物的吸収分割」と「人的吸収分割」の2種類があります。
物的吸収分割
物的吸収分割とは、事業譲渡で発生する金銭などの対価を、事業譲渡を行った会社が受け取る場合の会社分割です。分社型吸収分割とも呼ばれます。
たとえば、企業Aが事業を受け取る側、企業Bが事業を譲渡する側だったとしましょう。この場合、企業Bは企業Aに事業を渡し、企業Aは企業Bという「会社」に対して、対価の金銭や株式を渡します。
人的吸収分割
人的吸収分割とは、事業譲渡で発生する株式や金銭を、株主が受け取る方法です。この方法は、分社型吸収分割とも呼ばれます。物的吸収分割との違いは、対価を会社ではなく、「株主」に渡す点です。
たとえば、事業を受け取る企業Aと、事業譲渡を行う企業Bで会社分割が発生したとします。この場合、企業Bは企業Aに事業を譲渡し、企業Aは企業Bの「株主」に対して、対価を支払います。株式で支払いを行った場合、事業譲渡した企業Bの株主は、企業Aの株主になる点も特徴です。
注意点は、人的吸収分割が2006年に廃止されている点です。現在では、物的分割を行い、取得した株式を譲渡側の株主に剰余金の配当として交付した場合、人的吸収分割と同じ効果が出るようになっています。
新設分割
新設分割とは、会社分割を機に、新しく設立した企業に事業を移転させるケースのことです。
新設分割のメリットには、「契約や資産が引き継ぎやすい」「資本準備金や資本剰余金の引継ぎができる」などが挙げられます。しかし、「税務上の扱いが大変」「買い手企業が非上場企業の場合は株式が現金にしにくい」などのデメリットには注意しましょう。
また、新設分割には、次の3種類があります。
- 分社型新設分割
- 分割型吸収分割
- 共同新設分割
それぞれの違いを解説します。
分社型新設分割
分社型新設分割とは、新設分割で設立された企業が、事業を譲渡した「企業」に対し、対価に自社の株式を渡す手法です。たとえば、企業Aが企業Bを新設し、企業Bに事業を譲り渡したとします。その際、企業Bが企業Aに対し、企業Bの株式を渡す場合が、分社型新設分割になります。
分社型新設分割の特徴は、新設会社の株式をすべて、事業を譲渡した企業に譲り渡す点です。そのため、新設会社は、事業を譲渡した企業の完全子会社になります。
分割型吸収分割
分社型新設分割とは、新設分割で設立された企業が、事業を譲渡した「企業の株主」に対し、対価に自社の株式を渡す手法です。分社型新設分割とは、株式を渡す相手が、「株主」になる点で異なっています。
また、新設会社と事業を譲渡した企業の関係性は兄弟会社です。一般的には、ホールディングス化を目的にする場合、分割型吸収分割が使用されます。
共同新設分割
共同新設分割とは、2社以上が合同で企業を新設し、それぞれが持つ事業を新設会社に譲渡する手法です。新設企業の株式は、企業の新設を行った企業に対して譲渡されます。共同新設分割の場合、親会社が2社以上発生する点が特徴です。また、合弁会社を設立する際に、使用される手法になります。
会社分割と事業譲渡の違い
会社分割と似たM&A手法に事業譲渡があります。事業譲渡の場合、契約など個別に承継する必要があるため注意しましょう。会社分割では、包括的承継が可能です。そのため、売り手企業が持つ施設や従業員などの契約は、まとめて引き継ぐことができます。
一方で、事業譲渡は包括的承継ができません。そのため、従業員を雇用する場合、個別で契約を結び直すことになります。このように、会社分割と事業譲渡では、承継に関して違いがあります。どちらが良いかに関しては、専門家のアドバイスを受けながら決めると良いでしょう。
会社分割が行われる2つの状況
会社分割が行われる状況は、次の2つです。
- 主力事業に集中するため
- 経営を立て直すため
それぞれ解説します。
好調な事業に集中するため
好調な事業に集中するため、分割が行われます。収益が伸びていない事業を抱えていると、好調な事業の妨げになってしまうからです。分割を行うことで、収益が伸びていない事業を他社に譲渡し、自社は好調な事業に経営資源を集めることができます。
経営を立て直すため
経営を立て直したい場合にも、会社分割が有効です。経営不振で悩んでいる企業は、人材の配置転換だけでは業績が改善しにくいためです。分割を行えば、事業単位で経営方針の見直しが実施できます。
会社分割を行う5つのメリット
会社分割には、次の5つのメリットがあります。
- 買収資金が必要ない
- 手続きが行いやすい
- 必要な事業だけを分割できる
- 従業員の雇用を継続できる
- 倒産のリスクを軽減できる
それぞれ解説します。
買収資金が必要ない
会社分割を行う場合、買収資金は必要ありません。金銭ではなく、株式でM&Aを行えるからです。買収資金が用意できない場合、借り入れの実施が必要です。その場合、借り入れでの債務リスクを抱えることになるでしょう。
株式譲渡など、ほかのM&A手法では、実施に資金が必要になります。その点、会社分割の場合は、債務リスクを抑え、株式でM&Aを行えるメリットがあります。
手続きが行いやすい
包括継承でM&Aを行えるため、手続きが行いやすい点もメリットです。従業員や取引先との契約、許認可などの契約を個別に結びなおす必要がありません。
事業譲渡などのM&Aでは、個別に契約を結びなおす必要があるため、手続きに時間が掛かります。規模の大きい事業の場合、M&A実施に負担が掛かるでしょう。
会社分割であれば、包括継承で実施できるため、手続きをスムーズに進めることができます。
任意の事業だけを分割できる
任意の事業だけ分割できる点もメリットです。目的に応じたM&Aを実施できます。
たとえば、「業績が伸びていない事業を分割し、企業の立て直しを行う」「採算のとれていない事業を分割し、好調な事業に経営資源を集中させる」などの方針も実行できるでしょう。
企業全体を譲渡する手法よりも、企業への影響を少なくできる点もメリットになります。
従業員の雇用を継続できる
従業員の雇用を継続し、人材の流出を防げる点もメリットです。事業譲渡した結果、従業員がいなくなる事態を防ぐことができます。
会社分割の場合、従業員との雇用関係も引き継ぐことが可能です。従業員との再契約を行わずに、譲渡した先で働いてもらえます。
人材が流出してしまうと、人材不足やノウハウ流出などのリスクも発生します。雇用関係を引き継ぎ、継続して働いてもらえることはメリットになるでしょう。
倒産のリスクを軽減できる
分割を行うことにより、倒産するリスクを軽減できます。分社化によって、リスクの分散が可能になるからです。
1つの企業で複数の事業を抱えている場合、採算の取れない事業が、ほかの事業の足を引っ張るケースがあります。損失が増えた結果、企業自体が倒産してしまうこともあるでしょう。
新設分割を行えば、業績の良い事業を子会社にしておくことで、親会社が倒産しても、子会社を残すことができます。また、事業を分けることで、業務効率が上がり、業績にプラスの影響も期待できます。
会社分割を行う5つのデメリット
会社分割を行う場合、次の5つのデメリットに注意しましょう。
- 債務を引き継ぐ可能性がある
- 税務の手続きが大変になる
- 株主の賛成が必要
- 実施に時間が掛かる
- 許認可が引き継げない業種もある
それぞれのデメリットを解説します。
債務を引き継ぐ可能性がある
債務を引き継ぐ可能性に注意しましょう。事業だけではなく、企業が持つ権利や義務も合わせて譲渡対象になるからです。そのため、譲渡を受ける企業は、債務も合わせて引き継ぐ必要があります。
債務関係で発生しやすいリスクが、簿外債務です。貸借対照表に計上されていないことから、M&A成立後に発覚し、問題になるケースもあります。リスクを避けるためにも、デューデリジェンスを実施し、債務がどのくらいあるか確認しておきましょう。
税務の手続きが大変になる
税務の手続きが大変になるデメリットもあります。「適格分割」と「非適格分割」の2区分があり、税務の手続き内容が変わってくるからです。
また、事業を切り離し、独立させることで、これまで以上に税務に掛かるコストや労力が増加します。会社分割を行う前に、税務を扱う人員や時間を確保できるか、確認しておきましょう。
分割実施には株主総会の実施が必要
会社分割を行うためには、株主総会を実施し、株主の同意を得る必要があります。株主総会を開くための手間やコストは、デメリットになるでしょう。
また、株主総会での特別決議も求められます。特別決議では、「議決権の半数以上の株主が出席し、出席した株主の3分の2以上の賛成」が必要です。
株主総会で株主からの同意を得るためには、会社分割の目的やメリットを説明し、理解してもらうことが必要です。スムーズに会社分割を進めるためにも、株主に説明できるようにしておきましょう。
実施に時間が掛かる
実施に時間が掛かる点もデメリットです。「株主総会の開催」「会社登記の手続き」「買い手側が上場していない場合の株式評価」などの実施が必要になります。
たとえば、会社の登記を行う場合、官報公告を出せるまでに4週間前後掛かり、加えて官報公告の期間が約1ヶ月、合わせて2か月ほど必要になります。また、株主総会の通知を送る際に、株主に通知が届くまでの時間も必要です。登記や株主総会の開催など、手続きに時間が掛かる点には注意しましょう。
許認可が引き継げない業種もある
許認可が引き継げない業種もあることを覚えておきましょう。許認可は、「自動的に承継される許認可」「行政庁などの承認が必要な許認可」「再申請が必要な許認可」の3つに分類できます。
たとえば、介護事業や運送業は、行政庁などの承認が必要です。また、建設業や宅地建物取引業は、再申請を行い、改めて取得を行う必要があります。会社分割予定の事業が引き継げるかどうか、事前に確認しておきましょう。
自動的に承継される許認可 | 行政庁などの承認が必要な許認可 | 再申請が必要な許認可 |
など |
など |
など |
新設分割で会社分割を行う際の流れ
ここでは、新設分割で会社分割を行う際の流れを解説します。基本的な流れは、次のとおりです。
- 分割計画書を用意する
- 事前開示書類を作成する
- 分割を従業員に通知する
- 反対する株主がいた場合対応する
- 債権者保護手続きを実施する
- 株主総会を開く
- 会社の登記を行う
- 事後開示書類を作成する
それぞれ具体的に解説します。
分割計画書を用意する
新設分割を行う場合、分割計画書を用意しましょう。分割計画書を作成し、株主総会の特別決議で計画を承認してもらう流れが必要になるからです。分割計画書には、次のような内容を記載します。
- 設立会社の商号、目的、本店所在地
- 設立会社の発行可能株式総数
- 設立会社の定款に定める事項
- 設立会社の役員、会計参与、監査役の氏名
- 設立会社に承継する権利義務に関する事項
- 新設分割計画書の印紙税額
分割計画書に関しては、専門家にアドバイスを受けながら作成しましょう。
事前開示書類を作成する
新設分割を行う場合、事前開示書類の作成と備置が必要です。分割を行う企業の本店に、書類を設置しましょう。事前開示書類には、次のような内容を記載します。
- 新設分割計画の内容
- ほかの当事会社の貸借対照表や損益計算書などに関する事項
- 分割元の会社および、新設会社の債務履行の見込みに関する事項
また、事前開示書類の備置期間は、「備置開始から会社分割の効力発揮から6ヶ月経つまで」と定められています。
備置開始のタイミングは、「株主総会開催の2週間前」「債権者保護手続きの公告または催告のうち早い日」「新株予約権の買い取り請求の通知、または公告日のうち早い日」のどれかで実施します。
これらに当てはまらない場合は、分割計画の作成日から、2週間後に備置を行いましょう。
分割を従業員に通知する
新設分割を行う場合、従業員に新設分割に関して従業員に通知が必要です。労働承継法に基づき、次のような内容を通知しましょう。
- 承継される事業の概要
- 会社分割の効力発生日
- 分割を行う会社、および設立会社の名称
- 分割を行う会社、および設立会社の事業内容
- 会社分割後に予定される従業員の就業場所
- 会社分割後に予定される従業員の業務内容
- 従業員が異議申し立てができる期限日
また、従業員への通知は、「株主総会2週間前の前日」「分割計画書作成から2週間後」までに実施が必要です。
反対する株主がいた場合対応する
会社分割に反対する株主が現れた場合、個別に対応が必要になります。反対株主は、株式買取請求権を所持しており、行使が認められるからです。会社分割を行う企業は、反対株主に対し、株式買取請求権の通知を実施します。通知に関しては、株主総会開催から2週間以内に実施しましょう。
債権者保護手続きを実施する
債権者保護手続きとは、組織再編時に自社の債権者利益を守るため、組織再編に関する異議申し立ての期間を設ける手続きです。分割を行う会社は、効力が発生する1ヶ月以上前に、異議申し立てに関する公告を行う必要があります。
債権者からの異議がない場合、会社分割を認めると見なされます。もし、異議が発生した場合には、次のような対応を行うようにしましょう。
- 弁済
- 相当する担保の提供
- 債権者への弁済のため、財産信託を行う
ただし、会社分割が債権者に対して害を及ぼさないと判断された場合は、弁済などの対応は必要ありません。
株主総会を開く
新設分割の実施には、株主総会での特別決議が必要です。株主総会実施に向けて、株主に招集通知を出しましょう。招集通知と合わせて、新設分割の実施も通知が必要になります。招集通知は、株主総会を開く2週間前までに実施しましょう。
会社の登記を行う
設立会社の登記と、分割会社の変更登記を行いましょう。分割会社側の登記にあたっては、次のような書類を用意しましょう。
- 代表取締役の印鑑登録証明書
- 資本金減少の証明書類
また、新設会社の登記に関しては、次のような書類が必要になります。
- 新設分割計画書
- 設立会社の定款
- 役員就任の承諾書
- 役員の印鑑登録証明書
- 役員の本人確認書類
- 株主総会の議事録
- 債権者保護手続きに関する書類
- 資本金が会社法に基づいて計上されたことを保証する書類
- 代表取締役の選定書
設立会社、分割会社ともに、基準日から2週間以内に登記を行うことが求められます。基準日に関しては、次のとおりです。
- 株主総会の特別決議を行った日
- 種類株主総会決議を行った日
- 分割会社が定めた日
- 株式の買取請求に対する通知および公告日から20日を経過した日
- 新株予約権買取請求に対する通知および公告日から20日を経過した日
- 債権者異議手続きが完了した日
事後開示書類を作成する
新設分割の場合、事後開示書類の作成と備置が義務付けられています。事後開示書類には、次のような内容を記載しましょう。
- 分割登記の実施日
- 承継された権利義務に関する事項
- 新設分割の効力発生日
- 株主への通知と公告、株式の買取請求
- 新株予約権者への通知と公告、新株予約権買取請求
- 債権者保護手続きの経過
また、効力が発生した日から6ヶ月間は、本店に備置しておきましょう。
吸収分割で会社分割を行う際の流れ
吸収分割で会社分割を行う場合、次のような流れになります。
- 吸収分割契約書の作成と締結を行う
- 事前開示書類を作成する
- 労働者保護手続きを実施する
- 債権者保護手続きを実施する
- 株主総会を開く
- 会社の登記を行う
- 事後開示書類を作成する
それぞれの工程を解説するため、参考にしてください。
吸収分割契約書の作成と締結を行う
吸収分割契約書を作成し、吸収分割の準備を進めましょう。吸収分割契約書には次のような内容を記載します。
- 分割会社および分割承継会社の商号と住所
- 承継会社が分割会社から承継する資産や債務、雇用契約などに関する事項
- 吸収分割で分割会社または承継会社の株式を承継させる場合、当該株式に関する事項
- 承継会社が分割会社に対し、事業に関する権利義務の全部または一部に変わる金銭を交付する場合の記載
- 分割承継株式会社が吸収分割に際して、分割株式会社の新株予約権の新株予約権者に対して当該新株予約権に代わる当該分割承継株式会社の新株予約権を交付するときは、当該新株予約権に関する事項
- 5の場合における、分割契約新株予約権の新株予約権者に対する5の吸収分割承継株式会社の新株予約権の割当てに関する事項
- 吸収分割の効力発生日
- 分割会社が効力発生日以降に、全部取得条項付種類株式の取得、または剰余金の配当を行う場合はその旨
吸収分割契約書の作成では、専門家のアドバイスを受けると良いでしょう。契約書作成が終われば、吸収分割契約を締結します。
参照元:e-Gov法令検索「会社法758条」
事前開示書類を作成する
事前開示書類を作成し、本店に備置しましょう。事前開示書類とは、株主や債権者の保護を行うための情報を記した書類のことです。事前開示書類を設置するタイミングは、次の3つのうち、最も早い日になります。
- 株主総会日の2週間前
- 株主に対する公告または通知のうち、早い日
- 債権者に対する公告または催告のうち、早い日
また、設置期間は、吸収分割の効力が発生した日から、6ヶ月間経過するまでになります。
労働者保護手続きを実施する
分割会社の従業員に対しては、労働者保護手続きを行いましょう。吸収分割は、部分的包括承継に該当し、従業員に個別で同意を得なくても、労働契約を承継できるからです。この場合、吸収分割で転籍する従業員は、転籍を拒否できません。そのため、従業員に対する救済措置として労働者保護手続きが定められています。
労働者保護手続きでは、次のような手続きを行いましょう。
- 吸収分割の背景や理由に関して、分割会社の過半数労働者や労働組合に説明し、理解や協力をもらう
- 分割会社の従業員と個別に話し合う
- 異議申し立てに必要な情報を書面で通知する
従業員は、通知内容に対して異議申し立てが可能です。分割会社に残ることを要求したり、承継会社への移籍を求めたりするなど、吸収分割の契約内容に反対できます。
債権者保護手続きを実施する
吸収分割では、債権者保護手続きの実施が必要です。承継会社の債権者は、吸収分割へ異議申し立てする権利を持っているからです。
また、分割会社の債権者も、異議申し立てができるケースがあります。そのケースには、分割会社に対し、債務履行を請求できない場合が該当します。
債権者保護手続きは、効力が発生する前日から1ヶ月前までに実施しましょう。分割会社は吸収分割の実施に関する事項を官報で公告し、債権者に催告を行う必要があります。基本的には、個別での催告が必要です。ただし、定款で定められている場合は、官報への公告に加えて、日刊新聞または電子公告でも認められます。
株主総会を開く
株主総会を開き、特別決議を実施しましょう。吸収分割の効力発生日に対し、承認を得る必要があるからです。承継会社から、吸収分割を実施して良いか、承認を受けます。ただし、簡易吸収分割、または略式吸収分割を行う場合は、株主総会を取締役会での承認で代用可能です。
会社の登記を行う
吸収分割実施後は、会社の登記が必要です。分割会社は、次の書類を準備しましょう。
- 代表取締役の印鑑証明書
- 委任状(司法書士に依頼する場合)
また、承継会社の場合は、次のような書類が必要です。
- 吸収分割契約書
- 資本金の計上証明書
- 分割会社、承継会社ともに、分割契約を承認した際の株主総会議事録
- 債権者保護手続時の作成書面
- 新株予約権提出などの公告を実施した証となる書面
- 株主名簿・株券発行を実施していない証となる書面
- 分割会社、承継会社両方の株主リスト
- 分割会社の登記事項証明書
- 委任状(司法書士に依頼する場合)
ここで紹介した書類は、あくまで一例です。専門家に相談し、手続きを進めるようにしましょう。
事後開示書類を作成する
承継会社または分割会社が株式会社の場合、事後開示書類が必要になります。吸収分割の効力発生日から、6ヶ月間は、本店に事後開示書類を備置しましょう。
会社分割に掛かる費用
会社分割を実施する場合、手続きの費用が掛かります。具体的には、次のような費用が必要になるため確認しておきましょう。
- 専門家への依頼料
- 登録免許税
- 官報公告費
ここでは、それぞれの内容や、おおよその金額を解説します。
専門家への依頼料
会社分割は会社法に基づいて実施するため、弁護士に依頼するケースがあります。目安として、着手金は50万円から、成功報酬は50万円から掛かると想定しておきましょう。また、登記に関しても、司法書士に依頼を行うケースが一般的です。その場合、20万〜30万円ほどが必要になるでしょう。
登録免許税
登録免許税とは、登記を行う際に支払う税金のことです。分割会社の登記を行う場合は、登録免許税は3万円と定められています。
承継会社に関しては、会社によって異なるため注意しましょう。吸収分割の承継会社の場合、資本金の増加がなければ、登録免許税は3万円です。資本金が増加した場合は、「増加した資本金×0.7%」が登録免許税額になります。もし、算出額が3万円に満たない場合、3万円の支払いが必要です。
新設分割の承継会社の場合、「資本金×0.7%」が登録免許税です。吸収分割同様、算出額が3万円に満たない場合、登録免許税は3万円になります。
官報公告費
会社分割では、官報への公告が必要です。公告に掛かる費用が官報公告費であり、掲載する文字数と行数によって費用が決まります。一般的に掛かる費用は、7万円から9万円になるでしょう。
ただし、会社分割と同時に、決算公告も行うことが一般的です。合わせると、18万円から20万円ほど掛かることは覚えておきましょう。
参照元:全国官報販売協同組合「官報公告掲載料金」
会社分割で発生する税金
会社分割を行う場合、税金が発生するケースがあります。分割会社は資産譲渡を行う形になり、譲渡損益が発生するからです。ただし、一定の要件を満たす場合、分割会社や分割承継会社、株主には税金が掛かりません。この要件を満たした場合を「適格分割」、要件を満たしていない場合を「非適格分割」と呼びます。
適格分割の要件を満たすケースは、次のとおりです。
支配率が100%の場合 | 支配率が50%以上~100%未満の場合 | 共同事業を行う場合の組織再編成 |
|
|
|
参照元:財務省「組織再編税制に関する資料」
法人税
適格分割の場合、法人税は掛かりません。時価ではなく簿価による譲渡処理が認められ、譲渡損益が計上されないからです。
一方で、非適格分割の場合は、譲渡した資産の譲渡損益計上が必要になります。そのため、法人税の課税対象です。
繰越欠損金
繰越欠損金とは、将来に繰り越す欠損金のことです。会社分割を行う場合、繰越欠損金を節税に活用できます。
まず、分割会社では、適格分割、非適格分割ともに、繰越欠損金を引き続き利用できます。分割承継会社かつ、適格分割の場合は、一定の制限はあるものの、既存の繰越欠損金を利用できます。ただし、吸収分割や新設分割での繰越欠損金は引き継げません。
分割承継会社かつ、非適格分割の場合は、既存の繰越欠損金を制限なく利用可能です。ただし、適格分割のとき同様、吸収分割や新設分割での繰越欠損金の引継ぎはできません。
繰越欠損金の引継ぎは、租税回避防止の観点から、制限が実施されています。繰越欠損金の引継ぎを行えるか判断するためにも、専門家に相談しましょう。
不動産取得税
会社分割では不動産も譲渡対象になることから、不動産所得税が発生します。不動産所得税に関しても、非課税になるケースがあるため覚えておきましょう。
まず、会社分割で発生する不動産取得税は、原則課税対象です。ただし、適格分割の場合、非課税に該当します。非適格分割の場合は、2008年4月1日から、2021年3月31日までに取得した不動産が課税対象です。この場合、固定資産評価額の4%の納税が必要になります。
会社分割時の従業員の扱いと対応
会社分割時には、従業員の扱いに注意しましょう。ここでは、会社分割を行う場合に必要な手続きや対応を解説します。
従業員と労働組合への通知が必要
労働者契約承継法に基づき、従業員と労働組合への通知が必要です。従業員に関しては、「承継を行う事業に従事する従業員」または、「分割後に設立会社、または吸収会社に従事する従業員」に対し、通知が必要です。
従業員への通知期限
従業員への通知期限は、会社分割の承認を得るために実施する、株主総会2週間前の前日までです。株主総会の特別承認が必要ない場合は、分割契約の締結日、または分割計画書作成日から2週間を経過するまでに通知を行いましょう。
労働組合への通知も、従業員に対する通知と同じタイミングで実施します。
従業員への通知事項
従業員に対する通知事項には、次のような内容があります。
- 通知の対象従業員との間で締結している労働契約を承継会社が承継する旨の吸収分割契約における定めの有無
- 異議申し立ての期限日
- 承継会社に承継される事業の概要
- 効力発生日以後における分割会社及び承継会社の称号、住所、事業内容及び雇用することを予定している従業員の数
- 効力発生日
- 効力発生日以後における分割会社または承継会社において当該従業員について予定されている従事する業務の内容、就業場所そのほかの就業形態
- 効力発生日以後における分割会社及び承継会社の債務の履行の見込みに関する事項
- 労働契約の承継に異議がある場合は、その申出を行うことができる旨及び異議の届け出を行う際の当該申出を受理する部門の名称及び住所、または担当者の氏名、職名及び勤務場所
また、労働組合への通知に関しては、次の内容が必要です。
- 承継会社に承継される事業の概要
- 効力発生日以後における分割会社及び承継会社の称号、住所、事業内容及び雇用することを予定している従業員の数
- 効力発生日
- 分割後の分割会社および承継会社の債務の履行見込みに関する事項
- 承継会社の従業員となる者の範囲、どの従業員か労働組合にとって明らかにならない場合には、承継会社の従業員となる者の氏名
- 承継会社が承継する労働協約の内容
従業員、および労働組合どちらに関しても、書面での通知を行いましょう。
従業員からの異議申し立て
対象の従業員は、異議がある場合、申し立てを行うことができます。申し立ての期限は、会社分割を承認する株主総会開催日2週間前の前日から、株主総会日の前日までの間で、分割会社が指定可能です。ただし、通知が行われてから異議申し立ての期間までの間に、13日間を置く必要があります。
会社分割の事例
ここでは、これまでに行われた会社分割の事例を紹介します。新設分割、吸収分割それぞれの事例を紹介するため、参考にしてください。
新設分割の事例
経営資源を集中させる目的で、新設分割を行った事例があります。飲食店を営む企業にて、飲食事業の1つを会社分割し、分社化を行うことが発表されました。分社化により、「経営判断の迅速化」「経営の効率化」「収益体制の強化」を図るとしています。
吸収分割の事例
経営の効率化を目的に、吸収分割を実施した事例があります。通信事業を営む企業は、自社が持つ配信サービスを吸収分割で承継させることを発表しました。承継先は、配信サービスを営む企業です。この吸収分割にあたっては、「承継を行うことが、事業の強化、提供価値の拡大にあたると判断した」と発表されています。
会社分割でよくある質問
合併との違いは?
合併と会社分割の違いは、「事業単位」で引継ぎを行う点です。合併の場合、企業全体が引継ぎの対象になります。そのため、片方の会社は消滅し、吸収、または新しい会社が設立されます。
一方で、会社分割の場合、事業が引継ぎの対象です。そのため、事業を譲渡した企業は存続し、事業を続けることが可能になります。
会社分割にかかる期間は?
会社分割に掛かる期間は、数か月ほどです。株主総会開催の通知や、債権者への広告など、準備が必要になります。
また、分割会社と承継会社でタイミングを合わせて、手続きを行うことも必要です。株主総会開催までに2か月以上掛かるケースもあるため、余裕をもってスケジュールを決めておきましょう。
まとめ
経営を立て直す目的や好調な事業に集中するために、会社分割が活用されています。会社分割を実施し、企業の業績や状況を良くしたいと考える経営者も多いことでしょう。
会社分割には、「買収資金が必要ない」「倒産のリスクを軽減できる」などのメリットがあります。ただし、「債務を引き継ぐ可能性」「税務の手続きが簡単になる点」などには注意しましょう。
会社分割のリスクを軽減し、スムーズに手続きを進めるためには、M&A仲介会社の活用がおすすめです。会社分割の実績を持つM&A仲介会社であれば、安心してサポートを任せることができます。
レバレジーズM&Aアドバイザリー株式会社は、M&A全般をサポートする仲介会社です。幅広い領域に精通したコンサルタントが、相談から成約まで一貫してサポートを行います。
料金に関しては、M&Aの成約時に料金が発生する、完全成功報酬型です。M&A成約まで、無料でご利用いただけます(譲受側のみ中間金あり)。
ご相談も無料で実施しているため、会社分割でのM&Aを検討している際には、お気軽にお問い合わせください。