このページのまとめ
- TSAとは、M&A中に対応が必要なサービスに関して、管理方法を決める契約
- TSAでは、「バックオフィス業務」「ロジスティクス」などが対象になる
- TSAを行うタイミングは、最終契約締結からM&A終了の間
- TSAを結ぶ際は、M&A仲介会社を活用するとスムーズ
事業譲渡や会社分割で欠かせない契約が、TSAです。M&Aを成功させ、スムーズな体制移行を行うためには欠かせません。しかし、TSAに関して把握しておらず、対応に失敗してしまうケースも見られます。本記事では、TSAの概要や、実施タイミング、対象になる範囲などを解説します。事業譲渡などで経営統合をスムーズに行うためにも、参考にしてください。
目次
M&AにおけるTSAとは
M&AにおけるTSAとは、M&A期間中のサービスに関して、管理方法や責任の所在を決めるための契約です。「Transition-Service-Agreement」の頭文字をとったものになります。M&Aを行う際には、売り手企業から買い手企業にサービスの管理を移す期間が必要です。その期間の対応内容を決めたものが、TSAになります。
TSAを行う目的
TSAを行う目的は、トラブル防止のためです。M&Aを行う場合、交渉成立までに、サービスの移行が十分に行えないケースもあります。その際、サービスに関する管理や責任の所在を曖昧にしてしまうと、問題が発生した場合にトラブルが生じてしまうでしょう。このようなトラブルを避けるためにも、TSAを行い、円滑に交渉が実施できるようにします。
TSAを行うタイミング
TSAを行うタイミングは、クロージング場面です。そのために、デューデリジェンスを実施し、TSAが必要なサービス範囲を洗い出しておきましょう。実施が遅過ぎると、経営統合後のサービス移行に問題が発生しやすくなります。専門家のアドバイスを受けながら、TSAに関するデューデリジェンスと契約を進めましょう。
TSAで契約する内容
実施に向けて、どのような契約を行うか把握しておきましょう。具体的には、次の4つを定めるケースが一般的です。
- サービスの利用者
- サービス範囲
- サービスの対価
- 契約期間
ここでは、それぞれの内容に関して解説するため、参考にしてください。
サービスの利用者
サービスを利用するのは誰か、明確に決めておきましょう。この場合、サービスの利用者が買い手企業、サービスの受給者が売り手企業になります。この両社で契約を結ぶため、明確に示しておきましょう。
サービス範囲
どのサービスが適用されるか、適用される範囲がどこまでか決めておきましょう。サービスの範囲は、具体的に決めておくことが大切です。もし、曖昧にしてしまうと、トラブルが発生した場合に、責任の所在を争うことになります。サービス範囲を具体的に定め、契約内容に示しましょう。
サービスの対価
サービスに対して、対価を支払うことも必要です。「対価の金額」「支払い方法」なども定めておきましょう。月払いや年払いのように、定めるケースが一般的です。
契約期間
契約期間を決め、効力が発生するようにしましょう。有効日と終了日の記載が求められます。また、契約延長や途中解除に関しても定めておきましょう。
M&AでTSAが対象になる範囲
M&AでTSAを締結する場合、次のような範囲が対象になります。
- バックオフィス業務
- ロジスティクス
- サプライチェーンマネジメント
- 研究開発
- 機密情報
それぞれの内容やポイントを紹介するため、参考にしてください。
バックオフィス業務
人事総務などのバックオフィス業務も、TSAのサービス範囲になります。日常的に行われる業務であり、急激に担当者を変えることが難しいからです。引継ぎに余裕を持ち、サービスを移行させることが求められます。
ロジスティクス
ロジスティクスとは、物流や在庫を管理し、コスト削減や効率化を行う部門のことです。在庫管理も行っているため、引継ぎを入念に行う必要があります。管理者が急に変わってしまうと、取引先への対応が困難になるため、サービス範囲に含まれるケースが多い部門です。
サプライチェーンマネジメント
サプライチェーンマネジメントとは、グループ企業全体で仕入れを行うことを指します。グループ全体で仕入れや管理を行うことで、効率化が見込めるためです。M&Aで統合した場合、仕入れや管理をどのように進めるかもポイントになります。売り手企業のノウハウを使用するためにも、サービス範囲に含めるケースが多い部門です。
研究開発
研究開発を行う部門がある場合、研究開発部門もサービス範囲に含まれる傾向があります。これまでに行われていた研究や技術を引継ぎ、新しい開発に活かせるでしょう。
機密情報
企業が持つ機密情報を譲渡するケースもあります。研究情報も、機密情報に含まれるケースがあるため覚えておきましょう。事業拡大のために、企業が所持する情報やノウハウを目的にするケースもあります。そのため、機密情報をサービス範囲に含め、譲渡が行われます。
M&AでTSAを締結するまでの流れ
TSA実施に向けて、どのような流れで行うかを知っておきましょう。一般的に、TSAはクロージング場面で行われます。ただし、M&Aはクロージング場面に至るまでの過程も長く、全体的な流れを知っておくことが大切です。ここでは、TSA実施までの流れを、「準備段階」「交渉段階」「最終契約」の3段階に分けて解説します。どのような流れで行われるか、確認してみましょう。
準備段階
準備段階では、次の4つを実施します。
- 秘密保持契約
- アドバイザリー契約
- ノンネーム登録
- バリュエーションの実施
それぞれの内容を把握しておきましょう。
秘密保持契約
M&A実施に向けて、秘密保持契約を結びます。秘密保持契約とは、交渉で必要になる自社情報を提供した際に、外部に流出されないよう結ぶ契約のことです。もし、情報流出をしてしまうと、他社が買収に参入してくる問題も考えられます。そのため、秘密保持契約を結び、自社に関する情報が流出しないように、対策を行います。
アドバイザリー契約
アドバイザリー契約とは、M&Aの専門家から、実施に向けたアドバイスをもらうための契約です。M&Aは法律が絡み、自社の担当者だけで進めることが難しいからです。トラブル発生や手続きミスなどのリスクを考えて、アドバイザリー契約を結ぶ方が良いでしょう。アドバイスを受けることで、自社が損することなく、スムーズにM&Aを進められます。
ノンネーム登録
ノンネーム登録とは、匿名で要約書を作成する契約のことです。要約書に社名が記載されていると、譲渡企業が特定されてしまい、場合によってはM&Aが進めにくくなってしまうことがあります。
ノンネーム登録であれば企業名ではなく、業種や企業規模、譲渡する理由などから相手企業の情報を把握できるため、より客観的な判断ができるようになります。
バリュエーションの実施
バリュエーションとは、M&Aを行うために、企業価値を算出する場面を指します。企業価値の算出は、買収価格を決めるために必要になるため、必ず実施しましょう。バリュエーションを行う際には、「企業概要書」をもとに判断を行います。事業情報や財務状況などが記されているため、記載内容に応じて買収を行うか決めましょう。企業価値が買収価格に影響するため、買い手と売り手双方にとって、大切な工程になります。
交渉段階
準備段階で問題がなければ、交渉に移ります。交渉では、次のような手続きを行うようにしましょう。
- 秘密保持契約
- 企業概要書の確認
- トップ面談
- デューデリジェンス
契約内容を決めるために必要な手続きになるため、参考にしてください。
秘密保持契約
情報流出を防ぐために、再度秘密保持契約を結びます。交渉段階でも、重要な情報を流出しないように注意しましょう。双方が安心して交渉を行うためにも、秘密保持契約が大切です。
企業概要書の確認
買い手企業は、企業概要書の確認を行いましょう。トップ面談実施に向けて、売り手企業の情報を知っておくことが必要だからです。また、企業概要書の内容によって、M&A実施を決めるケースがほとんどです。自社にとってメリットがあるか、シナジーが期待できるかなど、企業概要書から確認するようにしましょう。
トップ面談
買い手企業と売り手企業の経営者で、トップ面談を行いましょう。企業概要書を確認し、疑問点などを質問します。また、M&A成功に向けて、企業のビジョンや方向性を話し合うことも大切です。経営者同士の方針が合致すると、話し合いも成功しやすくなるでしょう。今後の交渉や計画にも影響する面談になるため、重要な工程です。
デューデリジェンス
最終契約に向けて、デューデリジェンスを実施しましょう。デューデリジェンスとは、売り手企業に対して行う企業調査のことです。売り手企業の財務や法務に問題がないか、簿外債務のリスクがないかなどを確かめます。M&Aを成功させるためには、デューデリジェンスの実施が不可欠です。トラブルを防ぐためにも、必ず行いましょう。また、実施する場合、専門家に任せることが大切です。問題の見落としが発生しないよう、M&A仲介会社などにデューデリジェンスを依頼しましょう。
最終契約
デューデリジェンスで問題がなければ、最終契約を実施します。具体的には、次のような流れで行うため、覚えておきましょう。
- 基本合意
- 最終譲渡
- クロージング
- ディスクロージャー
- 現金や買収企業の株式による対価の支払い
- TSA
TSAに関しては、この最終契約段階で実施します。
1.基本合意
デューデリジェンスで問題がなければ、双方で基本合意を行います。基本合意の時点で、買い手企業は売り手企業に対し、独占交渉権を獲得できます。基本合意ができれば、交渉が成立すると考えて良いでしょう。基本合意では、「譲渡金額」「スケジュール」などを定めた契約を行います。基本合意の内容に基づいて今後の手続きが進められるため、記載漏れがないようにしましょう。ただし、基本合意の段階では、法的拘束力がない点に注意が必要です。
2.最終譲渡
最終譲渡が行われることで、M&Aに法的な拘束力がもたらされます。もし、契約内容に違反した場合、賠償請求が発生する可能性もあるため注意しましょう。最終契約の段階では、最終譲渡契約書の締結を行います。
3.クロージング
クロージングとは、経営権を移行させるために行う手続きのことです。たとえば、株式を譲渡し、対価に金銭を支払うことがクロージングになります。株式譲渡や事業譲渡など、M&Aの手法によって手続きは変わるため、進め方はM&A仲介会社に相談しましょう。
4.ディスクロージャー
M&Aでは、従業員や取引先に対し、情報を開示しなければなりません。このことを、ディスクロージャーと呼びます。金融商品取引法に定められているため、法律に従い情報開示を行いましょう。
参照元:北海道財務局「ディスクロージャー制度の概要」
5.現金や買収企業の株式による対価の支払い
買い手企業は売り手企業に対し、現金や自社株式などを対価として支払います。特に問題がなければ、TSAに進み、M&Aは完了します。
M&Aは完了までに1年ほどかかることが一般的です。企業規模が大きく、新体制への移行に時間がかかる場合は、さらに長引くことになります。
6.TSA
M&A終了に向けて、最後に行われるのがTSAです。M&Aでの契約が決まった後に、買い手企業にサービスを移行させるからです。株式の譲渡や対価の支払いに加え、TSAを終えた時点で、M&Aも終了になります。クロージングだけでは、M&Aが終わらない点には注意しましょう。
TSAに関連する契約
M&Aでは、TSAに関連する契約が複数あります。交渉成功に向けて重要な契約ばかりになるため、確認しておきましょう。具体的には、次の3つが重要です。
- 基本合意契約
- 最終契約
- 業務委託契約
それぞれ内容を紹介するため、参考にしてください。
基本合意契約
M&A実施に向けて、まずは基本合意契約の締結が必要です。交渉内容を明確にし、スムーズに手続きを行う目的があります。基本合意では、基本合意契約書が必要です。具体的には、次のような内容を記載するようにしましょう。
- 使用する手法(株式譲渡など)
- 譲渡価格
- スケジュール
- 秘密保持契約
- 独占交渉権の付与
- 保証債務
- デューデリジェンスの実施
- 一般条項
最終契約
最終契約を結ぶことで、M&Aに法的な拘束力が発生します。そのため、最終契約書の内容がさらに重要になることを覚えておきましょう。M&A仲介会社のサポートを受けながら、契約書を作成すると安心です。最終契約書に関しては、次のような内容を記載すると覚えておきましょう。
- M&Aの対象
- 譲渡価格
- 表明保証
- 補償条項
- クロージングの誓約事項
- 解除条項
- 競業避止義務
- 損害賠償
業務委託契約
TSAと密接に関わる契約に、業務委託契約があります。業務委託契約とは、自社で対応できない業務を外部に依頼し、遂行してもらう契約のことです。M&Aの場合、売り手企業で行われていたサービスを買い手企業が継続して利用するために、M&A終了まではTSA契約を結びます。ただし、M&A終了後もサービスを継続して利用したい場合は、業務委託契約が必要になります。このように、売り手企業のサービスを利用する場合、M&A期間中はTSA契約を結び、M&A終了後は業務委託契約に切り変えなければなりません。この2つの契約は、密接にかかわっているため、覚えておきましょう。
M&AやTSAを成功させるための相談先
M&AやTSAを成功させるためには、社外の専門家に相談することが必要です。主な相談先としては、次の6つが挙げられます。
- 公認会計士・税理士などの士業専門家
- 取引のある金融機関
- 商工会・商工会議所等の団体組織
- 事業承継・引継ぎ支援センター
- ファイナンシャルアドバイザー
- M&A仲介会社
それぞれの相談先の特徴、相談するメリットや注意点について見ていきましょう。
公認会計士・税理士などの士業専門家
公認会計士や税理士に相談するメリットには以下のものがあります。
- 自社の財務状況や税務などを詳しく理解しているため、的確なアドバイスをもらえる
- 客観的かつ専門的な視点で自社の企業価値の見積もりや相手企業の財務・税務を調査できる
自社の状況を熟知している専門家に相談することで、客観的かつ専門的なアドバイスや調査をしてもらえます。
また、弁護士に相談するのも一つの方法です。M&Aを得意とする弁護士事務所なら、法務デューデリジェンス・契約書の作成・相手企業との交渉・株主総会の対応なども期待でき、M&Aにおけるさまざまな局面でサポートを受けられます。
ただし、士業専門家は基本的には専門となる分野以外のサポートを提供していません。公認会計士なら財務、弁護士なら法務のサポートのみとなるため、M&Aを実施する際にはさまざまな資格を持つ専門家に相談することが必要です。
取引のある金融機関
取引のある金融機関に相談することには、次のメリットがあります。
- 独自ネットワークを活かして地域の相手候補企業を紹介してくれる
- 自社の財務状況を反映したM&Aの資金計画を立ててくれる
地域に根ざした地方銀行や信託銀行などに相談すれば、独自のネットワークを活かして相手候補企業を紹介してくれることもあります。また、自社の財務状況を的確に判断してくれるため、M&Aの資金計画も立てやすくなります。
ただし、金融機関はお金のプロフェッショナルですが、M&Aの専門家ではありません。法務や税務などについては、別の専門家に相談する必要があります。
商工会・商工会議所等の団体組織
地域の商工会や商工会議所に登録している場合は、M&Aについて相談してみましょう。次のメリットがあります。
- 相談だけでなくサポートも無料で受けられる
- 公的な助成金制度・補助金制度を紹介してもらえる
商工会・商工会議所は会員企業の支援を行う団体のため、相談に応じてもらえるだけでなく、可能な範囲でのサポートも得られます。
商工会・商工会議所によっては、M&Aも含む事業承継に対して専門的に取り扱っていることもあり、知識やノウハウのある担当者に相談できることがあります。また、国や自治体が実施している中小企業向けの助成金制度や補助金制度にも詳しく、活用できる制度を紹介してもらえるかもしれません。
メリットも多い一方で、デメリットもあります。商工会・商工会議所はM&Aのサポート専門機関ではないため、M&Aの相手企業を紹介してもらえることはありますが、地域外の企業とのマッチングは難しく、相手企業の選択肢が限られてしまいます。
事業承継・引継ぎ支援センター
事業継承・引継ぎ支援センターに相談することには、次のメリットがあります。
- 利用手数料がかからない
- 公的な助成金制度・補助金制度を紹介してもらえる
- 小規模案件に対応している
事業承継・引継ぎ支援センターは公的な支援機関です。そのため、利用手数料がかからず、気軽に相談できます。国や地域の助成金制度や補助金制度についても詳しく、適用できる制度を紹介してもらえることもあります。
また、親族内承継なども対応しているため、M&A仲介会社が対象としていない小規模案件でも相談可能です。ただし、民間のM&A仲介会社と比べると対応に時間がかかる傾向にあるため注意が必要です。
ファイナンシャルアドバイザー
ファイナンシャルアドバイザーとは、売り手企業もしくは買い手企業のどちらか一方の側に立ち、M&Aをサポートする専門家のことです。M&Aの計画や交渉、クロージングなどを一貫してサポートしてくれるため、スムーズなM&Aが可能になります。
ただし、相手企業との間を取り持つわけではないため、次に紹介するM&A仲介会社と比べると交渉が長引くこともあります。
M&A仲介会社
M&A仲介会社に相談することには、次のメリットがあります。
- 中立的なサポートを得られる
- M&A関連のほとんどすべての業務を任せられる
M&A仲介会社とは、売り手企業と買い手企業の間に立ち、中立的にM&A成立をサポートする専門会社のことです。サポートの範囲はM&A仲介会社によって異なりますが、相手候補企業の紹介から交渉、契約書の作成などのM&Aにかかわるほとんどすべての業務に対応していることが一般的です。
M&A仲介会社によって対象となる企業・案件の規模が異なるため、事前に確認しておくことが必要になります。また、公的機関ではないため、手数料が発生する点も留意しましょう。
まとめ
M&Aを行う場合、TSAが必要なケースも出てきます。特に、会社分割や事業譲渡の場合は、実施の必要があるか確かめましょう。
実施に関しては、デューデリジェンスを行う際に、確かめれば問題ありません。M&Aでデューデリジェンスは必須になるため、調査内容に含めておきましょう。
また、TSAをスムーズに成功させるためには、M&Aの専門家に協力してもらうことが大切です。経営統合を成功させ、事業を進めるためにも、M&A仲介会社に相談してTSAを行いましょう。
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