このページのまとめ
- TOBとは、株式公開買付けのこと
- TOBには、「友好的TOB」と「敵対的TOB」がある
- TOBが失敗すると、株価や株主に悪影響を及ぼすため注意が必要
- TOBを行う際は、M&Aに詳しい仲介会社に相談すると成功しやすい
「TOBを進めたいけども、どのように進めるかが分からない」と悩んでいる人も多いのではないでしょうか。事業拡大のために、TOBを選択肢に含める企業も多いことでしょう。
TOBは手順が決まっており、実施時のリスクも考えて動く必要があります。本記事では、TOBのメリットや実施方法、過去事例などを解説します。TOBを成功させるために、参考にしてください。
目次
TOB(新株式公開買付け)とは
TOBとは、「Take-Over Bid」の頭文字をとったもので、株式公開買付けのことを指します。株式公開買付けとは、株式の価格や取引の期間、株式数を告知し、売り手の株式を購入する行為のことです。また、株式公開買付けは、証券取引所を通さずに、直接購入する点もポイントです。
TOBの目的
TOBは、株式を大量に購入し、売り手企業の経営権や株主総会の特別決議否決権を獲得するために行われます。経営権などを獲得し、子会社化するケースが一般的です。
TOBでは、市場価格よりも高額な株価に設定されることが多いため、買主は一定の株式数を集めやすくなります。通常の株価よりも上乗せされる価格を「プレミアム」と呼び、株主の売却意欲を高める役割を果たします。
TOBの種類は「友好的TOB」「敵対的TOB」の2つです。まず、友好的TOBは、売り手の了承を得て行うTOBです。一方で、敵対的TOBは、売り手の了承を得ず、経営権を獲得するために実施されます。
TOBで取引所を使わない理由
TOBを行う場合、取引所を使わずに株式を購入します。その背景には、取引所を使用してしまうと、株価が急激に上昇してしまう恐れがあるからです。もし、取引所を使用して株価を購入すると、株式の大量購入に気づいた人々が、便乗するケースがあります。すると。株価が上がってしまい、買い手は想定よりも高い金額で株式を購入しなければなりません。このようなリスクを避けるためにも、取引所を使用せず、あらかじめ決めた価格で購入を行っています。
TOBを実施する場合のルール
株式を購入する際、一定の条件を満たすとTOBを実施しなければならないと定められています。次の2つのうち、どちらかに当てはまる場合は、実施が必要になると覚えておきましょう。
- 5%ルール
- 3分の1ルール
それぞれについて説明します。
5%ルール
5%ルールとは、株式を購入した結果、対象企業の株式を5%以上保有する場合、TOBでの購入が必要になるルールです。5%ルールの背景には、上場企業の株式のうち5%は高額な取引に該当し、株式市場が混乱してしまう恐れがあるからです。株式市場の混乱を避けるために、市場外で取引を行うことが定められています。ただし、買付けの実施人数が10人以下の場合は、使用しなくても良いケースがあるため、覚えておきましょう。
3分の1ルール
3分の1ルールとは、株式購入後に、対象企業の1/3以上の株式を所有する場合のルールです。以下の3つのパターンがあるため、覚えておきましょう。
- 取引市場外の場合
- 取引市場内の場合
- 段階的な株式取得の場合
取引市場外の場合
取引市場外での1/3ルールとは、「取引市場外で、60日で10名以内から買付けを実施し、所持率が1/3以上になる場合には株式公開買付けが必要」と定められたルールです。株式の1/3以上を取得した場合、株主総会における特別決議の否決権を持つことになります。すると、売り手側の経営に大きな影響を与えることになるでしょう。そのため、TOBを使用し、公開で買付けを行うことが求められています。
取引市場内の場合
取引市場内で購入し、株式の所持率が1/3を超える場合も1/3ルールの対象になります。2005年に、取引市場内で買付けを行うことで、証券取引法の穴をついた事件が発生したためです。その結果、株式の買付けに関する制度を見直し、取引市場内でも1/3ルールが適応されるようになりました。
段階的な株式取得の場合
段階的に買付けを行う場合も、TOBの対象になるケースがあります。「取引市場内外を問わず、3ヶ月以内に対象企業の全発行株式のうち10%以上を購入し、そのうち5%以上を取引市場外または特定売買で取得した結果、1/3以上の株式を所有率が1/3以上を超えた場合」です。
この制度の目的は、段階的に株式を取得し、1/3以上を獲得するケースを防ぐためです。たとえば、取引市場外で30%近くの株式を取得し、その後に買い付けを追加で行えば、1/3ルールに抵触せずに1/3以上の株式を取得できてしまいます。このような方法を防ぐために、段階的な株式取得に関しても、1/3ルールが設けられています。
参照元:金融庁「公開買付(TOB)制度の概要」
TOBの種類
TOBには、大きく分けて次の2種類があります。
- 友好的TOB
- 敵対的TOB
TOB実施に向けて、それぞれどのようなTOBなのか知っておきましょう。
友好的TOB
友好的TOBとは、売り手企業の同意を得たうえで実行する方法です。事前に株式公開で買付けを行うことを話し合い、話し合いで決められた条件で買付けを行います。たとえば、グループ企業を完全子会社にする場合、実施されるものが友好的TOBです。日本で実施されるTOBに関しては、多くが友好的TOBで実施されています。
ただし、友好的TOBでは双方の合意なしには成立しない点に注意が必要です。高いコストを払って話し合いを進めていても、合意を得られず、買収計画が実現しないこともあります。
また、友好的であることにこだわると、買収の機会を逸することにもなりかねません。状況によっては、次に紹介する敵対的TOBも検討できます。
敵対的TOB
敵対的TOBとは、売り手企業の同意を得ずに実施する方法です。対象企業の経営権を取得する目的で実施されます。敵対的TOBの場合、対象企業は買収を阻止しようと動きます。その際に、友好的TOBを活用して、敵対する企業から自社を守るケースもあると覚えておきましょう。そのため、敵対的TOBの成功率は、低くなっています。
TOBを実施する際の流れ
TOBの基本的な流れは次のとおりです。
- 公開買付届出書を提出する
- 意見表明報告書の提出と回答実施
- 公開買付説明書を作成する
- TOBの結果を報告する
順を追って解説します。
1.公開買付届出書を提出する
TOB実施に向けて、まずは「公開買付届出書」の提出を行います。公開買付届出書には、次のような内容を記載しましょう。
- TOBの目的
- 買付けの期間
- 買付けの価格
- 買付けの予定株式数
このうち、買付けの期間に関しては、金融商品取引法で20〜60営業日と定められているため、覚えておきましょう。また、TOBを行う際には、公開買付けの公告も必要です。新聞公告または電子公告を選択してください。電子公告の場合は、金融庁が運営している、「EDIENT」で行います。
参照元:e-Gov法令検索「金融商品取引法施行令」
参照元:金融庁「EDIENT」
2.意見表明報告書の提出と回答実施
公開買付届出書の提出後は、売り手企業も対応が必要です。具体的には、TOBに関して賛成するか反対するかを示した、「意見表明報告書」の提出が求められます。意見表明報告書は、EDIENTを使用し、内閣総理大臣宛に提出するため覚えておきましょう。
また、意見表明報告書では、買い手側の企業に対して、質問を行うこともできます。もし、売り手企業が質問を受けた場合には、5営業日以内に回答を提出しましょう。この場合も、EDIENTを使用し、内閣総理大臣宛に提出を行います。
3.公開買付説明書を作成する
売り手企業は、公開買付説明書の作成も行いましょう。投資家保護に必要な情報を記載します。公開買付説明書は、買い手企業の株主に対して提出します。買付けが始まる前、または買付けと同じタイミングで交付しましょう。
4.TOBの結果を報告する
TOBが終われば、結果報告が求められます。買い手企業は、新聞などのメディアを通じて報告しましょう。自社のWebサイトなど、インターネットを通じて公表するケースもあります。結果報告をするタイミングは、買付け期間最終日の翌営業日です。その際、応募があった株式数と、所定事項を報告しましょう。
買い手がTOBを行うメリット
買い手がTOBを行うメリットには、次のようなものがあります。
- 買収が成立しやすい
- 株式市場の影響を受けにくい
- 目標に満たなかった場合キャンセルできる
- スケジュール管理がしやすい
M&Aを成功させるため、確認しておきましょう。
買収が成立しやすい
買い手の場合、買収が成立しやすいメリットがあります。株式市場外で取引が実施され、他社の邪魔を受ける可能性が低くなるからです。また、友好的TOBの場合は、売り手企業の同意を得てから取引を実施します。そのため、買収が成立しやすい点も理由に挙げられるでしょう。
株式市場の影響を受けにくい
株式市場の影響を受けにくい点もメリットになります。株式市場外で買付けを行うことで、株価の変動を受けないためです。また、買収コストを予測して、予算内で実行できる点もポイントです。さらに、買付けの期間や買い取る株数も公開してから買収を行います。そのため、買収終了までの見通しが立てやすい点もメリットになるでしょう。
目標に満たなかった場合キャンセルできる
株式の取得数が目標に満たなかった場合、キャンセルできるのもメリットです。取得数が足りない場合でも、コストを掛けずに済みます。一方で、取引市場内で買付けを行う場合は、目標に満たない場合でもキャンセルできません。TOBであれば、キャンセルして体制が整えば、再チャレンジできます。このように、買収をより確実に実行できる点もメリットになるでしょう。
スケジュール管理がしやすい
買収までのスケジュール管理がしやすい点も、メリットに挙げられます。実施時に、あらかじめ期間を決めて、取引が行われるからです。株式市場内で取引を行う場合、ほかの企業や投資家の影響も受けてしまうため、スケジュールが読めません。一方で、TOBはスケジュールを決めて動けるため、買付けが行いやすくなります。買収成立までの期間が長くなるほど、担当者の負担が増加します。スケジュール管理ができ、安定して進められる点もメリットと言えるでしょう。
売り手がTOBを行うメリット
売り手側でTOBを行う場合、次のようなメリットがあります。
- 相場よりも高く売却できる
- 株式市場に影響されない
TOBを優位に進めるためにも、覚えておきましょう。
相場よりも高く売却できる
売り手側がTOBを行うメリットは、相場よりも高く売却できる点です。プレミアム価格で提示し、市場価格の30〜40%を上乗せできるでしょう。事前に交渉できるため、自社の条件を提示しやすい点もメリットになります。
株式市場に影響されない
株式市場に影響されない点も、TOBを行うメリットです。株式市場に惑わされずに、売却の見通しを立てられるでしょう。もし、株式市場内で売却を行う場合、株価変動で損をすることや、買い手がつかなくなってしまう可能性もあります。一方で、TOBは事前に価格を決められるため、株式市場の影響を受けません。あらかじめ売却金額を予想しやすい点も、TOBのメリットになるでしょう。
買い手がTOBを行うデメリット
買い手側でTOBを行う場合、次のようなデメリットに注意しましょう。
- 他社のTOBにより失敗する可能性がある
- 株式市場よりも高いコストが必要
- 買付けの公開が必要
TOBを成功させるためにも、参考にしてください。
他社のTOBにより失敗する可能性がある
他社のTOBを受けることで、失敗する可能性に注意しましょう。自社の動きを邪魔する企業が現れる可能性があるからです。たとえば、自社が友好的TOBを行いたくても、敵対的TOBに阻止されるケースもあります。また、自社が敵対的TOBを行う場合、他社の介入や買収防衛策によって、阻止されるケースもあるでしょう。TOBを行うからといって、必ず成功するわけではありません。他社が介入する可能性に注意しましょう。
株式市場よりも高いコストが必要
TOBを行う場合、株式市場よりも高いコストが必要になるケースが多いため注意しましょう。TOBの場合は、「プレミアム価格」で取引を行うケースが多いからです。一般的には、市場価格から、30〜40%上乗せされた価格がプレミアム価格です。そのため、株式市場で取引を行うよりも、高いコストが必要になります。このように、TOBではコストが高くなりやすい点に注意しましょう。
買付けの公開が必要
TOBでは、買付けの公開が必要になるため注意しましょう。公開を行うことで、他社の参入リスクや、買収に失敗した場合のイメージダウンなどが想定されます。たとえば、他社も買収に参入し、買収が阻止される可能性もあるでしょう。また、買付けを公開して失敗した結果、買収側に問題があったと思われてしまうケースもあります。このように、TOBは買付けの公開が必要になります。公開後のリスクもあることを覚えておきましょう。
売り手がTOBを行うデメリット
売り手側でTOBを行う場合は、2つのデメリットに注意しましょう。
- 経営権がなくなる
- 敵対的TOBの防衛を株主に反対されるケースがある
デメリットやリスクを把握して、対策を整えておくと安心です。
経営権がなくなる
売り手側でTOBを行った場合、経営権がなくなるため注意しましょう。TOBを行う企業の目的が、経営権を獲得するためだからです。特に、敵対的TOBが行われた際は、既存の経営陣は経営者ではなくなります。経営者を解任されるケースがほとんどでしょう。経営権がなくなった結果、自社の想定や意思とは異なる経営方針に変わる可能性もあります。このように、売り手側でTOBを行う場合、経営権がなくなるため注意しましょう。そのため、敵対的TOBを仕掛けられた場合は、買収に対して策を講じる必要があります。
敵対的TOBの防衛を株主に反対されるケースがある
敵対的TOBを受けた場合、防衛策を株主に反対されるケースがあることを覚えておきましょう。買収対策を講じたことで、株価に影響を受けるケースがあるからです。たとえば、パックマンディフェンスを使用した結果、自社の資産が減少し、企業価値が下がる可能性もあります。すると、株価にも影響を与えるため、株主からすると反対のケースも増えるでしょう。このように、敵対的TOBを防衛したくても、株主から反対を受けるケースもあります。TOBによって、株価にどのような影響を与えるかも考慮して、対策が必要です。
TOBされる側の対応
TOBを受ける側の場合、対応は次の3パターンがあります。
- TOBに応じる
- 取引市場で株式を売却する
- 株式の保有を続ける
それぞれのパターン別に、どのような対応が必要か解説するため、参考にしてください。
TOBに応じる
TOBに応じる場合、買い手企業に対し、株式の売買を行います。友好的TOBがこのケースに該当するでしょう。この場合では、売り手企業が価格を提示し、売却を行います。一般的には、市場価格から30〜40%上乗せされた価格で売却できるため、売り手企業にとっては得して売却できるでしょう。
取引市場で株式を売却する
TOBに応じない場合は、取引市場で株式を売却する選択肢があります。公開買い付けが行われた場合、取引市場もプレミアム価格まで高騰するケースがあります。そのため、売り手企業は損をせず、売却できるでしょう。また、取引市場で株式を売却するメリットは、買付けのキャンセルがない点です。TOBに応じた場合は、目標数に達しない場合キャンセルされてしまいます。一方で、取引市場で売却する場合、キャンセルがなく、確実に株式を売却できるでしょう。
株式の保有を続ける
TOB公開後も、株式の保有を続けることは可能です。しかし、TOB後に銘柄が上場廃止になってしまうと、強制的に売却しなければならないため注意が必要です。このことを、「スクイーズアウト」と呼びます。買付け公開後も株式の保有はできますが、保有を続けても損をするケースがほとんどです。そのため、TOBに応じるか、市場を見極め、市場で売却するケースが一般的になります。
敵対的TOBへの対策方法
敵対的TOBを受けた場合、対象企業は自社を守るために対策を実施します。対策にはTOBを受ける前に実施できるものと、TOBを受けた後に実施できるものがあります。
事前に行うべき防衛策
敵対的TOBを仕掛けられる前に実施できる防衛策としては、次のものがあります。
- ポイズンピル
- プット・オプション
- ゴールデンパラシュート
- 黄金株
- チェンジオブコントロール条項
それぞれの方法について具体的に見ていきましょう。
ポイズンピル
ポイズンピルとは、自社の既存株主に新株予約権を発行し、敵対的TOBを仕掛けた企業に株式を取得されないようにする方法のことです。もし、自社の株式が大量に買付けられた際には、ポイズンピルが発動し、既存株主に新株が発行される流れになります。その結果、買付けを行っても、敵対的TOBを仕掛けた企業が所持する株式の全体割合は少なくなります。このようにして、経営権取得を阻止する方法が、ポイズンピルです。
プット・オプション
プット・オプションとは、あらかじめ決められた価格で、あらかじめ決められた量を売れる権利のことです。株主がプット・オプションを持っている場合、敵対的TOBを仕掛けた企業は、株主の言い値で買付けを行う必要があります。もし、言い値が高額の場合、コストが支払えず、TOBが実施できなくなるケースが出てくるでしょう。このようにして、敵対的TOBを防ぐ方法が、プット・オプションです。
ゴールデンパラシュート
ゴールデンパラシュートとは、経営陣に多額の退職金を支払う契約を結ぶ対策のことです。退職金を増やすことで、買収コストを増加させ、敵対的企業からの買収を受けにくくします。通常、敵対的TOBが行われた場合、既存の経営陣は解任されることになります。その際、退職金の支払いが必要です。その退職金を高額にしておけば、敵対的TOBを仕掛けた企業は、高額な退職金を支払わなければならなくなります。このように、コストを増加させることで、対策を行うのがゴールデンパラシュートです。
黄金株
黄金株とは、会社の合併のように、重要な議案を否決できる拒否権付株式のことです。株主総会の決議に対して、拒否権を持っています。たとえば、敵対的TOBが実施され、経営権を取るための決議が行われたとしましょう。しかし、黄金株を発動すれば、決議を阻止できます。このように、黄金株があることで、敵対的TOBへの防止策になります。
チェンジオブコントロール条項
チェンジオブコントロール条項とは、M&Aなどにより支配権が変更した場合に、相手企業が契約を解除したり、契約内容に制限を設けたりできる規定のことです。資本拘束条項とも呼ばれます。
たとえば、営業権やライセンスなどを供与する契約を締結する際、契約書にチェンジオブコントロール条項を含めておくと、M&Aなどにより第三者に経営権が渡った場合に営業権なども移転することを回避できます。
事後に行うべき防衛策
敵対的TOBを仕掛けられた後でも、防衛策を実施することで買収を阻止できることがあります。主な方法としては、次の6つが挙げられます。
- ホワイトナイト
- パックマンディフェンス
- クラウンジュエル
- マネジメント・バイアウト
- 第三者割当増資
- 増配
それぞれの特徴や実施方法について見ていきましょう。
ホワイトナイト
ホワイトナイトとは、第三者の企業に依頼し、敵対的TOBを阻止してもらう方法です。自社が依頼した第三者企業が株式を取得するため、経営権の獲得を阻止できます。敵対的TOBが行われることが分かった状態でも、対応できる点がメリットです。日本でも、食品メーカーに敵対的TOBが行われた際に、第三者企業がホワイトナイトを行うことで、敵対的企業の買収阻止に成功しています。
パックマンディフェンス
パックマンディフェンスとは、敵対的TOBを仕掛けられた側の企業が、仕掛けた企業に対してTOBをやり返す方法のことです。逆に株式買付けを行うため、多額の資金が必要になることがポイントになります。パックマンディフェンスを行う場合、買収を受けた企業は資金確保のために、資産の売却を行います。その結果、企業価値が下がり、敵対的TOBを仕掛けた企業にとって、損をしてしまう可能性が上がる点もポイントでしょう。そのため、パックマンディフェンスが発生した場合、両企業にとってリスクが高くなります。
クラウンジュエル
クラウンジュエルとは、敵対的TOBを受けた企業が、自社の資産を売却し、企業価値を下げる方法です。企業価値が下がることで、買収を行う意欲を下げることを目的にしています。企業価値が下がってしまうと、敵対的TOBを仕掛けた側も、経営権を取得する意味があるのか迷ってしまうためです。過去にも、日本でもクラウンジュエルが実施されたケースがあります。その際、敵対的TOBを受けた企業は、自社の資産をグループ企業に譲渡すると示唆しました。その結果、敵対的TOBを仕掛けた企業が買収のモチベーションをなくし、防衛に成功しています。
クラウンジュエルという名称は、会社という王冠(クラウン)から、宝石(ジュエル)のように価値のある資産を取り外す手法であることから名付けられました。実行すると、敵対的TOB自体は防げるものの会社の利益が大幅に下がる可能性があることから、敗走する軍隊が自身の基地や橋などを破壊する「焦土作戦」と似ているため、焦土作戦とも呼ばれています。
マネジメント・バイアウト
マネジメント・バイアウト(Management Buyout:MBO)とは、経営陣が自社株式を買い取ることです。事業承継や上場企業の非公開化に活用される方法ですが、敵対的TOBの防衛策としても用いられることがあります。
既存の株主から自社株式を買い取り、議決権の過半数を確保すれば、経営権を第三者に渡さずに済みます。最終的に上場廃止を実現すれば、第三者に買収されることはありません。
第三者割当増資
第三者割当増資とは、新株を発行して、特定の第三者に買い取ってもらうことです。資金調達に活用する方法ですが、敵対的TOBの防衛策としても活用することがあります。
敵対的TOBを仕掛けられたときに新株を発行する、もしくは新株予約権を第三者に割り当てると、敵対的TOBを仕掛けている側の持ち株比率を下げられ、経営権を確保しにくくなります。
増配
増配とは、株主の配当を増やすことです。配当を増やすと企業の預貯金などの資産が減るため、敵対的TOBを仕掛けようとしている側の買収意欲を削ぐ効果を期待できます。
ただし、増配もクラウンジュエルと同じく、自社の資産を減らす方法のため、経営状態が厳しくなるリスクも併せ持ちます。増配後の経営も考慮したうえで、慎重に実施することが必要です。
友好的TOBの実施事例
友好的TOBの事例を3つ紹介します。買収企業と被買収企業の関係、買収の経緯、目的などについて見ていきましょう。
NTTとNTTドコモの事例
2020年9月29日、NTTはNTTドコモを完全子会社化するためにTOBの実施を発表しました。発表した時点で、すでにNTTはNTTドコモの株式を66.21%保有していましたが、NTTドコモの上場廃止を実現するために、以下の条件で残りの株式の買収を進めることを公表しました。
- 公開買付けの期間は2020年9月30日から2020年11月16日
- 期間内に応募しなかった株主については、TOB価格である1株3,900円で強制的に買い取る
- 応募株式の総数が買付け予定数の下限(14,686,300株)を下回るときは、応募株式の全部買付けを実施しない
11月16日までに株主から8億株を超える応募があり、NTTによるNTTドコモの株式保有比率は91.46%に高まりました。上場廃止後は、NTTドコモの携帯電話料金の引き下げや、NTT傘下企業のNTTコミュニケーションズの移管などを実施し、グループ連携強化と通信事業における競争力強化を狙います。
参照元:NTTグループ「株式会社NTTドコモ株式等(証券コード 9437)に対する公開買付けの結果に関するお知らせ」
日本製鉄と日鉄物産の事例
2022年12月21日、日本製鉄は日鉄物産を連結子会社とするためにTOBの実施を発表しました。TOB価格は9,300円と、発表した日の終値(4,960円)を88%上回る設定です。TOBの主な条件については以下をご覧ください。
- 公開買付けの期間は2023年3月13日から2023年4月10日
- 応募株式の総数が買付予定数の下限(3,934,571株)を下回るときは、応募株式の全部買付けを実施しない
- 2023年4月14日付で日鉄物産は日本製鉄の連結子会社になる
TOB実施前の日本製鉄による日鉄物産の株式保有比率は34.54%でしたが、TOB実施後は70.21%に増加しました。日本製鉄と日鉄物産は元々鉄鋼製品の取引において連携関係にありましたが、日鉄物産が上場企業であったために、顧客情報の共有に制約があるなどの経営上の支障もありました。
日鉄物産の連結子会社化と上場廃止を実現することで、営業力強化や鋼材工場の稼働率向上などを実現し、グループ全体の底上げを目指します。
参照元:日本製鉄「日鉄物産株式会社株式(証券コード 9810)に対する公開買付けの結果及び子会社の異動に関するお知らせ」
マルハニチロと大都魚類の事例
2020年3月30日、マルハニチロは系列会社の大都魚類を完全子会社化するためにTOBの実施を発表しました。マルハニチロはTOB前の状態で大都魚類の株式を32.69%直接保有し、また、子会社を通じて17.63%間接的に保有しています。TOBの条件は以下をご覧ください。
- 公開買付けの期間は2020年3月31日から2020年5月21日
- 応募株式の総数が買付予定数の下限(1,069,632株)を下回るときは、応募株式の全部買付けを実施しない
- TOB価格は1,225円
漁獲量の減少や卸売市場を経由しない流通の増加により、大都魚類の業績は低迷していました。完全子会社化後は、マルハニチロが保有する流通網や取引のノウハウを活用して大都魚類の事業の効率化を図り、収益基盤強化を目指します。
参照元:マルハニチロ「大都魚類株式会社株式(証券コード 8044)に対する公開買付けの開始に関するお知らせ」
敵対的TOBの実施事例
敵対的TOBの事例も紹介します。被買収企業が防衛策を実施したのか、また、防衛策が成功したのかについても見ていきましょう。
コロワイドと大戸屋の事例
株式会社コロワイドは、株式会社大戸屋ホールディングスの敵対的TOBを実施しました。条件は以下をご覧ください。
- 公開買付けの期間は2020年7月10日から2020年9月8日
- 応募株式の総数が買付予定数の下限(1,510,138株)を下回るときは、応募株式の全部買付けを実施しない
- TOB価格は3,081円
2019年10月、コロワイドは大戸屋の創業者家族から約19%の株式を取得しました。当初は友好的買収もしくは業務提携を予定していましたが、大戸屋の業績が急速に悪化していたため、早急に経営権を獲得して改革する必要があると判断し、敵対的TOBに踏み切りました。
大戸屋とコロワイドの企業規模には大きな差があり、大戸屋が実施できる防衛策には選択肢がほぼなく、買収を受け入れるしかなかったのもTOB成功の要因のひとつです。
参照元:財務会計基準機構「株式会社大戸屋ホールディングス(証券コード:2705)の株式に対する公開買付けの結果に関するお知らせ」
ソレキアと実業家の事例
2017年2月、電子部品商社のソレキアに対し、個人投資家が「大株主としてソレキアを立て直したい」と主張し、敵対的TOBを仕掛けました。ソレキアの株価は2,000円前後で推移していましたが、個人投資家は1株2,800円での買い取りを宣言し、発行済み株式の35.9%にあたる株式を上限としてTOBを開始しました。
一方、ソレキアの取扱商品の約4割を提供していた富士通は、1株3,500円でソレキアを完全子会社化するという策を打ち出します。富士通と個人投資家によるTOB価格の吊り上げが始まり、ソレキアの株価は6,000円を超えました。しかし、富士通は買値を5,000円を超える価格には引き上げず、1株5,450円での買い取りを提示した個人投資家によるTOBが成立しました。
参照元:JASDAQ「佐々木ベジ氏による当社株券に対する公開買付けの結果並びに主要株主である筆頭株主の異動に関するお知らせ」
ライブドアとニッポン放送の事例
ラジオ放送のニッポン放送はフジテレビの筆頭株主であり、フジテレビに大きな影響力を発揮できる存在でした。一方、フジテレビはニッポン放送の第2位の株主に過ぎず、規模が小さなニッポン放送が巨大企業であるフジテレビに影響力を持つ「ねじれ」の状態が生じていました。
フジテレビはねじれの解消のために、2005年1月17日、ニッポン放送に対してTOBを宣言します。しかし、同時期にTOBを開始したライブドアに価格競争で負け、2005年2月にはライブドアがニッポン放送の筆頭株主になりました。
その後、ニッポン放送はフジテレビを対象に新株予約権を発行し、フジテレビがニッポン放送の株式の3分の1以上を確保する約束を取り付けます。ライブドアは株主が不利益を被る可能性があるとし、東京地裁に新株予約権の発行差止を請求し、請求は受け入れられました。状況が二転三転するなか、同年7月株式交換によりニッポン放送はフジテレビの完全子会社となり、ライブドアによるニッポン放送の買収は失敗に終わりました。
参照元:フジテレビジョン「株式交換契約の締結に関するお知らせ」
まとめ
近年では、経営権を獲得するために、TOBを行う企業が増加しています。売り手企業の同意を得る友好的TOBと、売り手企業の同意を得ずに行う敵対的TOBがあることを覚えておきましょう。どちらのTOBを行う場合でも、専門家のアドバイスは欠かせません。TOBの実績を持つ専門家に協力を依頼しましょう。M&A仲介会社であれば、M&Aが絡むTOBでも対応可能です。TOB実施を考えている企業は、相談してみましょう。
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