このページのまとめ
- 中小企業の売却件数は増加傾向にある
- 売却しやすいのは、規模が大きく成長が見込める企業
- 中小企業の主な売却方法は、株式譲渡と事業譲渡
- 中小企業の売却を成功させるためには、相手先候補の見極めが大切
- M&Aを行う際は、M&A専門家への依頼が必要
中小企業の経営者の中には、「後継者がいないため、会社を第三者へ売却したい」と考えている方もいることでしょう。昨今は、事業承継や事業拡大を目的とした中小企業の売却件数は増加傾向にあります。
本記事では、中小企業の売却の現状をはじめ、売却方法や流れ、かかる費用、税金、売却事例などを詳しくお伝えします。さらに、売却を成功に導くポイントや起こりがちな問題、相談先も説明するため参考にしてください。
目次
中小企業の売却の現状
近年、大企業のM&Aについてはニュースでよく耳にするようになりました。実際のところ、大企業だけでなく中小企業の間でも売却を含むM&Aは珍しくありません。ここでは、とくに中小企業の売却の現状について解説します。
売却の件数は増加傾向にある
中小企業の売却を含むM&Aは増加傾向にあります。以下の表は、中小企業庁が公表している中小企業M&A仲介大手3社と事業承継・引継ぎ支援センターが実施したM&A件数です。
中小企業M&A仲介大手3社 | 事業承継・引継ぎセンター | 合計 | |
2013年度 | 182 | 33 | 215 |
2014年度 | 241 | 102 | 343 |
2015年度 | 312 | 209 | 521 |
2016年度 | 414 | 430 | 844 |
2017年度 | 534 | 687 | 1,221 |
2018年度 | 612 | 923 | 1,535 |
2019年度 | 710 | 1,176 | 1,886 |
2020年度 | 760 | 1,379 | 2,139 |
参照元:中小企業庁「中小M&A推進計画の主な取組状況」
2013年は計215件だったものが、2020年には計2,139件とおおよそ10倍に増えています。
中小企業の売却件数が増えたのは、M&A仲介会社や事業承継・引継ぎセンターのような相談窓口が、全国に普及したことが要因のひとつです。後継者問題に悩んでいた経営者が、身近に相談できる窓口が整うことで、問題解決に向けて積極的に動いたことが伺えます。
さらに今後も、売却件数が増えることを示すデータがあります。次の表は、潜在的な譲渡企業の数を試算したものです。
目的 | 潜在的な譲渡側数 | 構成比 |
成長志向型 | 8.4万者 | 14.5% |
事業承継型 | 30.6万者 | 53.1% |
経営資源引継ぎ型 | 18.7万者 | 32.4% |
合計 | 57.7万者 | 100.0% |
参照元:中小企業庁「中小M&A推進計画の主な取組状況」
このデータからも、後継者不在のために事業承継を行いたい企業(事業承継型)が多いことがわかります。中小企業の売却を支援する環境がより一層進み、また広くアナウンスされれば、売却件数はさらに増えていくことでしょう。
参照元:中小企業庁「中小M&A推進計画の主な取組状況」
依然としてM&Aに対する理解が不足している
中小企業の売却件数は増加傾向にあるものの、依然としてM&Aに対する理解が不足していることを示すデータがあります。
2023年に東京商工会議所が行った「事業承継に関する実態アンケート報告書」によると、約半数の経営者がM&Aを検討しない理由として、「自社がM&Aの対象になる(買い手がみつかる)とは思えない」や「M&Aがよくわからない」を挙げています。
さらに、3割弱の経営者が「M&Aに対して良いイメージを持っていない」とも答えており、M&Aに対する理解不足やネガティブイメージが、売却を躊躇する要因になっているようです。
今後、M&Aについての理解が進み、「会社や事業の売却が、事業承継に有効な手段である」とポジティブなイメージを持てるようになれば、後継者問題の解決に弾みがつくことでしょう。
参照元:東京商工会議所「事業承継に関する実態アンケート報告書」
中小企業の売却に影響を及ぼす会社の特徴とは
中小企業の売却件数は増加傾向にありますが、実際のところ、売却しやすい企業とそうでない企業があります。ここでは、売却が難しくなりがちな企業の特徴と、売却がスムーズにいきやすい企業の特徴をそれぞれ解説します。自社の特徴と照らし合わせてみてください。
売却が難しい中小企業の特徴
売却が難しい中小企業の主な特徴は、次のとおりです。
- 売上が1億円以下で利益が出ていない
- 売上は2〜3億円あるが直近の2〜3年ほど利益が出ていない
- 売上に比べて借入金が大きい
- 従業員が2〜3人程度で従業員の能力に依存している
売上が1億円以下と小さく、かつ利益が出ていない中小企業の場合は、売却するのは困難といわざるをえません。
また、売上が2〜3億円ある企業でも、実質利益が出ていない会社も難しいでしょう。さらに、売上に比べて借入金が大きすぎる場合や債務超過の企業も避けられる傾向にあります。
従業員が2〜3人程度の小さな会社で、従業員の能力頼みになっている会社も売却は難しくなります。これらの従業員が、会社の売却に不満を持ち辞めてしまえば、会社の価値が著しく低下するからです。
売却が進みやすい中小企業の特徴
売却が進みやすい中小企業の特徴としては、次の3つが挙げられます。
- 社内体制が堅実である
- 企業規模が大きく今後も成長が見込める
- M&Aに誠実に取り組んでいる
次に、それぞれの特徴を説明します。
社内体制が堅実である
中小企業の場合、オーナー社長の手腕によって売上を上げている企業は少なくないでしょう。買い手企業としては、売却によってオーナー社長が辞めたあと企業の価値が下がることを懸念します。社内が組織的にしっかりと動いていれば、ほかの企業に売却されても経営がスムーズです。そのため、オーナー社長が辞めることの影響が限定的と判断される企業は、買い手企業から好まれます。
会社の売却を検討している経営者は、権限譲渡を進め、きちんとした組織づくりに取り組む必要があるでしょう。当然のことながら、決算数値にごまかしがない点も重要です。買い手企業が上場企業の場合は、売り手企業のコンプライアンスも重視します。
企業規模が大きく今後も成長が見込める
一般的に、財務内容がよく、今後も成長が見込める企業は高い売却価格を設定できるでしょう。また成熟した企業よりも、成長過程にある企業のほうが、評価は高くなる傾向にあります。
財務内容においては、借入金が少なく、自己資本比率が高い企業は候補先を探しやすいでしょう。借入金ゼロが理想的ですが、年商の2〜3割程度であれば問題ありません。ただし、年商の半分ほどになると敬遠されがちですので注意が必要です。
中小企業の場合は、企業の規模も重要な要素です。通常、企業の規模が大きければ大きいほど好まれます。業績が一定以上ある企業であれば、ファンドなどの投資会社の買収対象となるため、売却先の選択肢が増えます。
M&Aに誠実に取り組んでいる
会社を売却する場合、交渉について誠実に取り組むことも大切です。場合によっては、交渉の段階で、買い手企業から厳しい質問を問いかけられることもあるでしょう。売り手企業は、可能な範囲で誠実かつ迅速に回答するなどの取り組みが求められます。
また、売却価格をできるだけ高く設定したいと思う経営者は多いですが、相場からあまりにもかけ離れすぎていると買い手企業はつきません。売却価格ついても、相場を参考に妥当な価格に設定することが大切です。
適切な売却価格を設定したり、買い手企業からのさまざまな質問に対して誠実な対応を取ったりすることで、買い手企業によい印象を持ってもらえるようになります。
会社の売却を決意したあとは、よりよい買い手企業がつくように、経営改善を進めながら誠実に取り組むことが得策です。
中小企業が売却を選ぶ理由
中小企業が売却を選ぶ主な理由は、次のとおりです。
- 後継者問題解決のため
- 引退後の生活資金取得のため
- 個人保証解除のため
- 自社の成長のため
- 従業員の雇用を維持するため
それぞれの理由を詳しくお伝えします。
後継者問題解決のため
今や中小企業にとって、後継者問題は大きな課題です。以前のように、子どもに事業を継がせるケースは少なくなりつつあり、後継者が見つからない場合、廃業や解散を選択する企業もあります。
会社の廃業や解散は、そこで働いている従業員の雇用を奪うことを意味します。取引先にも迷惑がかかるでしょう。
このように廃業や解散によって生じる影響を憂えて、会社の売却を選択する経営者は増えつつあります。
引退後の生活資金取得のため
引退後の生活資金を取得するために、会社を売却するケースもあります。経営者に定年はありませんが、老後は経営から身を引き、ゆっくりと過ごしたいと考える経営者は少なくありません。
会社を第三者へ譲渡すれば、売却益を得られます。会社を売却せず廃業を選ぶと、廃業の手続きのための資金や従業員への退職金などが必要です。廃業よりも会社の売却のほうが、経営者が得る資金は多くなります。
個人保証解除のため
中小企業の場合、借り入れするために経営者自身が個人保証をしているケースがほとんどです。会社を売却し財産を移転すれば、大きなストレスであった個人保証を外すことが可能です。経営者だけでなく、家族も安心して老後を過ごせるでしょう。
自社の成長のため
自社の成長のために、あえて会社を売却する選択もあります。より大きな規模の企業や大企業に売却できれば、経営基盤の安定化につながります。また、より効率的なノウハウを得られ、さらなる成長を見込めるでしょう。
従業員の雇用を維持するため
従業員の雇用を維持するため、会社を売却する経営者は多いことでしょう。廃業を選択すれば、従業員は職場を失います。
自社をより大きな企業に売却できれば、従業員の雇用を維持できるだけでなく、給与や福利厚生などの待遇改善も期待できます。買い手企業にとっても、優秀な従業員を一度に獲得することが可能です。
中小企業における会社売却の方法
ここでは、中小企業における会社売却の方法を5つお伝えします。以下に、主な売却方法やメリット、デメリットをまとめました。
会社売却の方法 | 概要 | メリット | デメリット |
株式譲渡 | 全株式を第三者へ売却する方法 | 手続きが比較的用意である | 簿外債務を引き受けるリスクがる |
事業譲渡 | 事業の一部または全部を売却する方法m | 譲受財産を特定できる | 手続きが煩雑である |
会社分割 | 事業の一部または全部を別会社に譲渡する方法 | 多額の資金が不要である | 株主構成が変化する可能性がある |
株式交換 | 発行済株式を交換する方法 | 多額の資金が不要である | 株主構成が変化する可能性がある |
株式移転 | 発行済株式を移転する方法 | 多額の現金が不要だる | 株主構成が変化する可能性がある |
次に、それぞれの売却方法の概要やメリット、デメリットを詳しく解説します。
1.株式譲渡
株式譲渡は、中小企業の売却の際に多く採用される方法です。買い手企業は、売り手企業が発行している株式のすべてを買い取り経営権を取得します。売り手企業は、株式譲渡の対価として金銭を受け取ります。
中小企業の場合、経営者やその親族が株式を所有していることがほとんどです。そのため、全株式の受け渡しがスムーズに進みます。株券不発行の場合は、株券をあえて交付する必要はありません。
株式譲渡のメリットとデメリットは、次のとおりです。
メリット
株式譲渡の大きなメリットは、手続きが簡単で、売却が短期間で完了する点です。
株式譲渡では、事業に必要な許認可や従業員の雇用契約、顧客との取引関係などがそのまま引き継がれます。売り手企業の独立性を維持しやすいのもメリットといえるでしょう。
買い手企業は会社を丸ごと取得するため、譲受後に、反対株主や従業員との間でトラブルが発生しにくく経営権をスムーズに引き継ぐことができます。
デメリット
売り手企業の株券が分散している場合、全株式の譲渡は難しくなります。この場合、売り手企業は強制的に株式を取得する必要があり、株券取得のための資金を準備しなければなりません。
また株式譲渡では、買い手企業は資産だけでなく負債も引継ぎます。デューデリジェンスを入念に行い、簿外債務の有無をきちんと確認することが大切です。
2.事業譲渡
事業譲渡とは、売り手企業の事業の一部または全部を買い手企業に譲渡する方法です。株式譲渡のような丸ごとの売却とは異なり、譲渡する事業や資産、負債を選別できる点が特徴です。
事業譲渡では、取引先との契約や従業員との雇用契約も個々に再手続きが必要となるため、時間と手間がかかります。
メリット
事業譲渡の大きなメリットは、譲渡(譲受)する事業を選べることです。売り手企業は、特定の事業のみ売却することにより、事業の再編成が可能となります。売却益を元手に、新しい事業を始めることもできるでしょう。
買い手企業にとっても、欲しい事業のみを譲り受けられるため、株式譲渡に比べて多くの資金を必要としません。また会社の債務を引き継ぐ義務がないため、財務面でのリスクも抑えられます。
デメリット
事業譲渡では、対象事業に関わるすべての契約について、契約を結び直す必要があります。そのため手続きに時間がかかり、その分コストが大きくなりがちです。
また競業避止義務により、売り手企業は売却した事業と同一の事業を、同一県内の市町村や隣接する市町村で20年間行うことができません。
会社分割
会社分割とは、売り手企業の事業の一部またはすべてを買い手企業に譲渡する方法です。会社分割には、新設分割と吸収分割の2種類があります。
新設分割とは、新会社を設立し、その事業の一部または全部を新しい会社に譲渡する方法です。一方、吸収分割とは、その事業の一部または全部をほかの会社に譲渡する方法で、組織再編としても活用されています。
事業譲渡によく似た方法ですが、契約を新たに結び直す必要があるのかという点において異なります。事業譲渡では再契約が必要ですが、会社分割の場合は対象事業に関わる契約は買い手企業にそのまま譲渡されるため必要ありません。
また、事業譲渡では対価を現金で支払いますが、会社分割では一般的に自社株式の交付によって行います。
メリット
会社分割のメリットとしては、事業譲渡に比べて手続きがシンプルなことです。また、譲渡する事業においては、従業員の雇用契約もそのまま引き継がれるため、転籍する従業員から個別の承認を取る必要はありません。
買い手企業は、多額の現金を準備する必要がないため、資金に余裕がない企業にとって利用しやすい方法といえるでしょう。
デメリット
会社分割では、売り手企業よりも買い手企業のほうがデメリットが多くなります。
買い手企業が上場企業の場合は、株価下落のリスクがあります。また、買い手企業の株主構成が変わる可能性があるため、十分注意しなければなりません。
ほかにも会社分割では、対象事業の資産と契約を包括的に譲渡するため、買い手企業は債務を引き継ぐリスクを負います。
株式交換
株式交換とは、売り手企業の全株式を買い手企業の株式と交換することで、完全な親子関係を生じさせる方法です。売り手企業は対価として現金ではなく、買い手企業の株式を受け取ります。
株式交換は、買い手企業が上場企業のケースが多く、中小企業の売却ではあまり利用されていません。なぜなら、中小企業の売却では買い手企業も非上場のことが多く、譲受された株式を売買するのが難しいからです。
メリット
株式交換では、売り手企業の独立性を維持できるため、経営統合がスムーズにいきやすいのが特徴です。買い手企業のメリットとしては、株式交換によって売り手企業を譲受できるため、会社を買い取る資金を用意する必要がないことでしょう。
デメリット
デメリットとしては、買い手企業が非上場の場合、売り手企業は受け取った株式を売却し現金化するのが難しいことです。会社を売却して現金化したい場合は、ほかの売却方法がおすすめです。
買い手企業のデメリットとしては、株式交換により不要な負債まで引き継ぐことでしょう。売り手企業が新しい株主になることで株主構成が変化し、経営へ悪影響が生じる可能性もあります。
株式移転
株式移転とは、1社または複数の会社が新しく会社を設立し、売り手企業の株式を取得させる方法です。完全親会社となる会社は、対価として自社の株式を子会社に割り当てます。株式移転により、完全な親子関係の構築が可能です。
株式移転には、複数の株式会社が子会社になる経営統合と、1社の株式会社が単独で行う持ち株会社(ホールディングス)化の2種類があります。
メリット
株式移転では、売り手企業は子会社として存続するため、早急な経営統合は必要ありません。時間をかけて内部統制ができるため、大きな混乱を招かずにすみます。
買い手企業は、会社を譲受するために新株を発行すればよく、多額の資金を必要としません。内部統制がスムーズな点も、買い手企業にとってメリットです。
デメリット
株式交換では、株式移転の立案から株主総会での承認、反対株主への対応など手続きが煩雑で、時間と労力がかかります。そのため、あらかじめ綿密にスケジュールを立てなければなりません。また、株主構成に変動があることもデメリットです。
売却時における中小企業の評価方法
中小企業を売却する場合、売り手企業がどのくらいの価値があるのか、算定する必要があります。最終的な企業価値は、売り手企業と買い手企業の合意により決まりますが、判断基準がなければ交渉を行うことはできません。
企業の主な評価方法を以下に表にまとめました。
概要 | メリット | デメリット | |
コストアプローチ | 純資産をもとに算出 | 客観性が高い | 将来の収益性を反映できない |
インカムアプローチ | 将来の収益を予測し現在の価値に換算して算出 | 企業の将来性を反映できる | 主観が入り込みやすい |
マーケットアプローチ | 市場の企業価値をもとに算出 | 客観性が高い | 算出するために類似企業が必要 |
それぞれの評価方法について、具体的に解説しましょう。
1.コストアプローチ
コストアプローチとは、企業の純資産をもとに企業価値を算定する方法です。ネットアセットアプローチまたはストックアプローチとも呼ばれます。
コストアプローチには、貸借対照表に記載されている純資産を評価する簿価純資産法と、保有する資産の時価から負債の時価を差し引いて評価する時価純資産法の2種類があります。
貸借対照表の数値は、過去から現在にかけての収益の数値であるため、将来どの程度の収益を上げられるのかを加味することができません。そのため、大規模なM&Aでは用いられることはほとんどありません。
2.インカムアプローチ
インカムアプローチとは、企業の収益力をもとに企業価値を算定する方法です。インカムアプローチの代表的な方法には、DCF法や配当還元法があります。
インカムアプローチでは、対象企業が将来獲得するであろうキャッシュフローをもとに算定するため、その企業の将来性やシナジー効果も価値に反映できる点がメリットです。
ただし、主観的な予測が入り込みやすいため、実際の価値と算定した価値が乖離するリスクがあります。
3.マーケットアプローチ
マーケットアプローチとは、株式市場での株価をもとに企業価値を算定する方法です。中小企業の場合は、非上場のケースがほとんどですが、その場合は類似の上場企業の株価を参考に算出します。
マーケットアプローチでは、市場株価をもとに算出するため、客観性の高さが特徴です。ただし、類似の企業が見つからない場合は、マーケットアプローチを採用できません。
中小企業の売却の流れ
ここでは、中小企業の売却の流れを解説します。売却の主な手順は、次のとおりです。
- 売却を行う目的を定める
- 専門家に相談する
- 依頼先と秘密保持契約を締結する
- 買い手候補を選定し打診する
- 双方の企業のトップ同士で会談する
- 意向表明書を提示する
- 基本合意書を締結する
- 買い手企業によるデューデリジェンスの実施
- 最終契約書を締結する
- クロージングを実施する
- 経営統合を実施する
一つずつ詳しく解説します。
1.売却を行う目的を定める
まずは、なぜ売却を行うのかを考えます。現時点においてどのような課題があり、どのような目標を達成したいのかを定める必要があるでしょう。
上述したように、目的によって用いる売却方法は異なります。売却を検討し始めたら、売却によって得られる最終目的をきちんと定めることが重要です。
2.専門家に相談する
会社の売却では、さまざまな専門家の知識が必要です。そのため、会社の売却に詳しい専門家への依頼が欠かせません。
会社を売却する際の依頼先としては、公的機関や金融機関、税理士などの専門家、M&A仲介会社などがあります。初期の相談は無料の場合が多いため、いくつかの場所を訪ねてみて、相性を見てみるのもおすすめです。
3.依頼先と秘密保持契約を締結する
依頼先が決定したら、依頼先と秘密保持契約を締結します。秘密保持契約とは、会社が売却を検討・交渉している事実を漏洩しないと約束する契約のことです。
会社の売却が事前に漏れてしまうと、従業員や取引先は動揺します。場合によっては、辞めてしまう従業員も出てくるでしょう。このような事態を防ぐために、会社の売却についての情報は慎重に扱う必要があります。
依頼先と秘密保持契約を締結したあとは、本格的に買い手候補探しに取りかかります。
4.買い手候補を選定し打診する
買い手企業を探す場合は、ノンネームシートをもとに行います。ノンネームシートとは、業種や規模、エリア、収益などの内容のみが記された資料のことです。この段階では、具体的な企業名は出さずに候補を選定します。ノンネームシートをもとに候補を絞り込めたら、相手企業へ打診します。
5.双方の企業のトップ同士で会談する
買い手企業の意思が固まったら、売り手企業と買い手企業のトップ会談に進みます。売り手企業にとって、相手企業の経営者の人柄を確認できる貴重な機会です。買い手企業も、売り手企業のトップから直接、経営方針や社風、会社の特徴などを確認できます。
6.意向表明書を提示する
次に、買い手企業から意向表明書が提示されます。意向表明書とは、買収の方法や買収価格などの条件が提示されたものです。売却のプロセスとして必須ではないため、場合によっては省略されます。
7.基本合意書を締結する
双方の話し合いにより、おおよその条件がまとまったら基本合意書を締結します。基本合意書は合意内容を確認するためのもので、基本的に法的拘束力はありません。基本合意書が締結されたのちに破談になるケースもあります。
ただし、基本合意書内の以下の条項については法的拘束力があるため、注意が必要です。
- 独占交渉権
- デューデリジェンスへの協力義務
- 守秘義務
売り手企業は、買い手企業が行うデューデリジェンスについて協力しなければなりません。
8.買い手企業によるデューデリジェンスの実施
次に、基本合意書内にあるように、買い手企業によるデューデリジェンスが行われます。デューデリジェンスとは、買い手企業が行う売り手企業の調査のことです。財務状況や法務、税務、労務などについて、専門家が詳しく調査します。
デューデリジェンスによって、最終的な売却価格や条件を決定します。
9.最終契約書を締結する
デューデリジェンスのあとに最終交渉を行い、お互いに納得できれば最終契約書を締結します。最終契約書には譲渡内容や譲渡価格が記されており、法的拘束力があります。最終契約書を締結したあとは、条件や内容を変更できません。
10.クロージングを実施する
最終契約書を締結したあとは、買い手企業から譲渡代金が支払われます。売り手企業は、買い手企業に株券や会社代表印を引き渡します。諸々の最終的な手続きがクロージングです。
11.経営統合を実施する
その後、買い手企業は経営統合を実施します。経営統合は、M&Aにおいて最も困難なプロセスといわれています。社風や待遇の異なる会社が一つになるには、時間がかかります。経営統合がうまくいって、はじめてM&Aが成功したといえるでしょう。
中小企業が売却する際にかかる手数料や費用
中小企業を売却する際には、さまざまな手数料や費用がかかります。売却する場合、M&A仲介会社やコンサルタントなどの専門家に依頼することが多いため、M&A仲介会社に依頼した場合の手数料や費用の目安を紹介します。
実際の費用は、取引金額や売却方法、サービス内容などによって異なります。
- 事前の相談料:無料〜1万円
- 着手金:50万円〜200万円
- 月額報酬:30万円〜200万円ほど
- 中間報酬:100万円(成功報酬の10〜20%ほど)
- デューデリジェンス費用:50万円〜
- 成功報酬:取引金額の1〜5%
これ以外にも、株券印刷代や契約書の作成費なども必要です。会社の売却を依頼する場合は、事前に手数料や費用を確認することが大切です。
また会社を売却すると、税金も発生します。次章では、税金について詳しくお伝えしましょう。
中小企業の売却で発生する税金
中小企業のM&Aでよく用いられる株式譲渡と事業譲渡では、現金で対価が支払われます。その際、売却益に税金がかかります。税金の種類と税率は次のとおりです。
(単位:%)
株式譲渡 | 事業譲渡 | ||
課税方式 | 比例課税方式 | 比例課税方式 | |
法人税 | 29.74% | 29.74 | |
消費税 | ー | 10 | |
登録免許税 | 土地 | ー | 1.5 |
建物(住宅) | ー | 2 | |
建物(住宅以外) | ー | 2 | |
不動産取得税 | 土地 | ー | 3 |
建物(住宅) | ー | 3 | |
建物(住宅以外) | ー | 4 |
(2024年4月時点)
つぎに、それぞれのスキームで発生する税金について解説しましょう。
株式譲渡の場合
株式譲渡で譲渡益を得た場合、本業で稼いだ利益と合算した金額に対して29.74%の法人税がかかります。たとえば売却益が1億円、本業での赤字が1億円の場合は、売却益があったとしても損益が0円となり税金はかかりません。
事業譲渡の場合
事業譲渡の場合は、売り手企業と買い手企業の双方に税金がかかります。売り手企業には、売却益に対して法人税がかかりますが、まず事業売却損益を計算しなければなりません。
事業売却損益は、売却益から譲渡する資産や負債の簿価を差し引いて算出します。この事業売却損益に、本業での収益を足した金額に法人税がかかります。
ただし、譲渡する資産のなかに消費税課税対象の資産が含まれている場合は、別途消費税を支払わなければなりません。消費税を支払うのは売り手企業ですが、実際に負担するのは買い手企業です。売り手企業は、買い手企業から消費税を徴収し納税するだけです。
ほかにも、譲渡対象に不動産が含まれている場合は、買い手企業は登録免許税や不動産取得税を支払う必要があります。
中小企業の売却事例5選
ここでは、以下の中小企業の売却事例をご紹介します。
- 株式会社アヤトの事例
- 株式会社ミチの事例
- 有限会社スニタトレーディングの事例
- 森塗装工業株式会社の事例
- アポロ工業株式会社の事例
これらの事例から、中小企業においてもM&Aは事業承継や事業拡大の対策として有用であることがわかります。
株式会社アヤトの事例
2020年、富山県で書籍や販促物を手がける株式会社アヤトは、福井県で印刷業を営むスキット株式会社に株式譲渡により経営権を移譲しました。
売り手企業のアヤトは後継者が不在であったため、事業を引き継いでくれる会社を探していました。一方、買い手企業のスキッ卜は、停滞していたビジネスを打破するためにM&Aを実施したとのことです。
売り手のアヤトは、買い手のスキッ卜が取り扱っていなかった官公庁や自治体の広報誌なども請け負っていました。そのためスキッ卜は、このM&Aにより新たな分野へ進出できるようになりました。さらに、見ず知らずの土地で新規にビジネスをスタートさせることができ、新規顧客の獲得にもつながったとのことです。
アヤトの経営者は、事前にM&Aを実施する旨を従業員に公表し理解も得られていたため、売却もスムーズに進みました。アヤトの事例は、経営統合がうまくいった成功事例のひとつです。
参照元:スキット株式会社「社長だから打てる一手で新規顧客を獲得」
株式会社ミチの事例
2019年、東京都に本社がある株式会社ミチは、運営するネイルチップ販売サイト「ミチネイル」を、福井県で印刷業を営むスキット株式会社に事業譲渡しました。
売り手企業のミチは、ネイルチップ販売サイトを譲渡することで、注力すべき事業に集中できるようになったとのことです。
一方、買い手企業の丸井織物は、「モノづくりとITの融合」をビジョンに掲げて事業の多角化を進めていました。とくにオリジナルのTシャツ販売づくりに力を入れており、クラウドソーシングでネイルチップを販売する販売サイト「ミチネイル」を買収することで、シナジー効果を得られると判断したとのことです。
参照元:丸井織物株式会社「丸井織物株式会社、ネイルチップ販売サイト「ミチネイル」を事業譲受 パーソナルオーダー事業の拡大を図る」
有限会社スニタトレーディングの事例
2019年、東京都内を中心に本場インド料理店サムラートを運営する有限会社スニタトレーディングは、東京に本社を置く株式会社ゴーゴーカレーグループに製造部門を事業譲渡しました。
このM&Aにより、売り手企業のスニタトレーディングは、買い手企業のゴーゴーカレーグループの販路を活用できるようになり自社ブランドを展開しやすくなりました。
一方、買い手企業のゴーゴーカレーグループは、サムラート荻窪工場で作られたカレーを提供できるようになったとのことです。サムラート荻窪工場では、日本アジアハラール協会の認定を受けたカレーを作っています。買い手であるゴーゴーカレーグループは、近年急増しているイスラム教徒(ムスリム)の方にもカレーを提供できるようになり、事業を拡大できるとしています。
参照元:株式会社 ゴーゴーカレーグループ「老舗インド料理SAMRAT製造部門をM&A。イスラム教徒(ムスリム)の訪日客増加にハラールカレーの提供可能に!」
森塗装工業株式会社の事例
2022年、関東圏を基盤に塗装工事を手がける森塗装工業株式会社は、大阪の三和建設株式会社に全株式を譲渡し、三和建設の完全子会社となりました。
売り手の森塗装工業は、塗装工事をメインに防水工事やシーリング工事を手がける企業です。当時、経営自体に問題はなかったものの、事業承継の課題を抱えていました。
一方、買い手の三和建設は、人口減少による市場規模の縮小や競争の激化により、今後の事業拡大は難しいと予測していました。そのため新技術を取り入れ、サービスを向上させることが急務と考えていたとのことです。
今回の株式譲渡により、森塗装工業は、自社の技術の承継や従業員の雇用を維持することが可能となりました。一方、三和建設は、森塗装工業の特化した技術や品質、プロセスの情報を得られ、改修工事部門の強化が図れるとしています。
参照元:三和建設株式会社「三和建設、森塗装工業の全株式取得(子会社化)」
アポロ工業株式会社の事例
2019年、埼玉県の金属プレス加工メーカーであるアポロ工業株式会社は、千葉県で同業を営む有限会社新栄工業に全株式を譲渡し、完全子会社となりました。
売り手企業であるアポロ工業は、経営者の高齢化と後継者不在の課題を抱えており、事業承継先を探していました。一方、買い手企業の新栄工業は、技術力の向上に悩んでおり、金型を作っている企業を丸ごと買収しようと相手先を探していたとのことです。
このM&Aにより、アポロ工業は事業承継ができ、これまで培ってきた技術の承継や従業員の雇用維持が実現できました。買い手の新栄工業のほうは、アプロ工業を傘下に置くことで新規分野に進出することができ、商圏を広げることに成功ししました。
参照元:アポロ工業株式会社「会社概要」
参照元:金型しんぶん「新栄工業代表取締役社長・中村新一氏 M&Aは事業領域の拡大や技術の強化につなげることができる」
中小企業の売却を成功に導くポイント
中小企業の売却を成功させるポイントは、次の8つです。
- 売却における戦略をしっかりと定める
- 関係者の意思を尊重する
- 株主を把握しておく
- よいタイミングで売却する
- 社風の似た企業を候補先に選ぶ
- 自社の適正価格を確認する
- ブランド力や強みを洗い出しておく
- M&Aの専門家に早めに相談する
自社を売却する際は、次のポイントを参考にしてください。
売却における戦略をしっかりと定める
中小企業を売却する際には、どのような戦略や手法で売却するのかを定めることが重要です。株式のすべてを譲渡するのか、または一部なのかでは、選ぶ相手先が異なるでしょう。
また、売却価格も異なります。M&Aの専門家に相談しながら、どのような戦略で売却するのかを慎重に決めていきます。
関係者の意思を尊重する
会社を売却する際には、関係者の意思を尊重しなければなりません。株主をはじめ、取引先や役員、従業員、金融機関など、自社との利害関係を把握し調整することが必要です。とくに株主が反対すると、売却が破談となる可能性もあるため、事前に対策を考えておきます。
株主を把握しておく
会社を売却するには、株主が保有する議決権の2/3以上の賛成が必要です。そのため、株主の把握は必須といえるでしょう。
株主がオーナー社長だけであれば簡単ですが、配偶者や子供、兄弟姉妹、親族、また親族以外の役員、従業員などが株主であるケースでは、誰が株主であるのかを把握しておかなければなりません。
よいタイミングで売却する
会社の売却では、タイミングも重要なポイントです。候補先企業が見つかっても、タイミングを逃してしまうと、ほかの企業とマッチングしてしまう可能性があります。また、業界内でM&Aが活発に行われていれば、相手先候補が早く見つかる場合があります。
社風の似た企業を候補先に選ぶ
売却する側は、社風の似た企業を候補先に選ぶことも重要です。社風の似た企業であれば、売却後の経営統合もスムーズでしょう。会社に残り働き続ける従業員が、今後も気持ちよく働けるように、自社と似た企業を選ぶことも経営者の努めです。
自社の適正価格を確認する
自社の適正価格を把握しておくことも大切です。売却価格は、上述したように企業価値をもとに算出されます。適正価格を自社で測ることは難しいため、専門家の力を借りて適正価格を確認しておきましょう。
ブランド力や強みを洗い出しておく
売り手企業は相手先にアピールできるように、将来性やブランド力、強み、技術、従業員の状況などを洗い出しておきます。買い手企業がシナジー効果を得られると判断できれば、売却話もスムーズに進みます。
またプラス面だけでなく、マイナス面の把握も必要です。買い手企業からのさまざまな質問に対して、きちんと対応できるようにしておくと交渉も早く終わります。
M&Aの専門家に早めに相談する
売却を検討し始めたら、M&Aの専門家に早めに相談することが成功への近道です。
ほとんどの経営者にとって、自社を売却する経験は人生で一度あるかどうかです。そのため、自社の売却を自社の力だけで進めるのは限界があります。M&A仲介会社のような知識や経験が豊富な専門家の力を利用しましょう。
中小企業が売却する際に起こりがちな問題
中小企業が売却する場合、予想外の問題が起こりえます。売却の際に起こりがちな問題は、次の7つです。
- マッチングする企業が少ない
- 詳細な情報を得るのが難しい
- 従業員の協力が得られない
- 人材が流出する可能性がある
- 給与や人事における評価が大きく異なる
- 企業評価が低すぎる
- M&A専門家への支払いが負担になる
一つずつ詳しくお伝えします。
マッチングする企業が少ない
中小企業の売却では、マッチングする企業が見つからないことがよくあります。一般的に、M&Aを行う理由は事業拡大であるため、大きい企業ほどマッチングしやすいのが現状です。
そのため、規模がそれほど大きくない中小企業の場合は、マッチングするまでに時間がかかります。
詳細な情報を得るのが難しい
中小企業同士のM&Aでは、お互いに非上場の場合が多く、詳細な情報を得るのが難しいのが一般的です。上場しているような大企業であれば、経営内容や財務状況も公開されていますが、中小企業では詳しい内容はわかりません。そのため、相手企業のことを細かく確認するのは難しいでしょう。
従業員の協力を得られない
中小企業の売却では、従業員の協力を得られないことがあります。よほどの好条件でない限り、会社の売却を喜ぶ従業員はいないといっていいでしょう。場合によっては、経営方針や待遇が変わることに耐えられず、辞めていく従業員もいるほどです。
売却の際には、従業員の心情を理解するように努め、モチベーションが下がらないように十分に配慮しましょう。売却後も気持ちよく働けるように、従業員にとってもよい相手先を探す努力が必要です。
人材が流出する可能性がある
中小企業では、売却によって人材が流出する可能性があります。中小企業にとって、従業員は貴重な資産です。とくに、特殊な技術をもつ人材の流出は大きな痛手です。このような人材やキーパーソンが辞めてしまうと、人材流出に歯止めがかからず、交渉自体が破談する可能性が高くなります。
給与や人事における評価が大きく異なる
会社によって給与や人事における評価は異なりますが、あまりにも大きく異なる場合は問題となります。当然のことながら、新しい会社の給与や人事の評価が低い場合、従業員は売却に非協力的です。
社風や経営方針の似た会社を選ぶことも大切ですが、給与や人事評価が違いすぎる場合はすりあわせが必要でしょう。
企業評価が低すぎる
企業価値を評価する方法はいくつかありますが、場合によっては、期待していたよりも企業評価が大幅に低い場合があります。
上場企業であれば、公開されている株価や財務状況などから客観的に企業価値を算出できますが、中小企業の場合は明確な相場がないため、企業評価はケースバイケースとなります。中小企業では、正確な企業価値を算出するのが難しい点を理解しておきましょう。
M&A専門家への支払いが負担になる
M&A専門家への支払いが負担で、売却に踏み出せない企業もあるでしょう。買い手企業が見つかりにくい中小企業の売却では、M&A専門家への依頼が欠かせませんが、支払いは大きな負担となっています。
売却についての相談先は、公的機関やM&A仲介会社などいくつかあります。M&Aを検討する際は、最初は無料で相談できる場所で相談してみてください。
とくに公的機関であれば、無料で相談できる場所が多いです。またM&A仲介会社のなかには、相談料は無料と謳ったところが少なくありません。いくつかの相談先を試してみると、自社にあった相談先を選択できるようになります。
中小企業が売却する際の相談先
中小企業が売却する際の相談先としては、いくつかありますが、代表的な相談先のメリットとデメリットを以下にまとめました。
相談先 | メリット | デメリット |
金融機関 | 資金調達について相談できる | 小規模案件は取り扱っていないことがある |
事業承継・引継ぎセンター | 公的支援について詳しい | スピード感に欠ける |
商工会議所・商工会 | 中小企業の経営に詳しい | 会員になる必要がある |
士業専門家 | 専門分野について相談できる | 相談範囲が限られる |
M&Aプラットフォーム | 費用が安くすむ | サービス内容が限られる |
M&A仲介会社 | 豊富なネットワークから相手先を探せる | 費用がかかる |
次に、それぞれの相談先の特徴を詳しくお伝えします。
金融機関
中小企業の売却では、普段から取引のある金融機関がアドバイザーとしての役割を担うことがあります。日頃からの付き合いがあれば、企業の詳細な経営状況を把握していることが多く、相談しやすいでしょう。
地元の金融機関であれば、地域の情報に精通しており、相手先候補を同じエリア内で探すことができます。同じエリア内で見つけられれば、顧客基盤が同じなため、買い手企業にとってもメリットの大きいM&Aとなるでしょう。
事業承継・引継ぎセンター
事業承継・引継ぎセンターとは、中小企業のM&Aを支援するために設けられた機関です。その名称のとおり、企業の買収や売却だけでなく、親族間や従業員間との事業承継についても相談できます。
事業承継・引継ぎセンターの主な支援は、次の3つです。
- 企業の売却や買収に関する事前相談
- M&A支援を行う専門家への橋渡し
- 後継者人材バンクへの登録
- M&A支援
- 経営資源の引継ぎ支援
必要があれば、事業承継・引継ぎセンターがほかのM&A専門家へ橋渡しを行ってくれます。
商工会議所・商工会
商工会議所や商工会は、中小企業の公的な支援に精通しています。そのため、中小企業が売却を相談するのに適した支援機関といえるでしょう。
商工会議所や商工会は、地域の商工業の振興に力を入れているため、自社が地域のなかでどのような立ち位置にあるのかを確認できます。法務や財務といった専門的な内容よりも、経営に関する一般的な相談をするのにおすすめです。
商工会議所・商工会の主な支援内容は次のとおりです。
- 経営の課題を整理し、事業承継の戦略・立案
- 適切なM&A専門家への橋渡し
売却の際には、相談内容からケースにあったふさわしいM&A専門家を紹介してくれます。
士業専門家
中小企業の売却の際には、士業専門家も一つの相談先です。ここで取り上げる士業専門家は、次の5つです。
- 弁護士
- 公認会計士
- 税理士
- 中小企業診断士
- その他
それぞれの士業専門家について詳しくみてみましょう。
弁護士
弁護士は法務の専門家のため、法的な課題やトラブルが生じた際に頼りになります。M&Aに対応している法律事務所では、中小企業の売却についても対応可能です。
弁護士の主な支援内容は、次のとおりです。
- 株式や事業資産などの整理
- 契約書の作成・チェック
- M&Aにおける経営者保証解除などの支援
- 法務デューデリジェンスの実施
- 債務超過企業のM&A支援
弁護士であれば、売却のなかで取り交わされるさまざまな契約書の作成や締結についても安心して任せられます。また、売却する企業が債務超過に陥っている場合は、法的な立場から対策を取ってもらえるでしょう。
公認会計士
公認会計士は、財務や会計の専門家です。日頃から依頼している公認会計士がいるのであれば、相談しやすい相手です。公認会計士としての支援内容は、次のとおりです。
- 適正な財務書類の作成
- プレM&A支援
- 企業価値や事業価値の妥当な評価
- 財務デューデリジェンスの実施
- 債務超過企業に対するM&A支援
- 経営統合の支援
売却価格や財務情報を開示するには、事前の財務調査が必要です。公認会計士が調査することで、買い手企業に提示する情報の信頼性が増します。
税理士
依頼している顧問税理士は会社の財務に詳しく、売却だけでなく多角的な支援が可能です。付き合いのある税理士が、M&Aに関する業務も行っている場合は話がスムーズです。
税理士の主な支援内容は、次のとおりです。
- 税務申告書の作成
- 中小企業の売却について経営者保証解除の支援
- 売却に発生する課税に対する助言
- 企業価値や事業価値の妥当な評価
- 税務デューデリジェンスの実施
- 債務超過企業のM&A支援
すべての税理士が、企業の売却案件を扱っているわけではありません。扱っている場合でも、売却に関する業務は通常の業務の範囲外になるため、報酬に関して事前に確認しておく必要があるでしょう。
中小企業診断士
中小企業診断士は、経営に関する幅広い知識をもつ専門家です。経営の数値における助言だけでなく、精神的なサポートも行います。
中小企業にとって、自社の売却は大きな決断です。これまで一度も経験したことのない状況に、疑問や不安を覚える経営者は多いものです。そのような不安を話せる相談相手として、中小企業診断士は適しています。
中小企業診断士の主な支援内容は、次のとおりです。
- 売却に関する幅広い相談
- 企業価値や事業価値の評価
- 企業概要書の作成支援
- 中小企業の売却について経営者保証解除の支援
- 事業デューデリジェンスの実施
- 債務超過企業のM&A支援
中小企業診断士は、普段あまり関わることのない専門家ですが、事業に関する幅広い内容を相談できます。
その他
ほかにも、行政書士や司法書士、社会保険労務士などの士業専門家も会社の売却について相談できます。M&Aに詳しくない場合は、ほかの専門家への橋渡しをしてくれるでしょう。信用できる士業専門家がいれば、まずは売却を検討していることを相談してみてください。
M&Aプラットフォーム
M&Aプラットフォームとは、インターネット上で売り手企業と買い手企業のマッチングを支援するサービスです。プラットフォームによって得意とする業種や対象者、利用方法は異なりますが、プラットフォームに登録するだけで簡単に利用できます。
M&Aプラットフォームの主な支援内容は、次のとおりです。
- マッチングの機会を提供
- 掲載案件の信頼性を担保
M&Aプラットフォームは、低コストで相手候補を探せるため、資金に余裕がない中小企業にとってはメリットの大きい選択肢といえるでしょう。
M&A仲介会社
M&A仲介会社は、その名のとおり、売り手企業と買い手企業の仲介を行う専門家です。双方の要望を聞きながら、バランスのとれたM&Aを行えます。売却に関しても豊富な知識と経験があるため、売却をすべきかどうかといった事前相談から可能です。
M&A仲介会社に依頼する大きなメリットは、独自の幅広いネットワークから相手先候補を探せる点です。自社の売却について、一貫して面倒を見てもらいたいという経営者にとって、心強い味方になってくれることでしょう。
ただしM&A仲介会社に依頼する際には、自社に合った会社を選ぶことが大切です。どのようなポイントに注意して選ぶべきか、次章で詳しくお伝えします。
M&A仲介会社を選ぶときに注意すべきポイント
M&Aの案件が増えるにつれて、M&A仲介会社も増加しています。多くのM&A仲介会社から、自社に適した会社を選ぶためには、次のポイントを参考に選ぶとよいでしょう。
- 自社の専門分野について実績が豊富である
- 自社と同規模の案件を豊富に扱っている
- 報酬体系が明確である
- 担当スタッフと相性がよい
それぞれのポイントについて、詳しくお伝えします。
自社と同じ専門分野において実績が豊富である
M&A仲介会社を選ぶときは、自社と同じ専門分野における実績が豊富かどうかを確認しなければなりません。
一般的に、M&A仲介会社は、得意とする分野が会社によって異なります。たとえば製造業を得意とするM&A仲介会社がある一方、IT関連企業を得意とする会社もあります。
得意とする分野で、業界内の詳しい情報を持っていたり充実したネットワークを構築していたりするため、よりよい候補先が早く見つかる可能性が高まるでしょう。
自社と同規模の案件を豊富に扱っている
自社と同規模の案件を豊富に扱っているかどうかも、大切なポイントです。一般的なM&A仲介会社では、数千万円から数億円程度の案件を扱います。しかし数百万円から数万円ほどの小規模案件を得意とする会社もあります。
自社と同規模の案件をあまり扱っていないM&A仲介会社の場合、相手先がなかなか見つからないといった状況になりやすいでしょう。依頼する際には、どの規模の案件を扱っているのかを確認する必要があります。
報酬体系が明確である
報酬体系が明確であることも、安心して依頼できるポイントです。M&A仲介会社に依頼する場合、相談料や着手金、中間金、成功報酬などさまざまな費用がかかります。
報酬について、わかりやすく明確に提示しているM&A仲介会社であれば、信頼して任せられます。
担当スタッフと相性がよい
会社売却というストレスのかかる仕事を進めるには、担当スタッフとの相性も重要です。相談しやすく信頼できる担当スタッフであれば、迷ったときや悩んだときに適切な助言や支援を期待できます。
名の知れたM&A仲介会社であったとしても、担当スタッフが信用できなければ、交渉は期待したようには進みません。最初に相談するときから、親身になって寄り添ってくれるかどうか、信頼して任せられるかどうかを確認することが大切です。
まとめ
中小企業の売却を含むM&Aは、増加傾向にあります。さらに潜在的な譲渡需要は大きく、今後も増えていくことが予想されています。ただし、どのような企業も売却できるわけではなく、買い手企業がシナジー効果を得られると判断するかどうかが分岐点です。
そのため、売却を検討する企業は、将来性のある企業だと思ってもらえるような魅力的な会社づくりが欠かせません。さらに、売却後もスムーズな経営統合ができるように、企業内の権限移譲も進めていく必要があるでしょう。
中小企業の売却方法はいくつかありますが、主な売却方法は株式譲渡か事業譲渡です。いずれの方法でも、自社のみで会社の売却を進めるのは困難です。会社の売却を検討する際は、M&A専門家の知識や経験が欠かせません。
レバレジーズM&Aアドバイザリー株式会社は、幅広い内容に対応できるM&Aに精通したM&A仲介会社です。担当するのは、豊富な知見を持ったコンサルタントのため、安心してお任せいただけます。
料金体系は、M&Aのご成約時に料金が発生する完全成功報酬型です。無料で相談も受けつけているため、会社の売却を検討する方はお気軽にお問い合わせください。