クリニックや医院の医業承継とは?手続きの流れや行う際のポイントを解説

2024年8月30日

クリニックや医院の医業承継とは?手続きの流れや行う際のポイントを解説

このページのまとめ

  • 医業承継とは、医療機関の経営を別の人に引き継ぐこと
  • 医療業界の現状から、医業承継を選ぶケースは今後増えていくと考えられる
  • 親族への承継が多くを占めるが、第三者や医療機関に承継する場合もある
  • 売り手は後継者の確保や利益の獲得、買い手はスムーズな引継ぎや安定した経営が可能
  • 早めに着手し、売り手と買い手の認識をすり合わせることでトラブルを防止できる

経営状況の悪化から、クリニックや医院の譲渡を考える方もいるのではないでしょうか。医療機関を他の人に引き継ぎたい場合は「医業承継」を視野に入れましょう。医業承継は、医師の高齢化や後継者不足が深刻化している近年、注目されています。

本記事では、医業承継の概要や手続きの流れ、ポイントを解説します。医療業界の経営に関する現状や、医業承継の種類についても解説しているため、ぜひ参考にしてください。

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医業承継とは?

医業承継(医業継承)とは、既存の医療機関の経営を新たな経営者に引き継ぐことです。医療機関同士でM&Aを行うと考えるとイメージしやすいでしょう。医師免許を持つ親族に承継するパターンもあります。

医業承継は近年、後継者がいない場合や経営者が高齢となっている場合の選択肢の1つとなっています。休業や廃業ではなく医業承継を行うことで、医療機関の経営を途絶えさせず継続させるケースが増えてきました。

承継と継承の違い

「承継」と「継承」は、先代からのものを引き継ぐという意味では共通していますが、引き継ぐものに違いがあるとされています。承継は、地位や身分、財産、権利・義務などの形のないものに使われる言葉です。継承は、身分や仕事、財産など形のあるものを引き継ぐことに多く使われます。

ただし、実際は使い分けの明確な基準があるわけではありません。法律や税制措置など、公的な場面では「承継」が使われています。

医療業界の経営に関する現状

近年、医業承継が注目されつつある背景には、深刻化する医療業界の人材の高齢化や後継者不足があります。以下では、帝国データバンクの調査「医療機関の「休廃業・解散」動向調査」と日本医師会の調査「医業承継実態調査」の結果に沿って、医療業界の現状を見ていきましょう。

医業における休廃業・解散数の推移

帝国データバンクの「医療機関の「休廃業・解散」動向調査」によると、2023年度の医療機関の休廃業・解散数は、過去最多の709件でした。この数字は10年前の2.3倍であり、前年に比べると37.1%増加しています。このうちとくに増えているのが、病床数19以下で比較的小規模の「診療所」の休廃業や解散で、580件に上りました。過去10年の医業における休廃業・解散数は以下の通りです。

2013年度2015年度2017年度2019年度2021年度2023年度
診療所243303346458462580
病院202824281719
歯科医院4053607575110
合計303384430561554709

参照元:株式会社帝国データバンク「医療機関の「休廃業・解散」動向調査

診療所の経営者の年齢の分布

2023年度の休廃業・解散数の多かった診療所においては、経営者の高齢化も顕著です。前述の「医療機関の「休廃業・解散」動向調査」によると、65〜77歳頃の経営者は各年齢で400人を超えているのに対して、64歳以下の経営者は年齢が低くなるとともに急激に減少しています。たとえば、65歳の経営者は400人を超えているにもかかわらず、60歳の経営者は250人に満たないなど、数歳の差であっても経営者数の差は顕著です。

参照元:株式会社帝国データバンク「医療機関の「休廃業・解散」動向調査

医業における後継者の実態

日本医師会の「医業承継実態調査」によると、高齢化が深刻な中で、後継者が決まっている診療所の割合は約21.6%に過ぎません。「現時点で後継者候補はいない」が約50.8%、「後継者候補はいるが、意思確認していない」が約27.7%と、8割近くで後継者が決まっていない状態です。

こうした現状から、休廃業や解散を検討する診療所は今後もさらに増えるでしょう。休廃業や解散を避けるために、医業承継を検討する経営者も増えると予想されます。

参照元:日本医師会「医業承継実態調査

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医業承継の種類

医業承継の種類は、主に以下の3つです。いずれも、引き継ぎ先が医師の資格を持っていなければなりません。

経営を引き継ぐ人特徴・メリット
親族間承継経営者の娘・息子や孫、甥・姪などの親族・対価の支払いや仲介手数料がかからない場合が多い
・周りの理解を得やすく準備や承継がスムーズにできる
・相続や贈与によって承継することで税制の優遇措置を活用しやすい
第三者承継経営者と親族関係でない第三者・後継者候補がいない場合に、条件の合った相手を広く検討できる
・売り手は対価を得られる
医療法人への承継医療法人・買い手の医療法人の新たなノウハウや経営手法を活かせる
・買い手の規模によってはより安定した経営が望める

それぞれの特徴について、以下で詳しく見ていきましょう。

親族間承継

親族間承継とは、院長の息子や娘、甥や姪、孫など親族関係にある人に経営を引き継ぐことです。医業承継の主流の方法といえます。

経営者が現役の医師を引退して親族に引き継ぐ場合は、主に贈与によって承継します。一方で、経営者が亡くなってから親族に引き継ぐ場合は、相続によることが一般的です。それぞれ贈与税や相続税を納付しなければなりません。

親族間承継のメリットは、対価や仲介手数料が不要である点です。スタッフや患者にとっても、まったく知らない第三者が承継する場合に比べると受け入れやすく、準備や引継ぎがスムーズにできるでしょう。相続や贈与による承継では、税制措置を活用しやすい点もメリットといえます。

第三者承継

第三者承継とは、経営者の親族関係にない第三者へクリニックや医院を引き継ぐ方法です。第三者承継をしたい場合は、まず承継する相手を探さなければなりません。そのためには、医業承継に詳しい専門家やM&A仲介会社などに依頼するとよいでしょう。

親族間承継とは異なり、売買や貸付など金銭を伴うため、双方の希望金額のすり合わせが必要です。一方で、親族に限らず幅広く後継者候補を探せるため、条件の合う相手を見つけやすいといえます。

医療法人への承継

売り手が医療法人の場合は、経営者である理事長や理事、監事の交代によって承継が可能です。買い手も医療法人であれば、吸収合併や新設合併もできます。親族へ出資持分を相続・贈与することも可能です。

売り手が平成19年4月より前に設立された医療法人である場合は、出資持分を買い手に承継するか、出資持分なしの医療法人に移行するかを選ぶ必要があります。これは、平成19年4月より前は、原則持分あり医療法人しか設立できなかったためです。

持分ありの医療法人を継続する場合は、売り手の利益に譲渡所得税が課税されます。親族への贈与・相続である場合は、買い手に贈与税・相続税が課されます。持分なしの医療法人に移行する場合は、持分を放棄する必要があるものの、税負担を軽減が可能です。

買い手が医療法人であれば、すでに安定した経営を行っていると考えられます。そのため、買い手の一員となり、より安定した経営基盤による承継が望めるでしょう。買い手が培ってきたノウハウや経営手法を活かして、事業を広げたり専門性を高めたりすることも可能です。

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医業承継のメリット

医療承継は、売り手と買い手の双方にメリットがあります。それぞれの立場でのメリットを、以下で詳しく見ていきましょう。

売り手側の医業承継のメリット

売り手側の医業承継のメリットは、以下の通りです。

  • 金銭を伴う譲渡によって利益を得られる
  • 患者を引き継ぐことで、地域の医療に打撃を与えない
  • スタッフの雇用を継続できる

医業承継における譲渡価格の相場は、「1年分の営業利益+小計する建物や設備の簿価(時価)」で試算でき、1,000万円から4000万円程度となることが多い傾向にあります。譲渡によって得た利益は、引退後の生活資金や新事業の立ち上げなどに活用できるでしょう。

医業承継では、患者の診療やスタッフの雇用も継続できます。医療機関の少ない地域で医業を営んでいる場合は、「自分が医療を続けなければ患者を診てくれる医師がいなくなる」という不安もあるでしょう。休業や廃業となると、これまで一緒に医療を行ってきたスタッフは新たな就職先を探さなければなりません。

後継者に医業を引き継ぐことで、こうしたスタッフの雇用の心配もなくなります。

買い手側の医業承継のメリット

買い手側の医療承継のメリットには、以下のものがあります。

  • 新規開業よりも資金や労力がかからない
  • 安定した経営が見込める
  • 近隣の医療機関との関係性ができている

医業承継ではすでに成り立っている事業を引き継ぐため、新たに土地や建物、設備などをそろえる必要がありません。スタッフを雇用するための採用活動も不要です。新たに開業するよりも、少ない資金や労力で事業を始められます。

これまで積み重ねてきたノウハウや患者との信頼関係を引き継ぐことで、安定した経営も期待できます。近隣の医療機関との関係性ができていれば、連携した医療もしやすいでしょう。

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医業承継のデメリット・注意事項

医業承継には多くのメリットがある一方、デメリットや注意すべき点もあります。承継自体の複雑さに加えて、承継後にトラブルが発生することも少なくありません。以下で詳しく見ていきましょう。

すり合わせが不十分だと承継後にトラブルが起こりやすい

医業承継の前後で変化が大きければ、トラブルが発生する可能性があります。たとえば、方針や理念が大きく変わると、既存のスタッフは戸惑い、考え方の違いから離職してしまうかもしれません。多くのスタッフが離職してしまうと、人手不足となり医療の質が低下することも考えられます。

対応のしかたや雰囲気の大きな変化によって患者が不信感を抱き、別の病院を利用するようになる場合もあります。離脱する患者が多い場合は収益の減少を招き、経営が困難になりかねません。

第三者への承継だけでなく親族間の承継であっても、医療承継の実施前にしっかりとすり合わせを行う必要があります。

複雑な手続きが必要になる

医業承継では、税務や会計、法務などさまざまな分野の専門知識を前提とした手続きが必要です。

通常は、個人事業主であれば事業や財産の引継ぎとともに廃業手続きを行い、経営を承継する人が開業届を出すことで事業承継を行います。法人であれば、株式の譲渡を行い必要な登記を行うことで事業承継が完了します。

しかし、医療法人の理事長交代によって経営者の変更を行い事業承継をする場合は、理事会や社員総会を開催し事業を承継する人を理事長に選定しなければなりません。また、医業承継では親子や親族の間で承継する場合が多く、相続や贈与に関する知識も必要です。

クリニックや医院の経営を継続しながら医業承継を進める場合は、手続きが複雑になることを理解しておきましょう。

財産だけでなく借入金も引き継いでしまう

医業承継では、建物や設備などの資産だけでなく、借入金などの負債も引き継がなければなりません。医療法人名義での借入金でも、院長個人が連帯保証人となっている場合もあります。こうした場合は、新たな経営者が引き継いで連帯保証人となる場合があります。

負債に関しては情報共有や調査によってしっかりと把握し、個人による保証などについては、承継時の話し合いでしっかりと取り決めなければなりません。

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医業継承・承継の手続きや流れ

医業承継を行うためには、どのような流れで手続きを行うのかを知っておく必要があります。以下では、第三者承継を想定した流れの一例を、買い手側と売り手側から見ていきましょう。

買い手側売り手側
検討・準備医業承継の検討
(希望時期、譲渡金額、目的、将来的な展望など)
専門家・M&A仲介会社への相談
マッチング・交渉専門家・M&A仲介会社との契約
(秘密保持契約、業務委託契約など)
売り手の選定買い手の選定
交渉
意向表明書の提出
基本合意書の締結
最終交渉デューデリジェンス
最終交渉
最終契約書の締結
承認・引継ぎ
クロージング
対価の支払い対価の受け取り

第三者承継では、自力で相手を探すことは難しいため、相手探しやマッチングを依頼できる専門家やM&A仲介業者を選んで契約を交わすことから始めましょう。

専門家や仲介会社を通して相手が見つかったら、交渉して医業承継の基本合意書を締結します。基本合意書を締結する前に、買い手側が医業承継に前向きな意思を示す「意向表明書」を提出することもあります。意向表明書の提出は必須ではないものの、以降の交渉をスムーズに進められる書類です。

基本合意書を交わしたら、経営状態の調査であるデューデリジェンスを行います。売り手側の資産や負債、財務や法務などの情報を収集しリスクを精査したうえで、最終的な条件や買収額の決定につなげるためです。最終交渉で合意が形成されれば最終契約書を締結し、医業の引継ぎを行います。資産や実印の引き渡し、対価の支払いなどを行うことでクロージングとなり、医業承継は完了です。

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医業承継を行うポイント

医業承継には、経営者やスタッフ、患者などさまざまな人が関わります。スムーズな承継を行うには、早めの準備や認識の念入りな擦り合わせが必要です。手続きには専門的な知識が必要であるため、専門家の力を借りることも検討しましょう。それぞれのポイントについて、以下で詳しく解説します。

着手すると決めたらすぐに準備を行う

医業承継を行うと決めたら、早めに準備をしましょう。経営状況が悪化してからでは後継者候補が見つかりにくくなり、条件もまとまりにくくなります。相手を探す前段階として、仲介を依頼する専門家やM&A仲介会社を探すことも必要です。もし相手が見つかっても、交渉が難航したり問題が明らかになったりして契約・クロージングまで進まないこともあるため、余裕を持って準備することをおすすめします。

余裕のあるスケジュールを立てることで、スタッフや患者への十分な周知もできます。急に経営者や体制が変わると、戸惑うスタッフや患者もいるでしょう。早めに周知をして、スムーズに新体制に移行することが望ましいです。

経営方針や診療スタイルなど認識の擦り合わせを行う

スムーズな医業承継を行うために、売り手側と買い手側の認識をしっかりとすり合わせておきましょう。経営方針や診療スタイルなどの変化が大きければ、スタッフや患者が離れてしまうことも考えられます。

認識のすり合わせ不足は第三者への承継だけでなく、親族間の承継でも起こりえます。いずれの場合も、売り手側と買い手側でしっかりと話し合う機会を設けましょう。

医業承継やM&Aの専門家に相談する

医業承継やM&Aの専門家に相談することで、スムーズな承継につながります。医業承継には、準備からクロージングまで時間がかかり、労力や専門的な知識も必要です。そのため、自力で進めようとすると行き詰まったり、トラブルになってしまったりする可能性があります。医業継承を行うなら、経験や知識の豊富な専門家の力を借りることを検討しましょう。

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まとめ

医業承継は、医師の高齢化や後継者不足が進む中で、今後増えると考えられる方法です。売り手は安心して引退できるうえに譲渡による利益も期待できます。買い手にとってもメリットが多く、承継後の安定した経営を見込めます。

医業承継を成功させるためには、念入りに経営方針や理念、診療内容などのすり合わせを行い、スタッフや患者が離れることなく経営を続けることが大切です。加えて、専門知識も必要であるため、専門家に依頼することも検討しましょう。

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