M&Aにかかる税金とは?売り手・買い手別に税務と節税対策を説明

2024年7月30日

M&Aにかかる税金とは?売り手・買い手別に税務と節税対策を説明

このページのまとめ

  • M&Aの際に発生する税金は、スキームや法人・個人によって異なる
  • 同じスキームを選択する場合でも、売り手・買い手によって税金の種類が異なる
  • 適格要件を満たすことで非課税になるなどの、節税対策を検討できる
  • 法人・個人によって税金の申告期限・納付期限が異なる

「M&Aにはどのような種類の税金がかかるのだろうか、税額はどの程度だろうか」と悩んでいる方も多いのではないでしょうか。

本コラムでは、株式譲渡や事業譲渡などのM&Aスキームごとに、どのような種類の税金がかかるのか、売り手・買い手に分けてまとめました。また、利用できる節税方法も紹介します。

コストを抑えてM&Aを実施するためにも、ぜひお役立てください。

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M&Aにかかる税金・税額を決めるポイント

M&Aを実施することで、会社や事業、不動産、権利などのやり取りが生じます。利益が生じた側に法人税や所得税が課せられることもあるため、M&A実施前に税金の種類やおおよその税額を把握しておきましょう。

M&Aにかかる税金の種類や税額は、次の2つのポイントで決まります。

  • M&Aのスキーム
  • 取引当事者が法人か個人か

それぞれのポイントについて説明します。

M&Aのスキーム

M&Aには多様なスキームがあります。事業譲渡や株式譲渡、会社分割、合併などのさまざまなスキームがあり、状況や当事者の希望などによって使い分けることが必要です。

M&Aのスキームが異なると、税金の種類も異なります。たとえば株式譲渡であれば、譲渡益に対して税金が課せられます。法人であれば法人税、個人であれば所得税(分離課税)を原則として納付しなくてはいけません。

取引当事者が法人か個人か

取引当事者が法人か個人かによっても、税金の種類が異なります。税金の種類によって税率が異なるため、税額も変わってくる点に注意が必要です。

法人に課せられる税金の種類

M&Aを実施した当事者が法人なら、利益に対して基本的には法人税が課せられます。

普通法人の法人税率は23.2%です。ただし、資本金が1億円以下の法人に関しては、課税対象額のうち800万円以下の部分については15%(適用除外事業者は19%)、800万円を超える部分については23.2%の税率で課せられます。

なお、法人税と法人住民税、法人事業税、特別法人事業税などをひとくくりにして法人税と称することがあるため、文意で区分けするようにしましょう。すべてまとめた実効税率は31%ほどで、法人の規模や所在地などによって異なることもあります。

個人に課せられる税金の種類

個人所得に対しては、所得の種類に応じて総合課税と分離課税に分けられます。

総合課税給与所得、事業所得、不動産所得、配当所得、譲渡所得、一時所得、雑所得
分離課税利子所得、退職所得、譲渡所得、山林所得

譲渡所得については、ゴルフ会員権の売却などは総合課税、株式や土地の売却などは分離課税となります。

なお、総合課税とは、該当する所得をすべて合算して控除額を差し引いた金額を求め、その金額に応じた税率で税額を計算する方式です。対象となる金額(課税所得額)が多くなると税率が高くなる累進税率が適用されます。

一方、分離課税とは、課税所得額に一律20.315%の税率をかけて税額を計算する方式です。課税所得額が変わっても税率は変化しないため、税額の計算も簡単です。

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M&Aのスキーム別の税務

M&Aのスキームのなかでも、次の4つは利用されることが多い手法です。

  • 株式譲渡
  • 事業譲渡
  • 組織再編(会社分割・合併)
  • 第三者割当増資

それぞれの税務上の取扱いおよび、売り手側・買い手側に分けて課せられる税金を紹介します。

株式譲渡の税務

株式譲渡では、株式を譲渡する側(元株主)が法人か個人かによって課せられる税金と税率が異なります。また、株式を譲渡することで、必ずしも所得が生じるわけではありません。株式を取得したときと比べて株式の価格があまり上がっていないときには、所得どころか損失が生じている可能性もあります。

一方、株式を譲受する側(新株主)については、課税されないことが一般的です。しかし、取得にかかった対価については、取得価額として計上しておくことが必要です。

売り手側に課せられる税金

株式譲渡によって得られた所得に対し、売り手(譲渡側)が法人なら法人税、個人なら所得税(分離課税)が課せられます。法人税率は約31%、分離課税の所得税率は20.315%です。株式譲渡による所得は、以下の計算式で求めてください。

株式譲渡による所得=譲渡価額-(株式の取得費用+譲渡手数料)

取得費用には、株式の発行にかかった手数料や名義書き換えの費用、会社設立の際の出資額などが含まれます。ただし、個人については、取得にかかった実際の費用と譲渡対価の5%とを比較し、多いほうを取得費用とできます。

相続によって取得した株式については、相続後3年10ヶ月以内に株式譲渡をするときは相続税(株式にかかる分のみ)を取得費用に加算可能です。取得費用が増えると譲渡所得額が減り、税額も減ります。

買い手側に課せられる税金

一方、株式の譲受側は課税されません。ただし、贈与税もしくは法人税が課せられるケースがあるため、該当しないか確認しておきましょう。

贈与税が発生するのは、個人が株式を買い取ったときです。一般的に算定される価格よりも極めて低額で株式を買い取ったときは贈与とみなされて、時価と譲渡価額の差額に対して贈与税が発生します。なお、贈与税は課税対象額が高くなると税率が高くなる累進課税で、最大55%です。

法人税が発生するのは、法人が株式を実際の価値よりも極めて低額で購入したときです。一般的に算定される時価と譲渡価額の差額に対して、法人税が課せられることがあるため注意しましょう。

事業譲渡の税務

事業譲渡では、事業に関連する資産や負債のやり取りがおこなわれます。その際に帳簿上の価額と時価に差があるときは譲渡損益が生じ、会計処理だけでなく税務も必要です。

譲渡損益による税務は、株主個人ではなく取引の当事者となる法人がおこないます。ただし、譲渡損益だけで税額を計算するのではなく、同じ事業年度のほかの損益と通算したうえで課税対象額を求め、法人税を算出する点に注意しましょう。そのため、事業譲渡によって損失が生じたときは、その年度の課税対象額が減ることになり、節税できることがあります。

また、売り手側にとって、譲渡価額が譲渡資産の時価より大きいときは「のれん」が発生したことを意味します。のれんは5年間にわたって均等に償却することが必要です。譲渡価額が資産時価よりも低いときには「負ののれん」が発生しますが、この場合は5年間かけて月割で益金に算入します。なお、負ののれんは益金に算入したときに収益として扱われるため、法人税の課税対象です。

売り手側に課せられる税金

事業譲渡は法人間でおこなわれる取引のため、売り手は法人です。以下の計算式で事業譲渡益がプラスのときは、約31%の税率で法人税が課せられます。

事業譲渡益=譲渡価額-譲渡資産の簿価

買い手側に課せられる税金

事業譲渡では、買い手側は譲受した資産に対して消費税を支払うことになります。消費税の課税対象資産と非課税資産は以下をご覧ください。

消費税課税資産土地を除く不動産などの有形固定資産、無形固定資産、棚卸資産、のれんなど
非課税資産土地、債権、有価証券など

有形固定資産とは、事務所や工場などの施設、設備、10万円以上の備品などを含みます。一方、無形固定資産とは特許権や商標権などの権利、ソフトウェアなどです。

事業譲渡において買い手側は消費税の支払い義務を負いますが、購入した資産などの代金と合算して売り手側に支払うため、実際に納税する責任を負うのは売り手側です。売り手側は売却資産を消費税の課税資産と非課税資産に分けて、課税資産の金額に消費税率をかけて消費税額を算出し、資産の代金に加えてから、買い手側に請求します。

譲受した資産のなかに不動産が含まれているときは、買い手側は登録免許税の納付義務も負わなくてはいけません。登録免許税とは登記をする際に発生する税金で、不動産を売買することで所有者が替わると、新しい所有者が不動産移転登記をする必要があります。登録免許税の税率は土地の価格の1.5%(2026年3月31日まで。本則は2.0%)です。

不動産に関しては以下の税率で不動産取得税も課せられます。

土地の不動産取得税額土地の価格×3.0%
建物の不動産取得税額建物の価格×4.0%(※)

※ 建物が住宅の場合は、不動産取得税額は建物の価格×3.0%

参照元:国税庁「土地の売買や住宅用家屋の所有権の保存登記等に係る登録免許税の税率の軽減措置に関するお知らせ」
参照元:総務省「不動産取得税」

組織再編(会社分割・合併)の税務

組織再編(会社分割・合併)では、資産のやり取りがあっても商取引とはみなされないため、消費税は課せられません。また、適格要件を満たすときは、消費税以外の税金も非課税です。

ただし、適格要件を満たさないときは、資産の時価と簿価の差額は譲渡益となるため、売り手側には法人税の納税義務が発生します。適格要件については後述します。

売り手側に課せられる税金

組織再編をする場合、適格要件を満たすときは資産の譲渡・買収があっても非課税となります。適格要件は、売り手側・買い手側の関係性によって異なります。まずは売り手側・買い手側の関係が次のいずれに相当するのか見極めてください。

売り手・買い手の関係詳細
完全支配関係100%親会社とその子会社との間でおこなわれる組織再編
支配関係50%を超える株式を所有する親会社とその子会社との間の組織再編
支配関係なし独立した企業の間でおこなわれる組織再編

売り手側・買い手側が完全支配関係にあるときは、次の要件のみ満たせば、適格な組織再編とみなされます。

  • 組織再編の対価が株式のみで支払われること

一方、支配関係にあるときは、次の3つの要件をすべて満たして組織再編をおこなったときのみ、適格と判断されます。

  • 組織再編の対価が株式のみで支払われること
  • 従業員の約8割が組織再編後の企業に引き継がれること
  • 従来実施していた事業が組織再編後も継続して実施されること

支配関係のない企業間でおこなわれる組織再編は、次の6つの要件すべて満たした場合のみ適格と判断されます。

  • 組織再編の対価が株式のみで支払われること
  • 売り手側・買い手側の事業がそれぞれ関連していること
  • 売り手側・買い手側の事業規模の差が5倍以内であること
  • 従業員の約8割が組織再編後の企業に引き継がれること
  • 従来実施していた事業が組織再編後も継続して実施されること
  • 組織再編後も株式が継続して保有されること

買い手側に課せられる税金

組織再編においては、適格・非適格のいずれも買い手側には税金は課せられません。また、建物や設備などの消費税課税対象である資産を譲受した場合でも、商取引ではないため、消費税を支払う必要もありません。

第三者割当増資の税務

第三者割当増資とは、新たに株式を発行して買い手側に渡し、対価を得る資金調達方法です。すでに発行している株式については渡さないため、買い手側は売り手側の株式を100%取得することは不可能です。ただし、新たに発行された株式が発行済み株式数よりも多ければ、過半数の議決権を獲得することにもなり、経営権を取得できます。

第三者割当増資は税務上も増資がおこなわれたと判断するため、株式譲渡や事業譲渡などのM&Aとは異なり、譲渡所得や譲渡益などが発生しません。そのため、所得税や法人税などの課税もありません。

売り手側に課せられる税金

第三者割当増資は、基本的には非課税でおこなえます。しかし、第三者割当増資を実施することで発行済み株式の価値が上昇したときは、売り手側は買い手側から贈与を受けたと判断され、贈与税の課税対象になることがあります。

たとえば、資本金が3,000万円で発行済み株式数が1万株の会社が、新たに1万株発行し、1株=5,000円で相手企業に譲渡したとしましょう。本来は1株=3,000円の価値でしたが、第三者割当増資後は2万株=8,000万円となり、1株あたりの価値は4,000円に増加したことになります。

この場合は、第三者割当増資によって株式の価値が大きく変化したと判断されるため、売り手側は相手企業(買い手側)から差額に相当する贈与を受けたとして贈与税を支払わなくてはいけません。贈与税の支払いを回避したいときは、発行済み株式の時価を計算し、時価に基づいた株式数・価格で相手企業に譲渡することが必要です。

買い手側に課せられる税金

第三者割当増資においては、買い手側に課せられる税金はありません。株式を時価よりも高い・低い価格で譲受した場合でも、贈与税や法人税・所得税などの課税対象とはなりません。

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M&Aにかかる税金の申告・納付のタイミング

M&Aを実施する際に、税金が発生することがあります。ただし、税金が発生したタイミングで申告・納付するのではありません。納税義務がある事業者が法人か個人かによって、税金の申告時期・納付時期が異なります。

なお、法人・個人にかかわらず、正しい時期に国税を申告・納付しない場合は、延滞税が課せられます。延滞税は法定納付期限の翌日から1日単位で課せられるだけでなく、納付期限を2ヶ月超えると税率が上がる点に注意が必要です。

悪質なときなどは、延滞税に加え、無申告加算税や重加算税なども課されることがあります。また、地方税を延滞すると、国税の延滞税に相当する延滞金や加算金を課せられることもあるため、M&Aを実施する前に納付時期を確認しておきましょう。

法人の申告・納税時期

納税義務のある事業者が法人の場合は、課税の対象となる取引が生じたときの事業年度において、事業年度の終了日の翌日から2ヶ月以内に申告・納税をおこないます。

たとえば、事業年度が4月1日~3月31日の法人において、課税の対象となる取引が5月10日に生じたときは、翌年の5月31日までに申告・納税をおこなわなくてはいけません。そのため、事業年度のはじめ頃に取引が生じた場合なら、実際の納税までには約1年の猶予があることになります。

個人の申告・納税時期

納税義務のある事業者が個人の場合は、課税対象となる取引が生じた年の翌年の2月16日~3月15日(※)の確定申告において、申告・納税をおこないます。

たとえば課税の対象となる取引が1月10日に生じたときは、翌年の3月15日までに申告・納税をおこなわなくてはいけません。そのため、年のはじめ頃に取引が生じた場合なら、実際の納税までには1年を超える猶予があることになります。

※確定申告の始まり・終わりの日が土日祝日に重なるときは、開始日・終了日が変わることもあります。年によって異なるため、国税庁ホームページなどで正確な期間を確認しておきましょう。

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M&Aで節税する方法

M&Aでは事業や施設、権利などのさまざまな有形・無形資産のやり取りが実施されます。多額の資金が動くため、税金も多額になることがあり、注意が必要です。

M&Aの節税対策は、手法によって異なります。株式譲渡・事業譲渡・組織再編・第三者割当増資に分けて、それぞれの手法ごとに実施可能な節税対策を紹介します。

株式譲渡の節税対策

株式譲渡では以下の節税対策を利用できることがあります。

  • 役員退職慰労金を活用する
  • 分割型分割を検討する
  • 相続は特例が適用される可能性がある

各対策について説明します。

役員退職慰労金を活用する

株式譲渡による対価の一部を退職金として受け取ることで、譲渡企業側が大幅に節税できることがあります。
たとえば、株式譲渡により5,000万円の対価を受け取る場合、そのまま受け取ると20.315%の税金が課せられますが、退職所得として受け取ると退職所得控除が適用されます。
実際に税額をシミュレーションしてみましょう。

<全額そのまま受け取ったときの税額>
50,000,000円×20.315%=10,157,500円

<一部を役員退職金として受け取ったときの税額>
500万円を譲渡所得として、残りを3人の役員に対する退職金として1,500万円ずつ受け取ったと仮定します。

  • 譲渡所得に対する税金は1,015,750円(5,000,000円×20.315%)
  • 3人の役員すべてが勤続年数30年以上の場合、役員1人あたりの退職所得控除は1,500万円以上(※)となるため、退職金に対する税額は0円

一部を役員退職金として受け取ることで、約900万円を節税できました。

今回のように退職所得控除額以内の退職金に設定するなら、退職金にかかる税金を全額非課税にすることも可能です。なお、退職金が退職所得控除を超えるときは、あらかじめ役員自身が「退職所得の受給に関する申告書」を提出することで、税金を源泉徴収できます。

また、対価を役員退職金として渡すことで、適正額の範囲内で損金として計上できます。益金があるときは損益通算により課税対象額を減らせるだけでなく、翌期以降9期にわたって繰越欠損金として扱えるため、翌期以降の税額も減らすことが可能です。

※ 退職所得控除額は以下の計算式で求めます。
  勤続年数20年以下:40万円×勤続年数
  勤続年数20年超:800万円+(勤続年数-20年)×70万円

参照元:国税庁「退職金と税」

分割型分割を検討する

分割型分割とは、株式分割により会社を分割して兄弟会社をつくることです。兄弟会社間の資産移動に対しては、課税されません。株式譲渡をおこなう前に、譲受企業が求めていない資産を兄弟企業に移しておけば、求められている資産だけ残した企業を譲渡できます。

分割型分割を実施することで、譲渡企業は次のメリットを得られます。

  • 必要な資産だけを譲渡するため、譲渡益によって生じる税金を減らせる
  • 譲受企業側が求める資産だけを譲渡できるため、M&Aの相手企業が見つかりやすくなる

分割型分割は、譲受企業にとってもメリットがあります。

  • 必要な資産だけを譲受できる
  • M&Aにかかる費用を抑えられることがある

ただし、兄弟会社をつくるときに適格と認められないときは、兄弟会社への資産移動が「譲渡」や「贈与」と判断され、課税対象となる可能性があります。実際に兄弟会社をつくるときは、M&Aの専門家であるM&A仲介会社に相談し、慎重に進めていくことが必要です。

相続は特例が適用される可能性がある

相続によって個人株主が株式譲渡を実施するときは、相続後3年10ヶ月以内であれば次の2つの特例が適用されて、節税しやすくなります。

  • 株式譲渡により発生した相続税を「取得費」として加算できる
  • 非上場株式を株式発行会社に譲渡したときは、みなし配当課税が適用されない

相続税を株式の「取得費」として加算すると、株式譲渡による課税譲渡所得を減額でき、所得税額も減らせます。

また、本来であれば、非上場株式を株式発行会社に譲渡したときは、譲渡益に対して「みなし配当課税」が適用されます。みなし配当課税は総合課税となるため、最大55%の税率です。しかし、相続後3年10ヶ月以内であれば、みなし配当課税ではなく通常の株式譲渡課税(20.315%)が適用されるため、節税できる可能性があります。

事業譲渡の節税対策

株式譲渡は、基本的には会社をそのまま買収側に譲渡するM&Aの手法です。一方、事業譲渡は譲渡する資産や範囲を自由に選択できるため、節税の工夫がしやすい手法とされています。とりわけ次の2つの節税対策は、事業譲渡の際に実施されることが多いです。

  • 売却益を経費で相殺する
  • 買い手側から求められる資産のみを売却する

それぞれの対策について見ていきましょう。

売却益を経費で相殺する

事業譲渡によって得られた利益に対しては、すべて法人税の課税対象となります。広告宣伝費やのれんなどを経費として計上し、課税対象額を減らすことで法人税を節約できることがあります。

ほかにも固定資産の減価償却費などで課税対象額の減額が可能です。事業譲渡によって利益が生じる事業年度に経費を計上できるよう、固定資産の購入などの時期を調整することもひとつの方法です。

買い手側から求められる資産のみを売却する

必要のない資産を譲渡しても、課税対象になってしまいます。買い手側から求められる資産のみを売却することで、売却額を減らし、課税額も減らすようにしましょう。

また、買い手側が必要とする資産だけを譲渡するようにすれば、M&Aの相手企業が見つかりやすくなり、早期に譲渡契約が完了します。M&Aにかかる期間が長引くとM&A仲介会社に支払う手数料もかさむことがあるため、節税対策も大切ですが、できる限り早期に契約が完了するように工夫することも大切です。

組織再編の節税対策

会社分割や合併などの組織再編は、適格要件を満たすならば非課税で実施できます。売り手と買い手の関係が「完全支配関係」「支配関係」「支配関係なし」のいずれに該当するのかを見極め、各関係に求められる適格要件を満たすようにしましょう。

「完全支配関係」であれば、組織再編の対価を株式のみで支払うことで適格要件を満たせます。しかし、「支配関係」となると従業員や事業の引き継ぎ要件が加わり、「支配関係なし」の場合には事業規模や再編後の株式についても要件が加わるため、満たすべき要件が多くなる点に注意が必要です。要件の漏れをなくすためにも、M&A仲介会社などの専門家のサポートを受けることをおすすめします。

第三者割当増資の節税対策

買い手側に経営権を引き渡すときは、株式譲渡ではなく第三者割当増資を選択することで節税できます。株式譲渡を選択すると譲渡所得に対する税金が発生します。しかし、議決権の5割を超えるように株式を発行し、第三者割当によって買い手側に交付すれば、オーナーなどの株主が所有している株式を譲渡するわけではないため税金が課せられません。

第三者割当増資は、事業承継時にも節税効果を発揮します。たとえば第三者割当増資を実施する際に、増資前の1株あたりの相続税評価額よりも低額になるように株式価格を調整すれば、相続税評価額を下げることが可能です。
増資により会社の資金が増えるため、相続後に事業規模の拡大や新規事業の着手もしやすくなります。また、買い手側による経営協力も期待でき、事業が上向きに成長する可能性もあるでしょう。

ただし、第三者割当増資により、発行済み株式の株価が上昇すると、上昇した金額が贈与とみなされることがあります。この場合は、贈与税が発生するため、第三者割当を受けた側に納税義務が生じます。

贈与税率は累進課税制度が適用され、課税対象額が高額になるほど高い税率が適用される点に注意が必要です。たとえば、直系尊属からの贈与に対しては、課税対象額が200万円なら贈与税率は10%ですが、課税対象額が4,500万円超のときは最高税率である55%が適用されます。

また、直系尊属以外からの贈与に関しては、控除額や税率ごとの適用課税対象額が異なるため、さらに贈与税額が増えることがあります。

贈与とみなされないためにも、相続以外で第三者割当増資を実施するときは、時価で株式を交付するようにしましょう。また、買い手側も受け取る前に時価によって株式が計算されているか確認することが必要です。

参照元:国税庁「No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)」

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まとめ

M&Aを実施するときには、税金についても考慮することが必要です。売り手側であれば、M&Aにより対価を受け取ることで法人税や所得税が発生する可能性があります。税額が高額のときは、受け取れる対価が目減りすることになるため、節税対策を検討しておくことが欠かせません。

買い手側も同様です。事業や資産を買い取る費用に加えて、贈与税や相続税などの税金が必要になることがあります。M&Aを実施する前に税金についても調べ、可能な限り節税できるように対策を打つことが大切です。

合法的に税金を抑えてM&Aを実施するためにも、一度、専門家に相談してみてはいかがでしょうか。M&Aの専門家なら、さまざまな会社形態・スキームに精通しているため、税金に対する的確なアドバイスを得られます。さらに、M&Aにまつわるあらゆる手続きのサポートも受けられます。

レバレジーズM&Aアドバイザリー株式会社には、各領域の専門性に長けたコンサルタントが在籍しています。税金のことはもちろん、M&Aの手法決定から相手企業とのマッチング、成約まで一貫したサポートを提供することが可能です。

ぜひレバレジーズM&Aアドバイザリー株式会社のご利用をご検討ください。