ベンチャー企業M&Aの目的やメリットを解説!事例や成功のポイントも紹介
2024年7月29日
このページのまとめ
- ベンチャー企業によるM&Aは、米国と比べると日本ではまだ少ないといえる
- M&AとIPOを比較すると、M&Aのほうが実行する難易度は低め
- ベンチャーのM&Aの主な目的は、イグジットによる投資回収や大幅な企業成長
- ベンチャー企業のM&Aでは、適切なタイミングやスキームを見極めることが大切
- ベンチャー企業のM&Aを成功させるためには、PMIに取り組むことも重要
「ベンチャー企業がM&Aを成功させるためにはどうしたらよい?」とお悩みの方もいるのではないでしょうか。
成功させるためには、ベンチャー企業のM&Aの概要や過去の事例を知ることが大切です。
本コラムでは、ベンチャー企業のM&Aの目的やメリット・デメリット、全体の流れなどを紹介。また、イグジットの手段として活用されるIPOとの違いや、M&Aを成功させるポイントも解説しているので、ぜひ参考にしてください。
目次
ベンチャー企業のM&A動向
ベンチャー企業のM&Aは、日本でも実施されています。
しかしアメリカと比較すると、イグジットの手段としてM&Aを選択するケースはまだまだ少ない状況だといえます。
経済産業省が2021年に公表している調査報告書によると、2019年時点でのベンチャーキャピタルの投資先企業における日本とアメリカのM&A・IPOの状況は下記のとおりです。
日本 | アメリカ | |
M&Aの割合 | 32%(42件) | 91%(836件) |
IPOの割合 | 68%(89件) | 9%(82件) |
アメリカにおけるM&Aの件数が836件で9割を超える一方で、日本においては42件で3割程度になっています。
参照元:
経済産業省『大企業×スタートアップのM&Aに関する調査報告書(バリュエーションに対する考え方及びIRのあり方について)』
ベンチャー企業がM&Aを行う2つの目的
ベンチャー企業がM&Aを行う主な目的は、下記の2つです。
- イグジットにより投資回収を行う
- 大企業の傘下で急成長を狙う
以下で詳しく解説します。
イグジットにより投資回収を行う
ベンチャー企業のイグジットの手段として、M&Aが選択されることがあります。
M&Aによってベンチャー企業の売却を行うことで、創業者利益を獲得して投資を回収します。
大企業の傘下で急成長を狙う
ベンチャー企業が大きく成長するために、M&Aを実施して大企業にグループ入りすることがあります。
株式譲渡によって大企業の子会社となることで、スケールメリットやブランド力を得ることが可能です。恩恵を受けながら、効率よく成長できます。
ベンチャー企業におけるM&AとIPOの違い
「M&A」とは、企業の合併(Mergers)と買収(Acquisitions)のことです。
「IPO」とは「新規株式公開」のことで、非上場企業が株式市場に新たに株式を売り出すことを指します。
M&AもIPOも、ともにイグジットの手段として活用されることが共通点です。
また、事業を大幅に成長させられる可能性がある点も共通しています。
一方で両者にはいくつか違いがあります。
【M&AとIPOの相違点】
M&A | IPO | |
実現の難易度 | 比較的低い | 比較的高い |
創業者利益獲得の難易度 | 比較的低い | 比較的高い |
コスト | 比較的低い | 比較的高い |
実施後の経営権 | スキームや割合によって経営権が移行することがある | 維持される |
従業員の雇用 | スキームによって雇用先が変わることがある | 変わらないことが多い |
取引先との関係 | 譲受先の意向によって変わることがある | 信用度が上がって強固な関係を築ける |
IPOを行うためには上場に関する諸々の手続きや上場するための資金が必要となり、比較的ハードルが高いです。
M&Aは実現までの難易度が比較的低く、近年は国や民間企業のサポート体制も充実してきているため、ベンチャー企業がM&Aを選ぶケースが増加しています。
【売り手】ベンチャー企業M&Aのメリット・デメリット
ここでは、ベンチャー企業をM&Aによって譲渡する、売り手側のメリットとデメリットを紹介します。
ベンチャー企業をM&Aで売却する4つのメリット
ベンチャー企業をM&Aで売却するメリットは、下記の4つです。
- 非上場のままでも売却できる
- 創業者利益を獲得できる
- 短期間での大幅な成長が期待できる
- 従業員の待遇が上がる
M&Aであれば、非上場のベンチャー企業でも売却が可能です。
上場するための時間・費用を掛けずに創業者利益を獲得できます。
また、短期間で企業・事業を大きく成長させられることも、ベンチャー企業をM&Aで売却するメリットの一つです。
売却先の企業にグループインすることで、出資を受けられたりスケールメリットを活用できたりします。
さらに、M&Aでの売却後に従業員の待遇が上がることがメリットです。
ベンチャー企業がM&Aで売却を行う場合、多くのケースで従業員の待遇はアップします。特に、売却先が安定した企業や規模が大きい会社であれば、格段に待遇が良くなることもあるでしょう。
ベンチャー企業をM&Aで売却する2つのデメリット
ベンチャー企業をM&Aで売却する際に考慮するべきデメリットは、下記の2つです。
- 経営権を失うことがある
- 従業員や取引先との関係が悪化するリスクがある
ベンチャー企業がM&Aで売却するときのデメリットとしては、経営権が失われることが挙げられます。
選択したM&Aのスキームや譲渡する議決権の比率によっては、経営権が譲受企業に移ります。
経営権を維持したい場合は、M&Aのスキームや譲渡内容に注意が必要です。
また、従業員や取引先との関係が悪くなる可能性があることにも注意しましょう。
M&A後に待遇や取引内容が悪化する場合、従業員・取引先から反感を買うことになります。最悪の場合、離職や取引の打ち切りなどにつながってしまいます。
【買い手】ベンチャー企業M&Aのメリット・デメリット
ここでは、ベンチャー企業をM&Aによって譲受する、買い手側のメリットとデメリットを紹介します。
ベンチャー企業をM&Aで買収する4つのメリット
ベンチャー企業をM&Aで買収するメリットは、下記の4つです。
- 既存事業とのシナジー効果が期待できる
- 新規事業に参入しやすい
- 設備やノウハウを確保できる
- 新しい分野に通じた人材を獲得できる
M&Aによってベンチャー企業を買収するメリットには、既存事業とのシナジー効果を獲得できることが挙げられます。
また、時間・労力をカットしてスピーディに新規事業に算入できることもメリットの一つです。
スムーズな事業拡大をかなえることができるでしょう。
ベンチャー企業が保有する設備やノウハウを確保できることも、M&Aで買収するメリットです。
本来であれば長い時間をかけなければ獲得できない設備・ノウハウを、すぐに手に入れられます。
チャレンジングな領域を開拓しているベンチャー企業であれば、最新の情報に精通した貴重な人材もM&Aによって獲得できるでしょう。
ベンチャー企業をM&Aで買収する2つのデメリット
ベンチャー企業をM&Aで買収する際に考慮するべきデメリットは、下記の2つです。
- 債務を引き継ぐリスクがある
- ミスマッチを起こす可能性がある
ベンチャー企業は資産が豊潤でないケースがほとんどであるため、負債による資金調達を行うことがあります。
選択するM&Aの手法によっては、ベンチャー企業が抱える債務を承継することになります。
買収予定のベンチャー企業に負債額以上の価値があるかどうか、しっかり見極めることが大切です。
また、合併のように複数の企業が一つに統合されるM&Aのスキームを選択した場合、ミスマッチを起こすリスクに注意が必要です。
社風や社内ルール、管理システムなどがあまりにもかけ離れているケースでは、統合作業がうまくいかず、想定していたシナジー効果を得られなくなるおそれがあるでしょう。
ベンチャー企業のM&Aの流れ
ベンチャー企業のM&Aの流れは、下記のとおりです。
- ニーズの発生・M&Aの検討
- M&A業者の選定・契約
- 機密保持契約書の締結(M&A業者との間で)
- アドバイザーとの面談
- 企業価値評価
- ロングリストの作成
- ショートリストの作成
- ノンネームシートの作成
- ネームクリアの検討
- 機密保持契約書の締結(買い手と売り手との間で)
- 企業概要書の提示
- 企業価値評価・スキームの絞り込み
- トップ面談
- 条件の交渉
- 意向表明書の提出
- 基本合意書の締結
- デューデリジェンスの実施
- 最終条件の交渉
- 最終契約書の締結
- クロージング
M&Aの全体の流れは、ベンチャー企業においても一般的なM&Aと変わりません。
M&Aは会社・事業の今後を大きく左右する重要な出来事であるため、どのプロセスも慎重に進めましょう。
ベンチャー企業のM&Aを成功させる5つのポイント
ベンチャー企業のM&Aを成功させるために押さえておきたいポイントは、下記の5つです。
- M&Aのタイミングを見極める
- シナジー効果を正しく測定する
- 適切なM&Aスキームを選ぶ
- M&Aの支援機関を活用する
- PMIにしっかり取り組む
それぞれのポイントについて、以下で詳しく解説します。
M&Aのタイミングを見極める
ベンチャー企業がM&Aによって高い金額で売却を行いたい場合、実施するタイミングを見極めることが大切です。
自社の企業成長のステージや業界のトレンドなどを把握し、さまざまな観点からM&Aのベストなタイミングを考えましょう。
また、ベンチャー企業の買い手にとっても、M&Aの実施タイミングは重要です。
買収候補となるベンチャー企業を早めにチェックし、有望な会社に目星を付けておきましょう。
もしベンチャー企業のM&Aに出遅れてしまうと、別の会社に先に買収されたり、買収額が高騰したりするおそれがあります。
シナジー効果を正しく測定する
ベンチャー企業のM&Aにおいては、シナジー効果を正しく測ることが特に重要です。
ベンチャー企業は成長の幅が比較的大きいため、現在の価値だけではなく、将来的に見込まれるシナジー効果を反映させる必要があります。
貸借対照表や損益計算書、キャッシュ・フロー計算書などの財務諸表のほか、事業計画も参考にして、シナジー効果を正確に測定しましょう。
適切なM&Aスキームを選ぶ
ベンチャー企業がM&Aを成功させるためには、適切なM&Aスキームを選択することが大切です。
M&Aのスキームは、以下の図にあるように多様な種類があります。
創業者利益の金額やM&A実施にかかる時間・コスト、M&A後の経営権、従業員の雇用など、さまざまな観点から適切なM&Aスキームを検討しましょう。
なお、ベンチャー企業のM&Aでは株式譲渡が選択されることが多いです。
株式譲渡をM&Aスキームとして選ぶメリットは、手続きが比較的簡単であることです。また、従業員の雇用や許認可などの契約を承継できる点もメリットだといえます。
M&Aの支援機関を活用する
M&Aの支援機関にサポートを依頼すれば、ベンチャー企業のM&Aの成功確率が上がります。
M&Aの支援機関は、M&Aにまつわるあらゆるプロセスをサポートしてくれます。
特にベンチャー企業では、大企業と異なりM&Aを専門とする部署が設けられていないことがほとんどです。
M&Aの支援機関を活用すれば、通常業務が多忙ななかでもM&Aを進めることが可能になります。
M&Aの相手候補の選出からクロージングまでの全工程を、プロフェッショナルの支援のもとで進めることができるようになるでしょう。
PMIにしっかり取り組む
M&Aを真に成功させるためには、M&A実施後のPMIを怠らないことが重要です。
「PMI」とは「Post Merger Integration」の略で、企業の買収後の統合プロセスを意味します。
PMIの要素には企業文化の統合や組織の統合、業務フローの統合、管理システムの統合などが挙げられます。
この統合プロセスがうまくいかなかった場合、想定していたシナジー効果を得られなかったり、従業員の大量離職につながったりするなど、さまざまなリスクが生じます。
シナジー効果が最大限に発揮されるように、PMIにしっかり取り組みましょう。
本格的なPMIはクロージング後に開始されますが、準備は交渉段階から進めます。
譲受企業・譲渡企業のトップ同士で入念に話し合い、PMIの計画を立ててください。
ベンチャー企業のM&Aの3つの事例
最後に、ベンチャー企業のM&Aの事例を3つ紹介します。
- エムスリーとメディカルエージェンシーのM&A
- 日本経済新聞社とイベントレジストのM&A
- ラクスルとAmidAホールディングスのM&A
それぞれの事例について、以下で詳しく説明します。
エムスリーとメディカルエージェンシーのM&Aの事例
譲受企業 | 譲渡企業 |
エムスリー株式会社 | 株式会社メディカルエージェンシー |
医療ITビジネスを展開するエムスリー株式会社(以下「エムスリー」)と、医療機関向けのコンサルティングを行う株式会社メディカルエージェンシー(以下「メディカルエージェンシー」)のM&Aの事例です。
譲受企業が上場企業であるエムスリーで、譲渡企業がベンチャー企業であるメディカルエージェンシーです。
2019年7月、エムスリーがメディカルエージェンシーの株式を取得し、メディカルエージェンシーを子会社化したことを発表しました。
エムスリーは、さまざまな医療従事者が利用している専門サイト「m3.com」運営しています。
ユーザーは約2万人で、リハビリ専門職のPT(理学療法士)・OT(作業療法士)・ST(言語聴覚士)などが利用しています。
一方メディカルエージェンシーは、リハビリ専門職の情報サイトである「POST」を運営する会社です。
「POST」も、2万人を超える会員がいる業界最大手のサイトです。
今回のM&Aによって獲得を想定しているシナジー効果は主に下記の3つです。
- リハビリ専門職プラットフォームの確立
- リハビリ専門職向けビジネスへの進出
- グループ会社との連携
M&Aを契機にPT・OT・STへのアプローチをさらに強めていき、社会的なニーズに応えていくとしています。
参照元:エムスリー株式会社『株式会社メディカルエージェンシーを子会社化~ リハビリ専門職向けメディアと関連事業に進出 ~』
日本経済新聞社とイベントレジストのM&Aの事例
譲受企業 | 譲渡企業 |
株式会社日本経済新聞社 | イベントレジスト株式会社 |
新聞を中核事業に、雑誌や書籍、電子メディアなど多彩に事業展開をする株式会社日本経済新聞社(以下「日本経済新聞社」)と、イベント運営者を対象にしたオンラインのイベントプラットフォーム「EventRegist」を展開するイベントレジスト株式会社(以下「イベントレジスト」)のM&Aの事例です。
譲受企業が大企業の日本経済新聞社で、譲渡企業がベンチャー企業であるイベントレジストです。
両社は2014年に資本業務提携を結んでおり、すでに協業していました。
2019年7月、日本経済新聞社がイベントレジストの株式を追加取得し、イベントレジストを子会社化することを発表しました。
本M&Aによってさらに提携を強化し、高い成長率が見込まれるイベント関連のデジタルマーケティング領域において、機能の拡充や新サービスの開発などに取り組んでいくとのことです。
参照元:イベントレジスト株式会社『【お知らせ】株式会社日本経済新聞社による当社株式の取得(子会社化)について』
ラクスルとAmidAホールディングスのM&Aの事例
譲受企業 | 譲渡企業 |
ラクスル株式会社 | 株式会社AmidAホールディングス |
印刷・集客支援のプラットフォームとしてサービス提供をしているラクスル株式会社(以下「ラクスル」)と、印鑑およびスタンプを中心としたEC通販の事業を営んでいる株式会社AmidAホールディングス(以下「AmidAHD」)のM&Aの事例です。
ラクスルもAmidAHDも上場を果たしており、本M&Aは上場ベンチャー企業同士のM&Aだといえます。
譲受企業がラクスルで、譲渡企業がAmidAHDです。
M&Aの手法はTOB(株式公開買付け)で、買付け価格は普通株式1株につき951円です。
2023年8月に買付けを開始し、同年9月に買付けが終了してTOBが成立しました。
本TOBの結果、同年10月2日付でAmidAHDはラクスルの完全子会社となりました。
今回のM&Aによって、お互いが持つノウハウを共有したり、クロスセルを促進したりするなどによってシナジー効果を生み出しています。
参照元:ラクスル株式会社『株式会社AmidAホールディングス株式(証券コード:7671)に対する公開買付けの結果及び子会社の異動に関するお知らせ』
まとめ
ベンチャーのM&Aは、日本ではまだまだ少ないのが現状です。
しかしM&Aが有効な手段であるという認識は浸透しつつあり、ベンチャー企業の買収において、M&Aが選ばれる機会は今後増えていくでしょう。
ベンチャー企業がM&Aによって買収および売却を行うメリットは多数あります。
M&Aの実施タイミングを見極めたり、PMIに慎重に取り組んだりするなどのポイントを押さえ、ベンチャー企業のM&Aを成功に導きましょう。
レバレジーズM&Aアドバイザリー株式会社は、M&A全般をサポートする仲介会社です。ベンチャー企業やスタートアップ企業、中小企業などのM&Aにも対応しております。
各領域に精通したコンサルタントが在籍しており、あらゆるプロセスにおいて的確なアドバイスを提供します。
料金体系はM&Aご成約時に料金が発生する完全成功報酬型です(譲受会社のみ中間金あり)。
ご相談も無料です。M&Aをご検討の際には、ぜひお気軽にお問い合わせください。