株式交換と株式移転の違いとは?内容やメリット、手続きを紹介【図解あり】
2024年7月5日
このページのまとめ
- 株式交換とは、株式を交換することによって2社間に完全支配関係を生じさせる手法
- 株式移転とは、新設会社に既存会社の全株式を移転し、完全支配関係を生じさせる手法
- 株式交換と株式移転の違いは、目的・完全親会社の成り立ち・効力発生日にある
- 株式交換と株式移転のメリットは、円滑に経営統合できることや株式を対価にできる点
- 株式交換と株式移転のデメリットは、手続きが煩雑な点や株主構成が変わること等
「株式交換と株式移転は?どちらを選べばよい?」とお悩みの方もいるのではないでしょうか。
株式交換と株式移転は、実施する目的や完全親会社の成り立ちなどに違いがあります。
本コラムでは、株式交換と株式移転について図解付きでわかりやすく解説します。
両者の違いやメリット・デメリット、手続きの流れについても詳しく紹介するので、M&Aスキームを選択する際の参考にしてください。
目次
株式交換とは
株式交換と株式移転の違いを知りたい方に向けて、異なるポイントやそれぞれの概要、メリット・デメリットを紹介します。図解付きでわかりやすく解説しているのでぜひ参考にしてください。また、株式交換・株式移転の詳細な手続きも紹介します。
株式交換とは、譲受企業の株式と譲渡企業の株式を交換することにより、完全親会社と完全子会社の関係を構築するM&Aのスキームです。
株式交換の実施後は、譲渡企業の株式の100%を譲受企業が保有します。
株式交換の対価には、基本的に株式を用います。事前に協議して株式交換比率を決定し、その比率に従って株式を割り当てます。
また、完全親会社が完全子会社に対して交付する対価には、現金のほか、完全親会社の社債、完全親会社の親会社にあたる企業の株式などを充てることも可能です。
株式交換の主な目的は、グループ内子会社の完全子会社化や買収です。
株式移転とは
株式移転とは、新しく会社を設立し、既存会社の発行済み株式の100%を新設会社に移転させることにより、完全支配関係を構築するM&Aのスキームです。
既存会社は完全子会社となり、新設会社は完全親会社となります。
株式移転において割り当てられる対価は、基本的に株式です。
しかし完全親会社が交付する対価に関しては、株式以外の対価を交付することもできます。
株式移転は主に組織再編のために実施されます。
株式移転の目的の一つは、複数の株式会社を経営統合させることです。
また、1社のみで株式交換のスキームを用いる場合は、ホールディングス(持株会社)設立を目的としています。
株式交換・株式移転の6つのメリット
株式交換・株式移転の主なメリットは、以下の6つです。
- 既存の会社組織を維持したまま運営できる
- スムーズに経営統合できる
- 従業員のモチベーションが保たれやすい
- 株式取得のための資金準備が不要
- 100%の承認がなくても完全子会社化できる
- 少数株主を排除することが可能
各メリットについて、詳しく解説します。
既存の会社組織を維持したまま運営できる
株式交換・株式移転のメリットは、既存の法人が存続することです。
譲渡企業は完全子会社となりますが、法人格は消滅しません。
法人が存続するため、大きな変更もなく事業を続けられます。
顧客や取引先とも変わらない関係を続けていけるでしょう。
スムーズに経営統合できる
株式交換・株式移転のメリットは、スムーズな経営統合がかなうことです。
合併などのように複数の法人が一つに統合されるスキームでは、社内のシステムやルール、企業文化などを統一しなければなりません。統合作業には相当な労力がかかります。
一方、株式交換・株式移転の手法であれば完全支配関係を築くのみで、譲受企業も譲渡企業も法人として存続するため、システムやルールを統一する必要はありません。
従業員のモチベーションが保たれやすい
株式交換・株式移転のメリットは、従業員のモチベーションを維持しやすい点です。
法人が一つに統合されるM&Aスキームを選択した場合、譲渡企業側の法人格は消滅します。
勤める会社の法人格がなくなってしまう譲渡企業の従業員のなかには、抵抗感を覚えて仕事への意欲を失う人もいるでしょう。
一方、株式交換・株式移転であれば譲渡企業の法人格は存続し、従業員はその会社で継続して働くことができるため、モチベーションを落とす可能性は低いといえます。
M&A実施後も引き続き意欲的に働いてくれるでしょう。
株式取得のための資金準備が不要
株式交換・株式移転のメリットは、株式の取得のために資金を用意しなくてもよいことです。
株式交換や株式移転では、譲受企業は対価として株式を用いることができます。
そのため、現金等の資金準備をしなくても実施することが可能です。
100%の承認がなくても完全子会社化できる
株式交換・株式移転のメリットは、株主全員の承認がなくても完全子会社化できることです。
株式譲渡のスキームによって完全子会社化を目指す場合、すべての株主からの同意を得て株式を譲受する必要があります。1人でも同意しない株主がいれば、完全子会社化はできません。
一方で、株式交換・株式移転の場合、株主総会の特別決議で承認を得られれば、完全子会社化を実行できます。
株主総会の特別決議における決議要件は「議決権総数の2分の1超が出席したうえ、3分の2以上の賛成を得ること」です。
100%の承認がなくても決議できるため、株式譲渡による完全子会社化よりもハードルは低いといえます。
少数株主を排除することが可能
株式交換・株式移転のメリットは、少数株主を排除できる点です。
株式交換・株式移転は、株主総会の特別決議において3分の2以上の賛成を得ることで実施できます。
もし反対する株主がいても、反対票数が3分の1未満であれば株式交換・株式移転が実行されます。
反対する少数株主の株式は買い取ることになるため、株式交換・株式移転を機に少数株主を排除することが可能です。
株式交換・株式移転の3つのデメリット
株式交換・株式移転の主なデメリットは、以下の3つです。
- 手続きが煩雑
- 株主構成が変わり、意思決定に影響を及ぼす可能性がある
- 株価が下がるおそれがある
各デメリットについて、詳しく解説します。
手続きが煩雑
株式交換・株式移転のデメリットは、手続きが煩雑になる点です。
株式交換・株式移転を実施するプロセスでは、株主総会での特別決議や債権者保護の手続き、株券の提供に関する手続き、反対株主からの株式買取請求への対応などの手続きが発生します。
比較的煩雑な手続きが発生するため、株式交換・株式移転を検討している場合は早めにM&A仲介業者などの専門家に相談することがおすすめです。
株主構成が変わり、意思決定に影響を及ぼす可能性がある
株式交換・株式移転のデメリットは、譲受企業の株主構成が変わり、意思決定に影響が出る可能性があることです。
完全親会社となる譲受企業の株式は、もともと譲渡企業の株主だった人々の手に渡ります。
もし新たに株主となる人たちが譲受企業の意向に反対する場合、意思決定が滞るおそれがあります。
意思決定に悪影響が出ないように、株式交換比率および株式移転比率に注意しましょう。
株価が下がるおそれがある
株式交換・株式移転のデメリットは、譲受企業側の株価が下落する可能性がある点です。
株式交換・株式移転後、管理コストがかさんだことで利益が減少したり、想定していたシナジー効果が得られなかったりした場合、市場からの評価が下がって株価も下落します。
また、株式交換・株式移転の対価として新株発行を行ったケースでは、株式の希薄化が起こって1株あたりの株価が下がるおそれがあります。
株式交換と株式移転の違い
株式交換と株式移転の主な違いは、目的・完全親会社の成り立ち・効力発生日の3つです。
株式交換 | 株式移転 | |
目的 | 組織再編や買収 | 組織再編 |
完全親会社の成り立ち | 既存の会社が親会社となる | 新しく設立した会社を親会社とする |
効力発生日 | 株式交換契約書において定めた日 | 親会社となる新設会社の登記日 |
目的の違い
株式交換は、グループ内の子会社を完全子会社化するなどの組織再編の手段として用いられます。
そのほか、買収のスキームとして選択されることも多いです。
譲受企業は株式交換によって譲渡企業の株式を100%保有し、完全子会社化することで買収を完了させます。
一方、株式移転は主に組織再編の手段として用いられるスキームです。
複数の会社が共同で株式移転をすることによって経営統合を行う際に活用されます。
また、ホールディングス(持株会社)化をするために株式移転を行うケースもあります。
完全親会社の成り立ちの違い
株式交換においては、完全親会社となる会社は既存会社です。
株式交換を行う既存会社のうち、いずれか1社が完全親会社となります。
一方、株式移転において完全親会社となるのは、新たに設立した会社です。
効力発生日の違い
株式交換の効力発生日は、株式交換契約書において定めた日です。
一方、株式移転では新設会社の登記日に効力が発生します。
株式譲渡や株式交付との違い
株式の譲り渡しが発生するM&Aのスキームには、株式移転や株式交換のほか、株式譲渡や株式交付の2つがあります。
株式移転・株式交換と、株式譲渡・株式交付との大きな違いは「必ずしも発行済み株式のすべてを取得するとは限らない」という点です。
株式譲渡と株式交付のスキーム詳細について、図解つきで解説します。
株式譲渡とは
株式譲渡とは、譲渡企業の株式を保有している株主が、譲受企業に対して株式を譲り渡すM&Aのスキームです。
株式は100%取得することもできますが、一部のみを取得することも可能です。
譲渡企業側の株主は、売却した株式の対価として金銭等を受け取ります。
株式譲渡後の株式の保有率によって、会社に及ぼす権限が変動します。
経営に大きな影響を及ぼすのは、下記の表にある支配権・経営権・拒否権の3つです。
もし譲受側が譲渡側の株式の100%を取得した場合は、譲受企業と譲渡企業の間には完全支配関係が生じます。
権限 | 株式の保有率 | 権限の内容 |
支配権 | 議決権数の3分の2以上 | 特別決議を単独で可決することができる |
経営権 | 議決権数の過半数 | 普通決議を単独で可決することができる |
拒否権 | 議決権数の3分の1超 | 特別決議を単独で否決することができる |
株式譲渡の主なメリット・デメリットは以下のとおりです。
【株式譲渡のメリット】
- 手続きが比較的簡易である
- 債権者保護手続きや公告などをしなくてよい
- M&Aも法人格が消滅しない
【株式譲渡のデメリット】
- 株式が分散していると全取得が難しい
- 経営権とともに負の資産も引き継ぐことになる
株式交付とは
株式交付とは、対象企業を子会社化するためのM&Aのスキームです。
株式は、完全子会社化しない範囲で取得します。
株式交付において、親会社は子会社に対して株式以外の金銭等を割り当てることも可能です。
一方で子会社は、株式のほか新株予約権等を対価に用いることもできます。
株式交付の主なメリット・デメリットは以下のとおりです。
【株式交付のメリット】
- 完全子会社化を目的としない場合も利用できる
- 対価に現金等を用意する必要がない
【株式交付のデメリット】
- 日本の株式会社とのM&Aにしか適用できない
- 制度が比較的新しく、制度内容が変わる可能性がある
株式交換と株式移転の手続きの流れ
ここでは、株式交換と株式移転の手続きの流れを紹介します。
いくつもの工程を踏む必要があるため、実施に向けて確認しておきましょう。
株式交換と株式移転の手続きの流れは下記のとおりです。
- 株式交換契約の締結・株式移転計画の作成をする
- 事前開示書類を備え置く
- 株主総会の特別決議で承認を受ける
- 債権者保護手続きを行う
- 株券等の提供公告をする
- 反対株主からの買取請求に応じる
- 公正取引委員会への届け出を行う
- 証券の提出手続きを行う
- 登記申請を行う
- 事後開示書類を備え置く
なお効力発生日は、株式交換では契約書に規定した日となります。
株式移転においては、新設会社の登記日が効力発生日です。
以下、それぞれのプロセスについて解説します。
1.株式交換契約の締結・株式移転計画の作成をする
株式交換においては、株式交換契約を締結します。
株式移転の場合は、株式移転計画書を作成します。
株式交換契約書や株式移転計画書には、株式交換・株式移転の実施目的や会社の商号、本店の所在地、対価の割り当て、効力発生日など、会社法で定められた必要事項を記載しましょう。
株式交換契約書や株式移転計画書に不備がないよう、専門家のアドバイスを受けることがおすすめです。
2.事前開示書類を備え置く
株式交換や株式移転に関する詳細情報を載せた、事前開示書類を用意します。
事前開示書類には、株式交換・株式移転の内容や対価の相当性、貸借対照表など、会社法で定められた必要事項を記載してください。
事前開示書類の備置開始日は、下記のうちいずれか早い日です。
- 株主総会の2週間前
- 反対株主への公告日あるいは通知日
- 債権者保護手続き公告日あるいは通知日
- 新株予約権に関する公告日あるいは通知日
- 契約締結日から2週間が経過した日(株式交換の場合)
事前開示書類は、備置開始から6ヶ月後まで備え置きます。
3.株主総会の特別決議で承認を受ける
株式交換・株式移転を行うときには、株主総会の特別決議における承認が必要です。
株主総会の特別決議において、議決権総数の2分の1超が出席したうえ、3分の2以上の賛成を得ることができれば、株式交換・株式移転の実行が可能になります。
株主総会での決議は特別決議が原則必要ですが、一定のケースにおいては特殊決議・種類株主総会の承認・総株主全員の同意が必要となるため注意しましょう。
4.債権者保護手続きを行う
株式交換・株式移転において、債権者保護手続きは基本的に不要です。
ただし、下記に該当するケースでは債権者保護手続きを行うことが求められます。
【株式交換で債権者保護手続きが必要なケース】
- 完全親会社が、完全子会社の新株予約権付社債を承継する場合
- 完全親会社の株式以外の金銭等を、対価として交付する場合
- 株主資本等変動額のその他資本剰余金へ計上する場合
【株式移転で債権者保護手続きが必要なケース】
- 完全親会社が、完全子会社の新株予約権付社債を承継する場合
債権者保護手続きが必要な場合は、公告や個別催告を行いましょう。
異義を申し立てた債権者がいた場合は、債務の弁済や担保の提供などの対応をしてください。
5.株券等の提供公告をする
完全子会社となる会社が株券を発行している場合は、株主に対して株券を提供するように公告・通知をしましょう。
公告・通知は、株式交換および株式移転の効力発生日までに行う必要があります。
6.反対株主からの買取請求に応じる
反対株主から買取請求があった場合は、株主との協議のうえ、株式の買取価格を決定します。
株式の買取価格が確定したら、効力発生日より60日以内に買取分の支払いを完了させましょう。
7.公正取引委員会への届け出を行う
売上高や議決権の数の割合によっては、独占禁止法に従って公正取引委員会へ事前に届け出を行う必要があります。
株式取得の届出要件は以下の3点です。
1.株式を取得しようとする会社及び当該会社の属する企業結合集団に属する当該会社以外の会社等の国内売上高の合計額が200億円を超える場合 2.株式発行会社及びその子会社の国内売上高の合計額が50億円を超える場合 3.株式発行会社の株式を取得しようとする場合において、株式発行会社の総株主の議決権の数に占める届出会社が取得の後において所有することとなる当該株式発行会社の株式に係る議決権の数と届出会社の属する企業結合集団に属する当該届出会社以外の会社等が所有する当該株式発行会社の株式に係る議決権の数とを合計した議決権の数の割合(議決権保有割合)が新たに20%又は50%を超えることとなる場合 |
引用元:公正取引委員会『株式取得の届出制度』
要件に当てはまる場合は「株式取得に関する計画届出書」や公正取引委員会指定の添付書類を提出しましょう。
8.証券の提出手続きを行う
完全子会社となる会社が株券や新株予約権証券を発行しているケースでは、証券提出手続きが必要です。
効力発生日の1ヶ月前までに、公告・個別通知を行いましょう。
株主から証券を提出されたら、会社は対価を支払います。
もし期日までに証券の提出がなかった場合、会社は対価の支払いを拒否することが可能です。
9.登記申請を行う
完全親会社は、登記申請を行います。
株式交換の場合は、契約書記載の効力発生日から2週間以内に申請してください。
株式移転の場合は、完全親会社となる会社を新規設立した日から2週間以内に申請します。
完全子会社においては基本的には登記申請は不要です。
ただし、新株予約権を完全親会社に移転したケースなどでは登記申請が必要となります。
10.事後開示書類を備え置く
株式交換・株式移転の効力発生後、速やかに事後開示書類をそれぞれの本店に備え置きます。
事後開示書類には以下のような内容などを記載します。
- 効力発生日
- 完全親会社が取得した完全子会社の株式総数
- 株式買取請求や債権者異議手続きの進捗
- 新株予約権の権利者および反対株主による買取請求の進捗
- その他重要事項等
事後開示書類の備置期間は6ヶ月間です。
まとめ
株式交換とは、譲受企業と譲渡企業の株式を交換することによって完全支配関係を築くスキームです。株式交換は組織再編の方法として活用されるほか、買収を行うために実施されることがあります。
株式移転とは、新設会社に既存会社の全株式を移転させることによって完全支配関係を築くスキームです。株式移転は主に組織再編のために用いられ、経営統合やホールディングス化を目的に実施されます。
株式交換・株式移転は手続きが煩雑ですが、既存の会社を保ったまま経営統合や買収ができるため、実施後の経営がスムーズに進めやすい手法です。
また、基本的に株式を対価とするため、資金を準備しなくても実施できることも大きなメリットです。
現在自社が抱える悩みを解決する方法に株式交換・株式移転が適している場合は、前向きに検討してみましょう。
M&AならレバレジーズM&Aアドバイザリーにご相談を
レバレジーズM&Aアドバイザリー株式会社は、M&A全般をサポートする仲介会社です。
各領域に精通したコンサルタントが在籍しており、あらゆるプロセスにおいて的確なアドバイスを提供します。
個々の会社様が抱える悩みに寄り添い、ベストな方法をご提案させていただきます。
料金体系はM&Aご成約時に料金が発生する完全成功報酬型です(譲受会社のみ中間金あり)。
ご相談も無料です。M&Aをご検討の際には、ぜひお気軽にお問い合わせください。