このページのまとめ
- 資産管理会社に該当する場合、基本的には事業承継税制は利用できない
- 資産管理会社の判定を受けても、事業承継税制が適用できる例外のケースがある
- 資産管理会社が事業承継税制を受けるためには、3つの事業実態要件を満たせばよい
- 納税猶予が取り消しにならないよう、資産管理会社に該当しないよう継続的に注意が必要
- 税制改正により、資産管理会社に一時的に該当した場合の緩和措置が設けられている
「資産管理会社だと判定されると事業承継税制は受けられない?」とお悩みの方もいるのではないでしょうか。
資産管理会社に該当する場合は原則適用外となりますが、一定の要件を満たせば事業承継税制を活用できることがあります。
本コラムでは、資産管理会社の定義や判定フロー、事業承継税制が適用される要件などを解説します。
また、事業承継税制の納税猶予が取り消しになってしまう事由や、判定時期の緩和措置の要件も紹介します。
目次
資産管理会社には事業承継税制が適用できない
資産管理会社に該当する場合、一部の例外を除いて事業承継税制が適用されません。
ここでは、事業承継税制の概要とその適用要件について解説します。
事業承継税制とは
事業承継税制とは、経営承継円滑化法に基づく認定のもと、事業承継における一定の取得資産に関して贈与税および相続税の納税を猶予する制度です。
事業承継税制には、会社の後継者を対象とする「法人版事業承継税制」と、青色申告に係る事業の後継者を対象とする「個人版事業承継税制」の2種類があります。
資産管理会社が関連するのは、法人版事業承継税制です。
法人版事業承継税制の適用要件
法人版事業承継税制の適用を受けるための会社に関する要件は、下記の会社のいずれにも該当しないことです。
- 上場会社
- 中小企業者に該当しない会社
- 風俗営業会社
- 資産管理会社(※一定の要件を満たすものを除く)
資産管理会社に該当する場合、基本的には事業承継税制制度の対象外となり、税制面の優遇措置を受けられません。
ただし、定められた一定の要件を満たすケースでは、資産管理会社だとしても事業承継税制を活用することが可能です。
参照元:
中小企業庁『経営承継円滑化法による支援』
国税庁『法人版事業承継税制』
国税庁『非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予・免除(法人版事業承継税制)のあらまし』令和5年6月
資産管理会社の形式要件
事業承継税制の適用外となる資産管理会社に該当するかどうかは、特定資産の金額の割合や特定資産からの運用収入の割合によって判断されます。
これを「形式要件」と呼びます。
【形式要件】
- 特定資産の保有割合が、総資産の総額の70%未満
- 特定資産の運用収入が、総収入金額の75%未満
上記の形式要件を満たす場合、資産管理会社には該当しません。
そのため、事業承継税制が適用されます。
なお「特定資産」とは、有価証券や自ら使用していない不動産、現金・預金などの資産を指します。
資産管理会社の種類
資産管理会社には「資産保有型会社」と「資産運用型会社」の2タイプがあります。
特定資産の保有割合が総資産の総額の70%以上である場合、資産管理会社のうち「資産保有型会社」に該当します。
特定資産の運用収入が総収入金額の75%以上である場合、資産管理会社のうち「資産運用型会社」に分類されます。
参照元:
国税庁『非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予・免除(法人版事業承継税制)のあらまし』令和5年6月
東京都産業労働局『事業承継税制の認定』
資産管理会社でも事業承継税制が適用される要件
資産管理会社(資産保有型会社や資産運用型会社)に該当するケースでは、基本的に事業承継税制の適用外となります。
ただし、事業実態の有無によっては例外にあたり、事業承継税制の優遇措置を受けることが可能です。
【事業実態要件】
- 5人以上の従業員を雇用している(※相続人と生計が同一の親族を除く)
- 従業員が勤務するための物件を所有または賃借している
- 3年以上にわたって業務を継続している
上記3つの事業実態要件をすべて満たす場合は「資産管理会社ではない」とみなされ、事業承継税制が適用されます。
参照元:
国税庁『非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予・免除(法人版事業承継税制)のあらまし』令和5年6月
東京都産業労働局『事業承継税制の認定』
資産管理会社の判定フロー
事業承継税制における形式要件と事業実態要件をふまえると、資産管理会社の判定フローは下記のとおりになります。
<形式要件>
|
||
↓ はい 「特定資産の保有割合が70%未満である」 |
↓ いいえ 「特定資産の保有割合が70%以上である(資産保有型会社)」 |
|
↓ |
↓ |
|
<事業実態要件>
|
||
↓ はい 「3つの要件をすべて満たしている」 |
↓ いいえ 「要件を満たしていない」 |
|
↓ |
↓ |
|
資産管理会社ではない |
「資産管理会社ではない」とみなされる |
資産管理会社に該当する |
対象会社が資産管理会社に該当する可能性がある場合は、上記のフローに沿って判定を行いましょう。
事業承継税制の納税猶予が取り消しになる事由
事業承継税制は一度認定を受ければ永続的に納税猶予が受けられるわけではなく、取消事由に該当すると納税猶予が取り消しになることがあります。
贈与税に関する認定取消事由は、大きく分けると「先代経営者(贈与者)の要件」「後継者(受贈者)の要件」「会社の要件」があります。
相続税に関する認定取消事由は「後継者(相続⼈)の要件」と「会社の要件」の2種です。
贈与税・相続税の「会社の要件」に分類される認定取消事由のなかに、「資産保有型会社・資産運⽤型会社に該当した場合」という事由があります。
資産管理会社(資産保有型会社や資産運用型会社)に該当した場合には認定が取り消され、猶予されていた贈与税・相続税の全額および利⼦税を納付しなければなりません。
また、「資産保有型会社・資産運⽤型会社に該当した場合」という取消事由は、贈与または相続税に係る贈与税の申告期限の翌⽇から5年経過後にも適用されます。
5年が経ったあとも引き続き、資産管理会社に該当しないように注意しましょう。
参照元:中小企業庁『経営承継円滑化法申請マニュアル 第4章 認定の取消について』(令和5年6月27日更新)
資産管理会社の判定時期
資産管理会社に該当するかどうかの判定が行われる時期は、資産保有型会社・資産運用型会社ごとで異なります。
資産保有型会社に該当するか否かの判定は、特例の対象となる贈与または相続の日の属する事業年度の直前の事業年度が始まる日から、贈与税または相続税の申告期限までの期間のいずれかの日に行われます。
資産運用型会社に該当するか否かの判定時期は、特例の対象となる贈与または相続の日の属する事業年度の直前の事業年度が始まる日から、贈与税または相続税の申告期限までの間に終了するいずれかの事業年度です。
参照元:国税庁『【措置法第70条の7関係】』
資産管理会社に一時的に該当した場合の緩和措置
「平成31年度税制改正」により、2019年4⽉1⽇以後において事業活動上で⽣じたやむを得ない偶発的な事由が⽣じた場合には、資産管理会社の判定時期に関する緩和措置がとられることになりました。
やむを得ないケースに当てはまる場合には、⼀定の期間、資産管理会社(資産保有型会社や資産運用型会社)に該当しないものとみなされます。
資産保有型会社の判定における「やむを得ない場合」
資産保有型会社の判定における「やむを得ない場合」は、下記のようなケースです。
- 中⼩企業者が事業活動を目的とした資⾦の借⼊れをした
- 事業⽤資産の譲渡あるいは当該資産について⽣じた損害に基因する保険⾦を得た
- 租税特別措置法施⾏規則第23条の9第14項に定められている事由が生じた
これらの事由が発生したことによって特定資産の保有割合が70%以上となった場合、一定期間は「資産保有型会社に該当しない」とみなされます。
一定期間とは「やむを得ない事由が生じた日から、6ヶ月が経過するまでの期間」です。
資産運用型会社の判定における「やむを得ない場合」
資産運用型会社の判定における「やむを得ない場合」は、下記のようなケースです。
- 中⼩企業者が事業活動を目的に特定資産を売却した
- 租税特別措置法施⾏規則第23条の9第16項に定められている事由が生じた
これらの事由が発生したことによって特定資産の運⽤収⼊の割合が75%以上となった場合、一定期間は「資産運用型会社に該当しない」とみなされます。
一定期間とは「やむを得ない事由が生じた日の属する事業年度から、当該事業年度が終了した翌⽇から6ヶ月が経過する⽇の属する事業年度までの各事業年度」です。
参照元:
総務省『平成31年度税制改正の大綱』平成30年12月21日 閣議決定
中小企業庁『経営承継円滑化法申請マニュアル 第4章 認定の取消について』(令和5年6月27日更新)
まとめ
資産管理会社とは、「資産保有型会社」あるいは「資産運用型会社」のことです。
特定資産の保有割合が総資産の総額の70%以上のケースは資産保有型会社、特定資産の運用収入が総収入金額の75%以上であるケースは資産運用型会社にあたります。
資産管理会社に該当する場合、基本的には事業承継税制を受けられなくなります。
ただし一部例外があり、資産管理会社であっても事業承継税制の対象となることがあります。
資産管理会社が事業承継税制の適用を受けるための要件は、事業実態要件です。
3つすべての事業実態要件を満たせば「資産管理会社ではない」とみなされ、事業承継税制が適用されます。
また、資産管理会社の判定時期には緩和措置が設けられています。
資産保有型会社・資産運用型会社ともに、資産管理会社の判定においてやむを得ないケースに該当する場合は、緩和措置が適用されます。
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