事業承継税制はデメリットが多い?主な要件や取消事由をわかりやすく解説
2024年6月21日
このページのまとめ
- 事業承継税制とは、後継者に事業を引き継ぐ際に一定の要件を満たしていれば贈与税や相続税の納税猶予や免除を受けられる制度
- 事業承継税制を利用することで、相続税や贈与税の負担を軽減できる点がメリット
- 事業承継税制にはさまざまな適用要件や取消事由が存在するため注意が必要
- 税制を利用する際は、税理士などの専門家に相談するのも一手
事業承継を検討している経営者にとって、事業承継税制は、一度は耳にしたことのある言葉ではないでしょうか。ただ、利用するための詳細な要件や、メリット・デメリットについては把握していないという方もいらっしゃるかもしれません。この記事では、事業承継税制とは何か、リスクを含めたメリット・デメリットを解説します。事業承継税制の利用を検討している方は、是非参考にしてみてください。
目次
事業承継税制とは
事業承継税制とは、円滑な事業承継を目的として2009年に創設された制度です。
通常、事業承継により株式を後継者に引き継ぐ際には贈与税と相続税がかかります。事業継承税制を用いることで、後継者が株式を取得する際の贈与税・相続税について納税猶予を受けられます。さらに、その後一定の要件を満たすと贈与税・相続税の納付が全額免除されるという制度です。
詳しくは後述しますが、税制を受けるにはさまざまな要件を満たす必要があるため、注意が必要です。
2009年に創設されて以降、2018年度の税制改正で要件が緩和されて利用しやすくなったほか、2019年度の改正では、従来の法人向けの事業承継税制に加えて個人向けの事業承継制度も新設されました。これにより、これまで制度利用ができなかった自営業者なども制度利用の対象となり、広く事業承継税制が認知されはじめた背景があります。
事業承継税制のメリット
事業承継税制を利用するメリットとして、相続税・贈与税の負担を軽減できる点が挙げられます。
事業承継税制を利用することで、経営者から後継者への承継における納税が猶予されます。なかでも特例措置の対象になれば、業承継時の全株式に対して贈与税・相続税の猶予割合が100%になります。
中小企業にとっては、納税資金を捻出することが経営の負担になるケースも少なくありません。税金問題をクリアし、その分の資金を後継者育成や事業運営に使える点はメリットと言えるでしょう。
また、後継者不足の会社では事業承継税制を交渉材料として事業承継を円滑に進められることで、継続的な事業が展開しやすくなる点もメリットです。
事業承継税制のデメリット
贈与税・相続税の猶予を受けられる事業承継税制ですが、主なデメリットとして以下の点が挙げられます。
- 届出書の提出に手間がかかる
- 廃業した場合は利子税が生じる
- M&Aが行いにくくなる場合がある
- 猶予期間中は取消事由に注意が必要
事前にデメリットの内容を理解し、対策を講じることで、リスクを軽減することが可能です。
それぞれについて詳しく解説します。
届出書の提出に手間がかかる
事業承継税制では、開始から5年間は毎年継続届出書の提出が義務付けられています。
提出先は税務署と指定の各都道府県で、簡易的な書類ではなく、多い場合には8枚以上の指定書類を提出しなければなりません。
煩雑な作業と専門知識が必要となるため、自身での書類作成が難しいと判断した場合は、税理士への依頼を検討するなどの対策が必要です。
廃業した場合は利子税が生じる
事業承継税制を利用したのち、万が一事業継続が困難となり廃業した場合は、贈与税に利子を付けて支払う必要があります。利息は年0.7%ですが、事業継承税制利用から5年以降の納税では利息分免除となります。
M&Aが行いにくくなる場合がある
M&Aにより株式を売却した場合は、事業承継税制の株式の相続・贈与の対象外の行為とみなされ、猶予されている全額の納税をしなければなりません。
ただし、事業承継税制の利用で法的にM&Aが行えなくなるわけではなく、あくまでもM&Aで株式の売却を行う場合は税の猶予が解かれるため、納税の必要があるという仕組みを理解しておく必要があります。
以上のことからM&Aが行いにくくなるという見方もありますが、事業承継税制の利用時とM&A時の株式評価額に変動があり、M&A時の評価額が低い場合は差額分の税額の一部が免除される場合もあります。そのため、一概にデメリットとも捉えづらい部分もあります。
猶予された本来納めるべき税を納めたうえで、M&Aによるメリットが大きいと判断できれば事業承継税制によるデメリットはなく、むしろ前向きな見方ができるかもしれません。
猶予期間中は取消事由に注意が必要
事業承継税制には20を超える取消事由が存在します。以下が、主な取消事由の例です。
- 後継者が死亡した場合
- 後継者が5年以内に代表から退いた場合
- 後継者が自社株を譲渡した場合
- 会社が倒産・解散した場合
- 資本金が減少した場合
- 毎年の報告・届け出を提出しなかった場合
- 雇用の平均8割維持要件を満たさなくなった場合
- 資産保有型会社(資産管理会社)に該当してしまう場合
さまざまな取消事由が存在しますが、ほとんどの取消事由が安定した事業継続を行えば該当のリスクはありません。
ただし、事業承継税制の利用から5年以内は毎年継続届出書を提出する必要があり、5年目以降も3年に1度の提出が義務付けられています。税務署からの事前通達があるため、届出提出忘れは少ないですが、万が一提出が遅れると取消事由に該当するため念のため注意をしておく必要があるでしょう。
参照元:経済産業省「-中⼩企業経営承継円滑化法申請マニュアル【相続税、贈与税の納税猶予制度】令和4年12⽉改訂版」
事業承継税制の適用を受けるための要件
事業承継税制の適用を受けるには「会社」「経営者」「後継者」ごとにさまざまな要件が存在します。また、事業承継税制の適用後にも要件が設けられているため、要件を常に満たすよう注意が必要です。
会社に対する要件
会社に対する主な要件として、次の会社のいずれにも該当しないことが挙げられます。
- 上場会社
- 中小企業者に該当しない会社
- 風俗営業会社
- 資産管理会社(一定の要件を満たすものを除く)
まず、会社が中小企業者に該当することが第一の条件となります。
自身の会社が中小企業に該当するのか判断がつかない方は、中小企業庁発行による以下の「中小企業の定義」をご参照ください。
業種目 | 資本金の額または出資の総額 | 従業員数 |
製造業その他 | 3億円以下 | 300人以下 |
卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
小売業 | 5,000万円以下 | 50人以下 |
サービス業 | 5,000万円以下 | 100人以下 |
上記の資本金または従業員数のどちらかひとつでも満たすことができれば中小企業と判断されます。
ただし、資産管理会社(不動産を管理する会社)の場合は、上記定義に該当する場合でも事業承継税制を受けることができません。
先代の経営者に対する要件
先代の経営者に対する主な要件は以下のとおりです。
- 会社の代表者である(あった)こと
- 贈与・相続の際に、現経営者の一族のなかで議決権数の過半数を保有し、かつ筆頭株主であること
- 贈与時に代表でないこと(贈与の場合)
まず、先代経営者が会社の代表権を有した経験があることが第一の要件となります。贈与・相続の直前に経営権を有している必要はなく、過去に代表権を有した経験があれば問題ありません。
ただし、贈与・相続の直前に一族のなかでの筆頭株主である必要があるほか、贈与・相続後には代表権を有することができない点がポイントです。
後継者に対する要件
後継者に対する主な要件は以下のとおりです。
- 会社の代表権を有していること(贈与の場合)
- 18歳以上かつ役員の就任から3年以上を経過していること(贈与の場合)
- 相続直前に役員であり、かつ相続してから5ヶ月後に代表であること(相続の場合)
- 後継者及び後継者と特別の関係がある者で総議決権数の50%超の議決権数を保有することとなること
- 後継者が1人の場合、後継者と特別の関係がある者(他の後継者を除く)の中で最も多くの議決権数を保有することとなること
- 後継者が2人または3人の場合、総議決権数の10%以上の議決権数を保有し、かつ、後継者と特別の関係がある者(他の後継者を除く)の中で最も多くの議決権数を保有することとなること
後継者の場合、贈与で事業継承税制を受ける場合には代表権を有していることが要件となります。
相続の場合は少し異なり、事業承継税制を受けた5ヶ月以内に代表権を有することが要件です。
また、特例措置により複数(最大3人)の後継者に事業承継税制を適用できることになったため、トラブルが起きないよう先代経営者の明確な意思表示が必要となります。
事業承継税制の利用が向いているケース
ここまで事業承継制について解説しましたが、以降ではメリットやデメリットを踏まえたうえで「事業承継税制の利用が向いているケース」を解説していきます。
自社、またはご自身と照らし合わせながら事業承継税制を利用すべきかをご判断ください。
- 次期後継者候補が決まっている
- 会社経営が安定または、今後収益増の見込みがある
- 経営者が制度の利用に前向き・積極的な人物である
事業承継税制は中小企業の長期存続を目的として制定されています。国として事業を途絶えさせることなく次の代へ継承してほしいという願いが込められている制度であるため、後継者の目途が立たない会社には向いていません。
また、事業承継税制利用後も安定した事業を継続させる必要があるため、会社としての安定性も求められます。
さらに、経営者がそもそも制度の利用に前向きでなければ意味がありません。なかには、煩雑な申請があるだけで損益以前に検討を断念してしまう経営者も多いため、制度の利用に前向きな人物である必要があります。
まとめ
事業承継税制の申請・利用のための手続きは煩雑であるうえ、さまざまな取消事由もあります。知識の乏しい状態ですべての手続きを経営者が行うには、大きな負担と専門的知識が必要になり、万が一取消事由に抵触すると納税義務が生じるリスクがあるため細心の注意が必要です。
もし、今後事業承継税制の利用を検討されていて、スムーズな申請・利用を望まれるのであれば、税理士・事業継承アドバイザーなどのプロの専門家に一度相談してみることをおすすめします。
また、会社を承継したいが、周囲に適切な後継者が見つからならないという場合という場合には、M&Aの利用を検討するのも手段の一つです。
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