このページのまとめ
- 名義株は、株主名簿に記載されているものの真の株主ではない人物が存在する状態
- 名義株は、旧商法や相続税対策等の理由で発生する
- 名義株を放置すると名義人に合法的に取得されたり、M&Aの際にトラブルとなる恐れがある
- 近年、名義株に関わる80億円の申告漏れが指摘されたケースがある
- 名義株の解消にはいくつかの方法があるが、専門家のサポートを借りることがおすすめ
株式売買を伴うM&Aを検討する際、忘れずにチェックしておきたいのが「名義株」の有無です。
名義株とは、株主名簿に、真の株主ではない人物(名義だけの人物)が記載されている状態を意味します。
今回は、名義株の概要と発生理由・名義株の判断方法・名義株によってM&A時に起こるトラブル・名義株を解消する3つの方法を解説。名義株が問題となった事例についてもご紹介します。
目次
名義株とは
名義株とは、実際に株式を所有している人(実質所有者)とは別に、その株式の名義(株主名簿)に登録された人(名義所有者)がいる株式のことを指します。
名義株主は、実際に株式を所有しておらず、真の株主ではないものの、手順を踏まず勝手に株主名簿を書き換えることはできません。例えば、M&Aにおいては、勝手に株式名簿を書き換え売却した場合、売り手側が罪に問われるだけでなく、買い手側も責任を免れない恐れがあります。
名義株が発生する理由
名義株が発生する理由の一つとして、旧商法時代のルールの名残が挙げられます。
1990年以前の商法(旧商法)では、株式会社を設立する際には、最低でも7人の発起人が必要で「発起人はそれぞれ、1株以上の株式の引受けが必要」とされていました。
このため、創業者が100%出資しているにもかかわらず、家族や親戚、従業員などの名前を借りた上で、形式上の株主にして株式会社を設立することが行われていました。
家族・親戚・従業員は、名前を貸しただけのつもりで、自分がその会社の株主であることを認識していないケースが多く、名義株が発生することとなりました。
また、相続税の対策のために家族名義の名義株を作るケースもありますが、実際は名義を変更するだけでは相続税の対策にはなりません。後述しますが、実際に相続税の申告漏れを指摘され、追加徴収を課せられたという事例もあります。
名義株の判断方法
株式の所有者は、名義人(名義を貸した者)ではなく、実質上の引受人(名義を借りた者)」とされます。
実質上の引受人を確認し、名義株か判断するための具体的なポイントは、以下の通りです。
資金の出所
「会社設立や株式発行において振り込まれた資金が、誰の名義で振り込まれていたか」「振り込まれた資金を誰が出したのか」を確認します。
名義を貸し借りした者たちの間柄
名義を貸し借りした者たちが「名義を貸し借りしてもおかしくない間柄だったか」を確認します。
名義借りの理由
「相続税対策」「複数の発起人が必要だった」など、名義借りに至った理由を確認します。
創業者のチェック
創業者が存命の場合は、直接名義株をチェックしてもらうのも良い方法です。株主の名義は「株主名簿」「法人税申告書の別表2(同族会社の判定に関する明細書)」で確認可能です。
名義株の取得に時効はない
贈与税の時効は原則6年(故意に申告しなかった場合は7年)ですが、名義株の場合は故意であるか否かを問わず、時効はありません。
名義株はそもそも贈与には該当しないため、7年経過しても時効とはならないのです。
つまり、申告していない名義株が発覚した時点で、何年経っていても、追徴課税等が発生すると考えられます。
名義株によってM&A時に起こるトラブル
名義株の存在は、様々なトラブルの原因となるリスクがあります。 具体的には「相続税における追徴課税の発生」や「事業継承税制の適用否認」などです。 ここでは、M&Aの際に名義株によって起こる可能性があるトラブルについて見てみましょう。
株主が明らかにならない
株主が明らかにならないままM&Aを終えた場合、金銭トラブルに発展する恐れがあります。具体的には、M&A後に名義株主が名乗り出て、売却代金を要求されるリスクが生じるのです。
名義株の本当の所有者の把握が難しい状況が長期間続いているケースでは、 民法における「取得時効」が適用される可能性もあります。 取得時効では、株式などの財産権を平穏・公然と行使する場合、20年の経過(善意・無過失のケースでは10年)によって、その権利を取得することができます。
つまり、名義株を長期間放置すると、時効となり、権利を主張した名義人が合法的に株を取得する可能性も出てきます。 これも、M&Aにおける大きなリスクです。 また、このようなリスクを恐れてスムーズなM&Aが阻害されることも、大きなデメリットと言えるでしょう。
組織再編を可決できない場合がある
組織再編を目的とするM&Aでは、株主総会の特別決議において2/3以上の株主の賛同を得る必要があります。そして、名義株であっても所有者は総会の議決権を有します。そのため、仮に名義株の割合が1/3超の場合は、特別決議の可決が不可能となる恐れが生じるのです。
名義株が問題となった事例
名義株が問題となった事例としては、2017年に報じられた「飯田グループホールディングスの事例」があります。これは80億円の申告漏れを指摘された、名義株に関わる非常に大きな事例です。
飯田グループホールディングスは、不動産6社の経営統合によって2013年に設立された共同持株会社で、マンション・戸建て分譲、請負工事など幅広い不動産関連事業を手掛けています。
この事例では、名義株の申告漏れによって飯田グループホールディングスの元会長の遺族が40億円の追徴課税を受ける見通しとなりました。
具体的には、飯田グループホールディングスの株を持つ資産管理会社の一部株式が長男の名義になっていました。長男は、取得資金を負担しておらず、相続税申告もされていなかったので、東京国税局によって指摘されたのです。
このように、名義株については、適切な申告がなされなければ追徴課税を受けるリスクがあります。
名義株を解消する方法3つ
様々なトラブルの原因となる名義株は、早めに解消しておくことが望ましいです。名義株を解消するには、以下のような3つの方法があります。
- 名義株主に確認書の作成を依頼する
- 名義株主であることを証明できる資料を用意する
- M&Aの契約書に表明保証条項を含める
名義株主に確認書の作成を依頼する
名義株主に対して、自分が実質的な株主ではないことを確認するための書類を作成してもらいます。具体的には「名義貸与承諾証明書」などの名目の書類を作成し、名義株主本人より署名・押印をもらいます。
これは、名義株主本人が本当の株主ではないことを認めているケースでのみ使える方法です。名義株主から協力を得られない場合は、訴訟を起こしたり、会社法に定められた方法(特別支配株主の株式等売渡請求制度)で強制的に名義株を買い取るなどの方法を検討したりする必要が出てきます。
名義株主であることを証明できる資料を用意する
M&Aに際しては、名義株主であることを証明できる書類や資料が用意できれば、買い手が納得するケースもあります。具体的には「配当を名義株主が受け取っていない証明」「名義株主が過去の株式総会に参加していないことの証明となる議事録」などです。
なお、調査の結果「名義株主が配当金を受け取っていた」「株式総会に出席していた」などが判明した場合は、真の株主として扱わなければなりません。
M&Aの最終契約書に表明保証条項を含める
M&Aの最終契約書には、表明保証条項を含めることも重要です。表明保証条項は、契約内容が真実であることを保証し、間違いが発覚した際は責任を負う内容となります。
一般的なM&Aの表明保証では、売り手が買い手に対して、財務諸表の内容やデューデリジェンスで開示した情報に虚偽がないことなどを記載します。
この条項の中に、名義株主が真の株主でない旨を記載しておきます。これを記載しておくことで、M&A後に名義株主が真の株主であると判明した場合に、株式の取得費用を売り手の負担とすることができます。これにより、買い手は安心してM&Aを締結できるでしょう。
まとめ
名義株は、売り手はもちろんのこと、買い手側も注意すべき問題です。
名義株問題を未解決のまま放置すると、マッチングがうまくいかなかったり、M&Aの機会を逃したり、M&A後に賠償責任を負うなど様々なデメリットにつながる可能性があります。
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