インカムアプローチとは?企業価値評価の種類や計算方法の手順などを解説

2024年6月20日

インカムアプローチとは?企業価値評価の種類や計算方法の手順などを解説

このページのまとめ

  • インカムアプローチとは、企業価値評価の手法の一つ
  • インカムアプローチでは、将来的に創出すると予測される収益力などをもとに算定する
  • インカムアプローチの主なメリットは、将来性を価値に含んで算定ができること
  • インカムアプローチは恣意性が入るおそれがあるため、注意が必要
  • インカムアプローチの計算方法にはDCF法や収益還元法、配当還元方式などがある

「インカムアプローチとはどのような方法?」と疑問をお持ちの方もいるのではないでしょうか。
インカムアプローチとは、将来的な予測にもとづいて企業価値を算定する評価手法です。

本コラムでは、インカムアプローチの特徴やほかの手法との違い、メリット・デメリットなどをわかりやすく解説。また、インカムアプローチの具体的な計算方法やその算定手順についても紹介します。

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インカムアプローチとは

インカムアプローチとは、M&Aや相続・贈与を行う場面において、企業価値を算定するときに使用する評価手法の一つです。

インカムアプローチの代表的な計算方法の種類は下記のとおりです。

  • DCF法
  • 収益還元法
  • 配当還元方式
  • ゴードン・モデル法

インカムアプローチの特徴は、対象企業が将来的に稼ぐ力を評価に含められることです。
将来的に獲得すると予想される利益・キャッシュフローや配当、割引率などを用いて計算します。

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インカムアプローチを活用する場面

企業価値の評価手法としてインカムアプローチが採用されるのは、主に以下のようなケースです。

  • 大企業のM&A
  • 高い成長性がある企業のM&A
  • 安定段階にある企業のM&A
  • 売却後も事業を継続する予定の企業のM&A
  • 非上場企業で同族株主以外の株主が取得した株式の株価算定
  • 内部留保がある非上場の同族企業の評価

活用シーンに応じて、適切な計算方法を選択し、企業価値評価を行います。

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インカムアプローチとほかの評価手法との違い

企業価値を評価する主な手法には、インカムアプローチを含めて3種類あります。
インカムアプローチ以外の評価手法は「コストアプローチ」と「マーケットアプローチ」です。

それぞれの評価手法の概要や計算方法の種類は、下記の表のとおりです。

 

インカムアプローチ

コストアプローチ

マーケットアプローチ

概要

将来的に生み出される収益・キャッシュフローをもとに株価算定をする

純資産額をもとにして株価算定をする

市場における価値と比較することによって株価算定をする

計算方法の種類

  • DCF法
  • 収益還元法
  • 配当還元方式
  • ゴードン・モデル法
  • 簿価純資産法
  • 修正簿価純資産法
  • 時価純資産法
  • 市場株価法
  • 類似会社比較法
  • 類似取引比較法

コストアプローチのメリットは、貸借対照表の数字を参考にするため、客観的に企業価値を評価できることです。また、比較的簡単に算出できる点もメリットです。
一方でコストアプローチのデメリットには、将来的に創出する可能性がある利益や市場からの期待を評価に反映できないことが挙げられます。

マーケットアプローチは市場価格を参考にするため、客観性が高い結果を得られる点がメリットです。
一方で、マーケットアプローチは対象企業と類似する上場企業が見つからないケースでは利用できないため注意が必要です。

インカムアプローチのメリット・デメリットについては、以下で詳しく解説します。

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インカムアプローチの3つのメリット

インカムアプローチの主なメリットは以下の3つです。

  • 将来性を価値に含めて算定できる
  • 市場変動の影響を受けにくい
  • 業種・地域の違いに左右されない

それぞれのメリットについて、詳しく解説します。

1.将来性を価値に含めて算定できる

インカムアプローチのメリットは、将来的な収益力やM&Aによるシナジー効果などを価値に含めて算定できることです。

多くの場合、M&Aはシナジー効果を想定して実施されるため、実情に沿った算定結果を得られる可能性が高いです。
特に、ベンチャー企業やスタートアップ企業などのような、現状の資産価値は低くても将来的に創出する利益が期待できる企業のM&AやIPOにおいて、インカムアプローチは適しています。

2.市場変動の影響を受けにくい

インカムアプローチには、市場の変動の影響を受けにくいメリットがあります。

インカムアプローチでは、企業の資産の将来性をもとに価値評価を行うため、現在の市場の状況には左右されません。
長期的な視点で、対象企業とM&Aをした場合の相乗効果を考えることができます。

3.業種・地域の違いに左右されない

インカムアプローチは、複数の会社の価値を比較するときにも有効な評価手法となります。

インカムアプローチは、対象企業が持つ将来的な収益力・シナジー効果を評価します。
そのため、その企業の業種や事業を営む地域の差異を気にすることなく、企業間の価値を比較することが可能です。

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インカムアプローチの3つのデメリット

インカムアプローチの主なデメリットは以下の3つです。

  • 将来的な予測の難易度が高い
  • 客観性が認められないおそれがある
  • 清算予定の会社の評価には利用できない

各デメリットについて、詳しく解説します。

1.将来的な予測の難易度が高い

インカムアプローチのデメリットの一つは、将来的な予測をすることが難しい点です。

インカムアプローチでは、これまでの業績や将来の事業計画から将来的な利益・キャッシュフローを予測します。
しかし、今後も業績や事業の計画が思い通りになる保証はありません。事業の失敗や不況により、想定した収益力からかけ離れた結果になるおそれもあります。

企業の経営にはさまざまな要素が影響するため、不確実性を完全に拭うことは難しいといえます。
企業価値算定結果の確実性を高めるためには、複数の計算方法での算定結果を参考にすることがおすすめです。

2.客観性が認められないおそれがある

インカムアプローチのデメリットは、予測の根拠が不十分である場合、客観性が認められないリスクがあることです。

インカムアプローチは将来的な予測により企業価値算定を行うため、評価を行う売り手側の主観に偏った算定結果になる傾向があります。
予測の根拠が薄い場合、「算定結果は恣意的である」と判断されて、買い手が算定結果に納得しない可能性があります。
インカムアプローチを利用する際は、根拠として説得力のある売上予想や事業計画を用意しましょう。

3.清算予定の会社の評価には利用できない

インカムアプローチは、事業が継続せずに清算を予定している企業の評価には利用できないため、注意が必要です。

インカムアプローチは将来的な収益力を価値に含める評価方法であるため、事業が終了する会社の価値算定はできません。
清算予定の企業の価値算定を行うケースでは、インカムアプローチ以外の評価手法を検討しましょう。

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インカムアプローチの計算方法の種類

インカムアプローチの計算方法の種類には、以下のものが挙げられます。

  • DCF法
  • 収益還元法
  • 配当還元方式(国税庁)
  • ゴードン・モデル法

各計算方法の適切な活用シーンは、下記の表のとおりです。

株価算定の計算方法

適切な活用場面

DCF法

  • 大企業・上場企業の株価算定
  • 成長が著しいベンチャー企業やスタートアップ企業の株価算定

収益還元法

  • 大企業・上場企業の株価算定
  • 一定の利益を継続して出している、安定段階の企業の株価算定

配当還元方式

  • 非上場企業における、同族株主以外の株主が取得した株式の株価算定

ゴードン・モデル法

  • 内部留保がある非上場の同族企業の評価

会社の規模や企業の成長ステージ、財務状態などの要素により、選択するべき計算方法は変わります。
価値算定を行う対象企業の状況に応じた計算方法を選びましょう。

各計算方法の概要について、以下で詳しく解説します。

DCF法

DCF法とは、フリーキャッシュフロー(FCF)を使った企業価値評価の計算方法です。
将来にわたって獲得可能だと予測されるフリーキャッシュフローを、適切な割引率を用いて現在価値に換算することで、企業価値を導き出します。
DCF法は、「ディスカウントキャッシュフロー法」や「割引キャッシュフロー法」、「割引現金収支法」などと呼ばれることもあります。

DCF法の計算は複雑です。
計算自体は依頼先の専門家が行うことが多いため、経営者自身が計算に携わることはほとんどありませんが、以下に手順を掲載します。

DCF法の計算の手順

DCF法の計算の手順を簡単に示すと、以下のとおりになります。

  1. フリーキャッシュフローを算定する
  2. 割引率を算定する
  3. 残存価値を算定する
  4. 割引現在価値を算定する
  5. 企業価値を算定する

それぞれの項目の求め方は下記のとおりです。

【フリーキャッシュフローの計算方法】

FCF=営業キャッシュフロー ー 投資キャッシュフロー
もしくは
FCF=営業利益 × (1ー税率) + 減価償却費 ー 投資 ± 運転資本

FCF(フリーキャッシュフロー)は、過去3~5年間の実績を参考にするほか、事業計画を参考にするケースがあります。

【割引率の計算方法】

WACC=税引前の負債コスト×(1ー実効税率)×時価の有利子負債/(時価の有利子負債+時価の株主資本)+株主資本コスト×時価の株主資本/(時価の有利子負債+時価の株主資本)

DCF法で用いられる割引率は、WACC(加重平均資本コスト)です。

【残存価値の計算方法】

TV=予想期間の最終年度のFCF÷(割引率ー永久成長率)

TV(残存価値、ターミナルバリュー)は、企業が今後も継続して利益を出すことを前提として算出されます。

【割引現在価値の計算方法】

PV=(1年目のFCF)/(1+割引率)+(2年目のFCF)/(1+割引率)²+(3年目のFCF)/(1+割引率)³+…(n年目のFCF)/(1+割引率)ⁿ

FCFと割引率を用いて、PV(割引現在価値、現在価値)を算出します。

【企業価値の計算方法】

企業価値=各期のPV+FCF+TV

これまでに算出したPV(割引現在価値、現在価値)とFCF(フリーキャッシュフロー)とTV(残存価値、ターミナルバリュー)をすべて足して、企業価値を算定します。

収益還元法

収益還元法とは、企業の収益力を参考にして株価を算定する計算方法です。
予想利益を一律に設定するためDCF法より正確性は劣りますが、その分比較的簡易に算出できます。

収益還元法の計算の手順

収益還元法の計算は、以下の手順で行います。

  1. 税引後の営業利益を算定する
  2. 還元価値を算定する
  3. 調整後価値を算定する
  4. 1株当たりの株価を算定する

それぞれの項目の求め方は下記のとおりです。

【税引後の営業利益の計算方法】

税引後営業利益=営業利益×(1ー実効税率)

【還元価値の計算方法】

還元価値=税引後営業利益÷資本コスト

【調整後価値の計算方法】

調整後価値=還元価値+(現金および預金+貸付金)ー(借入金+社債)

【1株あたりの株価の計算方法】

1株あたりの株価=調整後価値÷発行済株式総数

M&Aにおける株式の売却価額を求める場合は、1株あたりの株価に対して売却する株式数をかけることで算定します。

配当還元方式

配当還元方式とは、国税庁が定める特例的な評価方式のことです。
非上場企業の価値評価において、同族株主以外の株主が取得した株式に適用します。
当該株式を保有することで得られる1年間の配当金額を10%の利率で還元するとし、元本の株価を算定します。

配当還元方式の計算の手順

国税庁による配当還元方式の計算は、以下の手順で行います。

  • 年間配当金額を算定する
  • 配当還元価額を算定する

それぞれの項目の求め方は下記のとおりです。

【年間配当金額の計算方法】

年間の配当金額=(直前期末以前2年間の配当金額/2)÷1株あたりの資本金等の額を50円とした場合の発行済株式数

【配当還元価額の計算方法】

配当還元価額=(当該株式の年間配当金額/10%)×(1株あたりの資本金の額/50円)

年間の配当金額が2円50銭未満の場合あるいは無配当の場合、2円50銭とします。

参照元:
国税庁『No.4638 取引相場のない株式の評価

ゴードン・モデル法

ゴードン・モデル法とは、過去の配当実績のほか、企業に蓄積された内部留保が再投資されて利益を生み出すと仮定し、株式を評価する計算方法です。

ゴードン・モデル法の計算の手順

ゴードン・モデル法の計算は、以下の手順で行います。

  1. 年間配当金額を算定する
  2. 資本還元率を算定する
  3. 投資利益率(ROI)を算定する
  4. 内部留保率を算定する
  5. 1株当たりの株価を算定する

それぞれの項目の求め方は下記のとおりです。

【年間の配当金額の計算方法】

年間の配当金額=(直前期末以前2年間の配当金額/2)÷1株あたりの資本金等の額を50円とした場合の発行済株式数

【資本還元率の計算方法】

資本還元率=WACCー売上高成長率
または
資本還元率=株主資本ー売上高成長率

【投資利益率の計算方法】

投資利益率=利益金額÷投資金額×100

【内部留保率の計算方法】

内部留保率=利益剰余金÷当期純利益×100

【1株当たりの株価の計算方法】

株価=年間の配当金額/(資本還元率ー投資利益率×内部留保率)÷発行済株式総数

ゴードン・モデル法は、同じ割合で永続的に企業が成長していくと仮定した計算方法です。

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まとめ

インカムアプローチとは、企業の価値を評価する手法の一つです。
企業価値を評価する手法にはほかにもコストアプローチやマーケットアプローチがありますが、インカムアプローチは特に将来的に生み出される収益力に着目した評価手法です。

インカムアプローチの具体的な計算方法には「DCF法」「収益還元法」「配当還元方式」「ゴードン・モデル法」などがあります。
どの計算方法を選べばよいのかは、企業の規模や成長ステージ、財務状況などの違いによって異なります。
各計算方法の特徴を比較し、対象企業に合った計算方法を選びましょう。

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