このページのまとめ
- 株式交換とは、子会社の全株式を親会社が取得し、完全子会社化すること
- 株式交換を行う際には、取締役会や株主総会の決議など、決まった手順を踏む必要がある
- 株式交換契約書には、会社法で定められた事項を記載する
株式交換では、会社法に則った契約書を作成し、当事者間で契約を結ぶ必要があります。しかし、どのような手順で契約を結ぶべきか分からない方も多いのではないでしょうか。
この記事では、株式交換の手順や契約書の内容、注意点などについて解説します。これから株式交換を検討している方や、契約書について詳しく知りたい方は、ぜひ参考にしてください。
目次
株式交換とは
株式交換とは、子会社の全株式を親会社が取得し、子会社の株主には親会社の株式を割り当てることです。例えば、子会社Aと親会社Bの場合、A社の株式をB社が全て取得してA社を完全子会社化します。そして、A社の株主が所有するA社の株式はB社の株式と交換するのが基本の流れです。
株式交換後は、親会社が子会社の経営を制御しやすくなります。また、株式交換のみで済むため、買収のためのコストがかからないのも大きな特徴です。なるべくコストをかけずに買収の手続きを行いたい場合に有効でしょう。
株式交換の手続き手順
手続きの手順は、以下の通りです。
- 取締役会における決議
- 株式交換契約を締結する
- 事前に情報を開示する
- 株主総会招集通知&株主総会
- 債権者保護手続き
- 反対株主の株式買取請求
- 金融商品取引法に基づく手続き
- 株券や新株予約権の証券提出の手続き
- 株式交換の効力が発生
- 登記申請
- 公正取引委員会の手続き
- 事後開示
適切な手順を踏まないと、株主や債権者が不利益を被る可能性があるため注意しなければなりません。手順を間違えないためには、事前に何を行うべきか把握し、計画を立てることが大切です。各手順の詳細は後述しますので、参考にしてみてください。
1.取締役会における決議
株式交換に関する契約を結ぶ場合は、取締役会の承認が必要です。取締役会を設置しない会社であれば、取締役の判断によって承認の可否を決めることになります。取締役会の承認を得られないと契約は結べないため、注意してください。
2.株式交換契約を締結する
取締役会で承認が得られたら、当事者間で契約を締結します。双方が合意のもと契約を結ばなければ、株式交換は無効なので注意しなければなりません。
この手順で欠かせないのが、株式交換契約書です。契約書には法律で定められた項目を記載する必要があります。記載項目については後述で具体的に紹介していますので、契約書作成時の参考にしてください。
3.事前に情報を開示する
当事者となる会社は、株主や債権者に対して契約内容や相手企業の財務状況などの情報を開示するため、それぞれの本店に所定の書類を備え置くことになります。書類の内容は、主に以下の通りです。
- 株式交換に係る契約書
- 交換対価の相当性に係る項目
- 交換対価に係る参考項目
- 計算書類などに係る項目
- 新株予約権の取り決めの相当性に関連した項目
- 株式交換の効力が生じる日以降の完全親会社の債務履行に係る項目
なお、書類は以下に挙げる中で最も早い日から効力が生じる日以降の6ヶ月間備え置く必要があります。
【親会社】
- 株主総会の2週間前
- 債権者保護手続きの公告日もしくは通知日
- 反対株主に対する株式買取請求の公告日もしくは通知日
【子会社】
- 株主総会の2週間前
- 反対株主に対する株式買取請求の公告日もしくは通知日
- 債権者保護手続きの公告日もしくは通知日
- 契約の締結から2週間後
- 新株予約権の買取請求日の公告日もしくは通知日
4.株主総会招集通知&株主総会
続いて、株主総会で承認を得るために総会の招集通知を送付します。公開会社は開催日の2週間前まで、非公開会社は開催日の1週間前までに通知を発送するのが原則です。ただし、非公開会社でもメールなどの電子的方法や書面での議決権行使が可能な場合は、開催日の2週間前までに通知を送ります。
株主総会では、特別決議によって株式交換契約の承認が行われます。特別決議は、議決権のある株主が過半数以上出席し、2/3以上から承認を得るのが条件です。ただし、株式交換による悪影響が及ばないケースでは、株主総会を行わなくてもよい場合があります。自社がどのケースに当てはまるか分からない場合は、専門家に相談するのがおすすめです。
5.債権者保護手続き
基本的に株式交換に伴う債権者保護は不要とされていますが、一定の条件に当てはまる場合には適切な手続きを行うことが求められます。手続きが必要な債権者の条件は、以下の通りです。
- 子会社への対価に株式以外を用いる場合
- 新株予約権付社債を親会社が継承する場合 など
債権者保護手続きでは、個別通知と官報公告にて異議申立ての権利を有していることを債権者に知らせます。また、株式交換の効力が生じる日の1ヶ月前までに債権者保護の手続きを開始してください。
6.反対株主の株式買取請求
株主総会で承認を得ていても、一部の株主から反対が出るケースは少なくありません。反対する株主を保護するため、会社への株式買取請求に応じる必要があります。
会社は、株式交換の効力が発生する日の20日前までに、反対株主に対して買取請求権を持つことを広告もしくは通知します。株主から株式の買取請求通知書が届いたら、会社は原則として断れません。株主の求めに応じて、買取を行います。
7.金融商品取引法に基づく手続き
投資家保護などの目的により、企業に対して情報開示を義務づけています。金融商品取引法によって取り決められた手続きは以下です。
各手続き | 概要 |
臨時報告書 | 継続的に情報開示している企業(上場企業等)は、組織再編により投資家に影響が出る重要な変更があった場合に、臨時報告書の提出が義務付けられています。 臨時報告書は提出から1年間、誰もが閲覧できる状態での公開が義務付けられています。 |
有価証券届出書 | 継続開示をしていない企業(非上場企業等)が完全親会社となり、継続開示企業を完全子会社として株式を交付する場合、完全子会社の株主は情報が非公開な株式を取得します。 株主が50名以上かつ株式発行価額が1億円以上の場合は、有価証券届出書の提出が義務付けられています。 |
有価証券通知書 | 株式交換で株式発行価額が1,000万円以上1億円未満の場合、有価証券届出書ではなく有価証券通知書の提出が義務付けられています。 |
8.株券や新株予約権の証券提出の手続き
株券・新株予約権の証券発行会社の提出公告、個別通知を受け、株主は株式交換の効力発生日までに株券などの提出手続きを完了させる必要があります。株式交換の効力発生日までに手続きが完了しなかった場合には、提出があるまで会社から株主に対して対価である株券等の交付は不要です。
9.株式交換の効力が発生
全ての手続きを問題なく行った後、契約書に記載された効力発生日をもって株式交換が行われます。子会社の株式は親会社に移り、子会社の株主は対価を受け取るのが基本の流れです。もし子会社の新株予約権の交換も行うことが契約で取り決められているのであれば、子会社の新株予約権は消え、親会社の新株予約権を受けることになります。
10.登記申請
株式を交換するだけの場合、登記内容に変わりはないため、新たに変更登記を行う必要はありません。ただし、新株予約権を対価とする場合など、株式数が変わった時は売り手側と買い手側どちらも変更登記を行います。
効力が生じた日から2週間以内に、法務局にて変更登記を申請してください。変更登記に関しては、司法書士などの専門家に依頼すると手続きの複雑化を防げるでしょう。
11.公正取引委員会の手続き
経営統合によって誕生した企業が、市場の競争関係に大きな影響を与える場合、経営統合が阻止される決定がなされることがあります。株式交換を行う際、以下のどれかの条件を満たす場合、公正取引委員会に届け出が必要になります。
- 完全親会社となる企業やそのグループ企業の国内売上高合計額が200億円以上
- 株式発行会社と子会社となった会社の国内売上高合計額が50億円以上
- 完全親会社となる企業のグループ企業が持つ議決権保有割合が20%または50%以上となる
届け出を提出した企業は、30日の審査期間中に株式交換を進めることができません。また、30日の審査機関については、公正取引委員会の判断によって期間延長されることもあります。
12.事後開示
一連の手続きを終えた後は、事後開示を行います。効力が生じた日から6ヶ月間は、親会社と子会社どちらの本店にも必要事項を記載した書類を備え置きましょう。書類に記載する項目は、以下の通りです。
- 株式交換の効力が生じた日
- 買い手側が取得した株式の数
- 株式買取請求手続きに係る経過
- 債権者保護手続きに係る経過
- 新株予約権買取請求手続きに係る経過
本店に備え置く書類について株主から開示請求があった場合は、応じることになります。
株式交換契約書の記載事項
会社法768条では、株式交換契約書を有効にするためには必要事項を記入し、株主総会で承認を得なければならないと定められています。主な記載事項は、以下の通りです。
株式交換の宣言 | 買い手と売り手が契約を結んだことを記載する「株式会社A(以下、甲」)と 株式会社B(以下、乙)は、次の通り株式交換契約を締結する」 |
目的 | 買い手が完全親会社に、売り手が完全子会社になることを記載する「甲及び乙は株式の交換を行い、甲が乙の完全親会社、乙が甲の完全子会社となる」 |
株式交付日 | 株式を交付する年月日を記載する「株式交付日は、令和△年△月△日とする」 |
対象会社の商号・住所 | 株式交換で定款に変更が生じた場合、変更された商号や住所などを記載する(変更がない場合、記載する必要はない)「甲は、株式交換により以下のとおりに定款変更する。1、定款第1条より、商号を株式会社Cとする。」など |
対価の割当交付 | 株式交換後、子会社の株主が持つ株式が親会社となる会社において、どの程度の割当になるか記載する「甲は株式交換に際して、普通株式△株を発行し、株式交換日における乙の株主に対して乙の普通株式△株につき、甲の普通株式◯株の割合で割当交付する。」 |
増加する資本金の額 | 株式交換にあたって、親会社にどの程度の資本金と資本準備金が生じたのか記載する。「本株式交換において、甲が増加すべき資本金及び資本準備金の額は以下のとおりとする。1、増加する資本金△円2、増加する資本準備金◯円」 |
表明保証 | 会社法に則り適切に取引を行ったことを記載する「甲及び乙は、自己の株主が株主名簿のとおりであり、他人名義の株主が存在しないこと、名義株主が存在しないこと、株主に反社会的人物が存在しないことを表明し、保証する。」など |
株式交換承認総会 | 株式交換が承認された日を記載する「甲及び乙は、令和△年△月△日に株主総会を招集し、本契約の承認及び必要事項に関する決議を求め、承認を得る。」 |
会社財産の管理 | 株式交換前日まで、子会社と親会社の財産を管理することを記載する「甲及び乙は、管理者の注意をもって自らの業務の執行及び財産の管理を株式交換の日まで行う。 |
株式交換の交付金 | 株式交換時に子会社の株主への交付金が生じる場合、金額や期限について記載する「甲は、株式交換日の前日に乙の株主に対し、所有する乙の株式1株につき△円の交付金を、株式交換の日から△ヶ月以内に支払うものとする。」 |
役員と任期 | 株式交換後の役員と任期について記載する「本株式交換により、甲及び乙の取締役に就任した者の任期は変更されない。」 |
株式交換条件の変更 | 株式の交換条件の変更について記載する「本契約締結日から株式交換日まで、甲又は乙それぞれの資産状態、経営状態に大幅な変更が発生した場合は、甲及び乙が協議の上、条件の変更又は本契約の解除ができる。」など |
本契約書の効力 | 本契約の効力を記載する「本契約は、第7条に定める甲及び乙の株主総会の承認が得られない時、又は法令に定められた関係官庁の承認が得られない時は失効する。」 |
適応する法と管轄 | 株式交換で裁判が必要になった時の管轄裁判所名を記載する「甲及び乙は、本契約に裁判上の紛争が生じた時は、第一審の専属的合意管轄裁判所を◇地方裁判所にすることに合意する。」 |
協議事項 | 協議事項に関連した項目を記載する「本契約に定めのない事項については契約の趣旨に従い、甲及び乙の協議の上、決定する。」 |
株式交換契約書を作成するときのポイント
契約書を作成する際には、以下のポイントを意識することが大切です。
- 無対価の株式交換について理解しておく
- 株式交換には税金がかかる
それぞれのポイントの詳細を確認し、契約書作成に役立ててください。
無対価の株式交換について理解しておく
子会社の株主に対して、親会社の株式などの対価を与えないことを無対価と呼びます。例えば、グループ企業内における組織再編で無対価の株式交換を行うことがあり、無対価であれば対価の交付の省略が可能です。
「株式交換の前後で株式の価値が変わらない」という無対価の税制適格の条件を満たせば、非課税で株式交換を行えます。ただし、無対価の株式交換については複雑な点もあるため、専門家に相談しておくとより安心です。
株式交換には税金がかかる
株式交換で株式の交付だけが行われる場合は、契約書に対して印紙税は発生しません。ただし、株式交換に伴って不動産などの譲渡が行われる場合は、契約書に印紙を貼って印紙税を支払う必要があります。印紙税の額は、親会社の発行済株式数などによって変わるため、専門家に正確な数字を算出してもらうのがおすすめです。
株式交換の事例
株式交換の事例について3つの事例をご紹介します。
事例1:ヒューリック株式会社とビューホテル株式会社
不動産賃貸事業のヒューリック株式会社が、ホテル業のビューホテル株式会社を株式交換により完全子会社化した事例です。事業環境の変化に見合ったサービス提供を実現することや、ホテル運営に係る収益を獲得することを目的としています。
参照:ヒューリック株式会社による日本ビューホテル株式会社の完全子会社化に関する株式交換契約締結のお知らせ
事例2:アイビーシー株式会社と株式会社サンデーアーツ
ITシステムの開発・製造事業などを展開するアイビーシー株式会社が、サイト構築パッケージ販売事業などを展開する株式会社サンデーアーツを簡易株式交換により完全子会社化した事例です。サンデーアーツの技術力とブロックチェーンを活用し、新サービスの創出や既存事業の成長を図ることを目的としています。
参照:簡易株式交換により株式会社サンデーアーツを完全子会社化
事例3:日産自動車株式会社と愛知機械工業株式会社
自動車製造事業を手掛ける日産自動車株式会社が、自動車部品・産業用部品の製造事業を展開する愛知機械工業株式会社を完全子会社化した事例です。技術共有による品質の向上やコスト削減、事業の拡大に通じる成長の加速化を目的としています。
参照:日産自動車株式会社による愛知機械工業株式会社の株式交換による完全子会社化について
まとめ
株式交換は、完全親会社と完全子会社の関係を作る組織再編手法です。問題なく手続きを終えるためには、基本の手順を確認し、抜け漏れがないようにする必要があります。必要な手順を行っていないと、株式交換が無効になってしまう場合があるため注意してください。また、契約書に記載すべき項目などもチェックして、滞りなく手続きを進めていきましょう。
ただし、株式交換に際しては複雑な内容もあるため、全てを理解するのは難しいと感じることがあるかもしれません。そのような場合は、M&Aの専門家への相談を検討してみてはいかがでしょうか。
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