会社売却の相場や税金はどれくらい?準備からクロージングまでの流れも解説

2023年8月25日

会社売却の相場や税金はどれくらい?準備からクロージングまでの流れも解説

このページのまとめ

  • 会社売却には、大きく分けて「株式譲渡」と「事業譲渡」の2つがある
  • 会社売却を行うことで、倒産を阻止して従業員の雇用を守ることができる 
  • 会社売却価格の算定には、時価純資産法・ 類似会社比較法・収益還元法などを用いる
  • 会社売却を成功させるには、自社の適正価格を把握し、売却条件を明確にすることが大切

「会社の売却を考えているけど何から手をつければよいか分からない」とお悩みの方も多いのではないでしょうか。会社売却には「株式譲渡」と「事業譲渡」の2種類があり、売却の目的がそれぞれ異なります。
このコラムでは、会社売却の相場や税金の算定方法、準備からクロージングまでの手順について解説します。会社売却を検討している経営者の方は、ぜひ参考にしてみてください。

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会社売却とは

会社売却とは、会社を外部の人間に売却することです。外部の人間とは、経営者の親族や会社の役員・従業員以外の人物を指します。会社売却には、大きく分けて「株式譲渡」と「事業譲渡」の2種類があります。それぞれの違いは次のとおりです。

株式譲渡

株式譲渡とは、「売却会社の株主が自社で保有する株式を第三者に売却すること」です。
譲渡する株式の割合によっては経営権が買い手に移ります。変更点は株主・経営者が変わることのみで、そのほかの部分は買い手にそのまま引き継がれます。そのため、売却会社の従業員は変わらず所属している会社の従業員として勤務することが可能です。

事業譲渡

事業譲渡とは、「事業のみを買い手企業に売却すること」を指します。
株式譲渡が会社全体を譲渡するのに対して、事業譲渡では買い手企業に引き継ぐ資産を一つひとつ選択できるのが特徴です。たとえば、「事業運営に必要な機械・備品・ノウハウは引き継ぐけど、従業員の雇用関係は引き継がない」「従業員の雇用関係は引き継ぐけど、顧客リストは引き継がない」といった選択ができます。
買い手企業に引き継ぐ資産を一つずつ選別して個別に契約を結ぶ必要があるため、株式譲渡よりも細かい手続きが発生します。その分、自社に必要な資産を手元に残しておけるのが事業譲渡の大きなメリットです。

参照元:中小企業庁「第2節 M&Aの現状と実態

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会社売却とIPO(新規上場)の違い

IPOは「Initial Public Offering」の略で、「新規上場」や「新規公開株」のことです。会社の株式を一般の投資家に売り出すために、初めて証券取引所に株式を公開することを指します。

会社経営の出口戦略(イグジット)において、多くのベンチャーやスタートアップの経営者が目指す最終目標がIPOです。一方で、アメリカなどの海外ではM&Aによる会社売却が主流となっています。

両者の大きな違いは、会社ごとを売却して利益を得るか、株式を売却して利益を得るかです。

どちらにもメリット・デメリットがあり、イグジットの手段としてどちらが適しているかは会社の状況で変わります。詳しくみていきましょう。

IPOが適している場合

IPOは、市場からの多くの資金調達ができる点がメリットです。また、上場企業となることで知名度が上がり、社会的な信用が高まります。多数の投資家に対する社会的責任を負うことになりますが、経営の自由度はある程度保たれるのもメリットです。

IPOでは経営者が株主として会社に残り、事業に関われるため、引き続き経営者として残りたい場合に適しています。また、組織体制をあまり変化させず、従業員の雇用や取引先との関係を継続させたい場合にもIPOが適しているといえるでしょう。

ただし、IPOは上場の準備に時間やコストがかかります。短くとも3年程度の時間がかかり、証券会社と証券取引所の審査に通らなければなりません。また、上場することによって誰でも株式を購入できる状態になるので、敵対的買収のリスクがあります。

IPOを選ぶ場合は、これらのメリット・デメリットを踏まえて検討するとよいでしょう。

会社売却が適している場合

会社売却は株式をすぐに現金にでき、利益を確保できる点がメリットです。IPOと比較して、短期間で実施でき、準備に多くのコストもかかりません。

事業が小規模など、上場の基準に満たない場合でも、売却によってイグジットを成功させることができます。

ただし、経営権は買い手企業に移り、組織体制などが大きく変わる可能性があります。買い手企業の見極めが必要になるでしょう。交渉がうまくいかず、失敗するリスクもあります。

会社売却のメリット・デメリットについては、このあとさらに詳しくお伝えしましょう。

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会社売却の8つのメリット

会社売却で得られる主なメリットは次の8つです。

  1. 会社を後継者に引き継げる
  2. 会社の成長が期待できる
  3. 会社の倒産を阻止して従業員の雇用を守れる
  4. 自社の無形資産を買い手企業に引き継げる
  5. 売却利益を得られる
  6. 個人保証を解除できる
  7. 経営業務から解放される
  8. 売却した会社のさらなる成長が期待できる

それぞれ詳しく解説します。

1.会社を後継者に引き継げる

会社売却は、後継者不在の問題を解決できるのがメリットです。後継者不在で会社存続が危ぶまれる企業は多く、社会問題にもなっています。少子高齢化により後継者となる若い世代が減っており、これまでは当たり前のように行われてきた「子が親の事業を継ぐ」という風潮が変わりつつあるのが後継者不在の背景です。

経営者自身が高齢で後継者がいない場合、廃業という選択をとらざるをえないケースもあるでしょう。しかし、廃業すると従業員は職を失い、取引先にも悪影響を及ぼすことがあります。

そのような事態を避けるために、会社を存続させる戦略として会社売却がとられます。後継者への引き継ぎを目的に会社売却を行う場合には、従業員の雇用を維持し取引先との関係性を守るため、経営者の意向を受け入れてくれる売却先を探しましょう。

2.会社の成長が期待できる

買い手企業と生み出すシナジー効果により会社の成長が期待できます。シナジー効果とは、買い手と売り手が協力することによって、各社が単独で事業を営む以上の価値を創出できるようになる効果のことです。

例えば、自社製品・サービスに強みはあるが営業に弱みがある、もしくは販売網が弱いといった事情がある場合、営業力や独自の販売網を備えた企業に売却することで、弱みを補強しつつ自社の強みを伸ばすことが可能です。

3.会社の倒産を阻止して従業員の雇用を守れる

会社売却では、自社の債権・債務や従業員の雇用契約を含めて買い手企業に引き継げます。会社が倒産すると従業員は「解雇」の扱いとなってしまいますが、会社売却の場合は従業員が買い手企業でそのまま働き続けることが可能です。従業員に何も伝えずに話を進めてしまうと反発を招くリスクがあるため、会社売却の意思が固まったら、買収先の会社に転籍になる可能性があることを従業員に事前に伝えておきましょう。

「これ以上経営を続けるのは難しいけど従業員の雇用は守りたい」という経営者は、会社売却を検討してみるのも有効な方法です。

4.自社の無形資産を買い手企業に引き継げる

会社売却で買い手企業に引き継げるのは有形資産だけではありません。自社の経営ノウハウや顧客リストなどの無形資産も、買い手企業にそのまま引き継ぐことが可能です。事業譲渡の場合であれば、買い手企業に引き継ぐ情報と引き継がない情報を自社で選定できます。

無形資産を引き継ぐことで、買い手企業はノウハウをゼロから蓄積する手間や新規顧客を獲得する手間が省けます。経営に必要な情報がすべてそろっているため、経営が軌道に乗りやすくなります。
また、既存顧客との契約も買い手企業に引き継がれるため、従業員はこれまでに築いてきた顧客との関係を維持しながら働くことが可能です。

5.売却利益を得られる

会社を売却すると、経営者・株主には売却利益が入ります。売却利益は、売却金額から所得税や法人税などを差し引いた金額です。売却金額の算定方法については、別の項目でのちほど詳しく解説します。
売却利益を得ることで、経営者・株主はセミリタイア後の生活資金に充てたり、新しい事業をスタートさせるための起業資金にしたりすることができます。

参照元:東京都 事業継承・引継ぎ支援センター「売却・買収金額の目安

6.個人保証を解除できる

経営者が個人保証から解放されることもメリットの一つです。中小企業の経営者は、金融機関から経営資金を借りる際に自らが会社の連帯保証人となるケースが多くあります。このような経営者の「個人保証」は、自身が経営者の立場を降りるまで効力を発揮します。

株式譲渡によって会社を売却すると経営権が買い手企業に移るため、売却会社の経営者は個人保証から解放されることとなります。ただし、自動的には承継されないので、譲受側との話し合いが必要です。
事業譲渡の場合は権利・義務を個別に承継するため、引き継がれることはほとんどありません。しかし事業譲渡によって売却利益を獲得できるので、それを返済に充てることで個人保証を外せます。

7.経営業務から解放される

会社の売却は、これまで担ってきたすべての業務から解放されることとイコールです。会社を経営していると、「ほかにやりたいことができた」「会社をこれ以上成長させていくことにやりがいを見出せなくなった」と感じることがあるかもしれません。そのような気持ちを抱えている方は、会社を売却することで自身が本当にやりたいことに向き合えるでしょう。

8.売却した会社のさらなる成長が期待できる

「買い手企業の経営方針と相性が良かった」「大手企業の傘下に入ったことで多額の資金を投資してもらえた」などの理由で、会社売却後に企業が大きく成長するケースがあります。自社で経営を続けていると、経営方針を大きく転換する、利益の出ていない事業で予算を増額するなどの思い切った行動に踏み切るのは難しいかもしれません。従業員や取引先が増えるほど、経営者一人の判断では周りを動かせない局面も出てくるでしょう。
現状の経営方針に限界を感じたら、会社のさらなる成長のために会社売却を検討するのも一つの方法です。

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会社売却の4つのデメリット

メリットの多い会社売却ですが、同時に次のようなデメリットも存在します。

  1. 競業となるビジネスが一定期間できなくなる
  2. 売却後も一定期間は事業に拘束される
  3. 従業員が離職する可能性がある
  4. 売却後に寂しさを感じる

4つのデメリットについて、以下で詳しく解説します。

1.競業となるビジネスが一定期間できなくなる

会社法第21条では、次のような法律が定められています。

  • 事業を譲渡した会社は、事業を譲渡した日から20年間、同一または隣接する市町村区で競業の事業を行ってはならない
  • 譲渡会社との間で「同一の事業を営まない」という特約を交わした場合、その特約は事業を譲渡した日から30年間にわたって効力を発揮する
  • 上記の内容にかかわらず、譲渡会社は不正な競争の目的をもって同一の事業を行ってはならない

つまり、会社を売却してから20年以上は同一のビジネスを行うことが禁止されているのです。「会社売却後にもう一度同じビジネスで起業したい」と考えている方は、会社売却をすべきかどうか慎重に検討したほうが良いでしょう。

参照元:e-GOV法令検索「会社法 第21条

2.売却後も一定期間は事業に拘束される

売買の契約が成立したら晴れて自由の身になれるかというと、必ずしもそうとはいきません。買い手企業によっては、経営が安定するまでの一定期間、前任の経営者を自社で雇用するケースがあります。「会社を売却したらすぐに新しいビジネスにチャレンジしたい」という方にとっては、出鼻をくじかれてもどかしい思いをするかもしれません。
しかし、買い手企業での就業に法的な拘束力があるわけではないため、就業ができない場合は拒否することが可能です。拒否をする場合は、契約前の段階であらかじめその旨を先方に伝えておきましょう。事前のすり合わせを怠ると、契約後に思わぬトラブルが生じる可能性があります。

3.従業員が離職する可能性がある

会社売却によって、従業員が大量に離職してしまう可能性があります。会社売却後も従業員は基本的に働き続けることが可能ですが、「買い手企業の従業員として働きたくない」という従業員もいることでしょう。
会社売却が成立した時点で、従業員は買い手企業と雇用契約を新たに交わすかどうかを自身で選択できます。自社への思い入れが強い従業員は、買い手企業への転籍が決まった時点で退職の道を選ぶかもしれません。
従業員の反発を招かないためにも、従業員の同意を得たうえで買い手企業との契約を結ぶことが大切です。

4.売却後に寂しさを感じる

会社売却が完了してすべての業務から解放されたとき、一抹の寂しさを感じることがあります。特に会社売却後にやりたいことが決まっていない方は、人生の目標を見失ってしまったかのような喪失感に襲われるかもしれません。前向きな気持ちでこれからの人生をスタートできるように、会社売却後の目標を事前に決めておきましょう。

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会社売却による経営者や周囲の変化

会社の売却により、経営者自身や周囲に変化が起こります。それぞれどのような変化があるのか、みていきましょう。

経営者に生じる変化

経営者は、引退するか社長業を継続するかの2通りの選択肢があります。どちらを選ぶかは、売却の理由により異なります。

引退を前提に、生活費を得る目的で売却する場合もあるでしょう。事業承継が目的の場合も、経営者は引退します。ただし、事業の引き継ぎで経営者の関与が必要になる場合、買い手企業の意向により売却後も経営陣として残る可能性はあるでしょう。

会社を成長させる目的であれば、自社とシナジー効果を得る見込みのある企業を選び、経営陣として残る可能性があります。

役員・従業員に生じる変化

従業員の雇用は、基本的に維持されます。従業員の契約は経営者ではなく会社と交わされるもので、株式譲渡による会社売却の場合、会社が存続するので従業員の雇用契約も存続します。事業譲渡による会社売却の場合も、ほとんどのケースで従業員は売り手と雇用契約を結び、働き続けます。

近年はほとんどの業界で人材不足が深刻化し、人材を採用・育成するには、多くの労力と時間・コストがかかります。そのため、買い手企業は売り手企業の従業員を受け入れ、雇用を維持する前提で取引を進めるのが一般的です。
また、売り手企業の経営者も従業員の雇用を維持したいと考えており、売却の条件に従業員の雇用維持を盛り込む場合もあります。

ただし、売却によって経営方針や方向性、社風などが大きく変わる場合、従業員が離職する可能性はあるでしょう。

役員も継続勤務の可能性はありますが、処遇が変わる場合も少なくありません。給与が引き下げられたり、業務内容が変わったりするケースもあるでしょう。

取引先に生じる変化

取引先との関係性を継続するかは、買い手企業次第です。取引先との信頼関係も企業の価値のひとつであり、売却により取引先が離れてしまうと、買収した企業の価値が下がることにもなりかねません。

そのため、買い手企業も基本的には事業環境の変化を避ける傾向にあります。買い手企業の事業に有用な取引先であれば、継続して取引を続ける可能性が高いでしょう。

また、経営者が会社売却後も取引先との関係性を継続してほしいと考えるのであれば、売却先を探す段階で取引先との関係性継続を条件に入れておくことをおすすめします。

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会社売却の相場

「会社がどれくらいの金額で売却できるかの相場を知りたい」という方は多いと思います。しかし、結論として、会社売却価格の相場というものは存在しません。会社売却の金額は、企業の売上や業界内でのシェア率、従業員のスキルなどのさまざまな要素を総合的に判断して決定されます。そのため、業界が同じ企業や従業員数が同程度の企業であっても、売却価格は大きく異なる場合があるのです。
すべての会社で参照できる売却相場というものはありませんが、自社のおおよその売却価格を算定する方法はあります。売却価格の算定方法については、次の項目で説明します。

会社売却価格の算定方法

会社売却価格の算定には、「時価純資産法(修正簿価純資産法)」「類似会社比較法(マルチプル法)」「収益還元法(DCF法)」が用いられることが多いです。それぞれの算定方法について詳しく解説します。

時価純資産法(修正簿価純資産法)

時価純資産法は、貸借対照表(バランスシート)に計上されている各資産の総額から負債総額を差し引き、時価総額を算出する方法です。貸借対照表のデータに基づいて、現時点での自社の時価総額を手軽に計算できます。
修正簿価純資産法では、貸借対照表(バランスシート)に計上されている各資産のうち、有価証券や土地・建物などの「含み損益」が大きい項目のみを評価して時価総額を算出します。
含み損益とは「自社で保有している株式の時価と、取得した株式の平均取得費用の差額」のことです。自社で保有している株式価格よりも取得した株式の平均取得費が大きい場合を含み損(評価損)と呼びます。反対に、自社で保有している株式価格よりも取得した株式の平均取得費が小さい場合を含み益(評価益)と呼びます。
実際の会社売却価格の算定では、時価純資産法と修正簿価純資産法を厳密に区別していないケースもあります。そのため、どちらの算定方法を用いても、ある程度客観性のある売却価格を見積もることができるでしょう。
以下の表を参考に、時価純資産法(修正簿価純資産法)で自社の時価総額を計算してみてください。

貸借対照表の純資産額① 純資産合計額(資産合計-負債合計)50,000,000
評価のための調整額② 純資産調整額(資産の含み益-資産の含み損-未計上債務)-2,000,000
調整後純資産額①+②48,000,000
発行済株式総数発行済株式総数16,000
一株当たりの価格調整後純資産額 ÷ 発行済株式総数3,000

▲貸借対照表(バランスシート)を基礎とする企業価値の評価法(純資産法)、右端の額は記入例(単位:円)。

参照元:中小企業庁「事業承継ガイドライン 20問20答

時価純資産法(修正簿価純資産法)では過去のデータから時価総額を算出するため、将来の時価総額については算出できません。直近での会社売却を考えており、「現時点での自社の売却価格を知りたい」という方におすすめの算定方法です。

参照元:中小企業庁「経営承継法における非上場株式等評価ガイドライン(p.15)

類似会社比較法(マルチプル法)

類似会社比較法では、実際に上場している競合他社の株主価値を基に自社の株主価値を算定します。
中小企業の会社売却においては、買取費用をEBITDA(おおまかに言うと「営業利益+減価償却費」)の何年分で回収できるかを、上場済みの競合他社の株主価値から算定する方法が多く採用されています。
類似会社比較法のメリットは、実際に上場している競合他社の株主価値を基に売却金額を算定するため、参照データに客観性があることです。上場している競合他社を見つけるのが難しいケースがありますが、参考にできる競合他社がある場合は有効な算定方法といえるでしょう。

引用元:経済産業省「エクイティ・ファイナンスに関する基礎知識  第二章 株式評価・出資者の投資回収(p.15)
参照元:経済産業省「エクイティ・ファイナンスに関する基礎知識  第二章 株式評価・出資者の投資回収(p.15)
参照元:経済産業省「事務局説明資料 令和3年2月24日(p.20)

収益還元法(DCF法)

収益還元法は、売却会社のフリーキャッシュフロー(会社全体の利益の中の自由に使える費用)を基に株主価値を算定する方法です。売却会社のフリーキャッシュフローから将来のキャッシュフローを推定し、推定したキャッシュフローから会社の資金調達に必要な費用を割り引くことで算出します。
将来の収益性や成長性を考慮に入れて株主価値を算出するため、過去の実績のみを評価するよりも理論的な方法だといえます。ただ、将来の収益性や成長性の見積もり方によって評価が変わるため、評価者の主観が少なからず入ってしまう点に注意しましょう。

参照元:経済産業省「エクイティ・ファイナンスに関する基礎知識 第二章 株式評価・出資者の投資回収
参照元:中小企業庁「経営承継法における非上場株式等評価ガイドライン

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会社売却にかかる税金はどれくらい?

会社を売却すると、売却した本人に譲渡所得税および住民税が課せられます。次の3つのケースごとに、どれくらいの税金が発生するかを解説します。

株式譲渡(個人株主)の場合

個人株主が株式譲渡をする場合、はじめに「譲渡所得等の金額(譲渡益)」を求め、その金額を基に譲渡所得税額(および住民税額)を算出します。それぞれの計算式は次のとおりです。

  • ① 譲渡所得税の計算式

譲渡金額 -( 取得費 + 委託手数料等 )= 一般株式等にかかわる譲渡所得等の金額(譲渡益)

  • ② 譲渡所得税額(住民税額)の計算式

一般株式の譲渡所得等の金額(譲渡益) × 所得税15%(住民税の場合は5%)= 所得税額(住民税額)

参照元:国税庁「No.1463 株式等を譲渡したときの課税(申告分離課税)
参照元:国税庁「個人の方が上場株式等を保有・譲渡した場合の金融・証券税制について(令和元年10月)

株式譲渡(法人株主)の場合

法人株主が株式譲渡をする場合の譲渡所得税(および住民税)の計算式も、個人株主の場合と同じです。

  • ① 譲渡所得税の計算式

    譲渡金額 - 必要経費(取得費+委託手数料等)=上場株式等にかかわる譲渡所得等の金額

  • ② 譲渡所得税額(住民税額)の計算式

    上場株式等にかかわる譲渡所得等の金額(譲渡益) × 所得税15%(住民税の場合は5%)= 所得税額(住民税額)

参照元:国税庁「No.1463 株式等を譲渡したときの課税(申告分離課税)

事業譲渡の場合

事業譲渡をする場合、消費税・法人税・不動産取得税などが課せられます。注意点としては、事業譲渡を行う資産には課税対象の資産と非課税の資産があり、課税対象の資産にのみ税金がかかることです。以上の注意点を踏まえて、事業譲渡で発生する主な税金の計算方法を説明します。
まずは「消費税」の計算方法について解説します。事業譲渡の消費税は次の計算式で求めます。

  • 消費税課税対象の資産額 × 10%

事業譲渡を行う資産総額が1億円で、そのうちの5,000万円が非課税の資産の場合、「(1億円-5,000万円 )× 10% = 5,000万円」が消費税として売り手側の企業に課せられます。
次に、「法人税」の計算方法について説明します。
法人税は、譲渡する事業の「負債額を差し引いた資産額」よりも「売却金額」のほうが大きい場合に課せられます(これを「事業譲渡益」と呼びます)。
事業譲渡益が発生した場合の法人税の計算式は次のとおりです。

  • (事業譲渡益 + 事業損益)× 法人税率 = 法人税(30%)※1

※1 法人税には、法人税・法人住民税・法人事業税・特別法人事業税といった複数の種類があります。これらの法人税すべてを支払う場合の総合的な税率が30%です。

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会社売却の流れ

会社売却の概要が理解できたら、実際の手順について見ていきましょう。今回は、支援機関を通じて会社売却を行う際の流れについて説明します。準備から契約締結までの基本的な流れは次のとおりです。

  1. 会社売却の支援機関に相談する
  2. 会社売却の価格を算定する
  3. 買い手を選定する
  4. 買い手と交渉する
  5. 買い手企業と基本合意を締結する
  6. 買い手企業と最終契約を締結する
  7. クロージング

各プロセスについて、順に詳しく紹介します。

1.会社売却の支援機関に相談する

はじめに、会社売却の支援を行っている機関に相談しましょう。同業界で従業員数が同程度の企業でも、会社売却の目的によって適切な方法は異なります。支援機関のアドバイスを受けながら、自社に合った売却方法を選択することが大切です。

2.会社売却の価格を算定する

次に、支援機関のアドバイスを踏まえて自社の売却価格を算定します。もしも支援機関のアドバイスに不安な点がある場合は、セカンドオピニオンとして複数の支援機関に意見を求めると良いでしょう。複数の支援機関の意見を基に総合的に判断することで、より客観的で納得感のある売却価格を算定できるはずです。セカンドオピニオンを受ける場合は、最初に相談した支援機関にその旨を伝えておきましょう。

3.買い手を選定する

売却価格を算定したら、買い手企業を選定します。会社売却において、「誰に売るか」は非常に大切です。買い手企業によって、売却後に事業がさらに成長するか、従業員が腰を据えて長く働けるかが大きく左右されます。売却価格の相談だけでなく、買い手企業の選定についても支援機関からアドバイスをもらうのがおすすめです。買い手企業の資本力・経営力・買取金額などを総合的に評価して、自社を安心して任せられる売却先を決めましょう。

4.買い手と交渉する

買い手企業が選定できたら、売却金額の交渉を行います。伝達ミスによる思わぬトラブルを招かないためにも、売り手企業の経営者と買い手企業の経営者同士が面談を行うことが非常に重要です。両者の意見に食い違いが生じた場合は、お互いが納得できる落としどころを見つけるまでじっくり話し合いましょう。
交渉の進め方は企業によって大きく異なるため、過去の事例に頼りきらず、両者にとって適切な着地点を探していくことが大切です。

5.買い手企業と基本合意を締結する

交渉が成立したら、買い手企業と基本合意書を締結します。基本合意書には、売却金額や従業員の雇用条件、契約における機密事項などを記載します。
このタイミングで、買い手企業が税理士・司法書士などの士業専門家に売り手企業の経営実態調査を依頼する場合があります(これを「デュー・ディリジェンス(DD)」と呼びます)。基本合意書を締結した段階では正式な契約はしていないため、状況によっては契約が白紙になるケースもあることを認識しておきましょう。

6.買い手企業と最終契約を締結する

交渉内容や基本合意の締結内容に問題がなければ、買い手企業と最終契約を交わします。
買い手企業のデュー・ディリジェンス(DD)によって問題点が見つかった場合は、必要に応じて再交渉を行いましょう。自社にとって都合の悪い内容を指摘された場合は、不必要に取り繕うことなく、問題が解決できるまで買い手企業と話し合いを続けることが大切です。
焦って最終契約を進めようとせず、買い手企業が感じている不安をクリアにすることを念頭におきましょう。

7.クロージング

最終契約が締結できたら、会社売却を実行します。まず、売り手企業は自社の株式名簿や株式譲渡承認請求書などを買い手企業に提出しましょう。買い手企業が株券発行会社の場合は、株券の交付も忘れずに行いましょう。買い手企業が株券不発行の会社であれば、株式譲渡の際に株券を交付する必要はありません。
必要書類を提出したら、自社の株式を買い手企業に引き継ぎます。すべての資産の引き継ぎが完了したら、買い手企業に「重要物品受領書」を提出してもらい、対価を受け取ります。

参照元:経済産業省「中小M&Aハンドブック
参照元:経済産業省「事務局説明資料

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会社売却を成功させるポイント

会社売却を成功させるためには、次のポイントを押さえることが大切です。

  1. 自社の財務状況を正確に把握する
  2. 売却条件を明確にする
  3. 自社の適正価格を把握する
  4. 自社のアピールポイントを明確にする
  5. タイミングを見計らう
  6. シナジー効果が見込める買い手企業を見つける
  7. M&A仲介業者を利用する

詳しく解説します。

自社の財務状況を正確に把握する

会社売却の成功において非常に重要なのが、自社の財務状況を正確に把握することです。会社全体の経常損益とあわせて、「どの部門で収益がいくらプラスになっているのか(またはマイナスになっているのか)」についても事業ごとに把握しておきましょう。
また、買い手企業から財務状況の開示を求められた際には、包み隠さず必要な情報を共有することが肝心です。自社にとって不都合な情報を隠したとしても、デュー・ディリジェンス(DD)などの実態調査によっていずれは明らかになります。不都合な情報を隠ぺいしようとしていたことが買い手企業に知られた場合、企業としての信頼を失い、契約自体が白紙になってしまうかもしれません。
買い手企業との信頼関係を壊さないためにも、自社のマイナス面を含めて潔く情報を開示することを心がけましょう。

売却条件を明確にする

会社売却の条件があいまいだと、買い手企業を選定する際の判断基準が分からなくなってしまいます。また、買い手企業も「この企業は会社売却を真剣に考えていないのではないか」と不信感を募らせてしまうかもしれません。
会社売却をするか迷っている段階でも、「買収金額が5,000万円以上なら売却する」「上場企業の傘下に入るなら売却する」といった譲れない条件を決めておくことが成功のポイントです。

自社の適正価格を把握する

売却条件を明確にすることとあわせて、自社の適正価格を把握することも非常に重要です。
「買収金額が5,000万円以上なら売却する」という条件を定めても、自社の適正価格が5,000万円を大きく下回っていた場合、希望価格で売却できる可能性は低いでしょう。特に、長年経営してきた会社は思い入れが強く、経営者が自ら客観的な評価を下すのは難しいかと思います。自身の希望もあいまって、売却価格をついつい高く見積もってしまうことがあるかもしれません。
そのようなときこそ、時価純資産法・類似会社比較法・収益還元法などの複数の方法で自社の売却価格を算定してみることが大切です。業界内でのシェア率や売上、負債額などの具体的な数値を参考にすれば、主観に影響されて自社の適正価格を大きく見誤ることは防げるでしょう。

自社のアピールポイントを明確にする

買い手企業に自社を高く買い取ってもらうためには、自社の強みをアピールすることが大切です。たとえば、「大手50社以上の企業の顧客リストを持っている」「1社あたりの契約年数が10年以上(同業他社は平均5年以下)」など、競合他社と比較したときに強みになるポイントがあれば、自社を高く買い取ってもらえる可能性が高くなります。
その際に大切なのが、自社の弱みになるポイントを隠そうとしないことです。どのような企業でも、強みと弱みの両方を持ち合わせているものです。弱みを取り繕うのではなく、「買い手企業の強みを活かして自社の弱みをカバーできないか」という視点で考えてみましょう。

タイミングを見計らう

良い条件で売却するには、タイミングが大切です。売上や利益が少なかったり、事業の成長性が低かったりすると企業価値が下がり、会社売却の価格も低くなる傾向にあります。

事業が成長しきっているタイミングも良くありません。今後の成長は見込めず、高額での売却は望めないでしょう。売却に良いタイミングは、業績が好調な時期です。成長を続け、今後も会社の価値が上がると予想される時期を選ぶとよいでしょう。

また、景気の低迷などで業績が悪化し始めている場合は、会社の価値がさらに下がってしまう前に売却を考えることをおすすめします。

シナジー効果が見込める買い手企業を見つける

シナジー効果が見込める買い手企業を見つけることも、成功のポイントです。買い取ることで期待できるシナジー効果を説明すれば、相場よりも高い価格で売却できる可能性があります。

シナジー効果の内容はさまざまで、主に以下のように分類できます。

  • 売上アップ:販売チャネルの強化、新規顧客の増加など
  • コストダウン:製造・物流のコスト削減など
  • 研究開発:開発投資力の強化・促進など
  • 人材確保:優秀な人材の承継など
  • 財務強化:財務基盤の安定、投資の効率化など

シナジー効果を与えられそうな買い手候補を見つけ、成長戦略についてしっかり説明できるよう準備しておいてください。

M&A仲介業者を利用する

「会社売却の経験がないから何から始めたらいいのか分からない」という方がほとんどだと思います。もう少し知識をつけてから検討しようと考えているうちに、気づいたら数年が経ってしまったというケースも多いことでしょう。M&Aが経営戦略の一つとしてM&Aが、M&Aの仲介業者に相談してみるのがおすすめです。レバレジーズM&Aアドバイザリーでは、IT/Web・建設・製造業などの各領域での支援実績があります。「まずは話だけでも聞いてみたい」という経営者の方も、お気軽にご相談ください。

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まとめ

会社売却には後継者不在の悩みを解消し、シナジー効果で会社を成長させるなどさまざまなメリットがあります。従業員の雇用継続も期待できるでしょう。会社売却を成功させるには、自社の財務状況を正確に把握し、アピールポイントを明確にするなどがポイントです。良い条件で売却するため、タイミングも重視しなければなりません。

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