このページのまとめ
- 会社売却とは、会社の事業のすべてもしくは一部を第三者に譲渡して対価を得ること
- 会社売却の主なメリットは、会社を存続させて雇用を維持できる点など
- 会社売却の主なデメリットは、競業避止義務を負う可能性がある点など
- 会社売却には、株式譲渡が用いられることが一般的
- 会社売却を決断しても、すぐに相手先が見つかるとは限らない点に注意が必要
後継者不在を解消するための手段として会社売却を検討するにあたって、「どのように進めればよい?」と気になっている方もいるのではないでしょうか。一般的に、会社売却には、株式譲渡や株式交換などの手法を用います。
本記事では、会社売却の手法や流れを詳しく解説しています。会社売却のメリットとデメリットや、事例も紹介するので、ぜひ参考にしてください。
目次
会社売却とは
一般的に、会社売却とは、会社の事業のすべてもしくは一部を第三者に譲渡し、対価を得ることです。「Mergers(合併)and Acquisitions(買収)」の略で、会社の売買を指すM&Aも、会社売却と同じような場面で使われます。
会社売却を選択する目的は、事業リスクの軽減や新規事業の立ち上げのための資金調達などさまざまです。とくに中小企業の場合、後継者不在の課題を解消するために会社売却の手段を検討することもあります。
会社売却の現状と動向
近年、中小企業を中心に会社売却が増加傾向にあります。以下に、中小企業庁の「2021年版中小企業白書」に記載されている、2011年から2020年まで10年間のM&A件数(株式会社レコフデータ調べ)の推移をまとめました。
2011年 | 2012年 | 2013年 | 2014年 | 2015年 | 2016年 | 2017年 | 2018年 | 2019年 | 2020年 | |
M&A件数 | 1,687 | 1,848 | 2,048 | 2,285 | 2,428 | 2,652 | 3,050 | 3,850 | 4,088 | 3,730 |
2011年時点で1,687件だったM&A実施件数が、2020年にはその2倍以上の3,730件まで増加しています。
上記データは大企業も含む全体の数字ですが、以下の表にある事業引き継ぎ支援センターの相談社数、成約件数の推移も増加傾向にあるため、中小企業においてもM&A件数が増加していることがわかるでしょう。
2011年 | 2012年 | 2013年 | 2014年 | 2015年 | 2016年 | 2017年 | 2018年 | 2019年 | 2020年 | |
事業承継センターの相談社数 | 250 | 994 | 1,634 | 2,894 | 4,924 | 6,292 | 8,526 | 11,477 | 11,514 | 10,611 |
事業承継センターの成約件数 | 0 | 17 | 33 | 102 | 209 | 430 | 687 | 923 | 1,176 | 1,234 |
中小企業で経営者の高齢化や後継者不足といった課題を抱えていることが、増加要因のひとつとして挙げられます。高齢化や後継者不足で廃業すると従業員や取引先に迷惑をかけるため、経営者がM&Aで第三者に引き継ぐことを検討していることが考えられるでしょう。
また、経営者のM&Aに対する意識の変化もM&A(会社売却)の件数が増加している要因として考えられます。なぜなら、中小企業庁の「2021年版中小企業白書」の「10年前と比較したM&Aに対するイメージの変化」で、経営者が「プラスのイメージになった」と回答する割合が買収・売却いずれでも「マイナスのイメージになった」を大きく上回っているためです。
参照元:中小企業庁「2021年版 中小企業白書(HTML版)第2-3-51図、第2-3-52図」
会社売却を選択するメリット
会社売却を選択するメリットは、主に以下のとおりです。
- オーナー経営者は譲渡益を得られる
- 会社を存続させて雇用を維持できる
- 経営者の個人保証を解除できる場合がある
- シナジーによる会社の成長を期待できる
ここから、各メリットを解説します。
オーナー経営者は譲渡益を得られる
会社を売却すれば、オーナー経営者が譲渡益を得られる可能性がある点がメリットです。株式譲渡のスキームで会社を売却した場合、対価は売り手(会社)ではなく、売り手の株主が受け取ります。
オーナー経営者は会社売却をきっかけに経営から退いたとしても、受け取った対価を元手に新たに事業を始めたり、老後の生活資金にあてたりできるでしょう。また、事業関連で借金を抱えている場合は、返済にまわせます。
会社を存続させて雇用を維持できる
会社を存続させて、雇用を維持できる点も会社売却を選択するメリットです。
親族や従業員の中に会社を継ぎたいと考える人がいない場合や、経営の素質がある人が見当たらない場合は、廃業も選択肢に入れなければならないでしょう。そこで、会社売却を決断すれば、第三者に会社を託すことで、廃業せずに事業を継続できます。
その結果、得意先に迷惑をかけず取引を続けたり、従業員の雇用を守ったりできるでしょう。また、自分が愛着を持っている会社をなくさずにすみます。
経営者の個人保証を解除できる場合がある
会社売却により、経営者の個人保証を解除できる場合がある点もメリットとして挙げられます。個人保証とは、中小企業が銀行などの金融機関から融資を受ける際、経営者が連帯保証人になる仕組みのことです。
会社を売却してから金融機関で所定の手続きを踏むことで、個人保証を解除できます。ただし、買い手や金融機関が個人保証の解除に同意しない場合、手続きが困難なこともある点に注意が必要です。
シナジーによる会社の成長を期待できる
売り手と買い手のシナジー効果を発揮することにより、自社のさらなる成長を期待できる点も会社売却のメリットとして挙げられます。シナジー効果とは、複数の部署や会社が連携したり協力したりすることで、それぞれが単独で活動したとき以上(1+1=2以上)の効果を創出する作用のことです。
たとえば、会社売却後に元々の売り手側と買い手側が互いにアイデアを出すことで、業務の効率化につながる可能性があります。また、買い手がより規模の大きい会社であれば、リソースを活用できるでしょう。
会社売却を選択する際のデメリット
会社売却を選択するデメリットは、以下のとおりです。
- 競業避止義務を負う
- 売却後も現経営者の自由が制限される場合がある
- 従業員・取引先を不安にさせることがある
それぞれ解説します。
競業避止義務を負う
競業避止義務を負う可能性がある点が、会社売却を選択する際の主なデメリットとして挙げられます。
競業避止義務とは、特定の人物や会社が一定期間・範囲で、ある会社と競業する業務を営むことを禁じることです。契約内容に売り手が対象会社と競合する業務を営むことを禁止した規定が盛り込まれていると、会社売却後の新規事業立ち上げに支障が出ることがあります。
また、事業譲渡の手法で売却を選択する場合は、会社法で競業避止義務が明記されている点に注意が必要です。会社法第21条第1項には、同一の市町村区域内や隣接する市町村区域内で、事業譲渡した会社が譲渡日以降20年間同一事業を営むことを禁じる規定が設けられています。
なお、当事者間で別段の意思表示をした場合は、期間などを変更可能です。
参照元:e-Gov法令検索「会社法第二十一条」
売却後も現経営者の自由が制限される場合がある
会社売却以降引き続き、現在の経営者の自由が制限されることがある点もデメリットです。キーマン条項(ロックアップ)が契約書に定められていると、現経営者は引き続き対象会社で一定期間働かなければなりません。
キーマン条項とは、対象会社の事業継続に必要な役職員が一定期間退職しないことを約束させる条項です。M&A実施後に重要な人物が会社を去り、経営がうまくいかなくなることで買い手が不利益を被ることを防ぐために設けられます。
キーマン条項が設けられていると、会社売却してもしばらくは悠々自適のリタイア生活を送ることは難しいでしょう。
従業員・取引先を不安にさせることがある
従業員や取引先を不安にさせることがある点も、会社売却のデメリットとして挙げられます。
すでに説明したとおり、会社売却はシナジー効果による成長を狙うなど、前向きな目的で選択されることもある手段です。しかし、一部では会社売却をネガティブなイメージでとらえる人もいるでしょう。
交渉段階で会社売却の情報が漏れてしまうと、従業員や取引先からの信頼を失いかねません。交渉段階ではくれぐれも情報の取り扱いに注意し、来るべき日が訪れたら従業員や取引先に丁寧に説明することが大切です。
会社売却・M&Aの具体的な手法
M&Aにはさまざまな手法が存在します。とくに会社売却に用いられる手法の特徴について、以下にまとめました。
スキーム | 概要 |
株式譲渡 | 一般的に、売り手株主が買い手から対価として現金を受け取ることと引き換えに株式を譲渡することで、経営権を移転させる |
株式交換 | 売り手が買い手に全発行済株式を譲渡し、対価として買い手の発行済株式を受け取る |
会社分割(吸収分割・新設分割) | 売り手が営む事業の一部、またはすべての事業をほかの企業(買い手)に承継し、一般的に対価として株式を受け取る |
事業譲渡 | 売り手の事業の一部もしくは全部を買い手に譲渡し、対価として現金もしくは株式などを受け取る |
ここから、それぞれの内容と売り手が受けるメリット、デメリットを詳しく解説します。
株式譲渡
株式譲渡とは、売り手の株主が保有する株式を買い手へ譲渡することにより、売り手の経営権を承継させる方法です。売り手の株主は株式の譲渡と引き換えに対価を受け取ります。
株式譲渡のメリットは、手続きが比較的簡単な点です。一方で、株主が譲渡を決断しなければ、会社売却を実施できない点がデメリットとして挙げられます。
株式交換
株式交換とは、売り手(完全子会社となる会社)が全発行済株式を買い手(完全親会社となる会社)に取得させる方法です。同時に、売り手は買い手の発行済株式を受け取ります。
買い手の株式を取得できるため、インカムゲイン・キャピタルゲインを期待できる点や、買い手の経営に一定の影響を与えられる点がメリットです。一方、株式で受け取るため、売り手のオーナー経営者はすぐに現金化できない点がデメリットとして挙げられます。
会社分割
会社分割とは、売り手(分割会社)が営む事業の一部もしくはすべてをほかの企業に承継させる方法です。
会社分割は、新たに設立した法人に事業を承継させる「新設分割」と、既存の法人に事業を承継させる「吸収分割」に分けられます。また、対価を分割会社が受け取るか(分社型)、分割会社の株主が受け取るか(分割型)によってもさらに分類可能です。
会社分割により会社売却すれば、不採算事業を切り離して経営改善を図りやすい点が主なメリットとして挙げられます。一方で、一部の従業員が別の会社に移ることで連携しにくくなる点や、株式で対価を受け取ると現金化しにくくなる点がデメリットです。
事業譲渡
事業譲渡とは、売り手が事業の全部または一部を買い手に譲り渡すことです。株式譲渡と異なり、会社の経営権自体は移転しないため、オーナー経営者は引き続き経営に携われます。
選択と集中で不採算事業などを切り離すことにより、経営資源を集中させられる点も、事業譲渡を選択するメリットです。一方で、個別に手続きが必要な分手間がかかる点や、競業避止義務が法律で定められている点などがデメリットとして挙げられます。
なお、会社法上の組織再編にあたらない点が、会社分割との違いです。そのため、会社分割では資産・負債をまとめて引き継ぐのに対し、個別的な取引である事業譲渡では引き継ぐ資産・負債を選別できます。
会社売却する際の手続きの流れ
以下に、会社売却する際(M&A)の手続きの流れをまとめました。
売り手企業(譲渡側) | 買い手企業(譲受側) | |
検討・準備フェーズ | アドバイザーへの相談 | |
1. ニーズの発生・M&Aの検討 | ||
2. M&A業者の選定・契約 | ||
3. 秘密保持契約の締結 | ||
4. アドバイザーとの面談 | ||
5. 企業価値評価 | ||
マッチング・交渉フェーズ | マッチング | |
6. ロングリストの作成 | ||
7. ショートリストの作成 | ||
8. ノンネームシートの作成 | ||
9. ネームクリアの検討 | ||
トップ面談・条件交渉 | ||
10. 秘密保持契約書の締結 | ||
11. 企業概要の提示 | ||
12. 企業価値評価・スキームの絞り込み | ||
13. トップ面談 | ||
14. 条件の交渉 | ||
15. 意向表明書の提出 | ||
16. 基本合意書の締結 | ||
最終契約フェーズ | 最終契約の締結 | |
17. デューデリジェンスの実施 | ||
18. 最終条件の交渉 | ||
19. 最終契約書の締結 | ||
20. クロージング |
ここから、会社売却手続きで必要となる主な作業をピックアップして解説します。
M&A業者の選定・契約
会社を売却する目的を整理したら、M&A業者を選定して契約します。M&A仲介会社の代表例が、M&A仲介会社です。
一般的に、M&A仲介会社には手続きのサポートや候補先探しなどを依頼します。依頼する会社を選定するにあたって、自社の業種におけるM&A実績がある会社や、多数の専門家を抱えている会社を選ぶことがポイントです。
企業価値評価やノンネームシートの作成など
M&A業者との契約や秘密保持契約の締結などを終えたら、アドバイザーと面談して企業価値評価やロングリスト・ショートリストを作成します。
ロングリストやショートリストの作成は、候補先を選定する際に必要な作業です。ロングリストは会社売却の相手になりうる候補先を網羅したリスト、ショートリストはロングリストに掲載した会社を特定の条件に基づき絞り込んだリストを指します。
また、事業内容や売上規模などをまとめたノンネームシートの作成も重要です。ノンネームシートには、自社が特定されるような情報を盛り込みません。
ネームクリア
ノンネームシートを買い手候補先に提示したら、ネームクリアを検討します。ネームクリアとは、ノンネームシートで提示した会社の実名を相手に知らせることです。
自社の機密情報が漏洩するリスクが生じるため、ネームクリアすべきかは慎重に判断しなければなりません。また、リスクを軽減するため、ネームクリアする場合は買い手候補先と秘密保持契約を締結することも大切です。
トップ面談
ネームクリア後、双方前向きな姿勢を示す場合は、トップ面談を実施します。トップ面談とは、売り手と買い手の経営者が直接面談することです。
トップ面談では、相手側の経営者の人となりや企業風土、ビジネスモデルなどを理解することなどに時間を費やします。また、面談場所を自社(売り手のオフィスや工場など)に設定すれば、強みをよりアピールできるでしょう。
基本合意書の締結
トップ面談実施後に細かな条件面の交渉を進め、まとまったら基本合意書を締結します。基本合意書に盛り込む主な内容は、以下のとおりです。
- 独占交渉権の付与
- 秘密保持義務
- 用いるM&Aのスキーム
- 価格
- スケジュール
- 対象会社の役員についての処遇
- 辞任する場合の退職慰労金の有無
また、状況によって以下の項目を盛り込むケースもあります。
- 従業員の雇用維持
- 退任する役員の引継ぎ
- 取引先からの承諾の取得
- 不動産の売買
- 役員借入金の返済
なお、基本合意書には法的拘束力を持たせないことが一般的です。ただし、独占交渉権の付与や秘密保持義務に限り、法的拘束力を持たせることはあります。
買い手によるデューデリジェンスの実施
基本合意書の締結後、買い手がデューデリジェンスを実施します。
デューデリジェンスとは、売り手の価値や評価を専門家が調査・分析することです。デューデリジェンスで売り手の問題が発覚した場合は、当初の評価額に影響を及ぼす可能性があります。また、デューデリジェンスにあたって、売り手は買い手から依頼された資料を提示したり、インタビューに答えたりしなければなりません。
デューデリジェンスを実施することで買い手が対象企業とのシナジー効果を見出すこともあります。シナジー効果とは、複数の企業や部門が結びついて1 + 1=2以上の効果を発揮することです。買収後のシナジー効果を見極めるためには、各企業の戦略や文化などを把握することが欠かせません。
デューデリジェンスには以下のようにさまざまな種類があります。
デューデリジェンスの種類 | 概要 |
財務デューデリジェンス | 対象企業の業績・収益性や簿外債務の有無などを分析する |
法務デューデリジェンス | 対象企業の過去の法令違反や現在進行中の訴訟の有無などを分析する |
税務デューデリジェンス | 対象企業が適切に納税しているか、税務調査で指摘を受けていないかなどを確認する |
ビジネスデューデリジェンス | 対象企業と競合する企業や、属する市場環境などを分析する |
なお、種類によってデューデリジェンスを担う専門家が異なります。
最終契約書の締結・クロージング
デューデリジェンスの結果を考慮したうえで条件面や金額面を再度交渉し、双方が合意すれば最終契約書を締結します。最終契約書に盛り込む項目は、基本契約書の内容に加え、表明保証やクロージング条項などです。
最終契約の締結後、クロージングに入ります。クロージングで実施することは、買い手から売り手株主への対価の支払いや、売り手株主から買い手への株式の譲渡などです(株式譲渡を選択した場合)。
また、契約成立後、従業員や取引先などに会社売却の事実を公表します。
(PMI)
クロージング後も、買い手側を中心にPMI(ポストマージャーインテグレーション)の作業が必要です。PMIとは、会社売却後の統合プロセスを指します。
PMIは、会社売却後スムーズに統合するために欠かせません。具体的には、組織文化の統合や業務プロセスの統合、人事の統合などがあります。
なお、売り手の経営者が自社の従業員にあらかじめ会社売却の統合について丁寧に説明しておくことが、スムーズな統合にもつながるでしょう。
会社売却の価格算定に使われる方法
会社売却の価格算定には、インカムアプローチ・マーケットアプローチ・コストアプローチが使われます。それぞれの特徴やメリットとデメリットを以下にまとめました。
方法 | コストアプローチ | インカムアプローチ | マーケットアプローチ |
特徴 | 企業の純資産を主軸とする | 企業の将来的な現金のフローを主軸とする | 類似する上場企業の情報などを基にする |
メリット | ・客観的な評価を下しやすい | ・将来性を盛り込める ・シナジー効果(相乗効果)を考慮できる ・不動産売買などにも活用できる | ・客観的な評価を期待できる ・情報を入手しやすい |
デメリット | ・帳簿が適正に作成されていないと、正確な企業価値の反映が困難・企業の将来性を反映できない | ・主観的な判断が入りやすい ・将来のリスクを反映させにくい ・会社の解散清算が決まっているケースなどでは利用できない ・フリーキャッシュフローがマイナスだと利用できない ・計算が複雑 | ・類似する業者や取引の存在が必要 ・非上場企業では使えない可能性がある ・インカムアプローチと比べると企業の将来性を反映しにくい |
それぞれの内容を説明します。
コストアプローチ
コストアプローチとは、貸借対照表の純資産を基準として価格を算定する方法です。具体例として、簿価純資産法や時価純資産法、時価純資産法に営業権を加える方法などが挙げられます。
コストアプローチを用いる主なメリットは、客観性が高い点です。一方で、売り手の将来の収益や成長性などを考慮できない点がデメリットとして指摘されています。
コストアプローチを用いる主なケースは、中小企業の売却や、事業の清算などです。
インカムアプローチ
インカムアプローチとは、将来見込まれる収益に注目して価格を算定する方法です。具体例として、DCF法や配当還元法などが挙げられます。
会社売却にインカムアプローチを採用するメリットは、売り手の将来性を考慮できる点です。一方で、将来性を予測するための評価が人によって異なるため、客観的な判断がしにくい点がデメリットとして挙げられます。
インカムアプローチを用いる主なケースは、大手企業の売却です。成長性を期待できるスタートアップにも、インカムアプローチが使われることがあります。
マーケットアプローチ
マーケットアプローチとは、対象企業と類似する企業や取引に注目し、価格を算定する手法です。具体例として、類似企業比較法や類似取引比較法などが挙げられます。
マーケットアプローチを用いるメリットは、客観性のある評価がしやすい点や、市場の価格動向を反映できる点です。一方で、類似企業が見つからない場合に価格算定が困難である点がデメリットとして挙げられます。
マーケットアプローチは、主に上場企業で使われる手法です。また、上場している同業者に比較しやすい企業がある場合も、マーケットアプローチを使うことがあります。
会社売却時の注意点
会社売却時の注意点は、主に以下のとおりです。
- すぐに売却先が見つかるとは限らない
- 希望価額で売却できない場合もある
- 売却益に対して税金がかかる
それぞれ解説します。
すぐに売却先が見つかるとは限らない
会社売却を決断しても、すぐに売却先が見つかるとは限らない点に注意しましょう。自社に興味を持つ会社がいくつもあったとしても、従業員の雇用など各種条件で折り合いがつかない可能性があります。
また、双方の希望が合致してからも、各種手続きに時間がかかる点に注意が必要です。会社売却を決断してから成約に至るまでに、1年かかる可能性がある点を理解しておきましょう。
希望価額で売却できない場合もある
買い手が望む金額と乖離していて、希望価額で売却できない可能性もある点にも注意が必要です。企業価値評価の額は、どのアプローチを用いるかによって異なります。
また、買い手が自社に対して企業価値評価で高い額を算出していても、その額で売却できるとは限りません。なぜなら、デューデリジェンスの結果次第で大幅に減額されることがあるためです。
売却益に対して税金がかかる
会社売却の際に発生した利益に対して、税金がかかる点にも注意しましょう。
一般的に、会社売却では譲渡所得が発生します。国税庁の「No.1440 譲渡所得(土地や建物を譲渡したとき)」によると、譲渡所得の計算式は以下のとおりです。
課税譲渡所得金額 = 収入金額 − (取得費 + 譲渡費用) − 特別控除額 |
そのため、会社売却により得た金額が取得費・譲渡費用・特別控除額を上回っていれば、基本的に税金がかかります。オーナー経営者が会社売却で得た資金を、新規事業の立ち上げやリタイア後の生活資金にあてることを検討している場合は、税金の額も考慮しなければなりません。
参照元:国税庁「No.1440 譲渡所得(土地や建物を譲渡したとき)」
会社を高値で売却するコツ
会社を高値で売却するコツは、以下のとおりです。
- 自社の強みや弱みを理解する
- 売却のタイミングを見極める
- 優先順位を決めておく
- 株式の分散を防ぐ
それぞれ解説します。
自社の強みや弱みを理解する
会社を高値で売却するには、自社の特徴を理解することが大切です。自社のことをよく理解していれば、何をどのようにアピールすればよいか、判断できるでしょう。
とくに理解しておきたい項目が以下の点です。
- 自社の強み(弱み)・機会(脅威)
- 自社が占める市場シェア
- 自社の成長性
自社を理解する際に役立つ手法として、SWOT分析が挙げられます。SWOT分析とは、 Strength(強み)・Weakness (弱み)・Opportunity (機会)・Threat(脅威)を把握する手法のことです。
「強み」では自社にはどのような他社にない経営資源があるのか、その反対に「弱み」では他社にあって自社にないものはなにかを考えます。また、「機会」は自社にとってプラスになる環境・状況はなにか、その反対に「脅威」は自社にとってマイナスになる環境・状況は何かを理解することです。これらを分析することにより、自社が抱える課題や改善点を明らかにできます。
そのほか、どの会社であれば自社のよさを理解してもらえるのかを考えることも、会社を高値で売却するうえで重要です。
売却のタイミングを見極める
タイミングを見極めることも、会社を高値で売却するコツです。時期によって、売却のしやすさ、価格などに変化が生じます。
たとえば、自社の業績が好調なときは、高値での売却を期待できるタイミングです。一方、業績が不調だと、買い手が見つからない可能性もあります。
また、好景気のときは買い手の資金力を期待できる分、高値で売却できる可能性も高まるでしょう。
優先順位を決めておく
優先順位を決めておくことも、大切なポイントです。
交渉がうまくまとまらないと、慌てて売却しようとして相場より低い価格で売却してしまう可能性があります。そこで、会社売却はスムーズに進めなければなりません。
従業員の待遇や売却金額など、会社を売却するうえで何が大切なのかを明確にしておけば、交渉をスムーズに進められるでしょう。
株式の分散を防ぐ
対象会社の株式がさまざまな株主に分散されている場合、あらかじめ1か所にまとめておくことが会社売却を成功させるために欠かせません。
株式が分散していると、買い手から懸念されたり、手間がかかったりしてなかなか成約に至らない可能性があります。議決権が分散しているため、複数の株主を説得しなければ会社を売却できないことが主な理由です。
赤字・業績不振の会社が売却を成功させる方法
赤字の会社や、長年業績不振が続く会社でも、売却できる可能性はあります。なぜなら、赤字の会社を買収することに関心を持つ買い手もいるためです。
しかし、業績が好調な会社と比べると、当然売却相手を探すことは難しいことを覚悟しておかなければなりません。そこで、買い手の候補先に対して成長性や黒字化を見込めること、シナジー効果を創出する可能性があること、ノウハウや優秀な人材を有することなどをアピールすることが大切です。
会社売却の事例
会社売却の主な事例は、以下のとおりです。
- ロッテリアのゼンショーへの会社売却
- シマの大東建託への会社売却
- エーワンのソフマップへの会社売却
それぞれ解説します。
ロッテリアのゼンショーへの会社売却
2023年2月、株式会社ゼンショーホールディングス(以下、ゼンショーHD)は、100%子会社である株式会社ゼンショーファストホールディングスが株式会社ロッテリア(以下ロッテリア)の全株式を取得することを発表しました。
ロッテリアは日本で358店舗(2023年1月1日時点)を有するファストフードチェーンストアです。ゼンショーHDは、食材調達や店舗運営機能などの面でシナジー効果を期待できると判断し、株式取得を決断しています。
参照元:株式会社ゼンショーホールディングス「株式会社ロッテリアの株式取得に関するお知らせ」
シマの大東建託への会社売却
2023年6月、大東建託株式会社(以下、大東建託)が株式会社シマ(以下、シマ)の発行済全株式を取得することを発表しました。
シマは、関西圏を中心に物流施設や福祉施設、公営住宅などの建築を手がける総合建設会社です。大東建託は、グループが持つ営業ネットワークや技術力・ノウハウと、シマの施工能力や営業基盤・人材などの経営資源を掛け合わせることで、それぞれの事業拡大につながると判断し、株式取得を決断しました。
参照元:大東建託株式会社「非住宅分野・公共事業領域における建設領域の拡大 株式会社シマの株式取得に関するお知らせ」
エーワンのソフマップへの会社売却
2023年12月、株式会社ビックカメラ(以下、ビックカメラ)が子会社の株式会社ソフマップ(以下、ソフマップ)を通じて株式会社エーワン(以下、エーワン)の株式を取得し、孫会社化することを発表しました。
エーワンは、関東・関西地方やECサイトで、業務用機器のリユース事業を展開する会社です。一方、ビックカメラの子会社であるソフマップは、デジタル機器やソフト、アニメグッズの販売などを主に営んでいます。
ビックカメラは、リユース商材を取り扱うエーワンの孫会社化に伴い、シェアの拡大や仕入れ拡充に伴うシナジー効果の創出などを期待しているとのことです。
参照元:株式会社ビックカメラ「当社連結子会社による株式会社エーワンの株式取得(孫会社化)に関するお知らせ」
まとめ
会社売却とは、会社の事業のすべてもしくは一部を第三者に譲渡し、対価を得ることです。近年、中小企業を中心に会社売却が注目されています。
会社売却を選択する主なメリットは、オーナー経営者が譲渡益を得られる点や、会社を存続させることで従業員の雇用を維持できる点などです。一方で、競業避止義務を負うことがある点や、売却後も経営者の自由が制限されることがある点がデメリットとして挙げられます。
会社売却を決断しても、希望通りの価額でスムーズに売却できるとは限りません。そこで、自社の特徴を理解したり、実績のあるM&Aの専門家に相談したりすることが大切です。
レバレジーズM&Aアドバイザリー株式会社には、各領域の専門性に長けたコンサルタントが在籍しています。また、M&Aのご成約まで一貫したサポートを提供できる点も特徴です。
会社売却を検討している方は、ぜひレバレジーズM&Aアドバイザリー株式会社にご相談ください。