事業譲渡で契約は承継される?承継の手続き方法と注意点を解説

2024年6月4日

事業譲渡で契約は承継される?承継の手続き方法と注意点を解説

このページのまとめ

  • 事業譲渡では譲渡を行うのは事業のみであり、会社は存続できる
  • 買い手側は買収したい事業を選べる点が大きな利点である
  • 承継したい対象に対してそれぞれ手続きが必要なため手間が大きい
  • スムーズかつ確実な事業譲渡のため専門家に相談しながら進めるのが安心

契約は、一度を締結すれば、その契約にしたがって様々な制約が発生します。事業継承する場合に、既に締結している契約は承継されるのか気になる経営者の方もいることでしょう。契約回りの承継の有無を知らずに事業譲渡を行うと、のちに大きなトラブルに発展するケースもあります。そこで今回は、事業譲渡で安全に承継するための方法を契約面に関する注意点と合わせて解説します。

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事業譲渡とは

事業譲渡とは、会社の一部もしくは全部の事業を第三者に譲渡することです。譲渡対象となるのは事業に関する資産・負債・その他付随する契約等であり、会社の事業用資産や株式などの譲渡は行いません。

事業譲渡は、譲渡対象の事業を自由に選択することが可能です。売り手側は事業のみを譲渡し会社は存続できる、買い手側は買収したい事業を選び会社の債務を引き継ぐ必要はないなど、さまざまなメリットがあります。一方、一括での譲渡ができず、一つ一つ手続きが必要であるため、株式譲渡に比べて手間が大きいというデメリットがあります。

特定の事業のみを移転したい場合や、株式譲渡では買い手が見つからない場合などに活用されます。

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事業譲渡で契約も承継される?

事業譲渡は事業に関する資産や負債だけでなく、取引先や従業員と結んでいる契約も譲渡対象になります。リース契約やサーバーの使用に関する契約など、事業に関する契約は全て譲渡対象になります。

中でも事業譲渡で契約が承継されるものは、

  • 債務
  • 売掛金
  • 買掛金
  • 雇用契約
  • 不動産契約
  • 地位
  • 許認可
  • 取引先契約

などがあります。基本的に事業譲渡を行う買い手と売り手双方が同意の上で事業の一部か全てかが決まります。

しかし、同意がない部分の契約は、承継されないため注意が必要です。

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事業譲渡で承継するための手続き

大前提として、事業譲渡では事業に関する各種契約も譲渡対象ではありますが、確実に承継できるとは限りません。契約の相手方との交渉や、新たな契約の締結などが必要です。債権・債務についても、契約の当事者と別途契約を行う必要があります。

また、事業譲渡は一括で全てのものが譲渡できるのではなく、承継したい対象に対してそれぞれ手続きが必要です。そのため、株式譲渡のような包括承継に比べて必要な手続きが多いのです。

ここでは、事業譲渡における手続きについて、承継する対象ごとに解説します。

債務の承継手続き

債務には買掛金や支払手形などの種類がありますが、ここでは金融機関等からの借入金に絞って解説します。

債務を承継するためには、契約上の地位の移転が必要です。契約上の地位の移転では、単に債務を移転するだけでなく、契約者としての地位そのものも移転します。事業承継を受ける側が債務の契約者となります。契約の相手方である金融機関との契約を更改する必要があります。

売掛金の承継手続き

相手方(債務者)に対する債権譲渡の通知のみで問題ないケースもあります。継続的な取引を前提とした契約である場合、相手方の同意の上で契約上の地位の移転が必要です。

売掛金をどこまで承継するかを明確にすることも必要です。特に仕掛中の契約について、譲渡者と譲受者のどちらが契約を完了させるか、どちらが売掛金を受け取るかをしっかりと決める必要があります。事業譲渡の価額に影響を与える部分でもあるため、専門家のサポートを受けて正確に定めるのが安心です。

買掛金の承継手続き

買掛金の承継手続きとして、免責的債務引受契約が必要です。免責的債務引受契約によって債務が譲受会社に移転します。免責的債務引受契約を締結するためには、債権者である契約の相手方の同意が必要です。

買掛金の承継について債権者側の同意を得られない場合、譲渡会社と譲受会社のそれぞれが債務を引き受ける状態となります。譲受会社は当初の債務者である譲渡会社と同等の債務を負担するイメージです。

このように、当初の債務者と引受人が同等の債務を負う状態(連帯債務を負う状態)を「重畳的債務引受」と呼びます。

従業員雇用契約の承継手続き

労働契約の相手方が譲受会社に変わることについて、従業員それぞれ個別に承諾を得る必要があります。未払給与や未払賞与などがある場合、譲受会社が承継するか否かの明確化が必要です。

なお、事業譲渡後も対象の事業に携わる場合、従業員は譲渡会社を退職し、譲受会社に入社するとイメージしてください。そのため、事業譲渡のタイミングで退職金の支払いを実施するケースも少なくありません。

不動産契約の承継手続き

不動産の賃貸借契約は債務や売掛金と同様に、契約上の地位の移転が必要です。

不動産契約の承継手続きでは単純な賃貸借契約だけでなく、保証金の扱いも明確化する必要があります。保証金の扱いは、以下2通りです。

  • 旧賃借人である譲渡会社が保証金の返還を受け、新賃借人である譲受会社が改めて保証金を支払う
  • 保証金の返還請求権も譲渡会社に承継する

譲渡会社・譲受会社間での交渉だけでなく、契約の相手方である賃貸人の意向にも沿う必要があります。

取引先との契約の承継手続き

相手方の承諾を得た上で、取引先ごとに契約上の地位の移転が必要です。事業譲渡に譲受会社が安定した事業を進められるよう、譲渡会社側は契約上の地位の移転について相手方と交渉し、承諾を得る必要があります。

許認可の承継手続き

許認可とは、特定の事業を行う際に取得する必要のある許可のことです。許認可が必要と定められた事業を無許可で行うと罰則を科される可能性があります。許認可が必要な事業の例は、不動産業・人材紹介業・旅行業などです。

事業譲渡の場合、事業に必要となる許認可の引継ぎが原則できません。そのため、事業譲渡の完了後、譲受企業側が改めて許認可の取得手続きを行う必要があります。

しかし、以下の6種類の許認可に関しては、特例で承継できます。

  • 旅館業
  • 建設業
  • 一般旅客自動車運送事業
  • 一般貨物自動車運送事業
  • 火薬類製造業・火薬類販売業
  • 一般ガス導管事業

ただし、事業譲渡側もしくは事業承継側のどちらかが大企業の場合には、対象とならない点には注意が必要です。

知的財産権の承継手続き

知的財産権とは、特許権や意匠権など、創作者の財産保護を目的とした権利です。商標権のように営業上の標識に関する権利も知的財産権に含まれます。

事業譲渡を実施しても、関連する知的財産権が譲受会社に自動で承継されるわけではありません。知的財産権の承継を行うためには特許庁への申請手続きが必要です。

なお、必ずしも知的財産権の全てを譲渡するわけではなく、使用権を限定するケースもあります。

のれんの承継手続き

のれんは、譲渡資産の時価と事業譲渡価額の差額部分です。事業が有するブランド的価値・非金銭的な資産であり、超過収益力とも表現されます。譲渡対象となる事業の収益力が高いほど、のれんの価額も高くなります。

のれんは特別な承継手続きというよりは、買い手と売り手の交渉によって決まる面が強いです。ただし、算定方法が複数ある上に複雑であり、交渉でトラブルになりやすい部分でもあるため、専門家のサポートを受けることをおすすめします。

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事業譲渡をする際の5つの注意点

事業譲渡をする際の主な注意点は、以下の5つです。

  • いかに事業の価値を維持したまま承継するかが重要!
  • 一部を譲渡する際は対象と対象外を明確にする
  • 事業譲渡の対価は合理的な方法で算出する
  • 印紙を貼り忘れないように注意する
  • 専門家に相談しながら進める

それぞれ注意するべき理由や具体的なポイントについて解説します。

いかに事業価値を維持したまま承継するかが重要

事業譲渡では、いかに事業の価値を維持したまま承継できるかが重要です。

事業譲渡までに事業の価値が落ちていくと、譲渡価格が低く抑えられてしまうだけでなく、事業としての信頼を失う恐れが大きいです。取引先や金融機関からの印象が悪化するのはもちろん、従業員の雇用を守れなくなる可能性も生じます。

事業の価値を維持・向上させるためには、利益率の向上や事業の利点を伸ばす施策が必要です。譲渡対象となる事業について、買い手から高い評価を得られるような状態を作りましょう。

一部を譲渡する際は対象と対象外を明確にする

事業譲渡において譲渡するものとしないものの明確化が必要です。

会社の事業全部や、事業に関する資産・負債・契約等の全てを譲渡するのであれば特に問題ありません。しかし、一部譲渡の場合、譲渡対象・譲渡対象外それぞれを契約書で明確にしておく必要があります。曖昧な状態では双方の認識に相違が生まれやすく、後にトラブルとなる恐れが大きいです。

手間のかかる部分ではありますが、スムーズな事業譲渡のためにも譲渡対象の明確化は必ず実施しましょう。

事業譲渡の対価は合理的な方法で算出する

事業譲渡の対価を合理的な計算方法で算出することも大切です。不合理な計算方法では実際の事業価値と相違が生まれる恐れが大きくなります。結果として、譲渡企業の債権者等からの詐害行為取り消し請求や、買い手からの損害賠償請求を受けるリスクが高まります。

しかし、非上場会社は価値算定の基準となる株価がありません。そのため、企業の価値を構成するさまざまな要素を考慮した総合的な判断・価値算定が必要です。

事業譲渡の対価の算出方法には複数の種類があり、それぞれメリット・デメリットや適した場面が異なります。複雑な計算が必要な上に高度な知識・理解も求められるため、専門家のサポートを受けるのが確実です。

印紙を貼り忘れないように注意する

事業譲渡契約書には、事業譲渡額に応じた額の収入印紙を貼る必要があります。収入印紙の貼り忘れによって契約が無効になるわけではありませんが、過怠税が課せられるので注意してください。

事業譲渡代金ごとに必要となる印紙代は以下の通りです。

事業譲渡代金印紙代
1万~10万円200円
10万円~50万円400円
50万円~100万円1,000円
100万円~500万円2,000円
500万円~1000万円10,000円
1000万円~5000万円20,000円
5000万円~1億円60,000円
1億円~5億円100,000円
5億円~10億円200,000円
10億円~50億円400,000円
50億円超600,000円

専門家に相談しながら進める

事業譲渡は必要な手続きが多岐にわたる上、専門知識が求められる場面もあります。トラブルのリスクを最小限に抑えつつ必要な手続きを確実に行うためには、専門家に相談しながら進めると安心です。

事業譲渡の相談先の例は、以下の通りです。

  • 公認会計士・税理士
  • 取引先金融機関
  • M&A仲介会社
  • 経営コンサルタント
  • 商工会・商工会議所
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まとめ

事業譲渡では譲渡を行うのは事業のみであり、譲渡対象となる資産や負債などを比較的自由に選別できます。売り手側は会社を存続でき、買い手側は買収したい事業を選べる点が大きなメリットです。

一方で、株式譲渡のような包括承継が行われず、承継したい対象に対してそれぞれ手続きが必要なため手間が大きい点がデメリットです。必要な手続きが多い上に複雑であるため、スムーズかつ確実な事業譲渡のためには専門家に相談しながら進めることをおすすめします。

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