このページのまとめ
- M&Aとは、企業の合併と買収を意味する言葉である
- M&Aの読み方は「エムアンドエー」で、「Merger and Acquisition」の略称
- M&Aは事業承継や従業員の雇用確保、ビジネス戦略などの手段として活用される
- M&Aの実施件数は増加し続けており、支援体制も充実してきている
- M&Aを成功させるためには、早めの着手や周到な準備などが大切
「M&Aとは?」と漠然とした疑問を抱いている経営者の方もいるのではないでしょうか。
M&Aとは簡単にいうと企業の合併と買収のことで、後継者問題の解決や経営戦略の手段として選択する経営者が増えています。
本コラムでは、M&Aの基本情報から実施する方法・フローまで、網羅的にわかりやすく解説します。また、M&Aのメリットや各スキームの詳細、成功のポイントも紹介します。
知識を深めて、M&Aへの第一歩を踏み出しましょう。
目次
M&Aとは?
M&A(エムアンドエー)とは「Merger and Acquisition」の略で、企業の合併と買収を意味する言葉です。
M&Aは主に、複数の会社が一つの法人になる合併(Merger)や、他社の事業・会社の経営権を取得する買収(Acquisition)を指します。
合併・買収のほか、提携をM&Aに分類することもあります。
M&Aの目的は、企業の成長戦略や後継者問題の解消、経営者のアーリーリタイアなど、さまざまです。
自社が持つ目的に合わせて、数多くあるM&Aのスキームから最適な手法を選択し、M&Aを実施します。
M&Aの歴史
近年盛んに実施されているM&Aですが、M&Aの歴史は戦前まで遡ります。
ここでは、戦前と戦後に分けてM&Aの歴史を紹介します。
戦前のM&Aの歴史
第二次世界大戦が終結する1945年よりも前のM&Aの歴史年表は、以下のとおりです。
出来事 | 詳細 |
紡績業界での再生型M&Aブーム | 19世紀末~20世紀初頭、中国やインドの台頭によって、日本の紡績業は苦境に立たされる。 これを受けて、紡績業界において再生型M&Aブームが起こる。 鐘淵紡績や富士紡績、王子製紙、東洋紡績(大阪紡績、三重紡績)などの紡績会社が、M&Aを活用して規模を拡大した。 |
電力業界での業界再編型M&Aが激化 | 20世紀前半、第一次世界大戦の特需や関東大震災後の電灯の普及などにより電気の需要が高まり、電力会社が乱立。その結果、ダンピング(不当廉売)競争が激化した。 激しい競争に打ち勝つための手段としてM&Aが選ばれ、業界再編型M&Aが活発化する。 800社を超えていた電力会社は、多数のM&Aを経て5社に集約されることとなった。 |
IPOと株式交換を活用したM&Aの活用 | 20世紀前半、経営破綻した企業の再生型M&Aが活発化する。 日本産業(日産)は株式交換・合併・再分離・IPOを活用する手法により、キャピタルゲインを資金にしてM&Aを繰り返し、「日本産業コンツェルン」という財閥を形成するまでに至った。 |
大型合併が活発化 | 20世紀前半、業界の大手による合併が活発化。 製鉄業界では、官営八幡製鐵所と6社の民間企業が合併を行い、日本製鐵が成立する。 製紙業界では、王子製紙が富士製紙と樺太工業を合併し、紙生産量について国内シェアの約8割を占める企業となる。 ビール業界では、日本麦酒・札幌麦酒・大阪麦酒の3社が合併し、大日本麦酒が設立された。 |
財閥によるグループ再編M&Aの実施 | 20世紀前半、財閥のグループ再編が行われる。 三井財閥が、三井合名を子会社である旧三井物産に吸収合併させたり、三井合名の不動産課を独立させて三井不動産を設立したりした。 三菱財閥では、三菱造船と三菱航空機が合併し、三菱重工業が誕生する。 住友財閥においては、住友鋳鋼所と住友伸銅所の合併により、住友金属工業が成立した。 |
国が民間企業のM&Aに介入 | 戦時中の日本を支える体制を構築するべく、国が民間企業のM&Aに積極的に介入するようになる。 1931年に制定された「重要産業統制法」を根拠に、国が民間企業を強制的に合併させる施策を進めた。 |
次に、第二次世界大戦の終戦以降のM&Aの歴史について解説します。
戦後から現代のM&Aの歴史
戦後から現代のM&Aの歴史年表は、以下のとおりです。
出来事 | 詳細 |
財閥解体と独占禁止法による制限 | 戦後「過度経済力集中排除法」が公布され、GHQによって財閥解体が進められる。 戦時中の合併により大規模になった企業には、会社分割・事業譲渡が命じられた。 また、M&Aで誕生した大企業が戦争を支えていたとの判断から、1947年制定の独占禁止法の第9条により、持株会社の設立を全面的に禁止。 事業支配力の過度な集中を防止し、民間企業の自由競争を促した。 M&Aは停滞期に入る。 |
バブル経済のもとでクロスボーダーM&Aが活発化 | バブル期の1980年代の後半から1990年代にかけて、日本は好景気に入る。円高が急伸したり外為の規制が緩和されたりしたことが後押しとなり、クロスボーダー型M&Aが活発化する。 日本企業が外資系の企業を買収した代表的な事例には、ブリヂストンによる米企業ファイアストンの買収、ソニーによる米企業コロンビア・ピクチャーズ・エンターテインメントの買収、松下電器産業による米企業MCAの買収などがある。 その他の好調な企業も、海外の会社を積極的に買収した。 |
不況を打破するべく国が制度の整備を推進 | 1990年代初頭、日本のバブル経済が崩壊する。 バブル崩壊によって大損失を計上したり倒産危機に陥ったりする企業が増加した 状況を受けて、国が事業再編や倒産会社の処理手段に関する制度の整備を進めた。1997年には独占禁止法が改正され、禁止されていた持株会社が原則解禁される。つづいて、株式交換や会社分割、組織再編税制、連結納税制度などの仕組みも整えられた。 |
国内でM&Aが活発化 | M&Aが実施しやすい環境が整えられたことにより、事業再編型M&Aを中心とするM&A件数が増加した。 また、日本の長期にわたる不況のなかで、企業の収益力アップを目指して垂直型M&A・水平型M&Aの両方が積極的に実施される。 |
IT企業による戦略的M&Aが増加 | 2000年代、情報通信技術の革新にともない、IT関連の新興会社によるM&Aが活発化する。 バンクグループがボーダフォンを買収したり、楽天グループがフュージョンを買収したりするなど、IT企業のM&A取引が増加した。 |
敵対的買収がメディアで大々的に報道 | 2000年代、アクティビストが台頭し、大企業に敵対的買収を仕掛ける。 ライブドアがフジテレビの筆頭株主であるニッポン放送に仕掛けた敵対的買収や、村上ファンドによる阪神電鉄に対する敵対的買収は、テレビや新聞などのメディアで大々的に報道された。 世間におけるM&Aの認知度は高まったが、M&Aに対して「乗っ取り」「ハゲタカ」というネガティブなイメージも広まった。 |
政府によるガイドラインの策定と中小企業M&Aの増加 | 中小企業における事業承継の必要性の高まりを受けて、2006年に中小企業庁が「事業承継ガイドライン」を策定。2020年には「中小M&Aガイドライン」、2021年には「中小M&A推進計画」を策定した。 官民連携による全面的なM&Aの支援が行われている。 M&Aが事業承継やビジネス上の戦略の手段として定着していくにつれ、M&Aに対するマイナスな印象は弱まっていき、M&Aの件数も順調に増加していった。 大企業によるM&Aだけでなく、中小企業によるM&Aも数多く実施されている。 |
M&Aの活用方法・イメージは時代とともに変遷していきました。
現代では、M&Aは事業承継や経営上の課題の解決、さらなる企業成長などの手段として浸透しています。
M&Aのマーケット動向と未来の展望
中小企業庁が公表している『2018年版 中小企業白書』と『2023年版 中小企業白書』によると、近年M&Aの実施件数は増加しており、M&A市場は活発化しているといえます。
1985年から2022年までのM&A件数の推移は、下記のグラフのとおりです。
※中小企業庁『2018年版 中小企業白書』『2023年版 中小企業白書』をもとにグラフ作成
コロナ禍の影響を受けて2020年には一時的に3,730件に落ち込みましたが、その年を除くと2022年までの10年間、M&Aの件数は右肩上がりで増加しています。
2022年には過去最多の4,304件を記録しました。
また、国のM&A支援制度やガイドライン、マニュアル、税制、補助金などの整備が進んでいます。
さらにM&Aの支援機関も増加しており、全国47都道府県に設置されている国の事業承継・引継ぎ支援センターのほか、民間のM&A仲介会社・サービスも数多く存在します。
M&Aの需要の高まりとM&Aの支援体制の充実を受けて、M&Aの件数はますます増えていくでしょう。
参照元:
中小企業庁『2018年版 中小企業白書』第2部 深刻化する人手不足と中小企業の生産性革命
中小企業庁『2023年版 中小企業白書』第2章 新たな担い手の創出
中小企業庁『事業承継の支援策』
M&Aの成約事例インタビュー
レバレジーズグループは、IT業界や医療看護業界をはじめとするさまざまな業界において40事業を展開している企業です。
グループで培ったレバレジーズ独自のノウハウや実績を活用し、多数のM&A案件をサポートさせていただいております。
弊社でご成約されたM&A事例インタビューを、以下のページでご紹介しています。
経営者さまのリアルな心情やM&Aを選択した理由などを詳細に載せています。ぜひご覧ください。
関連記事:人の力がM&Aした成約事例
M&Aの主な目的
売り手企業・買い手企業それぞれの主なM&Aの目的は、下記のとおりです。
売り手企業(譲渡側)のM&Aの目的 |
買い手企業(譲受側)のM&Aの目的 |
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M&Aを行う背景は、会社や立場によってさまざまです。
また、目的によって選択するべきM&Aのスキームが変わるため、M&Aを検討する際はどういった目的をかなえたいのかを明確にしましょう。
M&Aのスキームの種類
M&Aの方法は、大きく分けると「合併」「買収」「提携」の3つに分類できます。
「合併(Merger)」と「買収(Acquisition)」は、一般的なM&Aの方法です。
主に経営権の取得を目指して実施されます。
協業関係を築く「提携」は、広義でいえばM&Aに分類される方法です。
ここでは、合併・買収・提携に分類されるM&Aの各スキームについて解説します。
合併
合併とは、2つ以上の既存会社を1つの法人に統合するM&Aの手法です。
グループ企業内における組織再編の手段としてよく利用されます。
また、業績が振るわない企業の救済やコスト削減などを目的に実施されることもあります。
合併に属するスキームは「新設合併」「吸収合併」の2種です。
関連記事:企業の合併とは?種類やメリット・デメリット・手続き方法、事例を解説
新設合併
新設合併とは、消滅する2社以上の会社が保有する資産や負債、契約などのすべての権利・義務を、新しく設立した会社に承継させるM&Aのスキームです。
新設合併においては、新設会社の株式や社債、新株予約権、新株予約権付社債が交付されます。現金は対価にできません。
新設合併のメリットは、現金を用意しなくてもM&Aが実施できることです。
また、既存会社のすべてが消滅したうえで新設会社に引き継がれるため、「対等な立場でのM&A」という印象を与えられます。
一方で、吸収合併と比較して手続きのコストがかかる点はデメリットといえます。
新設合併では免許や許認可などを承継できないため、再取得となります。
実務面での負担が大きいという観点から、新設合併よりも吸収合併が選択されることが多いです。
吸収合併
吸収合併とは、1社が存続会社となり、そのほかの消滅する会社の権利・義務を承継するM&Aのスキームです。
対価には株式や社債などのほか、現金を用いることもできます。
吸収合併のメリットは、引き継ぎに関する手続きにかかる負担が比較的少ないことです。
そのため、新設合併よりも吸収合併のスキームがよく選ばれます。
一方で、存続会社以外の会社が消滅して吸収されることになるため、消滅会社側のステークホルダーの不満が募りやすい点には注意が必要です。
関係者に配慮して、企業統合作業を進めましょう。
関連記事:吸収合併とは?メリットや手続きの方法、新設合併との違いを解説
買収
買収とは、他社の事業や他社の経営権を取得するM&Aの手法です。
買収は、事業を取引の対象とする「事業譲渡・資産買収」と、株式を取引の対象とする「株式譲渡・資本参加」に分けられます。
「事業譲渡・資産買収」に分類されるM&Aのスキームは「新設分割」「吸収分割」「事業譲渡」の3つです。
「株式譲渡・資本参加」には「株式譲渡」「株式交換」「株式移転」「株式交付」「第三者割当増資」の5つの種類があります。
新設分割
新設分割とは会社分割の一種です。
新規設立した会社に、既存の会社が有する事業を包括的に引き継ぐM&Aのスキームを指します。
新設分割の対価は主に株式です。そのほか、社債・新株予約権・新株予約権付社債を交付することもできます。対価に現金を用いることはできません。
新設分割を含む会社分割の大きなメリットは、包括承継であるため、契約や許認可の引き継ぎに関する手間が少ないことです。
一方で、包括承継であるがために、簿外債務・偶発債務も承継してしまうリスクがある点はデメリットだといえます。
関連記事:会社分割の新設分割とは?吸収分割との違いやメリット、手続き方法を解説
吸収分割
吸収分割とは、会社分割にあたるM&Aのスキームで、既存の会社同士で実施されます。
会社が有する事業を切り出して、他方の会社に承継します。
吸収分割における対価は株式や社債などのほか、金銭等を交付することも可能です。
吸収分割も新設分割と同じく、承継方法は包括承継にあたります。
関連記事:吸収分割とは?事業譲渡との違いやメリット、必要な手続きを丁寧に解説
事業譲渡
事業譲渡とは、会社が有する事業の一部またはすべてを、他社に譲り渡すM&Aのスキームです。
事業譲渡において用いられる対価は現金のみです。
事業譲渡のメリットは、売買する対象を個別に選択できることです。
売り手は売却したいものだけを譲渡可能です。買い手にとっても、簿外債務・偶発債務のリスクを避けられる利点があります。
一方で、個別に取引を行うことになるため、包括承継である会社分割と比べると、手続きが複雑になる点はデメリットです。
また、競業避止義務が課される点にも注意しましょう。
株式譲渡
株式譲渡とは、譲渡企業の株主が保有する株式を、譲受側に売却するM&Aスキームです。
株主は、譲り渡した株式の対価として金銭等を受け取ることができます。
株式の保有率によって、得られる権利が変わります。
経営に大きな影響を与える権利は「支配権」「経営権」「拒否権」の3つです。
株式の100%が譲渡された場合、譲受側がすべての支配権を得ることになります。
権利 | 保有率 | 権限の内容 |
支配権 | 議決権数の3分の2以上 | 特別決議を単独で可決できる |
経営権 | 議決権数の過半数 | 普通決議を単独で可決できる |
拒否権 | 議決権数の3分の1超 | 特別決議を単独で否決できる |
株式譲渡のメリットは、債権者保護手続きや公告などが不要で、手続きが比較的シンプルである点です。
また、100%譲渡をした場合も経営者は変わらず、法人格が消滅しないことも利点です。
一方、株式譲渡における懸念点は、株式が分散している場合に全取得が難しくなることです。
一部の株主に株式の譲渡を拒否された場合、交渉にかかる負担が膨らんでしまいます。
また、経営権の移転とともに負債なども引き継がれる点にも注意が必要です。
関連記事:株式譲渡とは?手続きの流れや注意点・メリット・デメリットなどを解説
株式交換
株式交換とは、譲受企業と譲渡企業の株式を交換することで、完全親会社と完全子会社の関係をつくるM&Aのスキームです。株式交換後は譲受企業が譲渡企業の株式を100%保有します。
株式交換で用いられる対価は、基本的に株式です。事前に決定した株式交換比率にしたがって、株式の割当を行います。
完全親会社が交付する対価には、完全親会社の社債や現金、完全親会社の親会社にあたる企業の株式などを充てることも認められています。
株式交換のメリットは、株式を対価にすれば買収用資金が必要ないことや、株主全員の同意を得られなくても実施できることなどです。
一方で株主総会の特別決議での承認が必要となるため、開催するためのコストはかかることになります。
関連記事:株式交換とは?実施のメリット・デメリットや事例をわかりやすく解説
株式移転
株式移転とは、完全親会社となる会社を新規に設立し、既存会社の発行済み株式の100%を新設会社に移転させて、完全親会社と完全子会社の関係を築くM&Aのスキームです。
株式移転で用いられる対価は、株式交換と同様、基本的に株式です。
完全親会社が交付する対価については、株式以外の対価を割り当てることも認められています。
株式移転のメリットは、持ち株会社化がしやすいことです。共同経営を行いたいケースでよく活用されます。
関連記事:株式移転とは?手続きの流れやメリット、株式交換との違いなどを解説!
株式交付
株式交付とは、完全子会社化しない範囲で株式を取得し、子会社化することを目的としたM&Aのスキームです。
株式交付において親会社が交付する対価には、株式以外の金銭等を割り当てることもできます。
また、子会社は株式と併せて新株予約権等を対価にすることも可能です。
株式交付のメリットは、完全子会社化を目指さないケースでも利用できる点です。
また、基本的に株式等を対価にするため、資金調達の負担が軽減されることもメリットだといえます。
一方で注意するべき点は、株式交付の制度が比較的新しいため、制度内容が改正される可能性が高いことです。
株式交付の活用を検討する場合は、最新情報のチェックを特に怠らないようにしましょう。
第三者割当増資
第三者割当増資とは、特定の第三者に新株を有償で引き受けてもらい、資金調達を行う手法です。
第三者に割り当てられる対価は、譲渡企業が新たに発行する新株です。
第三者割当増資を活用すれば、迅速な資金調達が可能になります。
また、新株を対価にして出資をしてもらうため、返済義務がない点もメリットです。
一方で、既存株主にとっては持ち株比率が低下する点がデメリットになります。
また、株式の希薄化が起こるおそれもあるため注意しましょう。
関連記事:第三者割当増資とは?メリットや方法・流れをわかりやすく解説
提携
提携とは、他社とパートナーシップを構築することを指します。
広義のM&Aに含まれる手法です。
提携には「資本提携」「業務提携」の2種類のスキームがあります。
資本提携と業務提携の大きな違いは「提携にともない株式の取得があるかどうか」という点です。
資本提携
資本提携とは、資金提供をして他社の株式を取得し、企業間の協力関係を築くスキームです。
一方の会社が他方の会社の株式を保有する形式が一般的ですが、お互いに株式を持ち合うケースもあります。
資本提携の資金提供・株式取得は、株式譲渡や第三者割当増資などを用いて実施されます。
買収を行う場合と異なり、経営に強い影響を与えない範囲(議決権数の3分の1以下)で株式を取得します。
資本提携のメリットは、各企業が独立性を保ったまま強固な関係を構築できることです。
一方で、議決権のある株式を提供するため、相手企業が経営に干渉することになる点には注意が必要です。
関連記事:資本業務提携とは?子会社化との違いや成功・失敗事例、手法、流れを解説
業務提携
業務提携とは、各企業が持つノウハウやリソースなどの経営資源を提供し合うことによって、協力関係を構築するスキームです。
業務提携では資本の移動は発生しません。
業務提携の種類には「販売提携」「技術提携」「共同開発提携」「生産提携」「流通提携」などがあります。
業務提携を結びたい内容によって契約書を作成し、締結することによって業務提携が開始されます。
業務提携のメリットは、すでに存在する他社の経営資源を有効活用できるため、低コスト・低リスクで事業成長や競争力アップを図れることです。
また、資本の移動がないため、ほかのM&Aの手法と比べて自社の独立性への影響が少ない点もメリットといえます。
しかし、知識やノウハウなどの経営資源を提供する以上、情報流出のリスクはあります。
業務提携の契約を結ぶ際には、お互いの情報管理の状況やセキュリティ対策などについて確認しておきましょう。
関連記事:業務提携におけるポイントとは?全体像に加えて実施時のポイントも解説
【売り手側】M&Aのメリットとデメリット
売り手側(譲渡企業)がM&Aを行うことで得られる主なメリットとデメリットは、下記のとおりです。
売り手側(譲渡企業)のメリット |
売り手側(譲渡企業)のデメリット |
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それでは、それぞれのメリット・デメリットについて詳しく解説します。
M&Aで譲渡する8つのメリット
M&Aの売り手側(譲渡企業)のメリットには、以下の8つがあります。
1.後継者問題が解決できる
M&Aを活用するメリットは、後継者問題が解決できることです。
M&Aを用いて売却を行うことで、事業承継ができます。
後継者問題とは、経営者の高齢化が進行しているにもかかわらず、会社の跡継ぎとなる人材が見つからない状況のことを指します。
株式会社帝国データバンクの調査によると、2023年の後継者不在率の全国平均は53.9%でした。後継者問題は改善傾向があり、2023年の後継者不在率53.9%は前年から3.3pt低下しています。
しかし依然として半数以上の経営者が後継者問題に窮しており、M&Aはその活路として利用されています。
参照元:
株式会社帝国データバンク『特別企画:全国「後継者不在率」動向調査(2023年)』(2023/11/21)
関連記事:後継者問題とは?中小企業の後継者不足は事業承継のマッチングで解消しよう
2.従業員の雇用を守れる
M&Aで売却すれば、自社で働いていた従業員の雇用を守ることが可能です。
もし廃業になった場合、従業員の雇用は失われてしまいます。
しかし、売却先を見つけてM&Aを実施し、従業員を相手企業に引き継ぐことができれば、従業員は働き続けることができます。
3.技術やノウハウを承継できる
M&Aを行うことで、会社が保有する技術・ノウハウを承継できます。
廃業すると、保有している技術やノウハウも会社とともに途絶えてしまいます。
しかし、M&Aで相手企業に技術・ノウハウを承継すれば、譲渡先で活用され続ける財産となるでしょう。
4.相手企業のブランド力を活用できる
M&Aによってグループ企業として加われば、譲受企業が有するブランド力を活用することが可能です。
相手企業が大手であったり有名な会社であったりする場合、傘下に入ることで信用力が増すことが期待できます。新たなビジネスチャンスにつなげることもできるでしょう。
5.事業の選択と集中ができる
M&Aによって事業を売却することで、事業の選択と集中ができます。
M&Aで不採算事業やノンコア事業を売却すれば、ほかの運営事業に注力できるようになります。
また、事業を売却した際に得られる売却益を他事業に投資することも可能です。
関連記事:選択と集中とは?意味やメリット、企業の事例や多角化との違いを解説
6.アーリーリタイアができる
M&Aを行うことで、アーリーリタイアが可能です。
アーリーリタイアとは、定年を迎える前に早期退職することを指します。
M&Aによって経営権を譲り渡せば、早い段階で経営者の重い責務から解放されます。
また、時間に余裕ができて、人生における新たな挑戦や趣味などに時間を割くことができるようになるでしょう。
7.創業者利益が獲得できる
M&Aによって創業者が株式を売却した場合、創業者利益を獲得することができます。
売却額が高くなればその分創業者利益の金額も増えて、潤沢な資金が得られるでしょう。
8.個人保証を解除できる
M&Aで売却して経営権を移行した場合、個人保証(経営者保証)を解除できます。
個人保証とは、主に中小企業が資金調達のための融資を受ける際に、経営者が負う返済義務です。
M&Aで経営権ごと譲り渡せば、個人保証は基本的に買い手が引き継ぐことになります。
経営者は個人保証の重荷から解放されます。
ただし、個人保証を引き継ぎたい場合は当事者間の協議が必要な点、M&Aの手法によっては引き継がれない点などに注意しましょう。
M&Aで譲渡する4つのデメリット
M&Aの売り手側(譲渡企業)のデメリットは、主に下記の4つです。
1.経営に関する権限が変わる
M&Aで譲渡すると権利や義務が移行し、譲渡のスキームや範囲、条件などによって、経営に関する権限が変わります。
譲渡後も引き続き経営への影響力を保持したいと考えている場合は、M&Aの手法や範囲・条件などに注意しましょう。
2.取引先や顧客との関係性が悪化するリスクがある
M&Aを機に契約やサービスの内容に大幅な変更が生じると、取引先および顧客との関係性が悪化するおそれがあります。
取引先や顧客に不利益が生じる場合、取引が打ち切られたりクレームに発展したりすることもあるでしょう。
トラブルを避けるためにも、M&A後の取り決めについてよく話し合うようにしてください。
また、M&A後の取引内容に変更がある場合には、適切なタイミングで丁寧な情報開示を行いましょう。
3.従業員の待遇が悪化する可能性がある
M&Aで売却を行うケースでは、多くの場合、従業員の待遇は良くなります。
しかし、M&A後に従業員の待遇が下げられてしまう可能性もあります。
もし従業員の待遇が悪化した場合、従業員のモチベーションが下がったり、退職したりするおそれもあるでしょう。
従業員の未来を守るためにも、M&A実施前の交渉において、相手企業と従業員の雇用条件や労働環境についてしっかり話し合ってください。
4.企業文化のミスマッチが起こるおそれがある
M&A後の統合作業時に、企業文化のミスマッチという壁にぶつかる可能性があります。
売り手・買い手の社風や規則などがあまりにも違う場合、ミスマッチは起こりやすくなります。
ミスマッチが生じると、従業員のフラストレーションが溜まったり、想定していたシナジー効果が生み出せなくなったりします。
ミスマッチを防ぐために、トップ面談や訪問時に相手企業の社風や方向性などをよく確認し、自社の企業文化とのマッチング度を確かめましょう。
また、独立性が保てるM&Aのスキームを選択することも有効です。
【買い手側】M&Aのメリットとデメリット
買い手側(譲受企業)がM&Aを行うことで得られる主なメリットとデメリットは、下記のとおりです。
買い手側(譲受企業)のメリット |
買い手側(譲受企業)のデメリット |
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それでは、それぞれのメリット・デメリットについて詳しく解説します。
M&Aで譲受する8つのメリット
M&Aの買い手側(譲受企業)のメリットには、以下の8つがあります。
1.事業の多角化ができる
M&Aで他社の事業を取得することにより、事業の多角化が推進できます。
事業を多角的に展開すれば、収益アップやリスク分散が可能となります。
2.低リスクで新規参入できる
M&Aによって他社の既存事業を取得することにより、ローリスクで新規参入することができます。
通常、新規に事業を立ち上げるには多大な時間と費用がかかります。
また、事業が順調に業績を上げられる保証はなく、損失を計上するリスクを抱えることになります。
しかしすでに好調な他社の既存事業を取得すれば、そういったリスクを避けたうえで新規参入が可能です。
3.事業を強化できる
M&Aによって会社や事業を取得することによって、事業のさらなる強化が可能になります。
同じ業界・業種の会社を買収することにより、市場のシェアを拡大することができます。
また、進出したい地域で事業を行っている会社をM&Aで取得すれば、スピーディーにエリア拡大することが可能です。
4.優秀な人材を確保できる
M&Aによって、相手企業に在籍している優秀な人材を自社に迎えることができます。
経験を積んできたハイレベルな人材や、取得難易度が高い資格を保有する人材などを獲得することが可能です。
M&Aで迎え入れた優れた人材は、今後の事業運営に大きく貢献してくれるでしょう。
5.技術やノウハウを取得できる
M&Aによって譲渡企業が持つ技術およびノウハウを獲得できることは、大きなメリットです。
技術・ノウハウを獲得できれば、未開拓の領域に進出したり、事業を急成長させたりすることができます。
通常であれば、技術やノウハウなどは研究・教育をとおして、長い期間をかけて習得するものです。
M&Aを活用することで、短期間で高度な技術・ノウハウを獲得できます。
6.相手企業のブランド力を獲得できる
M&Aによって会社・事業を取得することにより、譲渡企業が持つブランド力を獲得することが可能です。
譲渡企業が信頼を築いてきたブランドを保有していれば、ブランドの確立に多大な時間をかけることなく、当該業界でシェアを一挙に獲得できます。
7.許認可を取得できる
M&Aの手法や譲り受ける事業内容によっては、許認可を承継することができます。
許認可を取得するためには時間・コストがかかるため、取得が難しい許認可をM&Aによって引き継げることは大きなメリットです。
参入障壁が高い事業領域に比較的スムーズに参入することがかなうでしょう。
8.時間やコストが削減できる
M&Aを実施することで得られる相手企業の経営資源を活用すれば、時間・コストを削減することができます。
先述したように、M&Aを行えば、事業やブランド力、人材、技術・ノウハウ、許認可などを獲得することが可能です。
本来、それらの経営資源は多くの時間とコストをかけることで、ようやく得られるものです。
M&Aを実施すれば時間・コストを省略したうえで貴重な経営資源を獲得できるため、スピーディーな事業成長につながります。
M&Aで譲受する4つのデメリット
M&Aの買い手側(譲受企業)のデメリットは、主に下記の4つです。
1.M&A後の統合作業に時間と労力がかかる
M&Aの実施後には、シナジー効果を最大化するためのPMI(統合作業)を行います。
このPMIには多くの時間と労力がかかります。
特に、複数の法人が一つの法人になるスキームを選択した場合には通常よりも社内が混乱するリスクが高まるため、さらに綿密な統合作業計画が求められます。
2.簿外債務や偶発債務を引き継ぐおそれがある
M&Aで会社を買収する際には、簿外債務や偶発債務に注意する必要があります。
簿外債務とは、貸借対照表に記載されていない隠れた債務のことです。
偶発債務とは、将来的に生じる可能性がある債務のことを指します。
想定外の債務は企業の経営に大きなダメージを与えるおそれがあります。
M&A後に思わぬ簿外債務や偶発債務が発覚する事態を防ぐために、M&Aの成約前にデューデリジェンス(買収監査、DD)を入念に行いましょう。
3.想定していたシナジー効果が得られない可能性がある
M&Aを行っても、想定していたシナジー効果が得られないことがあります。
シナジー効果が低下する要因としては「譲渡企業の価値を過大評価していた」「統合作業がうまくいかなかった」「許認可を引き継ぐことができなかった」などが挙げられます。
最大限のシナジー効果を得るために、M&Aのプラン策定から実施後のPMIまで、緻密な計画のもと取り組みましょう。
関連記事:M&Aによるシナジー効果とは?種類や分析用のフレームワーク、事例を紹介
4.従業員のモチベーションが低下するリスクがある
M&Aの実施後、従業員のモチベーションが低下するおそれがあります。
特に、M&Aの前後で売り手企業側の従業員の環境に大きな変化が生じる場合は注意が必要です。
もしM&Aのあとに従業員のモチベーションが下がり、大量離職につながってしまった場合、期待したシナジー効果は得られなくなってしまうでしょう。
従業員の不満が募らないようにするためには、「一方的な統合を行わない」「M&Aの実施前・実施後に面談を実施する」「納得感のある雇用条件を設定する」などの対応が大切です。
M&Aの流れ・フロー
M&Aの全体の流れ・フローは、下記の図のとおりです。
M&Aのプロセスを大きく分けると、「検討・準備フェーズ」「マッチング・交渉フェーズ」「最終契約フェーズ」の3つに分けられます。
検討・準備フェーズでは、専門家のサポートを受けながらM&Aの計画を立てたり企業価値を算定したりして、M&Aの準備をします。
マッチング・交渉フェーズでは、M&Aの相手探しをして、候補企業とのコンタクトを開始します。
相手企業の経営者との面談や条件交渉を経て、M&Aを行う企業を決定します。
最終契約フェーズは、基本合意書を結んだ相手企業と進めるフェーズです。
企業の価値やリスクをあらためて精査し、最終条件の交渉を経て、本契約の締結および契約の履行をします。
以下で、各フローについて詳しく解説します。
1.ニーズの発生・M&Aの検討
まず、検討・準備フェーズからスタートします。
「後継者を見つけたい」「相乗効果が期待できる事業を取得したい」などのニーズにより、M&Aの検討を開始します。
M&Aを選択すれば、廃業せずに済んだり、低コストで事業拡大できたり、飛躍的に成長できたりする可能性があります。
まずは、M&Aで果たしたい目的を明確化しましょう。
2.M&A業者の選定・契約
M&Aをサポートしてくれる業者を選定し、契約に進みます。
M&A仲介会社やアドバイザーなどのM&A業者は、M&Aに関する専門的な知識・ノウハウ・経験を有しています。
支援を依頼すれば、M&Aにまつわる複雑な手続きや相手との交渉、各種契約書の作成などの場面において力となってくれるでしょう。
M&Aの支援先の詳しい選び方のポイントについては、後述の「M&A仲介会社の選び方」で解説します。
関連記事:M&A仲介とは?会社の選び方やFAとの違い、手数料の種類も解説
3.M&A業者との間に機密保持契約書の締結
支援の依頼先が決定したら、M&A業者との間に機密保持契約(秘密保持契約、NDA)を結びます。
機密保持契約とは、自社が提供する秘密情報を守るための契約です。許可なく他者に開示することや予定外の用途で使用することを禁止します。
M&Aの支援を依頼するにあたって、経営方針や財務状況などの会社の重要な情報をやりとりするため、機密保持契約を必ず締結しましょう。
4.アドバイザーとの面談
契約したM&A業者のアドバイザーと面談を行います。
面談の主な方法には、直接会って話すほか、電話やメール、チャット、ビデオ通話などがあります。
M&Aアドバイザーはヒアリングをとおして、会社の状況や経営者が抱えている悩み、M&Aの目的・希望条件などを聞き出し、それをもとに必要な情報の提供や提案をしてくれます。
5.企業価値評価
売り手企業は企業価値評価(バリュエーション)を行います。
M&Aアドバイザーが、保有する情報・経験値や売り手が提供した会社情報をもとに、企業や事業の価値を算定してくれます。
会社の価額は、資産や負債、市場取引における株式価格、収益力などのさまざまな要素を根拠にして計算されます。
主な算定方法は「コストアプローチ」「マーケットアプローチ」「インカムアプローチ」の3つです。
算定方法の詳細は、後述の「M&Aの企業価値評価の算定方法」で解説します。
関連記事:M&Aのバリュエーション(企業価値評価)とは?算定方法も紹介
6.ロングリストの作成
ここからはマッチング・交渉フェーズに入ります。
まず、譲渡会社・譲受会社がM&A業者のサポートを受けながらロングリストを作成します。
ロングリストとは、大まかな条件でM&Aの候補先を絞り込み、リスト化した書類です。
ロングリストの作成時にリストアップされなかった企業は今後の検討から外れてしまいます。マッチング度が高い企業が候補先リストから漏れることのないよう、条件設定を慎重に行いましょう。
関連記事:ロングリストとショートリストとは?意味や違い、作成方法を解説
7.ショートリストの作成
ロングリストの作成ができたら、ショートリストの作成に移ります。
ショートリストとは、ロングリストで挙げた候補企業をより詳細な条件で絞り込み、作成するリストです。
M&Aでかなえたい理想や目的を具現化して条件に反映させて、精度が高いショートリストを作成しましょう。
8.ノンネームシートの作成
売り手企業は、M&Aアドバイザーと相談しながらノンネームシート(ティーザー)を作成しましょう。
ノンネームシートとは、匿名性を保てる範囲で売り手企業の情報を記載した資料です。
ノンネームシートの作成完了後は、アドバイザーが買い手企業に対して検討材料として開示します。
関連記事:ノンネームシート(NN)とは?M&Aでの重要性や記載項目の例を解説
9.ネームクリアの検討
買い手企業は、開示されたノンネームシート(ティーザー)を確認します。
ノンネームシートの中に興味を持てる案件があれば、ネームクリア(企業名の開示)を打診したい旨をM&A業者に伝えましょう。
関連記事:M&Aのネームクリアとは?実施するタイミングやメリットを解説
10.買い手と売り手との間で機密保持契約書の締結
買い手企業が売り手企業に対してネームクリアを打診し、売り手企業がネームクリアを了承したら、売り手企業と買い手企業との間で機密保持契約書(秘密保持契約書、NDA)を締結します。
M&Aを検討していることが予期せぬタイミングで知られてしまうと、社内外に混乱を与えたり、株価に悪影響を及ぼしたりするリスクがあります。
そのようなリスクを避けるためにも、機密保持契約書を締結し、お互いの機密情報を必ず守りましょう。
11.企業概要書の提示
売り手企業は、企業概要書(IM)を作成します。
企業概要書とは、売り手企業側の社名や会社概要、事業の内容、譲渡を希望する理由などの詳細情報をまとめた資料です。
M&Aアドバイザーの助言を受けながら、自社の魅力やM&Aに対する考えがしっかり伝わる企業概要書を作りましょう。
12.企業価値評価・スキームの絞り込み
買い手企業は、開示された企業概要書を確認し、売り手企業の詳細情報やM&Aにおける価値を判断します。
買い手企業はM&Aアドバイザーとともに、企業概要書の内容に虚偽がないかを調査したり、企業概要書にない追加情報を集めたりしてください。
それを終えたら、買い手企業側で売り手企業の価値評価を行います。
価値評価の結果をもとに、売り手企業が希望する譲渡額の妥当性をチェックしましょう。
また、売り手企業の価値・リスクを考慮したうえで、希望のM&Aスキームを絞り込みます。
13.トップ面談
トップ面談とは、交渉前に実施される、経営者同士による会合のことです。
売り手企業と買い手企業の双方が、M&Aを本格的に検討する意向を示すと、トップ面談に移ります。
トップ面談を行う主な目的は「相互理解を深めること」「資料に関する疑問を解消すること」「信頼関係を築くこと」などです。
トップ面談の時点では、条件交渉は基本的に行いません。
関連記事:M&Aで大切なトップ面談とは?成功するためのポイントや必要な準備を解説
14.条件の交渉
トップ面談をとおしてM&A実施への意向が強まった場合は、M&Aの条件交渉に進みます。
M&Aの取引価額や選択するM&Aスキーム、実施時期など、話し合いによって詳細な条件をすり合わせていきます。
M&A業者の支援サービスを依頼している場合、アドバイザーが譲渡金額や条件の妥当性に対してアドバイスしてくれるでしょう。また、間に入って条件交渉を円滑に進めてくれます。
条件交渉を行う際は、目的や条件について前もって整理しておくことが重要です。流されるまま交渉が進んでしまった場合、不本意な条件でのM&Aになるおそれがあります。
M&Aの目的や絶対に譲れない条件、妥協点などを決めたうえで、相手企業との交渉に臨みましょう。
15.意向表明書の提出
条件交渉後、M&Aを実施する意思が固まったら、買い手企業は売り手企業に対して意向表明書(LOI)を提出してください。
意向表明書とは、譲受側の買収の意向や希望する条件などを譲渡側に伝えるための書類です。
意向表明書の提出は必須ではありませんが、口頭で伝えたことによる行き違いのトラブルを防げるという観点から、提出することがおすすめです。
関連記事:M&Aの意向表明書(LOI)とは?サンプルや書き方のポイントなどを解説
16.基本合意書の締結
トップ面談・条件交渉の末、M&Aの基本的な条件が決まったら、売り手企業と買い手企業との間で基本合意書(MOU)を締結しましょう。
基本合意書とは、これまでの話し合いのなかで暫定的に定まったM&Aに関する基本条件について、譲渡側・譲受側の双方が合意形成したことを示す契約書です。
デューデリジェンスの結果によって条件が見直される可能性はありますが、基本合意書の内容は最後に締結される最終契約書のベースになる書類です。
内容を慎重に検討したうえで、作成してください。
関連記事:MOU(基本合意書)とは?手順や注意点、契約との違いを解説
17.デューデリジェンスの実施
ついにM&Aの最終契約フェーズに移ります。
基本合意書の締結後は、デューデリジェンス(買収監査、DD)を実施します。
デューデリジェンスとは、売り手企業の価値・リスクの実態を正しく把握するための調査です。
デューデリジェンスを実施する過程において、譲渡側の正しい価値を見極められなかったり、重大なリスクを見落としてしまったりした場合、M&Aが失敗に終わる可能性が高まるため、非常に大切な過程だといえます。
買い手企業はM&A業者や士業などの専門家に調査を依頼しましょう。
依頼後、専門家が売り手企業に対して徹底的なデューデリジェンスを実施します。
売り手企業は、デューデリジェンスに対して誠実に対応してください。
調査内容によって、資料の提出や現地調査、マネジメントインタビューなどに対応する必要があります。
デューデリジェンスの調査対象となる分野には、以下のようなものがあります。
- 財務デューデリジェンス
- 法務デューデリジェンス
- 税務デューデリジェンス
- 労務デューデリジェンス
- 人事デューデリジェンス
- ビジネスデューデリジェンス
- ITデューデリジェンス
- 環境デューデリジェンス
- サステナビリティデューデリジェンス
- 人権デューデリジェンス
調査対象の分野は多岐にわたりますが、すべての分野においてデューデリジェンスを行うわけではありません。
対象企業の特徴やM&Aの規模などから、デューデリジェンスを実施するべき範囲を決めましょう。
また、各調査にかかる費用とデューデリジェンスに割ける予算との兼ね合いを考慮することも必要です。
関連記事:デューデリジェンス(DD)とは?意味や実施の流れをわかりやすく解説
18.最終条件の交渉
デューデリジェンスの結果、M&A実施に関して大きな問題がないことを確認できたら、最終条件の交渉に移ります。
基本合意書の内容とデューデリジェンスの結果をもとに交渉を行い、売り手企業と買い手企業で最終的な条件を決めていきましょう。
なお、デューデリジェンスを実施するなかで大損失につながるおそれがある深刻なリスクが発覚した場合、M&Aが破談になることもあります。
19.最終契約書の締結
最終条件の内容について合意に至ったら、売り手企業と買い手企業との間で最終契約書(DA)を締結します。
最終契約書とはM&A実施に関する正式な契約書であり、最終的な合意内容が記載されています。
最終契約書には法的拘束力があるため、もし決定事項への違反や契約破棄をした場合、相手の企業から損害賠償や違約金を請求されることもあります。
トラブルに発展させないために、最終契約書を締結する前の段階で記載内容について入念に確認してください。
なお、最終契約書の名称はスキームによって変わります。
たとえばM&Aのスキームが株式譲渡の場合においては「株式譲渡契約書」となり、事業譲渡の場合においては「事業譲渡契約書」となります。
関連記事:M&Aでの最終契約書とは?記載内容や基本合意書との違いを解説
20.クロージング
クロージングとは、M&Aの取引に関する手続きを実行し、M&Aを完了させることです。
最終契約書において取り決めたクロージングの前提条件をすべてクリアしたら、クロージングの実行に移りましょう。
最終契約書で規定した取引価格および支払い方法で決済手続きを行い、取引対象の引き渡しを実施します。
関連記事:M&Aのクロージングとは?手続きや必要な書類まとめ
M&Aで必要となる書類・契約書
M&Aを進行するプロセスでは、数多くの書類・契約書が必要になります。
ここでは、売り手側と買い手側に分けて、M&Aの必要書類および契約書を紹介します。
関連記事:M&Aの契約書・記載項目をわかりやすく解説【ひな型あり】
【売り手側】M&Aの書類・契約書
M&Aの売り手である譲渡企業が用意する書類・契約書は以下のとおりです。
<ステップ:アドバイザーへの相談>
書類・契約書の名称 | 概要 |
自社に関する資料 | 自社の概要を伝えられる資料。 会社案内のパンフレットや製品・サービスの自社カタログ、3期分の決算書など。 |
機密保持契約書(秘密保持契約書、NDA) | 売り手企業とM&A仲介会社との間で交わす契約書。 進行上で扱う情報を、第三者に漏洩しないこと・目的外利用をしないことを定める。 |
アドバイザリー契約書(仲介契約書) | 売り手企業とM&A仲介会社との間で交わす契約書。 支援のサポート範囲や報酬内容、直接交渉の禁止などに関する規約が記載されている。 |
<ステップ:マッチング>
書類・契約書の名称 | 概要 |
ロングリスト | 買い手側の候補企業を大まかな条件で絞り込んで、一覧にした資料。 |
ショートリスト | ロングリストをもとに、買い手側の候補企業をより細かい条件で絞り込んで、一覧にした資料。 |
ノンネームシート(ティーザー) | 会社概要やM&A情報などの売り手企業に関する情報を、匿名性が保たれる粒度でまとめた書類。 作成後は、買い手企業側に対して検討材料として開示される。 |
<ステップ:トップ面談・条件交渉>
書類・契約書の名称 | 概要 |
機密保持契約書(秘密保持契約書、NDA) | 売り手企業と買い手企業との間で交わす契約書。 お互いの機密情報やM&A関連の情報を、第三者に漏洩しないこと・目的外利用をしないことを定める。 |
企業概要書(IM) | 売り手側の実名や詳細情報、M&Aに関する情報がまとめられた書類。ノンネームシートを見て興味を示した買い手企業に対し、検討材料として開示する。 |
基本合意書(MOU) | 売り手企業と買い手企業との間で交わす契約書。 面談・交渉の過程を経て、両社が合意したM&Aの条件や独占交渉権の付与などについて定める。 |
<ステップ:最終契約の締結>
書類・契約書の名称 | 概要 |
デューデリジェンス(買収監査、DD)の関連資料 | 買い手企業が売り手企業に対して実施する、デューデリジェンスにおいて提出が求められる資料。 資料の内容は、決算書や経営計画表、株主総会議事録、登記簿謄本など。 |
最終契約書(DA)※契約書の名称はスキームによって変動 | 売り手企業と買い手企業との間で交わす、法的拘束力を持つ契約書。 最終的な合意内容が記載されている。 |
次に、買い手側の書類・契約書を紹介します。
【買い手側】M&Aの書類・契約書
M&Aの売り手である譲渡企業が用意する書類・契約書は以下のとおりです。
<ステップ:アドバイザーへの相談>
書類・契約書の名称 | 概要 |
自社に関する資料 | 自社の概要を伝えられる資料。 会社案内のパンフレットや製品・サービスの自社カタログ、3期分の決算書など。 |
機密保持契約書(秘密保持契約書、NDA) | 買い手企業とM&A仲介会社との間で交わす契約書。 進行上で扱う情報を、第三者に漏洩しないこと・目的外利用をしないことを定める。 |
アドバイザリー契約書(仲介契約書) | 買い手企業とM&A仲介会社との間で交わす契約書。 支援のサポート範囲や報酬内容、直接交渉の禁止などに関する規約が記載されている。 |
<ステップ:マッチング>
書類・契約書の名称 | 概要 |
ロングリスト | 売り手側の候補企業を大まかな条件で絞り込んで、一覧にした資料。 |
ショートリスト | ロングリストをもとに、売り手側の候補企業をより細かい条件で絞り込んで、一覧にした資料。 |
<ステップ:トップ面談・条件交渉>
書類・契約書の名称 | 概要 |
機密保持契約書(秘密保持契約書、NDA) | 買い手企業と売り手企業との間で交わす契約書。 お互いの機密情報やM&A関連の情報を、第三者に漏洩しないこと・目的外利用をしないことを定める。 |
意向表明書(LOI) | 面談や交渉を終えたあと、買い手企業が売り手企業に対して、買収をしたい旨や希望条件などを伝えるための書類。 |
基本合意書(MOU) | 買い手企業と売り手企業との間で交わす契約書。 面談・交渉の過程を経て、両社が合意したM&Aの条件や独占交渉権の付与などについて定める。 |
<ステップ:最終契約の締結>
書類・契約書の名称 | 概要 |
最終契約書(DA) ※契約書の名称はスキームによって変動 | 買い手企業と売り手企業との間で交わす、法的拘束力を持つ契約書。 最終的な合意内容が記載されている。 |
必要書類は多岐にわたり、作成する際は法やM&Aの専門的な知識が求められます。そのため、M&A仲介会社やM&Aに詳しい士業などの専門家のアドバイスを受けながら作成することが一般的です。
契約書のなかには法的拘束力を持つ項目もあるため、内容を慎重に検討・確認しましょう。
M&Aの書類・契約書の記載事項
ここでは、マッチングや交渉、契約時に作成する以下の7つの書類および契約書の記載事項を紹介します。
- ロングリスト
- ショートリスト
- ノンネームシート(ティーザー)
- 企業概要書(IM)
- 意向表明書(LOI)
- 基本合意書(MOU)
- 最終契約書(DA)
以下で順に紹介します。
ロングリストの記載事項
ロングリストの概要や記載事項は以下のとおりです。
作成の目的 |
候補企業を幅広くリストアップして、今後の候補先の検討・選定を効率化する |
候補数の目安 |
20~30社程度(※場合によっては100社ほどになることも) |
条件項目の例 |
|
ロングリストの作成段階では、M&Aの実施可能性がある企業を大まかにリストアップします。
ショートリストの記載事項
ショートリストの概要や記載事項は以下のとおりです。
作成の目的 |
相手候補を絞り込んで、マッチングの精度を高める |
候補数の目安 |
5~10社程度 |
条件項目の例 |
|
ショートリストは、ロングリストに挙がった候補企業を絞り込む形で作成します。
ノンネームシート(ティーザー)の記載事項
ノンネームシートの概要や記載事項は以下のとおりです。
作成の目的 |
売り手企業のことを、買い手企業に対して紹介・提案する |
情報量 |
A4サイズの用紙1枚程度 ※匿名性が保たれるレベルの情報を掲載 |
記載項目の例 |
|
記載内容は、企業が特定されないように慎重に精査します。
特に希少性が高い事業を運営している場合、「事業内容」や「事業の強み」の書き方によっては企業名が特定されてしまうおそれがあります。表現方法や情報量に注意しましょう。
企業概要書(IM)の記載事項
企業概要書の概要や記載事項は以下のとおりです。
作成の目的 |
売り手企業の概要やM&Aの詳細情報を買い手企業に知ってもらい、買収先候補としてアピールする |
情報量 |
数十ページにわたる ※実名による開示 ※詳細で正確な情報を示す |
記載項目の例 |
【会社概要】
【組織】
【事業内容】
【財務状況】
【M&Aに関する情報】
|
企業概要書は、買い手企業の意思決定を大きく左右する重要な書類です。
必要に応じて、図やグラフ、写真などを活用するとより魅力が伝わる内容になるでしょう。
意向表明書(LOI)の記載事項
意向表明書の概要や記載事項は以下のとおりです。
作成の目的 |
買収の意向を売り手企業に示し、M&Aの成約を円滑にする |
法的拘束力の有無 |
なし |
記載項目の例 |
|
意向表明書の提出は必ずしも必要なプロセスではなく、省略可能な書類です。
しかし、形に残る書面を用いて買収の意向を伝えることは、トラブル防止とM&Aの円滑化の効果が期待できます。
基本合意書(MOU)の記載事項
基本合意書の概要や記載事項は以下のとおりです。
作成の目的 |
これまでに決定したM&Aの基本条件について、両社が合意に至ったことを書面で示し、M&Aの成約を円滑にする |
法的拘束力の有無 |
一部条項にのみ法的拘束力を持たせる |
記載項目の例 |
|
法的拘束力を持たせることが多い条項は、デューデリジェンスへの協力義務や独占交渉権、善管注意義務、秘密保持義務などです。
買収条件についてはデューデリジェンスを経て変動する可能性があるため、法的拘束力を持たせないことが一般的です。
最終契約書(DA)の記載事項
最終契約書の概要や記載事項は以下のとおりです。
作成の目的 |
これまでの交渉・デューデリジェンス等、すべての結果をふまえて決定した正式な合意内容を記載し、M&Aの実施に向けて準備を整える |
法的拘束力の有無 |
法的拘束力を持つ |
記載項目の例 |
|
最終契約書は法的拘束力を持ちます。
契約を締結する前に、内容をよく確認してください。
M&Aを成功に導く5つのポイント
M&Aを成功させるための重要なポイントには、主に下記の5つが挙げられます。
- 信頼できるパートナーを見つける
- 迅速・周到に取り組む
- ステークホルダーと良好な関係を築く
- デューデリジェンスを怠らない
- 綿密な計画を立ててPMIに臨む
それぞれの成功のポイントについて、以下で詳しく解説します。
1.信頼できるパートナーを見つける
M&Aを実施することは、会社の未来を左右する重要な決断となります。
また、M&Aには専門的な知識が求められるうえ、会社経営と並行して準備を進めることになるため、独力のみで進めようとすると経営者に甚大な負担がかかります。
そこで大切なのが、信頼できるパートナーを見つけることです。
M&Aを進めるにあたってパートナーとなるのは、M&A仲介会社やM&Aに対応可能な士業などの、M&Aの支援機関です。
M&Aの支援機関は、M&Aの実施に必要なサポートを提供します。
特に、M&A仲介会社などのM&Aを専門として支援を行っている機関であれば、M&Aの相手探しからM&Aの成約までの全プロセスをサポートしてくれます。
M&A支援機関のサービス内容を比較したり、無料相談でのやりとりで誠実性を確認したりすることをとおして、会社の将来を任せられるベストパートナーを探しましょう。
2.迅速・周到に取り組む
M&Aを成功に導くためには、スピードと周到さの両方が必要です。
M&Aが選択肢に浮かんだら、できるかぎり早く動き始めましょう。
後回しにすると、「会社・事業が高く売れるタイミングを逃す」「事業承継が間に合わず廃業になる」などのリスクがあります。
まだ検討段階で、M&Aをするかどうかが決定していなくても構いません。
M&A仲介会社などのWebサイトから資料請求をしたり、初回の無料相談を利用したりして、情報収集をしてください。
さらに、M&Aには周到な準備が大切です。
M&A支援機関のサポートを受けながら、スケジュール策定や自社の実態把握、M&Aの戦略立案などのM&Aにまつわる準備を進めていきましょう。
また、専門家の知識・経験をもとにリスクヘッジをしてください。発生しうるリスクを洗い出して、対応方法を考えておきましょう。
3.ステークホルダーと良好な関係を築く
ステークホルダーとは、会社の経営に直接的および間接的に影響を及ぼし合う、利害関係者のことです。
ステークホルダーと良好な関係を築くことができれば、M&Aの成功がグッと近づきます。
M&Aにおける主なステークホルダーと各注意点は、下記のとおりです。
ステークホルダー | コミュニケーションにおける注意点 |
M&Aの相手企業 | 傲慢な態度はNG。買い手・売り手の立場にかかわらず、双方が真摯な態度で接する。 また、相互理解を深めてM&Aの相性を確かめるため、トップ面談を腹を割って話せる場にする。 |
経営者の親族 | 親族が出資者となっている場合、反対されると株式の譲渡ができず、M&Aが頓挫するおそれがある。事前に説明し、理解を得ることが大切。 |
経営陣 | 一般の従業員よりも早い段階でM&Aについて情報開示をする。 M&Aを選択することで得られるメリットや今後の経営計画などを詳細に説明し、経営陣が納得できるようにする。 必要に応じて、M&Aの相手企業のキーパーソンとの交流の場を設ける。 |
従業員 | 意図しないタイミングでM&Aの情報が漏れると混乱が生じてしまうため、情報が漏洩しないように徹底的な注意を払う。 M&Aの目的や戦略、M&A後の従業員の待遇などについてしっかり説明を行い、従業員の不安を取り除けるように努める。 必要に応じて、M&Aの相手企業にも説明会に参加してもらう。 そのほか、社内広報(インターナル・コミュニケーション)を活用することも効果的。 |
取引先の金融機関 | 経営者交代後の会社の返済能力が疑われる場合、金融機関が難色を示す可能性がある。懸念を払拭するため、譲受企業・譲渡企業の経営陣がともに取引先の金融機関に赴き、M&Aや返済能力に関する説明を行う。 |
取引先の企業 | M&Aを実施することが確定したあとに、取引先企業に赴き、M&Aや今後の取引について説明の場を設ける。 また、取引先企業との間にCOC条項(チェンジ・オブ・コントロール条項)が設定された契約がないかを確認する。必要に応じて、通知や契約内容の変更・解除、取引継続の交渉などに対応する。 |
株主 | 株主総会の実施義務がある場合は、規定に沿って実施する。 また、IR(投資家向け広報)を活用し、M&Aの実施を決めた意図や見込まれるシナジー効果、メリットを裏付ける根拠などを示し、株主が抱く疑問点・不安点を解消する。 |
顧客 | 顧客離れが起こらないよう、M&Aによる悪影響がないことや、M&A後の商品・サービスの内容や展開などについて詳しく説明する。 広範囲に情報を届けられるPR(広報)を活用することも有効。 |
ステークホルダーと適切なコミュニケーションを図り、M&Aを円滑に進行させましょう。
4.デューデリジェンスを怠らない
M&A成功の鍵を握るのが、「デューデリジェンス(買収監査、DD)」のプロセスです。
売り手企業の価値やリスクを把握するデューデリジェンスを怠った場合、M&A実施後に問題が発覚し、損失が出たりシナジー効果が得られなかったりするリスクがあります。
当該M&Aにおいて必要とされる範囲・レベルのデューデリジェンスを行い、リスクを軽減しましょう。
調査される側である売り手企業は、デューデリジェンスに対して誠実に対応してください。
都合の悪い情報を隠し、万が一あとから重大な問題が発覚した場合、信用を失ってM&Aが破談になったり、「隠蔽した」として訴訟されたりするおそれがあります。
会社の状況にネガティブな一面があったとしても、正直に伝えたほうが良策です。
5.綿密な計画を立ててPMIに臨む
M&Aを成功させるためには、M&A成約後に「PMI(ポスト・マージャー・インテグレーション、統合作業)」を行うことが必須です。
PMIを実施することによって、M&Aの目的の達成やシナジー効果の最大化が期待できます。
中小企業庁が2022年に公表した『中小PMIガイドライン~中小M&Aを成功に導くために』によると、PMIで取り組むべき領域は「経営統合」「信頼関係構築」「業務統合」の3つです。
引用元:中小企業庁『中小PMIガイドライン~中小M&Aを成功に導くために』第1章 中小PMI総論「1-1. PMIとは?」(令和4年3月)
PMIへの取り組みは、早い段階に始めることがおすすめです。
基本合意書の締結前やデューデリジェンスの実施時期などの段階において、譲受企業・譲渡企業でPMIに関する検討を始めましょう。
引用元:中小企業庁『中小PMIガイドライン~中小M&Aを成功に導くために』第1章 中小PMI総論「1-3. 中小PMIの全体像」(令和4年3月)
PMIは段階的・長期的な取り組みになります。
綿密なスケジューリングをしたうえでPMIに臨みましょう。
参照元:
中小企業庁『中小PMIガイドライン~中小M&Aを成功に導くために』(令和4年3月)
関連記事:PMIとは?意味やM&A後の統合プロセスをわかりやすく解説
M&A仲介会社の選び方
M&Aの仲介会社を選定するときにチェックするべき観点は、主に下記の12個です。
チェック観点 | M&A仲介会社の選び方のポイント |
サポート形式 | 両社の間に立って支援する「仲介型」か、どちらか一方を支援する「アドバイザリー型」、どちらを希望するかで選ぶ。 |
契約体系 | 複数の業者と契約してもよい「一般契約」か、1社のみに絞って契約することになる「専任契約」、どちらを希望するかで選ぶ。 |
支援内容・範囲 | 「相手企業の紹介だけしてほしい」「相談からM&A成約まで、すべてサポートしてほしい」「売却価額を上げるための支援も受けたい」など、希望する支援内容・範囲に沿ってを選ぶ。 |
対応の誠実さ | 相談段階のメール・電話でのやりとりや面談のなかで「自社にとっての最善策を考えてくれているか」「仲介会社側の利益を優先した案件紹介をされていないか」などを確認し、M&A仲介会社の誠実さを見極める。 |
専門家の在籍有無 | 各分野のデューデリジェンスに対応できる専門家が、M&A仲介会社に在籍あるいは提携しているかをチェックする。 |
報酬体系・手数料 | 着手金の有無や成功報酬の計算方法、料率など、各種支援サービスにかかる手数料を確認し、予算内で依頼できるM&A仲介会社を選ぶ。 |
取り扱う業種・業界 | 自社がM&Aを予定している業種・業界の案件の取り扱いがあるかどうかを確認する。 また、その業種・業界に強みを持つM&A仲介会社を選ぶ。 |
取り扱うエリア | 自社がM&Aを予定している地域の案件に対応しているかどうかを確認する。 もしくは、そのエリアで取り扱う案件数の多さを判断基準にする。 |
取り扱う会社規模 | M&A仲介会社が対応可能な会社規模(大企業や中小企業など)を確認する。 また、当該会社規模に強みを持つM&A仲介会社を選ぶ。 |
過去の実績 | M&A仲介会社のWebサイトや資料に載っている実績数や成約事例をチェックし、「経験の豊富さ」や「自社の状況に類似した事例があるか」を判断基準にする。 |
企業価値算定の方法 | 「算定方法は何か」「算定の根拠を説明してくれるか」を確認する。 |
情報の管理体制 | 情報管理が徹底されているかをチェックする。 |
M&Aは、会社にとって非常に大きな決断となります。
初回の相談を無料で受け付けている仲介会社も数多くあるため、複数のM&A仲介会社から話を聞いてください。
そして、M&Aの支援を安心して任せられるパートナーとなりうるのかを見極めましょう。
M&A仲介会社・サービスに支払う費用
ここでは、M&A仲介会社や仲介サービスなどを利用する際に発生する費用を紹介します。
成約までにかかる仲介手数料や雑費は、M&A不成立の場合にも返金されないことがほとんどです。
M&A仲介会社を比較・検討する際は、料金体系や金額設定に加えて、返金の有無についても確認しましょう。
M&A仲介会社・サービスにかかる費用の一覧
M&Aの支援依頼にかかる費用は、依頼先のM&A仲介会社・サービスが設定する料金体系によって異なります。
発生する可能性がある主な費用は、以下のとおりです。
費用の種類 | 概要 |
相談料 | 正式契約前に、顧客がM&A仲介会社に相談した際に発生する手数料。 相談料を無料に設定しているM&A仲介会社も多い。 |
着手金 | 顧客がM&A仲介会社と業務委託契約を締結したときに発生する手数料。 M&Aの初期段階にかかる費用として支払う。 |
月額報酬(リテイナーフィー) | 顧客がM&A仲介会社と業務委託契約を締結したあとからM&Aが成約するまで、顧問契約の意味合いで毎月支払う手数料。 M&A仲介会社で月額報酬を設定するケースは稀で、ファイナンシャルアドバイザーや経営コンサルタント系の企業がM&A仲介を行う場合に発生することが多い。 |
中間金 | 売り手企業と買い手企業の間で基本合意書を締結したタイミングで発生する手数料。 固定報酬として金額が設定されるケースと、成功報酬を基準に設定されるケースがある。 |
成功報酬 | M&Aの成約時に発生する手数料で、「レーマン方式」という計算方法によって算出する。 レーマン方式によって算出された金額あるいは仲介会社が設定した最低報酬額を、費用として支払う。 |
企業価値評価費用 | 企業価値評価(バリュエーション)にかかる費用。 売り手企業が自社の企業価値の算定を依頼するときや、買い手企業が買収対象の企業価値を確かめる際に発生する。 |
デューデリジェンス費用 | 基本合意書締結後に行われるデューデリジェンスにかかる費用。 買い手側がM&A仲介会社に対して支払う。 |
M&A成約までの諸費用 | 成約に向けてM&A仲介会社が行った業務に付随して発生した費用。 遠方の支店や工場を視察する際の出張費や、書類作成にかかる費用などが挙げられる。 |
上記の費用はすべてかかるわけではありません。
M&A仲介会社・サービスが設定している料金体系をチェックし、かかる費用を確認しましょう。
なお、完全成功報酬制を設定しているM&A仲介会社の場合、発生する費用は基本的に成功報酬のみです。
成約が確定するまで費用が発生しません。
M&A仲介会社・サービスにかかる費用の相場
M&A仲介会社・サービスにかかる費用のそれぞれの相場は以下のとおりです。
費用の種類 | 相場 |
相談料 | 無料~数万円 |
着手金 | 無料~200万円 |
月額報酬(リテイナーフィー) | 無料~200万円 (※支払いが毎月発生する) |
中間金 | 無料~200万円 または、成功報酬の10~20% |
成功報酬 | M&Aの成約規模により変動する |
企業価値評価費用 | 無料~数十万円 |
デューデリジェンス費用 | 200万円 (※買い手側が負担する) |
M&A成約までの諸費用 | 実費 |
M&Aにかかる手数料は法定報酬額が設定されていないため、依頼先の仲介会社やM&Aの規模によって金額は変動します。
複数のM&A仲介会社に問い合わせて、見積もりをとることがおすすめです。
成功報酬のレーマン方式の手数料率
成功報酬の算定方法として採用されているのは、レーマン方式です。
レーマン方式では、金額帯ごとに異なる手数料率が設定されています。
レーマン方式で用いられることの多い手数料率の例は下記のとおりです。
報酬基準額 | 手数料率 |
5億円以下の部分 | 5% |
5億円超〜10億円までの部分 | 4% |
10億円超〜50億円までの部分 | 3% |
50億円超〜100億円までの部分 | 2% |
100億円超の部分 | 1% |
成功報酬は、報酬基準額に該当する手数料率をかけることで算定します。
なお、成功報酬には最低報酬額が設定されていることが多いです。
レーマン方式を適用すると採算が合わないような小規模なM&A案件の場合、最低報酬額が支払い金額となります。
M&Aの企業価値評価の算定方法
企業価値評価(バリュエーション)の主な算定方法には、「コストアプローチ」「マーケットアプローチ」「インカムアプローチ」の3つがあります。
各アプローチ方法の概要・適した使用シーン・具体的な計算方法は、下記の表のとおりです。
コストアプローチ |
マーケットアプローチ |
インカムアプローチ |
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概要 |
純資産額をもとにして企業価値を算定する |
株式市場やM&A市場における価値と照らし合わせることによって企業価値を算定する |
将来的に生み出される収益・キャッシュフローにもとづいて企業価値を算定する |
使用シーン |
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具体的な計算方法 |
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M&Aアドバイザーは上記の手法から適切な算定方法を選び、企業価値評価を行います。
ここでは、各アプローチ方法の詳細と具体的な計算方法について解説します。
コストアプローチ
コストアプローチとは、貸借対照表の純資産額をもとにして企業価値を算定する評価方法です。
コストアプローチは、中小企業のM&Aや赤字企業のM&A、損失を出している事業のM&Aにおける算定方法として選択されることが多いです。
コストアプローチの代表的な計算方法には「簿価純資産法」や「時価純資産法」があります。
計算方法の名称 | 概要・特徴 |
簿価純資産法 | 簿価純資産法とは、貸借対照表の資産から負債を差し引くことで企業価値を算定する計算方法。 資産から負債を差し引いた額を発行済み株式総数で割ることにより、1株あたりの価値が算定できる。 |
時価純資産法 | 時価純資産法とは、企業が保有する資産および負債を時価で換算し、資産の時価評価額から負債の時価評価額を控除することによって企業価値を求める計算方法。 企業価値から有利子負債を差し引くと、株式価値を算定できる。 |
コストアプローチのメリットは、貸借対照表の数字を参考にするため、主観に左右されない算定結果が得られることです。また、計算方法が比較的簡単であることもメリットといえます。
コストアプローチのデメリットは、対象企業が将来的に生み出す可能性がある利益や、不動産の含み益を企業価値に反映できない点です。
関連記事:コストアプローチとは?種類や算出方法、メリットデメリットを解説
マーケットアプローチ
マーケットアプローチとは、株式市場における価値やM&A市場での取引事例と照らし合わせることで、企業価値を算定する評価方法です。
大企業のM&Aでの評価や、IPOも視野に入れたうえでM&Aを検討する未上場企業の評価によく活用されます。
マーケットアプローチの主な計算方法は「市場株価法」「類似会社比較法」「類似取引比較法」などです。
計算方法の名称 | 概要・特徴 |
市場株価法 | 市場株価法とは、株式市場の株価を基準にして株式価値および企業価値を算定する計算方法。 一時的な株価の高騰・暴落などの影響を排除するため、直近1~3ヶ月の終値の平均を参考にすることが多い。 |
類似会社比較法(マルチプル法) | 類似会社比較法(マルチプル法)とは、類似する上場企業を複数選び出し、その平均の企業価値を参考にして対象企業の企業価値を算定する計算方法。 類似した上場企業は、業種・業態・事業内容・規模などの観点から抽出する。 |
類似取引比較法 | 類似取引比較法とは、類似する複数の企業が過去に行ったM&A案件における取引価格をもとに利益倍率を算出し、それをベースに企業価値を算定する計算方法。 倍率には、一般的にEV/EBITDA倍率が利用される。 |
マーケットアプローチのメリットは、株式市場での価値や実際の取引を参考にするため、客観性が高いことです。
また、類似する上場企業および取引事例があれば、非上場企業のM&Aにおいても算定方法として利用できます。
マーケットアプローチのデメリットは、類似する上場企業や取引事例が見つからない場合は利用できないことです。
また、ビジネスモデルや成長ステージが異なる場合、対象企業の価値を反映しきれない点にも注意する必要があります。
関連記事:マーケットアプローチとは?メリット・デメリットや具体的な計算例を解説
インカムアプローチ
インカムアプローチとは、対象企業が将来的に生み出す収益・キャッシュフローの予想にもとづいて企業価値を算定する評価方法です。
大企業のM&Aや高い成長性がある会社のM&A、売却後も引き続き事業を運営する予定がある会社のM&Aなどのケースにおいて活用されます。
インカムアプローチの代表的な計算方法には「DCF法」「収益還元法」「配当還元法」があります。
計算方法の名称 | 概要・特徴 |
DCF法 | DCF法(ディスカウントキャッシュフロー法)とは、フリーキャッシュフローをもとに企業価値を評価する計算方法。 将来にわたり生み出すキャッシュフローを適切な割引率を用いて現在価値に割り引くことによって算定を行う。 |
収益還元法 | 収益還元法とは、毎年一定の予想平均利益を創出すると仮定し、資本還元率で割り引いて株価を算出する計算方法。 予想平均利益は、対象企業の事業計画書をもとに算定する。 |
配当還元法 | 配当還元法とは、株式1株あたりの配当金額を資本還元率で割り引くことで株価を算定する計算方法。 非上場企業の相続・贈与における株式評価のために用いられることが多い。 |
インカムアプローチのメリットは、将来的な収益力やシナジー効果を企業価値として評価できることです。
また、市場変動の影響を受けにくい点もメリットといえます。
インカムアプローチのデメリットは、将来的な評価のための予測をすることが難しいことです。予測の根拠が乏しい場合、恣意的なものとみなされ「客観性がない」と判断されてしまうおそれがあります。
インカムアプローチを活用する際は、説得力のある売上予測や事業計画を資料として用意する必要があるでしょう。
【売り手側】M&Aで発生する税金
ここでは、M&Aのスキームの中でも活用されることが多い「事業譲渡」と「株式譲渡」に着目し、売り手側の税務について解説します。
事業譲渡で売り手側が納める税金の種類
法人が事業を譲渡する際にかかる税金は「法人税等」です。
法人税等は、事業譲渡によって得られた譲渡所得(譲渡益)に対して課税されます。
課税対象 | 税金の種類・税率 |
事業譲渡によって生じる譲渡所得 | 法人税等:法定実効税率(※2023年1月時点で29.74%) |
法人税等の種類は以下のとおりです。
- 法人税(国税)
- 地方法人税(国税)
- 法人住民税(地方税)
- 法人事業税(地方税)
- 特別法人事業税(地方税)
法人税等には比例税率が採用されています。したがって、法人形態や企業規模などの区分ごとに定められた一律の税率が適用されます。
法人税等に適用される税率は法人実効税率で、2023年1月時点での税率は29.74%です。
厳密にいえば、該当する区分によって適用税率が異なります。あくまで概算となるため、正確な数字を算出したい場合は専門家に依頼するのが一般的です。
参照元:
財務省『6「法人税」を知ろう—もっと知りたい税のこと 令和5年7月』
国税庁『No.5759 法人税の税率』
総務省『地方法人税(国税)』
総務省『法人住民税・法人事業税』
東京都主税局『特別法人事業税』
財務省『法人課税に関する基本的な資料』
株式譲渡で売り手側が納める税金の種類
法人が保有する株式を譲渡するケースと、個人が保有する株式を譲渡するケースに分けて、発生する税金について解説します。
法人株主の場合
法人が保有する株式を譲渡した際に発生する税金は「法人税等」です。
法人税等は、株式譲渡によって得られた株式売却益に対して課税されます。
課税対象 | 税金の種類・税率 |
株式譲渡によって生じる株式売却益 | 法人税等:法定実効税率(※2023年1月時点で29.74%) |
法人税等には法人実効税率が適用され、2023年1月時点での税率は29.74%です。
ただし、法人によって変動する可能性があるため、正確な税率を知りたい場合は専門家に依頼しましょう。
個人株主の場合
個人が保有する株式を譲渡した際にかかる税金は、「所得税」「住民税」「復興特別所得税」の3つです。
これらの税金は、株式の売却益から経費を差し引いた「譲渡所得」に対して課されます。
課税方式は「申告分離課税」が適用されます。
課税対象 | 税金の種類・税率 |
株式の譲渡による譲渡所得 | 所得税:15% 住民税:5% 復興特別所得税:0.315% 【合計:20.315%】 |
税率は所得税は15%、住民税は5%、復興特別所得税は0.315%です。3つの課税率を合計すると20.315%になります。
なお、復興特別所得税は所得税額に対する付加税であり、2037年まで課税されることが予定されています。
参照元:
国税庁『No.1300 所得の区分のあらまし』
国税庁『No.2220 総合課税制度』
国税庁『No.2240 申告分離課税制度』
国税庁『No.1463 株式等を譲渡したときの課税(申告分離課税)』
【買い手側】M&Aで発生する税金
ここでは、M&Aの手法のうち「事業譲渡」と「株式譲渡」を実施する際の、買い手側の税務について解説します。
事業譲渡で買い手側が納める税金の種類
事業譲渡の際に買い手側にかかる税金は「消費税」「不動産取得税」「登録免許税」です。
これらの税金は、事業譲渡をとおして取得した資産に対して課税されます。
課税対象 | 税金の種類・税率 |
課税資産の譲渡価額 | 消費税:10%(※2024年4月時点) |
不動産の取得 | 不動産取得税:原則4% (土地・住宅家屋については2027年3月31日まで3%が適用) |
不動産の登記 | 登録免許税:原則2% (土地については2026年3月31日まで1.5%が適用) |
事業譲渡において発生する消費税の税率は10%(※2024年4月時点)で、課税資産の譲渡価額に対して課税されます。
譲渡対象に課税資産が含まれている場合に課税され、非課税資産に関してはかかりません。
課税資産と非課税資産はそれぞれ以下のとおりです。
課税資産 |
非課税資産 |
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|
不動産取得税の税率は原則4%です。
土地・住宅家屋を取得した場合は税率の特例が適用され、3%になります(※2027年3月31日まで)。
原則、取得した不動産の価額に対して課税されます。
宅地および宅地評価された土地を取得した場合は、課税標準額は価格の2分の1として計算することが可能です(※2027年3月31日まで)。
登録免許税の税率は原則2%で、土地に関しては1.5%です(※2026年3月31日まで)。
不動産の登記を行う場合に課税される税金で、不動産の価額が課税標準額にあたります。
参照元:
国税庁『営業の譲渡をした場合の対価の額』
国税庁『消費税のあらまし 2.どんな取引が課税対象?』
国税庁『No.6201 非課税となる取引』
国税庁『No.6102 消費税の軽減税率制度』
総務省『不動産取得税』
東京都主税局『不動産取得税』
国税庁『No.7191 登録免許税の税額表』
株式譲渡で買い手側が納める税金の種類
株式譲渡において、原則として買い手側に納める税金は発生しません。
ただし、算定される時価よりも著しく低い価額で株式を譲受した場合、課税される可能性があります。
取引価額によっては「贈与を得た」「受贈益を得た」とみなされて税金が発生するため、注意しましょう。
まとめ
M&Aとは、簡単にいうと「企業の合併と買収」のことです。2つ以上の企業が一つの法人になったり、会社の経営権・事業を売買したりします。
M&Aを実施することには数多くのメリットがあり、会社が抱える悩み事を解決してくれます。
M&Aの実施件数は年々増えており、2022年には過去最多となる4,304件をマークしました。
M&Aへの需要が高まるにつれて、国のサポートおよび民間の支援会社も増加しています。補助や支援機関を有効活用し、M&Aを成功に導きましょう。
M&AならレバレジーズM&Aアドバイザリーにご相談を
レバレジーズM&Aアドバイザリー株式会社は、M&A全般をサポートする仲介会社です。
各領域に精通したコンサルタントが在籍しており、M&Aのあらゆるプロセスにおいて的確なアドバイスを提供いたします。
料金体系はM&Aご成約時に料金が発生する完全成功報酬型です(譲受会社のみ中間金あり)。
ご相談も無料です。M&Aをご検討の際には、ぜひお気軽にお問い合わせください。