持株会社を新設して事業承継するメリット・デメリットは?流れも解説

2024年4月12日

持株会社を新設して事業承継するメリット・デメリットは?流れも解説

このページのまとめ

  • 持株会社には株式の分散や節税など3つのメリットがある
  • 持株会社には譲渡益に課税されるなど3つのデメリットがある
  • 持株会社は後継者が100%出資して新設する
  • 持株会社による事業承継で株価が引き下げられる

事業承継のスキームはいくつかありますが、その1つに持株会社を新設する方法があります。節税効果もあり、相続税対策に不安がある方は持株会社を活用したいと思っている方もいるでしょう。ただし、メリットだけでなくデメリットもあります。この記事では新設の流れや株価への影響なども含めて解説していますので、持株会社設立を検討している方はぜひ参考にしてください。

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持株会社とは

持株会社とは、他の会社の経営をコントロールする目的で、子会社として株式を保有する会社のことです。その会社を傘下に入れるため、ホールディングスカンパニーと呼ばれることもあります。
合併と混同されることがありますが、合併は複数の企業を1つにまとめることであり、統合された会社の法人格は消滅します。それに対して持株会社は、傘下の会社は別法人として残っているという違いがあります。

持株会社には、主に純粋持株会社と事業持株会社の2つがあります。

純粋持株会社株式を保有することを目的としており、子会社の指揮監督のみを行い事業は行いません。グループ全体の取りまとめ的な存在となり、子会社からの配当金のみが収益となります。
事業持株会社株式を保有し企業を統治するだけでなく、自社の事業も行います。子会社の管理だけではないので、自社の事業の利益が得られます。収益を子会社に依存することがないのが特徴です。

また、持株会社は事業継承を行う際に新設されることもあります。

事業承継のスキームには、いくつかあり、親族で承継するほか、第三者へのM&A、信託などがあり、持株会社を新設する方法はその1つです。

日本では親族で承継することが多いですが、必ずしも適した候補者がいるとは限らないですし、相続人が複数いるとトラブルになることもあります。そのため、近年、持株会社を活用して事業承継するケースが増えてきました。

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持株会社を活用して事業承継を行うメリット

持株会社を活用した事業承継のメリットは、主に次の3つが挙げられます。

  1. 株式の分散を防げる
  2. 融資を受けやすくなる
  3. 節税につながる場合がある

それぞれについて解説します。

1.株式の分散を防げる

持株会社を設立する方法では、既存の会社の株式を後継者の持株会社が引き継ぐことになりますので、先代経営者の株式は遺産に含まれず相続が発生しません。事業を承継した後継者に経営が集約され、スムーズに事業を継続できます。

相続によって事業を承継すると遺留分が発生し、後継者以外の相続人にも株式が分配されてしまう可能性があります。思うように経営を行うことができなくなり、事業が不安定になるリスクがあります。しかし事前に持株会社を設立しておけば後継者に株式を集中させることができます。先代の株式を保有しているのは持株会社だけになりますから、相続争いのような問題が起こりにくいでしょう。

2.融資を受けやすくなる

通常、返済に利用できる財源が明確に提示できないと融資を受けることは難しいです。

しかし、持株会社を活用した事業継承の場合、持株会社の子会社から定期的な配当を受けることができるため、返済能力が認められ融資を受けやすくなります。

事業継承する候補者の立場に立っても、融資が受けられることは非常に魅力的で、事業継承を受けてもらえる一つの大きな要素となります。

後継者問題が叫ばれる中、持株会社を活用した事業継承を検討することで、後継者問題が解消されることも大いに期待できます。

3.節税につながる場合がある 

通常の相続税は、最大55%の税率がかかります。相続する資産額によっては後継者に重い負担がのしかかるでしょう。先代が死亡時点まで株式を保有していると資産の評価が上がり、相続税も高くなってしまいます。

2010年の税制改正により、100%経営権を持っている子会社からの配当には課税されなくなりました。つまり持株会社にすれば、先代の経営者が亡くなったとしても、株は譲渡して現金化されています。持株会社に納税の義務はなく、相続税が発生しないことになります。
先代経営者にはおよそ20%の譲渡益課税が生じるものの、相続税や贈与税と比べれば大幅な節税効果を見込めます。

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持株会社を活用して事業承継を行うデメリット3つ

持株会社を新設することで事業承継を行う方法には、以下のようなデメリットも存在します。

  1. 融資の返済が滞る場合がある
  2. 譲渡益に課税される
  3. 節税対策として否認される場合がある

それぞれ、詳しく説明します。

1.融資の返済が滞る場合がある

持株会社を設立して株式の譲渡を受ける際に、後継者が十分な資金を保有していれば特に問題はありませんが、そうでない場合は資金調達が必要です。融資を受けるということは借金をするということです。持株会社が多額の借金を抱えることになるのは、デメリットの1つでしょう。

また、資金を借りれば必ず返済をしなければなりません。その返済の財源となるのは会社の配当金です。事業会社の運営が順調で十分な配当金があればよいのですが、収益性が低い場合は注意が必要です。配当金が少ない場合、返済が滞る可能性がありますので、事業承継の際は問題なく返済していけるのか、十分に検討する必要があるでしょう。少なくとも、返済が滞らない程度の利益を上げていかなくてはならないということです。

2.譲渡益に課税される

譲渡益とは、先代経営者が持株会社に株式の譲渡を行う際、当初の購入代金よりも高い金額で譲渡した時に出る利益のことです。
この譲渡益には譲渡所得税が課税されます。

譲渡所得税額 = (株式売却価格株式取得費売却にかかる手数料)×(20%+2.1%)

相続税や贈与税は受け取る側に納税義務がありますが、持株会社に株を譲渡する場合は、譲渡する側に課税されます。先代経営者は、この譲渡所得税を引いた金額を受け取ることになります。

なお、譲渡益に対しておよそ2割の税金がかかりますので、場合によっては相続税・贈与税の方が低くなるかもしれません。事業承継の際は、資産価値と税率についてもよく比較検討する必要があります。

3. 節税対策として否認される場合がある

事業を円滑に譲渡することや、株式を保有することでその会社の経営を掌握するという本来の目的が先にあれば特に問題はありません。
しかし、持株会社の設立が節税対策であると税務署に判断された場合、申告内容を否認され、課税対象となってしまうことがあります。

これは相続税法第64条があるためで、たとえば先代経営者が持株会社を設立し意図的に株価を下げる行為は「相続税又は贈与税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがある」と判断される恐れがあります。

どうすれば否認されないか明確な基準はわかっていませんが、持株会社を設立する際には専門家とよく協議の上、このスキームを選択した合理的な理由を説明できるようにしておきましょう。

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事業承継のために持株会社を新設する流れ

ここからは、事業承継のために持株会社を新設する手順について説明します。

  1. 後継者が持株会社を新設する
  2. 金融機関から融資を受ける
  3. 事業会社の株式を購入する
  4. 譲渡承認を請求する
  5. 持株会社で承認手続きを行う

手続きをスムーズに進めるためにも、流れをよく理解しておきましょう。

1.後継者が持株会社を新設する

最初に行うのは、持株会社の設立です。後継者が100%出資をして持株会社を新設することによって、子会社の議決権を後継者が承継できるようになります。
持株会社を設立するためには、通常の会社を設立するのと同じく、収入印紙代や登録免許税など25万円程度の費用がかかります。手続きを司法書士など専門家に依頼する場合には、5万円ほどプラスになるでしょう。

そのほかに承継元の株式をすべて譲受するための資金が必要です。後継者は持株会社の株式を保有することで、子会社を支配できるようになるため、この「100%出資」という点が事業承継の重要なポイントです。

2.金融機関から融資を受ける

持株会社設立には、承継する会社のすべての株式を譲受できるだけの資金力が必要です。金額が大きいため、金融機関から融資を受けるのが一般的です。個人で大きな金額を借りるのは難しいかもしれませんが、持株会社として融資を受けるなら問題ないでしょう。

ただし、融資を受けられるかどうかは、承継する会社の業績次第という面もあります。あまりに業績が悪い場合は融資が否決される恐れもありますので、良好な状態であることが望ましいです。

なお、融資を受けるためには取締役会の承認が必要です。これは会社法第362条4項1号によって「多額の借財」について取締役に委任できないとされているためで、取締役会がなく、取締役が複数いる場合には取締役の過半数の同意が必要です。

3.事業会社の株式を購入する

資金調達ができたら、持株会社が事業会社の株式を購入します。事業会社と持株会社の間で株式譲渡契約書を作成し、持株会社が株式を取得することで事業会社の子会社化が完了します。

株式譲渡契約書を作る際には、以下の点について確認が必要です。

  • 株式発行会社か株式不発行会社か
  • 譲渡制限株式かどうか
  • 株式譲渡の目的をどこまで記載するか

株式発行会社かどうかは、定款または会社の登記事項証明書で確認できます。株式発行会社になっていると、譲渡の際に株券を買主に渡さなくてはなりません。この手続きがないと譲渡が無効になりますので注意しましょう。

譲渡制限株式の場合、譲渡についての承認が必要となります。

4.譲渡承認を請求する

株式を譲受したら、事業会社に譲渡承認を請求する手続きを行います。株式の譲渡について、会社の承認が必要である旨の定款がある場合、承認を得なければ株主名簿の書き換えができないため、この手続きが必要となります。上場していない会社では、この承認手続きが必要な会社がほとんどです。

手続きの流れは以下の通りです。

  • 譲渡承認の請求を行う
  • 承認決議をする
  • 承認したことを通知する

譲渡承認の請求については、2つの方法があります。1つは、先代経営者が譲渡承認の請求をする方法です。先代経営者は単独で承認請求ができますが、持株会社が株式を買い取る契約を行う前に、この請求をしなければなりません。株式数と譲受人を明示して請求をします。
もう1つは、後継者が持株会社として先代経営者と一緒に請求する方法です。こちらは、株式を譲渡したあとに行います。先代経営者が請求するのと同様に、株式数と譲受人を明示して請求をします。

承認請求がなされたら、取締役会がある会社なら取締役会で、ない場合には株主総会で譲渡を承認するかどうかの決議を行います。

譲渡の承認を決定したら、単独請求の場合は先代経営者へ、共同請求の場合は先代経営者と持株会社へ結果を通知します。この通知によって、譲渡承認手続きが完了します。
なお、会社法では、承認請求から2週間以内に通知がない場合には承認されたものとみなします。

5.持株会社で承認手続きを行う

事業会社での承認が済んだら、持株会社でも承認手続きを行います。重要な財産の譲受には取締役会の承認が必要です。取締役会がある場合は取締役会で、取締役会がなく、取締役が複数いる場合は過半数の同意を得て承認手続きが完了します。

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持株会社による事業承継が株価に与える影響

持株会社には2つあることを最初に説明しましたが、純粋持株会社の場合は、事業を行わず株式の保有を目的とした会社であるため、収益性は低くなります。
そのため、たとえ事業会社の収益が高かったとしても、収益性の低い持株会社の子会社となることによって、子会社の株価は引き下げられます。

子会社の株価が引き下げられることにより株価の上昇を抑える効果もあるため、譲渡にかかる所得税の節税対策としても非常に効果的です。
ただし、総資産の50%以上が株式等に分類される株式保有特定会社などに該当すると、評価額を抑制することができませんので注意が必要です。

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まとめ

持株会社を活用して事業承継を行うと、株式を分散することで相続が発生しない、節税につながるなどのメリットがあります。一方で、十分な配当がないと融資の返済が滞るなどのデメリットもあります。持株会社を新設するには、株式を譲受するために融資を受けるのが一般的ですが、それには取締役会の承認が必要です。譲渡承認の請求、持株会社での承認手続きなどスムーズに進めていくためにも流れを理解しておくことが大切です。

レバレジーズM&Aアドバイザリー株式会社は、各分野に精通したコンサルタントが在籍しており、どのような規模のM&Aにも対応が可能です。もちろん、事業承継の課題についても的確なアドバイスを提供いたします。初期のご検討から成約までトータルでサポートをさせていただいておりますが、完全報酬型ですので成約まで料金は発生いたしません。経験豊富なコンサルタントが対応いたしますので、ぜひお気軽にご相談ください。