このページのまとめ
- 合併特例債とは自治体が合併する際に借り入れできる国の優遇措置
- 合併特例債の上限額は合併後の人口や増加する人口、市町村数から算出される
- 合併特例債の再延長措置とは、合併特例債の発行期限を再延長するもの
公共事業を充実させるべく合併特例債を活用しても「思ったより人口や税収が増えない」とお悩みの自治体もあるのではないでしょうか。
合併特例債の活用においては、合併後の自治体によって大きく明暗が分かれているのが現状です。多額の事業費を投じたのはよいが、利子を含めた返済がのしかかっていることで財政危機を迎えている自治体もあります。
本コラムでは、そもそも合併特例債とは何なのか、活用するメリットや成功事例・失敗事例について詳しく解説します。
目次
合併特例債(がっぺいとくれいさい)とは
合併特例債とは、市町村が合併する際に必要となる公共施設の整備費用へ使用可能な地方債(自治体による借入)を意味します。市町村が合併するためには、新しい市役所の設立や公共交通機関の整備などさまざまな費用が必要となるのです。
市町村の合併は多額の経費が必要なため、地方自治体における単年度の予算だけでは、財政難となってしまう可能性が高いのが現状です。合併によってできた新しい自治体は、お金を借りられるようになり、公共施設整備の費用に充てられるのです。
借入が可能な額は、対象の事業に必要な95%を上限とし、期間は最大20年(被災地では25年)が設けられており、有効に活用している自治体が多くあります。
以下では、合併特例債に関して詳しく解説していきます。
合併特例債の対象事業
合併特例債の対象事業は、市町村の合併に伴う事業であれば何でもよいわけではありません。
例えばどのような事業が対象なのか、以下の表にまとめました。
合併特例債の対象 |
具体的な内容 |
公共施設の整備 |
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地域振興のための基金 |
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地方公営企業への出資や補助 |
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合併特例債は、「合併に伴って特に必要になる事業に充当できる」と限定されています。合併によって一時的に経費がかさむことへ国が支援を行うことで、新自治体へと移行できるようにするものです。
合併特例債の対象外となる事業
合併特例債の対象外となるのは以下にあげる事業です。
合併特例債の対象外事業
- 収益性のある施設の整備
- 特定受益者のための施設の整備
- 土地の取得のみを目的とした事業
- 一定水準を超えた高額な建築費用
- 民間と競合する施設の整備
合併特例債の上限額
合併特例債を活用できる事業の目安として、合併後の人口や増加人口、合併関係市町村数などから標準全体事業費を算出して事業費が設けられます。
例えば、3町が合併する場合、合併特例債の上限額は141億3,000万円とされ、財政計画で計上している借入見込み額は64億4,000万円(上限額の45.6%)となります。
合併特例債を活用した主な事業として、幹線道路の整備や防災行政用無線の統合、地域巡回バスの更新や消防ポンプ自動車・屯所の整備が挙げられます。
また、合併後における地域振興等のために積み立てる「地域振興基金」の基金上限額は、 19 億 1,000 万円となっています。
「新しい市の速やかな一体性と確立を図る」「均衡な発展に役立てる」ことが、本来の合併特例債の目的です。借り入れた資金は、公共施設の建設や整備に充てるという基本方針に基づいているのです。
合併特例債における優遇措置
通常、国からの地方交付税は年度ごとに算出し交付されます。合併特例債には、合併後に地方交付税が減少しないようにする優遇措置があります。
合併後に算出した地方交付税は、合併前よりも少なくなります。そのため、公共事業へ使用する資金が足りなくなる可能性があります。よって、特例として合併前の市町村ごとに必要な資金を算出し、合併前と合併後で金額の多い方を交付する仕組みとなっています。
合併特例債の再延長措置とは
合併特例債の再延長措置とは、合併特例債の発行期限を再延長するものです。
合併特例債が開始した1999年当初は、2005年までに合併した自治体を対象に10年間の借入(合併特例債の発行)が可能でした。しかし、2011年の東日本大震災をきっかけとして、被災地は合併後の20年間、被災地以外は15年間の借入が可能になりました。
さらには2018年、発行期限の再延長が決まり、被災地は25年、被災地以外については20年にまで延長されました。
このことによって、被災地においては2024年まで合併特例債の発行が可能となったのです。
市町村や自治体が合併特例債を利用するメリット
新自治体が合併特例債を活用するメリットは以下の通りです。
合併特例債を利用するメリット
- 通常では行えない大規模な公共事業が行える
- 自治体の財政の健全性を維持できる
地域活性化を実現できなかった地方自治体は、新たな公共事業を行えない財政状況でした。合併特例債を利用することで、大規模な公共事業が行えるようになり、人口や税収を増加させることで財政の健全性を維持できるようになります。
通常では行えない大規模な公共事業が行える
合併特例債を活用する大きなメリットは、債券償還額(返す必要があるお金)の70%を国が担ってくれることです。合併前では実施できないような、大規模なトンネル工事や橋りょう工事、道路や総合公園の建設もできるようになるのです。
同じような目的の施設が重複しないよう、公共施設を整備することも可能です。例えば、合併対象の「A町」には文化施設があるため「B市」には体育施設を建設するなど、合併後の市町村全体の公共事業のバランスをとることもできます。
自治体の財政の健全性を維持できる
合併によって生じた債務が多額になる場合、合併特例債の活用によって債務の再編成を行うことで、財政の健全性を維持することができます。
得られた資金は、自治体が持続的に発展し、安定した健全な財政運営を維持するために効果的に活用する必要があります。
市町村や自治体が合併特例債を利用するときの注意点
合併特例債を新自治体が活用する際の注意点は以下の2つです。
合併特例債を利用するときの注意点
- 必ずしも合併の効果が得られるとは限らない
- 自治体の財政を圧迫する可能性もある
それぞれ解説します。
必ずしも合併の効果が得られるとは限らない
良いことばかりに聞こえがちの合併特例債ですが、必ずしも合併の効果が得られるとは限らない点には注意が必要です。合併特例債は70%を国が負担してくれますが、30%については地方自治体に返済の義務があります。
当初の想定よりも、合併したことの効果を得られなかったようなケースでは、結果的に多大な借金を背負うことになるのです。
大規模なトンネルや道路の建設を実施したとしても、思ったように人口や税収の増加が見込めないケースも多くあります。その地域の住民が、本当に必要で快適な暮らしができる環境の整備を実現できる自治体と、そうならないケースがあります。
結果的に途方もない年月において返済に追われ、財政難となっている自治体もあることが現実なのです。
自治体の財政を圧迫する可能性もある
合併したにもかかわらず、新しい市や町において財政危機に直面しているケースも実際にあります。合併特例債の活用によって、さまざまな施設整備が認められたことによって、必要性が疑問視されるような公共事業が多く実施されたのです。
例えば、中津市と下毛郡の4町村が合併したケースでは、2000年末の地方債合計額は「372.9億円」に達し、それに匹敵する地方債「310.6億円」を合併後10年間で発行するという、借金返済が自治体財政を圧迫する状況なのです。
このようなムダ使いともいえる状況によって、地方自治体の財政危機、ゆくゆくは財政破綻に結びつきかねない事態となっているのです。
参照元:総務省「合併特例債等の試算」
市町村や自治体が合併特例債を活用した事例
ここでは、実際に自治体が合併特例債を活用した事例について、成功例と失敗例をそれぞれ紹介します。
【成功事例1】沖縄県宮古島
2020年3月の時点で、宮古市の合併特例債の発行限度額は、上限枠である216億7,000万円に達しています。それまで、葬祭場建設などさまざまな事業へ合併特例債を活用しました。
宮古市は、合併特例債の利用によって以下に挙げるさまざまな事業を展開しています。
- 市立学校などの教育施設
- 図書館
- 葬祭場
- コールセンター事業
- ごみ焼却炉施設
- し尿下水道整備
- 中央公民館の機能を兼ね備える「未来創造センター」
- ごみ焼却施設の事業完了後に開始される「リサイクルプラザ」
- 総合庁舎の建設
総合庁舎の建設においては「58億3,700万円」、未来創造センターは「43億円」を借り入れています。
宮古市の合併特例債は上限額に達していますが、合併による優遇措置を最大限に活かした成功事例といえます。
参照元:宮古島市ホームページ「宮古島市総合庁舎整備事業」
【成功事例2】香川県三豊市
地方交付税の減額に備え、香川県三豊市は行政サービスの見直しを実行しました。具体的には、定年退職した市民が一体となって「まちづくり推進隊」を結成し、市の業務に対して有償ボランティアとしてさまざまな活動をしています。それにより三豊市は、職員の人件費を大きく削減できるようになりました。
以下の表は、三豊市と類似団体(全国の市町村を人口と産業構造を基に類型化したもの)を比較し、財政状況の推移を表したグラフです。
参照元:三豊市「財政指標の推移」
三豊市の標準財政規模は、類似団体に比べて常に高い水準をキープしています。
また以下のグラフは、地方交付税や市税のように、経常的に毎年度使用できる収入(経常一般財源収入)が、公債費や人件費などの経常経費にどの程度充てられているかを表しています。
参照元:三豊市「財政指標の推移」
2011年(H23)から経常収支率を順調にのばしていき、2015年(H27)にはいったん下がるものの2018年(H30)には類似団体の平均値を超えるようになりました。
三豊市は、合併特例債をうまく活用することで財政状況を好転させた良い成功例といえます。
【失敗事例】兵庫県篠山市
篠山市は合併特例債を利用することによって、以下のような、さまざまな施策を展開しました。
- 文化施設の整備(田園交響ホール、総合運動公園、中央図書館の建設)
- 教育施設の整備(生涯学習施設、小・中学校の改修)
- 都市基盤整備(公共下水道、駅前広場、丹波の森構想、都市公園)
その他、県営水道導入事業(水道会計出資金)では「40億円」、広域道路ネットワーク整備事業では「20億円」の事業費を投じるなど、多額の投資を行いました。
しかし、合併後においても人口や財政が伸びなかったために、篠山市は財政危機に陥ってしまったのです。当時の関係者への聞き取り調査では、「合併後は用意ドンで事業が進んだともいえる」という声が上がっています。
篠山市は平成の大合併の際、最初に合併を行った自治体です。篠山市の場合は、ただ合併することだけが目的となってしまい、篠山市に住む人々の生活や働く環境について予測やシミュレーションが足りなかったことが失敗の要因と見られています。
参照元:全日本自治団体労働組合「篠山市合併検証報告」
まとめ
合併特例債の活用によって、地方自治体はさまざまな公共事業の新規展開、既存施設の改修を行っています。借入をうまく活用することで、似たような規模の自治体よりも、高水準の財政規模を継続している自治体もあります。
しかし、合併後における人口や税収の増加を見込めず、財政危機を迎えてしまう地方自治体があることも事実です。合併特例債は、長期の返済期限を見据えた計画的な活用が求められるのです。