吸収合併の存続会社とは?吸収合併のメリットや手続きの手順を紹介

2024年4月10日

吸収合併の存続会社とは?吸収合併のメリットや手続きの手順を紹介

このページのまとめ

  • 吸収合併の存続会社とは、消滅会社が持つ権利義務を全て受け継ぐ会社のこと
  • 吸収合併のメリットには、事業の拡大・ブランド力強化・シナジー効果がある
  • 吸収合併の注意点として、従業員のモチベーション低下やコストに配慮が必要となる

吸収合併における「存続会社」とは、売り手側の資産や負債、従業員などを受け継ぐ「買い手側会社」のことを指します。合併を検討する際には、メリットや注意点を始めとした基本的なポイントを押さえておくことが大切です。

この記事では、吸収合併について詳しく解説します。これから吸収合併を検討している人に役立つ情報をご紹介しますので、ぜひ参考にしてください。

M&Aに関する資料を
無料でダウンロードする

吸収合併における存続会社とは

吸収合併とは、売り手側の資産や負債、従業員などの全てを買い手側が受け継ぐ合併のことです。吸収合併した場合には、「買い手=存続会社」「売り手=消滅会社」と呼ばれます。また、合併によって売り手側の法人格はなくなります。

例えば、事業拡大を狙って大規模企業が小規模企業を買収する場合や、人材の効率的な活用を目的に親会社が子会社を取り込む場合などに吸収合併が選択されるケースが少なくありません。

吸収合併と同じような言葉で「新設合併」があります。会社法における新設合併の定義は、「二つ以上の複数の会社が行う合併であり、それに伴って消滅してしまう会社の権利や義務を新しく設立する会社に承継させる」ことです。新設合併の場合、新設された会社に消滅会社の株式など全ての権利や義務を引き継ぎます。

参照元:会社法「第七百五十三条

存続会社

「存続会社」とは、吸収合併の買い手側として消滅会社の資産や負債などの全てを受け継ぐ企業のことを指します。存続会社のメリットは、「消滅会社」が蓄積してきた技術やノウハウ、人材などをその後の事業運営に役立てられることです。

また、存続会社は販路やシェア拡大に加え、将来的な成長性や資本力を対外的にアピールできます。合併後は、消滅会社の財産が承継され、従業員間の契約も存続会社に引き継がれるのが基本です。

消滅会社

「消滅会社」とは、合併に伴って消滅する売り手側の会社のことです。資産だけでなく負債も存続会社が受け継ぐため、清算手続きを行わずに済むメリットがあります。

例えば、子会社が消滅会社として親会社に合併される場合は、親会社の経営資源を利用しやすくなります。

なお、消滅会社は合併後に法人格が失われます。

M&Aに関する資料を
無料でダウンロードする

吸収合併のメリット

これまでは別々だった会社が一緒になることで、事業規模の拡大やブランド力の向上につながります。シナジー(相乗)効果にもつながり、より安定した企業運営が可能になるでしょう。

吸収合併のメリットは、以下の通りです。

  • 事業規模の拡大が期待できる
  • ブランド力が向上する
  • シナジー効果が得られる

メリットを具体的に確認し、吸収合併を検討する際の参考にしてください。

事業規模の拡大が期待できる

複数の企業が一つになり、事業規模の拡大につなげられる点が吸収合併のメリットです。消滅会社の取引先や人材、販路などを引き継ぐことによって、低コストで事業規模を拡大できます。

事業規模の拡大によって得られるメリット(スケールメリット)はさまざまです。例えば、事業規模の拡大に伴って大量仕入れや大量生産が可能になれば、コスト削減につながるでしょう。また、合併した企業がそれぞれに持っていた商品やサービスを取引先へ新たに提案できるようになるため、取引の幅も広げられます。

ブランド力が向上する

それぞれにブランド力を持った会社同士が吸収合併すれば、ブランド力を強化できる点も大きなメリットです。ブランド力が高まれば資金調達がしやすくなり、株式会社の場合は株価が上がる可能性もあります。

また、働く側にとって魅力的なブランド力を備えていれば、優秀な人材も確保しやすくなるでしょう。そのため、吸収合併後に合併前のブランド名を残すケースも少なくありません。また、意外な会社同士の合併で世間の注目を集め、ブランド力の向上につなげるケースもあります。

シナジー効果が得られる

シナジー効果とは、足し算以上の相乗効果が期待できることです。

例えば、事業提携を行っているA社とB社が吸収合併した場合、事業提携時には共有できなかった独自技術をお互いに活用できるようになり、新商品や新サービスの開発に役立てられます。また、両社で重複している事業コストを削減し、他の事業に必要な資金を回せるようにもなるでしょう。

「1 + 1=2」ではなく、3にも4にもなるような効果を期待できるのが吸収合併のメリットです。

M&Aに関する資料を
無料でダウンロードする

吸収合併の注意点

さまざまなメリットがある吸収合併ですが、合併の際には気をつけておかなければならないこともあります。吸収合併の注意点は、以下の通りです。

  • 文化や風土の不一致による社員のモチベーション低下に注意
  • 吸収合併にはコストがかかる

従業員へのケアやコスト面の配慮を欠かさず、合併を検討することが大切です。具体的な注意点を確認し、リスクを抑えましょう。

文化や風土の不一致による社員のモチベーション低下に注意

異なる文化や風土を持つ会社が1つになることで、新しい価値観に馴染めず社員のモチベーションが下がる場合があります。以前よりも働きづらくなったことで、優秀な人材が流出する可能性も否定できません。

そのため、吸収合併後の従業員に対する配慮は重要なポイントです。例えば、合併前にお互いの企業文化をリサーチし、情報収集と周知に努めると良いでしょう。従業員のインタビューなどを実施し、企業文化や風土について細かな部分まで伝えることが大切です。

吸収合併にはコストがかかる

吸収合併にあたっては、小規模のケースで数百万円、中規模以上のケースで数億円のコストが発生すると言われて。例えば、債権者・株主対応に必要な費用や、合併の専門家に支払う費用、企業内の設備整備費用などが主なコストです。

コストを抑えるために、公的な補助金を活用する方法があります。日本では、事業継承を行う中小企業を対象とした事業承継・引継ぎ補助金制度が実施されていますので、利用を検討してみてはいかがでしょうか。

参照元:経済産業省「事業承継・引継ぎ補助金

M&Aに関する資料を
無料でダウンロードする

吸収合併存続会社側の手続き

吸収合併に伴う全ての手続きを滞りなく終えるためには、基本のステップを確認しておくことが大切です。吸収合併の存続会社側の手続きは、以下のとおりです。

  1. 合併契約書を締結する
  2. 合併契約書を事前開示する
  3. 株主総会で承認を受ける
  4. 官報公告を行う
  5. 株主を保護する
  6. 債権者を保護する
  7. 吸収合併成立後の手続き
  8. 事後開示
  9. 吸収合併に関する登記の変更

手続きの流れを把握しておけば、株主や債権者といった関係者への対応もスムーズに行えるようになります。各手続きの詳細は後述しますので、参考にしてください。

1.合併契約書を締結する

合併契約は、消滅会社と存続会社の間で締結します。主に記載する項目は、以下の通りです。

  • 消滅会社と存続会社の商号、本店
  • 消滅会社の株主に対し、存続会社が付与する対価に関連した事項
  • 吸収合併の効力が生じる日

契約書を作成したら、消滅会社と存続会社の取締役会で承認を得ます。問題なく承認されたら、正式に契約を締結しましょう。

2.合併契約書を事前開示する

債権者保護などの観点から、消滅会社と存続会社は合併契約書を始めとした書類を本店に備え置く必要があります。開示する内容は法律で定められているため、事前に確認しておきましょう。

開示内容は、以下の通りです。

  • 契約の概要
  • 対価の相当性に関連した項目
  • 新株予約権の取り決めの相当性に関連した項目
  • 消滅会社の財産状況に関連した項目
  • 存続会社の財産状況に関連した項目
  • 合併の効力が生じた日以降の存続会社の債務履行の見通しに関連した項目

書類は、株主総会の2週間前までに本店に備え置きます。消滅会社は合併の効力が発生する日まで、存続会社は効力が発生した日から6ヶ月後まで開示してください。

3.株主総会で承認を受ける

契約の効力が発生する前日までに、株主総会で承認を受ける必要があります。公開会社は総会の1週間前まで、公開会社は株主総会の2週間前までに招集通知を発送するのが原則です。電子投票や書面投票を採用する場合は、開催日の2週間前までに通知を行ってください。総会では、特別決議によって合併の承認を受けます。

4.官報公告を行う

債権者に吸収合併について知らせるため、官報公告を行います。合併を知らせる旨だけでなく、債権者からの異議申し立てを受けつけることも周知しましょう。

電子公告と官報公告で周知していれば、債権者への個別通知は行わなくても問題ありません。ただし、合併についてきちんと債権者へ伝えるために、個別で通知を送る企業も多いです。

5.株主を保護する

合併に際しては、反対する株主にも通知を送りましょう。合併は多数決で承認されますが、株主が不利益を被らないように保護を目的として、反対株主は保有株式の買取を請求することもできます。請求可能期間は合併の効力が生じる20日前までです。

6.債権者を保護する

債権者保護の観点から、個別通知や官報公告で異議申し立てが可能であることを周知しましょう。合併による損害がなく、期限内に異議を出さないのであれば合併を承認したことになります。仮に債権者に損害が出る見通しがある場合は、異議申し立てに即した保護手続きを開始してください。

7.吸収合併成立後の手続き

吸収合併の効力が生じた後は、事後開示書面の備え置きや、登記申請手続きを行わなければなりません。なお、合併後は存続会社から消滅会社の株主に対価を払います。存続会社の株式を対価とするのが基本ですが、現金や社債、新株予約権などで払うケースもあります。

8.事後開示

合併の効力が生じた日以降は、存続会社の本店に開示書類を6ヶ月間備え置くことが法律で定められています。書類に記載する項目は、以下の通りです。

  • 合併の効力が生じる日
  • 登記日
  • 消滅会社の法定手続きに関連した項目
  • 権利義務に関連した項目

9.吸収合併に関する登記の変更

合併の効力が生じた日から2週間以内に、存続会社の変更登記を行います。登記申請にあたっては、収入印紙や登録免許税といった費用がかかるため、事前に準備しておきましょう。

存続会社の場合、合併によって増えた資本金に1,000分の1.5を掛けた金額が登録免許税の額です。ただし、算出金額が3万円未満のときは、一律3万円を登録免許税として支払います。

登記に必要な書類は、以下の通りです。

  • 変更登記申請書
  • 合併が承認された株主総会の議事録
  • 合併契約書
  • 債権者保護手続に関連した書類
  • 消滅会社の債権者保護手続に関連した書類
  • 消滅会社の登記事項証明書
  • 消滅会社の株主総会議事録
  • 消滅会社の取締役会議事録
  • 消滅会社による登記委任状

また、変更登記の際には消滅会社の解散登記も併せて行います。必要な書類は、解散登記申請書だけです。登録免許税として3万円を支払います。

参照元:国税庁「登録免許税の税額表

M&Aに関する資料を
無料でダウンロードする

吸収合併の成功事例

ここでは、有名企業の吸収合併の成功事例をご紹介します。吸収合併を検討する際の参考にしてみてください。

吸収合併の成功事例1:三菱UFJリースと日立キャピタル

2021年、リース事業を手掛ける三菱UFJリースを存続会社、日立キャピタルを消滅会社として吸収合併を通じた経営統合の契約を締結した事例です。長期化する低金利などの影響により、リース事業は苦境に立たされている状況にありました。

さらに、新型コロナウイルスの影響により事業運営が厳しくなったため、両社は吸収合併による経営力強化を図ることになたのです。合併後は、両社のネットワークを活用することで、年間100億円程度の収益シナジーが期待されています。

参照:三菱HCキャピタル「経営統合後の主要株主に関するお知らせ

吸収合併の成功事例2:日本製紙

製紙業を手掛ける日本製紙を存続会社は2012年、子会社の日本紙パック・日本大昭和板紙・日本製紙ケミカルを消滅会社とする吸収合併を行いました。さらに翌2013年、吸収合併によって誕生した新会社と日本製紙グループ本社が合併することで重複する分野の統合・効率化を叶え、成長分野への集中を実現しています。

参照:日本製紙株式会社「日本製紙の歩み

M&Aに関する資料を
無料でダウンロードする

まとめ

吸収合併は、事業規模の拡大やブランド力の強化など、事業運営に役立つ効果を期待できる手法です。ただし、合併後の従業員のモチベーション低下やコスト面の問題があるため、事前にしっかり準備しておくことが大切です。また、合併契約の締結や株主・債権者に対する保護など、合併に必要なステップも確認し、滞りなく手続きを終えられるようにしましょう。

ただし、吸収合併に関しては迷ってしまうことも多いのではないでしょうか。そのような場合は、専門家への相談も検討してみてください。

M&AならレバレジーズM&Aアドバイザリーにご相談を

レバレジーズM&Aアドバイザリー株式会社は、M&A全般をサポートする仲介会社です。吸収合併など各領域の専門性に長けたコンサルタントが在籍しております。存続会社、消滅会社のどちらについても的確なアドバイスが可能ですので、レバレジーズM&Aアドバイザリー株式会社のご利用をぜひ検討ください。