このページのまとめ
- 株式交換の手続きに不備があると無効になることもあるため、慎重に進めることが必要
- 株式交換の手続きには1ヶ月以上かかるものもあるため、計画的に進める必要がある
- 株式交換では債権者保護手続きは原則不要だが、しなければならないケースもある
- 簡易株式交換の要件を満たす場合、完全親会社側は株主総会の手続きを省略可能
- 略式株式交換の要件を満たす場合、完全子会社側は株主総会の手続きを省略可能
「株式交換を行うにはどのような手続きが必要?」と疑問をお持ちの方もいるのではないでしょうか。
株式交換を実施するためには、煩雑な手続きを不備なく終えることが必要です。漏れがあると無効になることがあります。
本記事では、株式交換の手続きについて解説。また、株主総会や債権者保護手続きの要否や、株式交換契約書の記載事項も解説します。
そのほか、株式交換と株式移転との違いやメリットなどの基本情報も載せています。
目次
株式交換とは
株式交換とは、譲渡会社側の全株式を譲受会社の株式と交換することによって、企業間で100%の完全支配関係を生じさせる手法です。
株式交換は、主にグループ内での組織再編や上場企業のM&Aの手法として用いられます。
株式交換の対価には、契約書上で定めた株式交換比率にしたがって完全親会社の株式を割り当てることが一般的です。そのほか、完全親会社が発行する社債や新株予約権、現金なども対価とすることができます。
株式交換と株式移転の違い
株式移転とは、既存の1社もしくは複数の会社が、親会社にあたる会社を新たに設立し、発行済株式をすべて設立した親会社に移転する手法です。株式交換と同様、株式移転においても完全親会社・完全子会社の関係を築きます。
株式交換と株式移転の大きな違いは、「完全親会社となる会社がすでに存在している株式会社か」「新設する株式会社か」という点です。
株式交換の3つのメリット
ここでは、株式交換のメリットを紹介します。
株式交換を行うメリットは、主に以下の3つです。
- 買収資金を用意しなくてよい
- 少数株主を排除できる
- 経営統合を急かされない
それぞれのメリットについて詳しく解説します。
買収資金を用意しなくてよい
株式交換の対価を株式にすれば、買収時に資金を用意する必要はありません。
資金調達に難がある場合にも、株式交換を活用できます。
少数株主を排除できる
株式交換は、子会社側の株主総会の特別決議で承認を得られれば原則実施できます。つまり、株主の過半数が出席し、出席した株主の議決権の3分の2以上が賛成すれば実施可能です。
反対する少数株主を強制的に排除して、株式交換の手続きを進めることができます。
経営統合を急かされない
ほかの手法と比べたときの株式交換のメリットは、経営統合を緩やかに進められることです。
株式交換では売り手側の法人も消滅せず、独立性が保たれます。独立した法人として組織・事業が継続するため、経営統合を急ぐ必要はありません。
株式交換の3つのデメリット
株式交換の実施にあたって考慮しておくべきデメリットには以下のようなものが挙げられます。
- 株価が下がる可能性がある
- 譲受企業側の株主構成が変化する
- 手続きが煩雑である
3つのデメリットについて以下で解説します。
株価が下がる可能性がある
株式交換において対価を新株にする場合、株価下落のリスクがあることがデメリットです。
新株を発行すると総株式数が増えて、株主の持分比率が低下します。発行される新株の数が多い場合、持分比率が大幅に下がり、1株あたりの価値も下がります。株式の希薄化が進むと、市場における評価が悪くなり、株価の下落につながるおそれがあるでしょう。
譲受企業側の株主構成が変化する
株式交換で株式を対価にするケースでは、株主構成が変化することが懸念点です。
対価を株式にした場合、譲受企業の株式が譲渡側の株主に渡ります。今まで会社への影響力を持っていなかった人たちが株主となるため、意向によっては組織の意思決定がスムーズにできなくなる可能性があります。
手続きが煩雑である
株式交換のデメリットの一つは、手続きが煩雑であることです。
株式交換を行う際は、株主総会の特別決議や株主への通知・公告、反対株主の株式買取請求への対応など、さまざまな手続きが発生します。また、株式交換をするにあたって財産に変動が生じる場合は債権者保護も行わなければなりません。
必要となる手続きを確認し、あらかじめスケジュールを調整して取り組むことが大切です。
株式交換の手続きの流れ
ここでは、株式交換の手続きの流れを紹介します。
株式交換を実施するときの手続きは下記のとおりです。
- 株式交換の計画を立てる
- 取締役会で決議する
- 株式交換契約を締結する
- 事前開示書類を備置・開示する
- 株主総会の招集通知をする
- 公正取引委員会に届出を行う
- 金融商品取引法における手続きを行う
- 債権者保護手続きを行う
- 株券等提出公告・通知を行う
- 新株予約権者へ通知をする
- 株主総会の特別決議で承認を受ける
- 債権者からの異議および反対株主への対応を完了させる
- 株券・新株予約権の証券提出手続きをする
- 株式交換の効力が発生する
- 事後開示書類を備置・開示する
- 株式交換にまつわる登記申請をする
- 株式交換無効の訴えに対応する
手続きに漏れがあると、株式交換が無効になるおそれがあります。慎重に進めましょう。
以下で各プロセスについて解説します。
1.株式交換の計画を立てる
まずは株式交換の実施に向けて計画を立てます。
滞りなく進行すれば、株式交換にかかる期間はおおよそ2ヶ月間です。債権者保護手続きや反対株主の買取などが発生する場合はタイトなスケジュールになるため、余裕を持ってスケジュールを組みましょう。
2.取締役会で決議する
取締役会設置会社は、株式交換契約の締結に向けて取締役会での決議で承認を得る必要があります。取締役会決議をせずに株式交換が実施された場合、効力が無効になることもあるので失念しないようにしてください。
取締役会における決議要件は、原則「取締役の過半数の出席」と「出席した取締役の過半数の賛成」と定められています。
3.株式交換契約を締結する
完全親会社となる会社と完全子会社となる会社との間で、株式交換契約を締結します。
会社法で定められた事項に沿って株式交換契約書を作成し、契約締結に進みましょう。
4.事前開示書類を備置・開示する
株式交換の当事会社の本店において、株式交換に関する事前開示書類を備置・開示してください。
事前開示書類として用意するべき書類の例は以下のとおりです。
- 株式交換契約書
- 株式交換の対価の相当性に関する事項
- 株式交換の対価について参考となるべき事項
- 新株予約権の定めの相当性に関する事項
- 計算書類等に関する事項
- 効力発生日以降の完全親会社の債務履行の扱いに関する事項
これらの書類は備置・開示の開始日から株式交換の効力発生日以降6ヶ月間、備え置くことが必要です。
5.株主総会の招集通知をする
株主総会の招集通知を行います。
株主総会の招集通知は、基本的に公開会社の場合で株主総会の開催日の2週間前までに、非公開会社の場合で株主総会の開催日の1週間前までに発送する必要があります。なお、非公開会社の場合でも、書面や電磁的方法による議決権行使の定めがあるケースでは期限が2週間前までになるため注意が必要です。
また、議決権を持たない単元未満株の株主がいる場合は、別途通知をしなければなりません。すべての株主に漏れなく通知をするようにしましょう。
6.公正取引委員会に届出を行う
株式交換を実施することによって完全親会社が市場競争を阻害するほどの影響力を持つ可能性がある場合、独占禁止法に基づいて、公正取引委員会に届出を行うことが必要です。
具体的な要件は以下の表のとおりです。要件1~3のすべてを満たす場合、届出をしなければなりません。
要件1 | 株式の取得を経て完全親会社となる予定の企業および当該会社が属するグループの企業の国内売上高合計額が、200億円を超えている |
要件2 | 株式発行会社および当該子会社の国内売上高合計額が、50億円を超えている |
要件3 | 要件1に該当する企業が要件2に該当する企業の株式を取得しようとする場合において、株式取得後、届出会社とグループ企業が所有することになる株式の議決権保有割合が20%または50%を超える |
公正取引委員会が届出を受理したあと、株式取得を原則30日間禁じられます。独占禁止法に抵触するにもかかわらず手続きに取り掛からず、届出の提出が遅くなってしまった場合、株式交換のスケジュールに大幅な遅れが生じることもあるため注意しましょう。
参照元:公正取引委員会「株式取得の届出制度」
7.金融商品取引法における手続きを行う
株式交換を行う際は、金融商品取引法に定められた内容に基づいて下記の資料を開示する必要が生じます。
- 臨時報告書
- 有価証券通知書
- 有価証券届出書
臨時報告書とは、有価証券報告書の提出義務がある会社において重要な影響を与えうる事象が生じた際に提出が求められる書類です。
有価証券通知書は、50名以上を勧誘対象とし、株式発行価額の総額が1,000万円超から1億円未満のときに提出が必要となる書類です。
一方で有価証券届出書は、50名以上が勧誘対象で、株式発行価額の総額が1億円以上の場合に提出義務が発生します。
8.債権者保護手続きを行う
株式交換では基本的に財産の変動が生じないため、債権者保護手続きは不要であることがほとんどです。
ただし、下記の例のように、債権者が不利益を被る可能性がある場合には債権者保護手続きをする必要があります。
- 完全子会社が新株予約権付社債を発行していた場合
- 完全親会社が完全子会社の新株予約権付社債を承継する場合
- 完全親会社が完全子会社に対価として株式以外を交付する場合
- 完全親会社が減資手続きをしたうえでその他資本剰余金に振替を行った場合
債権者に対して異議申し立ての権利があることを、効力発生日の1ヶ月前までに知らせてください。
期間内に異議申し立てがあった場合は、債権者に対して弁済を行います。
9.株券等提出公告・通知を行う
完全子会社となる企業は、株式交換によって発行済みの全株式を完全親会社となる企業に提出することになります。そのため、株主に対して株券の提出を求める公告および個別通知を行う必要があります。
株券等提出公告・個別通知は、株券を提出する日にあたる効力発生日の1ヶ月前までに行いましょう。
10.新株予約権者へ通知をする
完全子会社が新株予約権を発行しているケースでは、別途通知が必要です。
株式交換の効力発生日の20日前までに、株式交換を実施する旨を伝えてください。
11.株主総会の特別決議で承認を受ける
株主総会を開催し、株主総会の特別決議において株式交換契約の承認を受けます。株式交換の効力発生日の前日までに承認を受けましょう。
なお特別決議では、議決権の過半数を有する株主が出席したうえ、出席した株主の議決権の3分の2以上が賛成する必要があります。
12.債権者からの異議および反対株主への対応を完了させる
株式交換の効力発生日までに、債権者への弁済や反対株主の株式買取請求への対応を完了させましょう。
債権者が異議を申し立てる期間は1ヶ月以上の日にちが設けられています。期限までに異議を申し立てた債権者に対して債務を弁済したり、債務に相当する価値がある担保を提供したりするなどして対応します。
反対株主は、株式交換の効力発生日の20日前から前日までの間に株式買取請求権を行使することが可能です。株式買取請求権が行使されたら、株主との協議を経て買取価額を決定し、買取を行います。
13.株券・新株予約権の証券提出手続きをする
完全子会社となる企業の株主は、公告・個別通知の内容に従って保有する株券および新株予約権の証券を提出します。
証券提出手続きの期限は、株式交換の効力発生日までです。
14.株式交換の効力が発生する
すべての手続きを終えることができたら、契約書で定めた効力発生日に株式交換が実行されます。
譲受企業が譲渡企業の全株式を取得し、完全親会社と完全子会社の関係が築かれます。そして完全親会社は完全子会社の株主に対して対価を交付し、株式交換が完了します。
15.事後開示書類を備置・開示する
株式交換の当事会社の本店において、株式交換に関する事後開示書類を備置・開示します。
事後開示書類として用意するべき書類の例は下記のとおりです。
- 株式交換の効力発生日
- 債権者保護手続きの経過
- 新株予約権買取請求手続きの経過
- 株式買取請求手続きの経過
- 株式交換によって移転した株式数
- その他株式交換に関連する重要事項
これらの書類は株式交換の効力発生日から6ヶ月間、備え置く必要があります。
16.株式交換にまつわる登記申請をする
株式交換においては原則登記は必要ありませんが、資本金や株式数が変動する場合には登記手続きが発生します。
資本金や株式数が変動する例には、以下のパターンがあります。
- 完全親会社が新たに株式を発行した
- 完全親会社が新株予約権を発行した
- 完全子会社が新株予約権を処分した
登記手続きの期限は、株式交換の効力発生日から2週間以内です。
17.株式交換無効の訴えに対応する
株式交換の効力発生後、株式交換無効の訴えの提訴期間が設けられます。提訴期間は基本的に6ヶ月間です。
株式交換無効の訴えの権利を持つのは、完全親会社・完全子会社の両方の株主や社員、破産管財人、株式交換について承認しなかった債権者などです。
株式交換の条件や手続きに不備があった場合、株式交換無効を訴えられる可能性があります。
もし株式交換を無効とする判決が下されると、対価の返還や補償などを求められることになります。
株主総会の手続きを省略できる条件
株式交換を実施する際、通常は株主総会の特別決議で承認を受ける必要がありますが、例外があります。
実施する株式交換が「簡易株式交換」もしくは「略式株式交換」に当てはまる場合、株主総会を省略することが可能です。
以下で詳しく解説します。
完全親会社側が株主総会を省略できるケース
完全親会社となる企業が株主総会の手続きを省略できる要件は、実施しようとする株式交換が「簡易株式交換」にあたることです。
簡易株式交換とは、完全親会社が完全子会社の株主に対して交付する対価の合計額が、完全親会社の純資産額の5分の1以下である株式交換を指します。
ただし、以下のケースに当てはまる場合は簡易株式交換を選択できません。
- 完全親会社側の企業において、反対する株主の保有株式数が総株式数の6分の1を超える
- 完全親会社側の企業が非公開会社で、譲渡制限株式を割り当てる
- 株式交換によって差損が生じる
簡易株式交換ができない場合は、通常どおり株主総会の手続きを省略せず行ってください。
完全子会社側が株主総会を省略できるケース
実施する株式交換が「略式株式交換」である場合、完全子会社側の企業において株主総会の手続きを省くことができます。
略式株式交換とは、完全親会社側の企業が完全子会社側の企業の議決権を90%以上有している場合に実施される株式交換のことです。
ただし、下記の条件に当てはまるケースでは略式株式交換を選べないため注意が必要です。
- 完全子会社となる企業が公開会社で、対価として譲渡制限株式が交付される
- 完全親会社となる企業が非公開会社で、対価として譲渡制限株式が交付される
なお【1】のケースにおいては株主総会の特殊決議で承認を得ることが求められます。
株式交換契約書の記載事項
株式交換の手続きのプロセスにおいて作成する、株式交換契約書の記載事項を紹介します。
株式交換契約書に載せる項目の例は下記のとおりです。
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株式交換契約書に記載するべき事項は、株式交換の内容によって変動することがあります。
トラブルなく株式交換を進めるためにも、株式交換契約書を作成する際は弁護士やM&A仲介会社などの専門家の支援を受けることがおすすめです。
まとめ
株式交換とは、譲渡企業の全株式を譲受企業の株式と交換することで、完全親会社と完全子会社の関係を築く手法です。株式交換は、グループ企業の組織再編や上場企業のM&Aの手段として主に用いられます。
株式交換の手続きは煩雑です。株主総会の特別決議における承認や株主への個別通知や公告、金融商品取引法における手続き、反対株主の株式買取請求への対応など、多くの手続きが発生します。
株式交換の内容や手続きに不備があると、株主や債権者などから株式交換無効を提訴されるおそれがあります。株式交換を無事に終えられるよう、手続きは慎重に進めましょう。
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